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政府税制調査会海外調査報告(ドイツ、イギリス、オランダ)

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政府税制調査会海外調査報告(ドイツ、イギリス、オランダ)
平 21.8.6
S・G5-2
政府税制調査会海外調査報告(ドイツ、イギリス、オランダ)
1.日程等
1. 日程
平成 21 年 6 月 7 日(日)~14 日(日)
2. 出張者
田近 栄治 委員
辻山 栄子 特別委員
水野 忠恒 特別委員(オランダを除く)
3. 訪問先
[ドイツ]連邦財務省
[イギリス]財務省、歳入関税庁、下院議会事務局、IFS(Institute for Fiscal Studies)
、
HSBC、雇用年金省
[オランダ]内務省、財務省
2.調査概要
以下は、今回の調査で主に聴取した、近年の税制改正の概要、税制を活用した給付措置、納
税者番号制度等について、その概要をまとめたものである。
(1)経済危機への対応と近年における税制改革
今回調査を行った3か国では、税制調査会における今後の審議の参考となるであろう様々な
税制改革が実施、検討されている。今回の調査では、近時の世界的な経済危機への対応と近年
における税制改革の主な内容や今後の方向性について聴取した。調査内容を要約すれば、以下
のとおりである。
【ドイツ】
<経済危機への対応と近年の税制改革の概要>
・ 2008 年 11 月及び 2009 年 1 月の経済対策の中で、税収の 1.5~2.0%程度におよぶ
減税措置を発表した。
・ 近年の税制改革では、付加価値税の税率引上げ、所得税の最高税率引上げ、法人
税の税率引下げ・課税ベース拡大等を実施した。
○ 2008 年 11 月の経済対策では、①家族関連サービスに係る税額控除限度額の増額(1,200
ユーロ)
、②減価償却について定率法の時限的復活等の措置を発表した。また、2009 年 1
月の追加経済対策では、①特別児童給付金の支給(一度限り)
、②所得税減税(最低税率
の引下げ、基礎控除の引上げ等)等の措置を発表した。
1
○ 近年の税制改革については、2007 年に、付加価値税率の引上げ(16%→19%)
、所得税の
最高税率の引上げ(42%→45%)等を実施。2008 年に、法人税率の引下げ(25%→15%)
による法人実効税率の引下げ(約 39%→30%)
、法人税の課税ベースの拡大(減価償却制
度の見直し等)等を実施した。2009 年に、利子・配当・株式譲渡益の資本所得について、
比例税率(25%+連帯付加税)による分離課税(申告不要)を導入(総合課税も選択可)
した。
○ 将来の税制改革については、2009 年 9 月に選挙があり予測は困難だが、①所得税の最高税
率引上げと低所得者の税負担引下げという財政中立的な組合せ、②消費増を通じて経済を
刺激することで税収増を図る様々な所得税減税の組合せ、の二つが主な選択肢となるので
はないか、とのことであった。
【イギリス】
<経済危機への対応と近年の税制改革の概要>
・ 2008 年 11 月のプレ・バジェット・レポート及び 2009 年 4 月のバジェット・レポ
ートにおいて、経済危機対応のための減税措置等を発表した。
・ 近年の税制改革では、法人税の税率引下げ・課税ベース拡大、所得税の税率構造
見直し等を実施した。
○ 2008 年 11 月のプレ・バジェット・レポートでは、①付加価値税の 2009 年末までの時限的
引下げ(17.5%→15.0%)
、②所得税の課税最低限の引上げ等の措置を発表した。2009 年 4
月のバジェット・レポートでは、①特別償却制度の拡充(2009 年度限り)
、②高所得者の
所得税増税(2010 年度から実施)等の措置を発表した。また、個人非課税貯蓄口座(ISA)
の年間拠出限度額が 10,200 ポンド(貯蓄 ISA は最大 5,100 ポンド)に引き上げられた。
○ 近年の税制改革については、1999 年に、法人税率の引下げ(31%→30%)等を実施した。
2008 年に、所得税の税率構造の見直し(10・22・40%→20・40%)
、法人税率の引下げ(30%
→28%)
、法人税の課税ベースの拡大(減価償却制度の見直し等)等を実施した。
【オランダ】
<経済危機への対応と近年の税制改革の概要>
・ 2008 年 11 月及び 2009 年 3 月の経済対策の中で、企業の短期的な資金流動性を確
保するための減税措置を発表した。
・ 近年の税制改革では、所得税の最高税率引下げ、ボックス・タックス制度導入、所
得控除の税額控除への移行、法人税の税率引下げ・課税ベース拡大等を実施した。
○ 経済対策は、①時限的に、時宜を得て、対象を絞って行うこと、②2011 年から財政状況の
修復を図ること、③2011 年以後、持続可能性を高めるため対 GDP 比 1.3%の収支改善を行
うこと、の三つを主な枠組みとしている。2008 年 11 月の経済対策では、①減価償却の加
速化、②中小企業減税(第 2 ブラケットの税率を 23%から 20%に引下げ)の二つの措置
を発表した。2009 年 3 月の追加経済対策では、①研究開発関連減税の拡充、②環境関連投
資減税の拡充、③付加価値税について申告回数の変更(月次から四半期毎へ)等の措置を
発表した。これらは企業の短期的な資金流動性を確保するという観点から時限的に導入さ
れた。
2
○ 近年の税制改革については、個人所得課税に関し、1990 年に税と社会保険料を一本化し、
最高税率を引き下げた(72%→60%)
。また、2001 年には、ボックス・タックス制度(分
類所得課税制度)の導入、所得控除の税額控除への移行、最高税率の引下げ(60%→52%)
等を実施した。法人課税に関しては、2007 年に、税率の引下げ及び課税ベースの拡大等を
実施した。
○ 将来の税制改革については、2011 年に選挙を控えており政治レベルでの決定はないものの、
国会においてマーリーズ・レビューが議論の俎上にのぼっており、現在、主に最適課税理
論、直接税から間接税への移行、環境税、法人課税における利払いの扱いについて議論が
行われている。
(2)税制を活用した給付措置(いわゆる「給付付き税額控除」等)
今回調査した 3 か国で行われている税制を活用した給付措置は、平成 21 年度税制改正法附
則において検討することとされた「給付付き税額控除」について税制調査会が今後議論するに
あたって参考になると考えられる。今回の調査で聴取した内容を要約すれば、以下のとおりで
ある。
なお、これら 3 か国においては、税収に占める個人所得課税の割合は我が国と同程度若しく
はそれ以上(租税負担率は我が国よりも高い)であり、付加価値税率が高い中でも個人所得課
税の重要性は失われていないと言える。
【ドイツ】
<児童手当・児童控除の概要>
・ 税と社会保障は原則として峻別されている。
・ 連邦憲法裁判所の判決を受けて児童控除(所得控除)を増額することになったが、
その際、児童手当も増額し、両者の選択制を採用した(1996 年)
。
・ 執行方法は、まず連邦の家族金庫が児童手当を給付し、州の税務署が児童控除と
精算する。納税者にはどちらか有利な方のみが適用されることとなる。
○ 1990 年代の連邦憲法裁判所による一連の判決は児童控除額の引上げを命じているだけで
あり、児童手当との一体化はあくまで制度の柔軟性を高めようという政治的意思による。
○ 児童手当・児童控除の選択制の具体的な執行方法は、まず連邦の機関である家族金庫(主
に給付を担当する執行機関)が児童手当を給付し、あとで州の税務署において児童控除に
よる減税分と精算する。この際、児童控除の方が有利な納税者は、児童控除を考慮して計
算された税額に児童手当を上乗せした金額を納付する(この結果、有利な児童控除だけが
適用されたのと同じことになる)
。
○ 児童手当と児童控除の窓口一本化が議論されたが、税務当局を管轄する州が児童手当の支
払い事務の分担を拒否したために実現しなかった。税務署は、納税者が税務申告の際に申
告する児童手当額を確認し、疑問があれば家族金庫に照会する。この両者のやり取りは比
較的円滑に行われているが、両者の判定が違うこともあり(特に成人した子どもが支援対
3
象の場合)
、窓口一本化は引き続き課題として認識されている。
○ 不正受給が問題になるのは、支援対象が成人した子どもの場合に給付の前提条件を偽る事
例程度で、あまり多くない。税務識別番号はこうした場合に有効に機能するのではないか、との
ことであった。
【イギリス】
<就労税額控除・児童税額控除の概要>
・ 就労促進と子どもの貧困の解決(
「失業・貧困の罠」の解決)を目的とし、税額控
除に係る改革が段階的に実施された。
・ 1999 年に導入した就労世帯税額控除は就労促進と育児支援が一体となった制度で
あり、執行主体は税務当局とされた。
・ 2001 年には(旧)児童税額控除が導入され、2003 年には就労世帯税額控除ととも
に、就労税額控除・
(新)児童税額控除に改組された。
・ 過大給付(2006 年度の推計値は 14 億ポンド)
、制度が複雑といった課題があり、
改革の必要性が議会等から指摘されている。
・ 現在は税額控除の全額が給付措置とされており、執行主体の見直しに関して議論
がある。
○ 就労・児童税額控除の利用率はそれぞれ有資格者の 80%、90%(金額ベース)となってお
り、受益は 600 万世帯、児童 1,000 万人に及んでいる。両税額控除の費用は 200 億ポンド
(2007 年度)であり、世帯当たりの平均受益額は 3,400 ポンド(2006 年度)である。過大
給付は 2003 年度において 22 億ポンド、2006 年度は 14 億ポンドと推計されている。
○ “welfare to work”(
「福祉から労働へ」
)を掲げて 1997 年に発足した労働党政権は、
“unemployment trap”(
「失業の罠」
)や“poverty trap”(
「貧困の罠」
)といった問題を
指摘した報告書に基づき、こうした問題を解決するための制度(税額控除)のあり方を検
討した。この結果、1999 年に家族手当を廃止して、給付措置の付いた税額控除である就労
世帯税額控除が導入された。その後、2001 年に夫婦者税額控除を廃止して給付措置の付い
ていない(旧)児童税額控除が導入され、2003 年には、両税額控除が就労税額控除(2006
年より全額給付)及び(新)児童税額控除(当初より全額給付)に改組された。
(新)児童
税額控除は、複数の制度にまたがっていた育児支援を一本化したもので、給付申請に係る
スティグマの払拭のためにほとんどの子育て世帯が適用対象とされた。
○ 議会から、①利用率の低さ、②複雑さ、③過大・過少給付、④低所得者の限界的な負担率
の高さという四つの問題が指摘されている。とりわけ、制度の複雑さに関しては、同制度
が所得や家族状況の変化等を給付額に随時反映させる仕組みとなっているものの受給者の
申請を当局が精査できていないことや、コンピューター・システムの不完全性も相俟って、
巨額の過大給付の原因ともなっている(歳入関税庁の分析によると、主な誤りは、パート
ナーの不申請、子育て費用・所得の過誤)との批判がある。また、申請書類が 30 ページに
も及び、社会的弱者である低所得者に大きな事務負担を課しているとの問題も指摘されて
いる。
○ この他、研究者の中には、
「就労・児童税額控除制度は税務署に申請するにも関わらず全額
