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ベルギー租税法・国際租税法の最近の展開

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ベルギー租税法・国際租税法の最近の展開
ベルギー租税法・国際租税法の最近の展開
弁護士
フィリップ・マレルブ
はしがき 本稿は,平成24年 6 月12日に
1 - 1 持株会社にかかる課税について
IFA 日本支部と租研(国際課税委員会及び会
ここでは持株会社(ホールディングカンパ
員懇談会)との共催で行われた,弁護士 フィ
ニー)という言葉を使っていますが,ここでの
リップ・マレルブ氏による『ベルギー租税法・
持株会社の意味するところは,ほかの会社の株
国際租税法の最近の展開』と題する講演の内容
式を保有することが,その会社の主な活動であ
をとりまとめたものである。尚,当日の配付資
るということです(資料⑦)
。
料を,本文末尾にまとめて添付している。
ベルギーにおいて,標準法人税率は33.99%
です。財務大臣が何としても34%以下の税率に
ます。
日本租税研究協会,そして IFA 日本支部に
持株会社の所得としては,最初に子会社から
おかれましては,今回,このような合同セミ
の受取配当益があげられます。この場合の配当
ナーを開催していただきまして,本当にありが
は,最高95%まで課税が免除されます。つまり
とうございます。
100の配当を受領した場合には,課税される所
本日のプレゼンテーションは 2 部構成となっ
得は 5 になるということです。配当 5 に対して
ており,第 1 部で簡潔にベルギーの話をしまし
33.99%が税率ですから,約1.7%の実効税率と
て,第 2 部でヨーロッパの話をしたいと思いま
なります。
す。それでは,お配りしてある資料に沿って進
この制度を利用するためには, 2 つの条件が
めてまいります。
あります。第 1 の条件は,既に課税されている
会社の利益から発生した配当でなければならな
1 .ベルギー
いということです。基本的な考え方が二重課税
を予防するということなので,配当を受け取る
ベルギーについては, 3 つの側面から見てい
前の段階で,課税されていなければならないと
きたいと思います。まず 1 つめは Holding re-
いうことです。
gime です。株式を保有した場合に,どのよう
第 2 の条件としては,保有されている株式が
な課税になっているかを見ていきます。 2 つめ
対象となる子会社の株式の10%,或いは金額で
は資本にかかる名目利子控除の話, 3 つめが特
250万ユーロ以上なければなりません。さらに
許所得にかかる所得控除についての話です(資
その株式を 1 年以上保有している必要がありま
料⑥)。
す。
租 税 研 究 2012・8
411
国際課税
しておきたいということでこの税率になってい
国際課税
配当に続いての持株会社の所得の第 2 の要素
企業の資金でもって保証が付いている融資も含
としては,株式売却益があります(資料⑧)
。
まれます。
株式を売却したときの,キャピタルゲインは税
支払われた利息には21%の源泉税が掛かりま
制上非常に優遇されています。株式の売却益に
す。この税率は,日本とベルギーの二国間租税
ついては,税金が100%免除されます。ただし,
条約の下では15%に制限されています。さらに,
気を付けなければならないのは,売却のために
皆さまがベルギーの会社に融資をしても,源泉
発生した費用は免除されないということです。
税が掛からないような形にすることができる一
その売却費用の中には,例えばタックスアドバ
方的な適用免除(ウェーバー)がたくさんあり
イザーに支払われた手数料が含まれます。そし
ます。
て,それ以外の経費も含まれます。
持株会社が利益を出した場合,次に配当を分
この優遇措置を受けるための条件は,先ほど
配します。企業にとっての朗報としては,多く
の配当の場合と同様,第 1 に,自分が売却した
の場合において支払われた配当については,源
株式の会社そのものに,通常の課税が行われて
泉税が掛からないということです(資料⑩)
。
いなければならないという点です。
なぜこのようなことになっているかというと,
第 2 に,株式保有について最低何%という規
これはベルギー税法において一方的に譲歩がな
定はありません。わずかな株数の保有であった
されているためです。つまりベルギーが租税条
としても,株式売却益は100%税金免除が受け
約を結んでいる国との配当の支払については,
られます。ただし,売却前に 1 年間以上は保有
一定の範囲で源泉課税を放棄するという規定が
していなければならないという条件があります。
置かれています。ただ,そこには「その条約を
そういった条件が満たされない場合には,標準
執行するだけではなく,国内法を適用するため
税率よりは低いのですが,税率25.75%が掛か
にも情報を交換する規定がその条約の中に含ま
ります。
れている場合には」というただし書きがありま
次に,持株会社が支払った利子の問題があり
す。
ます(資料⑨)
。支払利子というのは,基本的
ベルギーと日本の租税条約の中には今申し上
には100%損金算入が可能です。特にベルギー
げた規定があるわけですが,例えば,スイスと
では株式保有のための借入金の利息であったと
ベルギーの租税条約の中にはありません。この
しても,損金算入が可能となっていますが,こ
適用除外を受けていくためには,日本の外国親
れはヨーロッパの他の国々の株式保有の制度に
会社がこの会社に対して,少なくとも 1 年以上,
比べて,より優遇的なものです。
10%以上の株式を保有していなければなりませ
