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1 - 環境省
平成12年度環境省委託業務結果報告書
内分泌攪乱化学物質のヒトへの影響調査研究
平成13年3月
財団法人
日本公衆衛生協会
内分泌攪乱化学物質のヒトへの影響調査研究班
○
住吉
好雄
横浜市立大学 客員教授
神奈川県労働衛生福祉協会
理事
平原
史樹
高橋
剛
岩本
晃明
聖マリアンナ医科大学泌尿器科学
黒木
良和
神奈川県立こども医療センター 病院長
三浦
猛
○
班長
横浜市立大学医学部産婦人科学 教授
聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院泌尿器科 部長
神奈川県立がんセンター泌尿器科
教授
部長
目
次
1.内分泌攪乱化学物質のヒトへの影響調査研究
1
(1)総 括
A.はじめに
B.人への影響に関する影響調査
C.おわりに
文 献
(2)日本母性保護産婦人科医会先天異常モニタリング
A.調査結果
B.まとめ
文 献
1
1
1
2
2
3
3
4
4
2.内分泌攪乱化学物質のヒト先天異常発生及び妊よう性に及ぼす影響に
関する研究
8
研究要旨
研究協力者
A.研究目的
B.研究方法
C.研究結果
D.考
察
3.内分泌攪乱化学物質の停留精巣発生に関する疫学的調査に関する研究
研究要旨
研究協力者
A.研究目的
B.疫学調査の方法
C.研究結果
D.考
察
E.結
論
F.文
献
G.研究発表
H.停留精巣調査質問用紙
I.RISKFACTERSforCRYPTORCHIDISM inVIEW
ofENVIRONMENTAL DISRUPTERS
8
8
8
8
9
10
13
13
13
13
14
15
16
16
17
18
18
18
4.泌尿生殖器への影響について
研究要旨
研究協力者
A.研究目的
B.研究方法
C.研究結果と考察
D.結
論
E.研究発表
5.先天奇形を指標とした環境モニタリング
研究要旨
研究協力者
A.研究目的
B.研究方法
C.研究結果と考察
1)奇形の発生動向
2)尿道下裂症例の概要
3)母親の疫学情報
4)住環境および嗜好について
5)飲酒・喫煙について
D.結
論
E.文
献
6.外因性内分泌攪乱化学物質と精巣癌の発生に及ぼす影響の研究
研究要旨
研究協力者
A.研究目的
B.研究方法
C.調査結果
1.回収率と登録患者数
2. 病理組織別特徴(表-1)
3. 病理組織別年次変化(表-2)
4. 出生地と現住所および治療医療機関の関係(表 -3)
5. 地域による羅患数の推移
D.調査結果の考察
1. 回収率と登録患者数
2. 病理組織別特徴
3. 病理組織別年次変化
4. 出生地と現住所および治療医療機関の関係
5. 地域による羅患数の推移
E.結
論
35
35
35
35
36
36
36
36
37
37
37
37
37
38
38
38
39
39
39
39
40
49
49
49
49
49
50
50
50
50
50
51
51
51
51
51
52
52
52
1.内分泌攪乱化学物質のヒトへの影響調査研究
横浜市立大学客員教授
神奈川県労働衛生福祉協会理事
住吉好雄
(1)総括
A.はじめに
内分泌撹乱化学物質の作用メカニズムとしては本来ホルモンが結合すべきレセプター
に化学物質が結合することによって、遺伝子が誤った指令を受けるという観点から研究
が進められて来た。内分泌撹乱化学物質がレセプターに結合して生じる反応には本来の
ホルモンと類似の作用がもたらされる場合と、逆に作用が阻害される場合などがある。
PCB や DDT,ノニルフェノール、ビスフェノール A などの化学物質のエストロジェン
類似作用は前者の例であり、化学物質がエストロジェンレセプターに結合することによ
ってエストロジェンと類似の反応がもたらされるといわれている。また最近では、ホル
モンレセプターに直接結合するのではなく、細胞内のシグナル伝達経路に影響を活性化
し機能蛋白の産生などをもたらす化学物質の存在も指摘されるようになった。たとえば
ダイオキシンはエストロジェンレセプターやアンドロゲンレセプターには直接結合し
ないが、ある種の細胞内蛋白質に結合することにより遺伝子を活性化し間接的にエスト
ロジェン作用に影響を与えるとされている。内分泌系の医療用薬剤は、ホルモンレセプ
ターに影響を及ぼすことによって作用を発揮するが、その中には本来のホルモンの作用
を増強する物質も存在する。たとえば DES はエストロジェンレセプターに結合し、エ
