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M―V 型ロケットの構造・機構

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M―V 型ロケットの構造・機構
/【L:】Server/藤原/宇宙科学研究所報告/宇宙科学研究所報告/峯杉 4 2003.06.02 17.37.01
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宇 宙 科 学 研 究 所 報 告
特集 第47号 2
00
3年3月
M―V 型ロケットの構造・機構
小野田淳次郎,峯杉賢治
1.
全体概要
M―V 型ロケットの主な構造要素を1号機を例として図1に示す.本ロケットは全段新規開発である.構造・
機構の検討は1
9
8
0年代後半から始まり,それまでの Mu ロケットシリーズの開発で培われた技術を土台にして,
その当時の最新の材料,設計手法,計算技法,製造技術を導入して,開発が行われた.
本ロケットの直径は2.
5m と M―3SII 型ロケットの1.
4m に対して倍近い太さになっているが,最大限,既存
の地上設備を有効利用する点から,全長は M―3SII 型ロケットからあまり変わっていない.この他,M―3SII
型ロケットと比較して,外観の点からは,尾翼とサブブースタがなくなったことが大きな違いである.しかし,
それだけでなく,より軽量化を図るために,上段構造には比強度・比剛性の高い CFRP を多用している.図2
は,
3号機の頭胴部組立の様子であるが,構造の CFRP 化が大きく進められていることが見て取れる.また,そ
れ以外の金属部についても,新開発の材料や新しい計算技法の導入による計算精度の向上,製造技術の発展によ
り,従来より薄肉化等の軽量構造にすることが可能になった.
以下に主な新規開発要素を示す.
1)新規開発された高張力マレージング鋼 HT―2
3
0M を用いた第1段 M―1
4モータケース及び第2段 M―2
4モ
ータケース
2)CFRP のフィラメント・ワインディング製の大型モータケースである第3段 M―3
4モータケース
3)ファイア・イン・ザ・ホール分離方式に対応した1/2段接手の構成と新分離接手
4)ノーズフェアリングの新開頭機構
尚,文中での「ランチャから x°
位置」とは,ロケット中心からランチャの方向を0°
として,上方から見て反
時計回りに x°
回った位置を表す.
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図1
2.
2.1.1
第47号
M―V 型ロケット構造概要(M―V―1号機)
図2
2.1
特集
M―V―3号機頭胴部
構造・機構設計
ロケットモータケース
M―1
4モータケース
第1段ロケット(M―1
4)モータケースは,図3に示すように,全長1
1.
0
0m,円筒部内径2.
5
0m,フランジを
含む最大外径2.
6
1m,円筒部最小板厚6.
4mm,鏡部最小板厚4.
3mm であり,上段側の No.
1セグメントと下段側
の No.
2セグメントの2つのセグメントより成る.
図4の工程概要に示すように,円筒部は新開発のマレージング鋼 HT―2
3
0M 材製の薄板を巻いた後,電子ビー
ム溶接(EBW)によって製作される.これにより,M―3SII 型ロケットの第1段 M―1
3モータケースで行われて
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いる切削工程を省き,コストの低減を図っている.そして,緩衝リングとの溶接後,熱処理として2次溶体化処
5
0材製の鍛
理及び時効処理を施す.前後の鏡部,ボス及び各結合フランジは,加工性の良いベイナイト鋼 HT―1
造品やプレス成型品から機械切削により作られ,熱処理後,電子ビーム溶接で円筒部に結合される.
図3
図4
M―1
4,
M―2
4モータケース
M―1
4,
M―2
4モータケース製造工程概要
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特集
第47号
本モータケースの開発段階において,
2度に渡り,所定の圧力より低い圧力でモータケースが破壊する事態が生
じた.
1回目は,実機サイズの供試体の耐圧試験において,設計制限圧力(使用制限圧力×1.
0
5)の6.
2MPa に圧
力を上昇中,
4.
8MPa でモータケースの円筒部の溶接部から破壊した.破壊起点を調査したところ,当初,検出
可能と言われた直径0.
3mm を大幅に越える直径約3mm の初期欠陥が内在しており,それが起点となって4.
8
MPa で破壊したことが判明した.そのため,従来,非破壊検査法として用いてきた垂直 UT(超音波探傷)の欠
陥検出能力を再検査したところ,亀裂方向によっては溶接部に内在する欠陥を見つけられないことが判明した.
これに基づき,以下のように検査方法を改良した.
!)斜角 UT(超音波探傷)の導入
金属面に対して垂直に超音波を入射する垂直 UT だけでなく,斜めに超音波を入射する斜角 UT を導入した.
これにより,欠陥の亀裂方向によらず,許容欠陥寸法である直径0.
9mm を越える欠陥は1
0
0%発見できるように
なった.この垂直 UT,斜角 UT に加えて,溶接部には工程の要所要所で,RT(X 線探傷)
,PT(カラーチェッ
ク)の非破壊検査を実施する.
2回目は,M―1
4地燃用モータケース No.
2セグメントの耐圧試験において,設計制限圧力の6.
2MPa に保持開
始から約4
0秒後に,円筒部の溶接部から破壊した.破壊起点を調査した結果,耐圧試験中に遅れ破壊により亀裂
が許容欠陥寸法を超えて伸展し,破壊に至ったことが判明した.そのため,以下のように材料の改良と信頼性確
保のための保証方法の確立を行った.
")円筒部材料の改良
円筒部に使われる予定であった HT―2
3
0材は遅れ破壊による亀裂伸展速度が大きいことが判明したため,破壊
靭性の向上と亀裂伸展速度の低下を目指して,材料組成微調と熱処理工程の改善を行い,HT―2
3
0材の改良鋼 HT
―2
3
0M 材を開発した.この材料は,
1
3
5℃の飽和水蒸気中で荷重負荷から遅れ破壊による亀裂伸展が始まるまで
の時間が1
2
0
0秒以上あることを母材及び溶接部の試験で確認した.これは,燃焼時間の長い2段目の約1
0
0秒と
比較しても十分余裕がある.また,耐圧試験では燃焼時最大圧力の1.
0
5倍以上の内圧を負荷するため,万一非破
2
壊検査が不完全であっても耐圧試験で破壊しなければ,燃焼直前に内在する亀裂は許容寸法の(1/1.
0
5)
=0.
9
0
7
倍以内である.したがって,耐圧試験を合格したモータケースに内在する欠陥の大きさは燃焼時の許容寸法以下
であり,且つ,燃焼中の亀裂伸展はないため,モータケースが飛翔時に破壊することはない.
モータケース材料の HT―2
3
0M 材,HT―1
5
0材の特性を表1,
表2に示す.HT―2
3
0M 材の強度は温度感度が高い
ため,円筒部の設計には空力加熱等によるモータケース温度の上昇を考慮して1
0
0℃での強度を用いている.一
方,HT―1
5
0材の強度は温度感度が低いため,温度上昇による強度変化は考慮されていない.この材料強度と非
破壊検査能力に基づき,各部板厚を決定した.また,薄板部からリング部へかけての緩衝リング部は応力ピーク
が発生しないように慎重に板厚分布を設計した.
No.
1セグメントの前部鏡とイグナイタ,No.
2セグメントの後部鏡とノズルホルダはボルトで,セグメント同
士はボルト・ナットで結合される.これらのボルト及びナットは新規開発のマレージング鋼 HT1―1―B で作られ
ている.表3に HT1―1―B の特性を示す.この材料の強度も温度感度が高いため,ボルト及びナットの設計には
円筒部と同じ1
0
0℃での強度を用いている.これらのセグメント結合部やノズル及びイグナイタ結合部等につい
ては,非線形接触問題としての有限要素法解析により,ボルト等の強度と O リングのシール性の評価を行いつ
つ設計した.その結果,設計制限荷重において,一部のボルトは局所降伏を生じるが,モータケースの使用に影
響を与えない.また,終極荷重において,一部のボルトは全断面降伏を生じるが,ボルトの発生歪みが破断歪み
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以内であり,且つ,その伸びによって結合部からガス漏れを起こさない.このことは,弾塑性解析,ボルト単体
曲げ破断試験,モータケースの耐圧・破壊試験によって保証されている.
本モータケースの燃焼時最大圧力は5.
9MPa で,これにランチングフック,1/2段接手,後部筒,ノズルホル
ダ等からの荷重を加えたものが使用制限荷重である.第1段ロケットが万一事故を起こすと甚大な被害が予想さ
れるので,使用制限荷重に割増係数1.
1を乗じた値を設計制限荷重とし,安全余裕の確保を図っている.
本モータケースの諸元を M―V 型ロケットの他のモータケース及び M―3SII 型ロケットのモータケースと比較
して表4に示す.
[燃焼時最大圧力]×[内容積]/[質量]で定義される性能指標は,M―3SII 型ロケットの1
段目 M―1
3モータケースの3.
4×1
04m2/s2から5.
2×1
04m2/s2へと大きく改善されている.
表1
表2
表3
HT―2
3
0M 材の力学的特性
HT―1
5
0材の力学的特性
HT1―1―B 材の力学的特性
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表4
2.1.2
特集
第47号
M―V 及び M―3SII のモータケース諸元
4モータケース
M―2
第2段ロケット(M―2
4)モータケースは,図3に示すように,全長4.
7
6m,内径2.
5
0m,フランジ部を含む
最大外径2.
5
6m,円筒部最小板厚5.
8mm,鏡部最小板厚3.
7mm であり,一体型である事を除き,製法・材料は
M―1
4モータケースと同一である.ただし,破壊時の被害を考慮した割増係数1.
1は用いられておらず,設計制限
荷重は使用制限荷重と同一である.また,円筒部及びボルトの設計には,
2段燃焼終了時までの温度上昇を考慮し
て,
1
5
0℃での材料強度が用いられている.イグナイタと前部鏡,ノズルホルダと後部鏡は1段目と同様に全て HT
1―1―B 製のボルトで結合される.表4に示す諸元のとおり,性能指標は,M―3SII 型ロケットの2段目 M―2
3モ
ータケースの4.
4×1
04m2/s2 から6.
1×1
04m2/s2 へと大幅に改善されている.
2.1.3
M―3
4モータケース
第3段ロケット(M―3
4)モータケースは,図5に示すように,全長2.
2
6m,内径2.
1
5m で,フィラメントワ
インディング(FW)による CFRP 製である.本モータケースは,インプレーン層,フープ層,UD 層,ダミー
フープ層,前・後部スカート,前・後部ボスで構成されており,FW による CFRP 製モータケースとしては当時
世界最大級の規模であった.M―3SII 型ロケットの M―3B 等の上段モータケースの材料である Ti 合金にかわっ
て CFRP を採用した理由は,CFRP が Ti 合金に比べて,潜在的性能が高いこととコスト面で有利であるためで
ある.本モータケースの開発にあたっては,FW 製モータケースとして M―3SII 型ロケットにて実績のある KM
―M モータケース(代表径 φ8
0
0)を基本と考え,サブサイズの φ8
0
0,
φ1
6
0
0モデル及び実機サイズの EM モデル
の順に開発を実施し,その成果をモータケースの大型化に対する設計,材料,FW パターン,製造条件等に反映
した.
