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古文の読みを深めて学習意欲を高める指導の工夫

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古文の読みを深めて学習意欲を高める指導の工夫
古文の読みを深めて学習意欲を高める指導の工夫
-PISA型「読解力」の視点を通して-
研究の概要
高等学校国語科の「読むこと」の領域にかかわり,PISA型「読解力」の視点からの古文の授業改
善を試みる。従来の古文の読解に加えて,PISA型「読解力」の「解釈」「熟考・評価」の視点を取り
入れることによって,古文のより深い読みと学習意欲の向上を目指すものである。
キーワード
読みを深める
PISA型「読解力」
「解釈」
Ⅰ
主題設定の理由
1
古典を学ぶことの現代的な意義から
「熟考・評価」
表現
平成16年2月に出された文化審議会答申「これからの時代に求められる国語力について」では,
国際化の進展に伴って今後必要になってくる事柄として ,「自分の意見をきちんと述べるための論
理的思考力」と同時に ,「日本人としての自己の確立」を挙げており ,「日本人は,日本の文化や
伝統を身に付けて世界に出ていくことが必要である。自国の文化や伝統の大切さを真に認識するこ
とが,他国の文化や伝統の大切さを理解することにつながっていく」と述べている。この文面には,
学校教育において古典を学ぶことの重要性も含まれていると考えられる。
また,改正教育基本法でも,教育の目標として伝統と文化を尊重することを掲げている。この教
育基本法の趣旨を受けて,本年1月17日に出された中央教育審議会答申「幼稚園、小学校、中学校、
高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について」でも,我が国の伝統,文化を受け止
めそれを継承・発展させるための教育の必要性を挙げており,間もなく告示される新学習指導要領
では「古典」の重要性が強調されることが予想される。
2
平成18年度山梨県教育課程実施状況調査報告から
平成18年に実施した山梨県教育課程実施状況調査の報告によると,本県高校生の国語に対する
る意識調査の結果は次のとおりであった。
1 5 .6
全 国
国
語
の
勉
強
が
好
き
だ
山 梨 県 H 16
1 1 .6
山 梨 県 H 17
1 1 .5
2 7 .6
山 梨 県 H 18
1 1 .2
2 8 .8
0%
そう思う
古
文
は
好
き
だ
2 9 .6
2 9 .7
10%
20%
ど ち ら か といえ ば そ う 思 う
7.2
全 国
2 8 .4
3 0 .1
30%
40%
14.4
29.1
山梨県H18
6.4
15.0
28.3
10%
20%
30%
どちらかと
ば
2 4 .7
5 .7
2 4 .6
6 .1
70%
80%
分からない
5 .8
90%
100%
無 回 答 ・その 他
4.1
44.3
27.8
13.4
どちらか
ば
5 .0
53.3
7.3
0%
60%
そう思わない
21.5
山梨県H17
そう思 う
50%
2 5 .6
2 1 .6
3 0 .9
ど ち ら か といえ ば そ う 思 わ な い
13.5
9.3
山梨県H16
2 3 .8
4.3
45.6
4.6
42.4
40%
50%
そう思 わない
-1-
60%
70%
分からな い
5.1
80%
90%
無 回答・そ の他
100%
前ページの表を見ると,古文を含めた国語全体を意識した「国語は好きだ」の質問に対して,
「そ
う思う 」「どちらかといえばそう思う」と回答した高校生の割合が40.0%だったのに対して,古文
が好きかどうかを問う質問では「そう思う 」「どちらかといえばそう思う」と回答した高校生の割
合は,21.4%の低率にとどまり,古文嫌いの傾向が表れている。その原因として,現代では使われ
ない言葉遣いや古典文法を学習することの難しさが挙げられ,各学校で様々な指導の工夫をしてい
るが,なかなか生徒の古文嫌いを克服できないのが実情である。そうした状況から,読解力の向上
を目指して,古文の学習意欲を高めるための授業改善が求められている。
3
国語科の読解指導とPISA型「読解力」
2003年度OECD生徒の学習到達度調査(PISA2003)での「読解力」の低下が学力低下論争を巻き起こ
し,国語科はその責任教科のような目で見られた時期がある。その当時は,今まで国語科が培って
きた読解力と,PISAが求めるところの「読解力」が違うものだとの認識がなかったからである。
従来国語科が育成してきた読解力とは ,「文章,作品に書かれている内容を正確かつ標準的な速
さで 読み取る能力 」( 日本国語教育学会編『国語教育辞典』による)である。一方,PISAの調査の
目的は ,『
「 生きるために必要な知識や技能 』,すなわち,持っている知識や技能を実生活の様々な
場面で直面する課題にどの程度活用できるかを調査する」(PISA調査の報告書)ものであり,その
中で「読解力」は ,「自らの目標を達成し,自らの知識と可能性を発達させ,効果的に社会に参加
するために,書かれたテキストを理解し,利用し,熟考する能力」と定義されている。つまり,PISAが
求める「読解力」は,学校で身に付ける「学力」とか「知識」だけを指すものではなく,社会生活
