...

科学技術動向 - NISTEP Repository: ホーム

by user

on
Category: Documents
0

views

Report

Comments

Transcript

科学技術動向 - NISTEP Repository: ホーム
ISSN 1349-3663
� � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � �
科学技術動向
����
科学技術トピックス
蜷ライフサイエンス分野
膀 NIH による最先端の食品サプリメント(栄養補助食品)
研究情報を収載した一般向けの小冊子の提供
膂生命倫理研究での、アジア諸国全体を包括する協同の基盤作り
�����
蜷情報通信分野
膀個人関連情報の分類に関する提案
蜷環境分野
窒素酸化物(NOx)低減技術の動向
膀新ディーゼル NOx 低減システム実用化に向けた
尿素水溶液の規格化の動き
膂廃熱発電を利用した排ガス浄化基礎技術の開発
蜷ナノテク・材料分野
膀磁壁も質量を持つことを実験的に証明
蜷製造技術分野
膀期待される次世代ディスプレイ―FED
蜷フロンティア分野
膀欧州宇宙機関が電気推進で月探査機の軌道投入に成功
特集1 創薬科学者・技術者の育成と現状
特集2 エレクトロニクスへの
ナノテクノロジーの応用
̶検討が進むシリコン LSI への適用例から̶
特集3 ユビキタス測位における準天頂衛星の有効性
今月の概要
科学技術トピックス
ライフサイエンス分野
̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶ 6
膀 NIH による最先端の食品サプリメント(栄養補助食品)研究情報を収載し
た一般向けの小冊子の提供
NIH の食品サプリメント局は、食品サプリメント(栄養補助食品)研究の進展に重要で
あると考えられる論文の概要などの研究情報を紹介した小冊子を 2004 年 10 月8日に発行
した(ウェブで閲覧可能)
。1999 年から毎年発行しており、その目的は、研究者、健康分
野の専門家、サプリメントの消費者などに対してサプリメント研究の最新情報を提供する
ことである。2003 年度版では、
「骨の健康」
、
「がん」
、
「心臓血管の健康」
、
「炎症」
、
「発達」
に関するサプリメント研究の領域から、45 人の専門家で構成されるチームによって、ト
ップ 25 論文が選ばれた。日本においても近年急速にサプリメントに注目が集まっており、
NIH のように最新の研究情報を一般向けにわかりやすく提供する試みがもっと行われる必
要があると考えられる。
膂生命倫理研究での、アジア諸国全体を包括する協同の基盤作り
日本の「国際的リーダーシップの確保」というプログラムの1つとして実施された、
「ア
ジアにおける生命倫理の対話と普及」プロジェクト研究(平成 13 ∼ 15 年度)の報告会が、
2004 年8月に開催され、12 月 17 日に報告書が公表された。この研究は、日本が率先して、
①欧米の様式に拘束されずアジア各国の価値観や規範に沿った生命倫理を見出す事、②ア
ジアで特有に見出される対応策の利点を国際社会に提示する事、③これによってユネスコ・
国際倫理委員会などに於ける、地域や文化を超えて適用可能な基調的生命倫理の策定に貢
献する事を目的としている。臓器移植、ヒトゲノム研究、ヒト胚性幹細胞研究などについ
て、アジア各国の対処の仕方に関する現状調査、欧米諸国との比較、課題の検討が行われた。
議論の進展に伴い、アジア各国内で国家生命倫理委員会の重要性に関する認識の高揚が見
られた。2003 年9月に行われた京都国際会議では、
日本のリーダーシップが高く評価され、
アジアのネットワークを構築し、議論を続けて行くことの重要性などに関するステートメ
ントが採択されている。これまでアジア諸国全体を包括する国際組織は存在しなかったが、
生命倫理に関する議論で育まれたアジア各国の研究者や実務家の人的つながりが、生命科
学研究に関した協同推進の足がかりとなる可能性が示唆された。
情報通信分野
̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶ 7
膀個人関連情報の分類に関する提案
個人情報保護法の施行や、昨今の個人情報やプライバシーに対する社会的認識の高まり
を背景に、日本学術会議 基盤情報通信研究連絡委員会等が主催して「学際的情報セキュ
リティ総合科学シンポジウム」が開催された。シンポジウムでは、電子社会の安全確保に
は技術だけでなく、情報の管理や運営、法制度、倫理などの知見を結集した学際的総合科
学が必要であるという認識のもと、多角的な議論が行われた。興味深い報告の1つに、情
報セキュリティ大学院大学の板倉らによる個人関連情報の分類に関する提案がある。これ
は、個人関連情報にはプライバシー性が極めて高いものから比較的低いもの、さらにはそ
の個人が属する集団が共通に持つ情報まで極めて多様であることに対応し、公的機関や事
業者のサービスを受けるために提示する情報を必要性や重要性に応じて整理、分類するも
のである。分類の枠組みとして、ヒトゲノム情報の構成を参考に国家、民族などの共通域、
Science & Technology Trends January 2005
1
科学技術動向 2005 年 1 月号
家族固有域、個人識別域、プライバシー域から成る内容軸(4域)と、身体的属性、社会
的属性、経済的属性から成る情報属性軸(3属性)による 12 分類を提案している。実際
の分類や各情報の保護レベルの設定には、市民を含めた多様な視点からの検討が必要であ
るが、分類枠組みの考え方自体は、個人情報やプライバシー保護に関する議論の進展に貢
献するものと考えられる。
環境分野
̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶ 8
窒素酸化物(NOx)低減技術の動向
膀新ディーゼル NOx 低減システム実用化に向けた尿素水溶液の規格化の動き
ディーゼル車から排出される窒素酸化物(NOx)の対策は急務であり、国内でも NOx
規制値が現行値の 60%となる新長期排出ガス規制が 2005 年 10 月より開始される。この
規制に対応する NOx 低減技術のひとつとして、
尿素水溶液を併用した選択還元触媒(SCR:
Selective Catalytic Reduction)システムの研究が盛んに行われてきている。尿素 SCR シ
ステムの浄化性能には、尿素噴射のタイミングや量はもちろんのこと、使用する尿素水溶
液の性状も大きく影響する。このような背景のもと、2004 年9月1日、尿素 SCR システ
ム作動に必要な尿素水溶液の性状に関する日本自動車規格(JASO)
「ディーゼル機関―
NOx 還元添加剤 AUS32―第 1 部:性状(JASO E502)
」が発行され、
現在、
日本工業規格(JIS)
への移行が進められている。
膂廃熱発電を利用した排ガス浄化基礎技術の開発
今回、独立行政法人産業技術総合研究所(産総研)が、高温排ガスの廃熱による熱電発
電を利用した NOx 浄化基礎技術を開発した。
近年、自動車用エンジンは、燃料の希薄燃焼技術による高燃費エンジンへの転換が進ん
できている。
産総研は、イオン伝導性セラミックスを用いた電気化学リアクターによって、共存酸素
濃度の高い NOx の電気化学的分解基礎技術を開発していたが、課題は電力の供給方法で
あった。今回、熱を電気に変換させるセラミックス材料(熱電変換セラミックス)を利用
することにより、排ガス廃熱と外気との温度差を利用して電力を発生させる基礎実験に成
功した。
ナノテク・材料分野 ̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶ 10
膀磁壁も質量を持つことを実験的に証明
磁性体は、ひとつの単結晶の内部が壁によって仕切られた幾つかの領域(ドメイン)に
分かれており、磁壁(ドメイン間の壁)は外部磁場等によって移動する。マクロに見れば
磁壁は面であるが、ナノレベルになると、この薄い壁自体もひとつの領域として考えるこ
とができる。磁壁が質量をもったひとつの仮想的な粒子として振舞う可能性は古くから予
想されていたが、慶應義塾大学、大阪大学、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社の
共同研究グループは、鉄ニッケル合金ナノワイヤーを作製し、そのナノワイヤーの中にた
ったひとつの磁壁を形成して、磁壁の質量を測定することに成功した(Nature,vol.432,
p.203(2004)
)
。
2
今月の概要
製造技術分野
̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶ 10
膀期待される次世代ディスプレイ―FED
究極の次世代ディスプレイといわれる FED(Field Emission Display)の1方式であ
る SED(Surface-conduction Electron-emitter Display) の 試 作 品 が CEATEC JAPAN
2004 で初めて一般公開された。FED は画質が良く、薄型で省エネの面でも優れており、
液晶ディスプレイ、PDP の良いところを兼ね備えたディスプレイといわれる。SED が
一般公開ができるまでになったポイントは、製造プロセスの改良により、再現性の向上、
輝度の均一性の向上、輝度の経時変化の軽減、低コスト化に目処が付いたことによる。
現在、世界で最も開発が盛んなカーボンナノチューブ(CNT)を電子放出源とする方
式など FED の実用化に向けた開発競争が加速され、ここ1∼2年で製品化が相次ぐこ
とが期待される。
フロンティア分野
̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶ 11
膀欧州宇宙機関が電気推進で月探査機の軌道投入に成功
2003 年9月 27 日、
欧州宇宙機関(ESA)は、
欧州初の月探査機「スマート1(SMART‐1)
」
を打ち上げた。電気推進エンジン(イオンエンジン)により 13 ヶ月以上かけて月を目指
して飛行し、2004 年 11 月 15 日についに月周回軌道に投入された。イオンエンジンは比推
力が高く、少ない燃料で長時間の推力を得ることができる。スマート1の月での主要な観
測目標はサウスポール・エイトケン盆地という、南極から月の裏側の赤道付近まで及ぶ巨
大なクレーターである。欧州に続いて、
2006 年に我が国の月周回衛星
「セレーネ
(SELENE)
」
や中国の月探査機が打ち上げられる予定であり、インド・米国・ロシアも月探査計画を発
表している。
特集̶1
創薬科学者・ 技術者の育成と現状 ̶̶
13
医薬品も国際化の時代を迎え、日米 EU 医薬品規制調和国際会議(ICH)の合意によっ
て有効性・安全性・品質面でグローバルスタンダードが求められ、それに応える国際競争
力や創薬環境の整備が急務となっている。医薬品は医療用医薬品と一般医薬品(薬局・薬
店で購入できる大衆薬:OTC)に分けられ、生産額では医療用医薬品が約 90%と大きな
ウエートを占めている1,2)。日本は世界で2番目に大きな医薬品市場(=開発チャンス)
を持っているにも関わらず、国別の売上高で創薬技術をもつ6ケ国中4∼5位であるとい
う脆弱ぶりである。ICH の合意に基づく 2005 年4月の薬事法改正後、日本の医療現場に
海外製品が益々、進出することが予想され、現状のままでは、我国はジェネリック医薬品
を作るだけの創薬後進国になると危惧される。
医薬品開発は長い期間(10 ∼ 17 年)と低い成功率(11,000 分の1)を経て製品となるため、
国の創薬技術を上げるには、企業努力とともに、国が創薬研究を重要視し創薬人材の育成
をサポートすることが重要となる。しかし、
2006 年度から開始される薬学6年制教育では、
服薬指導や薬歴管理、薬害防止のためのリスクマネージメントなどの薬剤師教育が中心に
行われ、主として薬学部が担ってきたもう1つの役割である「創薬人材の育成」は困難に
なると予想できる。
医薬品開発において世界をリードしているアメリカでは、NIH の技術移転予算および
研究予算により、大学、企業、ベンチャーも医薬品開発メンバーの一員として参画できる
ように体制が整っている。実際に上市された医薬品の 40%に NIH が助成している。また、
創薬人材を専門に育成する教育機関は存在しないが、柔軟なカリキュラムと学部の壁を超
Science & Technology Trends January 2005
3
科学技術動向 2005 年 1 月号
えた教官人事で、創薬に興味をもつ優れた人材が幅広く育成されている。日本では、医薬
品シードの発見から製品に至るまでの情報の取扱いは専ら各企業内で独自に執り行われ、
創薬人材の育成は、
主に小規模な薬学部(旧国立大学では1学部1学年の定員は 80 名程度)
で薬剤師教育と並行して行われてきた。医薬品シード探索に専念するベンチャーも成長し
ておらず、すべての面でアメリカと対照的である。
しかし、世界市場で年間 10 億ドル以上の売上高をもつ日本のオリジナル製品が 10 品目
あること、大学から発信された医薬品が世界で通用している例などを挙げると本邦の創薬
技術は磨きをかければ光ると考えられる。
ここでは、2006 年の薬学部6年制(薬剤師教育の重点化)の施行を機に、①新しい医
薬品シード(化合物)を開発するための化学・生物学的基礎、②新しい医薬品を製造する
化学的・生物学的手法、③医薬品の新しい効果・効能を見出す薬理学、④医薬品に応じた
新規な DDS(ドラッグデリバリーシステム)を開拓する製剤学、⑤安全性、毒性を見極
める毒物学の5科目を重点的に教育する全く新しいシステム(学部・学科)を立ち上げる
ことを提案したい。
これらの教育は、製薬企業が必要としている「有機化合物の合成ができる人」
(上記①
②の教育項目)
「
、細胞や微生物だけでなく動物の扱える人」と「生物統計学のできる人」
(上
記③④⑤の教育項目)を育成し、日本の製薬産業を躍進させる原動力になり得る。その結
果、経済の活性化をもたらすとともに国民の健康を国内産業で保障することが可能となる
はずである。
特 集 ̶ 2 エレクトロニクスへのナノテクノロジーの応用
̶ 検討が進むシリコン LSI への適用例から ̶ ̶̶ 24
ナノテクノロジーが取り扱うナノスケールの物質を実現する方法は、大きく2つに分け
られる。一方は、半導体微細加工技術の様にマクロスケールのものを小さく加工していく
トップダウン・アプローチである。もう一方は、生命活動による蛋白質の合成作用の様に
ナノスケール以下のものを組み上げて、ナノスケールとするボトムアップ・アプローチで
ある。
近年、米国の大学や企業を中心にトップダウン・アプローチの一部にボトムアップ・ア
プローチを組み入れ、ナノテクノロジーの利点をよりスムーズに既存のエレクトロニクス
技術に応用する検討がなされ始めた。それは、ナノテクノロジーの最大の特徴である自己
組織化を利用した素子の形成や、電子のみならずイオンの移動を伴うデバイス応用等であ
る。また、材料や基本デバイスの検討に留まらず、シリコン LSI の他の技術階層である基
本回路や LSI 設計技術等、既存の技術基盤の上にナノテクノロジーを利用した技術を組み
入れる検討も行われている。
これは、従来のシリコン LSI 技術をベースにしながらもナノテクノロジーの基本概念を
着実に導入し、実用化を前提とした具体的な検討が進展している事を示している。
ナノテクノロジーの様な新しい技術領域を継続的に発展させる為には、安定した長期に
わたる研究開発投資が必要であろう。その為には、民間企業が投資する上でもナノテクノ
ロジーを魅力的な技術にしていく事が不可欠で、それには逆に、産業に直結する1つの明
確な成果を早い時期に出して行く必要がある。
4
今月の概要
一方日本では、トップダウン・アプローチとボトムアップ・アプローチの二者択一の議
論になりがちであり、シリコン LSI 関連で、両者を組み合わせた日本発の研究も日本電気
と他の研究グループによる発表程度であり、非常に少ない。両者のアプローチの優劣では
無く、如何にパラダイムを変え、産業としてもナノテクノロジーを継続的に発展させてい
くかを考えた場合、米国に学ぶべき点は多い。
特 集 ̶ 3 ユビキタス測位における準天頂衛星の有効性
̶̶ 33
「ubiquitous positioning」すなわち「ユビキタス測位」というテーマでの研究が世界各国
で始まっている。これからの情報社会では、いつでもどこでも位置情報が高精度で得られ
ることが当たり前になる。総務省では 2007 年4月を目途に、警察及び消防への緊急通報
の機能を高度化させ、国民生活の安全・安心につながるインフラを構築しようとしている。
110 番通報は携帯電話からの発信が過半数に及んでおり、発信者の位置を GPS 測位の利用
などで高精度に把握できれば、事故や事件への対応が円滑になる。携帯電話からの緊急通
報において、発信者の所在位置の迅速な特定は長年の課題であり、所在位置情報が GPS 機
能を持つ携帯電話から警察等へ自動送信可能になれば、現場への到着時間が短縮できると
期待される。
この施策において、基本的な位置情報決定システムとして利用される GPS 測位は、4
機以上の GPS 衛星(米国の NAVSTER 衛星)の時刻信号を用いるものである。しかし、
ビルや住宅が密集する市街地や山間の峡谷など、電波が遮られる可能性が高い場所におい
ては、位置を決定するために必要な信号数を確保できない場合が多い。このことは GPS
の弱点と指摘されている。
一方、準天頂衛星システム(QZSS)は、地球の自転と同期して3機の衛星が異なる軌
道面を周回し、同一経度の低∼中緯度帯において3機のうち少なくとも1機は必ず天頂付
近に存在するように配置する衛星システムのことである。3機の衛星は、ある経度を中心
に、地上に投影すると8の字を描くような軌跡で北半球上空と南半球上空を往復する。こ
のような衛星システムは測位だけでなく通信・放送・観測など他の役割を持たせることも
できる。
準天頂衛星が GPS 衛星の弱点をカバーすることにより、GPS 測位は緊急通報の高度化
だけでなく、マン・ナビゲーション、列車運行管理、土地測量など生活に係わるさまざま
な面で有効な役割を果たすようになり、国の基幹的なインフラの一部となる。また我が国
の宇宙産業の新しいビジネスチャンスになると期待される。しかし、準天頂衛星システム
において測位機能と同時に通信・放送機能も実現しようとした場合、衛星技術や開発体制
などの面で多くの困難を伴い、衛星システムとして早期に完成できないおそれがある。こ
れらの機能を比べると、測位機能は大きな社会的変化や新しい価値を生み出す原動力とな
り、国の基幹的なインフラとして整備することの緊急性及び重要性が高いと考える。そこ
で、国民の安全・安心の確保や新しいサービスによる経済の活性化などを目的として、最
初の準天頂衛星システムの機能は GPS 補完・補強に絞り、確実かつ迅速に開発して早期
に運用に供することを提案する。さらに、ユビキタス測位を総合的に推進し、その一環と
して準天頂衛星システムの開発を促進するためには、米国における「省庁間 GPS 行政委
員会」などと同様に、我が国の測位利用を所掌する政府の運用機関を設置する必要がある。
Science & Technology Trends January 2005
5
科学技術動向 2005 年 1 月号
科学技術
トピックス
以下は科学技術専門家ネットワークにおける専門調
査員の投稿(1月号は 2004 年 12 月 4 日より 1 月 7 日
まで)を中心に「科学技術トピックス」としてまとめ
たものです。センターにおいて、関連する複数の投稿
をまとめ、また必要な情報を付加する等独自に編集す
るため、原則として投稿者の氏名は掲載いたしません。
ただし、投稿をそのまま掲載する場合は、投稿者のご
了解を得て、記名により掲載しています。
ライフサイエンス分野
膀 NIH に よ る 最 先 端 の
食品サプリメント(栄
養補助食品)研究情報
を収載した一般向けの
小冊子の提供
NIH の食品サプリメント局(the
Office of Dietary Supplements,
ODS)は、食品サプリメント(栄
養補助食品)研究の進展に重要で
あると考えられる論文を紹介した
小冊子を 2004 年 10 月8日に発行
した(ウェブで閲覧可能)
。
この小冊子は、1999 年から毎
年発行され、今回発行された 2003
年度版で第5版になる。発行の目
的は、研究者、健康分野の専門家、
サプリメントの消費者、学生、教
育者などに対して、サプリメント
研究の最新情報を提供することで
ある。
2003 年度版の小冊子を作成する
にあたり、まず 34 のピアレビュ
ージャーナル(国際誌)から 300
報以上の論文がノミネートされ
た。さらに、これらの論文に対し、
45 人の国際的な栄養学、
植物科学、
公衆衛生学の専門家から構成され
たチームがレビューを行い、順位
をつけた。その結果、トップ 25
論文が選ばれ、論文名、著者、簡
単な概要、研究の意義などについ
6
て一論文あたり半ページにまとめ
られた。
2003 年度版では、
「骨の健康」
「
、が
ん」
、
「心臓血管の健康」
、
「炎症」
、
「発達」に関するサプリメント研究
を対象にして、優秀論文が選ばれ
た。その中には、ビタミンC、
D、
E、
α‐トコフェノール、β‐カロテン、
black cohosh(ハーブ)
、グルコサ
ミン、コンドロイチン、セレニウ
ム、緑茶成分、ω‐3 脂肪酸、エ
フェドラ(麻黄)などが含まれた。
小冊子は単純にこれらの成分
の摂取を推奨するものではない。
心臓血管に対する副作用のため
に 2004 年 4 月に米国食品安全局
(FDA)は、エフェドラを含む食
品サプリメントの販売禁止の措置
をとったが、今回トップ 25 論文
に選ばれたエフェドラに関する研
究論文は、この FDA の措置に貢
献したとして高く評価された。
