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聞こえる AM 変調実験セットの開発 ∼体感型教材を目指して∼

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聞こえる AM 変調実験セットの開発 ∼体感型教材を目指して∼
2016 年度情報処理学会関西支部 支部大会
E-101
聞こえる AM 変調実験セットの開発 ∼体感型教材を目指して∼
Developping tangible experimental toolkit for amplitude modulation
1.
福井 綺花 †
乾 聡志 †
高橋 徹 †
Ayaka Fukui
Satoshi Inui
Toru Takahashi
はじめに
見える物理的な通信路で置き換える. 本報告では, AM
近年 IT 技術者不足が問題になっている. 背景には社会
通信を体感化する例を示す. 具体的な通信路に糸電話を
の IoT 化, クラウドサービスの普及, 教育現場での ICT
用いる例を紹介する. この方法により, 物理的な通信路
利用促進, 自動運転技術の進展など, 新技術の普及や情
は可視化され, かつ, 通信路に触れることも可能となる.
報技術の利用, 情報の取り扱い方の変化スピードに人材
この体感化は, 特定の通信方式に依存しない考え方であ
育成と人材供給が間に合っていないことが一つの要因に
り, FM 通信や PM 通信も同様に教材化可能である.
なっていると考えられる.
本教材は, 信号処理の専門教育を受ける前の人々に対
根本原因として人口減少があるものの IT 技術職に対
して使用することを想定している. 教材の利用を通じて
するイメージの低下や IT 関連技術の修得が困難である
問題も抱えている. 大学や専門学校に進学する以前に IT
IT 技術を学ぶ動機付けに繋ることを期待している. 教
材は, 年齢や知識に依存せず, 幅広い授業のシナリオに
技術を理解することが難しいイメージが定着し, 早い段
対応できるよう考慮する. 受講対象の生徒の学習レベル
階で進学や就職の選択肢から外されているのではないか
に応じて多彩な学習シナリオに適応可能な教材が望まし
と推測される.
い. 例えば, 低学年向けには, 教材そのものを工作しなが
この様な状況を打開するための一つの方法として, IT
ら楽しく学べることも必要である. ここでは通信インフ
関連技術の修得を支援する教材開発が必要と考えた. 本
ラ部に糸電話を用いているため, 糸電話の作成自体を楽
稿では学際的な立場から IT 関連技術の修得を支援する
しませることが可能である. 中高生にとっては, 工作そ
方法について考え, 体感型の支援教材を提案する.
のものは不要で, 通信路の物理媒体としての紙コップ部
IT 技術の修得は, 多くの抽象的な事柄を具体化し理解
を進める必要がある. 見えない事, 触れられない物を理
をビニールパイプで作った伝声管で置き換えてたシナリ
解しなければならないところに習得の困難さがあると考
習の重点を置くことも可能である.
オを作成してもよい. 他の通信媒体と比較することに学
えられる. 抽象的な事柄を理解するための支援教材を体
本教材により取扱可能な学習範囲は, シナリオ設計に
感可能な形で提供し, 直感的な理解を促す事ができれば,
強く依存する. 例えば, 最も基本的な部分として, 音や電
初学者の修得を支援できるのではないかと考えた.
波が時間信号として振動であることを体感的に学習でき
本研究では IT 技術の 1 つである無線通信を題材に習
る. 通信としては, 紙コップの大きさや, 糸の材質を変え
得支援教材を開発する. 無線信号は不可視であり信号を
ることで, 通信路の通信帯域や減衰特性などが変化する
直観的に理解することは困難である. 本来高周波帯域で
ことを学習可能である. 信号の劣化を音として聞き分け
電波として扱う信号を低周波帯域で表現し, 音波として
ることが可能であり理解を助けられる. 信号の減衰が通
扱う方法で体感できる (つまり聞こえる) 通信教材を提
信エラーの一因になることを伝えた上で, 糸電話の改良
供する.
を行う学習シナリオも作成可能である. 低学年ほど, 楽
通信プロセスを可聴域で表現することで, 基本的な仕
しさに重点をおいたシナリオを作成し, 高学年ほど, 技
組みを聴くという形で体感できる. 体感による楽しい学
術の基本的な性質を体感できるシナリオを用意し幅広い
習時間を提供できれば, 容易に IT 技術の基礎を修得さ
学年に対応する.
