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談話における副詞 「確かに」と「もちろん」の意味・用法(要約)

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談話における副詞 「確かに」と「もちろん」の意味・用法(要約)
 談話における副詞 「確かに」と「もちろん」の意味・用法(要約) 陳若婷 第 1 章 序論(研究動機と目的) 本研究は副詞「確かに」と「もちろん」を考察の対象とし,談話における両
副詞の意味・用法を記述することを目的とするものである。 従来,「確かに」と「もちろん」は「真偽判断の副詞」(中右 1980,1994)と
して考えられてきたが,この 2 つの副詞の使用条件が異なることから,異なっ
た性格を有するものであるとされている。しかし,両副詞は談話において,相
手の言うことに対し同意を示す点において類似している。さらに,両副詞はと
もに譲歩用法がある(工藤 1982,澤田 2006)。譲歩用法において両副詞が置き
換えられることから,両副詞はある条件のもとで,共通する意味・用法を有す
ることが分かる。 では,なぜ使用条件の異なる両副詞が類似する意味・用法を有するのだろう
か。また,なぜ両副詞は譲歩用法を有するのか。談話において「確かに」と「も
ちろん」はそれぞれどのような意味を表しているのか,そして共通点と相違点
は何か。 本研究では,これらの問題点を解決するために,談話における副詞「確かに」
と「もちろん」の意味・用法を明らかにすることを目的とする。 第 2 章 先行研究の成果と問題点 「確かに」と「もちろん」について,従来,
「誘導副詞」(渡辺 1949,1971),
「文副詞類」
(澤田 1978),
「命題外副詞」の「真偽判断の副詞」
(中右 1980,1994)
とされている。従来の副詞研究は,
「確かに」と「もちろん」について,命題に
対する話し手の心的態度を表し,また命題が真であることを示す特徴を持つ副
詞であるとしている。 このような特徴を有する「確かに」と「もちろん」の意味・用法について,
考察を行っている研究には,安達(1997,1999)や森本(1994)や森田(1989,
2005)などがある。これらの先行研究の成果として,両副詞の本質的意味を文
脈の視点から考察する必要性を示したことが挙げられる。特に「もちろん」の
1
本質的意味は,話し手が想定する聞き手の知識・信念と関わっているという視
点は大いに参考になる。 しかしその一方,先行研究には,各副詞の本質的意味と文脈による意味・用
法(語用論的意味)との関連性について説明できないという問題点がある。こ
のように,各副詞の本質的意味はまだ明らかになっていないことが分かる。 なお,譲歩用法について,なぜ両副詞がともにこのような用法を有するのか
ということについても説明されていない。 先行研究にこれらの問題点があるのは,
「確かに」と「もちろん」を使用する
際に必要とされる条件についての記述が不十分であるためである。 そこで,本研究では以上の問題点を解決するために,
「なぜこの両副詞が使用
されるのか」ということを談話の視点から考察し,
「確かに」と「もちろん」の
使用条件と本質的意味を再検討する。 本研究の研究課題は,大別すると,2 つに分けることができる。1つ目は,
「あ
る文脈においてなぜその副詞が使用されるのか」という談話の観点から改めて
「各副詞の本質的意味」を考察することである。2 つ目は,上述した考察から得
られた結果に基づき,非譲歩用法における使用と,譲歩用法における使用を考
察し,
「両副詞の共通点や相違点」を明らかにすることである。 第 3 章 本研究の視点 第 3 章では,
「確かに」と「もちろん」を考察する際に必要とされる視点を検
討した。 まず,研究課題(I)
「各副詞の本質的意味」について,
「ある文脈においてな
ぜその副詞が使用されるのか」という談話の視点から,①命題に対する話し手
の心的態度及び,②(話し手が想定する)聞き手の知識・信念という 2 点に着
目し,各副詞の使用条件を考察し,それぞれの本質的意味を明らかにした(第 4
章,第 5 章)。 次に,研究課題(II)
「両副詞の共通点と相違点」について,非譲歩用法にお
ける両副詞の共通点と相違点を検討した(第 6 章)。その後,譲歩用法と非譲歩
用法における両副詞使用と話し手の想定する聞き手の知識・信念との関わりか
ら,譲歩用法における両副詞の共通点と相違点を考察した(第 7 章)。 第 4 章 「確かに」の本質的意味と用法 本章では,
「ある文脈にでなぜその副詞が使用されるのか」という談話の視点
から,①命題に対する話し手の心的態度及び,②(話し手が想定する)聞き手
の知識・信念という 2 点に着目し,
「確かに」の使用条件を再検討した。この考
2
察により,
「確かに」の使用条件と本質的意味を明らかにした。本章で明らかに
したことは以下の 3 点にまとめられる。 ① 「確かに」を使用する際には,同時に満たされなければならない使用条件
が 3 つある。
「先行文脈で誰かが命題 p が真であるという考え,又は傾き
を持つ」ことと,