また、小冊子に収載されている
内容を読むと、疾病の発病後の摂
取では効果が確認できなかったサ
プリメントや、アルコール飲用や
喫煙する患者が摂取すると逆効果
になるサプリメントの報告もあ
り、興味深い。
2003 年度版の 25 報の論文の内、
実験動物やヒト細胞を用いた研
究は6報であり、その他 19 報は、
がんや動脈硬化症などの患者やラ
ンダムに選んだ一般人を対象とし
た大規模な臨床試験による研究で
あった。
さらに、2003 年度版には 2002
年度と 2001 年度に選ばれた論文
リストも掲載されているため、サ
プリメント研究動向の把握に役に
立つ。
米国では、
「食品サプリメント
における健康と教育」に関する法
律(Dietary Supplement Health
and Education Act) が 1994 年 に
制定され、この法律によって政府
機関はサプリメントの安全性を監
視や、一般に対する知識の普及な
どを実施している。
日本においても近年急速にサプ
リメントに注目が集まっており、
一般向けの安全情報の提供などは
国立栄養・健康研究所からなされ
ているが、NIH のように最新の研
究情報をわかりやすく提供する試
みももっと行われる必要があると
考えられる。
参 考
01) NIH News(2004.10.8)
02) 米国医薬品・安全局 食品サプ
リメント:
http://www.cfsan.fda.gov/~dms/
supplmnt.html
03) NIH 食品サプリメント局:
http://ods.od.nih.gov/
科学技術トピックス
コンセント、一般社会の認識と意
康食品ホームページ:
見調査、および患者の擁護と支援
http://www.mhlw.go.jp/topics/ グループ、等に関連した様々な問
bukyoku/iyaku/syoku-anzen/ 題について、アジア各国の対処の
hokenkinou/index.html
仕方に関する現状調査、世界の他
05)「健康食品」の安全性・有効性情 の地域(米・英・独・加・蘭・仏・
報(独立法人 国立栄養・健康研 豪)との比較、課題の検討が行な
究所)
:
われた。
http://hfnet.nih.go.jp/main.php
先ず、アジアを便宜的に東南、東、
中・西地域に区分し、地域ごとの
シンポジウムやワークショップを
膂 生命倫理研究での、ア 通じて代表的な研究者や実務家間
ジア諸国全体を包括す で情報交換や議論が行われた。2003
年9月の京都における国際会議で
る協同の基盤作り
は、アジア 18 カ国(バングラデッ
日本の「国際的リーダーシップ シュ、ブータン、カンボジア、中国、
の確保」というプログラムの1つ インド、
インドネシア、
イラン、
韓国、
として実施された、
「アジアにお ラオス人民民主共和国、マレーシ
ける生命倫理の対話と普及」プロ ア、ネパール、パキスタン、フィ
ジェクト研究(平成 13 ∼ 15 年度) リピン、シンガポール、スリラン
の報告会が、2004 年8月4及び 10 カ、タイ、ヴェトナム、日本)
、他
日、東京と京都で開催され、12 月 地域4カ国(加・蘭・仏・豪)か
17 日に報告書が公表された。この ら関係者が集い、関係者間及び日
研究は、日本が率先して、①欧米 本の一般参加者との議論が行われ
の様式に拘束されずアジア各国の た。これらの過程で、アジアの国々
価値観や規範に沿った生命倫理を は多様な価値観や生命観を有する
見出す事、②アジアで特有に見出 事が浮き彫りにされたが、同時に
される対応策の利点を国際社会に 東アジアの家族・共同体の重視や、
提示する事、③これによって、ユ 東南アジアでの多様民族の共生方
ネスコ・国際倫理委員会などに於 法など、欧米とは異なった対応方
ける、
「地域や文化を超えて適用可 法が示唆された。又、件のプロジ
能な基調的生命倫理」の策定に貢 ェクトは、目標の一つとして国家
献する事を目的としている。臓器 生命倫理委員会の設立を挙げてい
移植、ヒトゲノム研究、ヒト胚性 たが、アジア諸国間での議論の進
幹細胞研究、科学研究と医療への 展と同期して、各国内で国家生命
衡平なアクセス、インフォームド・ 倫理委員会の重要性に関する認識
04) 厚生労働省 保健機能食品・健
に急速な発展が見られた。京都会
議のステートメントでは、アジア
での生命倫理に関する日本のリー
ダーシップが高く評価され、アジ
アのネットワークを構築し、議論
を続けて行くことの重要性が記さ
れた。
これまでアジア諸国全体を包括
する国際機構は存在しなかった。
「アジアにおける生命倫理の対話
と普及」の調査研究や会議では、
アジア各国の代表的研究者や関連
省庁の実務担当責任者との継続的
な議論を通じて、人的つながりが
築かれている。このような人脈は、
生命倫理に関する更に深遠な議論
のみならず、生命科学や他の科学
分野に関した協同推進の足がかり
となると期待される。京都会議の
ステートメントでは、アジアのネ
ットワークを制度化し、維持し続
けていく事を提言している。
参 考
01)「アジアにおける生命倫理の対話
と普及」プロジェクト研究チー
ム、報告書:
http://dna2.mki.co.jp/hp-3/
index.htm
02) ユネスコ‘A Common Framework
for the Ethics of the 21St Century’
:
http://www.unesco.or.kr/kor/
science_s/project/universal_ethics/
asianvalues/yersu_kim.htm
情報通信分野
膀 個人関連情報の分類に
関する提案
本年4月から個人情報保護法の
施行が予定されているが、個人情
報やプライバシーに対する社会的
認識もこれまでになく高まってい
る。たとえば以前ならほとんど問
題にならなかった、組織や団体等
の名簿への個人情報記載につい
て、最近は名簿発行側が大幅に自
己規制したり、個人から記載停止
を求めたりすることが増えている。
このような状況を背景に、昨年 11
月下旬、日本学術会議 基盤情報通
信研究連絡委員会等が主催して
「学
際的情報セキュリティ総合科学シ
ンポジウム」が開催された。シン
ポジウムでは、電子社会の安全確
保には技術だけでなく、情報の管
理や運営、法制度、倫理などの知
見を結集した学際的総合科学が必
要であるという認識のもと、暗号
技術、著作権やプライバシー保護
などの社会制度、電子政府やユビ
キタスネットワーク社会といった
Science & Technology Trends January 2005
7
科学技術動向 2005 年 1 月号
適用面など、多角的な議論が行わ
れた。その中の興味深い報告の1
つに、情報セキュリティ大学院大
学の板倉らによる個人関連情報の
分類に関する提案がある。
個人に関連する情報にはプライ
バシー性が極めて高いものから、
電話帳記載情報のように比較的低
いもの、さらにはその個人が所属
する集団が共通に持つ情報まで、
多様なものがある。したがって公
的機関や事業者のさまざまなサー
ビスを受けるには、情報を必要性
や重要性に応じて整理、分類し、
過不足のない適正な提示が行われ
るようにしなければならない。さ
らにプライバシーの侵害等が発生
した場合、侵害者への罰則を段階
的に規定するための基準を用意す
る必要がある。
このような課題に対し、板倉ら
は分類の枠組みとして情報の内容
《個人関連情報の分類例》
内容
所属集団共通域
(国家・民族など)
家族固有域
個人識別域
プライバシー域
身体的
公開ヒトゲノム DB
遺伝病
身長、体重、写真
指紋、網膜
社会的
政治体制
本籍
住所、氏名、年齢
宗教、思想
経済的
GDP
総資産
年金証書番号
口座暗証番号
属性
参考2)を基に科学技術動向研究センターで作成
(情報自身)と、情報の属性(情
報が置かれる環境)の2軸を提案
している。内容軸はヒトゲノム情
報の構成を参考に、国家・民族な
どの所属集団共通域、家族固有域、
個人識別情報域、プライバシー域
の 4 種にわけ、属性軸は大きく、
身体的属性、社会的属性、経済的
属性の3種に分類する。これによ
り個人情報は、内容軸と属性軸を
組合せた 12 に分類される。
実際の分類や各情報の保護レベ
ルの設定には、専門家だけでなく
市民を含めた多様な視点からの検
討が必要である。しかし分類枠組
みの考え方自体は、個人情報やプ
ライバシー保護に関する議論の進
展に貢献するものと考えられる。
尿素 SCR システムでは、車体
内に設置したタンクから供給され
る尿素水溶液が、排気管に取り付
けられた SCR 触媒の入口部分に
噴射される。触媒内では、まず、
高温の排ガスによる熱分解や加
水分解を経て、尿素がアンモニア
に変換される。排ガス中に含まれ
る NOx は、このアンモニアによ
り還元され、浄化される。このよ
うに、SCR システムの還元剤とし
て働くアンモニアの生成は排ガス
からの供給熱に依存するため、尿
素を噴射するタイミングは排ガス
温度を考慮して決めなくてはなら
ない。また、過度に尿素を噴射す
ると、NOx と反応しなかったア
ンモニアが大気に放出される現象
(アンモニアスリップ)の原因と
なる。そのため、尿素噴射量をエ
ンジンからの NOx 排出量に応じ
て変化させることも重要である。
このように、SCR システムを効果
的に使用するためには、エンジン
の運転状況・SCR 触媒の状況をフ
ィードバックしながら、尿素噴射
のタイミングや量を適切に制御す
ることが必要となる。
また、SCR システムにおいては、
使用される尿素水溶液の性状もま
た、NOx 浄化性能およびシステ
ムの動作に大きく影響する。尿素
水溶液の濃度や組成が不適切であ
ると、SCR 触媒が設計どおりの機
能を発揮できないケースもでてく
る。そのため、尿素 SCR システ
ムの実用化と普及を考えた場合、
尿素水溶液の性状に関する規格を
制定することが不可欠である。
具体的な動きとして、欧州で
は、ドイツ自動車工業会(VDA)
が中心となり、SCR に用いる尿素
水溶液のドイツ連邦規格(DIN)
をすでに制定している。DIN で
参 考
01) 辻井重男:
「パラダイムを拡大す
る大学と情報セキュリティ総合
科学」
“計画行政”第 27 巻第3号
02) 板倉征男、田中裕:
「プライバシ
ー情報の階層化に関する一考察」
学際的情報セキュリティ総合科
学シンポジウム、2004.11.22
環境分野
窒 素 酸 化 物(NOx)低 減
技術の動向
膀 新ディーゼル NOx 低
減システム実用化に向
けた尿素水溶液の規格
化の動き
ディーゼルエンジンは、耐久性・
経済性に優れることから、大型自
動車を中心に広く利用されている。
その一方で、ディーゼル排ガス中
の窒素酸化物(NOx)
、粒子状物質
(PM)が関心を集めており、その
低減技術の研究開発が積極的に展
開されている。尿素水溶液を用い
た選択還元触媒(SCR:Selective
Catalytic Reduction)シ ス テ ム も、
そのような NOx 低減として、近
年、ディーゼル車への適用の動き
が活発になっている技術のひとつ
である。
8
科学技術トピックス
は、SCR システムを搭載した車
両が寒冷地で使用される可能性
も考慮し、凍結温度が最も低い
(−11℃)濃度 32.5%の尿素水溶
液を用いることを規定している。
また、ISO としての尿素水溶液規
格が、DIN をベースとしたドイツ
提案をもとに検討されている。
日本においても、新エネルギー・
産業技術総合開発機構(NEDO)
が実施した高効率クリーンエネル
ギー自動車の研究開発(ACE プ
ロジェクト)の一環として、2002
年度より尿素 SCR に関する研究
が行われており、尿素インフラに
関する検討のなかで尿素水溶液の
国際基準調和の必要性が提言され
た。これを受け、
2004 年9月1日、
尿素 SCR システム作動に必要な
尿素水溶液の性状に関する日本自
動車規格(JASO)
「ディーゼル機
関―NOx 還元添加剤 AUS32‐第
1 部: 性 状(JASO E502)
」が発
行された。現在、JASO から日本
工業規格(JIS)への移行が進め
られている。SCR システム実用化
に向けては、これ以外に、尿素水
溶液を補給するためのステーショ
ンを整備・充実させることも課題
である。
との温度差を利用して電力を発生
させる基礎実験に成功した。
研究グループは、温度差をかけ
膂 廃 熱 発 電 を 利 用 し た るとプラスの電位になる p 型材料
排 ガ ス 浄 化 基 礎 技 術 とマイナスの電位になる n 型材料
を対にして結合、接合部分を加熱、
の開発
もう一方を空冷することにより生
今回、独立行政法人産業技術総 じる熱起電力を利用できるモジュ
合研究所(産総研)が、高温排ガ ール(2×2× 20mm 角形材料を
スの廃熱による熱電発電を利用し 37 対直列)を開発した。約 650℃
た NOx 浄化基礎技術を開発した。 の温度差で、電圧 3.5V、300mW
近年、自動車用エンジンは、化 の電力が生成し、NOx 浄化電気
石エネルギー使用量低減、排出二 化学リアクター電源としての利用
酸化炭素削減を目指し、燃料の希 可能性を検証した。
薄燃焼技術による高燃費エンジン さらに、熱電変換による廃熱か
への転換が進んできた。
らの電力生成とそれを利用する電
産総研は、イオン伝導性セラミ 気化学リアクターの自立作動を検
ックスを用いた電気化学リアクタ 討した。上記熱電セラミックス発
ー ① による NOx の電気化学的分 電素子を 18 対直列に接続したも
解② 技術について研究を進め、酸 のと、5cm 角の 8Y‐ZrO(
2 8YSZ)
素3%以上の NOx 含有ガスを低 セ ラ ミ ッ ク ス 板 に NOx 反 応 選
電力で選択的に N2 と O2 に連続分 択性の高い電極を形成した電気
解することに成功していたが、課 化学リアクターとを一体モジュ
題は電力の供給方法であった。今 ー ル 化 し た。600 ℃ に 加 熱 し た
回、熱を電気に変換させるセラミ 400ppmNOx / 4% O2 混合ガスを
ックス材料(熱電変換セラミック 流し、温度差を形成することによ
ス③ )を利用することにより、排 り、発電および電気化学リアクタ
ガスとして排出される廃熱と外気 ーでの NOx 分解を試みた。この
結果、熱電セラミックス発電によ
る 電 力( 約 1.5V/35mW) で、 約
用語説明
20%の NOx 分解が電気化学リア
①電気化学リアクター
クターで連続的に行われた。これ
イオン伝導性材料(特に酸素イオン伝導体性)内部を酸素イオンが拡散して
により、外部からの電力なしに、
移動する性質を利用し、材料に電界をかけて、ガス中酸素分子のイオン化、伝
熱電変換材料による電力を利用す
導、排出を制御する反応器。固体電解質型燃料電池や酸素センサーなどで利用
されるイットリアを固溶したジルコニアセラミックスが主に用いられ、エネル
る電気化学リアクター自立作動を
ギー変換や物質の合成・分解反応を行う。
世界で初めて実証した。
②電気化学的分解
廃熱を電力に変える熱電変換セ
還元分解反応の一つで、電子の還元力で還元反応を行うこと。従来の触媒で
ラミックスが、排ガス浄化の電気
は、熱分解または還元剤による化学的な反応により還元を進める。
化学リアクターなどデバイス電力
③熱電変換セラミックス
源として利用できる可能性が検証
材料は温度差をかけると材料固有の熱起電力を持つ。熱電変換材料とは、電
気伝導性を有し、かつ、熱起電力が大きな材料で、温度差を電気に変換するセ
された。今後、自動車への実用化
ラミックス材料を熱電変換セラミックスという。今回の実験では、温度差をか
展開やその他への適用、例えば、
けるとプラスの電位になる p 型材料としてカルシウムコバルト酸化物セラミッ
排ガス中酸素濃度センサーや温度
クスを、マイナスの電位になる n 型材料として Al 固溶酸化亜鉛セラミックス
センサーなどの自立電源への応用
を用いた。それらを組み合わせて、必要な電力になるように集積したものが熱
も期待できる。
電セラミックス発電モジュール。
Science & Technology Trends January 2005
9
科学技術動向 2005 年 1 月号
ナノテク・材料分野
しまう問題をシステムの高感度化
膀磁壁も質量を持つこと とプローブ(探針)の改良によっ
て解消し、いっそう高感度・高分
を実験的に証明
解能の MFM 観察が可能になってい
磁性体や誘電体では、ひとつの る(例えば、エスアイアイ・ナノテ
単結晶の内部が幾つかの領域(ド クノロジー株式会社と秋田大学の共
メイン)に分かれており、外部か 同研究成果(日本応用磁気学会誌、
らの磁場や電場によって、ドメイ vol.27,No.4,p.429(2003)
)など)
。
ンを仕切っている壁(ドメインウ これまでの磁性体の使い方は、
ォール)を移動させることができ 主に各ドメインをひとつの単位と
る。ひとつのドメイン内では磁気 して利用するものであり、そこで
や双極子モーメントの向きが揃っ は磁壁は面に過ぎないが、さらに
ているが、隣のドメインとは向き ナノレベルで見ると、この薄い壁
が異なっている。
自体もひとつの領域として見なす
磁性体の場合はドメイン間の ことができ、磁壁の挙動自体を利
境界の部分の壁を磁壁と呼んでい 用することも考えられる。例え
る。磁壁は、磁気の向きの異なる ば、磁性体のナノワイヤーのよう
ドメインの境界であることから、 な長尺の単結晶では、ワイヤーの
磁気の向きが大きくねじれている 途中に磁壁があると、その磁壁が
部分である。ナノスケールでの磁 あたかもナノ粒子のようにワイヤ
壁の観察は、
磁気力顕微鏡(MFM: ー中を移動することになる。磁壁
走査型プローブ顕微鏡の一種)に が質量をもったひとつの仮想的な
よって可能であるが、最近は、測 粒子として振舞うことは、1948 年
定すること自体で磁壁が移動して にドイツのデーリング等によっ
て予想されていたが、粒子として
はあまりに小さいため、これまで
定量的に計測されたことがなかっ
た。慶應義塾大学、大阪大学、エ
スアイアイ・ナノテクノロジー株
式会社の共同研究グループは、微
細加工技術によって鉄ニッケル合
金ナノワイヤーを作製し、そのナ
ノワイヤーの中にたったひとつの
磁壁が形成されていることを高分
解能 MFM で確認した。また、交
流電流を用いた共鳴分光法で測
定する方法を考案し、このひとつ
の磁壁の質量や摩擦係数などを測
定する実験に成功した(Nature,
vol.432,p.203(2004)
)
。ひとつの
−23
磁壁の質量は 6.6 × 10 kg であり、
これは水素原子の重さの 10 万倍
程度に相当し、デーリングらの予想
値に近い値であった。また、この実
験によって解明された交流電流によ
る磁壁駆動のメカニズムも新しい
応用を拓くものと期待される。
製造技術分野
省エネの面で優れている。昨年
膀期待される次世代ディ の CEATEC JAPAN 2004 で、FED
の中の一方式である SED(Surfaceスプレイ―FED
conduction Electron-emitter Display)
我が国の強い技術分野である が共同開発を行ったキャノンと東
ディスプレイの分野で、液晶デ 芝から初めて一般公開され、大き
ィスプレイ、PDP(プラズマディ なインパクトがあった。公開され
スプレイ)に続く究極の次世代 た 36 インチパネルのデータは、
ディスプレイとして現在注目され 消費電力、コントラスト、画質に
て い る の が FED(Field Emission おいて他のフラットパネルを驚か
Display)である。FED はブラウ すに十分な性能であり、実際の映
ン管(CRT)と同様な発光原理 像も良好であった。基本的な構造
であるが、その仕組みを電子放 は7年前の論文発表時とほとんど
出源と蛍光体の間が2mm 以下と 変わっていないが、製造プロセス、
いう小さな間隔で実現するため、 製造条件の改良により、再現性の
CRT のように電子ビーム偏向の 向上、輝度の均一性の向上、輝度
必要がなく、薄型であり、画質、 の経時変化の軽減、電子放出率の
10
向上がなされたと同時に、製造工
程数を少なくすることにより低コ
スト化を実現し、実用化の目処が
立ったことがポイントとされる。
今年8月には少量生産を開始する
予定。
その他の方式の FED も盛んに
開発が行われている。電子放出源
としてシリコンやモリブデンなど
の円錐形マイクロチップを用いる
タイプで、車載用や産業機器分野
での小型ディスプレイの製品化が
想定される FED(双葉電子工業な
ど)
、そして現在日本、韓国、米
国(独立法人 新エネルギー・産
業技術総合開発機構「カーボンナ
ノチューブ FED プロジェクト」
:
科学技術トピックス
三菱電機他、サムソン電子、モト
ローラなど)で最も盛んに開発が
行われている電子放出源としてカ
ーボンナノチューブ(CNT)を
用いる CNT 型などがある。CNT
型は、CNT の電気伝導度が高く、
電子を取り出しやすいこと、且つ
機械的強度が高いことを利用した
ものである。このタイプでは、最
大の課題である電子放出特性のバ
ラツキを抑制し均質化を実現する
ための CNT の均質成膜技術、微
細エミッタ作製技術、電子放出
特性を得るための表面処理技術な
どの製造技術開発が中心課題であ
る。
それぞれの方式で開発が加速さ
れ、ここ1∼2年で製品化が相次
ぐことが期待される。
フロンティア分野
膀欧州宇宙機関が電気推
進で月探査機の軌道投
入に成功
2003 年9月 27 日、欧州宇宙機
関(ESA)は、欧州初の月探査機
「 ス マ ー ト 1(SMART‐1)
」を
打ち上げた。その後 13 ヶ月以上
にわたって、スマート1はイオン
エンジンの噴射により地球周回軌
道の半径を徐々に大きくし、月を
目指して遷移軌道を飛行し、月の
重力も利用して、2004 年 11 月 15
日についに月周回軌道に投入され
た。この間に、イオンエンジンを
289 回にわたって延べ約 3,700 時
