...

News Letter Vol.6 - 日本Men`s Health医学会

by user

on
Category: Documents
2

views

Report

Comments

Transcript

News Letter Vol.6 - 日本Men`s Health医学会
日本 Men’s Health医学会
ニューズレター 【Vol.06 Oct.2010】
【男性ホルモンと海馬機能】
横浜市立大学名誉教授、国際医療福祉大学大学院客員教授
田中(貴邑)冨久子
■プロフィール■
田中 (貴邑) 冨久子 (たなか ふくこ)
1964 年 横浜市立大学医学部卒業
1985 年 横浜市立大学医学部教授 (生理学)
2004 年 横浜市立大学医学部長
2005 年 横浜市立大学名誉教授
2008 年 国際医療福祉大学大学院教授
(専門 ; 生理学、 生殖生理学、 神経内分泌学、 脳科学)
海馬が記憶を司る脳部位として認識され始めたのは、 アメリカの
泌量は正常ラットと同等にまで回復した。 しかし、 雄性へのエストラジ
H.M. 氏がてんかんの治療のため、 海馬を含む両内側頭葉切除うけた
オール、 雌性へのテストステロンの投与は効果がなかった。
後に重篤な逆行性健忘症に陥った 1950 年代後半である。 彼は新し
これらのことから、 海馬内への A C h 分泌動態の性差は脳の性差、
い出来事や知識を全く記憶できなくなってしまった。 その後、 彼の記
とくに中隔核に両性ともに存在することが判明しているアンドロジェン受
憶障害の観察と莫大な量の研究が行われ、 現在までに、 海馬は出
容体とエストロジェン受容体の濃度の性差に依存していることを私たち
来事記憶や空間記憶の獲得に必須の役割を果たしていることが明らか
は推測している。 また、 学習や運動が中隔核の A C h 神経を刺激し
になった。
て ACh 分泌を起こさせる効果も、 性ステロイドホルモンの作用下で
この海馬依存性の記憶獲得には、 海馬に分泌されるアセチルコリン
のみ発現することが明らかである。
(ACh) が重要な役割を果たしていることも分かってきた。 新しい出
以上のことから、 男性の海馬機能、 つまり神経細胞の新生を含む
来事や学習がもたらす感覚情報が新皮質の感覚野から海馬歯状回に
記憶獲得の能力が大きく男性ホルモンに依存していることが推測され
送られているとき、 前脳基底部にある中隔核の ACh 神経は海馬内に
る。 ACh を分泌する。 これにより海馬にシータ波 ( 脳波 ) が発生する。
このシータ波は歯状回において、 成熟後もこの脳部にある神経前駆細
胞から新しい神経細胞をつくらせる。 ACh 分泌は新生された神経細
胞が生存するためにも必要とされる。 最後に、 学習したり、 運動した
りといった生活活動が、 この中隔核からの ACh 分泌を刺激することも
明らかにされている。
一方で性ステロイドホルモン、 とくに女性ホルモンの一つ、 エストロジェ
ンが海馬機能に与える影響に関しては、 認知症が女性に多いことの
基盤を求める目的で、 莫大な量の研究が行われてきている。 私たち
横浜市大医学部の研究者グループも、 性ステロイドホルモンが海馬に
分泌される ACh 量にどのような影響を与えるかを知る目的で、 雌雄
のラットを用いて調べてきた。 ここで、その結果を簡単にお話したい (図
1)。
私たちは、 まず正常なラットにおいて、 海馬内への A C h 分泌動態
を 24 時間にわたって測定した。 ACh 分泌量には、 ラットが夜間に活
動することを反映して夜間に上昇するという日周変動があり、 さらにそ
の夜間の上昇には雌性より雄性で高いという性差が見られた。 しかし、
精巣や卵巣を摘除して血中性ステロイドホルモン濃度を低下させると、
(図 1)海馬アセチルコリン分泌に対する去勢とアンドロジェンの効果
(雄性ラットの海馬機能のアンドロジェンは依存性)
Mitsushima D, Takase K, Funabashi T & Kimura F, Journal of Neuroscience