4
給付であり、また、その他の社会保障制度との連携も悪く低所得者の直面する限界的な負
担率が高いといった問題があるなど、租税制度なのか社会保障制度なのか中途半端であり、
“bad example”である」といった厳しい意見もあった。ただし、制度が定着した今となっ
ては廃止ではなく改善に努めるべき、との意見が多数であった。
○ 以上の課題を踏まえ、税制を活用した給付措置を導入する場合には、①制度を適切に周知
すること、②IT システムを適切に構築すること、③複雑であるが柔軟な制度とするか、簡
素で利用しやすいが柔軟ではない制度とするかのバランスをとることが必要との意見があ
った。
○ 1999 年に就労世帯税額控除の執行を税務当局が担当することとなったのは、税額控除は税
の払い戻しであるとの発想があり、また、スティグマ払拭の観点から当初は源泉徴収の仕
組みを通じて雇用主に税額と相殺の上で給付させていた経緯による。しかしながら、2006
年からは雇用主を通さず全額現金給付となっているため、もはや税務当局が担当すべき理
由はなく、むしろ他の給付との連携を確保すべきとの観点から、就労・児童税額控除の執
行は雇用年金省が行うべきという意見もある。
【オランダ】
<税額控除制度の概要>
・ “no tax, no gain”の原則に則り、税と社会保険料の範囲内でのみ税額控除を認
めている。
・ 税額控除は 2001 年の所得課税改革時に所得控除を改組することで導入された。
・ その後の制度改正の中で、児童税額控除が児童手当に改組された(2008 年)
。
○ 税と社会保険料(年金、長期医療保険等)は一体的に徴収されており、その範囲で各種の
税額控除が認められている。短期医療保険及び被用者保険(年金の二階以上、失業保険等)
については一体的に徴収されておらず、税額控除の対象ではない。全額給付するという選
択肢は、特に低所得者の労働供給に負の影響があるので望ましくない、との立場であった。
なお、社会保険料のうち税額控除が充当された部分は歳出で補填されており、受益額に影
響はない(年金制度本体に対する公費負担はない)
。
○ 2001 年の所得課税改革の際に、7 個あった所得控除が 12 個の税額控除に改組された。これ
は、当時の連立政権に参加していた左派が、所得控除は高所得者に有利であるとして税額
控除への転換を要求したためである。この際、右派の要求により所得税の最高税率も引き
下げられた。この改革は財政中立的ではなく、30 億ユーロの費用がかかったが、特に女性
の労働供給を増加させる効果が期待され、課税ベースの拡大にも資することなどから、費
用に見合うメリットがあると考えられたとのことであった。
○ 児童税額控除については、低所得者は税額が小さいために恩恵を受けられないことがある
という国会での指摘と、連立政権中の保守派による(所得制限のない)児童手当を増額す
べきとの主張を受け、2008 年に所得制限付きの児童手当に改組された。なお、現在のとこ
ろ、これ以上の税額控除の手当化は検討されていないとのことであった。
5
(3)納税者番号制度
今回の調査においては、今後の税制調査会における審議の参考とするため、各国の納税者番
号制度の概要、導入の背景・目的、番号の利用範囲、個人情報保護等について聴取した。調査
内容を要約すれば、以下のとおりである。
【ドイツ】
<税務識別番号の概要>
・ 納税者番号として、2003 年に税務専用の番号(税務識別番号)を設け、2009 年か
ら一部の税務で利用を開始したところ。
・ 長年、番号に対するプライバシー懸念があったが、それを克服したのは、①IT の
浸透と国民意識の変化、②課税の公平確保の必要性(番号導入以前は、市町村毎
に課税の基礎となる住民台帳データを管理し、連邦の統一的管理なし)
、③番号導
入による国民の利便性の向上であった。
・ 税務識別番号は、原則として、税務のみに利用され、他の行政機関は利用するこ
とが禁止されている。
○ 税務識別番号は、2003 年に創設され、2009 年から一部の税務で利用が開始されたもの。付
番管理は連邦財務省の下にある連邦中央税務庁が行うこととされ、番号・本人識別情報の
取得・更新等に当たっては、州の下にある市町村が管理する住民登録情報が利用されてい
る。
○ 従来、番号制度については強いプライバシー懸念があったが、90 年代以後、IT の発達や国
民の意識変化により、税務手続に利用を限定した番号制度を導入する機運が高まった。た
だ、国民のプライバシー懸念に配慮して、税務識別番号は、法律上は、国民 ID ではなく、
税務手続の際に利用するだけの納税者 ID として位置づけられ、利用は税務に限定されてい
る。
○ 導入の目的として、課税の公平性の確保とともに、電子政府の推進等による納税者の利便
性の向上が掲げられている。従来、課税の基礎となる住民管理が各州の下の市町村で管理
され、連邦の統一的な管理が行われていなかったという事情があったことから、住民管理
の適正化と併せ、税務識別番号の導入により国内における課税の公平性・統一性を確保す
ることが急務とされていた。同時に、税務手続のオンライン利用を促進し、国民の利便性
の向上を図ることも目的の一つであったとされている。
○ 税務識別番号の利用は、法律上、税務に限定されていることから、他の行政機関は、原則
として、税務識別番号や本人識別情報(番号とセットで管理される氏名・住所・生年月日
等の情報)
、蓄積された課税情報を利用することはできない。
○ 現時点では、納税識別番号は、給与源泉徴収・年金源泉徴収などの税務の一部で利用され
るにとどまっている。今後、貯蓄者概算控除の適用、EC 貯蓄指令に基づく情報交換(他の
EU 域内国居住者への利払い情報に係る金融機関の情報申告と、当局間の情報交換)の際に
利用されることが検討されているが、その他については、全くの未定とされている。
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【イギリス】
<国民保険番号の概要>
・ 社会保障共通の番号として利用されている国民保険番号(NINO)を、納税者番号
として、一部の税務で利用している。
・ 国民保険番号は、雇用年金省と歳入関税庁との共管とされており、本人確認情報
の異動については両機関の間で緊密な情報交換を実施している。
・ 税務での国民保険番号の利用は、現時点では、給与源泉徴収や個人非課税貯蓄口
座(ISA)
、税額控除等、一部の税務に限られており、今後の利用範囲拡大のため
には IT システムの整備が課題とされている。
・ 国民保険番号は、法律上の根拠があれば、他の行政機関も利用が可能とされてい
る。
○ もともと国民保険番号は国民保険料の賦課・徴収に利用されていたが、その後、社会保障
共通の番号として利用されるようになった。現在の歳入関税庁の前身の内国歳入庁は、従
来から国民保険料の徴収業務を所管しており、そのため、国民保険番号は一部の税務でも
利用されてきた(1999 年以後は、国民保険料の徴収に加え、賦課についても歳入関税庁の
業務とされた)
。
○ 現在、国民保険番号は、社会保障給付を所管する雇用年金省と、租税・国民保険料の賦課・
徴収を所管する歳入関税庁との共管となっている。まず、雇用年金省が児童手当番号を付
与し、その後、歳入関税庁が 16 歳到達直前にその番号を利用して国民保険番号を付番する
とともに、国民保険番号カードの発行を行っている。
○ 国民保険番号の税務目的利用は、現時点では、給与源泉徴収、ISA、税額控除等、一部の税
務に限られている。今後、システム統合が進めば、税務利用の範囲が拡大される可能性も
指摘されている。
○ 国民保険番号は、法律上の根拠があれば、他の行政機関も利用可能である。また、蓄積情
報については、原則として非開示であるが、法律の根拠がある場合に、当該業務に必要な
範囲の情報についてのみ開示が認められている。
【オランダ】
<市民サービス番号の概要>
・ 全行政機関共通の番号(市民サービス番号(BSN)
)を納税者番号として利用して
おり、税務の分野において広く利用されている。
・ 納税者番号は、まず、財務省の内部管理用の番号を納税者番号として利用を開始
したところから始まり(1986 年から)、この番号はその後社会保障分野まで利用が
拡大され、税務・社会保障番号(SoFi 番号)として広く利用されてきた(1988 年
から)。市民サービス番号は 2007 年に導入されたものであるが、この番号は従来
の SoFi 番号をそのまま利用しながら、利用範囲の拡大を図ったものであり、全て
の行政機関に利用が義務付けられる共通番号である。
・ 市民サービス番号の導入目的は、電子政府の推進による国民の利便性の向上と、
行政効率化を図ることにある。
・ 市民サービス番号の導入に当たり、その所管は財務省から、住所変更等を迅速に
把握できる内務省に移された。
7
○ 市民サービス番号については、官―民間、官―官間でのコミュニケーションの際の利用が
義務付けられている。国民の利便性・行政機関の効率性の向上の観点から、一政府機関が
入手した個人情報を全政府機関で電子的に共有・利用(その業務に必要な範囲に限定)す
ること等を含め、電子政府が強力に推進されており、市民サービス番号についてもそのイ
ンフラ整備の一環として位置づけられている。
○ 国民は、市民サービス番号の携行が義務付けられている。市民サービス番号専用のカード
はないが、公的機関発行の証明書(運転免許証・旅券等)には、氏名・写真等とともに市
民サービス番号が記載されている。
○ 今回の市民サービス番号の導入に当たっては、プライバシー懸念もあったが、従来から利
用されていた税務・社会保障番号を基本的に利用することとしたこと、導入されることに
より実現が可能となる措置により国民の利便性が大きく向上することを国民に重点的に広
報したこと等により、大きな混乱なく国民の理解を得ることができたとしている。
○ 市民サービス番号については、根拠法があれば、民間利用することも認められる。既に、
病院・教育分野における本人確認手段として利用されており、今後、金融機関における商
業利用にも利用が認められる予定である。また、蓄積情報については、原則として非開示
であるが、法律の根拠がある場合に、当該業務に必要な範囲の情報についてのみ開示が認
められている。
(4)その他(金融所得課税、マイクロシミュレーション)
1.金融所得課税
今回訪問した 3 か国においては、近年、金融所得課税の分野において分離課税の強化の方向
が見られるところであり、その概要について聴取するとともに、金融所得の把握方法等につい
ても聴取を行った。その要約は以下のとおりである。
【ドイツ】
・ 2009 年から、利子・配当・株式等譲渡益の資本所得について、原則として、比
例税率(25%+連帯付加税)による源泉徴収・分離課税が導入されている。
○ これまで、利子・配当については源泉徴収の上で総合課税、株式等譲渡益については投機
売買に係るものについて、その 1/2 が総合課税とされていたところ。
○ 今般(2009 年~)
、ドイツ金融市場の国際競争力向上の観点から、原則として比例税率で源
泉徴収の上、分離課税とする仕組みが導入されたところ。
○ 現時点では、金融所得課税に税務識別番号は利用されていないが、
(上述のように)今後、
貯蓄者概算控除(801 ユーロ)の適用、EC 貯蓄指令に基づく情報交換の際に税務識別番号
を利用することが検討されている。
8
【イギリス】
・ 利子・配当については、総合課税の対象となるが(利子は 10、20、40%、配当
