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オフバランス金融と会計規制の論理 - R-Cube

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オフバランス金融と会計規制の論理 - R-Cube
1
第 42 巻
オフバランス金融と会計規制の論理(藤田)
第5号
『立命館経営学』
2004 年 1 月
論
説
オフバランス金融と会計規制の論理
藤
田
敬
司
目
次
はじめに
Ⅰ コーポレート・ファイナンスの多様化・オフバランス化
Ⅱ オフバランス金融の背景と会計上の問題点
Ⅲ 金融商品の認識中止(オフバランス化)に係わる会計規制の実態
―IAS39 号および SFAS140 号の比較検討―
Ⅳ 概念フレームワークと金融資産負債の認識中止
Ⅴ わが国「金融商品会計基準」におけるオフバランス会計の問題点
おわりに―オフバランス取引の全体像と今後の課題
は じ め に
金融の規制緩和と金融市場の自由化が進み,金融技術が進歩した今日,ファイナンスは,そ
れ自体が新たな収益獲得手段となる可能性があり,その場合には財務活動が過剰なリスクを負
わないように,
企業自ら金融リスクをコントロールしなければならない。
スティグリッツ
〔2003〕
がいうように,金融の規制緩和・自由化による深刻な問題は,過剰なリスクを負担しようとい
うインセンティブが働くからである1)。
その場合,2つの金融リスク・コントロールが考えられる。
第一は資本市場を通じたリスクの評価と配分である2)。企業内で金融リスクの評価と配分を
行なうことができるのは,ファイナンスを実行する財務部門であろう。
第二は会計部門による会計規制である。
企業における財務部門と会計部門は通常,ともに管理部門として位置付けられ,財務部門は
事業に必要な資金調達とその運用による財務管理を通じて,また会計部門は事業部門毎の内部
業績管理と対外的財務諸表作成において,それぞれ経営管理機能を負うのが伝統的な使命であ
った。今後とも両部門は経営管理機能を負うことに変わりはないが,財務部門はファイナンス
活動を自己規制しなければならないが,会計部門はいまや,ディスクロージャー以前の課題と
1)スティグリッツ/グリーンワルド著
内藤純一・家森伸善訳『新しい金融論』2003 年,東京大学出版会,
9章
2)斎藤誠『金融技術の考え方使い方』2002 年,有斐閣,第 1 章
2
立命館経営学(第 42 巻 第 5 号)
して,財務活動のリスク・コントロールを,社内外の会計規制に照らしてバックアップしなけ
ればならないことになる。
金融リスクが急速に高まった背景の一つには,デリバティブの活用により,これまで一体で
あった金融資産・負債のキャッシュフローとリスクは分離して取引することが可能となったこ
とにより,オフバランス金融(off-balance-sheet-financing)が盛んになったことが挙げられる。
内部統制においては,企業独自のリスク管理要領を定め,オンバランスの金融資産負債に伴う
リスクのみならず,オフバランスとなっている金融リスクも対象としなければならない。
そのような企業の状況を念頭に置いて,金融商品会計基準を概観すれば,それはオンバラン
ス金融と新たなオフバランス金融の境界線を明らかしているが,取引実態に応じた規制として
はいまだ不十分であるように思われる。
会計基準は往々“政治的妥協の産物”と呼ばれるが,オフバランス金融の実務はたえず形を
変えて先行し,それらが慣習化したころにようやく,会計基準は“後追い”的に設定され,規
制はミニマム・スタンダード的になるからであろう。
わが国の金融商品会計基準は欧米会計基準を範として設定され,適用開始からすでに数年経
過したが,国際会計基準審議会(IASB)や米国財務会計基準審議会(FASB)は,その後も頻繁
に金融商品の認識・測定・開示や特別目的会社の開示規を制見直しているが,いずれもオフバ
ランス金融の実務が先行し,会計規制はたえず後追いしている恰好である。
本稿の目的は,オフバランス金融の現状を分析し,資産負債の認識・測定・認識中止に係わ
る概念や論理が,どこまで会計規制として有効性かを検証することであるが,まずはコーポレ
ート・ファイナンスが多様化し,オフバランス化したプロセスを整理するところからはじめた