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図5
31
M―3
4モータケース概要
KM―M モータケースではウェット・ワインディング製法を採用したが,モータケースの大型化による製造日
程の長期化を考慮して,本モータケースでは FW 工程時に樹脂の特性が安定しているドライ・ワインディング
製法を採用している.また,FW パターンについては,KM―M モータケースで採用されていた「交差巻き(円
筒部のプリプレグ配置が1周前のプリプレグ配置に対して円周方向に間隔を開けて巻き付けるパターン)
」を φ
8
0
0のサブサイズケースに適用したところ,破壊圧力が予想を下回ってしまった.その調査の結果,繊維同士が
交差して大きくうねることによって,うねりがないものに比較して最悪3
0∼4
0%の強度低下が生じることが判明
した.そのため,繊維のうねりを小さくするために,φ1
6
0
0モデル以降では,
「おかめ巻き(円筒部のプリプレ
グ配置が1周前のプリプレグ配置に対して円周方向に間隔を開けずに巻き付けるパターン)
」を採用し,且つ,
プリプレグの薄肉化も行った.
インプレーン層で形成されるドーム部形状は網目理論により設計されている.ただし,製造上厚くならざるを
得ないボス口元周りでは,網目理論では現れない曲げモーメントが発生し,層間剪断応力が大きくなる.実際,
最初の実機サイズモデルでは,口元周りの凹部で層間剥離が大きく発生し,破壊圧力低下の一因となった.これ
に対して,以降のモデルでは,前部ドームの口元径を増加させて口元周りの凹部の領域を減少させただけでな
く,
1
1層有るインプレーン層の最外層のみを前部ドームの R5
0
0mm 位置より巻き始めるずらし巻き(つまり,前
部ドームの R5
0
0mm より内側は1
0層になっている)にして,口元周りの層間剪断応力の緩和を図っている.た
だし,この対策によっても,燃焼時最大圧力では局所的に層間剪断強度を越える応力が発生し,層間剥離を生じ
るが,この剥離を考慮した設計検討及び耐圧・破壊試験によって実機に使用できることを確認した.前部ドーム
の口元径及び前部ボス外径はドームの繊維方向最大応力とボスの最大応力の制約下で軽量化を標定とした概略最
適値になっている.また,後部ドームの口元径はドームの繊維方向最大応力を下げるために推進薬内孔の制約に
よる限界まで小さく設計されている.後部ボスの外径は,実績のある KM―M モーターケースの後部ドーム口元
径と後部ボスの外径との比と同じになるように決められている.この比は,ボスの軽量化(外径小)とドーム部
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のボイドの発生防止(外径大)というトレードオフの関係にある2つの条件から決められている.
円筒部は内側から,インプレーン層,
7層の UD 層,
2
6層のフープ層の構成になっている.ただし,その両端で
は,インプレーン層の外側にダミーフープ層が形成され,これを座として前・後部スカートが接合されている.
UD 層は,機軸方向を繊維方向にして積層されており,飛翔中の軸力を伝達する役割をしている.最も外側のフ
ープ層は,内圧に弱いインプレーン層の円筒部を補強する役割をしている.
インプレーン層,UD 層,フープ層,ダミーフープ層には,
5.
4MPa 級の高強度炭素繊維 IM7とエポキシ系樹
脂2
0
2
0(IM7/2
0
2
0)の CFRP 材が使われている.ただし,インプレーン層では前述のようにプリプレグ同士が
交差し,繊維にうねりが発生するため,その繊維方向強度は,φ3
0
0の強度取得用のサブサイズケースによる試
験で取得された値が使用されており,フープ層や UD 層よりも低い値になっている.
スカートとボスは,CFRP 製であるが,インプレーン層とは別の材料が使われており,クロス材を使用した積
層板である.ボスは応力集中による層間割れを防ぐためにモータケースとの結合面にはゴム(EPDM―E,一
部,アラミド/EPDM)を挟んでいる.また,後部ボスにはジョイントホルダを結合するためのチタンブッシュ
が埋め込まれている.
本モータケースの燃焼時最大圧力は5.
9MPa で,これに接手などからの外荷重を合わせたものが使用制限荷重
である.開発時点では CFRP 製品の信頼性が金属製品に比べて確保しにくいことを考慮して,使用制限荷重の
1.
2倍を設計制限荷重としてある.諸元を表4に示す.性能指標は,M―3SII 型ロケットの3段目 M―3B モー
タケースの8.
0×1
04m2/s2 から9.
2×1
04m2/s2 へと更に改善されている.尚,当初の設計では現設計と比較し
て,円筒部が1
2
0mm 短く,インプレーン層数も1
2層と1層多かった.この当初の設計は1号機のモータケース
に適用されたが,更なる打上性能向上を目指して,
3号機以降のモータケースは現設計に変更された.図6に第1
回地上燃焼試験後のモータケースの写真を示す.
図6
2.1.4
地燃後の M―3
4モータケース
KM―V1モータケース
第4段ロケット(KM―V1)モータケースは,図7に示すように,全長1.
0
1m,内径1.
1
7m で,フィラメント
ワインディングによる CFRP 製である.設計手法,各部材料及び構成,製法は M―3
4モータケースと同じであ
る.
5層のインプレーン層で形成されるドーム部形状は網目理論により設計されている.前部ドームのボス口元周
りでは燃焼時最大圧力で層間剥離が生じるが,その範囲は M―3
4モータケースに比べて狭く,実用上問題ないこ
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とを確認している.これは,M―3
4モータケースと比べて,本モータケースはインプレーン層の積層数が少な
く,ボス口元周りがあまり厚くならないためであり,したがって,ずらし巻きを採用してない.一方,後部ドー
ムは,固定ノズルのアライメント精度を確保するために,燃焼時最大圧力でも層間剥離を発生させない設計にな
っている.前部ドームの口元径は前部ボスの軽量化のためと繊維方向応力を低下させるために製造限界まで小さ
く設計されており,前部ボスの外径と前部ドームの口元径との比は M―3
4モータケースと同一になっている.後
部ドームの口元径はドーム部の繊維方向応力を低下させるために推進薬内孔の制約による限界まで小さく設計さ
れており,後部ボスの外径と後部ドームの口元径との比は M―3
4モータケースと同一になっている.また,円筒
部の UD 層は2層,フープ層は5層の積層構成になっている.
燃焼時最大圧力は5.
5MPa で,これに接手などからの外荷重を合わせたものが使用制限荷重である.開発時点
では CFRP 製品の信頼性が金属製品に比べて確保しにくいことを考慮して,使用制限荷重の1.
2倍を設計制限荷
重としてある.諸元を表4に示す.性能指標は,同じ CFRP 製のキックモータケースである KM―M の8.
7×1
04
m2/s2 に比べて9.
4×1
04m2/s2と向上する.
図7
2.2
2.2.1
KM―V1モータケース概要
段間接手
1/2段接手
M―V 型ロケットの打上能力向上のために,第1段モータは推力を極力増加させて,重力損失の低減を図って
いる.その結果,
1段燃焼終了時の動圧が大きく,分離された2段目は分離直後から強力な姿勢制御が必要とな
る.
2段目の姿勢制御はモータの主推力を利用するために,分離後,直ちに2段モータ推力を立ち上げる必要があ
る.そのため,
1/2段分離と2段モータ点火を同時に行うファイア・イン・ザ・ホール方式が1/2段接手に採用
された.したがって,本接手には,
2段モータからの噴出ガスを無理なく外部に逃がすことと,既に点火された2
段ノズルに衝突することなく分離することが要求された.
図8に示すように,
1/2段接手は,
4
3
4
0鋼製の1段側構造,アルミ合金製の開傘パネル及び2段側構造より成
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る.
1段側構造は空隙率7
2%のラティス構造で,ファイア・イン・ザ・ホール点火された第2段ロケットの噴射
ガスが無理なく通過できる構造となっている.中間の開傘パネルは1/3周円筒パネル3枚から成り,各パネル
は内側の1/3周リング4本と外側の縦通材9本により補強されている.飛翔中の空力加熱に対して構体を許容
温度の上限1
0
0℃以下に保つために,
2段側構造と開傘パネルには厚さ1.
0mm のコルクが貼り付けられている.
一方,
1段側構造は温度上昇による材料強度の低下がほとんどないために,コルクは使用されていない.本接手
の諸元を,M―3SII 型ロケットの段間接手と比較して表5に示す.
[等価軸力]×[全長]/[質量]で定義され
る性能指標は,M―3SII 型ロケットの1/2段接手の0.
7
6×1
04m2/s2から1.
5
0×1
04m2/s2 へと倍増される.
図8
表5
1/2段接手概要
M―V 及び M―3S!の段間接手諸元
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各開傘パネルと,
1段側及び2段側構造物とは FLSC(Flexible Linear Shaped Charge,V 型成型被爆線)を周
状に配した分離接手(FLSC 接手)を介して結合されている.下段側の後部 FLSC 接手の構成を図9に,上段側
の前部 FLSC 接手の構成を図1
0に示す.FLSC は,アルミのシースで被覆した線状の火薬であり,ノイマン効果
により爆発力を集中させるために V 字状の溝を持った断面形状になっている.FLSC が切断できる金属の厚さ
(侵徹量)は,薬量と FLSC から被切断材までの距離(スタンドオフ)に依存し,侵徹量が最大になるスタンド
オフは薬量の線形関数である.各接手の FLSC に設定された薬量を表6に示す.各 FLSC はテフロンサポート内
に挿入され,適切なスタンドオフを保っている.更に,その周囲は厚さ4.
0mm のコルクを貼ったカバーで覆わ
れており,よって,FLSC は飛翔中の空気力から保護され,許容温度の上限8
0℃以下に保たれる.カバーの下端
はリングに機械的に結合されておらず,充填材を用いて隙間を埋める.各 FLSC は1段側構造物に設けられた
RSAD 付き点火器により,CDF(Confined Detonating Fuse:密閉型導爆線)を介して同時に両端から点火され
る.
図9
後部 FLSC 接手
図1
0 前部 FLSC 接手
表6
FLSC 接手の諸元
後部 FLSC 接手は,図9に示すように,開傘パネルと1段側構造とを結合する3枚の1/3周帯状パネルと,
そのパネルを切断するための FLSC で構成されている.帯状パネルは分離前まで圧縮力と引張力の両方を伝達す
る設計になっている.火炎防止リングは,帯状パネルを切断した FLSC の高速ガス流が内側に吹き込むことを防
ぎ,ノズル等の接手内部の機器を保護すると共に,パネル切断後から第2段モータの推力が立ち上がるまで,こ
の分離接手部に負荷される圧縮力を伝達する役目もする.
前部 FLSC 接手は,図1
0に示すように,この部分に作用する等価軸引張力が等価軸圧縮力に比べて約半分と小
さいことを利用する構成になっている.圧縮側リングは2段側構造物と一体のリングであるが,引張側リングは
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開傘パネル上端の1/3周リングと一体の1/3周帯状パネルである.この接手では,大きな圧縮力を厚い圧縮側
リングで受け持ち,小さな引張力は薄い引張側リングで受け持つ.圧縮側リングの下端は,開傘パネルに押し当
てられているだけであり,機械的に結合されていない.圧縮側リングより引張側リングの機軸方向の幅は少し小
さくなっており,図中右上のボルトを締結すると,圧縮側リングには初期圧縮力が,引張側リングには初期引張
力が発生する設計になっている.この初期力の大きさは,飛翔中,圧縮側リングの下端が口開きしないように設
定されており,設計制限荷重内での接手の非線形挙動を防いでいる.この構成によって,FLSC が薄い引張側リ
ングのみを切断することで2段側構造と開傘パネルとを分離できることになり,薬量の低減,延いては,分離衝
撃の低減を実現している.この他に,圧縮側リングは,後部 FLSC 接手の火炎防止リングと同様に,ガスの吹き
込み防止と FLSC 作動後の圧縮力伝達の役目をする.