上起こり得る諸問題を解決するのに必要な能力を指していることがわかる。その意味では,現行の
学習指導要領が求める「生きる力」とほぼ同じ考え方だと言えよう。
平成17年12月に文部科学省がまとめた「読解力向上プログラム」によると,PISA型「読解力」の
問題では,読解のプロセスとして,以下の3つの視点を設定している。
①情報の取り出し :テキストの中の事実を切り取り,言語化・図式化する。
(テキストに書かれている情報を正確に取り出すこと。)
②テキストの解釈 :書かれた情報から推論・比較して意味を理解する。
(書かれた情報がどのような意味を持つのかを理解したり推論したりする
こと。)
③熟考・評価
:書かれた情報を自らの知識や経験に位置付けて理解・評価する。
(テキストに書かれていることついて,自分の経験などに照らし合わせな
がら自分の意見を述べること。)
つまり,PISA型「読解力」とは,文章や資料から「情報を取り出す」ことだけを指すのではなく,
「テキストの解釈」「熟考・評価」までを含めて「読解力」ととらえていることがわかる。
こ のように, 従来国語 科が培って きた読解力と,PISAが求める「読解力」とは別のもので
ある。PISA型「読解力」の ,「テキストの解釈 」「熟考・評価」までを含めて「読解力」とする視
点を国語科における読解指導に取り入れることによって,従来の国語科が行ってきた読解指導の改
善を図ることができるし,ひいては,学習意欲の向上にもつながるものと考えられる。
4
「思考力・判断力・表現力」の育成とPISA型「読解力」
昨年6月に公布された改正学校教育法では,小・中・高等学校等においては「生涯にわたり学
習する基盤が培われるよう基礎的な知識及び技能を習得させるとともにこれらを活用して課題を解
決するために必要な思考力,判断力,表現力その他の能力をはぐくみ,主体的に学習に取り組む態
度を養うことに,特に意を用いなければならない」(第30条第2項,第49条,第62条等)と定めら
れており ,「知識基盤社会」における課題をよりよく解決するのに必要な力として ,「思考力,判
断力,表現力」を挙げている。
その「思考力,判断力,表現力」を育成する方法として,PISA型「読解力」の視点を取り入れた
学習が有効だと考えられる。つまり,書かれた情報から推論して意味を理解する際には「思考力」
が必要であり,筆者の主張や表現の方法を「熟考・評価」する際には,的確な「判断力」が要求さ
-2-
れる。また,テキストに書かれていることについて,自分の経験などに照らし合わせながら自分の
意見を述べる際には ,「表現力」が必要となってくる。こうしたことから,生涯にわたって主体的
に学ぶために必要なキーコンピテンシーである「思考力,判断力,表現力」を育成する方法として,
PISA型「読解力」の視点を取り入れた学習が有効だと考えられる。
Ⅱ
研究のねらい
高等学校国語科の「読むこと」の領域にかかわり,PISA型「読解力」の視点からの古文の授業改善
を試みる。
(1)従来の古文の読解に加えて,PISA型「読解力」の「解釈」
「熟考・評価」を行うことによって,
古文のより深い読みを目指す。
(2)自分の考えを発信することを通して,古文に書かれている内容を自分のこととしてとらえるこ
とによって,古文の学習意欲の向上を目指す。
Ⅲ
研究の基本的考え
1 古文の読解指導にPISA型「読解力」の視点を取り入れることの意味
PISA2003の結果から「読解力」の低下が指摘され,にわかに読解力への意識が高まった。しか
し,具体的にどういう力が足りないのか,現在でもPISAショックの本質は十分に認識されていない
ように思える。今まで国語科が培ってきた読解力がひどく落ちているわけではない。国立教育政策
研究所の有元秀文も ,「PISAの敗因はただの読解の不足ではない。本当の敗因は日本人のコミュニ
ケーションにあるのだ。なぜならPISAの得点を最も低下させたのは,記述問題の無解答だからだ。
これは,授業中自分の意見を発言させない,テストでも自分独自の意見を答えさせないことが多い
日本の国語の授業の欠陥を反映している 。」(教育科学 国語教育2007年4月号掲載)と述べてい
る。その上で有元秀文は,PISA型「読解力」向上のためには,単なる話合い等の表現活動ではなく,
「読んだことについて,読んだことを根拠にして表現させる」ことが必要であると強調している。
従来の古文の授業は,辞書を使って語句の意味を確認し,段落ごとに内容の読み取りをして,筆
者の主張を整理して終わることが多かった。そして,正解という結果だけが性急に求められ,結果
に至るまでの,みんなで「解釈」し ,「熟考・評価」し合いながら答えを見付けていくという知的
な作業を経験させないできた。PISA型「読解力」では,筆者の考えを「熟考・評価」した上で自分
の考えを持ち,それをきちんと周囲に発信することまで求めている。そうした「読解力」を向上さ
せるには,国語授業観の根本的な転換が必要である。もちろん,従来の授業のすべてを否定するも
のではないし,従来の授業が主眼としていた記述内容をきちんと読み取る作業は,国語の学習の基
本である。しかし,筆者の考えをより深く理解するためには,本文の理解だけにとどまらず,書か
れた情報から推論して,筆者の考えや意図を「解釈」したり,一度批判的な目で記述内容を見詰め
直し,それを「熟考・評価」すること,そしてそれを自分の経験に照らし合わせながら論述・表現