一方,支払利子についての制約としては,過
ん。そうでない場合には25%の源泉税が掛かり
少資本ルールの適用があります。借入金が資本
ますが,日本とベルギーの租税条約によって,
の 5 倍を超えた場合には,その利子を損金算入
25%が15%に軽減されています。
することはできません。さらにこの過少資本
ルールが適用されるものとして,そのローンが
1 - 2 資本にかかる名目利子控除について
オフショアのエンティティから出されたもの,
それでは次に,ベルギー租税法の非常に特徴
つまり,タックスヘイブンにある会社から貸し
的な部分である「資本にかかる名目利子控除」
出されたものである場合,或いは他のグループ
について,お話をしていきたいと思います(資
会社からのローンであるという場合があげられ
料⑪)
。
ます。なお,このグループ会社からのローンと
基本的な考え方は資本を借入のように扱う,
いった場合には,銀行からの融資で,グループ
エクイティをデッドのように扱うということで
412
租 税 研 究 2012・8
す。そして資本から名目利子として 3 %を控除
1 - 3 特許所得控除
するというものです。対象となる資本の金額は,
最後のベルギー関連のテーマですが,恐らく
帳簿上のエクイティ(資本金)と内部留保の合
日本の皆さまにとっては興味深いものだと思い
計額です。
ます。いわゆる特許所得に関する,80%の控除
その対象金額から除外をしなければならない
の話です。ということは,特許所得が100あっ
若干の項目があります。最も重要なのが,いわ
たとします。その100のうちの20に対して税金
ゆるダブルディップ(二重控除)を防止するた
めの項目です。資本金の中から,他の会社の保
が掛かるので,実効税率は約6.8%となります
(資料⑭)
。
有している株式の金額を除外します。そして,
特許所得という場合に,ロイヤルティが含ま
もう 1 つ重要なのは,外国の PE(恒久的施設)
れます。それに加えて,製造した製品を直接販
のバリュー(価値)を除外することです。
売した場合には,ロイヤルティに相当する販売
この制度が,タックスプランニング上どのよ
価格の部分が特許所得としてみなされます。
うに利用できるのかということですが,まず出
控除に関しての条件は,まず特許があるとい
発点として,親会社 A と子会社 B があります
うことです。そしてその特許が分離した研究セ
ンターで開発或いは改良されたものでなければ
(資料⑫)。
金額10,000というローンを子会社に出したい
ならないのが条件です。ですからベルギーの企
と親会社は思っています。しかし融資をするの
業だけではなく,多くの外国の多国籍企業の関
ではなく,親会社はベルギーに C という会社
連会社が,今やオフショアではなく,ベルギー
を設立します。資本金額は10,000です。この子
に特許を置くことになってきているわけです。
します。そのときの金利を3.5%とします。
2 .ヨーロッパ
それではこのようなプランニングの効果がど
のようなものかを見ていきます(資料⑬)
。ま
それでは次に,大きな項目の 2 つめ,ヨー
ず子会社 B が10,000の3.5%であるところの350
ロッパ全体について見ていきます。ここでも,
を控除します。この子会社 B の国の税率が例
3 つのテーマに分けております(資料⑮)
。
えば30%であったとします。そうすると,この
まず第 1 に,現在の EU における租税上の取
350に掛かる30%の税金を節税することができ
り組み(タックス・イニシアティブ)はどう
ます。それは金額にすると105という額になり
いったものがあるか,第 2 に,EU がどのよう
ます。
に租税回避に取り組もうとしているか,第 3 に,
もちろん子会社 C が受領した350は,課税対
興味深い最近の幾つかの判決の例を見ていきた
象です。しかしそこから,名目利子として300
いと思います。
を引くことができます。課税ベースは50となり,
そして支払う税金は17となります。実効税率は
2 - 1 EU の租税上の取り組み
350に対するところの17になるので,4.86%と
まず最初に,EU の現在の取り組みについて
なります。
です(資料⑯)
。
そこで全体としてどれだけ節税できたかとい
ご存じのように EU というのは, 1 つの国家
うと,105-17=88ということで,88が節税さ
ではありません。そういう意味でこの租税の問
れた大きさです。これにもう少しゼロを幾つか
題は,非常に機微に触れる問題です。なぜなら
付けていくと,非常に興味深くなってくると思
ば,EU レベルで租税上の取り組みをやろうと
います。
思った場合に,それは加盟国の主権を制限しよ
租 税 研 究 2012・8
413
国際課税
会社 C が子会社 B に対して,10,000の融資を
国際課税
うとしているのではないかと見られる可能性が
ことです。ということは,EU レベルで完全な
あるからです。
税法典を定義しようということになります。
そこで加盟国は EU に対して Subsidiarity,
現在欧州委員会が提出した原案が欧州議会に
つまり補完性の原則を適用するように求めます。
よって既に採択され,承認されています。しか
本当に必要性があるときにしか,EU は介入し
し欧州閣僚理事会の承認が,今後必要とされま
てはならないという原則です。さらにそれらの
す。しかも,それは閣僚の全会一致の了承を受
問題が加盟国レベルにおいて,適切に対処でき
けなければなりません。
ない場合に限って介入するということです。
この課税標準の定義ですが,受取配当益と株
また,このいかなる租税上の取り組みも,欧
式売却益,及び EU 域外にある恒久的施設から
州閣僚理事会の全会一致の賛同がなければ,導