い。というのは,複雑化した会計基準を読み解くには,“企業はいかなる意図をもって行動し,
市場はいかなる企業情報を得たいか”を理解するとともに,
“会計の基礎概念と具体的な会計基
準の整合性”を充分見極める必要があるからである。
なお,特別目的事業体(Special Purpose Entity=SPE)は,連結ベースのオフバランス金融に
おいては不可欠な検討課題であるが,最近の FASB は頻繁に SPE 概念を見直しており,事態
はあまりにも流動的である。ただし,
“現実のファイナンス実務をサポートし,根本的な改訂を
避けている”という批判も見受けられることを追記しておきたい3)。
3)AAA Financial Accounting Standards Committee’s comment to FASB,Comments on the FASB’s
Proposals on Consolidating Special-Purpose Entities and Related Standards-Setting Issues ,
Accounting Horizons Vol.17,No.2, June 2003
オフバランス金融と会計規制の論理(藤田)
3
Ⅰ コーポレート・ファイナンスの多様化・オフバランス化
コーポレート・ファイナンスの多様化
オフバランスシート金融と会計規制の論理を検討するに当たり,まず企業活動と企業組織の
複雑化のプロセスを辿りながら,コーポレート・ファイナンスの多様化・オフバランス化を概
観しておく。
図表 1(コーポレート・ファイナンスの多様化・オフバランス化)は,これからの議論の便宜上,コーポレー
ト・ファイナンスの多様化とオフバランスシート金融に至る変化プロセスを,具体的な事例を
織り込んで,とりまとめたものであるが,そこでは次のような 4 つの変化を読みとることがで
きる。
第 1 の変化は,内部調達から外部調達へである。いうまでもなく企業は株主による
原初出資によってスタートする。その意味ではファイナンスは内部調達からはじまり,事業開
始と拡大成長により,資金需要が高まり,外部調達としての銀行借入れが不可欠となる。ただ
し,その場の外部調達はあくまでも単体ベースの間接融資にすぎない。
第 2 の変化は,間接金融から直接金融へである。代表的なわが国企業が直接金融の段階に入
ったのは意外に早い。1960 年代には一部大企業による直接金融がはじまった。
第 3 の変化は,オンバランス金融からオフバランスシート金融へである。
第 4 の変化は,個別企業単体ベースから連結グループ金融へであり,オフバランスシート金
融は複雑さを増す。本稿が対象とするのは第 3 と第 4 の変化であり,主に連結会計と金融商品
会計であるが,目下最大の難問は,特別目的事業体を活用した資産の証券化やジョイント・ベ
ンチャーによるオフバランスシート金融である。
内部調達から外部調達へ
会計の目的を財産計算に求める静的貸借対照論においては,貸方の負債と資本は資金調達を
表し,それらと対置される借方の資産は,一般的な資本の運用形態を表すと説明される。その
場合,株式会社における原初的な資金調達は,株主からの原初出資,剰余金,減価償却の自己
金融を内部資金調達であるが,資金需要が高まり,自己資本ではまかない切れない場合の典型
的ファイナンスは,銀行借入れによる間接金融であり,内部調達に対して外部調達と呼ぶこと
ができる4)。また,金融機関との財務取引と区別される,もう一つの典型的なファイナンスは
4)近年のデリバティブ出現によるファイナンス技術の発達と,議決権付き株式への転換オプション付き社
債や商法改正による種類株式発行解禁された。負債と資本の 2 つの性格をもつ証券が多くなることにより,
資金の内部調達か外部調達の境界線は不鮮明になる。
その意味では,いまや“Debt Finance か,Equity Finance か”の論議の方が重要である。
4
立命館経営学(第 42 巻 第 5 号)
営業取引における企業間信用(原材料輸入・仕入におけるユーザンス付き決済条件の設定などによる代
金支払の繰延べ)である。これも外部調達の変形であり,いまでも圧倒的多数の中小企業は,企
業内のやりくりと銀行借入れと企業間信用に頼っている。
間接金融から直接金融へ
大企業(とくに株式公開企業)におけるファイナンスは,いまさらいうまでもなく,株式・社