ストロジェンのシグナルを遺伝子に与え続ける結果、がん化、あるいは妊娠中であれば
胎児の奇形などがもたらされることになる。(1)
B.人への影響に関する影響調査
エストロジェン作用を撹乱する化学物質による人への健康影響に関する議論の原点は、
かつて多用された合成エストロジェンDESが乳癌などの悪性腫瘍などを引き起こす
という医学的に確かな知見がある。一方過去50年間において人の精子産生量が減少し
ているという1992年のデンマークの研究者による報告が出されて以来、わが国にお
いてもいくつかの研究がすすめられているが、現時点では最終的な結論を導くまでには
至っていない。そこで本研究班のなかで、岩本教授を中心に本問題の解決のために研究
がおこなわれている。一方フタル酸エステル類を多量に(0.3g/日)に投与したマ
ウスやラットでは精巣停留が生ずるとの報告、ビスフェノールAを飲み水に加えて(1
ug/l)暴露したラットの雄こどもに精子数の減少などの生殖機能障害が見られたとの報
告もあり、これらの点に関して高橋教授を中心に疫学調査が進められた。また前立腺が
−1−
んや精巣がんなどの発生については内分泌撹乱化学物質との関連で科学的議論が進め
られており本研究班のなかでも三浦部長を中心に疫学調査が進められている。
また内分泌撹乱化学物質への暴露によって性比が変化する可能性についても疫学班の
黒木院長を中心としたモニタリンググループと住吉を中心とした日母モニタリンググ
ループで検討がはじめられた。
また神奈川県子ども医療センターを治療のため受診した尿道下裂の患児 100 例につい
て胎生期母体環境、薬剤曝露など諸要因に関する検討が行われその中間報告がおこなわ
れた。
これら内分泌撹乱作用が疑われる化学物質には70種類以上の化学物質が上げられて
いるが、その中で年間の生産量が数万トンから数十万トンともいわれヒトへの暴露が多
いビスフェノールAについてヒト胎児への影響についてプロスペクテイブな研究が平
原教授グループで始められた。ビスフェノール類は広範囲の生物学的作用があることが
知られており、エストロジェン受容体に対し親和性をもつことが示されている。堤らの
報告(2)ではビスフェノールAは卵胞液中に1ng/ml存在し、初期胚発育率への
影響は1−3nMでは促進効果が、100uMでは抑制効果が見られたとしている。即
ちビスフェノールAの次世代影響として出生後の発育や性成熟の促進も報告されてい
る。
C.おわりに
内分泌撹乱化学物質のヒトへの影響については不明な点が多いが、特に生殖器への影響
を男性側と女性側に分けて考えると、男性への影響では、精子数減少、精子形成障害、
尿道下裂の増加、停留精巣、精巣がん、などが疑われており、女性への影響では乳癌、
子宮内膜症の増加、思春期早発、などが疑われており、特にこれらは胎児期の暴露が影
響すると考えられる点、妊娠初期、中期、末期、臍帯血中のこれらの化学物質の検出、
定量と児の異常、発育等との関連にかんする研究は人類の未来にもかかわる重要な研究
と考えられ、長期にわたる研究が必要である。
文献:
1)内分泌撹乱化学物質への環境庁の対応方針について−環境ホルモン戦略計画SPE
ED‘98,1998−5(2000年11月版)、環境庁
2)堤
治、環境ホルモンと生殖医療、第3回ない分泌撹乱化学物質問題に関する国際
シンポジウム、プログラム・アブストラクト集、32−33,2000
−2−
(2)日本母性保護産婦人科医会先天異常モニタリング
横浜市立大学先天異常モニタリングセンター
住吉好雄、平原史樹、山中美智子
日本母性保護産婦人科医会(日母と略す)では1972年から全国の約270の病院の
協力を得て先天異常モニタリングを実施しているが、今回は最近増加傾向の見られる4
疾患の推移ならびに主要な先天異常の男性/男性+女性 比を調べたので報告する。
A.調査結果
1)
表1は1972年から1999年までの調査対象数並びに奇形児数および奇形
児出生率を示したもので、対象児数は3,272,379名でそのうち奇形児
数は31,093名で頻度は0.95%である。1997年から8種類の心奇
形をマーカー奇形に加えたため頻度が1997年1.24、%、と上昇したが、
1998年、1.50%,1999年1.48%とほぼ同様の値をしめしてい
る。
2)
表2は1999年の主な先天異常を多い順番にならべた表である。1位は心室
中隔欠損の1万対15.5人 2位が口唇・口蓋裂の11.4人、3位がダウ
ン症候群の7.8、以下 水頭症6.6、多指症6.3、心房中隔欠損 6.
