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キリスト教系高齢者福祉施設における 文化活動と

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キリスト教系高齢者福祉施設における 文化活動と
Kinjo Gakuin University
要 約
キリスト教系高齢者福祉施設における
文化活動と『つながり』の生成
──旭ヶ岡の家(函館市・カトリック)の
実践から学ぶ──
柴 田 謙 治*
発表者は,地域で暮らす当事者が差別されず,地域住民に理解され,受
け入れられるために「つながり」を創る,という課題がある,という背景
のなかで,社会福祉施設が地域で暮らす当事者と地域住民との間につなが
りを創る可能性,なかでも文化活動の可能性を明らかにする,という目的
により,「キリスト教系福祉施設と地域社会の関係─宣教とのかかわりの
考察」という課題を設定して,北海道函館市にあるカトリックの総合施設
「旭ヶ岡の家」を2010 年の 12月9日と 2011 年2月4日に訪問した。また
総 合 施 設・ 旭 ヶ 岡 の 家 を 設 立 し た フ ィ リ ッ ポ・ グ ロ ー ド(Philippe
Gourraud)神父は多数の著作を出版しているため,グロード神父の著書を
読み,文献研究をおこなった(本研究は,金城学院大学キリスト教文化研
究所の研究プロジェクト「キリスト教系社会福祉施設による文化活動の宣
教的可能性-北海道函館市の旭ヶ岡の家(カトリック)の文化的プログラ
* 金城学院大学現代文化学部コミュニティ福祉学科教授
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Kinjo Gakuin University
金城学院大学キリスト教文化研究所紀要
ムと地域住民の価値観」の一環としておこなわれた)。
特別養護老人ホーム・旭ヶ岡の家は,「これから高齢者への対応が重要
になる」と考えた市役所の厚生部長が老人ホームの建設を依頼したことを
きっかけとして,神父と信者,市民の協力によって設立された,函館市内
で2番目に長い歴史のある特別養護老人ホームである。
特別養護老人ホーム・旭ヶ岡の家は 1977(昭和 52)年に,3,000 万円で
購入した6万6千平方メートルの土地に建てられた。旭ヶ岡の家は広大な
土地に旭ヶ岡の家と後述するその他の建物,そして巨大なイエス・キリス
ト像,ルルド,池と和風の橋,展望台などが建てられている,「入所施設」
というよりは「老後を心地よく過ごすためのコミュニティ」といえる。グ
ロード神父の,老人ホームはケア付きの住宅であるという主張は,「一人
ひとり主義」という個別性を尊重する思想に根ざしており,自分だけの空
間である個室の確保として実現されていった。「個室」が「孤室」になら
ないように,寝室である個室の外に後述するような多様な楽しみの機会が
設けられている。個室化をすすめるにつれて,入居者間のトラブルが少な
くなり,入居者と家族の人間関係が充実し,ターミナルケアもやりやすく
なって,ホームの雰囲気が良くなった,といわれている
グロード神父は高齢者福祉の実践において,本人の自己決定と可能性を
生かし,利用者の尊厳を守るという,今日の社会福祉援助技術論に通じる
価値観を重視していた。それゆえに,旭ヶ岡の家では研修を通じて専門性
を向上させ,地域ともよい関係を築いてきた。グロード神父は,日本では
人権イコール個人主義と解釈する人もいるが人権には憲法よりも深い根拠
があり,人間の霊的な魂は自由と切り離せず,社会の都合で左右されてい
い対象とみなすことは許されないと述べている。
旭ヶ岡の家では,「ケア」は狭義の「介護」にとどまらず「文化的おつ
きあい」として,そして老人ホームはリハビリテーション・センターでは
なく,居心地の良い別荘であり,趣味のセンター,そして夢のカルチャー
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キリスト教系高齢者福祉施設における文化活動と『つながり』の生成
センターとして理解されている。趣味のサークルは,23 にのぼったこと
もある。
グロード神父は,地域との交流も重視した。神父は,老人ホームはもっ
と地域に働きかけなければならない,と考えて,年に1回ホームの参観日
をおこなうようになった。ホームの中には神父が書いた絵や外国旅行の際
に購入した家具,美術品が飾られており,それらは旭ヶ岡の家で暮らして
いるお年寄りたちの生活に潤いを与えており,地域の人たちとの交流の媒
体ともなっている。
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