債・コマーシャルペーパー発行による資金調達,すなわち直接金融へ大きくシフトしている。
最近のコーポレート・ファイナンスを議論する場合,間接金融か直接金融かという区分よりも,
Debt Finance か Equity Finance かの区分の方がはるかに重要である。そのいずれの場合にお
いても,銀行借入れ中心における物的担保や人的担保(保証)に代わって,企業格付け(Rating)
が重視される。格付けによって資金調達実態の成否が決まるだけではなく,資金調達コストが
変わるからである。
コーポレート・ファイナンスのあり方は,こうして銀行借入れ中心の間接金融から,企業自
ら,金融市場で Debt・Equity Finance を行なう時代へと変化してきたが,その変化をもたら
したものは資金移動の自由化である。
戦後のブレトンウッズ体制は国際間の資本移動を厳しく制限してきたが,すでに 1960 年代
からユーロ市場が成立し,わが国の代表的大企業 20 数社は国際金融市場での資金調達をはじ
めた5)。さらに,1980 年から 1990 年代にかけて,経済のグローバル化と規制緩和により国内
資金市場と国際資本市場の垣根が一層低くなるとともに,直接金融がコーポレート・ファイナ
ンスの主役として定着した。他方,1980 年代に欧米で発達した金融技術は,デリバティブを組
み込んだ金融商品とオフバランス金融手法を編み出した。それは資産の証券化であり,それに
よってリスクとキャッシュフローは分離して取引することが可能となった。
オンバランス金融からオフバランス金融へ
オフバランス金融(off-balance-sheet-Financing)については,図表 1 ではフィナンス・リース,
ローン・パーティシペーション(貸出参加),デット・アサンプション(債務引受),資産の証券
化,受取手形の割引・裏書譲渡を例として示している。
事実上のオペレーティング・リースでは,レッシー側は賃貸借処理(オフバランス)を,また,
ファイナンス・リースでは,売買処理(リース資産・リース負債のオンバランス)するのが原則で
ある。ディスクロージャー上問題となるのはファイナンス・リースである。
5)1962 年頃から,わが国の代表的企業は,欧米資金市場において,EDR や ADR を発行し,直接ドル資
金調達をはじめた。これが米国会計基準による連結財務諸表を作成・公開しはじめたきっかけである。
オフバランス金融と会計規制の論理(藤田)
5
経済実態はファイナンスでありながら,わが国リース会計では形式基準に照らして,
「所有権移
転外リース」の賃貸借処理(オフバランス)が認められる。
個別ベースのオフバランスから連結ベースのオフバランスへ
個別財務諸表よりも,連結財務諸表による企業情報が重視される時代には,金融はグループ
単位で行なうのが当たり前になりつつある。主要大企業にあっては,製造業であれ商業であれ,
国内外に金融子会社の 1,2 社を持つことは珍しくない。金融子グループは企業グループ全体
のために一括資金を調達し運用する。資金移動の自由化と通信情報手段の進歩がグループ金融
をバックアップしている。
かつて米国では異業種だからという理由から,金融子会社はすべて連結対象外とされた時代
いまや業種の如何を問わず親会社の支配下にある子会社はすべて連結対象である。
もあるが6),
連結ベースのオフバランスシート金融は主に特別目的事業体(SPE)とジョイント・ベンチ
ャーによって行なわれている。会計規制の盲点でもある。
資産の証券化は SPE の活用によるが,一定の要件を満たす SPE は連結決算の対象からはずす
ことができるからである。
コーポレート型 J/V は多額の資金を要するプロジェクトに活用されるが,その借入れを親
会社が保証していても,J/V を連結する際に,通常は関連会社並みに持分法を適用するから
である。J/V 契約による共同支配・共同責任を忠実に連結財務諸表に表現するには,国際会
計基準がベンチマーク処理とするように,J/V に比例連結すればその負債は自動的にオンバ
ランスとなる7)。
いずれにせよ,比例連結を採用しない米国会計基準の背景には,J/V の資産負債のオンバ
ランス化を嫌う米国企業の一般的傾向とともに,そのまた背景にはオフバランス金融を選好す
る傾向が読みとれる。
Ⅱ オフバランスシート金融の背景と会計上の問題点
上記Ⅰ章では,コーポレート・ファイナンスの変化の最終ステージとして,個別バランスシ