の利益を除いて,すべての所得ということにな
入することができないという原則があります。
ります(資料⑱)
。
これに関しては,EU における小規模の国も含
すべての所得が課税対象となりますが,すべ
めてすべての加盟国が拒否権を持っています。
ての事業上の経費が控除可能です。その事業上
租税上の取り組みの重要な背景の 1 つに現在
の経費というのは,主に R & D(研究開発費)
,
の経済情勢があります。まず第 1 に,アメリカ
金利の控除,固定資産に関する減価償却費であ
のサブプライムローン問題に端を発した金融危
り,ある一定率までの慈善団体への寄付も,控
機の問題です。第 2 に今般のソブリンデット,
除が可能です。従って企業が寄付をすることに
欧州債務危機の問題です。そういった危機があ
よって良き市民になるように,それを進めよう
るが故に,それぞれの加盟国がその結果として,
という考え方がここにはあります。
税務当局に対して,問題解決への参加を求めて
当然認められない経費もあるので,それらに
いるということです。
ついてのリストもあります。そうでなければ,
ご存じかどうかはわかりませんが,EU は既
タックスアドバイザーのやる仕事がなくなって
に租税上の取り組みを始めています。その目的
しまうことになります。
はいわゆる統一市場,域内市場を実現すること
もう 1 つ,損失の繰越は無期限であるという
です。その中には親会社・子会社指令が含まれ
規定があります。このように課税対象となる所
ていますし,関連会社間の利子及びロイヤル
得については,かなりバランスの取れた定義が
ティに関する指令,合併指令もあります。
な さ れ て い る と 思 わ れ ま す。 し か し な が ら
これらの指令の目的は,すべて域内市場の機
CCCTB の革新的なところは,課税対象となる
能を改善することにあります。多国家からなる
所得の定義ではなく,すべてのグループ内の企
EU を 1 のグループに形成することによってそ
業が,連結ベースで課税対象となることです。
れを達成しようとしています。つまり,税金上
グループ企業で課税対象になるかを決める基
の問題を発生しない形でやろうとしています。
準は,どのぐらいの持分を持っているかという
現在進行中の 2 つの取り組みがあります(資
ことです(資料⑲)。親会社はその連結対象会
料⑰)
。まず第 1 に共通連結法人税課税標準
社の,少なくとも75%の株式と,50%以上の議
(CCCTB:Common Consolidated Corporate
決権を保有していなければならないという基準
Tax Base)
,第 2 に金融取引税(FTT: Finan-
です。そのような保有部分が確定しますと,親
cial Transaction Tax)です。この CCCTB の
会社と子会社の利益を合算して,連結で計算し
目的も,多国家からなるグループを支援すると
ます。
いうことで,EU において,法人税に関する共
納税者にとってのメリットは 3 点あります。
通課税ベース,共通課税標準をつくろうという
まず税のルールが 1 種類にまとまることです。
414
租 税 研 究 2012・8
各加盟国単位で異なる27の税金の規則ではなく,
はいろいろな加盟国の間で配分されることにな
1 つにまとまるということです。次に申告書が
ります。配分する場合には, 3 つのキーに従っ
簡略化されることです。例えば EU27カ国で,
て行います(資料)
。
それぞれの国において10ずつ子会社を持ってい
まず 1 番目のキーは,労働に関する要素です。
ると270になると思いますが,それだけの数の
その労働キーは, 2 つのサブキーに分かれてい
申告書を出す必要がなく, 1 つの申告書でいい
ます。 1 つは従業員数で,この場合には賃金が
ということです。さらに税務当局に関しても,
より低い国々を優遇します。もう 1 つは,ペイ
1 つの当局と話をすればいいことになります。
ロール(賃金総額)に関するものです。
つまり,親会社がある所の税務当局と話をすれ
2 番目のキーは,資産です。その中に含まれ
ばいいということです。
るのは,有形固定資産です。そこから無形資産
さらにグループ企業間で発生するような 3 つ
と金融資産は除外されています。なぜなら,こ
の問題を,CCCTB によって排除することがで
の 2 つの資産は,人為的に場所を変える(リロ
きます。第 1 に,これ以上配当や株式売却益に
ケート)することが容易であるからです。
関する経済的な二重課税はなくなること。第 2
3 番目のキーが売上,つまり売上を立てる場
に,EU 域内において今後は移転価格の問題が
所ということになります。
もう発生しなくなるということ。そして第 3 に
このそれぞれのキーに従って,利益の 3 分の
1 を配分していきます。そしてそれぞれの国で
しているのに,利益を上げている子会社には課
自分たちの主権の範囲内で設定する税率に従い,
税される状況を排除することができます。つま
課税ベースに対して掛けることになります。そ
りある子会社の損失は,別の利益を上げている
ういうことで,各加盟国間の競争の要素は課税
子会社の利益と相殺することができるようにな
ベースではなく,税率が唯一となります。
ります。
この制度を採用するか,しないかは,会社側
さらに一般的なバランスの取れた,濫用防止
の任意ですので,会社によってこのような EU
ルールも入っています(資料⑳)
。これは,租
レベルの課税標準を使うことにするか,或いは
税回避を目的として行われた,人為的な或いは
従来どおりローカルの課税ベースを使っていく
不自然な取引はなかったものと国がみなすこと
かという選択ができます。