2009; 29;3808-3815
ラットは夜間の活動を遂行しているにもかかわらず、 雌雄ともに夜間の
ACh 分泌量が激減した。 そこで、 雄性ではテストステロンの補充、
雌性ではエストラジオールの補充を行なったところ、 夜間の ACh 分
■ホームページリニューアルしました。
8
The Japanese Association of Men’s Health 2010 | 10
The Japanese Association of Men’s Health 2010 | 10
1
「第2回抗加齢内分泌研究会 (DHEA 特集 )」の開催報告
福岡大学医学部内分泌・糖尿病内科教授
【男性骨粗鬆症】
医療法人財団博愛会 ウェルネス天神クリニック副所長 鈴木 静
福岡大学医学部 内分泌・糖尿病内科教授 柳瀬 俊彦
柳瀬 敏彦
■プロフィール■
柳瀬 敏彦(やなせ
としひこ)
■プロフィール■
1980 年 九州大学医学部卒業、第三内科入局
1987 年 医学博士、米国テキサス大学(ダラス)生化学留学
1991 年 九州大学第三内科助手
1999 年 同 講師、
2000 年 同 助教授
2009 年 福岡大学内分泌糖尿病内科教授
第 2 回抗加齢内分泌研究会は本年 9 月 5 日(日)に「DHEA」
を特集テーマとして福岡大学医学部臨床大講堂にて開催さ
れ、90 余名の参加者は、猛暑に負けない熱い討議をくりひ
ろげた。この会のオーガナイザーである柳瀬が「DHEA(-S)
とは?」と題するオーバービュー講演を行った。DHEA は
性ステロイドの前駆体としての意義と同時に D H E A 固有の
作用が存在するが、受容体の存在も含めいまだ明確な作用
機序が不明であること、加齢で漸減低下する血中 DHEA-S
値は老化指標であると同時に、国内外の前向き疫学データ
から少なくとも男性では長生き指標にもなり得ることなど
を紹介した。D H E A の抗糖尿病、抗動脈硬化、抗骨粗鬆症、
抗痴呆効果などについて概説した後、各論の講演に移った。
2 型糖尿病モデルでは D H E A 投与により耐糖能、インスリ
ン抵抗性が改善する。上芝 元氏(東邦大学内科)、福井道
明氏(京都府立医科大学内科)は動物モデル及びヒトにお
いて糖尿病状態により血中 D H E A - S 値が低下し、治療によ
り同値が改善上昇することを示し、副腎への可逆的糖毒性
の可能性を指摘した。福井氏はさらに「スタチン投与によ
り糖尿病の新規発症が増加する」との最近の報告に関連し
て、スタチンによる DHEA-S 産生抑制の可能性について言
及した。河野宏明氏(佐賀大学循環器内科)は DHEA には明
確な血管内皮機能改善作用があること、心臓自身から産生さ
れる DHEA には心筋肥大抑制効果があり、心不全時にはその
分泌が減少することから DHEA には心保護的作用があるとの
知見を提示した。続いて鈴木 静氏(博愛会ウエルネス天神)
は血中の DHEA は骨芽細胞に発現するアロマターゼを介して
エストロゲンに変換され骨保護に作用する機構を紹介した。
また疫学的には高齢女性への DHEA 補充は再現性をもって骨
密度を増加させること、また DHEA とビタミンDの併用投与
はさらに有望な骨粗鬆症治療となる可能性を紹介した。実験
レベルでは DHEA の神経保護作用が知られているが、認知
機能、ADL に及ぼす効果については、臨床的には明確では
ない。秋下雅弘氏(東京大学老年病科)は虚弱高齢女性に
おける血中 DHEA-S 濃度は高いほど、総死亡リスクが低いと
の興味深い知見を発表した。また要介護高齢者の基本的 ADL
は女性では DHEA-S 値と相関性を認め、男性では遊離テス
トステロン (FT) 値との間に強い相関性を認めた。認知機
能は男性では FT 値、DHEA-S 値との間に相関性を認め、FT
2
値との間により強い相関性を認めているが、 女性では有意の因子
を認めなかった。 また軽度認知症の高齢者への DHEA 補充によ