3、の順であった。
3)
図1は尿道下裂の推移で、1999年は1万対3.0と前年の3.5よりやや
減少したが依然高い水準を保っている。
4)
図2は水頭症の推移で、1万対6.6で、前年の7.48よりやや減少したが
依然有意の上昇である。
5) 図3は二分脊椎の推移で1985年、1993年、1995年に有意の増加が見
られたが、1999年にも4.0と有意の増加が見られている。
6) 表3は先天異常児の性比で、ダイオキシン、はじめ環境ホルモン類の影で男性比
が減少しているとの報告がある。そこで奇形の種類によって男女比が異なるかの
検討をはじめている。1999年一年間の主な奇形の種類について調べた結果で
は、全奇形では男性比0.54と男性がやや多い。男性比の高い奇形は外陰・会
陰0.65、四肢奇形
0.60、ダウン症候群0.58、口唇・口蓋裂0.5
4、心奇形0.52、の順で、男性比の低い奇形は胸・腹部0.40、気管・消
化管0.46、耳奇形0.48、頭部奇形は0.50と男女全く同数であった。
現在さらに過去に遡って検討中である。
−3−
B.まとめ
日母モニタリングで増加傾向の見られた4疾患(二分脊椎、水頭症、尿道下裂、ダウン
症候群)のうち二分脊椎のみは1999年も引き続き上昇をしめした。(1)
1997年から調査対象に入れた心奇形が高値を示しているが、1997年Croen
らは塵芥処理場から1/4マイル以内の地域に妊娠初期に居住していた母親から生ま
れた児にはそれ以外の地域の児に比べて心奇形が4倍、無脳症、二分脊椎などの神経管
欠損症が2倍多くみられたと報告しているが、ダイオキシン、環境ホルモンとの関係に
ついては明らかではない。
(2)
奇形種類による男女比では致死的な異常に男児が多いという傾向は1999年一年の
調査ではみられなかった。さらに症例数をふやして検討する予定である。
文献:
(1) 平成 11 年度 外表奇形等統計調査結果、日本母性保護産婦人科医会、平
成 12 年 11 月刊行
(2) CroenLA,ShawGM,et al . Maternal residential proximity to
hazardous waste sites and risk for selected congenital malformations. Epidemiology 1997;8(4):337-339
−4−
表
3
先天異常児の性比(男/男+女)
(1999)
全異常
男
0.54
頭部(水頭症、小頭症、無脳症、脳瘤、髄膜瘤)
男
0.50
心臓(動脈管開存、大血管転移、大動脈狭窄、
心室中隔欠損、心房中隔欠損、ファロー
四徴、左心低形成、その他)
男
0.52
口唇・口蓋・口腔
男
0.54
四肢(多指症、合指症、欠指症、欠損、短肢症
他)
男
0.60
耳(小耳、耳介変形、耳介低位、耳介欠損他)
男
0.48
胸・腹部(臍帯ヘルニア、腹壁破裂、胸筋欠損、
その他腹壁欠損)
男
0.40
気管・消化管(食道閉鎖、食道狭窄、直腸閉鎖、
直腸狭窄、肛門狭窄、十二指腸・小腸閉鎖、
腸回転異常、胆道閉鎖他)
男
0.46
外陰・会陰(鎖肛、肛門異所開存、尿道下裂、
二葉陰嚢、陰核肥大、鎖陰、膀胱外反症、
腎欠損・形成不全、嚢胞性腎奇形他)
男
0.65
ダウン症候群
男
0.58
−6−
2.内分泌攪乱化学物質のヒト先天異常発生及び妊よう性に及ぼす影響に関する研究
研究班主任
住吉 好雄(横浜市立大学医学部客員教授)
研 究 者
平原 史樹(横浜市立大学医学部教授)
【研究要旨】
先天異常サーベイランスによる調査手法を用いて本邦における先天異常の検討をおこなった。
また、これら内分泌攪乱化学物質(いわゆる環境ホルモン)を含む有害因子の存在につき検討を試
みるため、妊娠女性の血中、尿中内分泌攪乱化学物質の測定をおこない、さらに一部の症例では
臍帯血中の測定もあわせておこない検出を試みた。
【研究協力者名簿】
氏 名
所属施設名
職 名
備 考
───────────────────────────────────────────
平原 史樹
横浜市立大学産婦人科
教 授
高橋 恒男
横浜市立大学市民総合
助教授
医療センター母子医療センター
山中美智子
神奈川県立こども医療
科 長
センター周産期科
森