間噴射し、地球を 332 周し、飛行
距離は 8,400 万 km に達した。月
への飛行経路の概要を図に示す。
当初の計画では月周回軌道投入ま
で 15 ヶ月を要すると見込まれて
いたが、予想より大幅に短縮され
た。また推進剤のキセノン消費量
も約 59kg と予定より少なくて済
んだので、月での観測期間を延長
できる見込みとなった。
《スマート1の飛行経路》
本体は1辺1mの立方体、太陽電池パネルは長さ 14 m、重量 370kg。
衛星製造契約者はスウェーデン宇宙公社
(Photo by ESA)
スマート1の推進力として用
いられたイオンエンジンとは、推
進剤をプラズマ化し、グリッドに
印可した電圧によってイオンを静
電的に加速噴出して推力を得る方
式の電気推進装置である。燃料消
費量の効率性を示す比推力(Isp)
は化学エンジンに比べて 10 倍以
上大きく、宇宙空間での軌道変換
に用いる推進力として有効である
ことが実証された。
スマート1は、月周回軌道に
投入された後、徐々に高度を下
げ、1月中旬頃には北極側の遠月
点(アポルン)3,000km、南極側
の近月点(ペリルン)300km の極
軌道で科学観測を行う段階に入る
予定である。主要な観測目標はサ
ウスポール・エイトケン盆地とい
う、南極と月の裏側の赤道付近を
用語説明
SMART:Small Missions for Advanced Research and Technology
AMIE:Asteroid-Moon Micro-Imager Experiment(Centre Suisse d'Electronique et de Microtechnique
(CSEM)
)スイス
D-CIXS:Demonstration of Compact Imaging X-ray Spectrometer(Rutherford Appleton Laboratory)
イギリス
SIR:InfraRed Spectrometer(Oxford Instruments Analytical Oy)フィンランド
XSM:X-ray Solar Monitor(University of Helsinki Observatory)フィンランド
Isp:specific impulse
Science & Technology Trends January 2005
11
科学技術動向 2005 年 1 月号
結ぶ直径約 2,500km、平均深さ約 (XSM)などがある。これらの機
10km のクレーターである。
器はスイス、イギリス、フィンラ
科学観測に用いられるセンサに ンドなど ESA 加盟国の研究機関
は、小惑星‐月マイクロイメージ や大学で開発された。
ャ実験用カメラ(AMIE)
、小型 欧州に続いて、2006 年に我が国
X線分光装置(D-CIXS)
、赤外線 の月周回衛星
「セレーネ
(SELENE)
」
分光計(SIR)
、X線太陽モニタ や中国の月探査機「嫦娥(チャン
12
ウ)
」の打上げが予定されており、
さらにインドの月探査機「チャン
ドラヤーン」
、米国の有人月探査再
開、ロシアの無人月面基地建設な
どの月探査計画も発表されている。
特集 1
創薬科学者・技術者の育成と現状
特集膀
創薬科学者・
技術者の育成と現状
客員研究官 梶本 哲也
1.はじめに
優れた医薬品の開発は手術件数
を減少し、治療日数・入院日数を
短縮させ、疾病の再発率を抑制し
て、QOL の向上や医療経済に大
きく貢献する。また、WHO によ
れば世界中の疾病の 3/4 にはまだ
有効な治療法がなく、これら疾病
に対する新薬の開発が期待されて
いる。これと同時に、医薬品も国
際化の時代を迎え、有効性・安全
性・品質面でグローバルスタンダ
ードが求められ、それに応える国
際競争力や創薬環境の整備が急務
となっている。資源をもたない我
国にとって、
「創薬技術」を発展
させて新薬の開発で世界をリード
することは資源に代わる知的財産
を保有し、医薬品の安全性と供給
を海外企業に委ねず、保健衛生外
交でイニシアティブを取る視点か
らも重要である。さらに、優れた
創薬人材の育成は医薬品を最も多
用する老人の人口割合が高い高齢
化社会に対応して行くためにも重
要な課題である。
2.医薬品開発の現状と問題点
う。安全性試験では、急性、亜急
性および慢性毒性の他に催奇形性
も試験する。この非臨床試験に3
医薬品開発のプロセス
―リスクの高い製品開発―
∼5年を要する。
さらに、非臨床試験を通過した
医薬品の開発は、まず、天然有 治験薬は、健康人男性を被検者と
機物、合成品、生体物質や微生物 するフェーズⅠ、少数の患者を対
代謝物に至るまで多用なカテゴリ 象としたフェーズⅡ、患者多数を
ーから薬理活性のある物質を見出 対象としたフェーズⅢの3段階に
し、薬になる可能性を持った新し 分かれる臨床試験を行う。臨床試
い生理活性物質を探索することか 験は医療機関で行なわれ、この段
ら始まる。次いで新規物質の性状、 階では、本来薬理効果を持たない
化学構造と作用機序の精査が行わ プラシーボ(偽薬)を使う二重目
れる。現在ではゲノム情報の活用 隠し法を行い、統計的処理によっ
も進められている。この段階に2 て薬効を判断する。これらの臨床
∼3年を要する。
試験に3∼7年が必要である。
次に、上記のスクリーニング 以上の試験で有効性、安全性、
により選別された物質を対象に動 品質が認められた治験薬について
物や培養細胞を用いて有効性(薬 は、製薬会社から厚生労働省に製
効)
、安全性(毒性)
、体内動態(吸 造承認の申請が行われる。医薬品
収、分布、代謝、排泄)
、安定性 医療機器総合機構および薬事・食
などを検討する非臨床試験を行な 品衛生審議会による審査を通った
2‐1
ものに対しては「医薬品としての
承認」が与えられる。この過程に
1∼2年を要する。これら 10 ∼
17 年にわたるすべての試験に合
格し、医薬品になる開発成功率は
11,000 分の1以下(日本製薬工業
協 会 加 入 17 社 の 1998 ∼ 2002 年
のデータ)に過ぎず、開発リスク
の高い製品であると言える(図表
1)1,2)。
2‐2
日本の医薬品開発
―海外製品に依存する日本の医療―
日本の新薬開発は物質特許制度
が施行された 1980 年頃から活発
になり3)、市場規模の拡大ととも
に開発力も上昇し、1990 年代にな
り国際的に通用する医薬品も数多
く出現するようになった。上述し
たように、医薬品は長い年月と低
かじもと てつや 蘆 京都薬科大学 薬品製造学教室 助教授 蘆 http://www.kyoto-phu.ac.jp/
Science & Technology Trends January 2005
13
科学技術動向 2005 年 1 月号
い成功率を経て製品となるため、
我国の医薬品の開発における研究
費は、今日、売上高の 8.6%にも
上る。
この数値は製造業種の中では
突出しており、全産業の平均値
(3.01%)の 2.5 倍に達し、一般に
研究開発費が多いとされる通信・
電子・電気計測器(5.67%)
、自動
車産業(4.09%)と比較しても高
く(図表2)
、研究費の総額は全生
産業研究費の 10%を占めるに至っ
4)
ている(総務省統計局のデータ)
。
さらに開発費も研究費に含める
と全体では売り上げの 13%にな
る。また、基礎研究にかかる割
合(23%)が他産業(全産業平均
5.8%)に比べても著しく高いこと
も大きな特徴である(図表3)
。
製薬産業における研究費の特
性は、特許から見た他産業製品と
医薬品との違いからも裏付けられ
る。自動車や家電製品においては、
1製品あたり数百から数千の特許
が存在しており、1つの特許の影
響は小さいため、既存の特許が製
品の開発を妨げる可能性は低い。
しかし、医薬品においては、製剤
特許を除いては1製品の基本特許
は原則として1つであり、既存の
特許の範囲外のものしか製品にな
らない(図表4)
。すなわち、基
礎研究から開始しなければ製品開
発ができないため、必然的に基礎
研究の占める割合が高くなる。
このように高い研究費をかけて
開発し、今のところ製造・販売に
は日本国内ですべての臨床試験が
義務づけられているという制約が
あるにも関わらず、国内使用の医
薬品で国内製薬会社が開発したも
図表1 医薬品開発のプロセスと成功率の関係
図表2 産業別研究費の売上高比率(2001 年)2)
出典:総務省「科学技術研究調査報告」
14
特集 1
創薬科学者・技術者の育成と現状
2)
のは売上高が 20 億円以上の医薬
図表3 産業別、性格別研究費の構成比(2001 年)
(単位:%)
品中の 40%程度にとどまってい
産業
基礎研究
応用研究
開発研究
る。しかもそのうち約 60%の品目
全企業
5.8
20.4
73.9
が、アメリカ、イギリス、ドイツ、
フランスのいずれの国でも承認さ
製造業
5.7
20.0
74.3
れていないのが現状であり6)、日
化学工業
15.7
25.2
59.1
本の創薬技術が国内市場だけを対
総合化学・化学繊維
10.7
26.4
62.9
象にして利益を上げてきた脆弱な
油脂・塗料
7.3
25.7
67.0
ものであることを物語っている。
医薬品
23.0
24.5
52.6
このような状況下、日米 EU 医
その他の化学工業
6.3
24.6
69.1
薬品規制調和国際会議(ICH)の
電気機械工業
3.8
19.2
77.0
合意(2000 年 11 月)によって海
電気機械器具
5.2
26.1
68.6
外での非臨床、臨床試験で日本国
通信・電子・電気計測器
3.2
16.6
80.2
内の医薬品製造許可が得られるよ
自動車
1.9
13.0
85.1
うになっており(2003 年7月1日
精密機械工業
1.8
24.6
73.6
以降の承認申請から適用)
、世界
ソフトウェア業
1.3
7.4
91.3
売上高 20 億ドル以上の製品 31 品
出典:総務省「科学技術研究調査報告」
目のうち日本で未販売の製品が 11
品目もある7)。ICH 合意を受けて
図表4 製品における知的財産権の違い(イメージ)5)
なされる 2005 年4月の薬事法の
改正後、これら売上高の高い医薬
品を筆頭に外国で開発された医薬
品が益々、我国で利用されると予
想できる8)。
一方、日本の医薬品市場は世界
市場の 12%(1994 年度には 20%)
を占めてアメリカについで第2
位であり、ドイツ、フランス、イ
ギリスの市場を合わせた規模に匹
敵するまでに成長しており(図表
5)2)、今後、日本の医療現場は、
激しい技術競争の中心的な市場と
して大きな役割を果たすことは明
図表5 世界の医療用医薬品の市場規模(2001 年)2)
らかである。
国が創薬研究を重要視し創薬人
材の育成をサポートしなければ、
日本は大きな市場(=開発チャン
ス)を持っているにも関わらず、
特許期限の切れたジェネリック医
薬品(後発品)を製造する科学技
術しか持ち合わせない創薬後進国
となると危惧される。
2‐3
薬学部の新カリキュラムと
創薬人材育成のギャップ
資料:GlaxoSmithkline Annual Report 2002
今日まで、我国では、製薬企業
が主に薬学部または薬科大学の卒
Science & Technology Trends January 2005
15
科学技術動向 2005 年 1 月号
業者を採用し、医薬品開発を行な
ってきた。先に述べたように、医
薬品開発においては、特に基礎
研究にかかる割合が高いことから
(図表3)
、基礎研究に従事する優
れた人材の育成が創薬技術・創薬
科学の鍵を握ると考えられる。し
かし、2006 年度から開始される薬
学部6年制の実施は、医療の高度
化と医薬分業の進展を背景に、薬
剤師に服薬指導や薬歴管理、薬害
防止のためのリスクマネージメン
トなどの専門教育を行なうことを
目的としている9)。世界的にみて、
薬剤師資格取得に6年制教育を義
務付けている国が圧倒的に多く、
4年間の教育で薬剤師資格を取得
できる日本のような国は少数であ
り、6年制の導入はむしろ遅すぎ
たともいえる 10)。その結果、今
後、日本の薬学教育は基礎研究よ
りも医療薬学に重点を置くことに
なり、
譖日本薬学会が発表した「薬
学教育モデル・コアカリキュラム」
11)
(平成 14 年8月)
においても「医
薬品の開発と生産」に割かれたペ
ージ数(4ページ)は「病院・薬
局薬剤師としての実務教育」に割
かれたページ数(14 ページ)の
1/3 以下となっている(図表6)
。
さらに 12 年間の経過措置とし
て設置が許可された「4(学部)+
2(大学院)
」年制の併設(注1) を
主張する意見は、6年制への移行
に対する不安を伴った消極論(注2)
と6年制単独で運営した場合より
教員定員増を抑えられるという大
学経営上の理論によって正当化さ
れている。ちなみに薬学部・薬科
大学が同じ学生定員で6年制に移
行した場合には、現規定の2倍の
教員定員を必要とし、そのうち 1/6
の教員は5年以上の実務(臨床)経
験者であることが要求されている。
いずれにおいても、国際競争力
のある優れた医薬品を開発する視
点からは、かけ離れた薬学部改革
が進行しており、今後 12 年間(ま
たはそれ以前に)で我国において
「創薬専門家」の育成は現在以上
に困難となることが予想される。
図表6 薬学コアカリキュラムの内容と
それに割かれたページ数
薬学コアカリキュラム
ページ数
薬学専門教育
物理系薬学を学ぶ
7
化学系薬学を学ぶ
9
生物系薬学を学ぶ
11
健康と環境
5
薬と疾病
医薬品を作る
13
製剤化
2
医薬品の開発と生産
4
薬学と社会
3
実務実習教育 病院・薬局薬剤師
卒業実習教育 問題解決
14
2
(注1)2006 年度より 12 年間に限って、
「4(学部)+2(大学院)
」年
制の教育を薬学部・薬科大学で受け、さらに6年制課程の卒業に必要な医
療薬学科目と実務(病院・薬局)実習を受けた者には薬剤師国家試験の受
験資格が与えられる。しかし、それ以後は「4+2」年制で国家試験の受
験はできなくなる。言い換えると、2006 年から最初の 12 年間に限って、
2年間の大学院修了者に対して例外規定が維持される。
(注2)
「消極論」という表現に対しては誤解を生じる危険が伴うが、
「薬
剤師資格取得=薬学部6年制教育=薬剤師の質の向上」と法制化された以
上、
「創薬人材育成」と「薬剤師資格取得」とは切り離すべきである。関
係機関の随所で「
(薬学部出身者には)薬剤師以外の多様な進路先もある
ため4年制も必要」と説明されているが、
(注1)で述べたような中途半
端な状態で「優れた創薬人材の育成」は不可能である。上述の文献 10)中
の p.144 の5∼7行目および p.145 の2∼7行目を参照されたい。
3.アメリカ合衆国における医薬品開発 12,13)
一国の創薬技術の水準は国内製
薬メーカーの世界市場での売上高
で見積ることができる。世界で2
番目に大きな市場をもつ我国は、
国別売上高でフランスと並んで4
位であり、6位のドイツとは僅差
である(図表7)5,7)。
16
世界の製薬メーカーの売上高ラ
ンキング(図表8)をみると、圧
倒的に欧米の製薬メーカーが上
位を占めている。日本の製薬企業
では、武田薬品工業が漸く 15 位
にランキングされるのが現状であ
り、これ以上の 14 位までのラン
キングのうちでアメリカの製薬
メーカーは半数の7社に及んでい
る。これらの製薬会社は1社で国
際的に通用する医薬品を3、4種
類も持っており6)、それまでの研
究・開発にかかった経費を回収す
るとともに次世代の医薬品開発費
特集 1
図表7 売上高 20 億ドル以上の上位 31 社を国籍
別に見た場合の売上高シェア5,7)
図表8 世界製薬大手の医薬品売上高ランキングと再編の動向6)
売上高(百万ドル)
−
①貎グラクソ・スミスクライン(英)
23.043
②蘯ファイザー(米)
22.567
③盧メルク(米)
20.225
④盪アストラゼネカ(英)
15.403
グラクソ・ウエルカム(英) 95年合併 グラクソ(英)
00年合併 スミスクライン・ビーチャム(英)
ウエルカム(英)
00年買収 ワーナー・ランバート(米) 99年買収 アグロン製薬(米)
⑤盻アベンティス(仏)
99年合併 ヘキスト(独)
15.159
⑥眇ブリストル・マイヤーズスクイブ(米) 14.400
⑦眄ノバルティス(スイス)
12.138
−
潯ジョンソン&ジョンソン(米)
11.954
潛貎ファルマシア(米)
10.824
濳眤アメリカン・ホーム・プロダクツ(米) 10.798
潭眞イーライ・リリー(米)
10.180
澂眥ロシュ(スイス)
9.929
潼眷シェリング・ブラウ(米)
8.346
潘睚バイエル(独)
5.784
澎睨武田薬品工業(日本)
5.765
⋮⋮
澡睫三共
澹瞋山之内製薬
3.083
濆瞎塩野義製薬
3.082
澪瞞エーザイ
2.322
濬瞠第一製薬
2.482
濱瞹藤沢薬品工業
2.171
99年合併 ゼネカ(英)
アストラ(スウェーデン)
95年買収 マリオン・メレ
ローヌ・プーラン(仏)
01年買収予定 デュポン〈医薬品部門〉(米)
ル・ダウ(米)
96年合併 チバガイギー(スイス)
サンド(スイス)
01年買収 アルザ(米)
99年買収 セントコア(米)
00年合併 ファルマシア&
アップジョン(米)
モンサント(米)
95年合併 ファルマシア
(スウェーデン)
アップジョン(米)
注:ユート・ブレーンの資料から。ランキングは2000年版。
カッコ内は99年。欧米企業は2000年12月期。日本企業は
2001年3月の決算で、いずれも連結の医療用医薬品売上
高。ただし、三共、山之内製薬、エーザイはOTCの売り
上げを含む。為替相場は2000年12月末で換算
出典:朝日新聞 2001 年8月5日
を確保している。
国内、海外を問わず、医薬品産
業の特性として売上高の約 10 ∼
20%が研究開発費として適用され
ることを考慮すると(図表9)
、売
上高の高さは当然ながら研究開発
費と良い相関関係があり、売上高
を伸ばすことで単純に創薬研究の
水準が高くなるものと考えられが
ちである。しかし、国の生命科学
政策から検証してみると、アメリ
カにおける医薬品開発力の強さは
1990 年代になされた合併による企
業の巨大化(図表8)だけでは達
し得なかった一面があることに気
付く12,13)。
アメリカ合衆国政府の生命科学
研究予算は、
国立衛生研究所
(NIH)
、
米国科学技術財団(NSF)
、エネル
ギー省(DOE)によって分配さ
れており、中でも NIH 予算(年
間 270 億ドル)がその 95%以上
を占めており圧倒的に多く、し
かも NIH 研究予算の 80%は
「NIH
グラント」
「研究コントラクト」
「協力合意」という名目で所外
部門に提供され、内9割が大学
などの非営利団体に配分されて
いる。このデータは、アメリカ
政府の研究開発予算全体の 46%
が産業へ配分されているのとは
好対照をなす(大学へは 34%)
。
これは、NIH が、医薬品や治療
法の開発を目標とする生命科学
では基礎研究に占める割合が高
いことを認識し、大学を通じて
国内の基礎研究のレベルを押し
上げ、大学から医薬品シーズを
創薬科学者・技術者の育成と現状
企業へ提供させることでアメリカ
国内の医薬品開発能力が向上する
と考えているからであろう12)。実
際、NIH 研究予算は上市された新
規 有 効 成 分 の 40 %(43/107 件:
1998 ∼ 2000 年)を助成したとい
う結果を与えている。
また、NIH は研究予算の 15%
を使って所内活動と呼ばれる研
究活動をしており、働いている研
究者の人員構成は、医師(MD)
2,000 名に対して、その他の自然
科学系の博士(Ph.D)は 2,800 名
である。これは、創立初期からの
基礎研究重視の理念が今も生きて
いることを反映しており、基礎研
究の結果を臨床に反映させ最善の
治療(医薬品を含む)を患者に提
供する一方、臨床から基礎へ知的
情報をフィードバックしている。
この方式が有効に機能し、1935 年
の設立以来 112 名のノーベル賞
(医学・生理学賞および化学賞)
受賞者を輩出している。
これらのことを総合してみる
と、医薬品の開発(創薬)には政
策として生命科学の基礎研究を推
進することがいかに重要であるか
が伺える。
その他、バイドール法、CRADA
( C o o p e r a t i v e R e s e a rc h and
Development Agreement の 略 )
、
SBIR/STTR などの技術移転制度
が効果的に機能し、NIH 予算の分
配は技術移転や新薬の臨床開発に
も効果的に貢献している。
バイドール法は、大学が NIH
予算(政府資金)を使って研究し
て得た特許を大学が所有できるよ
うにした法律であり、本法律の下
で開発された医薬品としてはエポ
ゲンとプロクリットがある。これ
らの製品はコロンビア大学で NIH
助成金を使用した研究から発見さ
れ、エポゲンはアムジェンに、プ
ロクリットはジョンソン & ジョ
ンソンによって製品化され、とも
に年間5億ドル以上(2000 年)の
売上高を上げている。
Science & Technology Trends January 2005
17
科学技術動向 2005 年 1 月号
CRADA は NIH と営利組織(企
業)との直接的な共同研究システ
ムであり、CRADA 契約を結ぶと
企業は共同発明によって得られた
特許発明を独占的にライセンス供
与される。NIH は特許収入の獲得
よりも製品として社会に還元でき
る研究の支援により使命を果たし
ているようである。また、臨床開
発 CRADA による研究結果は質の
高いデータとして FDA の申請の
際に使用可能であり、CRADA か
ら誕生した製品としてはタキソー
ル、グリーベック、エンドスタチ
ンなどがある。いずれも、分子標
的薬としてがん治療の最前線で優
れた効果を発揮している新進気鋭
の医薬品である。
SBIR/STTR はベンチャーを支