り軽度の認知機能の改善を認めたと報告した。 生殖機能に及ぼ
す DHEA の効果についてはほとんど不明である。 徳永義光氏
(ALBA OKINAWA CLINIC) は卵胞の適切な発育にはアンドロゲン
が重要であることを紹介し、 早発卵巣不全 (閉経) 症 19 例に
おいてカウフマン療法に DHEA の併用投与を試み、 血中 FSH の
有意の低下、 5 例で排卵を認め、 3 例では妊娠に成功したとの
知見を紹介した。 最後のセッションでは小規模ながら DHEA 補充
療法の成績が 3 氏より紹介された。 柳瀬は 11 人の健常中高年
男性 (平均年齢 55 歳) へ 25mg DHEA 補充を 6 ヶ月間行い、
HbA1C 値、 adiponectin、 骨代謝マーカーなど種々の生活習慣
病関連マーカーを調べた。 血中 DHEA-S 値は服用で有意に上
昇したが、 各種パラメーターはいずれも経時的に有意な変動を認
めなかった。 しかしながら、 血中 DHEA-S 濃度よりも血中テスト
ステロン濃度と adiponectin、 HOMA-R、 遊離脂肪酸との間に相
関性 (インスリン感受性を上昇させる方向) を認め、 DHEA はT
へ変換後、糖代謝改善の方向に作用している可能性を示唆した。
米井嘉一氏 (同志社大学) は、ホルモン年齢という概念を提唱し、
血中 DHEA-S 値の絶対値評価と同時に個人の経年的変化度か
ら DHEA 補充を行う重要性を強調し、 個人によっては DHEA 服
用により極めて顕著な QOL の改善や骨密度の増加を認める症例
があることを報告した。 また運動によって血中 DHEA-S 値が上昇
するとの成績を示した。 また田中 孝氏 (田中消化器クリニック)
はアンチエイジングドックの中で 45 歳以上 DHEA1000ng/ml 以下
の対象者 (n=13) で DHEA10-25mg/ 日の補充を行い、 血中
DHEA-S 値の上昇と同時に E2、 テストステロンの上昇を認め、
同時にプロゲステロンの上昇を観察した。 服用者では体重の有意
な低下が認めたが、 身体、 心面でのスコアの改善や血中 IGF-1
の改善は認められなかった。 以上、 各氏の発表内容は、 ユニー
クかつ貴重で、 小規模ながら DHEA 関する独自の臨床データが
着実に集積されつつあると感じた。 高齢女性における骨粗鬆症
や虚弱高齢者への DHEA 補充療法や早発卵巣不全患者への
DHEA 投薬治療などは有効性に関する有望なエビデンスも集積
されつつあり、 少子高齢化の現代において、 今後、 一層の関心
と広がりをもって展開されるべき領域であると感じた。
鈴木 静
(すずき しず)
1994 年 宮崎医科大学卒業、九州大学医学部第三内科入局
福岡市民病院、九州大学医学部付属病院、
国立病院九州医療センター勤務
1997 年 九州大学第三内科内分泌代謝 研究生、医員
2003 年 医療法人財団博愛会 博愛会病院勤務
2008 年 同医療法人財団ウェルネス天神クリニック副所長
内分泌代謝科専門医、糖尿病専門医、
日本骨代謝学会、日本骨粗鬆症学会所属
骨粗鬆症は閉経後女性に多くみられる疾患であるが、 男性において
ドホルモンの中で最も血中濃度が高い。 一方で、 男女ともに 30 歳
も加齢とともに徐々に骨粗鬆症の頻度は増加する。 実際に骨粗鬆症
代をピークにその血中濃度が急速に減少し、 ヒトでは血中 D H E A - S
による大腿骨頚部骨折の約3分の1は男性である。 男性では、 女性
値が低いほど骨密度が低下することが知られている。
の閉経に相当する明らかな骨粗鬆症の発症原因が存在しないため、
卵巣機能が廃絶した閉経後女性において, エストロゲンの主要な
二次性骨粗鬆症が約 50%以上を占める。 中でも性腺機能低下に伴
ソースは DHEA-S などの副腎アンドロゲンである。 閉経後女性 120
う二次性骨粗鬆症が重要で、 特に、 高齢者に多い前立腺癌では、
名の腰椎骨塩量と血中ステロイドホルモンレベルとの関連を検討したと