第2段モータの推力上昇により第1段モータが離れ始めると,開傘パネルは,図1
0のようにその上端が拘束リ
ングからはずれて,ヒンジまわりに開傘する仕組みになっている.開傘は,各パネル上部に備え付けられた2本
のスプリングアクチュエータの力(1
9
6
0N×2本)で開始される.第2段モータの噴射ガスや気流が開傘パネル
に与える影響は,コールドガスによる風洞試験結果よりモデル化が行われ,それを用いた解析の結果,開傘が安
全に行われることを確認した.
本接手の開発において,開傘パネル部は前述のように独立の1/3円筒パネル3枚構成されているため,この
部分の剛性や座屈強度が問題となった.そのため,実機の1/3のサブサイズの供試体を作成し,強度・剛性試
験を行った.また,前部 FLSC 接手についても,荷重パスが2通りある構成になっているため,サブサイズの供
試体を作製し,剛性試験を実施して,口開き等による剛性の非線形な挙動が設計制限荷重内で生じないことを確
認した.実機サイズの強度・剛性試験は,その荷重の大きさが構造機能試験棟のテストスタンドの耐荷重を上回
ったために,図1
1に示すように,油圧アクチュエータを組み込んだ4本の柱を持つ治具を用いて,終極荷重まで
負荷を行い,設計の妥当性を確認した.一方,分離試験は,φ7
3
5mm のサブサイズの供試体による分離試験を
KSC において2回実施した後に,同じサイズの供試体を組み付けた M―V 試験機(図1
2)によって,実飛翔下で
の分離試験を行い,分離機能や開傘運動の確認を行った.実機サイズの1/2段接手の分離試験は KSC で実施さ
れ,分離機能の確認と衝撃環境の取得を行った.その様子を図1
3に示す.
図1
1 1/2段接手強度・剛性試験
図1
2 M―V 試験機
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M−V 型ロケットの構造・機構
37
実フライトでの開傘パネルの開傘角データを図1
4に示す.本
データは3枚の開傘パネルのヒンジに取り付けられたポテンシ
オメータ(SV1∼SV3)で取得されたものであり,図中の実線
は事前に推定されていた開傘角の時間変化を表している.開傘
角が1
0
0度以上になると出力電圧が飽和するので,図中の取得デ
ータは1
0
0度で水平になっているが,これはパネルが1
0
0度で止
まっていることを意味していない.この取得されたデータよ
り,
3枚の開傘パネルがほぼ同じ開傘挙動を行っていたこと,推
定よりも速く開傘すること,少なくとも1
0
0度までヒンジが破壊
せずに開傘パネルが回転していることがわかる.したがって,
開傘パネルが2段ノズルに衝突しなかったと結論できる.ま
た,推定より早くなっている理由は,推定が空気力による開傘
運動の促進分を2段ノズルへの衝突に対して安全側要因として
含めていないためと思われる.尚,SV2と SV3については,
一度開傘角が1
0
0度以上になったのちに再び小さくなる計測結果
が得られているが,搭載カメラによってこの時間では開傘パネ
ルはヒンジから離れて飛び去っていく映像がおさめられてお
り,このデータが開傘パネルの挙動を表しているのではないこ
とが明らかになっている.この部分のデータは,開傘パネルが
外れた後にフリーになったポテンシオメータのアームのふらつ
きを表していると思われる.
図1
4 1/2段接手パネル開傘角
図1
3 1/2段接手分離試験
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2.2.2
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宇 宙 科 学 研 究 所 報 告
特集
第47号
2/3段接手
2/3段接手は,図1
5に示すように,アルミ合金製のスキンストリンガ構造であり,
3段側構造,円錐台部,円
筒部及びノーズフェアリング取付リングで構成されている.
円筒部は,内部に5本のリング,外部に2
4本の縦通材を配した補強円筒殻であり,円錐台部は,内部にのみ2
4
本の縦通材を配した補強円錐台殻である.これらの構体の外板は,軽量化のために設計制限荷重内の弾性座屈を
許容する設計になっており,座屈後は剪断荷重のみを支える剪断場として扱われている.ただし,地上での荷重
では座屈しないように配慮されている.M―3SII 型ロケットの2/3段接手は,フレーム構造とパネルとで構成
される開傘式接手であったが,本接手では内部に第2段計器搭載部を設けることと,
3段ノズルが伸展式であるた
め,分離時において収納状態のノズルと本接手との衝突を避けるために必要なクリアランスが伸展式でない場合
と比較して緩和されたことにより,より軽量化の図れる非開傘型のスキンストリンガ構造が選択された.表5に
示す様に,本接手の性能指標は,M―3SII 型ロケットの2/3段接手の0.
6
0×1
04m2/s2から1.
0
2×1
04m2/s2へと大
幅に改善される.
円筒部外側には,ランチャから3
7.
5°
と2
1
7.
5°
位置に SMRC 用のマウントとカウリングが設けられている.ま
た,
9
0°
と2
7
0°
位置を中心としてアンテナ取付板が縦通材3本を跨ぐ形で取り付けられており,その上流側の外板
にはアンテナ取付板の裏側に気流が流れ込まないように空力成型品が取り付けられている.円筒部の外表面には
空力加熱から保護するためにコルクが貼り付けられる.その厚さは外板で20
. mm,縦通材で10
. mm,SMRC カウ
リングのテーパ部には20
. mm,平行部には10
. mm である.さらに,SMRC のプルームから保護するために,縦
通材の一部には CFRP 製のアブレーション材が貼り付けられる.これにより,構体各部は1
0
0℃以下に保たれ
る.
図1
5 2/3段接手概要
円筒部の中程内側には,第2段計器搭載部(B2PL)が設けられている.機器は周上に設置された1
6枚の搭載
板上に配置され,そのうちの6枚に搭載される機器は組立後も機体外部からアクセス可能である.図1
6に搭載板
の図を,図1
7に B2PL 部を示す.各搭載板は CFRP 表面板を用いたアルミハニカムサンドイッチ板であり,円筒
部の2つの中間リングにブラケットを介して結合されている.ロケット打ち上げ時の外部音響で円筒部が大きく
振動するので,搭載板とブラケットとの間にシリコン系の防振ゴムをはさんでいる.
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M−V 型ロケットの構造・機構
39
図1
6 B2PL 計器搭載板
図1
7 B2PL 部
図1
8 2/3段接手マルマンクランプ部概要
ノーズフェアリング取付リングは2枚の半周リングで構成されていて,上端はノーズフェアリングの曲分離機
構と結合される.本リングと円錐台部は Y リングに結合されており,その Y リングは円筒部上端のリングに結
合されている.これにより,ロケット全段組立後に接手内部の機器にアクセスする必要が生じた場合に,フェア
リングとフェアリング内部構造物とを分解せずに,円筒部上端から切り離すことができる.当初の設計は,B2PL
部の直上で分離可能なように円筒部を2つの構体に分ける案であったが,ストリンガが途中で切られる等,構造
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特集
第47号
強度上不利な点が多く,重量増を招くため,現設計に変更された.
内部にリブをもつモノコック構造の3段側構造物と円錐台部との間が2/3段分離面であり,衛星に近いため
に,1/2段接手の採用された分離衝撃の大きい FLSC 接手ではなく,作動時の衝撃が比較的小さいマルマンクラ
ンプ方式の分離接手が採用されている.分離面の直径は約2.
2m であり,マルマンクランプ接手としては大きな
部類に属する.図1
8に接手部の断面図を示す.バンドは1
8
0度分ずつ2分割になっており,その2箇所の結合部
には M2
0のセパレーションナットが1個ずつ使用されている.したがって,どちらかのセパレーションナット
が作動すればバンドが外れる仕組みになっている.剪断荷重による分離面でのズレを抑えるために,当初,分離
面は通常のインローが設けられていたが,本接手の剛性試験において,分離面の円錐台側のリングと3段構造側
のリングがそれぞれ円形から異なる変形をして,一方でインローがあたっていても,その1
8
0度反対側では分離
面の相対ずれが大きくなる現象が発生した.そのため,分離面はダブルインローを設けるように設計変更され
た.
分離の際のコマの速やかな引き離しとバンドキャッチャでの跳ね返りによる3段目への衝突の防止のために,
各バンドキャッチャには引き込みアームが取り付けられている.アームは図1
8のようにコマにセットされ,セパ
レーションナット作動後,根元に取り付けられたトーションスプリングの力でコマをバンドキャッチャに速やか
に引き寄せて保持する仕組みになっている.ランチャ0°
と1
8
0°
位置のバンドキャッチャの外面には,ネオプレ
ーンゴムが貼り付けられている.これは,各ノーズフェアリング片の下端の角部が開頭時のシェルモーションで
内側に入り込こみ,バンドキャッチャ外面に衝突する際の衝撃を和らげるためである.
2.
5m/s の分離相対速度
は分離部の円周上に配置された分離スプリングにより与えられる.表7に本マルマンクランプ接手の諸元を示
す.
表7
2/3段接手及び各上段接手の分離機構諸元
本接手の強度・剛性試験は,構造機能試験棟で行われた.その様子を図1
9に示す.円筒部上端から,ノーズフ
ェアリング側とノーズフェアリング内部構造側に荷重パスが分かれるために,試験は,それぞれの部位につい
て,規定の荷重を満足するように行われた.また,分離試験も同じく,構造機能試験棟で行われた.その様子を
図2
0に示す.本試験では,
2/3段接手の円錐台部と M―3
4モータケース及び後述の第3段計器搭載部(B3PL 部)
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41
を用いており,分離機能の確認だけでなく,B3PL 部での衝撃環境及び衝撃の経路減衰のデータを取得した.
図1
9 2/3段接手強度剛性試験
図2
0 2/3段接手分離試験
実フライトにおいて,B3PL 部に搭載された機軸方向加速度計が計測した2/3段分離から第3段モータ点火
までの加速度時間変化を図2
1に示す.下側の図は2/3段分離時の衝撃加速度を時間方向に拡大したものであ
る.上側の図より,
2/3段分離(B2SEP)から3段ノズル伸展まで,大きな加速度変動が計測されていないこと
から,
3段ノズルが衝突することなく,分離していったことがわかる.また,下側の図より,分離した後のマルマ
ンバンドが上段側に衝突した形跡も見られず,バンドキャッチャは正常に作動していたと考えられる.
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特集
第47号
図2
1 2/3段分離時の加速度履歴
2.2.3
上段接手
3段式の場
M―V 型ロケットは3段式であるが,オプションとしてキックモータを装備することが可能である.
合の衛星と B3PL 部を結合する接手,及び,
4段式以上の場合にキックモータと衛星を結合する接手を衛星接手
と呼ぶ.また,
4段式以上の場合,B3PL とキックモータを結合する接手を3/4段接手と呼ぶ.また,これらを
総称して,上段接手と呼ぶ.
1号機と3号機は4段式であったため,衛星接手と3/4段接手が開発され,
4号機は3段式であったため,衛
星接手のみが開発された.