ート・ベース並びに連結バランスシート・ベースにおけるオフバランス金融の登場を取り上げ
たが,本章ではかかるオフバランス金融が登場した背景をさらに詳しく分析するとともに,会
6)1959 年の ARB51 号は異業種子会社を連結対象から除外していたが,1987 年の SFAS94 号はその除外
規定を廃止した。詳しくは拙稿「連結範囲決定要因としての「所有と支配」論争と特別目的会社をめぐる
新たな展開」『立命館経営学第 42 巻第 3 号』参照。
7)拙稿「ジョイント・ベンチャーの経営と会計に関する実証研究序論」
『立命館経営学第 42 巻第 4 号』参
照
6
立命館経営学(第 42 巻 第 5 号)
図表1
コーポレート・ファイナンスの多様化・オフバランス化
外部調達
(連結ベース)
外部調達
(単体ベース)
内部調達
リース
特別目的事業体︵
資産の証券化
株式発行
社債発行
︶
SPE
コマーシャル・ペーパー発行
格付け
Loan
Participation,
Debt Assumption
ジョイントベンチャー設立
割引・裏書譲渡
金融子会社設立
オフバランス金融
間接金融
Finance
受取手形の
Project
Financ
Equity
Financ
Debt
銀行借入れ・
シンジケート
銀行団借入
れ
剰余金の内部留保・減価償却の自己金融機能
企業間信用︵買掛金・支払手形︶
設立時株主出資
直接金融
オフバランス金融と会計規制の論理(藤田)
7
計上どのような問題点を惹起しているかを検討する。
「オフバランス取引」としてのオフバランスシート金融
「オフバランス取引」という用語については,いまだ厳密な会計学的定義は存在しない8)。
しかし,ここでは“貸借対照表に表示されない取引”と理解しておこう。
金融商品会計基準が導入される以前には,先渡し取引,先物取引,オプション契約,スワッ
プ契約などのデリバティブがオフバランス取引の代表であった9)。金融商品としてのデリバテ
ィブは,金融商品会計基準の導入により,取得原価・実現基準会計ではなく,時価評価・発生
基準会計の対象となり,その時価評価差額は資産負債としてオンバランス化されるようになっ
た。しかしながら,デリバティブ以外のオフバランス取引は依然として行なわれている。むし
ろ,ますます盛んに行なわれている,というべきかも知れない。
オフバランスシート金融はオフバランス取引の一種であり,その典型例がオフバランスシート
金融である。
オフバランスシート金融の定義
オフバランスシート金融とはなにか,については,論者によって様々な説明が行なわれている。
たとえば,R・G・Schroeder(2001)は負債概念に合わなくなった Debt をバランスシートか
ら除外することであるという10)。そこでは,石油会社がジョイント・ベンチャー(J/V)を形
成してオフショアーで原油を掘削する場合に,J/V の借入れを保証することや,キャピタル・
リース契約が例示されている。しかし,オフバランス金融は,必ずしも負債のオフバランス化
だけではない。
図表 2(バランスシートと資金調達)から明らかなように,デット・アサンプションは負債のオ
フバランス化であるが,受取手形の割引・裏書譲渡,資産の証券化,貸付参加は資産のオフバ
ランス化であり,とものオフバランスシート金融の手段になっている。その他にも,売掛金の
ファクタリングや買戻条件付きの資産譲渡あるが,はたしてこれは“資産の譲渡か,それとも
資金の借り入れか”は疑問とされている11)。
米国 FASB が最初にオフバランスシート金融をプロジェクトとして取り上げたのは,1986
8)藤井秀樹『現代企業会計論』19997 年 森山書店
282 頁
9)小宮山賢『最新オフバランス取引』1996 年,きんざい,第 1 章
2頁
10)Richard G・Schroeder 他 Financial Accounting Theory And Analysis 7th Edition 2001,John and Wiley
& Sons.Inc.Chapter 10, P.325
11)古賀智将敏『デリバティブ会計第 2 版』1999 年,森山書店,第 11 章,207 頁
8
立命館経営学(第 42 巻 第 5 号)
年の 5 月であるが12),その理由は既存の会計基準では処理できないデリバティブやそれを使っ
た金融取引が増えたからであった。その意味においては,オプションやスワップなどのデリバ