する ことが必要 である。 それによっ て,より深い理解が得られるようになる。こうした意味
で,PISA型「読解力」の視点からの授業を進めると,従来の国語の授業の在り方を変えることに
もつながっていくし,生徒の古文の授業に対する意識も変わり,学習意欲の向上にもつながってい
くと予想される。
古典とは評価の定まったものだとの認識があり,従来の古典の授業では,筆者の主張を批判的に
評価するような学習は行われなかった。少なくとも高校の授業においては,先人によってどういう
議論がなされ,どういう評価を与えられて古典として生き残ってきたのかを考えるような学習は行
われてこなかった。しかし,授業の中で,もう一度筆者の主張を吟味し,先人の議論に学びながら
も自らの力で古典を再評価することは,今の時代に求められる「思考力」「判断力」を養う上から
も重要なことである。こうした意味合いから,古文の読解にPISA型「読解力」の「解釈」「熟考・
評価」の視点を取り入れる意味がある。
-3-
2
古文の読解に「話すこと・聞くこと」を取り入れることの有効性について
「読解力向上プログラム 」(文部科学省)によって提案されているPISA型「読解力」の最も重要
な点は ,「3.各学校で求められる改善の具体的な方向~3つの重点目標」にもあるように ,「読
解力」を,自分の意見を述べたり書いたりすることまでを含んだ力としてとらえている点である。
テキストに書かれている内容から推論をして,その意味を理解したり筆者の意図を読み取ったりす
る,いわゆる「テキストの解釈」のプロセスでは,自分が読み取ったものを文章にしたり発表し合
ったりして,他者のものと比較してその適否を判断したり,書くことによって自分の考えを整理す
ることが必要になってくる。また ,「熟考・評価」のプロセスにおいても ,「自分の経験などに照
らし合わせながら自分の意見を述べること」が大事な活動と考えられており,今回の古文の授業に
おいても,互いの意見を発表し合い,他者の意見を聞き合うことによって,自分の意見をより確か
なものにできるし,学習活動に主体的にかかわることで,古文の学習意欲を高めることができる。
また,本年1月17日に出された中央教育審議会の答申では,基礎的・基本的な知識・技能を活
用するのに必要な「思考力・判断力・表現力」の重要性を強調しており,それらの力をはぐくむた
めの学習活動として ,「互いの考えを伝え合い,自らの考えや集団の考えを深め,発展させる」こ
とが提案されている。こうした意味合いから,今回の「花は盛りに」の授業では,「読むこと」と
「話すこと(書くこと)・聞くこと」を積極的に関連付けた授業を目指している。
3
二項対立による論理思考の有効性について
物事を的確に認識したりその適否を考える際に,二項対立による論理思考が有効である。この思
考方法によって,現象を深く分析し,ある命題が真であるか偽であるか,それが好ましいか好まし
くないかという意見を持つこともできるようになる。
また,真・偽,合・否を対置することによって,物事を一方的に見ることの弊害を免れる。ある
見方があれば別の見方があること,あることを好む人間がいれば好まない人間もいることが明確に
認識され,別の意見の存在を前提として自分の意見の構築ができるようになる。
この「花は盛りに」に表されている兼好の美意識については,古来,賛否両論からの議論が活発
しょうてつ
しんけい
に展開され,室町時代の正 徹や心敬が兼好の美意識に深い共感を示しているのに対し,本居宣長
は ,『玉勝間』の中で痛烈に批判をしている。このように ,「花は盛りに」は,自然観照の仕方を
めぐって賛否両論からの議論が展開できるところから,生徒の興味・関心を喚起し,また,PISA型
「読解力」を育成する上でも格好な教材と言える。
「花は盛りに」の学習の中で,二項対立による思考法によって,賛成,反対それぞれの立場を明
確にして自分の意見を持ち,兼好の自然観照法を見詰めることでどのように認識が深められたかを
検証する。具体的には,第8時間目の,兼好の自然観照法に対して賛成,反対のいずれかの立場か
ら自分の考えをまとめる学習活動と,最終の授業でのディベートにおいてこの二項対立的な思考が
展開される。
4
PISA型「読解力」における「解釈」のプロセスの重要性について
PISA型「読解力」の一連のプロセスにおいて,「情報の取り出し」や「テキストの解釈」がきち
んとなされて初めて,適切な「熟考・評価」が可能になる。特に,書かれた情報がどのような意味
を持つのかを理解したり推論したりする「解釈」を丁寧,かつ誤りなく行わないと,
「熟考・評価」
において自分の考えを持ったとしても,その内容は誤ったものになったり,底の浅いものになった
りしてしまう。そうした意味から,本研究では,PISA型「読解力」の三つのプロセスのうち,「解
釈」を重要なものと考えており,その指導に力点を置いて指導をすることによって,兼好の自然観
照法に対する理解を深めることを意図するものである。それによって,最終授業でのディベートに
おいても,根拠を持った深みのある意見のやりとりを展開することができる。
-4-
Ⅳ
研究の内容と方法
1
研究の内容
(1)本文の理解だけにとどまらず,書かれた情報から推論して,筆者の考えや意図を丁寧に「解
釈」したり,一度批判的な目で記述内容を見詰め直し,それを「熟考・評価」することにより,
筆者の考えをより深く理解することを目指す。