援し、医薬品シードの探索活力を
活性化するのに役立っている。シ
ードが製品となって収益を得るま
でに長い期間(10 ∼ 17 年)を要
するため、資金源が限られている
ベンチャーにとって NIH の助成
金は競争をしてでも取得するに十
分魅力的であり、同時に高い競争
率を勝ち抜いて助成金を得ること
は会社の株価上昇などの間接的利
益をもたらす効果もある。
このように、NIH の技術移転予
算は研究予算とともに、大学、企
業、ベンチャーも医薬品開発メン
バーの一員として参画できるよう
に体制が整っている(図表 10)12)。
図表9 世界製薬大手の研究開発費と売上高に対する割合(1999 年)6)
順位
企業名
ファイザー(アメリカ)
4,036
14.7
2
アベンティス(フランス)
3,228
16.4
3
アストラゼネガ(イギリス)
2,923
15.8
4
ノバルティス(スイス)
2,831
13.1
5
ジョンソン&ジョンソン(アメリカ)
2,600
9.5
6
ロシュ(スイス)
2,521
13.7
7
メルク(アメリカ)
2,068
6.3
8
グラクソ・ウエルカム(イギリス)
2,056
14.9
9
バイエル(ドイツ)
2,001
7.8
10
ブリストル・マイヤース・スクイブ(アメリカ)
1,843
9.1
11
イーライ・リリー(アメリカ)
1,784
17.8
12
アメリカン・ホーム・プロダクツ(アメリカ)
1,740
12.8
13
スミスクライン・ビーチャム(イギリス)
1,649
12.1
14
ファルマシア・アップジョン(アメリカ)
1,434
19.8
15
アボット(アメリカ)
1,194
9.1
16
シェイリング・プラウ(アメリカ)
1,191
13.0
17
サノフィ・サンテラボ(フランス)
851
17.0
武田薬品工業(日本)
692
8.4
三共(日本)
578
10.9
「薬事ハンドブック 2001 年度版」
(株式会社じほう)より
このようなアメリカでの資金、
人材、情報の流れをみると日本の
医薬品開発における流れとの違い
が明確になってくる。日本では、
競争資金のほとんどが大学に流れ
て企業の医薬品開発に利用される
ことは無いに等しい。少なくとも
上市された医薬品で政府資金が助
成したものは、オーファン薬(患
者数の少ない難病治療薬)以外に
はほとんど聞かない。創薬人材の
育成、医薬品シードの発見から製
品に至るまでの情報の取扱いは
各企業内で独自に執り行われてき
た。医薬品シード探索に専念する
ベンチャーも成長していないとい
う具合に極めて対照的である。
さらに、上述のように政府の
支援を得ながらも、大学から多く
の医薬品シードが出てくる背景に
図表 11 アメリカ合衆国の薬学部 4 年生の進路
社会・国民
税
製品
政府(NIH)
資金・人
資金・人
ロイヤリティ
研究開発レベル
の向上
企業・ベンチャー
ロイヤリティ
大学
人・モノ・特許・情報
技術移転活動
18
売上高比(%)
1
図表 10 アメリカにおける生命科学研究の
イノベーションサイクル 12)
利益
研究開発費
(百万ドル)
ミシシッピ大学(1999 年)を例とした
特集 1
は、アメリカの薬学部・大学院の
教育システムや人材採用にも注目
する必要がある。先述したように、
アメリカでも他の先進国と同様、
薬学部の教育期間は6年制を基本
としているが、多くの大学では4
年で学士(BS)卒業も認めている。
そのため薬学部を4年で卒業した
後、他の大学院博士課程に進学す
る学生も多い(図表 11)14)。
このような人的交流は学生だけ
ではなく教官の採用においてもな
されており、理工系学部出身の教
授が薬学部の教授として採用され、
創薬科学者・技術者の育成と現状
またその逆も頻繁に行なわれてい
る。さらに両学部での併任採用も
可能である。そのため、互いの学問
的興味が共有できる環境にあり、
双方の学問領域が広がって医薬品
シードを見出す機会が飛躍的に多
くなっていると考えられる 15)。
4.日本国内の製薬企業で開発され、世界の市場で通用している医薬品
世界売上げが年間 20 億ドル以
上の製品は高脂血症薬(スタチン
製剤)
、抗潰瘍剤(プロトンポン
プ阻害剤)
、抗うつ薬(選択的セ
ロトニン再取り込み阻害剤、セロ
トニン・ノルアドレナリン再取り
込み阻害剤)など慢性疾患の薬を
中心に 31 品目ある。その中で日
本のメーカーのオリジナルである
製品は、抗潰瘍薬・ランソプラゾ
ール(武田)
、高脂血症薬・プラ
バスタチン(三共)
、抗前立腺肥
大薬・タムスロシン(山之内)の
3品目におよぶ。また、世界売上
が 10 億ドル以上にまで枠を広げ
ると、日本のオリジナル医薬品は
他に7製品をリストアップできる
(図表 12)7)。
これまで、日本の医薬品開発力
の脆弱さを強調してきたが、薬効
分類で世界売上が1位である高脂
血症薬(総売上 207 億ドル)は正
に日本のオリジナル製品であり、
1970 ∼ 1990 年代に世界的に高い
と評価されていた日本の醗酵技術
が生かされた例である。
これらスタチン製剤と呼ばれる
医薬品は肝臓でのコレステロール
の生合成を阻害し、血中コレステ
ロールを減少させる薬であり、生
活習慣病の蔓延とともに売上高が
伸びてきた。
その開発の経緯には医薬品開発
に必要な視点が多く見られ、創薬
人材育成の指標を検討する上で教
訓的であるため、敢えてその開発
経緯を振り返りたい 16,17)。
本医薬品の研究は、1960 年代、
カナマイシン(抗結核薬)の発
見者である梅澤濱夫博士が提言
した「微生物産生物の酵素阻害ス
クリーニングが新薬開発に有効で
ある」との視点から開始された。
数多くのスクリーニングの結果、
1973 年、Penicillium citrinum(京
都産の米粒に付着していた青カ
ビ)の代謝産物中にコレステロー
ル生合成の律速酵素である HMG
‐CoA 還元酵素を特異的に阻害
する物質(コンパクチン)が発
見された。しかし、当初ラット
を使った in vivo の薬理評価にお
いて血中のコレステロールの 低
下が観察されず、足踏み状態で
の議論が2年以上も続いて研究
の続行が困難となった。事情を
聞いた別のグループが、老齢で
処分間近の実験用ニワトリを提供
し、コンパクチンを投薬したとこ
ろ劇的な効果が観察されて開発続
行が決定された。さらに、本化合
物を投与したイヌの尿中からより
コレステロール合成阻害活性が高
く低毒性の物質が得られ、この物
質が後に開発製品(プラバスタチ
ン)として認可された。工業化は、
P. citrinum が生産したコンパクチ
図表 12 日本のメーカーがオリジナルの製品
(2001 年:10 億ドル以上)7)
メーカー名
成分名
薬効
武田薬品工業
ランソプラゾール
抗潰瘍剤 PPI
三共
プラバスタチン
高脂血症スタチン
山之内製薬
タムスロチン
前立腺肥大
武田薬品工業
酢酸リュープロレリン
前立腺がん他
第一製薬
レボフロキサシン
抗生物質
武田薬品工業
ピオグリダゾン
2 型糖尿病
大正製薬
クラリスロマイシン
抗生物質
武田薬品工業
カンデサルタン
降圧剤 AIIRB
エーザイ
ラベプラゾール
抗潰瘍剤 PPI
エーザイ
ドネペジル
アルツハイマー
図表 13 プラバスタチン(高コレステロール血漿の治療薬)開発に
おけるキーポイント
1)活性物質の発見
⇒
HMG-CoA 還元酵素の阻害剤・コンパクチンの発見
2)in vivo での薬理学評価
⇒
ラットでは効果が見られず、ニワトリで薬効が発見
3)薬物動態(薬物代謝)の解明
⇒
コンパクチンを投与したイヌの尿から、活性が高
く副作用の少ない物質の発見
4)大量合成法の確立
⇒
二段階発酵法の確立
5)安全性・毒性の評価
⇒
コンパクチンの毒性、プラバスタチンの安全性を評価
Science & Technology Trends January 2005
19
科学技術動向 2005 年 1 月号
内コレステロールの制御メカニズ
ムを解明し、
ノーベル賞(1985 年:
医学・生理学賞)を受賞している。
変換する二段階醗酵法を採用して
本製品の開発においては、前ペ
達成された。
また、プラバスタチンの開発は ージに列記した各段階が有機的に
。
動脈硬化の研究の進歩を促進し、 機能したと言える(図表 13)
プラバスタチンの開発前駆薬物で 一方、イギリスの製薬会社(ビ
あったコンパクチンを使ってゴー ーチャム社)も三共グループと
ルドシュタインとブラウンが生体 ほぼ同時期にコンパクチンを P.
ンをオーストラリアの土壌放線菌
Streptmyces carbophilus に よ っ て
brevicompactum から単離してい
るにも関らず、弱い抗真菌活性を
見出していたに過ぎない。新しい
化合物を見出すことと、新しい医
薬品を開発する「創薬」との違い
を語るのに相応しい研究経過の例
である。
5.大学の研究から誕生した医薬品
譖日本薬学会が発行している
「これから薬学をはじめるあなた
に」と題したガイダンス用パンフ
レットにも化学、生物学、物理学
を基礎学問として「創薬化学」
「医
療薬学」
「衛生薬学」
「ライフサイ
エンス」に貢献することが薬学の
使命として紹介されている 18)。
このようなコンセンサスがある
にも関わらず、
今日まで「創薬(化
学)
」は製薬企業を中心に行なわ
れ、薬学部・薬科大学の化学は主
に新しい合成手法を開拓するのに
専念してきた感がある。そのため、
アメリカと比較しても日本の大学
の研究室から医薬品のシードが見
つかった例は少ない。しかし、日
本の薬学は創成期から、薬用植物
や生薬の成分研究が盛んに行なわ
れ、それらの研究の中から製品に
までたどり着いたものがあり、注
目に値する。ここでは2例を紹介
する。
まず、世界 100 カ国以上で承認
されているイリノテカンが大学発
信型の代表的な医薬品としてあげ
られる。本製品は、宮坂貞・昭和
大学名誉教授と企業(ヤクルト)
との共同研究により開発された抗
がん剤であり、
年間9億ドル(2003
年)の売上高を上げている 19)。
本医薬品は中国原産の喬木・喜
樹から単離されたカンプトテシン
を化学修飾して作られた。カンプ
トテシンは実験移植腫瘍の増殖を
阻害するが、骨髄抑制や出血性膀
胱炎などの重篤な副作用のため、
20
図表 14 カンプトテシンとイリノテカンの構造式
一度は治療薬としての開発が断念
された成分であった。宮坂博士は、
同じ喜樹から微量成分として得ら
れる構造類似の成分(図表 14 左、
R = OH の化合物)が低毒性であ
ることに注目し、これら天然物の
誘導体を数多く作り、一つひとつ
抗腫瘍活性を検討し、最終的には
副作用が少なく、静脈内投与でき
るほどに水溶性が高く、また血中
濃度が持続するイリノテカンの開
発に成功した(図表 14)
。後に、
イリノテカンは DNA トポイソメ
ラーゼⅠの阻害剤として働くまっ
たく新しい作用機序の医薬品であ
ることが分かった。1994 年に肺が
ん、卵巣がん、子宮頚部がんの薬
として認可され、薬効評価を中心
に協力関係にあったヤクルト譁か
ら上市され、
さらに 1995 年には胃、
結腸、直腸のがんおよび再発乳が
んへ適応が拡大された。現在、欧
米では、本医薬品は直腸がんの第
一選択薬となっている。
もう1つの例は、藤多哲朗・京
都大学名誉教授が漢方薬「冬虫
夏草」から単離したマイリオシ
ンをシード化合物として開発した
FTY720 と命名された免疫抑制剤
の治験薬である 20)。
藤 多 博 士 は、 シ イ タ ケ 栽 培
に 被 害 を 与 え る Trichoderma
polysporum の成分研究中に、こ
の菌が免疫抑制剤サイクロスポリ
ン A の生産菌と同一名であるこ
と(注3)、そして、この菌から自ら
単離していたペプチドの類似体が
「冬虫夏草」の成分として報告さ
れていることに気付き、冬虫夏草
の成分研究を開始して免疫抑制物
質マイリオシンを発見した。免疫
抑制活性を調べながら、このマイ
リオシンの化学構造を台糖譁なら
びに吉富製薬(現:三菱ウェルフ
ァーマ)の研究者と共同で簡単な
ものにしていき、FTY720 を合成
した(図表 15)
。
現在、FTY720 は臓器移植にお
ける免疫抑制剤として、ノバルテ
ィスが中心となって海外で臨床開
(注3)本菌は後ほど Tolypocladium inflatum に属することが分かった。
特集 1
発に乗り出している。さらに、自
己免疫疾患の治験薬としての開発
が期待されている。
本項および前項で見てきたよう
に、日本のオリジナル医薬品の全
体を見渡すと、醗酵技術や天然物
化学、有機合成といった日本が得
意とする分野を足がかりとしてシ
ードを探し出し、製品となったも
のが世界市場で通用することが再
認識できる 21)。この視点はデータ
としても支持されている。最近 10
年間以上にわたり、コンビナトリ
アル化学で医薬品を開発する動向
創薬科学者・技術者の育成と現状
が盛んであったが、最近になって、
医薬品と天然物の物性分布が似て
おり、コンビナトリアル化学で得
られる物質の物性分布が医薬品と
かけ離れており、多様性も少ない
というデータが報告された(図表
16)22)。
図表 15 マイリオシンと FTY720 の構造の類似性
図表 16 医薬品、天然物とコンビナトリアル化学で得られる化合物の物性分布の比較 23)
6.優れた創薬人材の育成を行なう新しい教育システムの整備の必要性(提言)
以上、2010 年には国内の製薬会
社は3∼5社になっていると言わ
れている日本の創薬技術およびそ
れを担う創薬人材の育成の状況を
概観してきた 24)。確かに、今まで
述べてきたように「薬のグローバ
ルスタンダード化(開国)
」が迫
られており、欧米の新薬開発力に
は現在の日本の創薬技術ではまと
もには対抗できない状況である。
しかし、世界市場で年間 10 億
ドル以上の売上高をもつ日本のオ
リジナル製品が 10 品目あること
(図表 12)
、大学から発信された
医薬品が世界で通用している例な
どを挙げると我国の創薬技術は脆
弱でありながら磨きをかければ光
る余地が残されていると考えられ
る 25)。医薬品の開発には、臨床試
験(治験)に対する認識を高める
と言った国民の意識改革も重要な
課題として残されているが、むし
ろ 2006 年の薬学部6年制の施行
を機に、創薬技術者の育成を専門
に行なう新しい教育環境の整備が
急がれる。
現在、製薬企業で働く研究員の
人 数 は、 約 18,000 人 と 見 積 も ら
れており(厚生労働省の発表)5)、
対国民人口で換算するとアメリカ
の約 1/2 である。研究者の研究寿
命 が 20 年(25 ∼ 45 歳 ) と 概 算
すると、毎年、少なくとも年平均
900 人の創薬研究者を育成する必
要があり、アメリカと対等に競争
するには毎年 1,500 人以上の新人
研究者を必要とすることになる。
製薬企業からの声では、
「有機
化合物の合成ができる人」
、
「
(微
生物や細胞だけでなく)動物の扱
える人」
、
「生物統計学のできる人」
が不足しているようである。
「有
機合成」や「動物の扱い」は、い
わゆる 3K(きつい、汚い、危険)
を伴う仕事であるため、これらの
分野に若い人材が少なくなってい
るのは納得できる。さらに最近の
薬学部卒業者が創薬よりも病院や
薬局で働くことを希望する傾向が
強いことから、製薬企業は、バイ
オテクノロジーを中心に教育する
生命科学系の学部や学科から優秀
な人材を探しているようである。
しかし、これらの学部・学科のカ
リキュラムには「有機合成」や「動
物の扱い」に関する講義・実習は
十分に盛り込まれておらず、これ
らの学部・学科では製薬企業が本
当に必要としている人材は育成で
きないと考えられる。
一方、知的財産としての医薬品
は、
「化合物特許」
、
「製法特許」
、
「用
途特許」および「製剤特許」の
4種類の特許で保護されることか
ら、医薬品の開発には、新しい物
質(化合物)
、製法(合成法)
、用
Science & Technology Trends January 2005
21
科学技術動向 2005 年 1 月号
途(薬理効果・効能)
、製剤(剤
形)を開拓することが必要不可欠
である。また、医薬品であるため
には、非臨床および臨床試験にお
いて安全性を保障することが必要
である。以上の視点から優れた創
薬人材を育成するには、
ラッグデリバリーシステム)を
開拓する製剤学
⑤安全性、毒性を見極める毒物学
の 5 科目を重点的に教育する全く
新しいシステム(学部・学科)を
立ち上げることを提案したい。こ
こで言う「新しいシステム」は、
①新しい医薬品シード(化合物) 既存のカリキュラムを基に多くの
を開発するための化学、生物学 薬学部・薬科大学が併設を予定し
的基礎
ている「4+2年制」ではなく、
② 新しい医薬品を製造する化学 製薬産業に直接、人材、特許、情
的、生物学的手法
報を提供できる教育・研究環境を
③医薬品の新しい効果・効能を見 さしている。
出す薬理学
上記項目中の①②は「有機合成
④医薬品に応じた新規な DDS(ド のできる人材」を育成し、③④⑤
は「動物を扱える人材」および「生
物統計学のできる人材」を育成す
る。さらに、ゲノム解析の結果に
期待が高まっている状況を勘案す
ると、
「ゲノムを利用する医薬品
の利用法」も知的財産の対象とな
ることが容易に想像できる。従来
型の分子生物学だけでなく、日本
が立ち遅れたとされる生物情報学
(バイオインフォーマティックス)
の教育も上記科目に加えることに
反論の余地はないと思われる。バ
イオインフォーマティックスは①
∼⑤のすべての分野で必要な知識
である。
7.まとめ
医薬品は、研究・開発から製 発技術は大きく躍進する機会を
造・販売に至るまでに GLP(医薬 得、世界で通用する医薬品を創れ
品の安全性に関する非臨床試験実 るはずである。しかし、2006 年
施の基準)
・GCP(医薬品の臨床 4月からの6年制の導入とともに
試験の実施の基準)
・GMP(医薬 「製薬企業で活躍する人材」と「薬
品の製造管理及び品質管理規則)
・ 剤師」の二者を育成してきた薬学
GPMSP(医薬品の市販後調査の基 教育のバランスは大きく薬剤師教
準)と厳しい規制の下で作られる 育に傾くことになり、今日におい
最も付加価値の高い生命科学製品 ても十分といえない創薬人材の育
であり、他産業製品に比べて高い 成は益々困難になる。
研究開発費と長い研究開発期間を 医療従事者としての薬剤師の育
必要とする。それゆえ、以上述べ 成は6年制に移行する薬学部・薬
てきたように、
「創薬技術=新し 科大学に任せ、製薬産業に創薬人
い生物活性物質の探索+バイオテ 材、シード、情報を直接提供でき
クノロジー」という発想だけでは る全く新しい教育システム(学部・
優れた医薬品を開発することは困 学科など)を立ち上げ、
我国の「創
難である。
薬技術という知的財産」と「老齢
一方、創薬プロセスのうち、医 化に伴う国民の健康」を守ること
薬品の実用化に必要な治験の専門 が重要である。
家育成プログラムが東京大学、京
都大学、北里大学を中心に出来 謝 辞
上がったと報告された(日経新聞 本稿の執筆にあたっては、京
2004 年 12 月6日)
。本教育制度の 都薬科大学副学長・野出學先生に
施行によって我国における臨床 種々のご配慮を賜わり、感謝の意
試験や新薬承認審査は質が高ま を表します。また、多くの方々か
り、迅速になると期待されてい らのご意見、資料のご提供などの
る。この治験プロの育成に呼応 ご協力を頂きました。とりわけ、
して、医薬品シードの発見から 株式会社カネカ相談役・舘糾様、
治験薬開発までの創薬環境を整 藤沢薬品工業株式会社会長・藤山
備できれば、我国の医薬品の開 朗様、塩野義製薬株式会社元副社
22
長・秋吉節様、藤沢薬品工業株式
会社製品戦略部部長・橋本正治様、
京都薬科大学教授・舟崎紀昭先生、
同・助教授・林良雄先生には、ご
芳名をあげさせて頂き心より御礼
申し上げます。
引用文献
01) DATA BOOK 2004 日本製薬工
業協会
02) てきすとぶっく製薬産業 2004 日本製薬工業協会
03) 物質特許制度:昭和 51 年1月 1
日から、製法特許に加えて、飲
食物、医薬、化学物質の発明が
特許として認められるようにな
った。
04) 総務省統計局ホームページ:科
学技術研究調査報告:
http://www.stat.go.jp/data/
kagaku/index/htm
05) 厚生労働省のホームページ:
「生
命の世紀」を支える医薬品産業
の国際競争力強化に向けて
06) 薬を知りたい―創薬プロジェク
トの現場から―、中島祥吉(平
成 13 年 12 月)
、丸善
07) 譁ユート・ブレイン(Uto Brain)
のホームページ:
http://www.utobrain.co.jp
特集 1
08) 医者がくれない世界の良薬、北
村正樹、中原英臣(2003 年 10 月)
ブルーバックス、講談社
09) ファルマシア 2005 年1月号 特
集:医薬品の安全性向上を目指
して 日本薬学会
10) 日 本 の 薬 学 教 育、 林 一、
(2000
年 11 月)
、日本評論社
11) 薬学教育モデル・コアカリキュ
ラム(平成 14 年8月)
、日本薬
学会
12) 米 国 に お け る 政 府 に よ る 研 究
開発支援の現状と動向∼生命科
学研究費の医薬品への流れ∼ (2001 年9月)
、医薬産業政策研
究所
13) アメリカ NIH の生命科学戦略、
掛札 堅(平成 16 年4月)ブル
ーバックス、講談社
創薬科学者・技術者の育成と現状
20) 化学と薬学の教室、No.130、特集:
冬虫夏草の免疫抑制作用(1998
14) 京都薬科大学・舟崎紀昭教授の
作成された全学教官会議(2004
年7月 28 日)の資料からの転用
年6月)
21) 薬学と医学の接点―くすりつく
りの現場から―
(平成 15 年4月)
、
15) Directory of Graduate Research
1997(アメリカ化学会)
日本薬学会
22) M. Feher et al., J. Chem. Inf.