は 10、32.5%の税率を適用。利子は 20%で源泉徴収)
、株式等譲渡益について
は、2008 年度より、比例税率(18%)による分離課税とされている。
・ また、個人貯蓄促進の観点から、年間拠出上限 7,200 ポンドの個人非課税貯蓄
口座(ISA)がある。ISA は、投資促進も意図して、
「貯蓄 ISA」のほか、
「投資
ISA」も存在する(貯蓄 ISA の年間拠出上限は 3,600 ポンド)
。ISA の執行に当
たっては、国民保険番号が利用されている。
○ 従来、株式等譲渡益課税については、保有期間に応じて譲渡所得を圧縮する制度が導入さ
れていたが、国際競争力の確保の観点から、より簡素で持続可能な制度とすることとし、
2008 年度以後、この制度は廃止され、一律分離課税とする制度に改組された。
(注)従来の制度では、適用税率 40%の個人であっても、譲渡所得の課税ベースが圧縮さ
れることで、実質的には 10%の税負担にまで軽減されるケースが多く見られるなど、
課税上の不公平が指摘されていた。
○ 現行、利子・配当は所得税の対象とされ、総合課税される一方、株式等譲渡益はキャピタ
ルゲイン税の課税対象とされ、比例軽減税率(18%)や基礎控除(10,100 ポンド)が認め
られるなど、金融所得に対する課税方式が異なっている。これについては、租税回避を防
止する観点から、課税方式を統一すべきではないかとする意見がある。
○ 歳入関税庁は、金融機関に対し、金融所得情報について情報提供を命じることが可能とさ
れている。国民保険番号については、現時点では、ISA や利子源泉徴収免除制度(課税最低
限以下の者のみ利用可能)など、限定的に利用されている。
【オランダ】
・ 2001 年度の税制改正において、ボックス・タックス制度が導入され、金融所得
課税は、ボックス 3(資本性資産からの所得)に位置づけられている。
・ ボックス 3 については、みなし収益(純資産額の 4%)に比例税率(30%)で
課税される。実質的にみれば、純資産額に対する 1.2%の富裕税に等しいこと
となる。
・ 金融所得課税については、番号による管理が徹底されている。
○ オランダにおいては、2001 年以降、所得税(社会保険料を含む)については、ボックス・
タックスと呼ばれる分類所得課税が実施されている。
①ボックス 1:勤労及び事業、居住用住宅からの所得
②ボックス 2:株式・出資金の大口所得者の持分所得
③ボックス 3:資本性資産からの所得
○ この 2001 年の所得税の改正は、所得税の最高税率が 60%と高かったこと、所得税のほかに
富裕税があり高所得者の国外移住が問題となっていたこと、
(特に資産性所得の)課税ベー
スが浸食されていたこと、等に対応したものであるとされている。
9
2.マイクロシミュレーション
今回の調査では、税制改正の影響に関する分析手法の概要についても簡単に聴取した。ドイ
ツとオランダにおける調査内容を要約すれば以下のとおりである。
【ドイツ】
○ 税制改正に当たっては、その 5 年間にわたる財政(税収)への影響を試算している。こ
れに加え、ある税制改正が事業所得者に与える影響など、グループ毎の分析も可能であ
る。最近は所得再分配に与える影響についても分析するようになってきた。
○ データは税務申告書から取得しており、30 万件にも及ぶ。分析に際し、情報は匿名化さ
れており、データベースの公表も行われていない。なお、試算は外部の研究所に委託さ
れている。
【オランダ】
○ 政府は、制度改正にあたって個人及び世帯レベルでの影響分析を行うのが通常であり、
2001 年の改革の際も分析が行われた。
○ 最新のデータのベースとなっているのは、
2002 年の所得データから抽出した 24 万人、
8.5
万世帯分であり、随時アップデートしている。データベースは公表されているが、個人
を特定できないよう匿名化されている。
○ モデルは中央統計局及び政策分析局が協力してアップデートしている。モデルの構築は
困難な作業であり 4 年を要した。現在のデータのベースが古くなっていることが課題で
あるが、新しい要素の反映には時間を要する。
10
3.聴取内容等
以下は、今回の海外調査の訪問先において聴取した内容を出張者の責任において取りまとめた
ものである。参考までに【】書きで訪問先を記している。
ドイツ【連邦財務省】
(1)経済対策
・ 一つ目の経済対策では、
家族関連サービスに係る税額控除の限度額を 1,200 ユーロに増額し、
また、減価償却に関し、時限的に定率法を復活させた。二つ目の経済対策では、特別児童給
付金の支給(一度限り)や、所得税減税(最低税率の引下げ、基礎控除及び閾値の引上げ)
などを行った。
(2)将来の税制改正
・ 本年の 9 月に選挙を控えており現時点で将来の税制改正について予測するのは難しいが、以
下の二つのパッケージが主な選択肢となるのではないか。
一つ目は、財政中立的な政策で、所得税の最高税率引上げと低所得者の税負担引下げの組合
せ。二つ目は、様々な所得税減税により可処分所得を増やすことで消費を増やし、経済を刺激
して、税収増を図るもの。
・ なお、限界税率の方程式部分の2つのカーブを1つにする(“linear”)という議論は、250
~300 億ユーロかかるので非現実的ではないか。
(3)児童手当及び児童控除
(経緯)
・ 1996 年の改革の際、家族へのサポートを税法に一括して入れたが、それ以前は手当は社会福
祉法、所得控除は税法に分かれていた。1990 年代の連邦憲法裁判所による一連の判決は児童
控除額の引上げを命じているだけであり、児童手当と児童控除の一体化はあくまで制度の柔
軟性を高めようという政治的意思による。
(執行方法)
・ 両者の調整方法としては、連邦の家族金庫(主に給付を担当する執行機関)が児童手当をま
ず給付し、あとで州の税務署において児童控除による減税分と精算することになる。この際、
例えば児童控除の方が有利な納税者は、児童控除を考慮して計算された税額に児童手当を上
乗せした金額を納付することになる(この結果、有利な児童控除だけが適用されたのと同じ
ことになる)
。
・ 児童手当と児童控除は本来一つの窓口で実施したかったが、税務当局は州の管轄であり、州
が児童手当の支払いを拒否したために実現しなかった。税務申告の際、税務署は、納税者が
申告した受け取る権利がある児童手当額を確認し、疑問があれば家族金庫に照会することに
11
なるが、両者のやり取りは比較的スムーズに行われている。しかしながら、両者で判定が違
うことがあり(特に成人した子どもが支援対象の場合)
、簡素性やコントロールの容易さの観
点からはやはり一本化が望ましい。
(不正受給)
・ 不正受給の問題は多くない。未成年の場合は出生届に従えばよいので問題はないが、成人後
については、前提条件を満たしている者のみ受益できるので、この条件を偽るという事例が
ある。こうした場合は脱税として罰則をもって対処している。税務識別番号はこうした不正
受給のケースに有効に機能するだろう。
(その他)
・ ドイツの税法の理念上は、納税義務の有無のみが問題になる。納税義務がない者の救済は社
会福祉の世界で行われるべきであり、失業率が高いから勤労税額控除を導入すべきという議
論はない。また、社会保険料は課税ベースを減じるという形で関わっている。税は税、社会
保障は社会保障である。
(4)税務識別番号
(制度の概要)
・ ドイツにおいては、税務のみに利用する税務識別番号を 2003 年に創設した。2008 年から付番
を始め、2009 年から一部の税務分野で利用を開始している。
・ 番号は、生涯不変であり、付番は連邦財務省の下にある連邦中央税務庁が担当する。付番対
象者は、全国民と、制限納税義務を負う非居住者(準備中)
、法人・団体であるが、法人・団
体への付番は自然人への付番終了後に行なう。自然人への付番については現時点でまだ 2~
3%の付番が終了していない(完了時期未定)
。
(導入の目的)
・ 納税者の情報を一元的に管理し、国内における課税の公平を確保すること。
ドイツでは、税務行政は州の財務省と税務署が、住民管理は各市町村が担当している。従来
の住民管理の制度はバラバラで一本化されておらず、
住民が複数の市町村で二重に管理されて
いる可能性もあった。したがって、全国的な税務行政の統一性・公平性に問題があった。
・ また、税務手続が効率化されることや、電子化の促進につながることで利便性が更に高まる
ことになると考えている。
(税務目的に利用を限定した番号として導入した背景)
・ 1960 年代に連邦内務省が中心となって国民に識別番号を付与しようとする動きがあったが、
国民総背番号制につながるとの国民の強い反対に遭い断念したという経緯がある。80 年代に
も、連邦憲法裁判所により、国は国民の私的情報を入手すべきではなく、コンピューターで
管理することは論外である旨の判断がなされた。
・ しかし 90 年代になり、IT の発達もあって、国民が自己情報を外部に発信し始めるなど、国民
の間で番号への抵抗感が薄まってきたことや、民間で情報を不正に集積するスキャンダルが
何件か発生し、国の方が信頼できるのではないかという国民の意識の変化もあり、政府部内
12
には懸念する向きもあったが、長年の懸案であった税務分野に番号を導入することも可能で
はないか、ということになった。
・ ただし、ドイツでは(各制度共通での利用が前提とされる)個人識別番号を導入することは
困難であり、あくまで税務手続のみで活用される番号としてギリギリ導入できたところ。な
お、もともと社会保障番号は存在したが、公務員には付番されていないなど、付番対象者の
範囲が限定的であった。
・ 法律上は、この税務識別番号は税務手続の際に利用する「納税者 ID」であって、
「人的 ID」
ではなく、利用は税務のみに厳格に限定されている。
(付番方法)
・ 付番手続は困難を極めた。住民の登録情報は、各市町村に分散して管理されていることから、
まず、全国に 16 ある州の内務省を経由してこの登録情報を連邦中央税務庁に集約し(ここま
でで約半年を要した)
、そこで登録の名寄せとデータ補正を行ない、1 人に 1 番号を付して、
納税者に通知するという仕組みをとった。
・ また、データベースのアップデートについては、住民登録データに異動があると、それが連
邦中央税務庁に連絡され、各州財務省・税務署に連絡される仕組みとしたところ。従来は、
住民登録情報に異動があっても逐次税務当局に連絡される仕組みとはなっていなかった。
(利用範囲)
・ 現在のところ、まず、①給与に係る所得税の源泉徴収事務、②年金に係る所得税の源泉徴収
事務に活用することを考えており、順次活用を開始しているところ。
①給与の源泉徴収事務
現在の給与に係る所得税の源泉徴収の方法は、1920 年代に導入されたものであり、住民は
毎年、市町村から自分の賃金所得納税カードを入手し、雇用者に提出、雇用者はこのカード
に記載された情報に従い源泉徴収を行い、納税者は、このカードに記載された源泉徴収税額
をもとに確定申告を行なうという、極めて複雑な仕組みとなっている。今後は、この賃金所
得納税カードを廃止し、雇用主が市町村から税務当局経由でデータを入手して源泉徴収を行
ない、納税者の申告の際にもカード添付を省略する仕組みとすることを考えている。これに
より所得税の電子申告もかなり簡素に行なえることとなる。
②年金の源泉徴収課税
ドイツでは 2005 年から年金受給者に対する課税を強化したところであるが、従来、年金課