(2 )「解釈」と「熟考・評価」を通して,筆者の主張に対する自分の考えを持ち,それをディベ
ートの場で適切に表現することにより,より深い理解を目指すとともに,古文に対する学習意
欲の向上を図る。
2
研究の方法
(1)方法 指導モデルの作成と授業研究
(2)具体的方法
ア 事前調査によって,古文の学習のどんなところが障害になって学習意欲を持てないのかを
分析する。
イ 生徒が学習プリントに記入した内容等によって,兼好の自然観照法に対する理解の深まり
があったかどうかを検証する。
ウ 入念な「テキストの解釈」を経ることによって,兼好の自然観照法に対する生徒の考えが
どのように変化したかを見ることによって,生徒の読みが深まったかどうかを検証する
エ 事後調査によって,今回の授業を受けたことによって古文の学習に対する意識が変わった
かどうかを分析することにより,今回の授業改善が生徒の学習意欲の向上につながったかど
うかを検証する。
(3)研究授業対象 県立高等学校普通科 2年2学級
(4)授業実施時期・授業時間数
ア 授業実施時期 平成19年10月~11月
イ 授業時間数
授業8時間(50分授業) 土曜講座1時間 計9時間
(5)検証のための資料
授業観察,生徒の事前・事後アンケート,ワークシート,生徒のノート,ディベートの記録
3
指導モデルと授業実践
(1)
(2)
ア
単元・教材名 随筆・『徒然草』第137段「花は盛りに」
単元及び教材の目標
随筆を読み,作者の自然観や人生観を知ることにより,ものの見方,感じ方を豊かにする。
(「読むこと」)
イ 作者の自然観や人生観を理解した上で,自分なりの考え方や感じ方を持ち,それを発表し
たり,人の発表を聞いたりすることができる。「
( 話すこと・聞くこと」)
(3)指導のおよその流れ(詳細は学習指導案を参照)
1時間目~5時間目 本文の内容を把握する。
6時間目 兼好の主張を整理する。「
( 解釈」)
兼好の自然観照法に対する自分の意見をまとめる。「
( 熟考・評価」1回目)
7時間目 なぜ兼好がそう考えたのか,その理由を考える。 (「解釈」)
8時間目 兼好の自然観照法に対して,賛成又は反対の立場から最終的な自分の意見をまと
める。「
( 熟考・評価」2回目)
土曜講座 賛成派,反対派に分かれてディベートを行い,議論を深める。
-5-
(4) 授業の様子
次の学習プリントの記入手順に沿いながら,授業内容や授業での生徒の様子を説明していこう。
上の表,上段右側の①欄の記述は,1時間目の授業(補助資料の学習指導案10-3を参照)に関す
るもので,世間の一般的な自然観照の仕方を生徒が記入したものである。下段の②欄は,他の生徒
の発表をメモしたものである。この①,②欄は,授業の導入部としての意味合いと,6時間目に記
入することになる③欄の記述内容と比較することによって,兼好の自然観照の仕方と一般的なそれ
との違いを明確にしようとの意図がある。
そうした導入作業を行った後,本文を口語訳しながら内容の読み取りを行った。本文には,兼好
の自然観照の仕方が12の実例を挙げながら説明されている。それらの実例を学習プリント②(補助
資料P2を参照)で整理した上で,兼好が主張している観照法には○を,そうではないものには×
をつけて内容把握に努めた。そして,それを基に,上段③欄に兼好の主張をまとめた(6時間目の
授業 )。そして,家庭学習として④欄に兼好の自然観照に対する自分の意見を書かせた 。(6時間
目の授業 読解のプロセス「熟考・評価」その1に該当する作業)。しかし,ここでの意見は,「解
釈」のプロセスを経る前のものなので,賛成意見にしろ反対意見にしろ,底の浅いものが多かった。
しかし,後述のとおり ,「解釈」のプロセスを経ることによって,兼好の主張をじっくり吟味した
上での主張に変わっている。
次に,6時間目の授業の仕上げとして,12の実例を抽象することによって,兼好の主張を3点に
整理する学習を行った(7時間目の授業 「解釈」その1に該当する作業 )。③欄には,兼好が示
した実例をそのまま書いているものが多く,整理された形でのまとめになっていない。そこで,こ
の学習では,兼好の主張を抽象度を上げる形でまとめ直させた。しかし,指名して発表させても,
生徒から出てくる反応は本文の記述をそのまま抜き出したようなものが多くて,この抽象化の作業
は,かなり困難を伴うものになった。そこで,記述内容をどのように整理していったらよいのかを
-6-
学ぶ格好の機会ととらえ,まとめる方法を学習する目的で次のような作業を行った。
ア 繰り返される表現に注目してキーワードを探し,
それを使ってまとめる。
例 : 「始め・終はり 」,「目にて見る 」「思へる 」「よ
そながら見る」などの言葉
イ まとめたものが「結局どういうことを言おうとし
ているのか」「要はどういうことか」の答えになって
いるかどうかを考えながらまとめる。
このような作業の結果,右の表のように,兼好の主
張を3点に整理できた。多少表現に難があったり,表
現を切り詰め過ぎてかえってわかりにくくなったきら
いはあるが,視覚に訴えて内容を認識できるような簡
潔なまとめになっている。
[参考] 右の欄の三つの記入例のうち,
①のまとめは実例①,③,④,⑤,⑥から抽象され
たもの。(補助資料 学習プリント②を参照)
②のまとめは実例②,⑦,⑧から抽象されたもの。
③のまとめは実例⑨,⑫から抽象されたもの。
どんな文章でもそうだが,このような抽象化された