1号機では,衛星接手及び3/4段接手は,SCM4
3
4
0鋼製及びアルミ合金製のラティ
ス構造であった.一方,
3号機,
4号機の上段接手は,軽量化を要求されたため,CFRP 製のスキンストリンガ構
造になっている.図2
2に1号機の衛星接手を,図2
3に3号機の3/4段接手を示す.スキンストリンガ構造は,
薄いスキンと柱となるストリンガとで構成されており,圧縮座屈強度を向上させるために必要に応じて中間リン
グを追加する.一般的には,衛星から接手上端のインタフェース面に流れる荷重は周方向に均等な場合が多く,
したがって,衛星接手も周方向に一様な構造が多い.ただし,
3号機の衛星接手は,衛星 PLANET―B の下部構
造がトラス構造になっており,ロケット側と4箇所の離散点で結合されるため,衛星接手は上端4カ所から流れ
込む集中荷重をキックモータの前部スカートとのインタフェースでは均等な荷重になるように分散させなければ
ならない.そのため,図2
4に示すように,集中荷重が入る4点を頂点とする3角形の荷重分散プレートとそのプ
レート上に配されたサブストリンガが接手内側に配されている.また,この4頂点からメインストリンガが接手
内側に配されているが,荷重を分散させるために,ストリンガのリブ高さを下になるにつれて小さくしている.
この部分を拡大した写真を図2
5に示す.また,接手外側には圧縮荷重に対する座屈強度を向上させるために中間
リングが1本配されている.さらに,PLANET―B の LGA―B アンテナを支えるためのサポートを接手に設けてい
る.表7に各上段接手の諸元を示す.
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図2
2 1号機衛星接手
図2
3 3号機3/4段接手
図2
4 3号機衛星接手
43
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特集
第47号
図2
5 荷重分散構造
分離機構としては,3号機の衛星接手のセパレーションナット方式以外はマルマンクランプ方式である.バン
ドは1
8
0度分ずつ2分割になっており,その2箇所の結合部にはセパレーションナットが1個ずつ使用されてい
る.分離後のコマの保持方式としては,2/3段接手と同じ引き込みアーム方式と,接手上端の補強リング上の押
し出しスプリングによってコマを半径方向に押し出し,バンドキャッチャで保持する押出しスプリング方式があ
る.表8に上段接手分離部の諸元を示す.
表8
2.3
上段接手の諸元
ノーズフェアリング
ノーズフェアリングは図2
6に示す様に,全長9.
1
9m,外径2.
5m,開頭機構を含む全重量7
2
8kg のハニカムサン
ドウィッチ殻構造であり,分離機構で結合されている2つの開頭片で構成されている.M―3SII 型ロケットと比
較した仕様を表9に示す.本フェアリングは内容積が2
2
0%近く増加しているにも関わらず,重量の増加は5
0%
以下に抑えられている.構体の表面板は GFRP から比強度・比剛性の高い CFRP に変更されている.これは,
軽量化だけでなく外荷重による構体の変形を抑えて,衛星包絡域を広くとることを目的としている.コーン部及
びシリンダ一般部の CFRP 表面板は,厚さ0.
8mm の積層板である.ただし,構体下部は荷重が大きくなるの
で,シリンダ部下端から1
6
8
5mm の範囲の表面板は,一般部の6層の中央に UD 材0°
層を追加した計7層の積
層構成で板厚が0.
9
3mm に補強されている.ハニカムコアは,シリンダ部及びコーン部共に厚さ2
8.
0mm のアル
ミハニカムが使われている.この表面板とコアの厚さは,シリンダ部及びコーン部の全体の軸圧縮座屈を標定に
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M−V 型ロケットの構造・機構
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決められている.
表9
フェアリング構体の比較
図2
6 ノーズフェフリング概要
コーン部とシリンダ部は,図2
7に示すように,断面形状が変形 H 型の半周リングにファスナ止めされる形で
結合されている.更に,表面板には,コーン部とシリンダ部とを繋ぐように貼られたダブラで補強されている.
この他に,分離機構やアクセスホール周りにもダブラで補強されている.ダブラには,CFRP のクロス材が用い
られている.
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特集
第47号
図2
7 ノーズフェアリング肩部
フェアリング先端のノーズキャップには,大きな熱入力があるため,フェノール系樹脂の CFRP のクロス材
の積層板になっており,最小板厚が6.
1mm で半径3
0
0mm のほぼ半球を作っている.本キャップは片方の開頭片
のハニカムサンドウィッチ殻とアルミ合金製のリングで結合されており,このリングはノーズキャップ端部の補
強材の役目もする.
構体の表面板が導電体の CFRP であるため,図2
6に示すように0.
6m×0.
6m の電波透過窓を各開頭片に設けて
いる.この電波透過窓部の表面板は,GFRP の UD 材を用いた積層板であり,ハニカムコアも GFRP 製のフレッ
クスハニカムである.この窓は,第3段計器搭載部(B3PL 部)へのアクセス窓も兼ねるため取り外し可能であ
り,加えて,サイズが大きいために荷重を受け持つストレスドア設計になっている.この他に逆止弁付きベント
ホール,空調用ダクトホール及び衛星へのアクセスホールを有する.各号機の衛星アクセスホールの位置,面積
は構体開発時の実績に基づき,以下のように制約されており,その衛星に合わせて設定される.
開口部最大径: 2
5
0mm
開口部総面積: (R 側)3.
5
3×1
04mm2以下(空調ダクト分は含まれず)
(L 側)8.
4
4×1
04mm2以下
開口部影響範囲:
開口部半径 R に対して,周方向3R,機軸方向2R の楕円
開口部設置範囲:
開口部影響範囲が STA3
6
3
7∼STA5
5
9
5に入り,互いに干渉しないこと
図2
8に4号機のシリンダ部概要を示す.
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図2
8 ノーズフェアリング内面展開図(4号機)
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特集
第47号
図2
9に衛星包絡域を示す.衛星は,下端固定の境界条件で規定されている荷重による弾性変位も含めて,この
包絡域に収まっていなければならない.また,フェアリング内表面に取り付けられているセンサや CDF 等の凸
部があるため,包絡域には切り欠きが設けられている.ただし,この切り欠き部は,衛星に合わせてある程度移
動することが可能である.
図2
9 衛星包絡域(標準例)
空力加熱から構体を守るため,外表面にはコルクを貼っている.板厚はコーン部で5.
0mm,シリンダ部で2.
0
mm であり,これにより構体温度は1
0
0℃以下になる.分離機構部外表面のコルク厚は全て2.
0mm であり,これ
に,分離機構のアルミ合金製ハウジングの熱容量を考慮すると,ハウジング内の火工品の温度は許容温度の上限
8
0℃以下になる.ノーズキャップは耐熱性が考慮された設計になっているので,コルクは使用されない.
大型の軽量ノーズフェアリングを実現するためには,両開頭片をほぼ連続的に結合して協力させることが有効
であるが,そのために火工品の数が膨大となっては,安全確実に開頭投棄されるという要求に対する信頼性は確
保しがたい.そこで,本ノーズフェアリングを新規開発する際の基礎段階において,
4種類の案を選定して基礎試
験をした結果,図3
0に示す案を採用した.本分離機構において,
2つの開頭片同士を結合する接手を直分離機構,
開頭片下端とノーズフェアリング結合リングを結合する接手を曲分離機構と呼んでいる.直分離機構は,フェア
リング下端から肩部を経由してノーズキャップ下端まで至る,連続した分離機構である.また,曲分離機構は,
約半周の連続した分離機構である.したがって,直分離機構と曲分離機構はそれぞれ2本ずつある.ただし,開
頭片下端の角部4ヶ所では,ハニカムサンドイッチ板に比べて直分離機構の剛性が高いことと,直分離機構と曲
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分離機構のデトネータブロックが配置されているため局所的に剛性が高いこと,の理由により荷重集中が生じ
る.その荷重は分離機構の設計制限荷重を越えることが予測されたため,この角部には M2
0のセパレーション
ナットを2組ずつ用いるとともに,ノーズフェアリング取付リングの,角部の真下にあたる部位に穴を設けて,
荷重の集中を避ける設計になっている.
図3
0 分離機構断面図
直分離機構と曲分離機構とは,結合する相手が開頭片かノーズフェアリング取付リングかで結合部形状が異な
ることを除けば,図3
0に示す基本構成は全く同じである.上部ハウジングに挿入されているプレートは,
1
7.
1mm
間隔に打たれた直径4.
0mm のシアピンによって上部ハウジングに結合されており,また,下部ハウジング側か
ら3
4.
2mm おきに1/4inch ボルトでも締結されている.このボルトを締め付けると,ボルトに生じた引張力に
見合う圧縮力で,上部ハウジングと下部ハウジングとが互いに接触面(分離面)で押しつけられる設計になって
いる.本分離機構の単位長さ当たりの設計制限荷重は,直・曲機構とも3
2
7N/mm で,シアピンの剪断強度が標
定となっている.ボルトの初期軸力は,シアピンに作用する剪断力が飛翔中の荷重によっても設計制限荷重を越
えないように,ノミナル値を以下のように詳細に規定している.
直分離機構一般部
6.
8
6kN
直分離機構肩部トランスファブロック両側5本 1.
9
6kN
曲分離機構
0.
9
8kN
上部ハウジングとプレートとに囲まれる部分には,テフロンサポートで固定された紐状の火薬(MDF : Mild
Detonating Fuse)を装填した厚さ1.
0mm の扁平なステンレス管が挿入されている.これを ESMDC(Expanding
Shielded Mild Detonating Cord:膨張密閉型金属被膜導爆線)と呼ぶ.点火による MDF の爆発力は,ステンレ
ス管を押し拡げ,プレートを押し出す力となり,その力によりシアピンが切断され,分離する仕組みになってい
る.本分離機構の特徴は,ボルトとプレートという小さい部品の移動で分離が完了することであり,開頭片全体
を移動させなければ分離できない機構に比べて,発生する衝撃が小さい.分離時に切断されたシアピンの頭が衛
星等に当たらないように,フェアリング内側にはシアピン飛散防止板が備えられている.
正常に分離機構が機能する MDF の薬量範囲は,本分離機構の信頼性確保の観点から,温度範囲0∼8
0℃でノ
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特集
第47号
5%から+1
5%の範囲以上と設定した.分離しても ESMDC が破裂した場合は衛星が汚染される
ミナル薬量の―2
ので正常に機能したことにはならない.ステンレス管内のテフロンサポートは,MDF の位置を固定するするだ
けでなく,その爆発力を伝達することも目的としている.当初,このサポートは中央に穴が開いた一体型であ
り,このサポートを用いたときの作動薬量範囲は規定を満たしていた.しかし,長いテフロンサポートに MDF
を通す作業が困難であることが判明したため,図3
1の A 案に示すように,テフロンサポートを2分割にしたと
ころ,一体型では正常に機能していた薬量でステンレス管が破裂する現象が生じた.調査の結果,MDF から発
生した高速のガスがテフロンサポートの割れ面に沿って流れ,ステンレス管の側面に衝突し,そこを削ったため
であることが判明した.そこで,このステンレス管の側面をガス流から保護するために,銅板を入れる B 案,
ワイヤを入れる C 案,ガス流の向きを曲げるためにテフロンサポートを鉤状に上下2分割した D 案,左右2分
割にして水平方向にスリット入れる E 案を準備して,適切なテフロンサポート形状を決める要素試験を行っ
た.その結果,B,C 案は,耐破裂性能が A 案とほとんど差が無く,D 案は分離するための最低薬量が他案より
大きかった.最終的に,作動薬量範囲の規定を満たし,かつ,その範囲が最も大きい E 案が採用された.要素
試験で確認された本機構の MDF の作動薬量範囲は0∼8
0℃で1
5.