税は限定的にしか行なわれておらず、年金受給者の税務データはほとんど蓄積されていなか
った。年金については、年金庁において所得税の源泉徴収が行なわれるが、年金庁と税務当
局とが受給者情報について情報交換を行なうこととしている。なお、年金庁から税務当局に
対し、番号と本人確認情報の照会を行うことも可能とされている。
・ なお、現在は、金融所得課税について税務識別番号を利用することとはなっていない。今後
も、一部での利用は検討されているものの、全ての金融所得の課税において利用することは
考えていない。
ドイツでは、金融所得については、2009 年から、①26.375%の分離課税(所得税(25%)
+連帯付加税(原則、所得税額の 5.5%)
)を導入(申告不要)し、さらに②納税者に対し、
申告(総合課税)を行うことも認める制度とされた。①分離課税で課税関係が終了する場合、
税務署との関係では納税者の匿名性が確保されることとなることとしており、
必ずしも税務識
別番号は必要はない。他方、②総合課税を選択したり、他口座との損失の通算をしたりする場
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合は、納税者は金融機関からの支払報告書を添付して税務署に申告を行なうことになるため、
税務識別番号がなくても非違の把握・是正は可能であると考えている。
・ ただ、貯蓄者概算控除の適用関係、及び外国(EU 域内国)で発生しドイツ人居住者が受領し
た利子(EC 貯蓄指令に基づく)については、税務識別番号が利用される可能性がある。
・ 法律上、税務識別番号の利用は税務に制限されており、他の目的で利用することはできない。
また、データベースへのアクセスも同様である。なお、納税者が自己の税務識別番号を申告
しない場合、給与・年金支給者は税務識別番号の照会を行なうことが認められているとされ
る。
(注)EC 貯蓄指令においては、国際的租税回避防止の観点から、域内の非居住者(別の域内国
居住者)に対する支払利子等の捕捉のため、域内国は、自国内に所在する支払代行者が他
の域内国の居住者に対し一定の利子等の支払を行った場合には、当該支払代行者に対し、
①当該他の域内国の居住者の氏名・住所・当該他の域内国の納税者番号(納税者番号が
ない場合は、生年月日及び出生地)
、支払代行者の名称・所在地、支払利子等の金額等に
ついて、当局に情報申告を行う義務(その後、利子受領者の居住国当局に対し自動的情
報交換の対象となる)
、又は②特別の源泉徴収を行う義務のいずれかを課す立法措置を講
じることとされている。ドイツを含め、通常、EU 域内国は国内法により、①の情報申告
義務を課すこととされている。
(今後の展望)
・ 税務識別番号の仕組みは、連邦財務省(その下にある連邦中央税務庁)が各州内務省を経由
して各市町村の住民管理台帳上の情報を吸い上げた上で管理し、州財務省の下にある税務署
での活用を目指すものであるが、このように、関連する機関が非常に多く、現時点ではそれ
ぞれの役割分担が必ずしも明確になっているとはいえない。
・ また、法律上、税務目的に利用が限定されているが、どのような税務の分野で利用するか、
誰がデータベースにアクセスできるか等についても未だ具体的に明確にはなっていない。
(5)マイクロシミュレーション
・ 税法を改正するに当たっては、その 5 年間にわたる財政(税収)への影響を試算している。
所得再分配に与える影響の分析についても最近モデルがよく使われるようになってきた。実
施は外部の研究所に依頼している。
・ データは税務申告書から取得しており、30 万件にも及ぶ。分析に際してはデータが匿名化さ
れるので、情報保護の観点からの問題はない。データベースの公表も行っていない。また、
例えばある税制改正が事業者に与える影響など、グループ毎に分析することも可能である。
(6)環境保護対策
・ 自動車税を州税から連邦税に変更した理由は、移動性資産に対する課税を連邦税に一本化す
るためである(2009 年 7 月から実施)
。
・ Climate Change の観点からエネルギー税を見直す予定は今のところない。
理由は、
税率を 1990
年頃から段階的に引き上げてきた結果、EU 域内で最も高いものとなっており、適切な水準と
考えているからである。
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イギリス
(1)就労税額控除及び児童税額控除【財務省・歳入関税庁・議会事務局・IFS】
(導入背景等)
【財務省・歳入関税庁】
・ 税制の課題は、①安定した税収、②制度の効率性、③福祉制度とともに労働に対し望ましい
インセンティブを与えること、以上三つを確保することである。
・ こうした課題に対する解決策の一つが給付措置の付いた税額控除の導入であったが、これは
いまや通常の意味での税額控除ではなく実質は社会保障給付である。
・ 歳入当局が社会保障制度を執行することになったのは、当時のブラウン財相が給付申請に係
るスティグマを取り除くことを意図していたためである。この目的は達成されており、特に
児童税額控除の利用率は 90%と非常に高い。
・ 改革を徐々に進めたのは、大掛かりな改革は一時にはできないためである。
・ 就労税額控除及び児童税額控除の費用は 2007 年度で 200 億ポンドであり、50 万世帯を貧困か
ら救い出した。受益は 600 万世帯、児童 1,000 万人に及んでいる。2006 年度の世帯当たりの
平均受益額は 3,400 ポンドである。
・ 児童手当は所得に関わらず児童のいる世帯に給付されるもので、所得制限がないという点に
児童税額控除と並存する意義が認められる。
(注)所得制限は“means test”と表現されていた。
【議会事務局】
(報告書(2006.5)で執行面の課題を分析)
・ 1997 年に“welfare to work”(
「福祉から労働へ」
)というスローガンを掲げて政権に就いた
労働党(財務大臣はブラウン現首相)は、福祉施策が労働者を適切に支援しているかについ
て、報告書(テーラー・レポート)を作成して分析した。この中で、①労働に従事してもメ
リットがない(“unemployment trap”「失業の罠」
)
、②貧困から抜け出せない(“poverty
trap”「貧困の罠」
)等の問題が指摘された。その上で、こうした問題を解決するための制度
(税額控除)の有効性について分析された。
・ この報告書を踏まえ、1999 年に家族手当を廃止して、給付措置の付いた税額控除である就労
世帯税額控除が導入された。その後、2001 年に夫婦者税額控除を廃止して給付措置の付いて
いない(旧)児童税額控除(Children’s Tax Credit)が導入された。2003 年には、税額控
除の改革が行われ、両税額控除が就労税額控除(2006 年より全額給付)及び(新)児童税額
控除(Child Tax Credit)
(当初より全額給付)に改組されたが、①大人と子どもを分けてそ
れぞれ支援すること、②子どもがいなくても夫婦(couple)が低所得であれば支援すること、
の二点はイギリスの社会保障政策上初めてのことであった。
【IFS】
・ 就労税額控除の導入理由は、社会保障への依存を減らし、勤労インセンティブを高めること
にあった。スティグマの払拭は 1999 年に税額控除を初めて導入した時よりはむしろ 2003 年
の改革時の課題で、その際には異なる所得階層にまたがる三つの福祉プログラムを(新)児
童税額控除に統合した。それは、福祉受給者のための給付、納税者のための(旧)児童税額
控除、低所得者向けの就労世帯税額控除の児童要素の三つである。このうち、特に就労世帯
税額控除については、スティグマの払拭が課題であったと考えられる。
・ 利用率の低さも課題で、世帯所得の変動により適用上限を下回ったり上回ったりすることが
原因で申請が行われないことがかなりあった。政府によると(新)児童税額控除は 90%の世
15
・
・
・
・
帯に受給資格があるため、一度受給すれば資格が継続する場合が多く、低利用率の問題は概
ね解決された。
子どもの貧困の解決という政府の狙いからすると、児童手当は高所得者にも給付されるため
望ましくなく、ここ十数年でその実質価値は 5 分の 1 に減少した。他方、税額控除は 2~3 倍
に増額されてきている。
児童税額控除の導入時に児童手当を廃止しなかった理由は、児童手当は母親を経済的に支援
するものとして国民の思い入れが非常に強い手当だからである。
また、児童税額控除が大規模な制度となった理由については、児童手当に比して所得制限に
よって費用を節約できるという点が大きい。制度導入当時のブラウン財相の子どもの貧困の
解決という個人的思いを実現するため、児童手当よりも児童税額控除に費用を割り振ってい
ると考えられる。
児童税額控除は、子どもの貧困の解決に一定の効果があったと思われる(手元に詳しい資料
がないが、毎年数十億ポンドが支出されており当然と言える)
。
(制度設計)
【財務省・歳入関税庁】
・ 所得や家庭環境の変化に応じて即時に給付が変動する制度となっており、柔軟性が高いとい
う特長がある。
・ 就労・児童税額控除は労働インセンティブを阻害しないように設計されており、福祉に依存
しているより働いている方が必ず得をする制度となっている。
・ 支給額は、年間のグロスの所得(所得税及び国民保険料拠出の減算前)が基準であり、所得
税制度と同様である。社会保障制度の基準が基本的には週給であるのとは異なっている。
【IFS】
・ 給付制度に所得制限を設けることについては、労働党は不効率でスティグマの問題もあるの
で全国民に平等に実施すべきと反対していた。ところが労働党は、政権をとってから一貫し
て所得制限を実施しており、これは歳入確保の観点からだろう。
・ 就労・児童税額控除の理論上の問題としては、
(世帯の収入が問題となることから)世帯にお
いて従たる労働者の勤労インセンティブが弱まることが挙げられる。
(執行機関)
【財務省・歳入関税庁】
・ 歳入関税庁が児童手当を担当しているのは、当時のブラウン財相がスティグマを取り除きた
かったため。1997 年の状況から、社会保障の文脈ではなく税額控除と結びつけて歳入当局が
執行するのが望ましいと判断した。
・ 国民保険料を歳入当局が徴収し始めたのは税額控除の改革の際ではなく、昔から行っている
ことだが、1999 年の改革においては保険料の賦課の責任が歳入当局に移った。これは、ワン
ストップ化の観点から実施されたものである。
【議会事務局】
・ 税務当局で税額控除を所管することとなったのは、理論的には税額控除は税額の払戻しであ
ることや、当初の就労世帯税額控除は源泉徴収の仕組みを利用して雇用者が給与支給と同時
に相殺・支給することとされていたからではないか。
【IFS】
・ 当初の就労世帯税額控除は、スティグマ対策の一環として、給与源泉徴収の仕組みを通じて
16
雇用者に税額と相殺の上で給付させていた。これが税務当局が執行機関とされた理由の一つ
だろうが、後に雇用者の負担等を考慮して廃止された。また、就労・児童税額控除は現在は
ただの現金給付なので、尚更歳入関税庁が実施する理由はない。
・ 税務当局が児童手当を執行しているのは、就労世帯税額控除の担当となったために児童手当
も担当するのが適当だとされたからである。就労税額控除や児童税額控除など租税制度とあ
まり関連のない制度を担うことについては、税務当局には低所得者を担当する文化がないと
いう批判があったが、改革から 10 年が経過した現在ではこの批判は当たらないかもしれない。