「確認する以前は,会話参与者の中で誰かが命題に対し
不確かであると思っている」こと,
「確認の手がかり」の存在の 3 つであ
る。 ② ①の使用条件から,
「確かに」の「本質的意味」は次のように規定するこ
とができる。
「先行文脈で誰かの考え又は傾きに対し,不確かなことが存
在し,話し手は何らかの証拠で確認することで,その命題が真であるこ
とを示す」ということである。 ③ ①の使用条件が文脈における有り様により「確かに」の複数の意味・用
法が生じる。大きく分けると,2 つのタイプがある。「確かに」の発話者
に認識の変化ある A タイプと,発話者に認識の変化のない B タイプ,の 2
つである。 第 5 章 「もちろん」の本質的意味と用法 本章では,
「ある文脈でなぜその副詞が使用されるのか」という談話の視点か
ら,①命題に対する話し手の心的態度及び,②(話し手が想定する)聞き手の
知識・信念という 2 点に着目し,
「もちろん」の使用条件を再検討した。この考
察により,
「もちろん」の使用条件と本質的意味を明らかした。本章で明らかに
したことは以下 3 点にまとめられる。 ① 「もちろん」を使用する際には,同時に満たされなければならない使用条
件が 3 つある。i)「話し手の知識・信念の中には先行する事態 p’と隠され
た r が存在している。「もちろん p」の p は p’と隠された r から導かれた
帰結である」こと。ii)「話し手の知識・信念では,p’が会話参与者の共
有知識である」こと。iii)聞き手の知識・信念では,p’から p が導かれ
ない(つまり,聞き手の知識・信念の中には r がない)または,聞き手は
話し手の知識・信念に,
r が欠けているため p が導かれないと想定している」
こと,の 3 つである。 ② ①の使用条件から,
「もちろん」の「本質的意味」は次のように規定する
ことができる。
「話し手の知識・信念中で,問題となっている命題は何らか
の条件・前提(p’と r)に基づいて得られた帰結であり,必然的に真であ
3
る。しかし,隠された r が会話参与者に不確かであると思われ,又は疑わ
れている(すなわち,r は共有知識ではない)ため,会話参与者に r の存在
を訴え,命題が必然的に真であることを示す」ということである。 ③ ①②の記述に基づき,文脈による意味・用法に,統一的な記述を与える
ことができる。 第 6 章 非譲歩用法における「確かに」と「もちろん」の比較 本章では,非譲歩用法における「確かに」と「もちろん」の共通点と相違点
を確認した。 両副詞の共通点として,
「発話時点において,話し手の知識・信念では命題が
必然的に真である」ことと,
「文脈において,命題に関して不確かなことが存在
する」こと,という 2 つが挙げられる。 相違点として,話し手の知識・信念における命題の成立の時点という点にお
いては異なっている。
「確かに」の場合,確認の作業の後に,命題が真となる(成
立する)のに対し,
「もちろん」の場合,推論による帰結であるため,前件であ
る p’が成立すれば,後件の p は成立し,話し手の知識・信念では,問題となっ
ている命題 p は既に真である,ということが挙げられる。 また,
「文脈において,命題に関して不確かなことが存在する」ことについて,
「確かに」の場合,命題を不確かであると思う人は,話し手の可能性もあり,
聞き手の可能性もある。これに対し,
「もちろん」の場合,話し手は命題を不確
かであるとは思っていないという点において,
「確かに」と異なっている。 第 7 章 譲歩用法における「確かに」と「もちろん」の比較 本章では,
(話し手が想定する)聞き手の知識・信念と両副詞の使用との関わ
りから,譲歩用法における「確かに」と「もちろん」の共通点と相違点を考察
した。 譲歩用法について,本研究は,Couper-Kuhlen & Thompson(2000)や蓮沼(2006)
が提案した譲歩の談話構造に従い,(1)のように規定する。 (1) 譲歩の談話の基本構造 A: X [p] B: X’ [確かに p/もちろん p] Y [q] 本章では,
(話し手が想定する)聞き手の知識・信念に着目して,聞き手の知
4
識・信念(すなわち,X の部分)を肯定型,中立型,否定型の三つに分け,それ
ぞれの場合について,譲歩用法と非譲歩用法における両副詞の使用の実態を考
察した。 特に,聞き手の知識・信念が中立型と否定型の場合,両副詞の使用実態から,
譲歩用法と非譲歩用法における「確かに」と「もちろん」は聞き手の知識・信
念とどのように関っているかということが明らかになった。 考察の結果,譲歩用法における両副詞は,共に「聞き手(他者)の知識・信
念に言及する」ことに基づいて機能している点で共通していることが明らかに
なった。 また,相違点にとしては,
「確かに」は「聞き手(他者)の知識・信念に依存
した判断」を提示するのに対し,
「もちろん」は「会話参与者の共有知識」を提
示する点において異なっていることが分かった。2 つの副詞は表している意味は
異なるが,聞き手の知識・信念に言及する点においては共通している。それゆ
え,譲歩用法において類似する働きをする。 第 8 章 結論と今後の課題 本研究では,なぜ「確かに」と「もちろん」が使用されるのかということに