形でのまとめを行うことによって,記述内容が構造的
に把握できる。国語の授業で文章読解の最後に行う「まとめ」と呼ばれる作業はこれに当たるもの
であり,この作業をきちんと行うことが内容を把握する上で重要である。
次に行ったのが,⑤欄の作業である。これが7時間目の授業(読解のプロセス 「解釈」その2)
に当たる。通常の古文の授業では,内容把握を行った上で筆者の主張を整理して終わる。時には,
筆者の主張に対し生徒の意見を求めることもある
が,筆者の主張が発せられる背景や主張の根拠ま
で推論する授業はあまり行われない。本研究では,
従来の授業に加えて,こうした「解釈」と「熟考
評価」を行い,生徒の考える力を育てようとする
ものである。
家庭学習でまとめてきたものは,本文の記述に
形だけ「~だから」を付け加えて理由説明として
いるものが多く,きちんとした根拠の説明になっ
ていない。
そこで,授業の中で,兼好の上記三つの主張,
特に,世間の一般論とかけ離れた①と②(上の欄
の生徒記入例)の主張の根拠をじっくり考えさせ
た。全員に指名して言わせる等の約束のもとに授
業を行ったり,生徒の発言に対して「本当にそう
思うの?」などと問い詰め,生徒を追い込んで次
第に形あるものにしていった。かなりの時間と労
力を費やす作業だったが,生徒同士の話合い(ペ
ア学習)や発表,教師と生徒とのやりとりを通し
て,右の欄のような的確な推論がなされた。
-7-
こうした「解釈」のプロセスを経た上で⑦欄の作業を行った。これは,8時間目の授業(「 熟考
評価」その2)に当たる。この段階で出された意見を見ると,7時間目の「解釈」のプロセスでの
推論を踏まえた,説得力のある意見が多く出された。⑧の欄は,そうした意見に賛同する者に応援
のメッセージを書かせ,それをもとに応援演説として発表させたものである。
興味ある現象としては,兼好の主張に対する考えが深まるにつれて,一方的な反対派から賛成派
へ回ったり,賛成,反対それぞれの考えの良い点を採用した中間派に回る者も出てきた(下の資料
と補助資料P5~6を参照 )。その理由としては,6時間目の授業の「熟考・評価その1」は,兼
好の主張に対してきちんとした「解釈」を行う前に行ったものなので,兼好の主張を深く吟味して
おらず,一般的な観照法から抜け出せないまま反対意見を述べる者が多かったからと考えられる。
次に,ディベートを行った。この「花は盛りに」に表されている兼好の美意識については,古来,
賛否両論から活発な議論が展開されてきた(補助資料P10 学習指導案の「教材観」を参照 )。そ
こで,ディベートの準備として兼好の主張を更に深く掘り下げるために,まず,補助資料7を使っ
て先人の議論について学ばせた。次に,これらの先人の議論を参考にして,擁護派,批判派に分か
れてディベートを行った。その様子は,補助資料P11「ディベート『兼好の自然観照をめぐって』」
に詳しく載せておいた。
-8-
Ⅴ
1
研究結果と考察
古文の学習に対する意欲について
事前アンケートの分析(山梨県立普通高校2年生4クラス139人を対象)
(図2)
(図1)
1 最も力を入れている教科・科目
情報
0%
2 その教科・科目に力を入れる理由
ト
6%
現代文
その他
6%
現代文
9%(12人)
家庭
11%
古文
1%(2人)
古文
漢文
1%
世界史
世界史
4%
日本史
8%
英語
27%(38人)
ロ 授業がよくわかっておも
しろいから
ハ 内容は難しいが、知るこ
とに対して好奇心が湧くから
日本史
地理
地理
4%
現代社会
現代社会
1%
数学
政治経済
0%
英語
数学
28%(39人)
ヘ
14%
漢文
イ 内容自体に興味がある
から
イ
14%
ロ
21%
政治経済
ホ
27%
家庭
ニ 授業の中で、考えたり、
意見交換をしたりすることが
楽しいから
ホ 将来的にも必要だと思う
から
ヘ 受験に必要だから
情報
その他
ハ
13%
ニ
5%
ト その他
(1) 最も力を入れている教科・科目(図1)
大学等への進学を目指す普通高校の特徴が表れており,主要3教科に力を入れている傾向が見ら
れる。しかし,3教科の中で,数学の28%,英語の27%に比べ,国語は,11%と低い。その中でも,
古文や漢文にいたっては,1%の低率にとどまる 。「最も力を入れている教科・科目」という質問
の仕方をしているのでこういう結果になるわけであるが,もともと古文や漢文への関心・意欲が低
いということと,入試に古文・漢文を課していない大学等が多いので力を入れないということも影
響していると思われる。
[比較参照 専門高校の状況]
普通高校と比較すると,数学,英語が,それぞれ10%,6%と低くなり,その分,商業の専門科
目に力を入れている。国語は,12%と変わらない。
(2) その教科・科目に力を入れる理由(図2)
「将来的にも必要だと思うから 」(28%)や ,「受験に必要だから 」(14%)は別にしても ,「授
業がよくわかって面白いから」が21% ,「内容自体に興味があるから」が14% ,「知ることに対し
て好奇心が湧くから」が13%あり,授業の中身や授業の在り方が興味・関心に大きくかかわってい
ることがわかる。
(図4)
(図3)
イ 昔の人の生き方や考え
4 古文の勉強に力を入れている理由
3 古文に力を入れていますか
ロ 国際化の時代を迎えて,
外国と触れあう時に自国の
文化が精神的な支えになる
と思うから
ハ 古い時代の雰囲気が何
となく好きだから