16) MEVALOTIN STORY(2001 年
2月)
、三共株式会社
Comput. Sci., 43, 218-227, 2003.
23) 本写真は藤沢薬品工業、橋本正
17) 今話題のくすり―開発の背景と
薬効―日本農芸化学会編、学会
出版センター
治様のご好意による。
24) 製薬協 2002「くすり」の未来に
ついてかんがえませんか、日本
18) これから薬学を始めるあなたに、
(2001 年2月)
、日本薬学会
製薬工業協会
25) ファルマシア、2004 年 10 月号、
19) 宮坂貞教授退官記念「最終講義要
旨並びに研究業績目録」1999 年、
ミニ特集:創薬温故知新、日本
薬学会
昭和大学・薬品製造化学教室
Science & Technology Trends January 2005
23
科学技術動向 2005 年 1 月号
特集膂
エレクトロニクスへの
ナノテクノロジーの応用
*
**
̶検討が進むシリコン LSI への適用例から̶
情報通信ユニット 小松 裕司 *
客員研究官 小笠原 敦 **
1.はじめに
ナノテクノロジーは、広義には
ナノスケールの物質を取り扱う技
術すべてを意味する。また狭義に
は、物質をある特定のサイズと
する事により、そのサイズ特有の
性質が発現する事を利用した技術
を意味し、この特定のサイズは、
10nm から 100nm の範囲である場
合が多い。
これらのサイズの物質を実現
するには、大きく2つの方法があ
る1)。一方は、マクロスケールの
ものを微細加工により、小さく加
工していくトップダウン・アプロ
ーチであり、他方はナノスケール
以下のものを組み上げて、ナノス
ケールとするボトムアップ・アプ
ローチである(図表1)
。トップ
ダウン・アプローチの代表例とし
ては、半導体微細加工技術があげ
られる。これは、1つのマクロな
シリコン単結晶を最終的にトラン
ジスタ等の微細素子に加工する技
術である。ボトムアップ・アプロ
ーチの代表例としては、生命活動
があげられる。これは、原子や分
子から DNA や蛋白質等を合成し、
最終的には生物個体を形成してい
く能力である。トップダウン・ア
プローチの代表例である半導体微
細加工の加工寸法は、量産レベル
の最先端シリコン LSI 製品で既に
図表1 ナノスケールへのアプローチの
2つの方法
科学技術動向研究センターにて作成
90nm に至っている2)。
米国等の海外では、半導体の微
細加工技術に代表されるトップダ
ウン・アプローチがナノテクノロジ
ーにおいても主要な位置を占めてい
る。ナノテクノロジーの重要な使命
の1つにシリコン LSI 技術の延命が
位置づけられている例もある3)。
分子の自己組織化の応用の可否
を早期に判断するとした米国「21
世紀ナノテクノロジー研究開発
法」4,5)の影響からか、最近、米
国の大学や企業を中心に、トップ
ダウン・アプローチの一部にボト
ムアップ・アプローチを組み入れ、
ナノテクノロジーの利点をよりス
ムーズに既存のエレクトロニクス
技術に応用する研究がなされ始め
た。このボトムアップ・アプロー
チは、例えばナノテクノロジーの
最大の特徴である自己組織化を利
用した素子の形成や、電子のみな
らずイオンの移動を伴うデバイス
応用等である。これらは従来のシ
リコン LSI をベースにしながらも
ナノテクノロジーの基本概念を着
実に導入したものである。
本稿では、シリコン LSI 関連の主
要学会や学会誌等で発表された論
文を中心にナノテクノロジーのこ
の技術領域への適用例をあげ、実
用化に向けた研究開発動向を探る。
** おがさわら あつし 蘆 独立行政法人 産業技術総合研究所 主任研究員 蘆 http://www.aist.go.jp/
24
特集 2
エレクトロニクスへのナノテクノロジーの応用 ̶ 検討が進むシリコン LSI への適用例から ̶
2.シリコン LSI 技術の階層について
全ての技術をボトムアップ・ア シリコン LSI の場合、過去の世 を可能な限り引き継ぐ事は、経済
プローチで新たに組み上げるので 代に開発した技術を利用して、次 的にも効果的である。カーボン・
なければ、従来のトップダウン・ の世代の技術開発を行う事が多 ナノチューブを用いた単体のトラ
アプローチの技術体系の一部にボ い。過去の技術であっても優れた ンジスタが試作された後で、この
トムアップ・アプローチの技術を ものは、転用可能な資産として、 技術が集積化を含めた総合的な機
組み入れて使用する事になる。こ 広く流通する事になる。これら 能で現在のシリコン LSI に追いつ
の時、重要な事は、従来の技術体 は例えば、LSI 製造工程で使用さ く為には幾つもの技術的、経済的
系がどのようになっているか、新 れる材料や製造装置もしくは、IP な障壁がある事を認識しなければ
たな技術と既存技術とのインター (Intellectual Property) と 呼 ば れ ならない。
フェースはどうなるか、新たな技 る再利用可能な LSI 設計資産であ 次章では、シリコン LSI のそれ
術で一部置き換える事の既存技術 る。特に近年、金額的にも大きな ぞれの技術階層で、ナノテクノロ
への影響はどの範囲、どの程度か 設備投資が必要な製造ラインや設 ジーのどの様な応用検討が行われ
等である。
計環境について、前の世代の技術 ているのかを実例をあげて示す。
図表2は、次章で示すシリコン
LSI 技術の階層を示している。こ 図表2 大きく4つに分けたシリコン LSI 技術の階層
こでは、シリコン LSI 技術の階層
No.
検討の階層
例
素子の数
技術
転用可能な資産
を大きく材料、単体素子、基本回
シリコン
1
材料
<1
材料、製造装置、
路、機能ブロックの4つに分けて
高誘電率材料
製造
製造ライン
いる。幾つかの機能ブロックを組
トランジスタ
2
単体素子
1
キャパシタ
み合わせる事により、LSI が作製
3
基本回路
論理回路、遅延回路 10 ∼ 102
される。図表2には、各階層での
設計手法、
メモリ
LSI 設計
検討対象の例とそれらがトランジ
4
機能ブロック
102 ∼ 108
設計環境、IP
算術演算ユニット
スタ等の基本素子を単位とした場
科学技術動向研究センターにて作成
合、目安として、どの程度の集積
規模になるかも示した。
3.ナノテクノロジーの応用例
ナノテクノロジーの応用例とし
て、以下に代表的な5つの例を示
す。先に示したシリコン LSI 技術
の階層で、最初の3つは材料や単
体素子技術に関する検討であり、
残りの2つは基本回路や機能ブロ
ックに関する検討である。
3‐1
分子メモリ
最初の例は、DRAM ①のキャパ
シタの誘電体材料にボトムアッ
プ・アプローチのナノテクノロジ
ーを応用したものである。DRAM
の基本セルは、トランジスタとキ
ャパシタそれぞれ1つからなる。
ここで、能動素子であるトランジ
スタは、比例縮小により性能を向
上させる事が可能である。しかし、
受動素子であるキャパシタは、リ
ーク電流の増加からその誘電体材
料を一定値以下に薄膜化する事は
難しく、比例縮小により実装面積
が小さくなると、蓄積容量が低下
する事になる。これに対してチッ
プ上の実装面積を増大させずに一
定容量を確保する為に、従来、シ
リコン基板に深く穴を掘ったり
(トレンチ型)
、キャパシタ電極を
3次元的に高く積み上げ(スタッ
ク型)たりしてきた。この結果、
DRAM ではキャパシタ形成の工
程を中心に製造プロセスは複雑に
なり、結果的には製造コストが増
大していた。
用語説明
① DRAM
半導体記憶素子の1つ。読み書
きが自由に行なえるランダムアク
セスメモリの一種で主にコンピュ
ータのメインメモリに用いられる。
この課題に対して、カリフォル
ニア大学の Werner G. Kuhr 等は、
DRAM キャパシタの誘電体膜を
自己組織化により形成された単分
子膜とある種の電解質の2層構造
で形成することにより、解決を試
みている6)。この2層構造の採用
により、電界の印加方向に応じて、
単分子層と電解質との間で酸化還
元反応が起こり、分子膜に蓄積さ
れる電荷(起電力)を変化させる
Science & Technology Trends January 2005
25
科学技術動向 2005 年 1 月号
事が出来るとしている。
従来のシリコン酸化膜等の絶縁
膜からなるキャパシタに対して、
今回の技術はキャパシタの面積
によって分子の数、つまり蓄積さ
れる電荷の量が決定され、これは
印加電圧に依存しない。この結果
キャパシタ面積の縮小が可能とな
る。蓄積電荷の特性は基板では無
く、分子層により決定され、電荷
密度は従来比1桁以上増大し、従
来トランジスタのリーク特性で決
定されていた電荷保持時間は分
子の特性によって決まり、従来の
1万倍(10 秒)以上になると報告
されている。
また、酸化還元反応後の分子の
状態が離散値をとる事②を利用し
て、多値メモリセルや多値論理ゲ
ートへの応用の可能性も示唆して
いる。さらに、分子層は自己組織
化にて形成され、これはシリコン
や金属等の特定の基板上のみに自
己整合的に成長させる事が可能で
あり、既存の LSI 製造装置を用い
て安価にプロセスを行う事が可能
である事を示している。この技術
に関しては、既に ZettaCore ③ 7)
なるベンチャーが1Mbit DRAM
を試作して電気的な特性を評価し
ており、比較的完成度も高いと考
えられる。
3‐2
微細加工
メモリの基本単位が2つの素子
で構成される DRAM に対して、
不揮発性半導体メモリの主要デバ
イスであるフラッシュ・メモリ④
では、トランジスタ1つで構成さ
れる。この為、フラッシュ・メモ
リは高密度・低価格化に有利とな
り、コストが優先される情報家電
等の民生品への応用で市場を急速
に拡大している。特に、携帯電話
等の携帯機器においても近年は画
像信号を扱うようになり、扱う情
報量の急増からフラッシュ・メモ
26
図表3 DRAMキャパシタに応用した分子メモリ
参考資料6,7)を基に科学技術動向研究センターにて作成
図表4 フラッシュ・メモリ基本素子断面模式図
科学技術動向研究センターにて作成
リに対しても大容量化の要求が高
まっている8)。
ところが、フラッシュ・メモリ
では、以前から物理的な微細化の
限界として、トンネル酸化膜の薄
膜化限界が指摘されている(図表
4A)
。代表的なフラッシュ・メ
モリの基本素子であるフローティ
ング・ゲート型と呼ばれるトラン
ジスタでは、2つのゲート電極を
積層し、蓄積電極(フローティン
グ・ゲート)中の電荷の有無で情
報を記憶する。この電荷の注入は、
制御ゲートへの電圧印加によりト
ンネル酸化膜を通じて行われる。
トンネル酸化膜は、通常、シリコ
ン酸化膜(SiO2)にて形成される
が、少なくともその記憶保持保障
期間中(通常 10 年)は、蓄積電
極中の電荷を保持出来るだけの十
分な絶縁性を有していなければな
らない。この為、現在の技術では
トンネル酸化膜は一定値以下にす
る事は出来ず、このトンネル酸化
膜だけは半導体デバイスの比例縮
小則に従った微細化が行えない。
用語説明
②状態が離散値をとる分子
マルチ・ポルフィリンナノ構造(Multi-porphyrin nanostructures)と呼ばれ
る分子用いて、最大8個の異なる酸化状態(3ビット)を得ていると報告され
ている4)。ポルフィリンは、有機化合物色素の1つ。
③ ZettaCore 社
カリフォルニア大学とノースキャロライナ州立大学の研究者が 1999 年設立
したベンチャー。
④フラッシュ・メモリ
電気的に書き換えが可能で、データを一括またはブロック単位で消去可能な
不揮発性メモリ。
特集 2
エレクトロニクスへのナノテクノロジーの応用 ̶ 検討が進むシリコン LSI への適用例から ̶
これは、トランジスタの微細化を
難しくするだけでなく、動作電圧
を下げる事も出来ず、低消費電力
化や他の低電圧 LSI との集積化の
観点からも不利となる。
この課題に対して、フローティ
ング・ゲートをナノドットと呼ば
れる非連続膜で形成するアイデア
が提出された(図表4B)
。連続膜
で形成される蓄積電極では、トン
ネル酸化膜に1つ欠陥が存在すれ
ば、そのメモリは不良となる。し
かし、蓄積電極を非連続膜とする
事により、トンネル酸化膜に欠陥
が多少存在しても蓄積電極の一部
の電荷が失われるのみで、メモリ
セルの状態は殆ど変化しない(図
表4C)
。このようにトンネル酸化
膜の欠陥に対して、堅牢なトラン
ジスタの設計が行えれば、トンネ
ル酸化膜をさらに薄くする事が可
能となる9)。
ところが、ナノドットを従来の
薄膜形成技術で形成するとこの結
晶サイズや形成される位置がラン
ダムにばらつき、その結果、トラ
ンジスタの特性も大きくばらつく
との報告があり 10)、ナノドットを
微細、かつ結晶サイズを揃えて形
成する技術が求められていた。
この課題に対して、米 IBM は
自己組織化過程を応用したシリコ
ンのナノドットの形成技術を 2003
年の電子デバイスに関する国際会
議(IEDM)で発表した 11)。
IBM はある種の高分子有機材
料が有する自己組織化の性質を利
用し、従来のリソグラフィー技術
を用いず、ナノドットを形成する
方法を開発した。この手法による
と、従来のリソグラフィーで形成
したものよりもナノドットをより
小さく、高密度、高精度で均一に
形成できる。高解像度の走査型電
子顕微鏡写真からは、シリコンの
ナノドットは多結晶シリコンの制
御ゲートとシリコン基板との間に
約 20nm のサイズで一様に形成さ
れていることがわかる(図表5)
。
この IBM の報告は、従来のリ
ソグラフィー技術でトップダウン
に形成される半導体デバイスの一
部にボトムアップ・アプローチの
自己組織化技術を組み入れて、フ
ローティング・ゲート型不揮発性
メモリの鍵となる技術である蓄積
電極を形成し、従来技術の課題を
解決した好例と言える。
3‐3
イオン電界移動スイッチ
素子数やチップ面積が同じ LSI
で、データ処理速度や消費電力の
どちらか一方を優先させる場合に
LSI の内部配線の一部を切り替え
て、素子間の接続を変更して使用
する場合がある。従来、この配線
の切り替えは、LSI を製造した後
に高電流やレーザ照射による熱で
配線を物理的に溶断して行う手法
が用いられてきた。しかしこの手
法には、不可逆プロセスで一回だ
けの切断のみ可能である事、配線
の微細化に伴い周辺にダメージを
与えずに配線を切断することが困
難になってきている事等の課題が
ある。何回でも切り替えが可能な
スイッチとして、トランジスタを
使用する方法もあるが、この場合
は、トラジスタを付加する事に伴
う、遅延時間や実装面積、消費電
力の増大を伴う。
この課題に対して、米 IBM は、
図表5 シリコンのナノドットの形成フロー
窕は、各プロセスステップでの断面模式図、窘は窕の各ス
テップでの鳥瞰写真、窖は最終的なトランジスタの断面写真
をそれぞれ示している。窘稈のグラフは、破線秬が最初の自
己組織化されたポリマーの直径、秡が途中の過程のシリコン
酸化膜の直径、実線秣が最終的形成されたシリコンのナノド
ットの直径を示している。窕で示した形成フローの詳細は、
以下の通りである。
窕秬第1段階:互いに難溶性の2種類の高分子材料から成る
共重合体(Diblock Copolymer)を加熱するとマイクロレ
ベルでの相分離が発生する。ここでは、2種類の高分子
材料として、ポリスチレン(polystyrene)とポリメチルメ
タキレート(poly methyl-methacrylate;PMMA)とを分子
量 70:30 の割合で混合したものを使用している。180℃で
1時間熱処理を行うと相分離が発生するので、相分離し
た PMMA 領域を酢酸で選択的に溶解させる。すると自己
組織的に形成された完全な六方晶の配列のポリスチレン
が残る。この配列のサイズは最初の Diblock Copolymer の
分子サイズに依存する。写真で黒く見える部分の直径は約
20nm で、その間の間隔は約 40nm である。
窕秡第2段階:秬で形成された自己組織化ポリマーをマスク
として、シリコン酸化膜をナノスケールで加工し、その後
ポリマーを除去する。
窕秣第3段階:秡で加工されたシリコン酸化膜の凹領域に従
来の加工技術を用いて、シリコンを埋め込む。最初に高分
子材料の自己組織化を利用して形成された領域に沿って、
シリコンによるナノドットが形成される。
参考資料 11)より抜粋、模式図は科学技術動向研究センターにて作成
Science & Technology Trends January 2005
27
科学技術動向 2005 年 1 月号
図表6 eFuse 写真(左は鳥瞰、右が断面)
色の変化している部分は、原子が移動している部分
イーフューズ(eFuse)と呼ばれる
通電による金属原子の移動(エレ
クトロ・マイグレーション)を利
用して自律的に回路を再構成する
技術を 2004 年7月に発表した 12)。
エレクトロ・マイグレーション
とは、高密度電流を流した時に金
属原子が固体中を移動する現象で
あり、LSI 配線の信頼性を低下さ
せるので、回避されるべき現象と
して古くから知られていた。
IBM の eFuse は、 こ の 現 象 を
逆手にとって LSI 配線の電気的
な切り替えに積極的に活用する技
術である。エレクトロ・マイグレ
ーションを利用する今回の手法で
は、100nm 程度の微細配線を、ダ
メージを与えることなく、さらに
は何度でも電気的に変更できるこ
とが特長となっている(図表6)
。
eFuse は、単に内部配線を切り
替え、速度か消費電力のどちらか
を優先した LSI を実現するだけ
が目的では無い。システムの故障
時に故障部位を検出し、この部分
を切断、代替回路に接続するとい
った自己修復技術としての使い方
や、過剰な負荷等に対して配線抵
抗を調整し、故障を回避する様な
使い方も可能である。
IBM はオートノミック(自律)
・
コンピューティングを提唱して、
自己管理、自己修復等の機能を有
する自律制御型のコンピュータを
実現しようとしている。オートノ
28
参考資料 12)より抜粋
図表7 固体電解質中での金属イオン移動を利用したスイッチ
Ti 電極に負電圧を印加すると、Cu 電極表面