着目し,文脈との関わりという観点,すなわち「話し手の命題に対する心的態
度」,及び,
「(話し手が想定する)聞き手の知識・信念」から,談話における両
副詞の意味・用法を考察した。本考察により,従来意味論レベルでは類似して
いるとされていなかった「確かに」と「もちろん」に談話レベルにおいて同様
の位置付けを与えたと言える。
また,従来,譲歩用法における「確かに」と「もちろん」は,類似する意味
を有するとされてきたが,その説明は現象レベルの記述に留まり,原理的に裏
付けられた説明がなされていなかった。本研究では,話し手の命題に対する心
的態度及び,
(話し手が想定する)聞き手の知識・信念に着目して,各副詞の本
質的意味を考察した。この結果をもとに,非譲歩用法と譲歩用法における両副
詞の共通点と相違点を明らかにした。本研究の考察をまとめると,表 1 のよう
になる。
5
表 1 「確かに」と「もちろん」の共通点と相違点 確かに
命題に対する
共通点
話し手の心的
態度
相違点
聞き手の知
共通点
識・信念との
関係
相違点
もちろん
発話時点において,話し手の知識・信念では,命題
が必然的に真である。
命題は確認の作業を通し 命題は推論による帰結
て成立する。
である。
会話参与者の知識・信念に言及する。
聞き手の知識・信念に依 会話参与者との共有知
存した判断を提示する。
識を提示する。
今後の課題について,本研究では「もちろん」と「確かに」の使用がともに,
会話参与者(聞き手)との共有知識と関わっていることが観察された。この「会
話参与者の共有知識を想定する」という視点と対立する研究には,田窪・金水
(1996a,1996b)の談話管理理論がある。この理論と本研究の記述の視点との
比較が必要であると思われる。これを今後の課題にしたい。 また,譲歩構文における両副詞の使用について,本研究は意味記述を目的と
するものであるため,実際の使用実態や傾向についての考察は行われていない。
そのため,この記述の結果をそのまま教育現場に持ち込むことはできないと思
われる(白川 2005)。そこで,本研究の記述を踏まえて,譲歩用法における「確
かに」と「もちろん」の使用実態を記述することを今後の課題にしたいと考え
る。 参考文献 安達 太郎(1997)「副詞が文末形式に与える影響」『広島女子大学国際文化学
部紀要』3,pp.1-11,広島女子大学国際文化学部. _____(1999)『日本語疑問文における判断の諸相』くろしお出版. 井上 優(1994)「いわゆる非分析的否定疑問文をめぐって」『国立国語研究所
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「叙法副詞の意味と機能―その記述方法を求めて―」国立国語
研究所研究報告 71『研究報告集』3,pp.45-92,秀英出版. 澤田 治美(1978)「日英語文副詞類(Sentence Adverbials)の対照言語学的
研究― Speech act 理論の視点から―」
『言語研究』74,pp.1-36,日本言語
学会. _____(2006)
「第 15 章 言語行為的モダリティと認識的モダリティの間」
6
『モダリティ』,pp.351-382,開拓社. 白川 博之(2005)「日本語学的文法から独立した日本語教育文法」,野田尚史
(編)
『コミュニケーションのための日本語教育文法』,pp.43-62,くろしお
出版. 田窪 行則・金水 敏(1996a)「複数の心的領域による談話管理」『認知科学』
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「対話と共有知識―談話管理理論の立場から―」
『言語』25(1),pp.30-39,大修館書店. 中右 実(1980)「文副詞の比較」,國広哲弥(編)『日英語比較講座 2 文法』,
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ぜ譲歩文と共起しないのか―」,上田功・野田尚史(編)
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分野:小泉保博士傘寿記念論文集』,pp.455-469,大学書林. 森田 良行(1989)『基礎日本語辞典』角田書店. _____(2005)『基礎日本語辞典』[第 10 版]角田書店. 森本 順子(1994)『話し手の主観を表す副詞について』くろしお出版. 山田 孝雄(1936)『日本文法学概論』,pp.367-394,宝文館. 渡辺 実(1949)「陳述副詞の機能」『国語国文』18 巻 1 号,pp.10-26. ____(1971)『国語構文論』塙書房. Couper-Kuhlen, Elizabeth and Sandra A. Thompson(2000)Concession patterns in conversation.Couper-Kuhlen, Elizabeth and B. Kortmann(eds.) Cause,
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