6gr/ft(―2
6%)∼2
4.
3gr/ft(+1
6%)であ
る.これに基づき,実機の MDF の薬量は2
1.
0±1.
0gr/ft に規定された.
図3
1 テフロンサポート分割案
上部ハウジングとプレートとの接触面の摩擦力は分離性能に影響を与えるため,はめあい公差は厳しく管理さ
れている.さらに,摩擦抵抗を極力小さくするために焼き付け硬化型の MoS2(二硫化モリブデン)固体潤滑
剤が接触面に使われている.また,分離機構の要素試験の結果,特に曲分離機構でプレートが長いほど分離時に
上部ハウジングとこじり易く,シアピンが切断しにくくなることが判明した.そのため,作業性等も考慮して,
分離機構にはボルト3本分,
4本分,
5本分の3種類の長さのプレートを組み合わせて使っている.
作動薬量範囲の最終確認段階の要素試験において,分離後,プレートが下部ハウジングに高速で衝突して跳ね
返り,再び上部ハウジングにはまり込む現象が生じた.これは,開頭運動を阻害し,最悪,開頭不能になること
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M−V 型ロケットの構造・機構
51
が予測されたため,本現象が生じないように,ボルトには図3
0に示すようにクサビが取り付けられている.下部
ハウジングのボルト通し穴は,プレート側の入口をクサビの最大径よりやや小さめに絞ってある.これにより,
クサビはプレートの速度が遅い場合にはこの穴に捕獲され,速い場合には穴を通過した後にその縁に当たって再
びもどらない仕組みになっている.さらに,下部ハウジングに埋め込まれたピンによって衝突時にプレートを傾
け,より確実にクサビを穴の縁に掛ける工夫も施されている.クサビは各プレートの両端のボルトにのみ装着さ
れている.
また,実機と同じ長さの分離機構のシステム試験において,分離後,ESMDC がハウジングから飛び出す現象
が生じた.これは,ESMDC の端部がデトネータブロックから外れて,内部に溜まっていたガスが噴出し,コン
タミを引き起こすだけでなく,最悪,飛散した ESMDC が衛星に衝突する可能性がある.この ESMDC の飛散
を防ぐため,図3
2に示すような保持方法が採用されている.直分離機構では,ESMDC1本当たり,シリンダ部
1
3ヶ所,コーン部7ヶ所で,シアピン2本分のプレートを切り取り,替わりに ESMDC を押さえるためのボル
トが2本挿入してある.一方,曲分離機構では,荷重条件が厳しく,荷重を伝達するシアピンの数を減らすこと
ができないため,ESMDC1本当たり4ヶ所で,プレート同士の隙間を2.
0mm に拡げ,その間に ESMDC を保
持するためのワイヤを設置している.
図3
2 ESMDC 飛散防止対策
開頭は,まず,セパレーションナットを作動させ,その5秒後に本分離機構に点火する.図3
3に分離機構の点
火システムのブロック図を示す.それぞれの開頭片に RSAD 付き点火器が取り付けられており,直・曲分離機
構1本ずつの点火を受け持っている.点火器から分離機構端部のデートネータブロックまでは,SCDF(Shielded
Confined Detonating Fuse:高密閉型導爆線)を2系統にして冗長性を持たせている.MDF は両端のデトネータ
ブロックで点火される.
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特集
第47号
図3
3 分離機構点火システム
分離機構の作動によりシアピンが切断されると,各開頭片は,下部に4本取り付けられたバネの力(1本当た
りのセット荷重1.
8
1kN)で図3
4に示すヒンジ回りに回転を始め,約4秒後,回転角6
0°
になった時点でヒンジか
ら外れて投棄されるクラムシェル方式の開頭になっている.
図3
4 開頭ヒンジ
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ノーズフェアリングの強度・剛性試験は,構体先端部から後端部へと大きく増加する分布荷重をハニカムサン
ドイッチ殻構造に負荷するため,図3
5に示すように,複数箇所に薄い幅広のバンドを巻き,そのバンドの根元を
油圧アクチュエータで引くことで,規定の荷重分布を満たすことを実現した.ノーズフェアリングは回転対称体
であるが,
2つの開頭片で構成されているため,荷重負荷方向を開頭片の合わせ面方向に負荷する試験と合わせ面
垂直方向に負荷する試験を行った.合わせ面方向の試験において,前述の開頭片下端の角部での荷重集中が初期
推定値より大きく,角部近傍の分離機構の許容荷重を上回ることが予測された.そのため,その時点での最新の
飛翔プロファイルとロケットの姿勢制御手法に基づいて,荷重を見直した結果,従来設定されていた荷重を下回
ることが判明し,その新しい荷重で試験を実施した.最終的なノーズフェアリングに対する使用制限荷重は最大
動圧時(動圧 q=1
4
9kPa,
M=2.
8)における先端での局所迎角4.
6
6°
(内0.
8
6°
が弾性変形分)+コーン部5
9
kPa,シリンダ部9.
8kPa の外圧である.また,外圧に対しては,図3
6に示すように,コーン部の外表面に気密用
のバッグで多い,内部を真空ポンプで引くことで,外圧と等価な試験を実施した.開頭試験は,要素試験,およ
び,実機と同じ長さの分離機構のみのシステム試験を経た後に,構造機能試験棟において,実機サイズのノーズ
フェアリング開頭試験を2回実施した.その様子を図3
7に示す.本試験において,開頭機能の確認と開頭衝撃の
計測を実施した.
図3
5 ノーズフェアリング強度・剛性試験
図3
6 コーン部外圧試験
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図3
7 ノーズフェアリング開頭試験
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実フライトでの開頭運動を確認するために,ノーズフェアリングの2つの開頭片のヒンジにポテンシオメータ
を取り付けて,各開頭片の開傘角を計測した.3号機において取得されたデータを事前の解析値と共に図3
8に示
す.横軸は X+0sec からの時刻である.ノーズフェアリングの分離機構が作動した1
9
7.
1sec に開傘角がステッ
プ状に変化しているが,これはヒンジのガタによるものと思われる.また,
1
9
7.
5秒より振動しながら増加してい
るが,これは開頭片のシェルモーションの影響と考えられる.開傘角は6
0度を越えるあたりから急激に増えてい
るが,これは6
0度で開頭片がヒンジから離脱する設計になっているためであり,その設計通りに機能しているこ
とが確認された.開傘速度については初期のガタ分を除くと解析より実測が若干速くなっているものの,ほぼ合
致している.本開頭運動は他号機でも再現しており,正常に開頭していると思われる.
図3
8 ノーズフェアリング開頭角
2.4
後部筒
後部筒は,ロケットの尾部にあたり,組立時から打ち上げ直前までのロケット全体の荷重を支えること,1段
ノズル周りの機器にアクセスできるとともにこれらを飛翔時の高速の気流から保護すること,ランチャ滑走時に
後部ランチングフックから流れる荷重を支えること,外部に SMRC が搭載可能なことが要求される.本構体
は,図3
9に示すように,外板外径2.
6
1m,全長1.
8m のアルミ合金製の補強円筒殻で,板厚0.
1
6inch(4.
1mm)
の外板,1
6本の縦通材,4本のリングより成る.リングは外板の内側,縦通材は外側に配置し,製造性の向上を
図っている.また,外板の厚さ,縦通材及びリングの数は,軽量化を標定とした概略最適化を行って決められて
いる.SMRC 用カウリングを含む後部筒の構体重量は7
9
7kg である.
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図3
9 後部筒概要
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M−V 型ロケットの構造・機構
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図中 A 部詳細に示すように,M―1
4モータケースと結合する第1リングは,リング外側面から結合ボルト穴位
置まであけられた穴にバレルナットを挿入して,リングの中でボルトを締結する設計である.フランジではな
く,この様式を採用した理由は,後部筒の内部空間を極力広く確保するためである.その結果,直径2.
4m の円
筒空間が確保されている.ただし,後部ランチングフックが結合されている第2リングにはランチャ滑走・離脱
時に大きな荷重が伝達されるため,2つのフックの中央から左右3
6.
5°
の範囲が補強されている.したがって,こ
の部位では空間が狭くなっている.発射前の軸圧縮荷重の大部分が縦通材を流れるので,これを直接ランチャの
シュラウドリングに伝達させるために,各縦通材の下端にエンドパッドを設けている.このエンドパッドは,第
4リング下端より2.
0mm 突出しており,M―V の下端はこのエンドパッドのみで支えられている.外板には図3
9
に示すアクセス窓があり,後部筒内の多くの機器にアクセスできる.図の窓の位置及びサイズは3号機のもので
あり,内部搭載機器からの要求に応じて号機によっては若干変更される.
ランチャから4
5°
,
1
3
5°
,
2
2
5°
,
3
1
5°
位置には SMRC を4本ずつ収納するためのマウントとカウリングが装着さ
れる.マウントの SMRC 燃焼室後端側の支持部では軸方向変位を自由にして,SMRC の内圧による軸方向の伸
長を吸収する設計になっている.カウリングのノーズコーン部は縦通材で,平行部はフレームでそれぞれ補強さ
れており,カウリングまで含めた後部筒の高さは2.
5
6m になる.カウリング装着後も SMRC の HGV(Hot Gas
Valve)にアクセスできるように,カウリング外板は HGV の位置にあたる上下2箇所で取り外せる構造になって
いる.
飛翔した3機について,後部筒は飛翔環境下で予想される最大温度においても強度余裕があるため,コルク等
の熱対策は行われていない.ただし,軌道によっては最大温度が上昇するため,号機ごとにチェックする.ま
た,縦通材の一部には SMRC のプルームから熱的に保護するために CFRP 板を貼り付けている.
構造機能試験棟で実施された後部筒の強度・剛性試験の様子を,図4
0に示す.後部筒は,ランチャのシュラウ
ドリング上に設置される.シュラウドリングはランチャの2本の支持アーム各1点のみで支えられているため,
ロケット全体の荷重は,後部筒からシュラウドリングを通して,この2点に集中される.したがって,後部筒の
1
6個のエンドパッドに加わる荷重は不均等になる.これを模擬するために,試験では,図4
0のように,後部筒と
シュラウドリングと同じ剛性を持つ治具とを天地逆さまに置き,支持アームが支える位置と同じ位置に結合され
たアクチュエータでその治具に荷重を負荷し,終極荷重以上の耐荷性能を持つことを確認した.
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特集
第47号
図4
0 後部筒強度試験
2.5
ランチングフック
図4
1に前部及び後部ランチングフックを示す.フックは SNCM4
3
9鋼製であり,それぞれ2個1組になってい
る.打ち上げ時に,各フックはランチャブームに取り付けられたレールを滑走した後,4個同時離脱する.前部
フックの本体重量は9
6.
9kg,後部フックは1
7.
4kg である.
前部フックは,M―1
4モータケースの前部フランジより2
0
0mm 下側を中心として設けられた座面にボルトで取
り付けられる.このフックは,ロケット全体の重心に近いため,ランチャ滑走・離脱時には引張荷重のみ受け
る.したがって,引張側座面のみ設け,そこにアルミ合金製の滑り板を取り付けている.ただし,ロケットがラ
ンチャ上にあるときに,ランチャオペレーションや重心の偏心によってランチャブーム側に傾く恐れがあるの
で,図のようにストッパを設けている.
後部フックは後部筒の第2リングに設けられた座面にボルトで取り付けられる.前部フック位置が機体重心位
置と接近しているため,後部フックにはランチャ滑走時に引張力のみならず圧縮力も作用する.したがって,図
のようにフックの両側座面に前部フックと同じ材質の滑り板を取り付けている.