で酸化反応が起こり、金属 Cu が Cu + とな
って Cu2S 内に溶け込む。Ti 電極表面では還
元反応が起こり、Cu2S 内の Cu + が金属 Cu
となって析出する。析出した金属 Cu が Cu
電極まで達して金属架橋を形成すると、ス
イッチはオン状態になる。Ti 電極に正電圧
を印加すると逆反応が起こり、金属架橋が
消滅しオフ状態となる。
参考資料 14)より抜粋
ミック・コンピューティングがソ
フトウェアやシステム側からのア
プローチであるのに対し、eFuse
はハードウェアやデバイス側から
のアプローチとなる。この技術発
表は、従来、回避するべき現象で
しかなかったエレクトロ・マイグ
レーションを繰り返し使用可能な
可逆スイッチとして、さらに次世
代コンピューティングの中核とな
るハードウェア機能としてまで見
据え、IBM が技術開発を行ってい
る事を示している。
日本でも日本電気(NEC)と物
質・材料研究機構(NIMS)
、科学
技術振興機構(JST)は共同で、
固体電解質中での金属原子移動に
基づく架橋現象を利用し、小型・
低抵抗接続スイッチを開発してい
る。これは原子スイッチング現象
と呼ばれる固体電解質中の電気化
学反応による金属架橋の伸張 13)
によって、電気的導通チャネルが
生成・消滅する現象を利用したも
のである。
電子機器の開発期間短縮の為
に、近年は電子機器の開発者が、
LSI の回路の組み換えやプログラ
ムが可能な論理回路が注目されて
いる。プログラム可能な従来の論
理回路は、プログラムを行うのに
必要なスイッチの面積が大きく、
抵抗も高いため、高速・低消費電
力化が難しかった。この課題に対
して、今回のスイッチは、リソグ
ラフィーを用いずに形成出来、ト
ランジスタを用いる従来のスイッ
チに対して、実装面積約 1/30、接
続抵抗約 1/10 を実現し、スイッ
チを含めた配線による信号遅延を
20 ∼ 40%改善している。
このスイッチは、IBM の eFuse
と同様に可逆的にオン・オフを繰
り返す事が可能である。また、あ
らかじめ回路を決めて構成する静
的にプログラム可能な論理回路だ
けでなく、回路を動作させながら
次々と回路構成を変化させ動的に
プログラム可能な回路を構成する
ことも可能となる。
特集 2
エレクトロニクスへのナノテクノロジーの応用 ̶ 検討が進むシリコン LSI への適用例から ̶
図表8 ナノワイア等のアレイをベースとした回路アーキテクチュア
デコーダ部の形成方法には、さ
らに一段のブレークスルーが必要
とも思えるが、集積回路と言う最
終目標に対して、
“あと何が足り
ないか”を明確化するだけでも意
義がある。もちろん、ここで抽出
された課題が製造技術へ適切にフ
ィードバックされ、これが解決さ
れれば、一気に実用化へと進む可
能性も高い。
3‐5
QCA ⑥論理 LSI
現在の LSI は、抽象度の高い上
流からより詳細な記述を各ステッ
プで行っていく設計手法を採用し
ている。幾つかの制約条件の下で
大規模 LSI を設計する上で、この
参考資料 15,16)を基に科学技術動向研究センターにて作成
設計手法は効果的である。上流か
ら下流への各ステップで、詳細な
を用いた論理回路となる。
モデルの合成とその検証とを繰り
3‐4
この集積回路アーキテクチュ 返し行う事により、モデル記述の
アにおいては、リソグラフィーを 誤りをそれぞれのステップで検出
素子アレイ
用いた既存技術の回路とナノワイ する事が出来る。この結果、モデ
トップダウン・アプローチに ア等のアレイ部とを如何に接続す ル合成の間違いやそれに伴うやり
て微細化が進む既存の集積回路に るかが鍵となる。これを達成する 直しを最小限に抑え、集積規模が
おいて、最も微細化が必要となる 為に両者のインタフェース部分に 増大する LSI に対して、効率の良
部分のみについてナノチューブも 2Fs サイズで形成されるデコーダ い設計が可能となる。この設計手
しくはナノワイアを組み合わせて 回路を形成する事が提案されてい 法では、一般に上流から下流に記
形成される回路を集積化するアー る。デコーダのコード生成部の形 述モデルが具体化する程、記述モ
キテクチュアの検討が行われてい 成方法は、リソグラフィーを用い デルはより製造技術に依存したも
る 15,16)。
ずに行う必要がある。具体的には、 のとなる。CMOS をベースとした
これは、既存のリソグラフィー ナノワイアへのドーピングやナノ 現在の LSI では、図表9に示す論
を用いて形成される最小パターン インプリント⑤等による方法が提 理モデルよりも下流のステップで
F(繰り返しサイズ;2F)で形成 案されている。
CMOS 製造技術の影響を受け、記
される LSI の一部に 2F よりは小
用語説明
さく、リソグラフィーを用いない
で形成される繰り返しパターン Fs
⑤ナノインプリント
金型を用いたプレス工法をナノスケールに応用したもの。微細な凹凸のあ
(繰り返しサイズ;2Fs)を組み込
る型を樹脂薄膜等の被加工材料に押し付けて成型するナノスケールの成型加
んで LSI を形成するものである
工技術。
(図表8)
。2Fsの規則的な繰り返
⑥ QCA
しパターンは、メモリセルやゲー
セル・オートマタ(Cellular Automata,CA)とは、状態が離散値をとる動
ト・アレイ等トランジスタを規則
的な状態マシンである。空間の複数の格子における各点はセル(Cell)と呼ばれ、
有限個の1つの状態をとる。ある時点のセルの状態は前の時点におけるそのセ
的に配置して形成される機能ブロ
ル自身の状態とその周辺のセルの状態とにより決定される。全てのセルは同期
ックを構成するのに都合が良い。
的に、時間的にも離散値をとりながら更新される。量子ドットで形成されるセ
セル内の基本デバイスは、ナノ
ル・オートマタが QCA である。セル・オートマタの身近な例としては、オセ
ワイア等を交差させて形成される
ロゲームの進行状態があげられる。
ダイオードもしくはトランジスタ
Science & Technology Trends January 2005
29
科学技術動向 2005 年 1 月号
述モデルが変化する場合が多い。
この様な CMOS で培われた LSI
の設計手法を一部修正して、QCA
をベースとした集積化システムの
設計を効率よく行う為の設計技術
の検討がなされている 17)。
QCA は素子レベルで CMOS よ
りも非常に小さい面積に実装出
来る可能性があり、その潜在能力
が注目されている。ところが、こ
の QCA は、最初にその素子のア
ーキテクチュアが提案されてから
既に 10 年以上が経過しているが、
依然として目立った集積回路への
応用には至っていない。この1つ
の理由として、素子レベルの機能
を集積化して、システムレベルに
まで組み上げる設計手法が無い事
があげられる。
これに対して、米インディアナ
州バルパライソ(Valparaiso)大学
の Steven C. Henderson 等 は、 素
子の構造化モデルの合成およびこ
れより下流のステップでのモデル
合成とその検証とを可能とする設
計技術の開発を報告している 17)。
例えば、論理モデルから素子の構
造化モデルを合成する設計ツール
として、QCA 用に修正された高
速なハードウェア記述言語⑦ が開
発されている。さらにこの下流の
個々の QCA セルのレイアウト合
成や合成後の QCA レイアウトで
の性能シミュレーションを行って、
QCA をベースとした素子技術を用
図表9 LSI 設計フローと製造技術に応じて
修正が必要な部分
参考資料 17)を基に科学技術動向研究センターにて作成
いても一貫した LSI の設計が行え
る設計技術が提案されている。
近年、複雑化する LSI の設計
においては、流通する再利用可能
な LSI 設 計 資 産(IP) を 利 用 し
て、短期間で効率の良い設計を行
うケースが急増している。IP は、
システムコンセプトや生産ライン
等、個々の企業の戦略やそれぞれ
の製造ラインの特性に影響される
部分以外の中間領域で、広く流通
する場合が多い。これらの IP を
利用して、既存の設計資産をうま
く利用しながら、QCA 技術をベ
ースとした時の一部設計手法の修
正は、別の製造技術をベースとし
た LSI の設計手法の開発にも応用
用語説明
⑦ハードウェア記述言語
回路図等の絵を描いて記述して
いたハードウェアをコンピュータ
上で処理される形式言語で置き換
えたもの。ソフトウェアのプログ
ラムを作成する様な感覚でハード
ウェアの開発が行える。
出来る可能性が高い。この様に、
既存の設計資産を再利用する技
術は、新しい物理現象に基づく素
子を効率的に集積化していく上で
は、非常に重要な技術である。
4.ナノテクノロジーの継続的な発展の為に
砒化ガリウム(GaAs)を代表
とする発光デバイスとして重要な
化合物半導体は、その材料が有す
る優れた特性から電子デバイスと
しても、かつてシリコン半導体を
凌駕すると言われた。しかし、こ
の化合物半導体は、単体での特性
は優れていても、集積化する事が
難しい等の理由から総合的な性能
で技術の進展は遅く、期待された
程には、大きな産業を形成してい
30
ない。ナノテクノロジーを用いた
デバイスも単体の特性がいくら優
れていても、それはあくまでも特
性の一面であり、複数の素子を集
積化した後で性能が発揮出来なけ
れば、応用は限られた分野に留ま
るであろう。
ナノテクノロジーの展開を考え
た場合、マイクロからナノへ一気
に技術体系が転換してしまう事は
考え難い。この技術移行を如何に
スムーズに行うか、ナノテクノロ
ジーを如何に現在の技術領域に取
り込み拡大して行くのかが焦点と
なる。スタンフォード大学の西教
授は、ナノテクノロジーの段階的
発 展(Evolutionary Nano) と 革
新 的 発 展(Revolutionary Nano)
とを区別して考える必要があると
主張している 18)。ここで、段階
的発展とはシリコン LSI の場合
は、トップダウン・アプローチ
特集 2
エレクトロニクスへのナノテクノロジーの応用 ̶ 検討が進むシリコン LSI への適用例から ̶
による継続的な微細化であり、革
新的発展とはボトムアップ・アプ
ローチによる非連続な微細化であ
る。Revolutionary Nano は、大々
的に報道される場合が多くなり
がちであるが、当面の産業への
貢献度から考えると Evolutionary
Nano の 方 が 大 き い と 予 測 さ れ
る。Revolutionary Nano が 単 独
で“もの”になるには幾つもの
ブレークスルーが必要である。全
体 と し て は、Evolutionary Nano
を 追 求 し な が ら も、 ど こ ま で
Revolutionary Nano と合流してい
くかが重要であると西教授は主張
している。
米国「21 世紀ナノテクノロジ
ー研究開発法」の注目すべき点4)
の1つに分子の自己組織化に関す
る調査(第5条秡項)がある。そ
こでは、全米研究評議会が、3年
毎の評価の第1回評価の一環とし
て、分子スケールでの素材および
装置の製造に分子の自己組織化が
実用化出来るか否かを1回限りの
調査で判断するとされている 19)。
ナノテクノロジーの様な新しい技
術領域を継続的に発展させる為に
は、本来、安定した長期にわたる
研究開発投資が必要なのかも知れ
ない。その為には、民間企業が投
資する上でもナノテクノロジーを
魅力的な技術にしていく事が不可
欠で、それには逆に、産業に直結
する1つの明確な成果を早い時期
に出して行く必要がある。米国
「21
世紀ナノテクノロジー研究開発
法」で述べられている実用化の判
断は、このテストケースの1つと
も考えられる。
一方日本では、ナノスケールの
物質の実現方法として、トップダ
ウン・アプローチとボトムアップ・
アプローチの二者択一の議論にな
りがちである。シリコン LSI 関連
の学会や論文発表で見る限り、両
者を組み合わせた日本発の研究も
3章であげた日本電気と他の研究
グループによる発表程度であり、
非常に少ない。両者のアプローチ
の優劣では無く、如何にパラダイ
ムを変え、産業としてもナノテク
ノロジーを継続的に発展させてい
くかを考えた場合、米国に学ぶべ
き点は多い。
入れる検討も行われている。
これは、従来のシリコン LSI 技術
をベースにしながらもナノテクノ
ロジーの基本概念を着実に導入し、
実用化を前提とした具体的な検討
が進展している事を示している。
ナノテクノロジーの様な新しい
技術領域を継続的に発展させる為
には、安定した長期にわたる研究
開発投資が必要であろう。その為
には、民間企業が投資する上でも
ナノテクノロジーを魅力的な技術
にしていく事が不可欠で、それに
は逆に、産業に直結する1つの明
確な成果を早い時期に出して行く
必要がある。
一方日本では、トップダウン・
アプローチとボトムアップ・アプ
ローチの二者択一の議論になりが
ちであり、シリコン LSI 関連で、
両者を組み合わせた日本発の研究
も日本電気と他の研究グループに
よる発表程度であり、非常に少な
い。両者のアプローチの優劣では
無く、如何にパラダイムを変え、
産業としてもナノテクノロジーを
継続的に発展させていくかを考え
た場合、米国に学ぶべき点は多い。
5.終わりに
ナノテクノロジーが取り扱うナ
ノスケールの物質を実現する方法
は、大きく2つに分けられる。一
方は、半導体微細加工技術の様に
マクロスケールのものを小さく加
工していくトップダウン・アプロ
ーチである。もう一方は、生命活
動による蛋白質の合成作用の様に
ナノスケール以下のものを組み上
げて、ナノスケールとするボトム
アップ・アプローチである。
近年、米国の大学や企業を中心
にトップダウン・アプローチの一
部にボトムアップ・アプローチを
組み入れ、ナノテクノロジーの利
点をよりスムーズに既存のエレク
トロニクス技術に応用する検討が
なされ始めた。それは、ナノテク
ノロジーの最大の特徴である自己
組織化を利用した素子の形成や、
電子のみならずイオンの移動を伴
うデバイス応用等である。また、
材料や基本デバイスの検討に留ま
らず、シリコン LSI の他の技術階
層である基本回路や LSI 設計技術
等、既存の技術基盤の上にナノテ
クノロジーを利用した技術を組み
謝 辞
本稿をまとめるにあたり、スタ
ンフォード大学の西 義雄教授に
は、有益なご意見を頂きました。
文末にはなりますが、ここに深甚
な感謝の意を表します。
参考文献
01) 高野、小口「自己組織化材料研
究の動向」科学技術動向 2002 年
7月号:
http://www.nistep.go.jp/indexj.html
02) ITRS 公式サイト:
http://public.itrs.net/
03) 例 え ば、S R C(Semiconductor
Research Corporation)
のウェブサイト:
http://www.src.org/fr/S200406_
CSR_grant_app.asp?bhcp=1
04) 奥和田「
「米国 21 世紀ナノテク
ノロジー研究開発法」における
注目点」
、科学技術動向 2004 年
1月号:
http://www.nistep.go.jp/indexj.html
Science & Technology Trends January 2005
31
科学技術動向 2005 年 1 月号
05) 科 学 技 術 動 向 2004 年 7 月 号 Erase and Storage Times in
http://www.cs.caltech.edu/
科学技術トピックス「欧州委員
Nanocrystal Memories and the
research/ic/molecular_arch.html
会がナノテクノロジー戦略を発
Role of Interface States”IEDM
表」
:
Tech. Dig., 1999
http://www.nistep.go.jp/indexj.html
06) Werner G. Kuhr, et al. “Molecular
Architecture for FET-Based,
Nanoscale Electronics”IEEE
http://domino.research.ibm.com/
Trans. on Nanotechnology, pp.23,
Comm/bios.nsf/pages/selfassem
Vol.2, No.1, 2003
Memories Based on a CMOS
bly-iedm.html
Platform”MRS Bulletin, pp.838,
または、
K. W. Guarini, et al.“Low
“Incorporating Standard CMOS
Vol.29, No.11, Nov. 2004
Voltage, Scalable Nano Crystal
Design Process Methodologies
FLASH Memory Fabricated
into the QCA Logic Design
by Templated Self Assembly”
Process”IEEE Trans. on
IEDM Tech. Dig., 2003
Nanotechnology, pp.2, Vol.3, No.1,
07) ZettaCore のホームページ:
http://www.zettacore.com/
08) 科学技術動向 2004 年 10 月号 科学技術トピックス「半導体微
12) IBM によるプレスリリース:
17) Steven C. Henderson, et al.
2004
細化の主役に躍り出る不揮発性
http://www-03.ibm.com/chips/
メモリ」
:
news/2004/0730_efuse.html
講演録‐127「ナノテクノロジー
13) T. Hasegawa, et al. SSDM Ext.
を発展させるために産学連携は
http://www.nistep.go.jp/indexj.html
09) 例 え ば Y. C. King, et al.“MOS
Abst. 564(2001)
.