早期にアンドロゲン除去療法 (内分泌療法) を導入、 長期間継続す
ころ、 卵巣由来のエストリオールと骨塩量では相関が認められず、
る場合に骨折予防が必要である。 閉経後女性の骨粗鬆症と同様に、
DHEA-S、 エストロンとの間に正の相関を認める。 このことは、 副腎
男性においてもアンドロゲン低下による骨吸収の増加が関与していると
アンドロゲンが骨量維持に何らかの関与をなしていることを示唆するも
考えられており、 内分泌療法下の前立腺癌症例に対するビスホスホ
ので、 DHEA-S は閉経後女性でのエストロゲンのソースとなり、 骨粗
ネート製剤の効果が示されている。 (文献1)
鬆症の発症防止に働く可能性を示すものと考えられる。 (文献3)
性腺機能低下症の男性は骨量低下をきたし、 アンドロゲンの補充
加齢に伴い減少する DHEA の補充療法は以前より注目されており、
療法にて骨量の増加を認める。 実際に高齢男性の骨塩量はテストス
骨塩量については高齢女性において、 再現性をもって骨量増加作用
テロンの投与により増加することが知られている。 アンドロゲンレセプター
が報告されており、 特にビタミン D との併用療法は有望である。 (文
(AR) は骨芽細胞および骨髄内の血管内皮細胞や、 巨核球細胞、
献4)
骨芽細胞の前駆細胞である骨髄間質細胞での発現も確認されており、
AR は骨組織に広く発現している。 このことより、 アンドロゲンは AR を
介して各種サイトカインや成長因子の合成やその作用を調節し、 エスト
【文献】
ロゲンと同様に骨形成と骨吸収を調節しているものと考えられる。 実際
1.Smith MR,et al. New Engl J Med 345:948-955,2001
AR ノックアウトマウスにおいても骨粗鬆症が起こることから、 男性ホル
2.Kawano H, et al:Proc Natl Acad Sci USA 100(16):9416-9421,2003
モン自身にも直接的な骨量増加作用があることが示されている。
3.Yanase T et al. J Steroid Biochem Mol Biol 86:393-397,2003
一方で、 エストロゲンレセプター異常やアロマターゼ欠損の男性症例
4.Weiss EP et al. Am J Clin Nut89:1459-1467,2009
において、 著明な骨粗鬆症を呈する。 血中のアンドロゲンが高値であ
るにもかかわらず、 骨量が減少していることから、 男性においてもエス
トロゲンが骨代謝に重要であることを示している。
ヒトでは骨を含めた末梢組織でのアロマターゼ活性が高く、 男性、
女性の両方でエストロゲンの骨量維持作用が優位に発揮されている可
能性が高い。 さらにヒトでは骨量に与える作用はエストロゲンの方がテ
ストステロンよりも優位であると考えられている。 (文献2)
副腎アンドロゲンであるデヒドロエピアンドロステロン (DHEA:Dehydroepiandrosterone) はそれ自体の生理活性は弱いが、 あらゆるステロイ
The Japanese Association of Men’s Health 2010 | 10
The Japanese Association of Men’s Health 2010 | 10
3
【男子の幼小児期~思春期までの内分泌学的考察】
帝京大学医学部泌尿器科准教授
【胎児期テストステロンの指標としての指長比】
井手 久満
札幌医科大学泌尿器科助教
■プロフィール■
■プロフィール■
井出 久満
久末 伸一
(いで ひさみつ)
久末 伸一
(ひさすえ しんいち)
1995 年 札幌医科大学卒業、 同泌尿器科医局入局
2005 年 学位取得
2006 年 米国マサチューセッツ大学博士研究員
2009 年 坂口賞受賞
2010 年 腹腔鏡技術認定医取得、 性機能学会専門医、 ICD
先日、 以下の記事をインターネットで読んだ。
longitudinal study of adolescent males.:Horm Behav.