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M−V 型ロケットの構造・機構
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図4
1 ランチングフック
ランチングフックには,フック取付面に垂直な荷重だけでなく,横風や1段モータの横推力による横荷重,お
よび,レールとの摩擦力による機軸方向荷重の3方向に荷重が発生する.また,1組のランチングフックには,
製造公差等の原因によって左右均等には荷重は入らないため,片ぎき係数1.
5を導入して,左右不均等の荷重を
考慮している.これは,左右の荷重の比が1:3に相当する.強度・剛性試験においては,前部ランチングフッ
クは M―1
4モータケース No.
1セグメントに取り付けた状態(図4
2)で,後部ランチングフックは後部筒に取り
付けた状態で,トーナメントを組んだ治具を用いて,終極荷重まで負荷を行った.
図4
2 前部ランチングフック強度試験
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2.6
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特集
第47号
B3PL(第3段計器搭載部)
B3PL は M―3
4モータと上段接手との間に位置し,図4
3に示すように,円錐台殻,機器搭載板及び周辺の支柱
よりなる.構体重量は9
7kg である.
円錐台殻はアルミ合金製で,厚さ0.
7mm の外板,2
4本の縦通材,上端の第1リングフレーム,下端の第2リ
ングフレームで構成される.縦通材とリングフレームで囲まれた部分の外板は,軽量化のために設計制限荷重内
の座屈を許容する設計とし,座屈後は剪断荷重のみを支える剪断場として扱われている.ただし,地上での荷重
では座屈しないように配慮されている.図の詳細 A に示すように,第2リングフレームは,必要な円環剛性を
確保するために,M―3
4モータとの結合フランジ以外に円環剛性補強用フランジを設けている.これは結合フラ
ンジ部には,円環剛性を確保するために必要な大きさのフランジを設けるだけの十分なスペースがないからであ
る.
ドーナッツ形状の機器搭載板は,CFRP 表面板のアルミハニカムサンドイッチ板で,コア厚は1
9.
5mm であ
る.表面板は CFRP クロス材を用いた疑似等方性板である.機器は,この板に埋め込まれたブッシュを介して
上下面に搭載される.搭載板の内周は第1リングフレームに結合され,外周は1
6本の支柱によって離散的に支え
られている.支柱はアルミ合金製のチャンネル材であり,下端は第2リングフレームに結合されている.円周上
対称位置2箇所には2本の支柱を橋渡す形でアンテナ取付板が取り付けられている.
号機によって搭載される機器の取付インタフェースや位置が変更されるため,それに応じて,機器搭載板のブ
ッシュの配置が変更される.更に,スピンモータが搭載板上や近傍の上段接手に配置されることがあるため,遮
熱板を設置する場合もある.
図4
3 B3PL
2.7
ケーブルダクト
飛翔中の熱等の外部環境からワイヤハーネスを保護するために,M―1
4モータケース円筒部上には B1ケーブ
ルダクトが,M―2
4モータケース円筒部上には B2ケーブルダクトが設けられている.B1ケーブルダクトはラン
チャ9
0°
と2
7
0°
位置に,B2ケーブルダクトはランチャ1
3
5°
と3
1
5°
位置に配置されている.図4
4に B2ケーブルダ
クトを示す.両ケーブルダクトとも,カバー,フレーム,ベースプレート,ブラケット,ノーズキャップ,エン
ドキャップ及びバンドで構成されており,同様な設計である.バンドは E4
1
3
2鋼製,それ以外の部材はアルミ合
金製であり,重量は2本合わせて B1側が5
0kg,B2側が2
7kg である.
ワイヤハーネスは,カバーとベースプレートで囲まれた空間を通っており,カバーは外圧による圧縮座屈を防
ぐためにフレームが入っている.ベースプレートは,モータケース上に接着された L 型のブラケットに固定さ
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M−V 型ロケットの構造・機構
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れている.更に,B1ケーブルダクトで8箇所,B2ケーブルダクトで4箇所のブラケットが,モータケースに巻
き付けられたバンドで押さえつけられている.バンドのモータケース側の面には滑り止めのために CR ゴム(ク
ロロプレン系ゴム)が貼ってあり,バンドの結合部ではモータケースの内圧による膨張を吸収できるように同じ
く CR ゴムを挟んで締め付けている.段間接手,後部筒及び M―1
4モータケースのセグメント結合フランジで
は,ケーブルダクトはネジ止めされている.B1ケーブルダクトは,M―1
4モータケース円筒部下部に設置され
た SO(指令破壊装置)を内包している.
図4
4 B2ケーブルダクト
3.
3.1
機体動特性
数学モデル
機体の動特性は,生じる荷重と密接な関連がある.M―V 型ロケットでは,機体を有限要素の梁モデルに置き
換えて,振動モードと固有振動数を導いている.図4
5にモデルの概要を示す.図から分かるように,各段モータ
の後部鏡とノズルは分岐要素として表されているが,前部鏡はモデル化されていない.ただし,M―3
4モータの
前部ドームは3段燃焼時の動特性への影響が無視できないためモデル化されている.各要素は一様な梁で表され
ており,その剛性値は各構体の剛性試験から求められている.ただし,試験ができなかった構体については計算
値が与えられている.また,剪断剛性が不明確な構体については,無限大を与えている.線密度は,各構体の重
量,重心位置が実際と一致するように定められている.したがって,モデル化されていない前部鏡の質量分は,
前部鏡と円筒部を合わせた実際の重量と重心位置が同じ値になるように円筒部のモデルの線密度を調整すること
で反映されている.梁モデルで表した M―V―1号機各部の打ち上げ前の機体特性データを図4
6に示す.
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図4
5 梁モデル
図4
6 梁モデルの綿密度・曲げ剛性分布
特集
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3.2
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M−V 型ロケットの構造・機構
63
全機振動試験
図4
5に示された数学モデルは,剛性試験等から得られた各部の剛性・質量分布データを元に作成されている
が,そのままでは,各部のインタフェースでのジョイントローテーション等にある程度の曖昧さが残らざるを得
ない.したがって,更に,数学モデルの精度を向上するために,実機1号機を用いた全機振動試験を実施した.
M―V 型ロケットは図4
7の整備塔内のシュラウドリング上に直立した状態で組み立てられ,その全重量はシュ
ラウドリング・組立台及び組立台下と地面との間に配置された梁や支柱で支えられる.このロケット下端から地
面までの荷重伝達部を下部支持構造と呼ぶ.試験の際に実飛翔状態と境界条件を合わせるために機体全体を吊り
上げることを検討したが,整備塔にその荷重に耐えられるだけの吊り点を用意することができないこと,整備塔
外部に支持部を設けて実機を吊ることに対する懸念があったため断念し,組立後の直立した状態で試験を行うこ
とにした.したがって,飛翔時の動特性を得るためには,試験結果からロケット下端の境界条件の差異と下部支
持構造の動特性の影響を除かなければならない.そのため,図4
8に示すフローに沿って試験及び解析を行った.
全機振動試験は初めての試みであったために,試験方法の妥当性や知見を得るために,実機の振動試験の前に,
全長,外形が同じダミーロケット(図4
9)を用いて事前に振動試験を実施した.加振は,図4
7に示された,ノー
ズフェアリング先端(A 点)
,
2/3段接手下端(B 点)
,
1/2段接手開傘パネル下端(C 点)の計3点から小型加振
機を用いて単独加振及び3点同時加振を実施し,各試験結果を MAC(Mode Assurance Criteria)で比較して,
抽出されたモードの信頼性を高めた.図5
0に C 点での加振の様子を示す.
図4
7 整備塔と加振点
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図4
8 試験・解析フロー
図4
9 ダミーロケット
特集
第47号
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M−V 型ロケットの構造・機構
65
図5
0 加振の様子
全機振動試験で抽出されたモードを5次モードまで図5
1に示す.この図では,機体モデルと梁モデル化された
組立台とシュラウドリングまでのモード形状が示されており,床下の支柱等は省略されている.つまり,図上,
左端がノーズフェアリング先端,右端が組立台下端になる.また,抽出されたモードの固有振動数や,加振位置
が異なる試験で抽出されたモード同士の MAC 等を表1
0に示す.
1段ノズルの応答は非線形性が大きく,得られた
モード変位の精度に疑問があるため,本ノズルの変位が大きい4次モードについては,その変位を除いて MAC
を求めている.この表に示した以外にも抽出されたモードは存在したが,各試験間の MAC が0.
9より低いもの
は信頼性が低いとして省いた.
下部支持構造と機体を結合した数学モデルの固有振動数とモード形状がこの試験結果に合致するように,機体
モデルの各部剛性を修正した.修正部位は主に頭胴部と後部筒であり,各段分岐要素については剛性の修正を行
っていない.この修正数学モデルの全機振動試験コンフィギュレーションでのモード形状を図5
1に示す.また,
従来の数学モデルとの比較を表1
0に示す.
図5
1 全機振動試験結果と修正モデル解析結果とのモード形状比較
実線:解析結果
破線:試験結果
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特集
第47号
表1
0 全機振動試験結果と解析結果との比較
3.3
フライトデータとの比較
1号機のランチャ離脱直後の機体ピッチ方向加速度の実測値から求めた固有振動数及びモード形状を修正モデ
ルの解析結果と比較して表1
1と図5
2に示す.固有振動数について,全体的には従来の数学モデルより修正した数
学モデルが実測にやや近いという結果が得られた.モード形状については,実測データの数が少なく,且つ,ノ
イズが大きい箇所もあるため,求められたモード形状の精度はあまり高いとは言えないが,解析結果と実測とは
比較的よく一致していると思われる.また,図5
3は,初号機のリフトオフ時の衛星分離面近傍でのピッチ方向加
速度について,同定された動特性に基づいて数値シミュレーションを行った結果と実測値とを比較している.実
測はシミュレーション結果より低周波成分が長く残留しているが,ピーク加速度の値や全体の傾向はほぼ一致し
ている.これより,飛翔前に同定された動特性はかなり良く実機の動特性を表していたと考えられる.
表1
1に示されているように,実測と修正モデルの固有振動数にはある程度の差が残っているため,これをでき
るだけ小さくするようにモデルの見直しを行った.モード形状のデータは精度が高くないので,従来モデル及び
修正モデルと実測との固有振動数の比のみを用いて,従来モデルから修正モデルへの各部剛性修正率の見直しを
行った.その結果である B1IG 時の固有振動数を表1
1に「飛翔後」として示している.さらに,この新しいモデ
ルを全機振動試験コンフィギュレーションでモード解析を行った結果を表1
0に示す.新しいモデルは,全機振動
試験コンフィギュレーションでの MAC が修正モデルとほとんど変わらないままで,飛翔時の固有振動数をより
正確に表しているので,このモデルを1号機のノミナルモデルとし,3号機以降において,共通な構体の剛性は
このノミナルモデルの値を使っている.
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図5
2 修正モデル解析結果と飛翔結果との B1IG 時モード形状比較
実線:修正モデルモード形状
●:飛翔データ解析結果
表1
1 B1IG 時固有振動数比較
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特集
第47号
図5
3 ランチャ滑走時加速度比較
4.
4.1
荷重条件
設計荷重
以下の設計荷重を定めている.
使用制限荷重
以下の2項目を使用制限荷重に定めている.使用制限荷重(b)はモータケースにのみ適用される.これは,
モータケースが燃焼時最大圧力の1.