イ
4%(5人)
ニ
26%(36人)
ロ
28%(39人)
イ 力を入れている
ト
5%
ロ どちらかと言えば力
を入れている
ハ どちらかと言えば力
を入れていない
ニ 全く力を入れていな
い
ハ
42%(59人)
ヘ
11%
ホ
9%
二
25%
方を学ぶことに意義があると
思うし興味深いから
チ その他
0%
二 古文学習を通して、少し
ずつではあるが意味がとれ
るようになってきたから
イ
18%
ロ
7%
ハ
25%
ホ 授業の中で、昔の人の
生き方や考え方について意
見交換するのがおもしろいか
ら
ヘ 自分たちが使っている言
葉のルーツを古文作品に
よって探ることに興味がある
から
ト 受験勉強として、どうして
もしなければならないから
チ その他
-9-
(3) 古文に力を入れているかどうか(前頁図3)
「力を入れている 」「どちらかといえば力を入れている」の合計の割合は32%なのに対し ,「ど
ちらかといえば力を入れていない 」「全く力を入れていない」の合計は68%であり,古文への興味
関心が薄い状況である。しかし,平成18年度山梨県高等学校教育課程実施状況調査における「古文
が好きだ」の質問に対して ,「そう思う 」「どちらかといえばそう思う」と答えた割合が21.4%だ
ったのに比べると,この高校の生徒は,山梨県の平均よりも,多少古文への興味・関心が高い状況
にある。
(4) 古文に力を入れる理由(前頁図4)
古文に力を入れている理由としては,
「古文の学習を通して意味が読み取れるようになってきた」
が「古い時代の雰囲気が何となく好きだから 」「昔の人の生き方や考え方を学ぶことに意義がある
と思うし興味深いから」などと並んで上位にあり,読解のための基礎学力をつけて,古文の意味内
容を読み取れるようになることが古文への興味・関心を高める上で重要だということがわかる。
本研究にかかわる項目である「授業の中で, 昔の人の生き方や考え方について意見交換する
のが面白いから」も9%あり,今後,発表や討論形式の授業を行うことにより,古文への興味
関心を高められる可能性がある。
(図5)
(図6)
5 古文の勉強に力が入らない理由
ト その他
5%
ヘ
6%
ホ
3%
イ
17%(32人)
ニ
5%(10人)
ハ
27%(51人)
ロ
37%(69)
イ 昔の人の生き方や考え方を学
んでもたいして役には立たないと
思うから
ロ 古語の意味を覚えたり、文法
を勉強するのが嫌だから
ハ 古文の意味を読み取るのが大
変だから
イ 先生が興味のある話をしたり,
いろいろな資料を見せたりしてくれる
6 生徒が望む古文の授業は
ホ
5%(8人)
イ
35%(59人)
ニ
29%(49人)
ロ 授業の仕方を変えて,訳すだけ
でなく,昔の人の生き方の良さや考
え方についてみんなで理解したり話
し合ったりする時間を持つ
ニ 古文の授業は,訳して意味を
読み取るだけでつまらないから
ハ 七夕や盆など,今残っている行
事や風習と古文を結びつけて学べる
ようにする
ホ 昔の人の生き方や考え方が古
くさくて今の自分たちには合わない
から
ヘ 受験勉強として関係ないので、
する必要が感じられないから
ニ もっと文法や単語をしっかり学ん
で基礎力をつけ,古文を何なく読め
るようにする
ト その他
ハ
20%(34人)
ロ
11%(19人)
ホ その他
(5) 古文の勉強に力が入らない理由(図5)
上の図5から,古文の学習をする際に,現代語と意味がかけ離れた古語や古典文法の習得が大き
な障害になっていることがわかる。古文の学習意欲を高めるためには,これらの指導の工夫が求め
られる。しかし,どんな分野の学問にも言えることだが,未知のものを理解するには,多かれ少な
かれ苦労を伴うものである。その苦労を乗り越えるためには,学習者の努力も必要であると同時に,
授業者にも,生徒の興味・関心を喚起する努力が求められる。なお,本研究に直接関係する項目と
しては,5%(10名)の生徒が「古文の学習は,訳して意味を読み取るだけでつまらないから」を
選んでいる。
(6) 生徒が望む古文の授業(図6)
生徒が望む授業の在り方としては ,「先生が興味のある話をしたり,いろいろな資料を見せたり
してくれる」が35%,「 もっと文法や単語をしっかり学んで基礎力を付け,古文を何なく読めるよ
うにする」が29%,「 七夕や盆など,今残っている行事や風習と古文を結びつけて学べるようにす
る」が20%と多いが,「授業の仕方を変えて訳すだけでなく,昔の人の生き方の良さや考え方につ
いてみんなで理解したり話し合ったりする時間を持つ」も11%(19人)おり,本研究の主要テー
マである, みんなで「解釈」し ,「熟考・評価」し合いながら読みを深めていく取組 によって,
学習意欲を高められる可能性を感じる。
- 10 -
2
PISA型「読解力」の視点を通した授業改善によって古文の学習意欲が
高まったかー事後アンケートの分析ー
(山梨県立普通高校 検証授業実施クラス2クラスの37人を対象としたアンケート)
まず,授業で行った一連の学習について,どの程度の意義を感じているかを一つ一つの授業内容
ごとに調査した。(補助資料 P13参照)
[読解のプロセス 情報の取り出し]に関する質問
(図1)
(図2)
1 重要古語の意味を辞書で引いて確認した。
あまり感じな
かった
5%
2 助動詞を中心とした文法を,必携古典文法や
教科書巻末で確認しながら覚えた。
全く感じなかっ