脳の性差は胎児期もしくは周産期のテストステロンにより形成されるこ
果、 2D:4D の低い群で高い群と比較すると興味深いことに年収が 10
―全国の小中高校が 2009 年度に把握した児童 ・ 生徒の暴力行為
2006;50:118-25.)。 ま た、 思 春 期 男 児 に お い て Externalizing
とが動物実験で確認されている (Hisasue et al. J Sex Med 2010)。
倍多いこともわかった (Coates et al. PNAS 2009 )。 大規模研究とし
は前年度比 2%増の 6 万 913 件で、 初めて 6 万件を超えたことが、
behavior (カッとするとすぐキレてしまい、 人に対して攻撃的な行動が
特に性自認や性行動に関連する視床下部領域にその変化は顕著に
ては英国放送協会 (BBC) による 15 万人を対象としたインターネット
文部科学省の問題行動調査で分かった。 文科省はささいなことで暴
衝動的に出てしまう、 あるいは好奇心がすごく旺盛でその注意の制御
表れる。 また、 この時期のテストステロンは自閉症やアスペルガー症
調査がある。 これによると、 支配 ・ 優越性スコアと 2D:4D は男女とも
力を振るうケースが多いと指摘。 「感情のコントロールができず、 コミュ
をうまくできずにあちこちふらふらしてしまう等、 そういう注意欠陥、 攻
候群のような脳の疾患にも関わっていることがわかってきた (Manning et
逆相関した。 2D:4D が低ければ支配性が高いことになる。 また、 男
ニケーション能力や規範意識が欠如している」 と分析している。 ―
撃的反社会的な行動傾向) とテストステロンの相関が報告された
al. Dev Med Child Neurol. 2001) 。
性では 2D:4D が低いほど、 女性では 2D:4D が高いほど性的に興奮し
おりしも H22 年 8 月 28,29 日、小樽にて日本思春期学会が開催され、
(Maras A et al, Association of testosterone and
これら動物実験からわかったことをヒトで再確認することは極めて困難
やすく、 子供の数も多いこともわかった (Manning et al. A J Hum Biol
思春期におけるテストステロンと行動活性をいうテーマをいただき発表
dihydrotestosterone with externalizing behavior in adolescent boys
である。 第一に胎児期や周産期の採血は極めて侵襲的であること、
2008)。
させていただいた。 思春期の初期には視床下部から G n R H が分泌さ
and girls.: Psychoneuroendocrinology. 2003;28:932-40.)。
行動学や疾患と結びつけるためには少なくとも十数年、 対象によって
最近、 我々は性自認と 2D:4D の関連について検討を報告した。
れ、 下垂体における L H と F S H の分泌を上昇させ, テストステロン産
これらのデータからは、 教育現場において、 テストステロン値を測
は数十年待たなくてはいけないこと、 また、 これらを成し遂げるために
GID-FTM (性同一性障害 - 染色体上は女性で性自認が男性) の
生を活性化させる。 思春期における G n R H の分泌には kisspeptin と
定することによって問題行動を起こす可能性のある男児をスクリーニン
は莫大な費用を要することなどによる。 そこで最近、 Manning らによっ
2D:4D はコントロールと比較して有意に低い結果となった。 現在、 男
いう peptide や G P R 5 4 という受容体が重要な役割を果たすことが、
グできる可能性が示唆される。 テストステロンは 20 歳ごろまで上昇を
て精力的に行われているのが指の長さの研究である。 これは 2D:4D と
性外来を受診した患者のテストステロンとの相関の検討を行っている
knock out マウスなどの解析から報告されてきている。 しかし、 どのよ
つづけ、 以後緩やかに減少を始める。 思春期におけるテストステロ
呼ばれ、 第 2 指 (人差し指) と第 4 指 (薬指) の比で表される。
が、 極めて興味深い結果が出つつある。 胎児期のテストステロンの
うにして思春期に kisspeptin の分泌が上昇するかなど、 いまだ不明な
ンの上昇は造精機能などの身体的発達には必須である。 思春期に
胎児期にテストステロンを浴びると薬指が長く、 もしくは人差し指が短く
マーカーとしての 2D:4D を検討することで、 行動学だけでなく様々な
点も多い。 テストステロンの働きは骨や筋肉の成長、 精巣、 陰茎の
おいては、 からだの急速な発達、 外的活動や学校、 社会、 友達、
なるため、 男性ではこの比が低く、 女性では高く 1.0 に近似する。
病態についてもメカニズムを明らかにできる可能性がある。 今後の研
発達や陰毛の発現のみならず、 攻撃性や自己の主張など精神活動
親など環境との関わりがストレスとなり、 高次中枢を介してテストステロ
胎児期のテストステロンの指標であることの科学的な根拠としては、 ま
究結果に大いに期待したい。