千里
千葉大学医学部
教 授
───────────────────────────────────────────
A.研究目的
内分泌攪乱化学物質(いわゆる環境ホルモン)が内分泌機構を撹乱することにより、ヒトの生殖機能、
先天異常発生、疾病の誘因などに関与している可能性が指摘されていることから、環境因子中の有害
因子との関連性を明らかにすることを目的に本研究は計画された。さらに本邦妊娠女性における内分
泌攪乱化学物質(いわゆる環境ホルモン)の血中、尿中、臍帯血中の測定をおこない、そのそれぞれ
における存在レベルの検討をおこなった。
B.研究方法
日本母性保護産婦人科医会(日母)外表奇形等調査による先天異常発生状況を検討した。対象は
在胎週数満22週以降の出産児の、出産後7日以内に確認された外表奇形であり、日母外表奇形等調
査表による検討をおこなった。
横浜市立大学医学部附属病院、横浜市立大学医学部附属市民総合医療センター母子医療センターに
おいて、妊娠初期より本研究内容に文書により同意・承諾した女性を対象に血液、尿、分娩時臍帯
血を採取し、ELISA法(大塚アッセイ)を用いて内分泌攪乱作用が疑われる化学物質(ビスフェノ
ールA、ノニルフェノール)を測定した。また、生活環境に関するアンケート調査をあわせて行っ
た。
−8−
C.結果
日本母性保護産婦人科医会(日母)では、全国レベルで先天異常モニタリングを病院ベースでの
調査により実施しているが、1999年1月から12月までの間にモニタリングされた出産総数90,378例
における調査からは、奇形児出産頻度は1,363児1.48%であり、例年の先天異常児の発生率と
比較し、心室中隔欠損が最も多く、ついで口唇・口蓋裂、ダウン症、水頭症、多指等が高頻度発生
異常であった。また妊娠中に診断される先天異常症例が増加しており、1999年度の症例におい
ては全1,363児のうち、513児(37.6%)が出生前に判断されている。従来の調査に比し
若干の頻度上昇がみられたがこれらの頻度上昇は、新たに加えられた心奇形マーカー報告の増加が
関与している可能性が高く、ここ数年間の動向をみると、ダウン症、水頭症、に増加傾向が認めら
れている。
一方、今回の研究内容に同意・承諾した妊娠女性310名の血液、尿(初診時、36週、分娩時)
及び分娩時臍帯血を採取し、ビスフェノールA、ノニルフェノールの測定が終了した下記の検体に
おける結果を示す。
<妊娠女性検体の内分泌攪乱化学物質の測定結果>
総検体数
内訳 妊娠女性血液・尿
分娩時臍帯血
572
472
100
1.妊娠女性血液中ビスフェノールA
平均±標準誤差
0.494±0.015 ng/ml
(n=314)
測定感度未満検体
7.4%
(n=25)
2.妊娠女性血液中ノニルフェノール
平均±標準誤差
114.97±5.29 ng/ml
(n=100)
測定感度未満検体
0%
(n=0)
3.妊娠女性尿中ビスフェノールA(クレアチニン補正)
平均±標準誤差
0.530±0.098 ng/ml
(n=14)
測定感度未満検体
57.6%
(n=19)
4.分娩児臍帯血血中ビスフェノールA
平均±標準誤差
0.905±0.115 ng/ml
(n=100)
測定感度未満検体
0%
(n=0)
−9−
<生活調査>
有効回答数 133例
1.就労状況
勤労女性 36名
家事
97名
2.食生活
肉>魚の食生活者 68名
魚>肉の食生活者 37名
野菜を多く取る者 79名
との結果が得られているがいずれの症例も分娩にまで到った完結症例にはまだなっていないため、
調査結果の分析は中間的なものである。
D.考察
日母調査における先天異常児の発生状況は1999年度のモニタリング集計分析
からも例年の結果に比し多少増加傾向を示したが、1997年より新たに心奇形マー
カーを調査項目に加えたこともあったため、これらの心臓の先天異常の報告が従
来に比し増加し、結果として全体の奇形率の若干増加となったものと思われる。
しかしながら、これらの変動が調査手法の変更による人為的なものか、真の増加
かを十分慎重に見極める必要があり、さらに監視体制を整え追跡する必要がある
と考えられた。
一方、尿道下裂についてはいわゆる環境ホルモンとの関連性が話題となってい