14) 科学技術振興機構によるプレス
18) 西 義雄;科学技術政策研究所
どうあるべきか」2003 年 10 月
19) Nanonet:
Memory Using Germanium
リリース:
http://www.nanonet.go.jp/
Nanocrystals Formed by
http://www.jst.go.jp/pr/announce/
japanese/info/overseas/
Thermal Oxidation of Si1-xGex”
20040218/
index.html
IEDM Tech. Dig., 1998
10) 例 え ば J. A. Wahl, et al.“Write,
32
11) IBM のウェブサイト:
16) Andre Dehon, et al.“Array-Based
15) カリフォルニア工科大学のウェ
ブサイト:
特集 3
ユビキタス測位における準天頂衛星の有効性
特集膠
ユビキタス測位における
準天頂衛星の有効性
総括ユニット 辻野 照久
1.はじめに
最近、米国・イギリス・フランス・
オーストラリアなどで「ubiquitous
positioning」すなわち「ユビキタ
ス測位」というテーマでの研究が
始まっており、我が国でも東京大
学において、物流におけるユビキ
タス測位の利用についての研究の
例がある。ユビキタスとは、
「い
つでも、どこにでも存在する」
「遍
在する」という意味である。今後
の情報社会においては、ウエアラ
ブルコンピュータや IC タグなど、
情報の「いつでもどこでも」を実
現する道具とともに、自分自身が
どこにいるかを高精度で計測でき
ることが当たり前になってくる。
その先駆けとして、携帯電話で現
在位置を知るサービスに加入して
いる人も数百万人にのぼる。携帯
電話による測位の精度はまだかな
り低く、間違いの元になる場合も
あるが、将来的にはより精度の高
い位置情報を得るために、全球測
位システム(GPS)を用いた位置
決定が主流になる。GPS は4個以
上の GPS 衛星からの時刻信号を
基に受信機の現在位置を計算する
もので、既に社会のさまざまな活
動に利用され、国の基幹的なイン
フラとなっている。
時刻の実用的な表示精度が「何
時何分何秒」であるのと同様に、
ユビキタス測位では位置情報に関
して「北緯何度何分何秒、東経何
度何分何秒」などと 0.1 秒単位(注1)
で表示したり、地理情報システム
を参照して住居表示の番地やコン
テンツ情報にリンクしたりするこ
とも日常的になる。
総務省では 2007 年4月を目途
に、警察、消防及び海上保安機
関への緊急通報の機能を高度化さ
せ、国民生活の安全・安心につな
がるインフラを構築しようとして
いる。携帯電話からの緊急通報に
おいて、発信者の所在位置の迅速
な特定は長年の課題であり、所在
位置情報が GPS 機能を持つ携帯
電話から警察等へ自動送信可能に
なれば、現場への到着時間が短縮
できると期待される。
しかし、GPS 衛星による測位は、
住宅が密集している都市部や山間
部などでは充分な衛星数を視認で
きず、GPS 測位ができない場合が
多い。これは GPS 利用の弱点と
なっている。
この問題に対して、総務省、文
部科学省、経済産業省及び国土交
通省と民間が連携して開発を行お
うとしている準天頂衛星システム
(QZSS) は GPS 衛 星 の 補 完・ 補
強を行う上で大きな効果を発揮す
ると期待されている。また、この
ような日本独特の衛星システムを
開発することで、宇宙産業の新し
いビジネスチャンスも生まれる。
本稿では米国 GPS 衛星の概要
とその弱点、総務省の緊急通報高
度化計画の概要、準天頂衛星シス
テムの仕組みと役割、測位の高度
化に関して各省や研究機関が行っ
ている研究動向など、ユビキタス
測位のための道具立ての全容を紹
介する。準天頂衛星の用途は測位
に限らず通信・放送・観測など搭
載する機器によって種々の役割を
持たせることができるが、GPS 補
完・補強機能が通信・放送等のミ
ッションよりも重要性及び緊急性
が高いことに鑑みて、最初に打ち
上げる準天頂衛星システムが果た
すべき役割を GPS 補完・補強に
絞ることを提案する。また、準天
頂衛星システムを用いたユビキタ
ス測位を早期に実現するために必
要な政府の担当組織の設置を提案
する。
(注1)緯度(南北方向)の 0.1 秒は世界中どこでも約3m、
経度(東西方向)
の 0.1 秒は緯度が高くなるほど短くなり、我が国では約2m に相当する。
Science & Technology Trends January 2005
33
科学技術動向 2005 年 1 月号
2.GPS 衛星について
ッ ク 2RM(Modernized) を 打 ち
図表1 NAVSTAR 衛星と
上げる予定である。また 2006 年
6面の軌道1)
の初打上げを目指し、新たに民
GPS 衛星の発展動向
生用第3信号を追加するブロック
一般に GPS 衛星(航法衛星ま 2F 衛星の製作が進んでいる。さ
たは測位衛星ともいう)と呼ば らに、次々世代の測位衛星として、
れているものは、米国空軍が 24 ブロック3の概念検討が始まって
機(最近では予備を含め 29 機) いる。現在、ロッキード・マーチ
で運用している NAVSTAR をさ ン社とボーイング社がそれぞれ設
す。図表1に示すように基本設計 計を進めており、DoD はまもな
では6つの軌道面に4個ずつ衛 くこの2社のうちからブロック3
星を配置している。この他に故 の開発及び製作企業を選定しよう
障等に備えて数個の予備衛星を としている。
(1176MHz、L5)をも新設するこ
用意している。NAVSTAR 衛星
とを計画し、国際電気通信連合無
2‐2
は地表からの高度が約 20,200km
線通信部会(ITU‐R)で承認さ
で、低軌道衛星と静止軌道衛星 GPS 衛星の機能
れている。
のほぼ中間にあり、地球を1周す
2‐3
る時間は約 12 時間である。軌道 現在主力となっている 2A 及び
傾斜角は 55 度で、高度が高いた 2R の NAVSTAR 衛星は2種類の 米国以外の測位衛星
め極域の一部を除きほぼ全世界を 原子時計を搭載し、精密な時刻情
カバーできる。米国では、軍用航 報と自分自身の軌道情報を毎秒地 ロシアは独自の測位衛星により
空機や艦船の運航のために、国防 上に向けて発信している。これに 全球衛星測位システム(GLONASS)
総省(DoD)が 1960 年頃から人 より、実用的に 10 −9 の精度で時 を展開しているが、正常に稼動し
工衛星を用いた位置決定の研究を 刻情報を地上の GPS 受信機に送 ている衛星が少なくなったため、
行ってきた。いくつかの試行錯誤 ることができる。
2005 年から補充用の衛星を 10 機
的な技術開発を経て、1978 年から 各ブロックに共通する仕様とし 程度打ち上げる計画である。現状
NAVSTAR 衛星の打上げを開始 て、発信電波の周波数帯がある。 ではまばらな配置であるが、我が
した。
現在の GPS 衛星のLバンドの中 国でも利用することが可能で、米
NAVSTAR 衛 星 の 配 備 は、 図 心周波数は 1575.42MHz(L1)と 国 の GPS と ロ シ ア の GLONASS
表2に示すように、ブロック1に 1227.6MHz(L2)である。一旦決 の両方を受信できる装置も販売さ
よる実証段階を経て、1990 年から まった周波数帯は地上受信器の れている。
ブロック2と 2A で定常運用に入 継続使用を図る上で変更できな 欧州は今のところ米国の GPS
り、衛星寿命に対応して 1997 年 いので、今後とも変更されるこ 衛星に頼っているが、独自の全球
から代替衛星ブロック 2R へと更 とはないはずである。ただし、ブ 衛星測位システム(GNSS)用の
新を行い、まもなく民生用第2信 ロック 2F 衛星においては民事目 衛星を保有すべく欧州連合(EU)
号を追加して性能を向上したブロ 的(生命安全用)の中心周波数 と欧州宇宙機関(ESA)が協力し
2‐1
図表2 米国の測位衛星の打上げ動向
ブロック
メーカー
1
2
ロックウエル・インターナショナル
2A
34
打上げ年
打上げ数
軌道傾斜角
重量 (kg)
設計寿命
電力
1978‐1985
11
63 度
759
5年
0.41kW
1989‐1990
9
55 度
1,660
7.5 年
0.71kW
1990‐1997
19
55 度
1,816
7.5 年
0.71kW
2R
ロッキード・マーチン
1997‐2006
2(2R)
7(2RM)
55 度
2,032
10 年
1.14kW
2F
ボーイング
2006‐2012
33
55 度
2,160
15 年
2.44kW
3
ロッキード・マーチンまたはボーイング
未定(201?‐)
未定
未定
未定
未定
未定
特集 3
ユビキタス測位における準天頂衛星の有効性
てガリレオ計画を推進している。
これには、中国・インド・イスラ
エル・ブラジルなどの非欧州諸国
も参加を表明しており、欧州域内
のみならず全世界的な利用が見込
まれる。ガリレオ計画は数年以内
に 30 機の測位衛星からなる独自
の GNSS を展開しようとしてい
る。ガリレオ衛星は配備段階では
アリアン5型ロケットにより同時
に8機ずつ打ち上げられる計画で
ある
中国は独自の静止測位衛星「北
斗」を3機打ち上げ、主に交通関
係の管制や車両盗難監視などに利
用している。また、インドも「ガ
ガーン(空)
」という GPS 補強衛
星を打ち上げることを計画してい
る。インドの場合、バンガロール
など南部のハイテク産業地帯では
静止測位衛星が天頂に近い高仰角
になるので、GPS 補完の静止衛星
を保有するとユビキタス測位を行
う上で地理的な有利さを生かすこ
とができる。
利用できる。ところが民事的な利
用では、ビルが林立する都市の内
部や、山間の峡谷など、電波が遮
られる可能性が高い場所があり、
位置を決定するために必要な信号
数を確保できないことが多い。あ
る地点で GPS が利用できる確率
をアベイラビリティといい、我が
国の都市部では 30%から 40%程度
の場所が多い。東京大学柴崎研究
室が行った西新宿地域における測
位可能時間率などの調査結果2)で
は、高層ビル街だけでなく道路が
狭く民家が密集している住宅街に
おいてもアベイラビリティが低い
箇所が多いことが示されている。
また測位の誤差についても考
慮する必要がある。民事目的での
GPS 測位においては、電離層での
遅延、時刻信号の誤差、衛星の位
置情報の誤差、対流圏での水蒸気
による遅延及び地上でのマルチパ
スなどの誤差要因により約 10 m
程度の誤差が生じている。このう
ち最も支配的な誤差源である電離
層の遅延量については、L1、L2
2‐4
の周波数の差を利用して補正する
ことが可能であり、GPS ブロック
GPS 補完と GPS 補強
2RM 打上げ後は民事用でも2周
周りに何もない場所であれば、 波が利用できるようになる。
GPS 衛星の信号を利用して受信機 アベイラビリティの低さや測位
の現在位置を決定することは容易 誤差は GPS 利用の弱点と指摘さ
である。米軍が NAVSTAR を利 れ て お り、NAVSTAR を 運 用 し
用する舞台は主に空中や海上であ ている米国自身も、GPS 衛星を補
り、NAVSTAR の 性 能 を 十 分 に 完する衛星や補強(オーグメンテ
ーション)するシステムが必要で
あるとしている。
GPS 補完と GPS 補強は紛らわ
しいが、その意味するところの違
いを認識する必要がある。
GPS 補完とは常時天頂付近に
GPS 衛星1機に相当する衛星を配
置することである。準天頂衛星が
Lバンドの時刻・位置情報を発信
することがこれに当たる。
GPS 補強とは、地上の電子基準
点において GPS 衛星信号の到達
状況から誤差を解析して得られた
校正情報や、信頼度改善のための
インテグリティ情報などを種々の
通信リンクを使って他の受信機に
配信することで測位の精度を向上
させることである。これをディフ
ァレンシャル GPS
(DGPS)
という。
GPS 補強情報をエンドユーザに
伝達するため、地上放送の FM 電
波に乗せる方法や、携帯電話を利
用する方法などが既に有料で実用
化されている。しかし、そのよう
な方法が利用できない地域も残さ
れている。準天頂衛星の特徴を利
用して補強情報をSバンドで中継
することができれば、地上設備で
は送信困難な箇所にも補強情報を
伝えることができる。ただし、補
強情報は場所によって異なるの
で、日本全域をいくつのメッシュ
に区切って情報処理するかなど、
これから検討すべき課題もある。
3.GPS の精度を決める DOP 値と極小化する原子時計
3‐1
DOP 値とは
GPS 衛星により三次元的な位
置を決定するには少なくとも4
個の衛星から信号を受ける必要が
ある。4個の衛星はできるだけ
DOP 値1になるような位置にあ
ることが望ましい。
DOP 値とは、測位衛星の幾何
学的配置によって精度が劣化する
程度を示す指数のことである。理
想的な衛星配置は、天頂の衛星
と 120 度ずつ分散している周辺
の3つの衛星で正三角錐の形状を
なしていることである。この場合
の DOP 値を1とする。それと比
べて何倍精度が劣るかで、2、3、
4、…と指数で示す。この指数は、
4つの衛星で作られる三角錐の体
積が DOP 値1の場合よりどれだ
け小さいかで計算される。GPS 受
信機に精度(accuracy)を設定す
る機能がある場合は、DOP 値を
用いて判断させるようになってい
る。DOP 値はできるだけ1に近
づけることが望ましいが、GPS 衛
星が天頂付近にある確率はきわめ
て低いので、準天頂衛星を GPS
補完として利用することは DOP
値を1に近づける上で有効な手段
となる。
Science & Technology Trends January 2005
35
科学技術動向 2005 年 1 月号
従来はきわめて大きなものであっ
3‐2
たが、最近ではポータブル型原子
時計が開発され3)、米軍の航空機
極小化する原子時計
や車両など個々の装備に取り付
GPS 衛星は超高精度の原子時計 けられるようになってきた。これ
が地球を周回しているシステムで までは精密な時刻を得るために常
あるといえる。ブロック2以降の 時測位衛星の信号を受信していた
NAVSTAR にはセシウム時計と が、ポータブル型原子時計で事足
ルビジウム時計の2種類の原子時 りるようになったという。
計が搭載されている。
米国防総省高等研究所(DARPA)
原子時計のコンポーネントは、 では、バッテリーなどの部分を除
いて、1立方 cm 以下となるよう
な超小型原子時計チップの研究を
行っている。原子時計の米粒大チ
ップ化が実現すると、携帯機器に
ごく普通に原子時計が組み込まれ
て、それ自身が GPS 衛星と同じ
ように位置決定に使われるように
なり、視認できる GPS 衛星数が
1つ減っても測位が可能になると
予想される。
4.我が国における GPS 衛星利用動向
4‐1
36
4‐2
GPS 衛星利用の枠組み
GPS の代表的な応用例
GPS 衛星は米国の所有である
が、我が国もその恩恵に浴してい
る。GPS は既に我が国の活動を維
持していく上で必要欠くべからざ
る重要なインフラになっている。
しかし、他国のインフラに安心し
て頼れるものであろうか?
1998 年9月、クリントン大統
領と小渕首相は日米共同声明の中
で、米国は GPS を無償で継続的
に全世界に提供し、日本は GPS
利用を促進するべく協力するこ
とを表明した。また、同年 10 月
に米国が商業宇宙法を改訂した際
に、上下両院が大統領の意向だけ
で簡単に GPS 開放方針を変える
ことができないようにしたため、
我が国としては当面は安心して使
える状況にあるといってよい。こ
のような動きを踏まえて、我が国
では GPS 衛星を利用したカーナ
ビゲーションシステムの製造・販
売が一気に活性化した4)。
このように GPS の継続的使用
について一定の担保があるとはい
え、米国の意向次第で全く使用で
きなくなったり精度が低下したり
する恐れがあると不安を感じてい
る人もおり、我が国独自の技術に
よる GPS 衛星の保有を目指すこと
は不安解消の1つの方策である。
GPS の用途は主に位置情報の取
得にあり、カー・ナビゲーション、
地理情報システム(GIS)
、地理基
準、土地測量、地殻変動観測など
に幅広く応用されている。それ以
外にも電波遅延を利用した気象観
測や反射波を利用した海上風速観
測、時刻情報のみを利用する時刻
基準などさまざまな利用形態があ
る。各種の応用の中で、準天頂衛
星を利用することで最も大きなメ
リットがあると思われるのは、緊
急通報における所在位置情報通知
機能である。
4‐3
緊急通報の高度化について
近年、携帯電話の著しい普及に
伴い、110 番通報では過半数が携
帯電話から発信されている。
緊急通報が電話帳に記載されて
いる固定電話から発信された場合
は電話番号データベースによって
住所の特定ができるが、携帯電話
からの発信の場合は発信場所を特
定する仕組みや精度が不十分であ
る。 こ の た め、2003 年 8 月、IT
戦略本部は e‐Japan 重点計画の
中でも迅速かつ重点的に実施すべ
き施策として、緊急通報の発信者
の位置を通知する機能を実現する
と定めた。
米国では既に 1999 年から、緊
急通報用の 911 番を発信したとき
に、発信者の位置を通報する機能
を持つように携帯電話事業者に対
し義務付けている。これを E911
(エンハンスト 911 番)という。
欧州でも EU が 2002 年に E112 の
導入を決定しているが、欧州域内
で実際の導入はあまり進んでおら
ず、英国及びドイツで対応を義務
付ける検討が行われている。
我が国における IT 戦略本部の
決定は、
いわばE110
(警察機関用)
、
E119(消防機関用)及び E118(海
上保安機関用)の導入に相当する。
IT 戦 略 本 部 の 決 定 を 受 け て、
2003 年 11 月 27 日、麻生太郎総務
大臣は情報通信審議会(秋山喜久
会長)に「電気通信事業における
緊急通報機能等の高度化方策」に
ついて諮問した。同審議会は 2004
年6月 30 日に高度化方策の一環
として「携帯電話からの緊急通報
における発信者位置情報通知機能
に係る技術的条件」について審議
結果を一部答申した5)。
この一部答申は同審議会の情報
通信技術分科会緊急通報機能等高
度化委員会(主査:土居範久中央
大学教授)において審議されたも
ので、構成員には NTT ドコモ、
KDDI、ボーダフォンなど主要な
移動通信事業者が含まれている。
特集 3
この一部答申の主な内容は、携
帯電話からの緊急通報機能の現状
と位置情報通知の必要性、位置情
報通知に係る技術的条件、導入ス
ケジュール、実施事項と課題など
である。
導 入 ス ケ ジ ュ ー ル と し て は、
2007 年4月から緊急通報における
位置情報通知への対応を開始し、
新規加入や機種更新される携帯電
話には原則として位置情報通知機
能を搭載することを義務付けるこ
とで、2009 年には 50%、2011 年
には 90%の携帯電話が対応可能と
なるものと予測している。
4‐4
緊急通報の高度化の効果
携帯電話からの緊急通報の増
加に伴い、発信地が直ちに特定
できない場合が多く、政令指定
都市では現場到着までに要する
時間がこの 10 年間で1分 30 秒
(32%)程度増大している。特に
ここ数年間の悪化が目立つ。発信
者から見ると、携帯電話がなかっ
たときには、最寄りの公衆電話に
たどり着くまでにある程度の時間
を要していたはずで、事件・事故
発生から通知までの時間は携帯電
話の利用により短縮されている場
合が多いと思われる。ただし、携
帯電話で手軽に連絡できるように
ユビキタス測位における準天頂衛星の有効性
なったため、複数の緊急通報が同
時に寄せられるようになり、1件
の事件を複数の人が通知している
のか、複数の事件が起こっている
のかという判断も難しくなってい
る。E110 などで携帯電話の緊急
通報機能が高度化されることで、
トータルの時間短縮や的確な出動
判断などに大きな効果があるもの
と期待される。
また、大規模災害などでは、固
定電話が通信規制される場合があ
るが、緊急通報はその規制を受け
ないで優先的に取り扱われる仕組
みが既に実現している。
4‐5
位置情報通報の精度
一部答申において、位置情報
に関する精度的な要求条件は、最
も条件の良い場合で測位精度を半
径 15 mとし、位置を示す経度・
緯度は 0.1 秒単位、高度は1m 単
位で表示するものとしている。位
置情報を取得する手段は4機以
上の GPS 衛星の信号を利用する
GPS 測位方式を基本とする。その
場合の測位精度は実用的に数mか
ら 10 数mである。GPS 測位方式
が利用できない場合、例えば市街
地や屋内では基地局からの同期信
号で代替する。この場合、精度は
数 10m か ら 数 100m と か な り 劣
化する。さらに基地局からの同期
信号も使えない屋内や地下街など
では、セルベース測位方式を用い
る。セルベース測位とは移動機か
ら取得したセル ID を測位サーバ
のデータベースに格納しておき、
ここから位置情報を検索する方式
である。測位精度は基地局の設置
密度により数 100m(都市部)か
ら 10,000m 程度(地方部)とさら
に低くなる。
オープンスカイ環境であれば
GPS 測位方式が圧倒的に有利であ
ることは明らかであるが、逆に市
街地では、低層の商店街や住宅街
であってもオープンスカイ環境で
ない場合が非常に多く、アベイラ
ビリティの低い米国の GPS 衛星
に頼るだけでは緊急通報の高度化
は期待したほどには実現できない
という結果になりかねない。
このような問題点を緩和するた
めの一つの手段として、2006 年頃
の打上げを目指す技術試験衛星Ⅷ
型(ETS‐8)という宇宙航空研
究開発機構(JAXA)の静止衛星
には時刻信号送信機能を持たせ、
高精度測位を実証しようとしてい
る。45 度程度の仰角では GPS 補
完の衛星とはいえないものの、緊
急通報高度化(E110、E119 及び
E118)を推進する上で重要な役割
を果たすものと予想される。
5.準天頂衛星の仕組みと役割
5‐1
準天頂衛星とは
準天頂衛星(QZSS)とは、地
球の自転(23 時間 56 分)と同期
して3機の衛星が異なる軌道面を
周回し、同一経度の低∼中緯度帯
において3機のうち少なくとも1
機は必ず天頂付近に存在するよう
に配置する衛星システムのことで
ある。静止軌道の場合は、23 時
間 56 分で1周回する衛星が赤道
図表3 準天頂衛星と静止衛星
上空にあり、地上から見て衛星が
の比較
東西南北に移動しないように位置
を制御しているが、中緯度地方で
見ると仰角が 45 度程度しかなく、
建物や山などに遮られる場合が多
い。準天頂衛星では軌道傾斜角や
離心率に応じて、中心経度を保ち
ながら、地上に投影すると8の字
を描くような軌跡で北半球上空と
JAXA ホームページより6)
南半球上空を往復する。
Science & Technology Trends January 2005
37
科学技術動向 2005 年 1 月号
図表4 シリウス衛星の軌道
図表5 準天頂衛星の外観(検討例)
ILS 社資料より7)
5‐2
QZSS の実現例と
我が国の研究経緯
米国では、シリウス・サテラ
イト・ラジオ社が3機のシリウ
ス衛星で米国大陸部全体に衛星
ラジオ放送を配信している。受信
料は月 10 ドル未満で、最近受信
者が 70 万人を超えたところであ
る。同社では最終的に 5,000 万人
の需要があると想定している。衛
星1機の重量は 3.8 トンで、ILS
社のプロトンKロケットで1機ず
つ打ち上げられた。衛星バスはス
ペースシステムズ・ロラール社の
LS‐1300 系列で、我が国の運輸
多 目 的 衛 星(MTSAT‐1) と 同
じである。米国大陸部は広大なの
で、シリウス衛星はどの地点でも
天頂付近にあるとはいえず、準天
頂衛星に区分できるか疑問がある
が、図表4に示すように準天頂衛
星に似た軌道に配置している。
我が国では、準天頂衛星のアイ
ディア自体は古くからあり、既に
1972 年に当時の郵政省電波研究所
(現在の情報通信研究機構 NiCT)
で提案されている8)。当初の検討
では軌道決定や軌道制御が難し
く、軌道修正用に大量の燃料を必
要とすることから衛星システムと
して成立しないと判断された。そ
38
の後 1997 年から国のインフラと
しての独自の測位衛星の重要性が
再認識され、国家プロジェクトと
して検討が行われた。2002 年に
は官民の分担で開発を促進するた
め、新衛星ビジネス社(ASBC)
が設立された。2003 年からは総務
省、文部科学省、経済産業省及び
国土交通省に予算がつき、本格的
にプロジェクトを立ち上げようと
している。
5‐3
GPS 補完用 QZSS の
基本的な仕組みと役割
ASBC 提供
の中継器が必要になる。測位・通
信・放送の機能をフル装備した準
天頂衛星の外観の検討例を図表5
に示す。
盪準天頂衛星の軌道
想定される準天頂衛星の軌道
を図表6に示す。このような軌
道を実現するためには、衛星の軌
道要素を次のように設計する。ま