への影響を及ぼす。 これまでテストステロンと行動活性の関連性は多
ンの分泌に影響を及ぼしている。 テストステロンが急速に上昇する不
ず、 アンドロゲン受容体 (AR) の CAG リピート数が 2D:4D と正の相関を
くの研究がなされてきた。 鳥やマウスの動物実験において、 テストス
安定な年齢において、 テストステロン ・ ヘルスチェック ・ キットのよう
することが挙げられる (Manning et al. Evol Hum Behav 2003)。 また、
テロンと行動活性の関連は確立されているが、 人間においてはいまだ
な簡便なテストステロン測定を用い、 テストステロン値を指標とした体
アンドロゲン不応症候群 (AIS ; 性染色体は XY、 表現型は女性 ) の
コンセンサスが得られていない。 環境、 社会要因、 遺伝的因子など
調、 精神、 ストレス管理や個人個人における思春期教育、 指導の
2D:4D は女性型となる (Berenbaum et al. Endocrinology 2009)。 逆
の複雑な関連因子や行動活性の評価方法の困難さが、 思春期にお
可能性があるかもしれない。 テストステロンが低下した状態から生じる
に胎児期に高テストステロンとなる先天性副腎皮質過形成の女性の
けるテストステロンと積極性、 攻撃性などの行動活性に関する心理社
男性更年期や ED などの患者を多く診療しているが、 思春期は急速
2D:4D は男性化することが知られている (Brown et al. Horm Behav
会的研究の再現性や不均一性に影響を及ぼしている。 2001 年のテ
なテストステロンの上昇があり、 いわば男性更年期とは対極の状態と
2002, Okten et al. Early Hum Dev 2002)。
ストステロンと攻撃性を検討した 45 論文の meta-analysis では 2 論文
いえる。 思春期の行動活性とテストステロンの研究は、 これから検討
これまでの 2D:4D を用いた研究は多岐にわたっている。 行動学にお
の み 相 関 が あ る と さ れ た (Halpern CT et al, Relationships between
すべき課題も多い。 しかし、 テストステロンを科学する視点から、 思
いて男性も女性も 2D:4D が低いと攻撃性が上昇することが知られてい
aggression and pubertal increases in testosterone: a panel analysis
春期研究から得られる情報は、 我々の診療に有用なヒントをもたらし
る (Hampson et al. Arch Sex Behav 2008)。
of adolescent males. Soc Biol. 1993;40:8-24.)。
てくれるかもしれない。
この傾向は株式トレーダーを対象とした研究で顕著に表れ、 2D:4D
しかし、 最近、 比較的安定して唾液テストステロンやフリーテストス
の低い群で損益比が大きかった。 これは risk-taking behavior と呼ば
テロンの測定が可能になり、 思春期における攻撃性とテストステロンの
れる危険を顧みない行動傾向が表れたものと考えられている。 その結
MT Pro2010 年 8 月 5 日掲載記事より
関連を指摘する報告が増えてきた。 12 から 21 歳 (96 名) までの
唾液テストステロンを計測し、 犯罪履歴と 16 歳時の唾液テストステロ
ンとの相関や、 攻撃性と非行行動のテストステロンとの相関が報告さ
れ
て
い
る (van Bokhoven I et al, Salivary testosterone and
aggression, delinquency, and social dominance in a population-based
4
The Japanese Association of Men’s Health 2010 | 10
The Japanese Association of Men’s Health 2010 | 10
5
Keynote Lecture
Significance of “Sleep-Related Erection(SRE)/Morning Erection(ME)” and it’saging change
金沢大学大学院医学系研究科集学的治療学教授
日本 Men’
s Health 医学会
理事長
マレーシア領ボルネオ島の Kota Kinabalu で 2010 年7月 9 日~
11 日に開催された 5th JAPAN-ASEAN Conference on Men’s
Health & Aging の ご 報 告 を い た し ま す。 本 学 会 は 日 本 と
ASEAN 諸国が高齢化社会における男性の健康 (Healthy aging
for men) を共通のテーマとして取り組むことを目的に 2006 年に
スタートし、 1 年交替で日本と ASEAN 諸国が開催しています。
小規模ですが、 アットホームな雰囲気で気軽に意見交換できる
ユニークな学会で、 アジア諸国のこの分野の医療関係者、 社
会学者等と親しく交流できる絶好の機会になっています。