るが日本母性保護産婦人科医会先天異常モニタリングでもここ2-3年の増加傾向
がみられており、今後慎重な調査・監視体制(先天異常以上モニタリング体制)
の維持が必要と考えられた。その一環として、今回検討された妊娠初期女性の 内
分泌攪乱化学物質(いわゆる環境ホルモン)の測定ならびにその解析は決して短期
的には結論は求められない性格の研究といえるがきわめて重要と考察された。
今回の血中、尿中の内分泌攪乱化学物質(いわゆる環境ホルモン)の検出は一般
的な女性のレベル測定値とみることができるが測定感度以下の症例もある一方で、
若干高めにでた値の場合もみられ、個々のデータには変動範囲がみられた。また、
臍帯血では、やや、高めにデータが示されたが、検体数も少なく、このデータか
らの判断は困難とおもわれた。
生活調査では現在、研究対象症例が妊娠継続中にて調査追跡中であり、まだ必
ずしも全体像はえられていないが、本邦一般女性 の傾向を示しているといえよう。
いずれにせよ、現代の環境をとりまく多種多様な因子はいつどのような形で催
奇形因子として影響を与えることになるか常に万全の監視体制を整えることが重
要である。過去にサリドマイドという薬害の悲劇を味わった我々には先天異常モ
ニタリング、さらにはサーベイランスは極めて重要なことであり、今後も厳重な
監視を行うこととしたい。
−10−
(業績報告)
1)春木篤、茂田博行、石川浩史、安藤紀子、平原史樹、高橋恒男、植村次雄、
水口弘司、山中美智子:人魚体シークエンスの一例 日産婦神奈川会誌
35(2):40-44、1999.
2)中野眞佐男、内田伸弘、奥山大輔、可世木久幸、見常多喜子、小林圭子、
関谷隆夫、鈴木真、田口明、中村英世、萩庭一元、平原史樹、吉原一、
住吉好雄、安達健二、浜田宏:新生児クレチン症検査におけるヨード含有消毒
剤の影響
日産婦神奈川会誌
35(2):58-60、1999.
3)Uehara S, Yaegashi N, Maeda H, Hoshi N, Fujimoto S, Yanagida K,
Yamanaka M, Hirahara F, Yajima A: Risk of recurrence of fetal
chromosomal aberrations: analysis of trisomy 21, trisomy 18, trisomy
13, and 45, X in 1, 076 Japanese mothers. J Obstet Gynaecol Res, 25:
373-379, 1999.
4)Kondoh Y, Uemura T, Ishikawa M, Yokoi N, Hirahara F: Classification of
polycystic ovary syndrome into three types according to response to
human corticotropin-releasing hormone Fertility and Sterility
72 (1):15-20, 1999.
5)平原史樹:先天異常について まだ見ぬわが子のために −親としてできるだ
けのことをしたいという気持ちからー 六法出版社 86-109 1999.10.
6)平原史樹:神経管奇形(神経管閉鎖不全―NTD)の発生と動向
センター医学誌 28 (4) 別冊 193-196 1999. 10.
こども医療
7)平原史樹、住吉好雄、鈴木恵子、松本博子、山中美智子、田中政信、本多洋、
坂元正一:本邦における先天異常発生の状況とその推移 日本小児臨床薬理学
会雑誌 12(1)64-66 1999.
8)He D, Mitsushima D, Uemura T, Hirahara F, Funabashi T, Shinohara K,
Kimura F: Effects of naloxone on the serum luteinizing hormone level
and the number of Fos-positive gonadotropin-releasing hormone neurons
in immature female rats. Brain Research, 858: 129-135, 2000.