ができるという規定です。ただし,純粋なビジ
そういうことでこの制度の下では,すべての
ネス上の活動であれば認められるようですし,
ローカルプロフィットを連結します。そしてそ
より低い課税となるような選択をした場合には,
れを,各加盟国間で配分していきます。その後,
この限りではないということです。
それぞれの国の税率で,税金が掛かるというこ
具体的な濫用防止ルールとしては,タックス
とです。先程も申し上げましたが,これは任意
ヘイブンに対して支払われた利子の控除は認め
的な制度なので,財界,産業界からは歓迎され
ないということです。さらに国外関連会社のレ
るものと思われます(資料)
。
ジームも含むということです。つまり,タック
次に,より政治的なデリケートな取り組みと
スヘイブンの子会社における利益は,EU にお
して,FTT があげられます(資料)
。世論の
いて課税されるということです。この新しい制
多くの声を反映して,提案が行われています。
度が閣僚理事会において採択されることを,ぜ
その目指すところは,金融セクターにお金を払
ひとも期待したいと思います。
わせることです。これが正しいか間違っている
CCCTB の内容にもう少し触れます。ひとた
かはさておき,世論によると,金融セクターこ
び利益が連結レベルで確定されると,その利益
そが昨今の経済危機の責任を負っているのだか
租 税 研 究 2012・8
415
国際課税
は,これまでのように別の子会社が損失を計上
国際課税
ら,この危機に関して彼らが負担するべきだと
2 - 2 租税回避との戦い
言っているわけです。もちろん想像に難くあり
もう 1 つの分野は,租税回避との戦いです。
ませんが,金融セクターはこれに反論を唱えて
ここでの着眼点は,銀行の秘密主義を排除しよ
います。加えて,このような税金が掛かること
うということです。銀行の秘密主義があると,
になると,EU 域外に金融事業の場所換えをし
徴税効果を削減してしまうからです(資料)
。
なければならなくなると主張しています。
その 1 つの要素として,貯蓄所得に関する指
特に英国は金融街のビジネスを守っていきた
令があります。基本的に,各個人はそれぞれ居
いと思っているので,この金融取引税に関して
住地国において課税されます。国は利子の支払
は明確に反対を唱えています。一方欧州委員会
に関する情報を開示するので,その情報を供給
の方は,そのように企業が場所をリロケーショ
するためには,源泉地国において金利を支払っ
ンしていくリスクは最小限のものであって,む
ている一連の金融機関についての情報を収集し
しろこの税金による税収入が570億ユーロに上
なければならないということです。報告義務が
ると推計しています。
ない金融機関から,いかに情報を収集するかが
FTT の考え方はいかなる金融取引にも税金
難しいところです。
が掛かるということで,その場合の条件は一加
現在この指令の修正案が審議中です。これに
盟国に一当事者が存在していることと,その国
よって修正された暁には,抜け穴を減らすこと
に関与している金融機関があることです。しか
ができます。法的或いは経済的な利子を支払っ
し税率はかなり低く,0.1%です。そしてデリ
ている金融機関の定義を,より広義なものにす
バティブに関してはさらに低くて,0.01%です。
ることが可能になります。そうすることによっ
税率は非常に低いのですが,金額としては大き
て,法の抜け道を閉ざしていこうということで
なものになるでしょう。
す(資料・)
。
これに関してはいろいろな適用除外が設けら
このように銀行の秘密主義をなくしていこう
れています。まず個人の世帯,そして中小企業
という動きは,スイスにとっては非常に大きな
に向けられたものがあります。また大企業或い
脅威となっています。というのは,スイスに
は国際的な企業,多国籍企業に対する適用除外
とって金融業界というのは,チョコレートに次
もあります(資料)
。
いで第 2 の産業であるからです。そこでスイス
基本的に投機的ではない取引は対象から外そ
は巻き返して,何とかして銀行の秘密性を保持
うということです(資料)
。その適用除外と
しようとしています。
なるものの一例として,まずプライマリーマー
彼らの議論の主眼は,スイスの銀行のクライ
ケット(発行市場)における取引では,企業が
アントの匿名性は保持していくが,租税回避に
株式や債券を発行することによって資金調達を
ついては,何とか排除をしていこうとするとこ
しようとする場合には,税金は掛かりません。
ろにあります。
同じように,為替のスポット取引も適用除外で
将来の予防策としては,源泉課税を課し,そ
す。例えば事業者が円で支払をするために円を
して,条約相手国に対して支払いをすると言っ
買おうと思った場合,そういった為替取引につ
ています。また,過去の案件では,銀行クライ
いて,スポットのものは掛かりません。
アントの租税回避した金額については返還をす
他の適用除外としては,公的部門の借入があ
ると言っています。過去に行われた租税回避の
げられます。もちろん国家としては国家自体に
返金をするために,21%ないし41%の税率を掛
税金を掛けたくないということで,適用除外と
けると言っています。このような条約は,現在
されています。
ドイツと英国で交渉中です(資料・)
。
416
租 税 研 究 2012・8
2 - 3 最近の判例
このこともまた,差別的であるという判決です
それではここ最近の判例について,幾つか見
(資料)
。
最後の事案になりますが,資料~は,欧
欧州裁判所におきましては,加盟国が条約上
州人権裁判所が出した判決に関するものです。
の自由を侵害したと主張することができます。
人権規約においては,公正な裁判を受ける権利