ず、軌道長半径は静止軌道と同
じで、遠地点はそれより 3,000 ∼
5,000km 程度大きくし、近地点は
同じだけ短くする。2つある楕円
の焦点の1つは地球の中心に合致
し、もう1つの焦点も地球内部に
あるという程度の、比較的真円に
近い楕円である。このような楕円
盧衛星の機能
GPS 補完に必要な準天頂衛星
では、ミッション機器としては原
子時計と同報通信用のアンテナが
図表6 地上に投影した準天頂
必須である。衛星バス機器として
衛星の軌道の例
は、構体・太陽電池パネル・電源
系・姿勢制御系(推進系を含む)
・
TT &C系・熱制御系などがあり、
打上げロケットによるトランスフ
ァー軌道投入後に所定の軌道に投
入するためのアポジエンジンが必
要である(ロシアのプロトンロケ
ットのような4段式ロケットで打
ち上げる場合には衛星側のアポジ
エンジンは必要ない)
。
また、GPS 補強情報を伝達しよ
うとする場合には、地上局から補
強情報を受信し、地上に送るため
特集 3
軌道の離心率は約 0.1 である。
軌道傾斜角は 45 度程度で日本
上空からオーストラリア上空まで
カバーする。
昇交点赤経(RAAN)を 120 度
ずつ離して3箇所とると、軌道
面が3つでき、各軌道面の衛星
が日本上空を順次カバーするよ
うな衛星配置になる。近地点引
数(Argument of Perigee)は、8
の字の形を決める重要な要素で、
270 度とすることで北半球に遠地
点を持ってくることができる。次
にビルが林立する地上から天頂方
向を見上げたときの視野の例を図
表7に示す。静止衛星は南に向か
って東西方向の狭い範囲にしか存
在しないので、この場所で静止衛
星の電波を受けることはほとんど
不可能である。しかし、準天頂衛
星は約8時間にわたって仰角 70
度以上の天頂付近に存在し、南
の方へ去っていくときには逆に南
から別の衛星が北上してきてハン
ドオーバー(引継ぎ)を行ってま
た約8時間天頂付近に存在するの
で、3機の衛星があれば 24 時間
ユビキタス測位における準天頂衛星の有効性
をカバーできることになる。
図表7 ビルの谷間から見た
天頂の仰角
蘯測位以外の役割
準天頂衛星システムは我が国
の天頂付近から電波を発信すると
いう特徴を生かして、通信や放送
に用いることを想定した設計も検
討している。大型車両では天頂に
向けた受信アンテナを設置するこ
とで、都市部や山間部でも電波を
遮られずに通信を行ったりテレビ
放送を受信したりすることができ
る。現在のところ、通信・放送は
静止衛星や地上波の方が有利と考
える事業者が多く、必ずしも準天
頂衛星システムを促進する勢力に
はなっていないが、測位機能を中
心にして準天頂衛星システムが実
現すれば通信・放送での新規参入
も考えられる。
盻宇宙産業の
新しいビジネスチャンス
我が国の準天頂衛星システムが
ユビキタス測位の実現で成功を収
めれば、諸外国から自国の準天頂
衛星システムを導入したいという
情報通信研究機構提供
引合いが来る可能性がある。8の
字の大きさにもよるが、欧州、米
大陸などで複数のシステムが整備
されることは十分ありうる。静止
衛星軌道が資源として逼迫した状
況にあるのに対し、未開拓の準天
頂衛星軌道は大きな可能性を秘め
ており、我が国の宇宙産業に新し
いビジネスチャンスをもたらすこ
とが期待される。
6.測位精度向上に関する我が国の研究動向
6‐1
総務省の高精度時刻管理技術
独立行政法人情報通信研究機構
(NiCT)は、準天頂衛星に搭載す
る高精度な原子時計として、水素
メーザ時計を開発している。また、
地上局の時刻装置とサブナノ秒
(10 億分の1秒以下)の精度で同
期させる時刻管理系の研究を行っ
ている9)。将来、我が国独自の測
位衛星において、水素メーザ時計
により世界最高水準の時刻精度が
得られるようになることが期待さ
れる。
なお、総務省情報通信政策局は、
準天頂衛星による GPS 補強で必
要なSバンド衛星通信の技術基準
を作成中である。
テムの高精度化、高度化のための、
衛星間測距装置や高精度加速度計
などの実験機器の搭載についても
研究中である。
6‐2
文部科学省の
高精度測位実験システム
6‐3
文部科学省研究開発局は4省の
中で高精度測位実験システムをと
りまとめる役割を果たしている。
独立行政法人宇宙航空研究開発機
構は、準天頂衛星の軌道情報を高
精度で推定及び予報を行い、ユー
ザに対して通知するための研究を
行っている。準天頂衛星から放送
される測位信号を国内外に配置し
たモニタ局で受信し、これらの観
測データから準天頂衛星と GPS
の軌道と時刻を推定、予報するも
のである。将来の次世代測位シス
経済産業省の衛星軽量化・
長寿命化基盤技術
経済産業省は次世代衛星基盤
技術開発プロジェクトの中で、衛
星構体の高排熱型熱制御や次世代
イオンエンジン、大型構造体用複
合材料、衛星搭載用リチウムイオ
ン電池などの技術開発を行ってい
る。イオンエンジンは比推力が化
学ロケットより大きく、寿命が長
いので、準天頂衛星の軌道制御に
適した推進力と考えられる。独立
Science & Technology Trends January 2005
39
科学技術動向 2005 年 1 月号
行政法人新エネルギー・産業技術
総合開発機構(NEDO)はリチウ
ムイオン電池の要素技術開発を分
担している。
6‐4
国土交通省の
高精度測位補正技術
国土交通省航空局は運輸多目的
衛星(MTSAT)を用いて、航空
管制の高度化を目指す衛星航法補
強システム(MSAS)の開発を行
っており、精度やアベイラビリテ
ィだけでなく、
インテグリティ(完
全性)
、サービスの継続性など信
頼性に関わる要件も満たすシステ
ムが既に稼動開始を待つ段階まで
きている 10)。稼動を開始するには
運輸多目的衛星が運用段階に入る
必要があり、MTSAT‐1R(1999
年の H‐Ⅱ 8 号機の打上げ失敗に
より喪失した MTSAT‐1 の代替
機)が 2005 年2月に打ち上げら
れようとしている。
独立行政法人電子航法研究所
(ENRI)では、MSAS 関連の研究
とともに、準天頂衛星による高精
度測位補正技術の研究を行ってい
る。全国の電子基準点の GPS 受
信信号のデータからオフラインで
GPS 補強情報を生成する解析シス
テムを平成 15 年度から 16 年度に
かけて開発した。平成 17 年度から
は、電子基準点の情報をオンライ
ンリアルタイムで取り入れた GPS
補強情報生成システムやプロトタ
イプ受信機の開発を行おうとして
いる。MSAS の成果を踏まえて、
準天頂衛星のインテグリティのモ
ニタリングなども研究されている。
6‐5
測位精度の向上
上記の総務省、文部科学省及び
国土交通省の高精度測位関連技術
が準天頂衛星システムの GPS 補
強に結集されることにより、現在
の GPS 測位における水平方向の
誤差約 11m が1m以下に向上す
る。電離層の影響、時刻精度、衛
星位置の精度、対流圏の影響など
がいずれも1ケタ低下し、センチ
メートル単位になる。このレベル
になって初めて、0.1 秒単位の位
置表示が意味を持つことになる。
7.準天頂衛星による GPS 利用の一層の拡大
準天頂衛星による GPS 補完の
効果は、緊急通報の高度化だけに
とどまらない。4‐2で GPS 衛
星を用いた応用例をあげたが、準
天頂衛星による補完・補強機能を
活用することでどのような効果が
得られるかの一例を以下に示す。
盧ナビゲーション
我が国で一般大衆に浸透してい
るカー・ナビゲーションは、GPS
受信機の他に自律航法やマップマ
ッチング技術を自動車に搭載して
その位置を地図データに重ね合わ
せて表示することにより、運転者
に対し目的地への誘導を行うもの
であり、現状技術で市場の要求条
件を充分に満たしている。一方、
歩行者のマン・ナビゲーション用
と し て、KDDI が GPS 機 能 を 搭
載した携帯電話機を発売している
が、緊急時に警察等に発信者の位
置を知らせる仕組みはまだできて
いない。また、4機以上の GPS
衛星を視認できるエリアがまばら
でアベイラビリティが低いため、
米国でも E911 は不完全なシステ
40
ムであると評価されていることか
ら、我が国で 2007 年以降に緊急
通報の高度化が実施されたとして
も、十分な効果を発揮しないおそ
れがある。準天頂衛星で GPS 補完・
補強を行うことで、この問題はか
なり解消される。同時に、大きな
携帯ナビ市場及びそれを利用する
位置情報サービス(LBS)が飛躍
的に発展するであろう。
盪列車運行管理
山地を含む路線網を走る鉄道の
運行管理に GPS 衛星を利用する
上で、カー・ナビゲーションの場
合と同様に衛星視認数の不足の問
題がある。もし天頂付近に衛星が
常時あれば信号数不足の可能性は
大幅に低下することから、独立行
政法人交通安全環境研究所は熊本
市交通局の協力を得て、熊本市内
に位置情報を発信する擬似的な準
天頂衛星を設置し、GPS による
市営電車の運行管理の実験を行っ
た 11)。
その結果、測位可能時間の比率
が 24%から 72%に高まり、準天
頂衛星の効果が検証できたとして
いる。また、列車位置検知の精度
は1m 程度を確保できる見通しが
得られたが、高速走行の際には反
射波の影響(マルチパス)があり、
信頼性向上の対策が必要であると
している。
同様な実験が函館のはこだて未
来大学でも実施されている。
蘯土地測量
GPS を用いた測量により、従来
よりも効率的に土地の測量を行う
ことができる。土地の境界点の位
置をめぐって、利害が対立して法
廷で争われる場合もあるが、今後
は公共物(道路や河川を含む)の
電子境界測量などの測量成果に
基づいて土地の境界が電子的に決
められる方向にある。100 名近い
国会議員による連盟で「公共物電
子境界画定事業」が推進されてい
るところである。この議員連盟の
活動を支援している社団法人全国
測量設計業協会連合会によれば、
GPS 測量は現状ではすべての時
間・場所で実用的とは言いがたい
特集 3
ため、従来からあるトランシット
測量など GPS を用いない方法で
土地測量を行うことを前提にして
いる。その場合、個人の土地など
も含むすべての土地区画確定の作
業を日本全国で完了させるには、
現在のペースで 200 年くらいかか
るともいわれている。GPS 測量が
使えない理由は、GPS 衛星が常時
捕捉できるわけではなく、また建
物等の電波の遮蔽物があるところ
(一般には指向角 15 度が確保でき
ないところ)では計測ができない
ユビキタス測位における準天頂衛星の有効性
からである。GPS を補完する準天
頂衛星があれば効率的な GPS 測
量を導入して、今世紀前半くらい
に土地区画確定が完了できる可能
性がある。
テムのあり方への提言」という報
告書をまとめた 12)。この中で、上
記の他に、現場急行サービス、観
光、商品管理、廃棄物処理管理、
海洋工事、ロボティックスなどで
のユビキタス測位が期待されると
している。
盻その他の応用例
特定非営利活動法人「高度測位 以上のように、準天頂衛星を
社会基盤研究フォーラム」では、 国のインフラとして整備すること
「衛星測位システム民間利用懇談 で、さまざまな分野で新製品の開
会」
(委員長:柴崎亮介東京大学 発や新サービスの提供など経済の
教授)を設置し、
「民間利用の立 活性化が期待できる。
場から見たわが国の衛星測位シス
8.おわりに ̶ 準天頂衛星システム開発促進の方策 ̶
ユビキタス測位が実現すれば、
生活のさまざまな面で変化が生
じ、それが安全・安心のレベル向
上や経済活動の活性化などにつな
がることが期待される。しかし、
米国の GPS 衛星には、周回衛星
であることに起因して、見えたり
見えなかったりすることが根本的
なネックとなり、基本的な位置決
定方法である GPS 測位方式の効
果が十分に得られないという弱点
がある。ユビキタス測位を実現す
るには、常に天頂付近から GPS
補完を行う準天頂衛星を利用する
ことが必須である。とかく実生活
との関連が希薄といわれる我が国
の宇宙開発の中で、準天頂衛星は
50 年、100 年先までの国の基幹的
なインフラの一部となる可能性が
あり、その実現には各方面から大
きな期待が寄せられている。国の
施策としても、開発を積極的に進
める方針になっている。
しかし、最初の準天頂衛星シス
テムにおいて測位機能と同時に通
信・放送機能も実現しようとした
場合、衛星技術や開発体制などの
面で多くの困難を伴い、衛星シス
テムとして早期に完成できないお
それがある。これらの機能を比べ
ると、測位機能は大きな社会的変
化や新しい価値を生み出す原動力
となり、国の基幹的なインフラと
して整備することの緊急性及び重
要性が高いと考える。そこで、国
民の安全・安心の確保や新しいサ
ービスによる経済の活性化などを
目的として、最初の準天頂衛星シ
ステムの機能は GPS 補完・補強に
絞り、確実かつ迅速に開発して早
期に運用に供することを提案する。
準天頂衛星システムの開発・運
用体制については、2004 年9月
の総合科学技術会議において、政
府の運用機関は「準天頂衛星の実
証が終わるまでにできるだけ早期
に決定する」ことになった。この
会議以前には、
「準天頂衛星の実
証が終わった時点で決定する」と
されていたことから比べると前進
しているが、米国では既に政府の
GPS 政策や資金支援を行う主体
として「省庁間 GPS 行政委員会」
(IGEB)という組織があり、その
下に省庁間調整の実施機関として
「GPS 省 庁 間 諮 問 会 議 」
(GIAC)
13)
が設置されている ことと比較
すると、我が国の省庁間調整体制
は立ち遅れている。準天頂衛星シ
ステムの実現に向けて主導権を持
つ機関が定まっていない。個別の
技術課題はそれぞれの担当機関が
実施しているが、準天頂衛星シス
テムの経済的な成立性や衛星イン
テグレーションなどの全体的な課
題に対して責任を持つ機関が見当
たらない状況である。
ユビキタス測位を総合的に推
進し、その一環として準天頂衛星
システムの開発を促進するために
は、米国における「省庁間 GPS
行政委員会」などと同様に、我が
国の測位利用を所掌する政府の運
用機関を設置する必要がある。
謝 辞
本稿は平成 16 年8月4日に科
学技術政策研究所において講演
された西口浩氏による「国家戦略
としての準天頂衛星の有効性」を
ベースに、総務省、文部科学省、
NiCT、ENRI、JAXA、ASBC な
ど多数の関係者から資料を提供し
ていただき、また意見交換や討議
を行って執筆したものである。こ
こに、関係の皆様に厚くお礼申し
上げます。
参考資料
01) NAVSTAR 衛星と6面の軌道:
http://www.vxm.com/21R.111.html
02) 総合科学技術会議宇宙開発利用
専門調査会測位分野検討会(第
3 回)資料 測3‐3「準天頂衛
星システムによる測位補完の公
共性」新衛星ビジネス株式会社、
2003 年 12 月4日
03)「DARPA develops portable atomic
clock」:Government Computer
Science & Technology Trends January 2005
41
科学技術動向 2005 年 1 月号
News、2003 年4月 17 日:
07) ILS 社 Mission Overview“SIRIUS
ムの概要」国土交通省航空局、
http://www.gcn.com/vol1_no1/
1 Launch on the Proton Launch
2003 年 10 月 28 日:
daily-updates/25302-1.html
Vehicle”
:
http://www8.cao.go.jp/cstp/
04) 科学技術政策研究所講演録‐142
http://www.ilslaunch.com/launches/
tyousakai/cosmo/sokuihaihu01/
「国家戦略としての準天頂衛星の
cbin/Mission_Overview/proton/
有効性」西口浩、2004 年9月
Sirius1MissionOverview.pdf
siryo1-3.pdf
11) 水間、
「準天頂衛星の鉄道など
05) 諮 問 第 2015 号「 電 気 通 信 事 業
08) 高橋、
「人工衛星の軌道とそれに
における緊急通報機能等の高
適したミッション」
、電波研季報
術開発」交通安全環境研究所、
度化方策」のうち「携帯電話か
Vol18、No.97、1972
2004 年4月 14 日
らの緊急通報における発信者位
置情報通知機能に係る技術的条
09) 情報通信研究機構ホームページ
高速移動体への利用に関する技
12) 特定非営利活動法人 高度測位
「時刻管理システム」
:
社会基盤研究フォーラム「民間
件」
(一部答申)情報通信審議会、
http://www2.nict.go.jp/dk/c271/
利用の立場から見たわが国の衛
2004 年6月 30 日
j/time/time.html
星測位システムのあり方への提
06) JAXA ホームページ「準天頂衛
10) 総合科学技術会議宇宙開発利用
言」2004 年4月
星を利用した高精度測位実験シ
専門調査会測位分野検討会(第
13) CHARTER“Interagency GPS
ステム」
:
1 回 ) 資 料 測 1‐ 3「 運 輸 多
Executive Board”
,IGEB:
http://qzss.jaxa.jp/
目的衛星用衛星航法補強システ
http://www.igeb.gov/charter.shtml
《略語のフルスペルと解説》
ASBC
Advanced Space Business Corporation 「新衛星ビジネス株式会社」
DARPA
Defense Advanced Research Projects Agency 「国防高等研究所」
DoD
Department of Defense 「米国防総省」
DOP
Dilution Of Precision 「精度劣化の程度」
ENRI
Electronic Navigation Research Institute 「電子航法研究所」
ESA
European Space Agency 「欧州宇宙機関」
EU
Europe Union 「欧州連合」
GIAC
GPS Interagency Advisory Council 「GPS 省庁間諮問会議」
GIS
Geographic information System 「地理情報システム」
GLONASS
GLObal NAvigation Satellite System 「ロシアの全球衛星測位システム」
GPS
Global Positioning System 「全球測位システム」
GNSS
Global Navigation Satellite System 「全球衛星測位システム」
IGEB
Interagency GPS Executive Board 「省庁間 GPS 行政委員会」
ILS
International Launch Services 「インターナショナル・ロンチ・サービシズ社(国際
打上げ会社の名称)
」
ITU‐R
International Telecommunication Union - Radiocommunication Sector 「国際電気通
信連合無線通信部門」
JAXA
Japan Aerospace eXploration Agency 「宇宙航空研究開発機構」
LBS
Location Based Service 「位置情報サービス」
MSAS
MTSAT Satellite-based Augmentation System 「MTSAT 用衛星航法補強システム」
MTSAT
Multifunctional Transport SATellite 「運輸多目的衛星」
NAVSTAR
NAVigation System with Timing And Ranging 「時刻・測距による航法システム」
NiCT
National Institute of Information and Communications Technology 「情報通信研究機構」
QZSS
Quasi-Zenith Satellite System 「準天頂衛星システム」
RAAN
Right Ascension of Ascending Node 「昇交点赤経(衛星が赤道面を南から北に通
過するときの天球面での経度。赤経 0 度は春分の日の太陽の方向と定義)
」
42
科学技術動向研究センターのご紹介
科学技術動向研究センターとは
平成 13 年1月より内閣府総合科学技術会議が設置され、従来以上に戦略性を重視する政策立
案が検討されています。科学技術政策研究所では、戦略策定に不可欠な重要科学技術分野の動
向に関する調査・分析機能を充実・強化するため 1 月より新たに「科学技術動向研究センター」
を設立いたしました。本センターでは、第 2 期「科学技術基本計画」に示されたライフサイエ
ンス、情報通信等の重点分野の最新動向に係る情報の収集や今後の方向性についての調査・研
究に、下図に示すような体制で取り組んでいます。
センターがとりまとめた成果は、適宜、総合科学技術会議、文部科学省へ政策立案に資する
資料として提供いたします。
センターの具体的な活動は以下の3つです。
1
毎月 1 回、
「科学技術動向」
としてま
とめ、総合科学技術会議、文部科
「科学技術専門家ネットワーク」 学省を始めとした科学技術関係機
による科学技術動向分析 関等に配布いたします。なお、この
わが国の産学官の研究者を「専 資料は http://www.nistep.go.jp
門調査員」に委嘱して(2003 年 において公開します。
度実績約 2,500 人)
、インターネッ
トを利用して科学技術動向に関す
る幅広い情報を収集・分析する体
制「科学技術専門家ネットワーク」
重要科学技術分野・領域の
を運営しています。このネットワ
動向の調査研究
ークを通じ、専門調査員より国内 今後、国として取り組むべき重
外の学術会合、学術雑誌などで発 点事項、具体的な研究開発課題等
表される研究成果、注目すべき動 を明確にすることを目的とし、重
向や今後の科学技術の方向性等に 要な科学技術分野・領域に関する
関する意見等を広く収集いたします。 キーテクノロジー等を調査・分析
これらの情報に、センターが独 します。
自に行う調査・研究の結果を加え、 さらに、重要な科学技術分野・
2
総括ユニット
領域ごとの科学技術水準を欧米先
進国と比較し、わが国の科学技術
がどのような位置にあるのかにつ
いての調査・分析も行います。
3
技術予測に関する調査研究
当研究所では、科学技術の長期
的将来動向を総合的に把握するた
め、デルファイ法による技術予測
調査をほぼ 5 年ごとに実施してい
ます。2003 年度より2年間にわた
り「科学技術の中長期的発展に係
る俯瞰的予測調査」を現在実施中
です。
蘆全体の企画、調整、とりまとめ
蘆社会基盤
蘆フロンティア(宇宙・海洋)分野
ライフサイエンス・医療ユニット
センター長
情報通信ユニット
蘆情報通信分野
環境・エネルギーユニット
材料・製造技術ユニット
蘆ライフサイエンス分野
蘆環境分野
蘆エネルギー分野
蘆ナノテクノロジー・材料分野
蘆製造技術分野
*それぞれのユニットには、職員の他、客員研究官(非常勤職員)を配置。
*センターの組織、担当分野などは適宣見直しを行う。
Science & Technology Trends January 2005
43
SCIENCE & TECHNOLOGY TRENDS
January 2005
(NO.46)
Science & Technology
Foresight Center
※このレポートについてのご意見、お問い合
わせは、下記のメールアドレスまたは電話
National Institute of Science and
Technology Policy (NISTEP)
Ministry of Education, Culture, Sports,
Science and Technology
番号までお願いいたします
なお、科学技術動向のバックナンバーは、下
記の URL にアクセスいただき「報告書一覧
科学技術動向・月報」でご覧いただけます。
文部科学省科学技術政策研究所
科学技術動向研究センター
連絡先:〒 100 − 0005 東京都千代田区丸の内 2 − 5 − 1
電話 03 − 3581 − 0605 FAX 03 − 3503 − 3996
URL http://www.nistep.go.jp
Email [email protected]
��������� � � � �
� ������� � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � � �
�������� � � � � � � � � � � � � � �
�������� � � � � � � � � � � � � � � � � � �
������
������� � � � � � � � � � � � � � � � � �
� �������� � � � � �
��������
Science & Technology Trends
科学技術動向
《2005年1月号》
文部科学省 科学技術政策研究所
科学技術動向研究センター
Fly UP