た
0%
あまり感じな
かった
14%
大いに感じた
41%
全く感じな
かった
0%
大いに感じた
41%
まあまあ感じた
54%
まあまあ感じ
た
45%
図1,図2から,辞書を引いて古語の意 (図3)
味を確認したり,表を用いて助動詞の意味
3 対句を中心としたプリントで全文の構成を確認
し,○×をつけて兼好の評価を確認した。
を確認しながら本文の意味を読み取るなど
全く感じな
の基本的な学習(1~5時間目)には,95
あまり感じ
かった
%の生徒が意義を感じていることがわかる。
なかった
3%
8%
図3から,学習プリント②を使って文章
大いに感じ
た
の構成を明らかにした上で,兼好の美意識
41%
に合うものとそうではないものを○×で判
別する学習(6時間目の授業)に対しては,
まあまあ感
86%の生徒が意義を感じていることがわか
じた
48%
る。
[読解のプロセス 解釈]に関する質問
(図4)
生徒が最も困難を感じた学習である。兼
4 兼好の考え方の柱やなぜそう考えるのかにつ
好の主張を抽象度を上げながら整理したり,
いて,班で話し合って友人と意見交換した。
本文の記述を基にしながら,背後にある根
全く感じな
あまり感じ
拠を推論するというようなことは,今まで
かった
なかった
の学習であまりやってきていないので,と
5%
14%
大いに感じ
まどいもあったはずだ。しかし,図4を見
た
ると,81%の生徒が,この学習に対して
49%
「大いに意義を感じた」と「まあまあ意義
を感じた」と答えている。このように,多 まあまあ感
くの生徒が,きちんと「解釈」を行ったこ
じた
32%
とが兼好の美意識を深く理解する上で役立
ったと感じており,この学習の意義を認め
ている。私も ,「解釈」は,一連の「読解のプロセス」の中で一番重要なものであり,本研究にお
いても山場の一つだと考えている。
- 11 -
[読解のプロセス 熟考・評価]に関する質問
平成18年度山梨県高等学校教育課程実施状況調査結果によると,「人前でスピーチや説明をする
こと」に対して「好きだった」が8.6%だったのに対し ,「嫌いだった」の割合が47.3%(全国の
平均は47.7%)と高い。日本の高校生は,教師の話を聞いて理解する一方的な授業に慣れ親しん
でいるせいか,自分が主体的に判断し意見を述べるような発表形式の授業に抵抗があるようだ。
そうした傾向がある中で,図5を見ると,今 (図5)
回の授業で行った兼好の主張を「熟考・評価」
5 兼好の考えに対して賛成か反対かで,自分の意
し,それを発表し合って考えを深める学習に
見をまとめ発表し合った。
対して,83%の生徒が「大いに意義を感じた」
全く感じなかっ
あまり感じな
た
「まあまあ意義を感じた」と答えており,多
かった
3%
14%
くの生徒がこうした発表形式の授業の意義を
大いに感じた
38%
認めている。
その一方で,17%の者が「全く感じなかっ
た 」「あまり感じなかった」としている。後述
の授業内容に関する質問を見ると ,「自分が主
まあまあ感じた
45%
体的に考えたりみんなの前で発表するのは苦
手なのであまりしたくない 。」と答えた者が12
%おり,自分が主体的に判断し意見を述べる形式の授業に抵抗を感じているこれらの生徒の声が,
この質問にも反映されていると思われる。
(図6)
[読解のプロセス 表現]に関する質問
6 土曜講座で,先人の意見をもとに擁護派と批
今回のディベートのテーマは,日本人
判派に分かれディベート形式を意見交換した。
の美意識についてというかなり扱いにく
全く感じな
いものであった 。(補助資料P11のディベ
かった
あまり感じ
ート「兼好の自然観照をめぐって」を参
16%
大いに感じ
なかった
照)それにもかかわらず,賛成派,反対
た
5%
47%
派とも持論を述べ合い,活発な討論が展
開された。教師が,劣勢になった派にて
こ入れすることもあったが,その教師の
まあまあ感
じた
論に対して生徒が反論を試みるという場
32%
面もあった。議論を見ていくと,兼好の
み
考えを擁護する派は ,「無常観」という哲学的な観念を通して自然を観ようとする傾向があり,批
判派は,自然の美しさをそのまま直感で感じようとする傾向が表れている。
図6を見ると,ディベート形式の授業に対して79%の生徒が「大いに意義を感じた」と「まあま
あ意義を感じた」と答えており,討論形式の授業が,古文の授業改善にとって有効であると判断で
きる。その一方で,21%の生徒が「あまり感じなかった 」「全く感じなかった」と答えており,こ
こにも,自分が主体的に判断し意見を述べる形式の授業に抵抗を感じている生徒の声が反映され
ていると考えられる。
(図7)
[授業内容]に関する質問
今回の研究テーマに直接かかわる
質問である。筆者の主張を「解釈」
したり「熟考・評価」したものを発
表し合ったり,ディベート形式で自
分の主張を述べることによって古文
の「読み」を深め,学習意欲を高め
ることがこの研究の主題だったが,
図7を見ると,この授業内容が,生
2 上記の4~7の授業内容について,あなたの
感想は次のどれに該当しますか。
E 0%
D
12%
F その他
0%
A
31%
C
28%
B
29%
- 12 -
A 今までの訳して終わりの授
業より,興味深く受けられた
B 作者の主張について深く考
えるようになって有意義だった
C 自分の意見を述べたり,友
達の意見を聞くのは楽しいの