まず条約上の第 1 の自由というのは,設立の自
と,財産保護の権利が規定されています。
由です。
このユーコスというのはロシアの上場企業で
日本も含めて第三国にとって特に興味深いと
す。エネルギー分野で活発な企業でした。経営
思われるのは,資本の移動の自由です。日本の
者はミハイル・ホドルコフスキーでした。彼は
企業は,資本の移動の自由を守る権利を持って
プーチン大統領の対抗馬として大統領選選挙に
います。さらに日本の企業は,差別を受けない
出馬しようという,非常に野心的なアイディア
という権利も持っています(資料~)
。
を持っていたわけです。
そこで,ここから 3 つのケースを見ていきま
そこでマンハッタンのホテルの部屋で彼が発
すが,それらのケースにおいては,源泉課税が
見されたということはなかったのですが,その
外国に向けて支払われたものに対しては課せら
会社に対して,非常に高い税金の更正金額が課
れたけれども,国内企業に対して支払われた場
されました。その結果,会社は破綻し,彼は刑
合には課されなかった事案です。
務所に送られました。そこで彼は,欧州人権裁
最初は,ハリボーというオーストリアの企業
判所に訴えました。彼が主張している賠償金額
の事案です。ハリボーが受け取っていた配当に
は,前代未聞の980億ドルでした。
ついて,オーストリアから配当が出てきた場合
人権裁判所は,損害賠償を出させる権利を
には税金が掛からなかったのですが,オースト
持っています。余談ですが,こういった場合の
リア以外の,他の国から配当が発生している場
損害賠償というのは,人権裁判所の場合には
合には税金が掛かっていたため,このことが資
just satisfaction という非常にエレガントな名
本の移動の自由の侵害であり,違反であるとさ
前で呼ばれています。
れました(資料~)
。
非常に長くゆっくりとした裁判でしたが,最
次の事案は,欧州委員会対ドイツです。この
終的に人権裁判所において,バランスの取れた
場合には,ドイツが配当に対して源泉課税を掛
判決が出ました。まず,当該課税は国による偽
けていて,その掛けた税金を国内企業に対して
装された収容,没収ではなく,政治的な動機付
は還付をしていましたが,国外企業に対する支
けのあったものであることを示す証拠は,一切
払の場合には,税金を掛けたままでした。そし
なかったと判断されています。
てそれらの国外企業が,株式保有割合が10%以
しかし裁判所は同時に,ユーコスにとっても
下であった場合に課税をしていました。この場
有利になるような判決も出していて,それはこ
合もまた,資本の移動の自由に違反していると
の裁判が不公正であったということです。なぜ
されました(資料)
。
ならば,ユーコスは自分の弁明をしていくため
次に, 1 カ月前に判決が出た,新しい事案で
に,準備する時間が十分与えられていません。
す。これはフランスのケースです。フランスは
さらにこの裁判においては,財産保護の手続が
フランスの投資信託に支払われている配当に対
守られていません。そのペナルティ(罰金)が
しては,税金を掛けていません。しかしフラン
あまりにも高過ぎたことと,そしてペナルティ
ス以外の,他の加盟国の投資信託に対して配当
に対して課された追徴税が 7 %という,非常に
が支払われた場合には,税金を掛けていました。
高いものであったことが,こうしたことを裏付
租 税 研 究 2012・8
417
国際課税
ていきたいと思います。
けているとする判決です。ロシアにおける裁判
いのではないでしょうか。
が不公正であったが,それにもかかわらず,そ
の課税は正当化されるということを言うことは,
(マレルブ)
確かに,この説明の Planning
おかしいかもしれません。
では,最後の一歩がつめきれていません。ご指
そういうことで,この欧州人権裁判所の判決
摘の通り,ParentA の関係を考慮する必要が
が本当に純粋に司法判断から出てきたものなの
あるでしょう。
か,或いは政治的な動機を持って出てきた判決
なのかについては,まだオープンクエスチョン
【Q 3 】
2 点お尋ねしたいのですが,まず
ということで,答えが出ない状況です。
CCCTB に関してです。仮に CCCTB が導入さ
なお,損害賠償について欧州人権裁判所は慎
れ,定着しますと,ベルギーの holding regime
重に,この判断を先送りしました。しかしなが
はどう変遷するとお考えですか。次に,任意で
ら,執行のための手数料の 7 %だけでも還付さ
企業が CCCTB を選択できるのだとしたら,
れることになると,株主にとっては朗報だと思
CCCTB の本来の目的は達成されないように思
います。
うのですが。
本日の講演は以上です。もしご質問があるよ
(マレルブ)
まず 1 点目のご質問についてで
うでしたらお受け致します。
すが,CCCTB はまだ欧州閣僚理事会の採択を
まだ終えておらず,少なくとも数年先までは
holding regime は残るでしょう。どのみち配
Q&A
国際課税
当に対する源泉課税は残ると思います。
【Q 1 】
資料⑭の特許所得の所得控除に関し
2 点目のご質問については,企業が CCCTB
ての質問ですが,政策効果はどの程度得られて
を選択した時点で便益を享受できるわけですか
いるのでしょうか。
ら,その時点で目的は達成されると考えていま
す。もちろん,まったく使用されなければ達成
(マレルブ) 実際の詳しい数値は把握してい
はされないことになります。逆に,グループ企
るわけではありませんが,例えば企業の進出と
業の数が EU 域圏で少ない場合は,むしろ既存
いう点でお答えしますと,これは製薬会社の
のローカルの制度が良いこともありましょう。
ケースと伺っていますが,オフショアからベル