所得税制と税額控除はそもそも異なるもので、税務当局が執行を担う唯一の利点は、所得を
把握しているので不正件数を減らせることぐらいである。また、社会保障制度では週給が基
礎となるところ、年間所得を基礎とするというのは税務当局が考えそうなことであり、就労・
児童税額控除と住宅手当やカウンシル・タックス手当といった給付との連携も悪いので、両
税額控除の執行は雇用年金省が行うべきという意見もある。
(執行方法)
【財務省・歳入関税庁】
・ 就労税額控除の子育て要素及び児童税額控除は主な子育て従事者に、それ以外は就業者に、
毎週か 4 週間毎に支払われる。
・ 一年間のサイクルとしては、当初の額に基づいて支給が定期的に行われるが、途中で状況の
変更を報告することができ、また、年末に支払われた額と支払われるべき額との調整を行う。
この際、過少または過大給付の可能性があるが、後者の場合は受給者の状況を考慮して時間
を掛けて返還してもらう。
・ 給付額に反映しない昇給幅を大幅に引き上げた(2,500 ポンドから 25,000 ポンドへ)ことで
大抵この範囲に収まることになったが、翌年の給付額には関係してくる。また、給付額はそ
の他数多の理由で変化する。被用者の所得把握は難しくないが、自営業者については常に問
題がある。
・ 家族構成の把握などのために国民保険番号を使っている。
(課題)
【財務省・歳入関税庁】
・ 所得の増加や家庭状況の変化等を歳入関税庁に申告する制度となっており、極めて深刻な過
大給付となることもあるが、低所得者に還付を求めるのは難しい。
・ 過大給付についての分析によると、不正受給の規模は実は極めて小さく、より問題なのは過
誤受給である(罰金が適用された場合を不正と定義)
。歳入関税庁では虚偽申告について幾つ
もの対策を講じており、例えば児童手当制度や所得税申告書といった他のデータベースと照
合することができる。
・ サンプル調査を元にした推計によると、2003 年度から 2006 年度にかけて、過誤による過大給
付は税額控除給付額の 9.2%から 7.6%(13.9 億ポンド。うち申請者の過誤が 13.6 億ポンド)
に減少し、また不正によるものも 0.6%から 0.2%(0.4 億ポンド)に減少した。政府は両者
による過大給付を 2011 年 3 月までに 5%以内に抑えるという野心的な目標を掲げているが、
所得と連動する制度には過誤・不正がつきものである。なお、過少給付の推計値は 2006 年度
において 3.1 億ポンド(うち申請者の過誤が 2.7 億ポンド)である。
・ 過誤・不正による過大給付の合計額の推計値 14.2 億ポンド(2006 年度)の理由別内訳は、パ
ートナー不申請が 4.3 億で最も多く、次いで子育て費用が 3.2 億、所得が 2.8 億である。
・ 過大給付の返還を求めることが経済的に見合わない場合は、用意している貸倒引当金を用い
17
て債権放棄するが、回収する場合の方法には二つある。一つは税額控除を引き続き受給して
いる場合に、給与源泉徴収の仕組みを通じて減額する方法。例えば、税額控除の最大額を受
け取っている場合は 10%、フェイズ・アウトの段階にある場合は 25%、それ以降の場合は全
額を減額している。二つ目は、受給が終わっている者に対して直接回収する場合だが、この
実施は、債権額が小さく、安定した職に就いていることが前提となる。
・ 世帯ベースの税額控除制度と個人ベースの租税制度との関係も課題である。完璧に整合性が
とれているわけではなく、限界的な負担率が極めて高くなりうる。
・ また、非常に大規模な制度であることもあり、IT システムは非常に複雑で、未だに完成して
いない。以前はインターネットによる申請を受け付けていたが、組織犯罪の対象となったこ
とがあり、閉鎖した。
【議会事務局】
・ ①利用率の低さ、②複雑さ、③過大・過少給付、④低所得者の限界的な負担率の高さ、とい
う四つの問題が税額控除に関する特別委員会により指摘された。
・ ①税額控除の利用率については、人数ベースでは児童税額控除が有資格者の 82%、就労税額
控除が 61%であり、金額ベースでは、それぞれ 91%、82%(2005 年度)である。
・ 就労税額控除については、特に子供がいる世帯の利用率は高いが、子供がいない世帯や単身
世帯、若年層での利用率は低くなっている。これは政府の広報不足もあるが、扶養親族がい
ない場合には受益が大きくないことや、特に若年層は将来の昇給への期待から申請をしない
場合があることも理由と考えられる。
・ ②制度の複雑さはそれ自体で問題であるほか、利用率の低さや過大・過少給付といった問題
の原因ともなっている。
申請書類は 30 ページにも及び、低所得者ほど報告事項が高度で複雑になるという問題があ
る(例えば、住宅手当やカウンシル・タックス手当を受給する結果、税額控除が減額される
場合)
。税務申告をするのは主に高所得者である一方、税額控除に関しては受給希望者全員が
申請書を提出する。また、前者が個人ベースである一方で、後者は世帯ベースであるという
違いもある。
・ 制度が複雑で計算が難しいことが二重払いや過大給付の一因となっている。計算違いの結果
として歳入関税庁から返還請求をされることに嫌気がさし、給付を拒否するといった事例も
出ており、政府への信頼失墜にもつながっている。
・ また、複雑な制度は、不正受給の原因となり、制度の脆弱化を招く。不正受給については、
所得の過少申告、婚姻届の不提出といった事例があるが、重大なものとしては、組織犯罪、
他人のなりすまし、架空名義による銀行口座の開設等がある。制度が複雑なので、過大給付
が過誤なのか不正なのか判別できないことも問題である。
・ さらに、運用を支える IT システムにも問題がある。システムの不備やキャパシティ不足に加
え、職員にもミス(計算ミスや二重払い等)があった。
・ 給付事務を専門とする雇用年金省ではなく、税務当局がもともと所管外の税額控除(給付)
を担当したことも運用上の困難をもたらした要因だったといえる。
・ ③過大・過少給付については、歳入関税庁の推計によると、特に過大給付が 2003 年度におい
ては件数の約 3 分の1で 22 億ポンドにのぼり、2005 年度も 17 億ポンドと高水準で、政治的
に大きな問題となっている。これは、支給額が現在の所得や世帯状況を基礎とするため、状
況変化の報告は義務であるもののなされないこともあり、結果として都度の給付はあくまで
仮払いで、年末に総額を調整する必要があることから生じる。
・ 政府はメディアの批判も受けて問題の解決に乗り出し、2006 年度から給付額に反映しなくて
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よい前年所得からの昇給幅を従前の 10 倍の 2.5 万ポンドに引き上げたほか、状況の変更を当
局により早く報告する義務を課した。なお、制度を設計するに当たっては、低所得者の所得
は変動が大きく、結果として社会的弱者である低所得者に煩雑な報告義務を課すことになる
点に留意が必要である。
・ ④低所得者の限界的な負担率の高さについては、100%を超える世帯は政府の取組により消滅
したが、60~70%の世帯は 1998 年以降急上昇し 200 万も存在している。財務委員会から政府
に何度も改善を要求したが、政府は低所得者支援の財源を確保するためには税額控除やその
他の給付を所得の上昇につれて減額することは不可避であると正当化している。解決方法と
してはフェイズ・アウトの速度を緩めることが考えられるが、これは政治判断次第である。
・ 財務委員会は、低所得者層に対する税額控除の意義を認めており、廃止すべきとは言ってい
ないが、見直しの必要はある。報告書において指摘した改善点は、①情報のフロー、②技術
的課題(コンピューターシステム等)の克服、③若年層への啓発等である。
【IFS】
・ イギリスの税額控除は、悪い事例(“bad example”)であり、反面教師とすべき。租税制度
なのか社会保障制度なのか中途半端(“bad mix”)であり、多くの問題点があるが、目的が
悪いのではなく制度設計の問題である。
・ 社会保障制度に類似する部分は、所得、勤務形態、家族構成等の変化を報告する必要がある
ところ。低所得者ほどこうした状況は流動的であり報告が煩雑になる。租税制度に類似する
部分は、給付額が年収に基づいており、年末調整が必要なところ。したがって、受給超過の
場合は返納することとなるが、多額になる可能性があり、低所得者救済という目的からする
と望ましくない。
・ 税額控除制度は個人所得税制度と大きく異なっていると受け止められている。所得税では納
税者の大多数が給与の源泉徴収のみで課税関係を終了するため申告書提出に慣れていないの
に対し、税額控除では受給希望者全員が申告をする必要がある。加えて、所得税に未納があ
る場合でも、税額控除の計算は別になされ、相殺もされない。ただ一つの共通点は、
「所得」
の定義が同じということのみである。
・ 低所得者が何より求めている給付の確実性を確保するため、前年所得で給付額を決定して年
末調整を必要としない方式も考えられるが、税額控除が所得の大部分を占める場合もあるの
で、失業者や離婚者にタイムリーに支給する観点からは、タイムラグが生じることとなり望
ましくない。アメリカやカナダでは過年度の所得を基礎に給付(控除)しているが、受益者
が翌年度の給付(控除)額を見込んで借入れをして対応していることもあり政治的に許容さ
れている(イギリスではこのような文化はない)ほか、税額控除がフードスタンプや州政府
の低所得者向けプログラムなどを含む福祉制度全体の一部にすぎない(特にカナダ)ため、
問題は比較的小さい。他方、イギリスでは税額控除の比重が大きいために状況変化に応じて
即座に受給できるようにする必要がある。
・ 当初導入された就労世帯税額控除は租税制度とは無関係で、6 か月ごとに申請できたのは魅
力だった。政府は就労世帯税額控除が柔軟性に欠けるとして改革を行ったが、低所得者のた
めには柔軟性より確実性を重視すべきと考える。
(その他)
【議会事務局】
・ 税額控除を導入する場合には、①制度を適切に告知すること、②IT システムを適切に構築す
ること、③複雑であるが柔軟な制度とするか、利用しやすいが柔軟ではない制度とするかの
19
バランスをとることが必要である。弱者のための制度であることに留意する必要があり、給
付額の計算が自身でできないとなると、逆に依存度が高まってしまい問題である。
・ 財務委員会の委員の意見は所属する政党により異なり、高い限界的な負担率を問題視する意
見や税額控除の資格を高所得者まで広げるべきとの意見もある。
【IFS】
・ 負の所得税については、税制と社会保障を一元化するものであり、理論的には魅力的だが、
実現は困難である。税額控除の方が支援対象を絞ることができる上、その効果と費用の研究
によれば、既に負の所得税と同様の効果が実現しているという分析もされている。
(2)国民保険番号【財務省・歳入関税庁・雇用年金省・議会事務局・IFS】
(概要)
【雇用年金省】
・ 国民保険番号は、生涯不変の1人1番号であり、アルファベットと数字が組み合わされた 9
桁の番号(
「AB123456D」のような形で表現される)
。この番号は、国民保険番号カード上に、
氏名とともに記載されている(同カードの記載事項は、氏名と番号のみであり、同カードは
本人確認書類とはならない)
。
・ 番号の付与件数については、雇用年金省は児童手当番号も管理している一方で歳入関税庁は