7月 9 日~ 11 日の学術大会に先立ち、 7 月 6 ~ 7 日にボル
ネオ島東部の Sandakan で Satellite Symposium が行われました。
日程的なことからこの Symposium に参加された先生方は約 30 名
でしたが、 President of I S S M の Dr Dean、 President of ISSM
の Dr Meryn、 U C SF の Lue 教授、 Texas 大学の Wang 教授、
そして日本からは熊本悦明日本 Men’s Health 医学会理事長な
ど、 この分野の世界的リーダーが参加されました。 Sandakan 近
郊にはボルネオ島の自然が保存された地域があり、 この様な場
所で男性の健康のみならず、 地球環境なども含め Global な視
点から討議が行われたことは意義深いことでした。
7月 9 日からの学術大会が行われたボルネオ島 Kota Kinabalu
はマレーシアの3つの州の一つである Sabah 州の州都で都会的な
リゾート地で国際学会の開催地として素晴らしい場所でした。 学術大
Sabah 州のトップだけに、 演説はウイットに富んだ聴衆を引きつけ
るものでした。 その後、 日本国堀江正彦マレーシア特命全権大
使のご挨拶が行われましたが、 これまた素晴らしいスピーチで、
会場は大いに盛り上がり、学術大会がスタートしました (Photo1)。
今回の学術大会の参加者総数は約 300 名で JAPAN-ASEAN
諸国のみならず、 アジア全般、 欧米諸国からの参加者も多く、
文 字 通 り 国 際 的 な 学 会 と な り ま し た。 学 術 大 会 の テ ー マ は
「Defining the Future of Men’s Health and Aging」 であり、 近未
来の高齢化社会における Men’s Health をいかに定義し、 それに
対しいかに対処するべきかという医学的にも、 社会的にも非常に
重要な問題を討議することが企図されていました。 このテーマを
中心に 12 の Plenary lecture、 8 つの Symposium が組まれ、 さ
らに多くの口演、 ポスター発表がありました。 日本からの参加者
は Founding President の奥山明彦先生のご尽力で 50 名を超え、
国際交流のみならず、 日本人同士の交流も深まりました。 ご参
加の皆様には、 あらためて御礼申し上げます。
Kota Kinabalu 周辺は豊かな自然が広がり (Photo2,3)、 一大
リゾート地になっているため、 学会終了後、 あるいは学会期間中、
ご家族や同僚と共に、 新たなアジアに触れていただけたのではな
いかと思います。
第 6 回の学術大会は、 帝京大学泌尿器科堀江重郎教授が
Congress Chairman として 2011 年 6 月に鎌倉で開催予定です。
多くの皆様のご参加をお待ちしております。
会では Congress Chairman の Zulkifli 教授の Welcome address に
続 き、 Founding President の Tan 教 授 お よ び 熊 本 理 事 長 の
Keynote Address が述べられました。 そこに、 Sabah 州の Chief
▲
Minister が登場し Official Opening Address が発せられましたが、
前列中央が Sabah 州の Chief
Minister、左が Congress
Chairman の Zulkifli 教授。
後列中央が日本国堀江正彦
マ レ ー シ ア 特 命 全 権 大 使、
左 の お 二 人 が Founding
President の Tan 教授と奥山
先生、右端が Sabah 州交通・
観光大臣。
Photo1
第 5 回 Japan-ASEAN Men’
s Health & Aging
Conference、ボルネオ、2010 年 )
6
Photo2
豊かな自然に恵まれたボルネオ島
(遠景は東南アジア最高峰のコタキ
ナバル山)
Photo3
自然のままのジャングルにはオラン
ウータンも生息している
The Japanese Association of Men’s Health 2010 | 10
2010 年 7 月 9 日、 マレーシアで行われた第 5 回 JAPAN-ASEAN
Conference on Men’s Health & Aging 学会で Keynote lecture と
して、 このタイトルで講演した。 日本ではこの “睡眠関連勃起/
早朝勃起” と言うテーマでは、 あまり関心を持って戴けないが、
この学会で講演したところ、 諸外国の学者方からかなり興味を
持って戴き、 殊に国際メンズヘルス学会会長の Dr.Meryn からは
面白い重要なテーマなので、 来る 11 月 20 日からのニースでの
国際 Men’s Health 医学会で時間を作るから話しに来いと招かれ、
欧米の研究者方が ED と共に SRE/ME にかなり関心があること
を知らされた。
改めて述べるまでもないが、 最近勃起障害の裏にある細少血管の
動脈硬化が、 全身血管の動脈硬化の始まりであり、 勃起障害を心