せることも可能となり, IT 技術者志望も増加すると考え
ている.
2.
体感型の無線通信教育教材
3.
実験教材
糸電話を使った AM 通信の実験教材について述べる.
紙コップとタコ糸を利用し, 1, 2, 3, 4, 5 (m) の長さの糸
通信全体を体感可能な形で教材を設計する. 無線通信
電話を作成する. 糸電話を介してマイクとスピーカを設
における通信波形を可聴周波数帯で表現し, 聞こえる通
置し, 音声を再生・録音する. スピーカ側の紙コップが
信として教材化する. 更に, 無線通信の論理的通信路を
送信器, マイク側の紙コップが受信器に相当する. 糸電
話が通信路を表している. 教材の構成を図 1 に示す.
†
大阪産業大学, Osaka Sangyo University
通常の AM 通信は, 中波帯域 (波長 100∼1000m 程度)
である.
4.
糸電話を用いた AM 通信実験教材
前章では, AM 通信により音声信号を可聴帯域で変調
する設計を示し, 15 (dB) 程度の SNR で音声を伝送可
能なことを示した. 本章では, 前章で設計した可聴帯域
AM 通信を用い糸電話を通じた AM 通信教材の伝達特
性を確認し, 糸電話を通信媒体とした可聴帯域 AM 通信
を実現可能なことを示す.
4.1
方法
タコ糸と紙コップを使用し, タコ糸の長さが 1, 2, 3, 4,
5 (m) の 5 種類の糸電話を作成する. 作成した糸電話を
マイク(システムインフロンティア製くらげくん)・ス
ピーカー(Genelec 8020A)間に置く. マイクは全部で
図 6: Amplitude Modulated Speech Signal y(n)
8ch あるため, 1ch のマイク上に糸電話の紙コップ部分
を当てる. AD/DA 変換器 (システムインフロンティア
製 RASP24) を通して同期収録する. 今回は, 1 台の PC
で送信と受信を兼用する.
4.2
糸電話の伝達特性
TSP (Time Streched Pulse) 信号 (高周波から低周波
にスイープする信号) [5] を用い, 1, 2, 3, 4, 5 (m) の糸
長を持つ糸電話の伝達特性を計測する. 計測状況を図 10
に示す. スピーカーとマイクロホンの間に糸電話を置き
伝達特性を測定する. この時, スピーカからマイクロホ
ンまでの糸電話を経由せずに伝達する成分と, 糸電話を
経由して伝達する成分が混合される. この特性を h1 (n)
図 7: Spectrogram of Amplitude Modulated Speech
とする.
糸電話を設置しない場合のスピーカからマイクロホン
Signal
までの伝達特性を予め計測しこれを h0 (n) と置くと, 糸
電話を経由して伝達される成分のみの伝達特性 h(n) を
h(n) =
h1 (n)
h0 (n)
(10)
と推定できる. 糸長 1m の時の h1 (n) と h0 (n) 周波数
振幅特性を図 11 に示す. 2, 3, 4, 5 (m) で周波数振幅特
性も 1 (m) と同様の傾向があり糸長による違いは見られ
なかった. これは, 糸中の音波の伝搬速度が空気中より
も速いため, 距離の変化に対して伝達関数の変化が微小
であるためと推測される. 糸電話の伝達特性は 1∼5 m
の範囲で糸の長さに依存しないことから, 糸の長さをこ
の範囲で自由に決定できる. 教材のシナリオ中に糸電話
の工作を取り入れても厳密に糸長を扱う必要がなく簡単
に導入できる.
h(n) を伝達特性とし, 糸電話を経由して AM 信号を
表 1: Configuration
サンプリング周波数
48000 (Hz)
搬送波周波数
受信する場合を考える. AM 信号 y(n) と h(n) を畳み込
み, 伝送信号をシミュレーション合成する. 合成した信
10000 (Hz)
1.0
号を AM 信号を復調し得られる信号の SNR は, 9 (dB)
A
Ac
LPF の FIR 次数
0.5
92
下しているが, 明両度の極端な低下はなく, 発話内容を
入力信号 (被変調波)
音声 (∼4000Hz)
出力信号 (復調波形)
音声
であった. 伝達特性の影響を受けて SNR が 6 (dB) 低
聞き取ることが可能である. 従って糸電話を用いた可聴
AM 通信教材を実現できることが確認できた.
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