国民保険番号のみを管理しているため、前者の方が多い。また、死亡者やイギリスで就業履
歴のある非居住者の記録も管理されているため、件数は人口よりも多くなっている。
(番号の管理)
【雇用年金省】
・ 国民保険番号は、雇用年金省と歳入関税庁とが共同で管理しており、それぞれ独自のデータ
ベースを保有している。別な番号ではないのは、就業(課税・税額控除)と失業(給付)と
の間を行き来する個人を把握するためである。
歳入関税庁は、租税とともに、国民保険料の賦課・徴収を行っており、徴収した国民保険
料を個々人の保険料納付記録に適切に反映する責務を負う。他方、雇用年金省では、成人者
(主に移民者)に国民保険番号を付与する事務を負うほか、社会保障給付の支給事務を所管
している。
・ 具体的な付番手続としては、雇用年金省は、児童手当支給のために子供に児童手当番号を割
り当て(支給自体は歳入関税庁所管)
、子供が 16 歳になる直前になると、歳入関税庁が同一
の番号を国民保険番号として登録し(児童手当は所得制限がないことから、殆どの児童が児
童手当番号を付与される)
、国民保険番号カードを発行する。
この番号により、雇用年金省における国民保険料納付記録の適切な管理、社会保障給付の
支給、歳入関税庁における課税と税額控除の運営等が行われている。
・ 個人の住民登録や住所異動を雇用年金省・歳入関税庁が把握した場合には、それぞれのデー
タベースを変更した上で、相互に情報交換を行う。なお、双方のデータベースで共有される
のは、国民保険番号の基礎となる本人確認情報と、給付の支給に係る情報のみであり、税務
情報については、基本的には共有されない。
(税務における国民保険番号の利用)
【雇用年金省】
・ 歳入関税庁は、1999 年の社会保険庁(当時の社会保障省の外局で、国民保険料の賦課・徴収
20
を担当)との合併前から、源泉徴収の仕組みを利用して、所得税のみならず被用者負担分の
国民保険料の徴収も担当しており、国民保険番号を利用していた(社会保険庁との合併によ
り、内国歳入庁(当時)には、国民保険料の徴収業務のほか、賦課権も付与された)
。国民保
険料の賦課・徴収の分野では、国民保険番号はフルに活用されている。
・ 他方、税務の分野では、国民保険番号は一部の分野で限定的に利用されるに止まる(源泉徴
収、ISA、税額控除等)
。
これは、歳入関税庁で管理されている国民保険番号のデータベース(
「国民保険記録システ
ム」
)が、給与源泉徴収システムや ISA システム、税額控除システム等としか接続されておら
ず、主力の課税システムと接続されていないことが大きな要因となっている。
今年の 6 月以降は、歳入関税庁内の国民保険記録システムと課税システムとが統合される
ことから、今後、国民保険番号が課税手続で重要な個人識別番号として利用されることにな
ると考えられる。
【財務省・歳入関税庁】
・ 歳入庁は、関税庁との合併前から国民保険料の徴収を担当しており、国民保険番号を利用し
ていた。国民保険番号は所得税・国民年金保険料の源泉徴収に使用されているなど、多くの
制度を個人に結びつける番号である。
・ その他、税務では、税務参照番号がある。これは、個人事業者、パートナーシップやトラス
トの self-assessment のためのものであり、
納税者と税務署との間で用いられるものである。
UTR なしでも就労・児童税額控除を受け取ることができる。
・ 現時点では、国民保険番号の税務利用を拡大する計画はない。
・ 税務情報については、原則として非公開とされている。他の政府機関は、法律上の根拠があ
る場合に、その業務に必要な範囲で税務情報の利用が可能とされるに止まる。
(利用範囲)
【雇用年金省】
・ 国民保険番号は、もともと国民保険料の賦課・徴収のみに利用されており(1948 年~75 年)
、
その他の社会保障分野では別の番号(年金番号・児童手当番号等)が用いられていた。80 年
代から 90 年代にかけて、国民保険番号が全ての社会保障給付において共通の個人識別番号と
して利用されるようになった。これにより、各給付間での給付額の調整も可能となった。
・ イギリスでは、現時点で国民保険番号ほど共通な番号はないことから、政府機関にとっては、
最も魅力的な番号として認識されており、多くの給付や非課税等の資格確認等で利用されて
いる(税額控除(歳入関税庁)
・住居手当(地方自治体)
・無料給食(児童・学校・家庭省)
の受給資格確認、給与源泉徴収システムを利用した学生ローン返済(民間企業)
、自動車税非
課税資格の確認(運転免許庁)等)
。
各事務で国民保険番号を個人識別番号として利用する場合の根拠は、それぞれの根拠法だ
が(ただし、給付金に関するものについては新たな根拠法は不要)
、国民保険番号の具体的な
利用に係る規則は個々に雇用年金省で作成している。
(課題等)
【雇用年金省】
・ 国民保険番号が多目的で利用されることについて、国民の間で特にプライバシーについての
懸念は生じていないと認識している。
・ 国民保険番号に本人認証または就労許可の機能があるという誤解に基づいて、なりすましや
カード偽造事件が発生している(雇用者は被用者が提示する国民保険番号が真性なものか確
21
認できない)
。雇用年金省では、他の政府機関と連携して、こうした誤解の払拭、番号発行手
続の厳格化、事件の摘発に力を入れている。
【議会事務局】
・ 国民保険番号は個人の特定のために利用されているようだが、歳入関税庁内の課税データベ
ースときちんとマッチングされているかは疑問である。一般税務用と税額控除用の少なくと
も二つの分離したシステムがあり、正確なマッチングは行われていないのではないか。歳入
関税庁内のシステムは一体化すべきである。議会からすれば、現状は高度化もされていない
し、信用もできない。
・ 政府機関内では、国民保険番号を使って情報交換が可能(例えば雇用年金省が税額控除に関
する情報を閲覧することなど)であるが、これらの情報のやりとりは政府機関内部のもの。
また、職員は情報漏洩の禁止を誓約しなければならない。
【IFS】
・ 国民保険番号は、税額控除にとって必須とまではいえないかもしれないが、不正申告を防止
するためには有効なのではないか。
(3)金融所得課税(特に個人非課税貯蓄口座)
【財務省・歳入関税庁・HSBC】
(ISA の目的)
【財務省・歳入関税庁】
・ 個人非課税貯蓄口座(Individual Savings Account:ISA)は、国民に生涯を通じて貯蓄・資
産を保有させるためのインセンティブとして設けられているもの。
ISA は、①非課税貯蓄口座(Cash ISA、 以下「貯蓄 ISA」
)と、②非課税投資口座(Share/Stock
ISA、以下「投資 ISA」
)から構成されているが、制度の主たる目的は中低所得者層の貯蓄の促
進である。
・ ISA 導入前にも投資非課税制度(たとえば、個人株式投資スキーム等)は存在したものの、そ
の利用が高所得者層に偏っていたことから、中低所得者層の利用拡大を図るため、それらが
1999 年に ISA に改組されたところ。
現在、成年の 3 分の 1(約 1,800 万人)が ISA を利用し、残高合計は 2,870 億ポンド(2007
年度末)
。減収額は 24 億ポンド(2007 年度末)
。低所得者層を見ても、5 人に 1 人が ISA を利
用している。なお、利用者の構成を見ると、貯蓄 ISA のみの利用者が全体の 60%、投資 ISA
のみが 18%、双方利用者が 20%となっている。また、ISA の全残高中、貯蓄 ISA の残高が 50%
程度を占めている。
【HSBC】
・ ISA は国民の金融資産を増やす目的で導入されているものであるが、高齢者等が投資 ISA の利
用をきっかけとしてハイリスク投資に興味を持つようなケースも見られ、高齢者等が多くの
損失を抱えてしまうようなことが起きないか危惧する向きもある。
(ISA の基本的な仕組み)
【財務省・歳入関税庁】
・ ISA 口座への拠出金から生じる利子・配当・譲渡益の全てが利用者において非課税とされ、実
現した投資ロスは課税上認識されない。
・ ISA の利用者には所得制限はなく、ISA 口座の利用期間についても制限はないが、年齢制限(貯
蓄 ISA は 16 歳以上、投資 ISA は 18 歳以上)と年間の拠出限度額、適格投資の範囲等に規制
22
が設けられている。
年間の拠出限度額(2009 年度)は、7,200 ポンド(うち、貯蓄 ISA は 3,600 ポンドを限度)
である(未利用部分の繰越し・家族間利用は不可)
。口座数は、貯蓄 ISA・投資 ISA のそれぞ
れ年間一つずつ、計二口座まで設定可能(個人が通算で保有する口座数の制限はない)
。また、
貯蓄 ISA・投資 ISA 間での移転も可能である。
(注)経済危機対応策の一つとして、2010 年から ISA の年間拠出限度額が引き上げられ、貯蓄
ISA・投資 ISA 合計で 10,200 ポンド(貯蓄 ISA は最大 5,100 ポンドまで)とされる予定。
さらに、2010 年からは、低所得者(年収 16,000 ポンド程度)に貯蓄を習慣付けるため、
Saving Gateway という制度を設け、月 25 ポンド(年間 300 ポンド)までの拠出金に対し、
政府がその 50%の奨励金を追加的に支給することとしている。
(ISA の運用)
【財務省・歳入関税庁】
・ 利用者は、ISA マネージャー(金融当局の認可を得た金融機関であって、歳入関税庁の承認を
得た者)との投資契約に際し、氏名・住所・生年月日・国民保険番号等を記載した ISA 口座
開設承認申請書を提出する。
ISA マネージャーは、自己の管理システムにより、拠出限度額の管理を行なうと同時に、毎
年、歳入関税庁に対し、①自己の取扱い残高(時価)の報告(合計表)
、②年間拠出金の報告
(合計表)
、③個々の利用者の利用状況に関する情報申告を行うとともに、④投資 ISA 内の投
資に向けられていない拠出金に係る利子に対する源泉徴収税額の申告納付、投資 ISA 内の投
資所得に対する源泉徴収税額についての還付申告を行う(納税者は申告不要)
。
歳入関税庁においては、情報申告をもとに、個々の利用者について氏名・住所・生年月日・
国民保険番号等を用いて名寄せ・突合を行い、複数口座開設の有無、非適格投資の有無等の
チェックを行なう。また、歳入関税庁は、Risk-based approach に基づき、ISA マネージャー
に対するルーチン調査(ISA マネージャーとしての手続や還付請求のチェック、サンプル的に
抽出した個々の ISA 口座のチェック等)のほか、高リスクの納税者等に対する重点的な調査
を行うこととしている。
・ 法令違反が発見された場合、歳入関税庁はまず ISA マネージャーを通じて是正を行う。一部
不適格のような場合はその部分だけ除外し追徴課税を行う程度であるが、法令違反が重大な
場合には、課税庁は ISA 口座を閉鎖し、追徴課税を行なう。なお、投資 ISA 内で確定したロ
スは課税上無視されることとなるが、このロスが ISA 外のゲインと通算されることを防止す
る仕組みはない。ただ、ISA 口座内のロスと他のゲインを通算しようとすれば申告が必要とな
ることから、これについては申告段階でチェックすることとなる。
【HSBC】
・ ISA の運用は高度に自動化されており、税務当局においては、国民保険番号等を利用して、効
率的な名寄せ・突合が行われている。
・ 従来は、複数口座が多発していたが、現在は殆ど解消している。法令上・業務上、ISA 口座開