で,時々は行いたい
D 自分が主体的に考えたりみ
んなの前で発表するのは苦手
なので,あまりしたくない
E このような授業形態の良さは
あまり認められないので,1や2
の授業内容を重視してほしい
F その他
徒の興味・関心を喚起している(Aの選択肢 31%)
,古文の読みを深められる(Bの選択肢 29%),
意見交換の楽しさを感じられる(Cの選択肢 28%)ことがわかる。このことから,今回の授業が,
生徒の興味・関心を喚起し,古文への学習意欲を高めるものであったと考えられる。
(図8)
[学習意欲]に関する質問
3 こうした授業が,少しでも古文の学習意欲につながった
と思いますか。
D
0%
A かなり古文の勉強に
E
興味がわいてきた
0%
図8の,今回の授業が学習意欲を高める
ものになっているかどうかの質問でも,「か
なり興味がわいてきた」が24% ,「少しは
興味がわいてきた」が52%おり,両者を合
わせると,76%にのぼる。この結果からも,
今回の授業が,かなりの生徒にとって興味
関心を喚起するものだったということがわ
かる。
C
24%
A
24%
B 少しは古文の勉強に
興味がわいてきた
C あまり変わらない
D かえって意欲がなく
なった
B
52%
E その他
[生徒の記述から](補助資料P14参照)
事後アンケートの質問項目4に対して,37人中19人が記入してくれた。そのうち,「今後も
班で話し合ったり,皆で意見交換する授業をしてほしい 。」とか ,「作者の意見や考えを意識して
読むと,文章の内容がすんなりと頭に入ってきた 。」といった,今回の授業を積極的に評価してい
て,今後も授業に取り入れてほしいという意見が15人あった。一方で,4人の生徒から,「もう
少し文法や古語を覚え,自分でだいたいの要約などできるようになってからこのような授業を行っ
てほしい 。」といった意見が寄せられており,文法や古語の学習がまだ十分ではないと考えている
生徒もいることがわかる。このことから,今までの「情報の取り出し」に関する学習をきちんと行
った上で,今回の授業を導入することが肝腎だと考えられる。
Ⅴ
研究のまとめと今後の課題
PISA型「読解力」というと,一般的には現代文の「読み」に関するものだと思われがちである。そ
うした中で,古文の授業改善にPISA型「読解力」の視点を導入したわけだが,今回の研究を通して,
PISA型「読解力」の視点での指導が,古典の読解にも十分応用できるものだということがわかった。
P6からの「授業の様子」でも述べておいたが,学習プリント①への生徒の記入例を見ると,読解の
プロセス「解釈」を行う前と後では,兼好の自然観照の仕方についての理解度が全く違っていること
がわかる。兼好の主張への深い理解に基づいて,その主張を「熟考・評価」することによって説得力
のある意見発表が可能になり,更に,ディベートにおいても有意義な議論を展開することができた。
また,事後アンケートからは,こうした授業内容によって学習意欲が高められたことも確認されてお
り,古文の学習においても,PISA型「読解力」の視点を通しての授業改善が有効であると結論づける
ことができた。更に言うならば,研究の基本的考えの1「 古文の読解指導にPISA型『読解力』の視
点を取り入れることの意味 」(P3の後半部)にも記しておいたが,先人の議論に学べるという意味
でも,先人によって様々な議論がなされてきた古文の学習においてこそ,PISA型「読解力」の視点で
の授業が有意義であると考えられる。
ただ,この手法は,すべての教材に導入できるわけではなく,何らかの主張があったり,記述内容
に対する見解が分かれる教材に適しており,情景描写などの,そうではない教材には不向きと言える。
また,通常の授業に比べて3時間ほど余分に時間がかかり,日々進度に追われる状況の中では,いつ
でも行えるわけではない。また,普通高校の授業においては,「情報の取り出し」が中心の受験のた
めの勉強との兼ね合いの問題もある。しかし,有元秀文が「教育科学 国語教育」2007年4月号で書
- 13 -
いているように,このPISA型「読解力」を高める取組は,日本の授業の在り方を根底から変える可能
性を持っている。今後,国際的に通用する学力を育てられるかどうかは,我々教師の力の入れように
かかっている。
参考文献
・文化審議会答申「これからの時代に求められる国語力について」
・中央教育審議会答申「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改
善について」
・平成18年度山梨県教育課程実施状況調査報告書
・日本国語教育学会編『国語教育辞典』
・「読解力向上プログラム」文部科学省
・明治図書『教育科学 国語教育』2007年4月号 なぜ今「国際的なコミュニケーション」か?
・『ホンモノの思考力』樋口裕一著 集英社
・国語科指導資料集 『古典編』 東京法令出版
・日本古典文学大系65巻 『能楽 歌論集 能楽論集』 岩波書店
・古典日本文学全集34巻 『本居宣長集』 筑摩書房
・古典日本文学全集36巻 『芸術論集』 筑摩書房
・『方丈記と徒然草』永積安明著 岩波書店
・『つれづれ草文学の世界』 西尾実著
法政大学出版局
平成19年度
執 筆 者
- 14 -
山梨県総合教育センター
研 修 主 事
橘 田 雅 春
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