ギーに拠点を戻したというケースがあります。
編集部注: FTT に関しては講演時の内容以降,
製薬会社は特に特許に係る所得が多いのでこの
情報が更新されており,EU 加盟国全体での金融取
ような恩恵を受けることができるでしょうし,
引税の導入は断念し,今後は EU 中核国と強調し
もちろん日系企業もベルギーに進出しておりま
て導入を進めていくとしている。
すので,類似の恩恵を受けることは可能だと思
─
ト ムソン・ロイター 「ドイツ,EU 全体で
います。
の金融取引税導入を断念/中核国と協調へ
=ショイブレ財務相」
(2012/06/22)
【Q 2 】 資料⑫の Planning についてですが,
Global Tax Saving とするためには,ParentA
の所在地国の課税関係を考慮しなければいけな
418
http://jp.reuters.com/article/marketsNews/
idJPJT817478120120622
租 税 研 究 2012・8
資料①
資料②
European Union
Recent Developments
in Europe and in Belgium
Philippe Malherbe
Member of the Brussels Bar (Liedekerke)
Lecturer at the Catholic University of Louvain
Visiting professor at the University of Paris-Est Créteil
Tokyo 12 June 2012
資料③
資料④
Eurozone
Council of Europe
国際課税
資料⑤
資料⑥
Belgium
Roadmap
• Holding regime
• Belgium
• Notional interest deduction
• Europe
• Patent income deduction
租 税 研 究 2012・8
419
資料⑦
資料⑧
Holding regime
Holding regime
• Standard corporate tax rate: 33.99%
• Dividends received:
• Capital gains on shares
– 100% exempt
• Realization expenses are disallowed
– 95% exempt
– Subject to
– Subject to
• Taxation condition
• Holding condition
• Taxation condition
• Holding condition
– No minimum percentage
– One year
 Otherwise, taxable @ 25.75%
– 10% or €2.5M and
– One year
資料⑨
資料⑩
Holding regime
• Interest paid
Holding regime
– Deductible (even if for financing shares acquisition)
– Thin capitalization rule:
• Dividends paid
– No withholding tax (unilaterally) if • « good » treaty country 国際課税
• Loan > 5 times equity
• From
– Off shore entity
– Group entity (as lender, supplier or guarantor)
– WHT:
• 21%
• Limited to 15% under B‐J Treaty
• Numerous waivers
資料⑪
– Exchange of information for applying domestic law
– Including Japan
• 10% holding held for > 1 year
– Otherwise • 25% (reduced to 21% under certain conditions)
• Limited to 15% under B‐J Treaty
資料⑫
Planning
Notional Interest Deduction
• Treating equity as debt
• Deduct a notional interest of 3% on equity
• Equity is
Parent
A
– Book equity and retained earnings
– Less prevention of double dip
Belgian Finance
Subsidiary
C
• Holdings in other corporations
• Foreign permanent establishments
Subsidiary
B
– Less prevention of abuse
• Irrelevant assets
• No duty on capital contributions
420
• Instead of lending 10,000 to B – A incorporates C in Belgium with an equity of 10,000
– C lends on 10,000 à B @, say, 3.50%
租 税 研 究 2012・8
資料⑬
資料⑭
Planning
Patent Income Deduction
• Tax effect
– B deducts 350