設時に複数口座の有無についてチェックする仕組みはない。事後的に歳入関税庁が突合し、
非違を是正する。
・ 金融機関は毎年、新課税年度開始(4 月)の前後になると、顧客獲得のために利率優遇商品を
出すなど、大々的にプロモーションを行っており、ISA 向けの商品は種類も豊富なものとなっ
ている。しかし、やはり中低所得者向けの商品が中心であり、銀行にしてみればマス商品に
過ぎない。また、ボラティリティの低いものが多い。
23
高所得者は ISA ではなく、個人拠出年金プランを利用している。相続には使えないものの、
およそ最高 200 万ポンドまで非課税での積立が可能である。ISA についても、オープンエンド
型投資会社の株式に投資してもらいつつ(課税)
、そこから毎年一定額を投資 ISA に振り替え
るという手法がとられることが多い。
・ 投資 ISA 内で実現したロスは課税上認識されないこととされており、このロスが申告により
ISA 口座外のゲインと通算されるようなことは、通常は税理士が申告に関与することから考え
られない。ただ、可能性として皆無であるとはいえない。今後は損失が多く発生するだろう
から、問題になるかもしれない。
(金融機関の情報申告制度)
【HSBC】
・ 金融機関は、利子について 20%で源泉徴収を行い、年 4 回、歳入関税庁に申告納付する。こ
の際に提出する申告書には個々の納税者の情報は記載されない。
・ また、金融機関は、毎年、歳入関税庁の要求に基づき、個々の納税者毎に、氏名、住所、生
年月日、国民保険番号(利子源泉徴収免除者のみ)
、支払金額(グロス)
、源泉徴収税額、口
座番号等を記載した情報申告書を提出する義務を負う。歳入関税庁では、コンピューター上
で納税者からの申告データと名寄せ・突合を行う。
・ 金融機関は、納税者からの請求に基づき、支払報告書(支払金額(グロス)
・源泉徴収税額・
支払金額(ネット)が記載)を手交する義務を負う。納税者は申告時にこの支払報告書を添
付する必要がある。
(金融所得課税全般)
【HSBC】
・ イギリスでは、利子・配当には所得税、株式等譲渡益には、所得税ではなく、キャピタルゲ
イン税が課される。ISA 内のゲインは非課税となるほか、キャピタルゲイン税独自の基礎控除
枠(年間 10,100 ポンド(2009 年度)
)が存在する。
・ 政府としては投資を促進したい意図があるのだろうが、通常所得をキャピタルゲインに変更
し、基礎控除と、単一税率(18%)の適用を受けようとする動きも多くみられることから、
課税方式を早く統一すべきではないかとの指摘もある。課税方式の統一がなかなか進まない
のは政治的要因が大きいとされている。歳入関税庁としては減税措置を限定したいのだろう
が、政治的には、納税者重視で貯蓄率向上が求められているといわれている。
24
オランダ
(1)経済財政見通し及び経済対策【財務省】
(経済財政見通し)
・ 2009 年の GDP 成長率は昨年 9 月時点において+1.25%の見通しであったが、現在(6 月時点)
の見通しは△5.0%、2010 年は△1.0%と予想している。
・ 政府の予算収支は、2009 年は対 GDP 比△3.8%、2010 年は同△5.7%を見込んでいたが、更に
悪化する見通しである(2008 年 9 月時点の見通しではそれぞれ、1.2%、0.8%の黒字を見込
んでいた。
)
。
・ 債務残高は、2010 年には対 GDP 比 62%となり、連立政権合意時の想定より 22%悪化する見
込みである。
(経済構造強化策)
・ 歳入側の自動安定化装置の規模(経済状況の悪化に伴う歳入の減少)は、2009 年は対 GDP 比
△2.5%、2010 年は同△4.0%を想定している。
・ 経済構造を強化する対策の内容について、連立政権における新たな合意は以下の三つを主な
枠組みとしている。①対策は、時限的に(“temporary”)
、時宜を得て(“timely”)
、対象
を絞って(“targeted”)行うこと、②2011 年から財政状況の修復を図ること(歳出カット
が原則)
、③2011 年以後、持続可能性を高める取組により対 GDP 比 1.3%の収支改善を行うこ
と。
・ 租税措置は短期的な企業の資金流動性を確保するという観点から導入されており、減税の大
半は、時限性を明示するために 2010 年を期限としている。他方、消費者の購買力を下支えす
るための措置は不要とされた。
・ 減税の具体策として、2008 年 11 月に、①減価償却の加速化、②中小企業減税(第 2 ブラケ
ットの税率を 23%から 20%に)の二つの対策を導入した。
・ 2009 年 3 月には、更なる経済対策として、①研究開発関連減税の拡充、②環境関連投資減税
の拡充、③付加価値税について申告回数の変更(月次から四半期毎へ)
、④航空券税の廃止等
を行った(④のみ期限なし)
。
・ 経済対策の租税措置の規模はそれぞれ 8.4 億ユーロ、6.25 億ユーロである。
(2)税制改革【財務省】
・ 1990 年の個人所得税改革は、①税と社会保険料を一体化してレートを一本化し、②ブラケッ
ト数を減らし、③最高税率を 72%から 60%に引き下げた。
・ 2001 年の個人所得税改革は、①課税ベースを拡大し、②ボックス・タックス制度を導入して
勤労所得と資産所得を分け、③所得控除を税額控除に変更し、④最高税率を 52%へ引き下げ
た。直接税(所得税)から間接税(付加価値税)への移行が意図されていた。また、環境関
連税制についての改革も実施された。
・ 2007 年の法人所得税改革は、①課税ベースを拡大し、②税率を引き下げた(最高税率を 29.6%
から 25.5%に引き下げる等)
。
・ 高齢化に対処するため、高齢者にも徐々に負担を求める方針である。
25
・ 2011 年の総選挙を見据えており、将来の税制改革について政治レベルでの決定はない。学界
も巻き込んで改革を行う分野を見定めているところである。
・ 国会においてマーリーズ・レビューが議論の俎上にのぼっている。様々な課題が議論されて
いるが、主なものとしては、最適課税理論、直接税から間接税への移行、環境税など。法人
課税に関しては、特に利払いの扱いについて議論がある。
(3)税額控除【財務省】
(導入背景等)
・ 導入当時の連立政権において、左派は所得控除は高所得者の受益が大きいとして税額控除の
導入を主張し、右派は最高税率の引下げを主張した結果、両方とも実現することとなった。
・ 2001 年に 7 個の所得控除を 12 個の税額控除に切り換えたが、これは 2001 年の改革全体の目
的でもある以下の三項目を達成するためであった。①所得政策の対象を絞り、低所得者にと
ってより効果的なものとすること、②雇用及び経済構造に良い影響を与えること、③経済的
自立を促すこと。これらに加えて、税額控除には課税ベースを拡大する効果もある。
・ 2001 年の改革は財政中立的ではなく、30 億ユーロの費用が掛かった。しかしながら、税額控
除は効率的な制度であり、特に女性の労働供給を増加させる効果も期待され、課税ベースの
拡大にも資することから、費用に見合うメリットがあると考えている。
(制度設計)
・ 税額控除に給付措置が付いていないのは、“no tax, no gain”の原則による。全額給付する
という選択肢はいわゆるベーシック・インカムにつながるが、特に低所得者の労働供給に負
の影響があるので望ましくない。
・ 社会保険料も税額控除の対象となっているのは、個人所得税と一体化しているため。社会保
険(“social insurance”)は全員に適用されるので租税制度が関わっているが、被用者保
険(“employee’s insurance”)は雇用関係にある場合のみなので、租税制度は関わってい
ない。税額控除が充当された社会保険料については政府が社会保険基金に補償するので、税
額控除の利用(充当)率と保険による受益額は無関係である。なお、税額控除は歳入減とし
て経理されている。
・ 65 歳以上の高齢者については、年金保険料が課されていないため税率が低くなっているが、
それに対応して税額控除が小さくなっている。
・ ひとり親税額控除を最近大幅に減額したが、他方で子育てしながら就業している人々のため
の控除(複合税額控除)を増額した。この税額控除は所得に応じて増額するため、全体とし
て労働供給を促進する変更となっている。
・ 2008 年に児童税額控除を所得制限付きの手当に変更したのは、低所得者は税額が小さいため
に恩恵を受けられないことがあるという国会での指摘と、連立政権中の保守派による(所得
制限のない)児童手当を増額すべきとの主張を受けたためである。昨年の調査によるとその
後の利用(充当)率は高いので、税額控除を更に手当化する計画はない。
・ 職を失うと税額控除も失うこととなり困難が倍加するという指摘があるが、これは意図され
た効果である。解雇された場合は失業保険から給付を受けられるが、手取りが減ることが新
たな職を探す誘因となる。
26
(執行)
・ 不正に対しては、返還請求に加え財政罰として罰金刑又は懲役刑が適用されることもある。
・ 児童を対象とする税額控除が適用されるのは、児童が住民登録システム(GBA)における両親
の住所で登録されている場合のみである。また、市民サービス番号(BSN)は不正を防止する
のに役立っている。
(4)税務・社会保障番号、市民サービス番号【内務省・財務省】
(導入の経緯)
【内務省】
・ 90 年代になると、税務番号の利用範囲は社会保障分野に拡大され、名称も「税務・社会保障
番号」
(SoFi 番号)に改められた。その後、この税務・社会保障番号は、限定的ながら、他の
行政機関においても利用されていた。
・ 他方、政府としては、国民の利便性の向上と行政の効率性の向上を図る観点から、既に整備
されていた行政のオンライン化(E-Government)を更に進めるとともに、窓口一本化、行政
の簡素化を強力に促進する必要があった。
これらの目的を実現するためには、まず、行政手続自体の簡素化、省庁間での情報共有化の
徹底と透明性の向上、システムの現代化等が必要であり、これらを実現するためのツールとし
て、内務省は市民サービス番号の導入を提案した。
内務省が市民サービス番号を国民に初めて提案したのは 2000 年であったが、当初は、省庁
間で意見の相違もあり、
市民サービス番号の理想を曖昧な形で国民に提示することに止まった。
その後、現実的かつ具体的な案の作成、予算獲得、試行、議会審議を経て、2007 年に導入さ
れるに至った。
・ 市民サービス番号を導入する際に際しては、①円滑な移行を実現する観点から、税務・社会
保障分野で広く利用されてきた税務・社会保障番号について、全行政機関が利用する共通番
号として活用しつつ、②改組される番号を「サービス番号」として位置づけ、国民に対し、
E-Government の更なる推進を含め、その利便性について広報するとともに、③その維持管理
については、個人の住所変更等が迅速に把握できる内務省・各市町村に委ねることとした。
・ 従来、住民登録台帳は市町村でバラバラに管理されていたが、内務省では、90 年代にこれら
を電子的に一元管理する住民登録システムを導入した。各行政機関では、これを受けて、部
内のみに用いる各種の「行政番号」を導入して活用していたが、これらの内部的な行政番号
と、税務・社会保障番号との連携は限定的にしか図られていなかった。また、税務・社会保
障番号の法的根拠は曖昧であり、共通番号として利用する際の透明性を確保するうえで不適