及び脳の血管障害発症の前兆 (early marker) と捉えると言う意見が
国際的に定着しつつある。 欧米ではその勃起障害を、 性交渉の時
の ED を index として議論をすすめているが、 アジア、 ことに日本で
の Sexless 傾向の著しい国々では、 その ED 論議では中高年の男
性の全般を対象とした健康議論はまともには出来ない。 これは我が
国の研究者方も暗黙には理解をしているが、 ED への拘りから抜けき
れない。
日本における Sexless の頻度が、 50 才代で高率で 4 割近いという
知見が、 幾つかの疫学調査で出ている。 さらにより高年の男性での
心 ・ 脳血管障害が問題となる勃起障害議論には、 その ED を
index としたのでは、全く一般的な議論になり得ない。 そこで筆者は、
少なくとも日本を含むアジア諸国では、 ED 評価でなく SRE/ME で勃
起能を評価すべしと主張した。 ところが、 欧米の研究者も、 欧米と
言えども中高年男性の血管障害 index として勃起障害を捉えるには
ED 評価だけでは一般的議論になりえないことを認知しているといえ
る。 アジアことに我が国では、 Viagra 適応をきめる ED 質問紙のみ
での勃起能論議では、 現在医学界で重大問題としている Metabolic
Syndrome や心 ・ 脳血管障害への医学的エピソードへの予防の為の
啓蒙には、極めて不適切であると言う事になるのは当然のことと言える。
ところが、 我が国の性機能学会を中心に男性の勃起能評価を
PD5-I 使用可否認定用の IIEF-5 による ED 判定で行っている
訳で、 これを改めるべき時が来ていると言えまいか。
そこで臨床的に問題となるのは、 まず、 どの様にして何をもっ
て そ の 夜 間 睡 眠 時 に お け る involuntary erection と morning
erection を具体的にチェックするかということになる。 自覚できる
のは、 その involuntary erection の最後のものである早朝勃起で
あるが、 殆どの男性は若い頃からそれがあまりにも日常のである為か
さして関心を持って注意しておらず、 その自覚頻度を即答できないこ
The Japanese Association of Men’s Health 2010 | 10
熊本 悦明
とが屡である。 ことに自覚頻度の落ちてきている中高年男性は、 極め
て不確かで意識的にチェックせよと指示しておかないと答えが出てこな
い。
また夜間睡眠中の REM 睡眠時勃起の正確なチェックを行うに
は、 Rigiscan などの用具が必要なため、 通常その用意のない一
般 外 来 臨 床 で の 実 施 は き わ め て 困 難 で あ る。 そ こ で 我 々 は
Erectiometer を用いて最大夜間勃起度 (陰茎周囲増加度) を
チェックする簡便法を行っている。 これは一見、 雑な検査の様に
受け取られがちであるが、 Rigiscan の成績とかなり相関性がること
を我々は証明し報告している。
(Suzuki K et al : Internat.J.Uro.2001,8,594)
増加長が3 cm 以上なら、 健常若年男性の所見であるが、 中年以
後になると減少して来るが、 1 週間以上のチェックで 2 ~ 3cm の値を
維持していれば、 一応健常範囲と判定している。 2cm 以下となれば、
早朝勃起自覚度もきわめて低くなっている。
注目すべきこととして、 多少のバラツキはあるものの、 SRE が
Testosterone 依存性が高いことは、 我々は証明している。 ただ
早朝勃起自覚度との統計的な検討はまだ充分行っていないが、
今後充分な検討が必要と考えられる。 しかし、 参考の為に、 大
雑把な自験成績を記しおきたい。
①少なくとも 1 日おき
②週に2~3回
③時々
④気付かない
free
free
free
free
T 12 pg/ml 以上
T 12 ~ 8 pg/ml
T 8 ~ 4 pg/ml
T 4 pg/ml 以下
このように SRE/ME が、 かなり個々人の Testosterone レベルと高い
相関背画あることがわかる。 Testosterone 低下が著しいと、 寿命が
短くなるという研究報告もかなり出て来ているので、 自覚的に
Testosterone 低下を認知することが不可能であることを考慮するなら
ば、 この SRE/ME 所見の異常所見をみて、 次の検査へ進むステップ
となる臨床上きわめて意義ある所見となると言える。 その様に free T
レベル低下の問題あると推定した時は、 積極的に次のス正確な血中
free T の検査や冠動脈をふくめた血管系の検査を行えばよい。 要するに、 女性での女性生理問題として月経が先ず第 1 の医学的
質問事項である様に、 SRE/ME が、 男性生理の第 1 の質問事項に
なるべきでではないかということである。
この様な SRE/ME の臨床的重要性を述べた Key note lecture を欧
米の研究者方々が関心を示されたことは、 大変意義あることと感じて
いる。 我が国の男性医学臨床の中でも、“IIEF-5判定による E D 離れ”
の日が早く来ることを願って止まない。
7
Fly UP