 B saves tax at local rate of, say, 30%, viz. 105
– C is taxed @ 33.99% on (350 – 300) = 50, viz. 17
 C bears an effective tax rate of 17/350 = 4.86%
‐ Global tax savings of 105‐17=88
• Deduction of 80% on patent income
– Effective tax of 33.99% * 20% = 6.8% • Patent income includes
– Royalties
– Part of sales price of patented goods
• Conditions
– Developed or improved in separate research center
資料⑮
資料⑯
Europe
• EU tax initiatives
• Recent case-law
• Principles
– Sovereignty of Member States
– Subsidiarity
– Unanimity
– Crisis
国際課税
• Combating tax evasion
EU Tax Initiatives
Framework
• “positive harmonization”
– Parent-subsidiary
– Interest & royalties
– Mergers
資料⑰
資料⑱
EU Tax Initiatives
Ongoing
• CCCTB (Common consolidated corporate
tax basis)
• FTT (Financial transaction tax)
CCCTB
• Common tax base for corporate tax
– All revenues, except
• Dividends and capital gains on shares
• Profits from foreign PEs
– Deductible expenses
• Business expenses, including notably
– R&D
– Interest
• Certain other items
– Donations to charities < .5% of revenues
– Depreciation of most fixed assets
• Disallowed expenses
– Indefinite carry forward of losses
租 税 研 究 2012・8
421
資料⑲
資料⑳
CCCTB
CCCTB
• Consolidated
• Anti-abuse rules
– Criteria
– Disregard
• 50% voting rights and
• 75% ownership
• “Artificial transactions carried out for the sole purpose of
avoiding taxation” except
• Benefits
– Genuine commercial activities and
– Choice between two or more possible transactions
• One set of tax rules
• One tax return
• One competent tax authority
• Do away with
• Economic double taxation
• Transfer pricing issues
• Taxation of profits without set-off of simultaneous losses
資料
– Interest paid to tax havens
– Controlled foreign companies
資料
CCCTB
CCCTB
• Apportionment
• All local profits are – Labour
国際課税
• Payroll
• Number of employees
– Assets
• Fixed tangible assets
• Intangibles and financial assets excluded
– Sales
– Safeguard clause
– Consolidated
– Apportioned amongst the Member States according to key
• Apportioned profits are taxed locally at local rate
• National tax rates
• Optional
資料
資料
FTT
Scope
• Goal: making the financial sector pay
– Revenue estimate: €57B
• Base: financial transaction involving
– One party in a Member State and
– A financial institution in that Member State
• Tax on gross amounts at rates of
FTT
Exceptions
• Private Households and SMEs:
– Enterprise borrowing/lending
– Mortgage loans
– Consumer credits
– Insurance contracts
– Payment transactions, etc.