9)阿部一樹,多賀理吉,平原史樹,加藤尚彦:マウス卵および着床前胚における
神経細胞特異的一酸化窒素合成酵素の発現とその機能.日本受精着床学会雑誌,
17:92-95,2000.
10)Inayama Y, Shoji A, Odagiri S, Hirahara F, Ito T, Kawano N,
−11−
Nakatani Y: Ditection of Pulmonary Metastasis of Low-Grade Endometrial
Stromal Sarcoma 25 Years After Hysterectomy. Pathol. Res. Pract., 196:
129-134, 2000.
11)平原史樹: IUD.産婦人科の実際,49(11),1537-1544,2000.
12)平原史樹:中高年女性のQuality of life (QOL).産婦人科治療,81(6),
632-637,2000.
13)安藤紀子,澤井かおり,平吹知雄,平原史樹:流産(とくに習慣流産)と遺
伝カウンセリング.産婦人科の実際,49(13),1971-1979,2000.
14)平原史樹,住吉好雄,山中美智子,鈴木恵子,松本博子,田中政信,
朝倉啓文,大村浩,清川尚,坂元正一:環境ホルモンと先天異常.環境ホルモ
ン共同研究プロジェクト平成11年度報告書:12-21,2000.
−12−
3.内分泌攪乱化学物質の停留精巣発生に関する疫学的調査に関する研究
研究者 高橋 剛
(聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院 泌尿器科 教授)
【研究要旨】
胎児期テストステロンにより発生、下降が誘導される男性性腺、外生殖器は内分泌攪乱化学物
質による影響が最も予想されるところである。そのうち停留精巣は小児で比較的頻度の高い疾患
であるので、疫学的調査が世界規模で行われつつある。現在までの情報では本疾患が 1980 年代を
ピークとして増加したとの報告がイギリス、アメリカより出されている。動物実験ではダイオキ
シンを胎児に投与し停留精巣の発生をみたとの報告がある。しかし今までのところ内分泌攪乱化
学物質がヒト先天性奇形を発生させたとの因果関係をはっきりと証明づける報告はない。本邦で
のこの疾患に対する疫学調査は行われたことはないので3歳未満の男児を対象として全国調査を
行った。
【研究協力者】
・ 岩本 晃明
(聖マリアンナ医科大学)
・ 西田 茂史
(聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院)
・ 武村 宏
(聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院)
・ 伊津野 孝
(東邦大学医学部)
A.研究目的
胎児精巣は胎生8週ごろよりテストステロンの分泌をはじめる。後腹膜腔に位置している精巣
は下極部と鼠径部との間に精巣導帯を形成するが、胎生5ヶ月頃には導帯先端が陰嚢底部に到達
する。この導帯の肥厚と収縮によって精巣の下降が進行するが、これも胎児テストステロンの作
用による。下降経路は後腹膜に沿って内鼠径輪に達し、鼠径管を通って外鼠径輪をでて、陰嚢底
部に終着するのが正常である。この下降には緩急があって、胎生 10 週から 20 週にかけて内鼠径
輪の近くまで下降するが胎生 30 週まではその位置にとどまり、腹腔内精巣の状態となっている。
30 週以後に陰嚢底にむけて下降するが、最終位置に到達するのは出生直前である。この下降がな
んらかの原因で阻害されると停留精巣が発症する。臨床的には停留している位置によって腹腔、
鼠径管内、外鼠径輪部、移動性、異所性精巣などに分類される。
早産児には頻度が高く 30%ぐらいにみられることが従来より知られている。新生児全体での発
生率は 3.4%ぐらいである。残念ながら本邦での発生頻度についての全国的な疫学的調査は今まで
行われてこなかった。
−13−
正常な精巣の下降には当然正常の胎盤、胎児内分泌機能が必須である。反面この機能が働かな
かったり乱されたりすることになれば異常な発生がおこることになる。これらのリスクファクタ
ーとしては本来の内分泌不全のほかに外的物質により内分泌機能を攪乱したり正常作用を阻害す
る場合が考えられる。
とくに停留精巣の発症は 30 週までになんらかの外的要因がはたらいた場合、
発症の可能性がでてくる。
リスクファクターの一つとして胎生 30 週までに抗テストステロン作用
をもつ内分泌性の物質が外的環境下に存在した場合、停留精巣がおこり得るとの推論がなされ、
これについてさまざまな内分泌攪乱化学物質がさかんに検討されることになった。