0
5∼1.
1倍の圧力を負荷する耐圧試験を製品保証としているためである.
(a)実使用の各段階における(最悪環境+最大予想荷重)の組み合わせの包絡.
(b)耐圧試験時に負荷される荷重.
設計制限荷重
以下の2項目を設計制限荷重に定めている.設計制限荷重(b)はモータケースにのみ適用される.
設計制限荷重(a)=使用制限荷重(a)×割増係数
設計制限荷重(b)=使用制限荷重(b)
割増係数には以下の値を用いている.
i)その構造が破壊することによる被害が甚大と考えられる場合.
(M―1
4モータケース:1.
1)
ii)材料性能の再現性が十分でない恐れがある場合.
(M―3
4モータケース等 CFRP を用いた構体:1.
2)
終極荷重
以下に終極荷重の定義を示す.
終極荷重=設計制限荷重(a)×安全係数(1.
2
5)
M―V 型ロケットでは安全係数を一律1.
2
5と定めている.ただし,設計制限荷重(b)に安全係数を乗じた荷重
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2003年
M−V 型ロケットの構造・機構
69
は,終極荷重としていない.
4.
2 強度要求
前節の設計荷重に対する強度要求を以下に示す.
設計制限荷重
各構造は,設計制限荷重を負荷されても,ミッション遂行に有害な弾性変形や残留変形及び機能損失をしては
ならない.
終極荷重
構造物は,終極荷重まで負荷されても,破壊或いは破壊に準ずる変形をしてはならない.モータケースとノズ
ルホルダ等の結合部の口開きによる高温ガス漏れは,破壊とみなす.
4.
3 使用制限荷重の設定
機体各部に負荷される荷重は下記のフェーズでそれぞれ算出され,その最大値を使用制限荷重と定める.
取扱時
輸送及び組立時に加わる荷重である.このフェーズが標定となる部位はほとんどないが,唯一,1/2段接手に
ついては,下端に M―1
4モータの No.
1セグメントを結合した状態で整備塔に移動し,吊り込むために,上端で
はその際の等価軸引張力が標定となっている.
ランチャ上静止時
M―V 型ロケットがランチャ上にある時に加わる荷重を
ランチャ上下角:9
0∼7
8度
加速度:1.
0±0.
2G
の条件下で評価している.算出された値に,重量・重心位置の不確定性を考慮して,
剪断力・軸圧縮力:5%
曲げモーメント:1
0%
のマージンを上乗せしている.
ただし,後部筒は上記と異なり,以下のように重心の偏心や横風を考慮している.
ランチャ上下角: 9
0∼7
5度
重心偏心量: 1
0
2mm(機軸垂直面内)
横風荷重: 1.
4
4ton(風速1
6m)
また,割増係数として
地震係数: 1.
2
を導入して,全機重量に乗じている.更に,ランチャオペレーションによる機体の動応答を考慮して,
動荷重係数: 2.
0
を機軸に垂直方向の荷重成分(ピッチ方向)に乗じている.後部筒を支えるランチャのシュラウドリングは下端
を2点でしか支えられていないため,シュラウドリングの変形の影響を受けて後部筒のエンドパッドに流れる軸
圧縮力は場所によって異なる.使用制限軸圧縮荷重(1
7
0ton)は,エンドパッドの軸圧縮力の最大値にその個数
1
6を乗じて定められている.
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特集
第47号
ランチャ滑走・離脱時
ロケットがランチャを滑走中及び離脱する際に発生する曲げモーメント及び剪断力は,図5
4に示すランチャと
ロケットの有限要素モデルを使った数値シミュレーションにより算出される.以下に解析に使用した緒元を示
す.
<機体緒元>
前部フックの機体先端からの距離 1
8.
2
6
4m
後部フックの機体先端からの距離 2
7.
9
4
4m
2
7.
4m
推力着力点
考慮する振動モード数
1
2次
<ランチャ緒元>
2
4
2.
4ton
ランチャ重量
8.
8
0m
前・後部ランチャレール長
ロケット支持台バネ定数
2.
7
4×1
08N/m
フックとレールのガタ
4mm
考慮する振動モード数
1
4次
このシミュレーションでは,最大荷重を求めるため,機体剛性,フック剛性,ランチャ上下角を
機体剛性:
ノミナル値×0.
5∼2.
0
フック剛性:
ノミナル値×0.
0
5∼2
0.
0
ランチャ上下角: 7
8度,
8
0度,
8
5度
の範囲で変動させた.特に,機体剛性については,各部の剛性を一様に変動させた場合とランダムに変動させた
場合について実施した.算出した剪断力と曲げモーメントの最大値に,機体剛性・重量・重心位置の不確定性
(1
0%)及び数学モデル等の解析の不確実性(2
0%)の計3
0%のマージンを上乗せして使用制限荷重を設定し
た.
軸圧縮力については,振動を考慮して
機軸加速度:2.
6±1.
0G
の条件下で生じる荷重に,重量の不確定性による5%のマージンを上乗せした.
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2003年
M−V 型ロケットの構造・機構
71
図5
4 ランチャ滑走時数学モデル
飛翔時
第1段モータ燃焼時の荷重は風や制御方式に依存するため,構造設計にあたっては動圧最大時と機軸加速度最
大時の迎角5.
0°
の飛翔により発生する荷重を使用制限荷重とした.この2つのフェーズにおいて,ロケットは剛
体として扱われ,最大仰角において空気力と制御力が釣り合った状態での荷重を算出した.荷重条件を求める際
に用いたパラメタ値を1号機を例として表1
2に示す.各パラメタに
動圧:
5%
CFD 解析結果の揚力係数傾斜分布:
1
0%
抵抗係数:(2/3段接手より前の構造物) 1
0%
(2/3段接手以後の構造物)
横加速度:
2
0%
±1
0%
のマージンを上乗せして,使用制限荷重を求めている.例外として,ノーズフェアリングについては,開発過程
での飛翔プロファイルの見直しにより,荷重の低減が確実なったので,使用制限荷重の改訂を行っており,最大
動圧時のフェアリング先端での局所許容迎角4.
6
6°
(ロケットを剛体とした時の迎角3.
8°
に弾性変形分の迎角
0.
8
6°
)が標定となっている.本設定荷重を越える荷重が発生する確率は低いものと考えられるが,実機打ち上
げにあたっては,実測風等のデータから荷重を再評価し,本設定荷重内にあることを確認することが不可欠であ
る.
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特集
第47号
表1
2 飛翔時の各諸元(燃速最大)
軸圧縮力については重量不確定性に対するマージンとして5%を設定した.
第2段モータ点火以降は,空気の影響が無視できるため,剪断力及び曲げモーメントは1段燃焼中に比較して
十分小さい.また,機軸加速度は,2段燃焼時で6.
0G であり,評定とはならないが,3段以降については,衛星
重量等によって変化するため,号機ごとにチェックする.この他に,スピンによる荷重を考慮する.
開発時に設定された荷重に対して,フライト直前まで,風予測に基づいて設定されたピッチプログラムデータ
と風データをフライトシミュレーションプログラムに取り込んで,荷重の予測を行い,規定の荷重を越えないこ
とを確認している.その荷重の例を図5
5に示す.この図は,4号機を2
0
0
0年2月1
0日の実測風の中を設定された
ピッチプログラムに従って飛翔させた場合に,1/2段接手下端に生じる曲げモーメントの時刻歴のシミュレーシ
ョン結果を表している.横軸は,点火からの時刻である.
図5
5 1/2段接手下端に生じる曲げモーメント時刻歴
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2003年
4.4
M−V 型ロケットの構造・機構
73
実測データによるフライト時荷重
ランチャ滑走・離脱時に計測された加速度から機体各部に生じた荷重を求め,飛翔前のシミュレーションで推
定した最大荷重と比較した結果を表1
3に示す.これより,初号機では予測されていた最大荷重に対して最大で約
半分の荷重が発生していたことが確認された.
表1
3 ランチャ滑走・離脱時の荷重
5.
5.1
機械環境
機械環境の規定
規定されている機械環境は,音響環境,ランダム振動環境,低周波衝撃環境,高周波衝撃環境の4種類であ
る.
5.1.1
音響環境
音響環境はリフトオフ直後が最も厳しくなることが従来の実績からわかっており,M―V 型ロケットについて
もリフトオフ時の音響を標定とした.機体外部の音響環境は NASA―SP―8
0
7
2の手法を用いて推定されている.
この手法では,図5
6に示すように,後方排気流から発生する音は,周波数帯域によって位置が異なる点音源が排
気流に沿って分布する場合に発生する音と等価であると仮定している.この仮定に基づき,機体のある部位の外
部音響環境は,各点音源からその部位までの距離,及び,これら2点を結ぶ直線と排気流の流れ方向とのなす角
度で求められる.
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74
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特集
第47号
表1
2 飛翔時の各諸元(燃速最大)
図5
6 外部音響環境計算モデル
本ロケットでは,この手法のパラメタである各周波数の点音源の位置及び音の強さの指向性を,M―3SII―6
号機の外部音響データ,他の類似ロケットの外部音響データ,及び,M―1
4モータの2回の地上燃焼試験時に実
測された音響データに基づいて修正し,機体各部の外部音響環境を求めた.その値にマージンとして1.
5dB 上乗
せしたものを飛翔時に予想される最大音響環境とした.
機体内部の音響環境はノーズフェアリングの内部のみに規定されている.その値は,上記の方法で求めた外部
の最大音響環境から,音響試験で得られたノーズフェアリングの音響減衰能力を差し引くことで得られた値を,
飛翔時に予想されるノーズフェアリング内部の最大音響環境とした.
外部・内部音響環境とも,飛翔時に予想される最大値を機体及び搭載機器に対する受入試験(AT)レベルと
規定している.また,これに3.
0dB 上乗せしたレベルを認定試験(QT)レベルと規定している.表1
4に外部音
響環境とノーズフェアリングの内部音響環境の QT レベルを示す.
表1
4 各領域の音響環境条件(QT レベル)
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2003年
5.1.2
M−V 型ロケットの構造・機構
75
ランダム振動環境
M―V 型ロケットの振動環境は衛星も含めて全てランダム振動で規定した.ロケット搭載機器単体の振動環境
は以下のように規定した.
!)ノーズフェアリング,第3段計器搭載部(B3PL)
,2/3段接手は音響試験を実施したので,計測結果に
基づいて振動環境を規定した.
")1段ノズル周り搭載機器は,M―1
4モータの2回の地上燃焼試験時の計測結果に基づいて振動環境を規
定した.
#)2段以上のノズル周り搭載機器は,それぞれのモータの地上燃焼試験時の計測結果と,
1段燃焼時の振
動環境の推定値を包絡するように振動環境を規定した.
1段燃焼時の振動環境の推定値とは,音響環境と振
動環境が規定されている類似構造との面密度及び音響環境の比を反映して算出された振動レベルである.
$)それ以外の機器は,
1段燃焼時の振動環境の推定値を規定値とした.ただし,全ての単体レベルは,後述
する衛星の振動環境を規定する際に考慮した低周波の過渡振動成分を下回らないように規定されている.
本ロケットでは各搭載システムが大きいため,それらに対するシステム振動試験はほとんど実施できない.現
状,試験が可能な第4段計器搭載部(B4PL)
,キックモータ伸展ノズル部,第3段計器搭載部(B3PL)以外に
はランダム振動環境のシステムレベルを規定していない.B3PL には機器搭載板の内周側に音響試験の計測デー
タから規定した振動レベルを適用しているが,各搭載機器が単体レベルを越さないようにリミット制御を行って
いる.