当であった。さらに、税務・社会保障番号のシステムは、全省庁がアクセスしにくい構造と
なっていた。
【財務省】
・ 財務省は、1986 年に税務分野に利用範囲を限定した「税務番号」を導入した。税務番号は、
従来から省内で利用されていた管理番号をそのまま利用したものであるが、その導入には慎
重を期した。というのは、第二次大戦中、ドイツはオランダ人一人一人に ID を付したため、
オランダにおいては、個人に ID を付するということについて、長年、相当の心理的な抵抗感
が存在していたからである。
・ 市民サービス番号は、税務番号導入から 20 年以上経過してようやく実現まで至ったもの。こ
27
れまでは、税務番号の用途を社会保障まで拡大することまでは実現できていたもののそれ以
上利用範囲を拡大することについては、国民のプライバシー懸念を考えるとなかなか困難で
あった。今回、多目的利用が可能となったのも、やはり番号を「サービス番号」として位置
づけたことが大きい。
・ 2007 年 11 月 26 日に導入された市民サービス番号は、税務・社会保障番号をアップグレード
したものだが、これはそれが最も簡便な方法であったからである。なお、導入目的の一つに
は、詐偽(“fraud”)の抑止もあった。全ての行政機関が同一の番号を利用することにより、
詐偽行為発見の容易化が期待されたのである。
・ なお、市民サービス番号導入後も税務・社会保障番号は存続するが、その対象者は、国籍の
如何を問わず、住民登録システムに登録されない個人であって、オランダと税務上・社会保
障上関連性のある者に限られることとなる(従前にオランダで就労しており社会保障給付受
給権を有する者や、オランダの税負担を負う非居住者等)
。
(制度の運用)
【内務省】
・ 各行政機関は、国民とのコミュニケーション及び各行政機関相互間の情報交換の際には、市
民サービス番号を利用することが義務付けられている。
・ ただし、当該行政機関内のシステムにおいて市民サービス番号を利用することまでは求めら
れていない。今回の制度改正においては、各行政機関は、従来から利用していた独自の番号
と市民サービス番号とをマッチングさせる必要はあったが、既に存在していた各行政機関の
データベース内の独自番号を全て市民サービス番号に置き換えることまでは求められなかっ
た。
・ 国民には番号の携行が義務付けられているが、この番号専用のカードはなく、公的機関発行
の各種カードに氏名・写真等とともに市民サービス番号が記載されている(パスポート、運
転免許証等)
。
・ 番号の提示を受けた者(行政機関・民間機関等)は、市民サービス番号の正確性のチェック
及び番号提示者自身の本人確認を行う必要がある。
今回の制度改正においては、
市民サービス番号の正確性を容易にチェックできる仕組みとし
て、内務省に「市民サービス番号登録簿」
(BSN Register)が整備された。この Register には、
番号と限定的な本人確認情報が登録されており、番号の提示を受けた者は、オンラインでこの
Register にアクセスして番号の正確性をチェックすることが可能である。
また、市民サービス番号は、本人確認書類として利用される行政機関発行の証明書等に記載
されているが、番号提示を受けた者は、これらの証明書自体の真実性について別途照会するこ
とも可能となっている。
・ 市町村は、住民登録システムに新規に個人を登録する場合には、内務省から予め番号として
配給を受けている番号の中から付番した上で、当該番号を住民登録システムに記載するとと
もに、上記 Register 上にも番号と一定の情報を登録する。住民登録システムに記載された個
人情報に変更がある場合にも同様に Register 登録情報の変更を行う。
【財務省】
・ 税務・社会保障番号の付与は引き続き財務省の担当であり、財務省と内務省は、二重付番を
防止するため、日々情報交換を実施している。また、財務省は、本人確認情報の変更を把握
するため、毎日、住民登録システムにアクセスしてデータベースの更新に努めている。
・ 税務・社会保障番号のみ付番されている者(住民登録システムに登録されていない者)の個
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人情報のアップデートは、財務省が実施している。財務省としては、二つの番号があり、そ
れぞれ所管省庁が異なるのは理想的ではないので、将来的に税務・社会保障番号の付番を停
止したいと考えている。現在、内務省において非居住者向けの付番方法についての検討が行
われている。
・ また、現在、オランダにおいては、国民の利便性向上の観点から、一政府機関が入手した個
人情報を全省庁で共有する仕組みが整備されつつあるが、財務省においてもその一環として、
個人の所得情報(課税所得金額)の登録システム(所得登録システム)を準備しているとこ
ろ(2009 年中に運用開始予定)
。導入後は、全省庁はこのシステムにアクセスして所得データ
を入手することが可能であるが、各省庁は、原則としてこの所得データを唯一の所得データ
として利用し、財務省に対して異議を唱えることはできないこととされている。
・ なお、納税者サービスの一環として、現在、当局による事前記入式申告書制度が試験運用さ
れている。これは、納税手続の簡素化を目的とした措置であり、電子申告を行う納税者が、
当局が保有データを使用して記載事項の一部を予め記入した申告書を利用できるというもの。
氏名・住所・市民サービス番号のほか、給与等の所得金額(ボックス1のみ)
・一部の税額控
除額についても予め記載されている。2009 年度分の所得税から、電子申告の追加的サービス
として、全ての電子申告利用者に利用が拡大される予定。
(番号の第三者利用)
【内務省】
・ 行政機関は、その業務遂行上市民サービス番号の利用が義務付けられている。ただし、当該
行政機関の業務以外の目的で番号を用いる場合には、
(内務省ではなく)当該行政機関におけ
る政策判断が必要となり、また、別途根拠法が必要である。
・ 民間機関等においても、法律の根拠規定があれば、番号利用を行うことは可能であり、病院、
教育機関については根拠法がある。現在、金融機関が市民サービス番号を利用して顧客番号
を蓄積し、顧客サービス等の商業利用を行えるようにする法案が準備されているが、その是
非については議論がある。
(住民登録システムの第三者利用)
【内務省】
・ 行政機関は、2010 年からその業務に必要な範囲では、住民登録システムや所得登録システム
に記載された情報を利用することが義務付けられる。各行政機関は、情報の共有化の徹底の
観点から、同登録システムに記載されている情報については別途国民から入手することはで
きず、かつ、明確な理由がない限り、この情報の所管官庁に対抗できない。住民登録システ
ム記載情報の利用については、厳格な手続が要請される。
・ 行政機関ではなくとも、公的な業務を行う団体は、法的根拠があれば、当該業務に必要な情
報に限り、住民登録システム情報を利用することができる。
(プライバシー保護)
【内務省】
・ 市民サービス番号の導入の際には一部のプライバシー保護団体との間で議論があったが、番
号自体への懸念というよりは、この番号の活用先候補として掲げられている電子カルテの取
扱いや(現在議論が進行中)
、人種・民族差別の懸念に議論が集中した。法執行とプライバシ
ーの問題も提起されたが、概ね好意的に受け入れられたのではないかと考えている。
・ プライバシー保護の根拠法体系としては、まず、個人情報保護に関する EC 指令があり、その
下にプライバシー法が存在する。同法は、行政機関・民間の双方に適用される。住民登録シス
テム記載情報の利用は、住民登録システム法により、市民サービス番号の利用については、市
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民サービス番号法により規制されている。
(5)マイクロシミュレーション【財務省】
・ 個人及び世帯レベルでの影響(再分配等)を分析することができる。2001 年の改革の際も分
析が行われた。政府に使用義務はないが、他にモデルもないので、使用するのが通例である。
・ 最新のデータのベースとなっているのは、2002 年の所得データから抽出した 24 万人、8.5 万
世帯分であり、随時アップデートしている。データベースは公表されているが、個人を特定
できないように異常値を取り除くなどしている。なお、中央統計局から関連する情報を受領
することになっている。
・ モデルは同時処理(simultaneous process)と継次処理(sequential process)を組み合わ
せたものであり、中央統計局及び政策分析局が同意してアップデートしている。以前は政府
機関がそれぞれモデルを持っていたが、統一されたものの方が望ましく、現在は全当事者が
同じモデルを用いている。モデルの構築は困難な作業であり 4 年を要した上、新しい要素を
反映するのにも時間が掛かる。また、現在のデータのベースが古くなっていることも問題で
ある。
(6)環境関連税制【財務省】
(今までの改革)
・ 1988 年から環境省所管の燃料に対する個別目的税があり、汚染者が負担し使途が特定されて
いた。1992 年に廃止されて燃料に対する消費税(一般燃料税)が導入されたが、財務省所管
の一般財源となったことを除いては実質的な変更はなかった。
・ 1995 年には環境税法が導入された。主な内容は、①燃料への課税(一般燃料税に代わるもの
で、1995 年から施行。2004 年に課税対象が石炭のみとされ、2008 年に石炭税に名称変更。
)
、
②エネルギー税(電気、天然ガス等に対する課税で、1996 年から施行。現在は石炭以外の燃
料に対し課税)
、③その他環境関連税(廃棄物、水道等に対する課税)の三つである。
・ こうした改革の目的は、省エネの促進と CO2 の削減に加え、課税ベースの拡大である。
・ 環境関連税制の改正に当たっては、負担を増やすことなく省エネを促進するため、税収中立
となるようにしている。
・ 2001 年の税制改革により、電気やガスの最低料金が引き上げられた。その後、EC 指令を国内
法に移す際に調整が行われ、複数の税目にまたがっていた課税対象について、エネルギー税
及び鉱油税への一本化が行われた。
・ 燃料税及びエネルギー税のエネルギー量(50%)及び CO2 排出量(50%)に対する比例税率
が廃止されたのは、電力消費が増加する一方で天然ガス消費が減少するという非対称性があ
ったためである。
(今後の改革)
・ 2009 年 6 月に、議会に対し「税制のグリーン化」について報告した。主な内容は、①天然ガ
スの税率引上げの影響(天然ガスの税率を引き上げた場合、一般家庭の購買力は下がるので、
経済状況を踏まえる必要がある。
)
、②建物のエネルギー効率化、③環境に配慮した自動車へ
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の自動車税の免除の三つである。なお、経済危機の中ではこうした提案はしにくい。また、
抜本的な改革は済んでいるので、今後は細かな調整をしていくことになるだろう。
・ CO2 の削減については、EU 内で 2%の削減目標が掲げられていることから、今後、市場(経
済)ベースに基づく対策を検討する。
(以 上)
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