– .1%
– .01% for derivatives
422
租 税 研 究 2012・8
資料
資料
FTT
Exceptions
Combating Tax Evasion
• Large and international business:
• Doing away with bank secrecy
– Primary market transactions for raising capital
through the issuing of shares and bonds except for
• shares and units of collective investment undertakings
– Spot currency transactions (as opposed to
currency derivatives)
– E.g. protocol of 26 January 2010 to B-J tax treaty
• OECD initiatives
– “Authorized approach”
– “Global forum” grey list
• Public borrowing and monetary policy
• Savings directive
資料
資料
– Draft amendment
– But new Switzerland treaties
Savings Directive
Savings Directive
• Council Directive 2003/48/EC on the taxation of
savings income in the form of interest payments
• Principles
• 35% withheld at source
• ¾ transferred to domicile country
– Target instruments equivalent to interest-bearing
• Securities with
– Protected capital
– Pre-defined return on investment
国際課税
– Residence taxation of interest paid to natural persons
– Automatic exchange of information
– Exceptions: Austria and Luxembourg
• Draft amendment
• Life insurance linked to debt with low risk component
• Collective investment vehicles more broadly defined
– Target circumvention circuits outside the EU
• Trusts, foundations, etc.
• Schemes where
– Paid to non EU but
– Beneficial owner (cf. money laundering) is EU
資料
資料
Switzerland
• Treaty of 21 September 2011 with Germany
• Amended on 5 April 2012
• Future
– No automatic Exchange of Information
– 26% withholding tax
– 50% tax on inheritance
• Past
– Down payment of 2B€ by Swiss banks
– Clients: choice between
Switzerland
• Treaty of 6 October 2011 with United Kingdom
• Future
– No automatic Exchange of Information
– Withholding tax from 27 to 48%
• Past
– Down payment of .5B€ by Swiss banks
– Clients: choice between
• Disclosure
• Regularisation at 19 to 34%
• Disclosure • Regularisation at 21 to 41%
租 税 研 究 2012・8
423
資料
資料
Recent Case-law
Recent Case-law
• Treaty freedoms
• Unless: justifications
– Public interest
– Balanced allocation of power to tax
– Not
– Establishment
– Movement of capital
• Also for third countries
• Loss of tax revenue
• Lack of reciprocity from third countries
– TFEU contains no priority of source vs. residence
• Domestic tax rules infringing on the freedoms
must be set aside (“negative harmonization”)
– But
• Credit may be made conditional on exchange of information
• Residence State has no obligation to offset foreign
withholding tax
• Subject to proportionality test
資料
資料
Haribo
Recent Case-law
ECJ 10 February 2011 C-436/08
• Various recent cases address the taxation of
portfolio dividends, neglected by
国際課税
– The parent-subsidiary directive
– The savings directive
• Taxation of portfolio dividends
=> Freedom of capital movements
• Austrian corporate investors
• Domestic source dividends exempt regardless
of % held
• 3rd State dividends where holding is <10%: no
relief from economic or juridical double
taxation
• Potentially important for
– Listed companies
– Funds
資料
資料
Haribo
Haribo
ECJ 10 February 2011 C-436/08
ECJ 10 February 2011 C-436/08
• In relation to EU/EEA countries
• In relation to third countries
– Not permitted to subject exemption to DTC
including enforcement assistance
– Permitted to use
– When domestic dividends are exempt
– Third countries dividends
• Exemption method for domestic dividends and
• Credit method for foreign dividends
• Provided credit available without excessive burdens
424
租 税 研 究 2012・8
• Must be eligible for a method of double tax relief
• May be subject to a different method (credit) provided
– The results are equivalent
– Credit may be carried forward in loss situation
• May not be eligible for credit of foreign withholding tax
資料
資料
Santander Asset Management
ECJ 10 May 2012 C-338/11
Comm. v. Germany
ECJ 20 October 2011 C-284/09
• Withholding tax levied on dividends
• Refunded to domestic companies
• Waived when paid to EU or EEA companies
with holding >10%
• Otherwise levied and final
• Dividends paid to UCITs
– No withholding tax when paid to domestic UCIT
– Withholding tax when paid to UCIT in other
Member State
• => Discriminatory
– Except for limited credit at home under DTC
• Violation of free movement of capital
• Quid for 3rd countries?
資料
資料
Yukos
Yukos
ECtHR 20 September 2011
ECtHR 20 September 2011
– Fair trial
– Protection of property
資料
• Yukos
– Listed energy company
– Managed by Mikhail Khodorkovsky
– Tax re-assessment for tax evasion
国際課税
• Council of Europe
• European court of human rights (Strasbourg)
• European convention on human rights of 4
November 1950
• Right to
• Several billions of $
• Plus interest and penalties
– Bankruptcy in spite of tax challenge
– Sale of assets to government owned entities
– Mikhail Khodorkovsky sentenced to prison
資料
Yukos
ECtHR 20 September 2011
• Claim of $98B
• Court findings
– No disguised expropriation
– Unfair trial
ありがとうございます。
• Insufficient time for Yukos to prepare its defense
– Breach of property protection
• Imposition and calculation of penalties
• Rash (and expensive: 7%) enforcement
[email protected]
– Case not ready for “just satisfaction”
租 税 研 究 2012・8
425
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