これに関する動物実験としては、胎仔豚に直接ダイオキシンを投与し停留精巣を発症させた。
との報告があり、これと内分泌攪乱化学物質との関連性が考えられている。しかし人類生活圏で
の調査は社会的、倫理的影響が大きいことや、生活域の差異も関連して数年間で結論を求めるこ
とはできない。これらはサーベイランス調査や、疫学調査、リスクファクターの検索など膨大な
資料からいずれ引き出されるべきものと思われる。
1940 年代より 1970 年はじめまで流産予防に投与された DES(ジエチルスチルベステロール)投
与の母親から生まれた子には停留精巣が有意に発生するといわれている。同様に経口エストロジ
ェン剤が停留精巣を発生させるとの可能性もいわれているが妊娠初期の服用では男児外陰部奇形
発生と相関がみられなかったという報告もある。
以上のように発育段階の胎児男性性腺・生殖器に対して内分泌攪乱化学物質が影響を与えるこ
とがあれば、もっとも発見されやすい外表奇形として気づかれるはずである。しかし意外とこの
分野は未調査で判明していないことが多く、データが錯綜しているのが現状であることが判明し
た。そこで内分泌攪乱化学物質が男性性腺・生殖器の発生に影響した場合、臨床的に頻度が高く
発生学上理論的にもっとも発症する可能性の高い停留精巣について疫学的な見地から疫学調査を
立案した。
B.疫学調査の方法
調査は患者の両親による自記式郵送による返送方式をとった。まず、日本小児泌尿器科学会員
のうち外科系学会員の所属する 71 施設を協力施設とした。
この協力施設を拠点とし担当医から患
者両親に調査質問用紙を手渡すようにした。両親は家庭に持ち帰り無記名で記入の上他人の目に
触れることなく密封し郵送にて事務局に返送されるという手順のアンケート調査システムを設定
し質問 23 項目の調査質問用紙を作製した。対象年齢は 3 才未満までとした。このような要項で調
査期間を1年間とし、平成 12 年度に調査を実施した。
(倫理面への配慮)
本調査は担当医から患者家族へ質問用紙が手渡されるが、その後の個人情報は保護されるよう
にした。質問内容で個人を特定出来るものはなく、回答の有無も担当医には知られないため、何
ら不利益をこうむることはない。手渡す現場でも調査は任意であることを明言し、返送は事務局
への郵送であるのでここでも任意的になるようにしている。統計解析上では個人を特定出来るデ
ータは項目にない。
−14−
C. 研究結果
1) 調査拠点、調査用紙回収数、回収率
調査拠点施設は 72 カ所(病院)で全国に分布するように配慮した。一施設当たり調査用紙
20 部を配布(計 1440 部)
、660 部を事務局で予備として保有した(総計 2100 部)
。最終的に各
施設から患児家族に手渡し配布したのは総計 595 部、家族より郵送により事務局に返送された
のは 170 部であった。このうち個人情報保護違反(施設よりまとめて返送)
、年齢制限超過(3
歳以上)を欠格として除いたところ 128 件が解析対象となった。よって粗回収率 28.5%、有効
回収率 21.5%となった(図 1)
。
2) 初診時精巣位置
初診医による停留部位の判定を集計した。
患側別では右45%、
左 36%両側 19%の比率であった。
停留位置についてはソ径管内が最も多く(53%)
、ついで外ソケイ輪部(24%)
、非触知(20%)の
順であった。非触知のなかでは左側例が多かった(表 1)
。
3) 出生時体重、身長
出生時体重は平均 2868 グラム(796∼3950 グラム)で最多帯は 3000∼3499 グラムであった。
これは尿道下裂統計よりも1段階高く全国平均値に近い。身長は平均 48.1 センチ(31∼53 セ
ンチ)であった(図 2,3)
。
4) 出生時妊娠週
出生時妊娠週数は平均 38.7 週(26∼49 週)であった。最多帯は 35∼39 週(52%)で満期産
(24%)を上回り、やや早期産傾向がみられた(図 4)
。
5) 単胎、多胎別
単胎出生が最も多く(95%)
、多胎は双生児が 5 件、三つ子が 1 件であった(図 5)
。
6) 同朋、親族の疾患保有
同朋や父で停留精巣を持っていた例は 3 件(2%)のみであった(図 6)
。
7) 合併疾患
合併疾患をもつものは 26 人(20%)にみられた。その内訳は心疾患 4 件、尿道下裂 2 件、口
唇口蓋裂 2 件であった。先天性ではないがアトピー性皮膚炎(5 件)の回答があった(図 7)
。
8) 妊娠前の服薬
妊娠前服薬のなかでホルモン剤、ピル剤の服用は 17 件(13%)であった(表 2)
。
9) 妊娠中の服薬
流産防止薬、風邪薬を服用した例が多くそれぞれ 33 件(26%)であった(表 3)
。
10) 妊娠時の労働