一方,衛星のシステム試験のランダム振動レベルは,以下の手順で規定した.
(!) 音響環境が最大になるリフトオフ時において,M―3SII 型ロケット各号機の衛星分離面近傍で計測さ
れた振動の PSD を全て RRS(Random Response Spectrum)の意味で包絡する PSD を規定する.
(") M―V 型ロケットと M―3SII 型ロケットの外部音響環境のレベルの比を(i)で規定した PSD に乗じ
ることで補正する.その際に,予測の不確実性を考慮して,全周波数帯域で0.
0
0
5G2/Hz 及び M―3SII 型ロ
ケットの衛星のシステムレベルを下回らないようにする.
(#) 各段間分離時やノーズフェアリング開頭時,各モータの点火時・燃焼終了時に発生する過渡的且つ低
周波の振動を M―3SII 型ロケットのフライトデータから取得し,
(ii)で規定した PSD に上乗せしたものを
最終的な衛星のシステムレベルとする.
表1
5に規定した衛星のシステムレベルを示す.
衛星搭載機器単体レベル及びサブシステムレベルについては,衛星のメカニカルテストモデル(MTM)に内
部音響環境を負荷した音響試験と,システムレベルを負荷したランダム振動試験の結果を包絡するように規定し
ている.
表1
5 衛星のランダム振動環境(QT レベル)
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76
5.1.3
宇 宙 科 学 研 究 所 報 告
特集
第47号
低周波衝撃環境
低周波衝撃環境は従来の M―3SII 型ロケットの半正弦波のレベルを踏襲した.以下に QT レベルを示す.
ロケット搭載機器単体レベル: 4
0G×1
0msec (3軸共通)
ロケット搭載システムレベル: 2
5G×1
0msec (機軸のみ適用)
1
5G×1
0msec (機軸のみ適用)
衛星システムレベル
5.1.4
高周波衝撃環境
段間接手等に使用されている火工品を用いた分離接手の作動衝撃に対して規定されている環境であり,SRS
(Shock Response Spectrum)で表されている.各段間接手の分離試験時に衝撃を計測した部位については,そ
の取得データから規定している.取得データがない部位は,衝撃源からその部位までの距離に依存する距離減衰
と,SRS の折点周波数の変化,及び,途中の構造様式に依存する分岐・結合減衰から得られた衝撃の推定値を規
定値としている.表1
6に各分離面での高周波衝撃環境を示す.
表1
6 各分離面での高周波衝撃環境(SRS)
5.2
機械環境試験
基本的には,システム試験と単体試験を両方実施する.しかしながら,M―V 型ロケットでは各システムが大
きいために,システム試験の実施がほとんどの部位で不可能であるので,単体試験を耐機械環境性確認の拠り所
としている.衛星についても,FM 品のシステム試験では,搭載機器に十分な機械環境レベルを負荷することが
できないので,単体試験が必須となっている.試験には
認定試験(QT)
:設計を保証するための試験で,飛翔時の環境の最大値にマージンを上乗せしたレベルで
実施する.宇宙研では,このマージンを3.
0dB としている.
受入試験(AT)
:製品を設計通りに製作されていることを保証するための試験で飛翔時の環境の最大値で
実施する.
の2種類の他に,後述の PFM 品に対する試験がある.
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2003年
5.2.1
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M−V 型ロケットの構造・機構
77
供試体の分類
試験を受けるシステムや搭載機器を以下の3種類に分類する.
1)EM 品
FM 品と全く同一設計で製作されているが,設計確認のために使用され,フライトには供されないもの.
2)FM 品
同一設計の EM 品がすでに後述する認定試験に合格したもので,フライト用に製作されたもの.
3)PFM 品
同一設計の EM 品が未だ認定試験に合格したことがないもので,且つ,フライトに供しようとするもの.
5.2.2
試験と供試体
上記の各レベルの供試体について,以下の試験に合格しなければならない.
EM 品
→
認定試験
FM 品
→
受入試験
PFM 品
→
PFM 試験
衛星のシステム試験については PFM 試験を適用する.各試験基準の相対関係は以下の通りである.
1)試験レベルの大きさ
QT レベル=PFM レベル=AT レベル+3dB
(3dB とは,PSD レベルで約2倍,衝撃レベル(加速度振幅)で約!2倍になる.
)
2)ランダム振動試験時間
QT 試験時間=PFM 試験時間×1.
5=AT 試験時間×1.
5(PFM 試験時間=AT 試験時間)
AT 試験時間は飛翔時の累積疲労損傷度と実際に有効な試験を行うために必要な時間とを考慮して決められてい
る.
3)衝撃試験の回数
QT 試験:
3軸2回ずつ(可能な限り1軸2回は±方向に負荷)
PFM 試験:
3軸1回ずつ(各軸の±方向は強度的に厳しいと思われる方向を選択)
AT 試験:
3軸1回ずつ(各軸の±方向は強度的に厳しいと思われる方向を選択)
ただし,衛星全体の衝撃試験については機軸方向のみ適用する.
5.2.3
試験項目
行うべき試験項目は,EM 品,FM 品,PFM 品全て同じであり,以下の通りである.
[a]ロケット搭載機器単体
1)ランダム振動試験
2)低周波衝撃試験
3)高周波衝撃試験
[b]ロケット搭載システム全体(実施可能なシステムのみ)
1)ランダム振動試験
2)低周波衝撃試験
[c]衛星全体及び衛星搭載機器単体
1)ランダム振動試験
2)低周波衝撃試験
ただし,高周波衝撃が低周波衝撃を包絡する搭載部位,低周波衝撃が高周波衝撃を包絡するの搭載部位,また
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特集
第47号
は高周波衝撃が加わらない搭載部位については,高周波衝撃または低周波衝撃のどちらかしか規定されていな
い.その場合は,規定されている衝撃試験のみ実施する.
5.3
5.3.1
フライト時実測値
音響環境
各号機で位置は異なるが,ノーズフェアリング内部にマイクロフォンを設置して,内部音響環境を計測してい
る.また,衛星搭載位置とほぼ同じ高さにランチャブームから左右にアームを伸ばし,その先端にマイクロフォ
ンを設置して,ノーズフェアリング外部音響環境も計測している.音響環境が最も厳しくなる第1段モータ点火
時について,図5
7に外部音響環境を図5
8に内部音響環境を規定値とあわせて示す.外部音響については,どの号
機もほぼ同じ計測結果が得られており,規定値と比較すると周波数成分の分布は似ているが,実測が3∼7dB
上回るという結果になった.一方,内部音響環境についても,1
2
5Hz oct. band∼5
0
0Hz oct. band まで大差のな
い計測結果になっており,低周波側で規定値とほぼ同等のレベルになり,高周波側で規定値を下回っている.ま
た,6
3Hz oct. band については,ノーズフェアリングの壁面に設置したマイクロフォン(1,
3号機 SL1)での計
測値は小さくなり,B3PL の計器搭載板上に設置したマイクロフォン(1,
3号機 SL2)では大きくなる結果が得
られている.これは,ノーズフェアリングの直径から求められる音の共振周波数がこのオクターブバンド幅に存
在しており,その影響で,ノーズフェアリング壁面より中央よりに設置されたマイクロフォンで大きな値が得ら
れていると思われる.NF 内の音響分布について,別ロケットにおいて,衛星とノーズフェアリングとの間隔が
狭い部位では音響環境が大きくなることが報告されているため,本ロケットでもそのような場所に意図的にマイ
クロフォンを設置してが,そのような現象は確認されていない.図5
9には,
3号機で計測されたノーズフェアリ
ング内部の音圧の PSD を0.
1oct. band ごとの平均値で表したものの時間変化を示す.縦軸は X+0sec からの時
間を表し,横軸は周波数の対数値を表している.また,等高線の値は,音圧の PSD(Pa2/Hz)の対数値であ
る.これより,点火直後の音圧が最も厳しいことが確認できる.
図5
7 外部音響比較
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M−V 型ロケットの構造・機構
79
図5
8 内部音響比較
図5
9 音圧 PSD の時間変化
5.3.2
ランダム振動環境
衛星を含めた機体各部に加速度センサを配置して,ランダム振動環境を計測している.得られた振動加速度デ
ータの PSD を0.
1oct. band ごとの平均値で表したものの1段燃焼中の時間変化について,3号機の計測結果を例
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80
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宇 宙 科 学 研 究 所 報 告
特集
第47号
として図6
0に示す.これらの図では,縦軸が X+0sec からの時間を横軸が周波数の対数値を表しており,等高
線の値は振動加速度の PSD(G2/Hz)の対数値を表している.これらからも分かるように,ランダム振動環境が
最も厳しくなるの第1段モータ点火直後である.図6
1や図6
2に示すように,ほとんどの計測点において,実測さ
れた加速度の PSD の最大値は機械環境条件として規定された PSD 以内であった.前節において,外部音響環境
が予測を上回る結果が得られていることを報告したが,その増加分に対応する振動環境の増大は確認されていな
い.ただし,1段レートジャイロの直近に配置した加速度センサでは規定レベルを上回る PSD が計測された周波
数帯域が存在したため,ランダム振動環境の見直しを行った.
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2003年
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図6
0 振動加速度 PSD の時間変化
81
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82
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特集
第47号
図6
1 1段ノズル周り振動環境比較
図6
2 B2PL 振動環境比較
5.3.3
低周波衝撃環境
低周波衝撃の例として,
3号機の1段モータ点火時の機軸方向加速度の SRS を図6
3に示す.また,
3,
4号機の2
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M−V 型ロケットの構造・機構
83
段モータ点火時の機軸方向加速度の SRS を図6
4に示す.X1H,X2H,X3H はそれぞれ1段ノズル周り,B2PL,
B3PL に設置された機軸加速度計である.これらを含めて,M―V 型ロケットの各フェーズにおいて,規定されて
いる衝撃環境を上回る計測結果はなく,M―3SII 型ロケットと比較しても小さくなっている.
図6
3 1段モータ点火時の機軸方向加速度 SRS
図6
4 2段モータ点火時の機軸方向加速度 SRS
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84
5.3.4
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特集
第47号
高周波衝撃環境
評定となる大きな高周波衝撃を発生するイベントは,1/2段分離衝撃とノーズフェアリング開頭衝撃である.
1/2段分離衝撃が最も厳しい2段ノズル周りの加速度センサ V2,V1
1が計測した衝撃加速度 SRS を図6
5に示す.
また,図6
6には3号機において3段 SJ と B3PL に配置された加速度センサ VSJ,V4,V1
3で計測されたノーズフ
ェアリング開頭時の衝撃加速度の SRS を示す.両 SRS とも想定された値よりも有意に低くなっている.ノーズ
フェアリング開頭衝撃に関して,開頭機構に近い位置に配置された加速度センサに5
0
0G のレンジを越える値が
入力されたことが確認されているので,衝撃源での発生衝撃が小さくなっていることは考えらない.原因として
は,開発時の経路減衰測定時において,安全上,空のモータを使っていたため含めることができなかった推薬の
減衰効果が大きいこと,測定時の入力加速度が小さく,経路減衰の非線形性の影響が大きいこと,が推定されて
いる.
図6
5 1/2段分分離衝撃加速度 SRS
図6
6 ノーズフェアリング開頭衝撃加速度 SRS
Fly UP