妊娠中に仕事に従事していた母は 128 人中 55 人(43%)であった(表 4)
。
11) 妊娠中の検査
妊娠中の検査としてはレントゲン検査をうけた母が 20 人いるがその妊娠時期については不
明である(表 5)
。
12) 出生時の父母の年齢
父:20∼49 歳、母:18∼44 歳にわたる。
父で最も多いのは 30∼34 歳、母は 25∼29 歳であり、特に高齢傾向はみられない(図 8)
。
13) 父母の職業
父では 128 人中、自動車の運転に従事 9 人、医師 4 人がみられた。
母では、128 人中、主婦 83 人、看護婦 7 人がみられた。
−15−
14) 父母の住居、職場の環境
父では、化学工場、焼却場に近隣、が 33%。母では、22%にみられた(表 6)
。
15) 食事傾向、喫煙
父は肉(58%)野菜(27%)インスタント食品(25%)魚(20%)の順に主食傾向がみられた。
母は野菜(44%)肉(42%)魚(30%)インスタント食品(17%)の順に主食傾向がみられた。喫
煙率は父で 55%、母で 13%であった(図 9)
。
16) 居住地
父母が最も長く住んでいる住所県は神奈川県 34 人、宮崎県 18 人、石川県 17 人、愛知県 16
人、京都府 13 人、兵庫県 12 人などであった(図 10)
。
D. 考察
今回の調査項目のうち精巣位置については担当医が記入し、他はすべて本症患児の父母が記入
したものである。
集計結果を概観してみると 23 項目の質問には不必要なものはなかったが、
職業や居住地などは
細かく特定する回答にすることは出来なかった。
本症は未熟児に多いとされているが、今回集計結果からは、やや早産傾向がみられるのみで低
体重傾向はみられず、多胎児の率も高くなかった。また、合併疾患として尿路性器系のものの率
も高くなかった。
妊娠に影響を及ぼす時期の服薬率は高くなかった。父母の年齢は標準的で特に高齢や低年傾向
はなかった。
居住環境では化学工場、ゴミ焼却場に近いとの回答が 22 33%にみられたが汚染を受けている可
能性については不明である。
食事傾向として、父は肉食傾向、母は菜食傾向がみられたが、魚を多くとる傾向はみられてい
ない。
E.結論
今回集計結果からは本症患児および父母について妊娠歴、出生時計測、父母の食事、服薬、職
業に特異なものはみられなかった。このことから本症児に内分泌攪乱化学物質を含む環境要因が
影響している可能性は非常に低いと考えられた。
−16−
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西田茂史、
山川克典、
岩本晃明:内分泌攪乱化学物質の男性性腺・生殖器への影 響。
産婦人科の実際 49(8)1081∼1088,2000
学会発表 なし
H.停留精巣調査質問用紙
お子様に関するアンケート調査質問表
I.RISK FACTERS for CRYPTORCHIDISM in VIEW of ENVIRONMENTAL DISRUPTERS
Takeshi TAKAHASHI
Department of Urology,
ST,MARIANNA UNIV. Yokohama City SEIBU Hospital
Purpose: We studied risk factors for cryptorchidism.
Materials: We performed a register based, case control study of 128boys with
cryptorchidism under 3 years old born in Japan. On these boys, birth weight, weeks of
gestation, maternal history of still birth, twin birth, parental age, professional status,
diet and other abnormalities in an individual, in older brothers or in his father were
calculated and analyzed statistically.
Results: The risk of cryptorchidism increased with decreasing weeks of gestation.
Birth weight was not found to be significant. There were no tendency about the diet of
parents.
−18−
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