ティブを使って資産負債をオフバランス化する金融取引,と定義することができる。しかし,
ファイナンス・リースや手形割引・裏書譲渡による資産負債のオフバランス化は,デリバティ
ブ出現以前から行なわれてきたものであり,厳密な定義は困難である。
オフバランス金融の論理
上記では,オフバランスが資産(Assets)・負債(バランスシートでは Liabilities,金融では Debt
と呼ぶ)双方で行なわれることを見た。では,なぜ企業や銀行は資産負債のオフバランス化を
選好するのだろうか。オフバランスの会計規制の論理や有効性を検討する上で,考慮すべきは
次の 5 点であろう。
1)バランスシートのスリム化
ファイナンス・リースの活用メリットについて通常いわれることであるが,一度に多額の資
金を必要としないこと,資産の陳腐化に弾力的に対応できること(通常ノン・キャンセラブルであ
るが,現実には弾力的に対応できる),固定資産管理や減価償却計算などの事務手続きが簡略化さ
れること,自社資産購入に比しバランスシートはスリムに化できること(バランスシートのスリ
ム化はすべてのオフバランス金融に共通する命題である)。たとえば,最近のコンピュータ・ハード
は,ここ数年間を見ても,価格は下がり,小型化した。しかも高性能化した。その場合,自社
使用のコンピュータは,自社の固定資産として所有するよりも,リースに大きなメリットがあ
る。
2)投資のリサイクル
企業とはカネーモノーカネの変換装置(G―W―G´)であり,それによって稼得する利益(G´
>G)を追求するのが企業目的であることは何人も否定できない事実である。貨幣はその運動 G
―W―G´の全経過において,
潜勢的な自己増殖的主体としての本性を,
現実化させるのである13)。
資産のオフバランス化行動はこのような資本の論理に整合する。
その目的をスピーディに達成するには,投資した資産(W)の早期回収によってこの変換プロ
セスをできるだけスピードアップし,リサイクルによって得た資金をさらに有利な再投資に振
り向けることには利益最大化につながる。とくに環境変化のスピードが速まり,既存投資が陳
12)SFAS125 号 Par.1
13)平田清明『コンメンタール「資本」1』1980 年,日本評論社,198 頁
9
オフバランス金融と会計規制の論理(藤田)
図表2
バランスシートと資金調達
Debt
Finance
Equity
Finance
10
立命館経営学(第 42 巻 第 5 号)
腐化し易い時代においては,投資のリサイクルは企業としてはリスク・マネージメントの一環
である。
3)レバレッジ効果→Debt・Equity Ratio の悪化→格付け低下
Equity Finance に対して,Debt Finance が選好される最大の理由は,法人税計算上,Equity
による資金調達では支払配当は税金支払後の利益から行なわれるが,Debt Finance による支払
利息は損金算入されることである。他方,新株発行による Equity Finance は一株利益の低下
を招く。したがって,Debt Finance が選好されるのであるが,だからといって,Equity を抑
えて,Debt を増やせば,Debt・Equity Ratio が悪化し,債券格付けが低下し,資金コストが
上昇する。Equity に対するある程度までの Debt は ROA 向上に資すが,過重債務は株価低下
につながる。そこで必然的に考えられるのがオフバランス金融である。14)
4)銀行の自己資本規制
企業の旺盛な資金需要は,銀行借入れ中心の間接金融においては,必然的に銀行のバランス
シートを膨張させ,Debt・Equity Ratio を著しく悪化させた。また金融のグローバル化に伴い,
国際決済銀行(BIS)による自己資本比率を遵守するためには,長期固定の金融資産を流動化さ
せることが不可欠となった。デリバティブを使った資産負債のオフバランスシート化は,こう
した自己資本規制強化の所産である。しかし,表面的な自己資本強化策はデリバティブ取引に
伴なうリスクもオフバランス化することになる。
5)デリバティブ等による資産流動化技術の進歩
バランスシートをスリム化して財務比率を改善する意向はいかに強くとも,リース以外にオ
フバランス化の手法が使えなければ,手の施しようがない。
オフバランス金融が急速に進歩したのは,デリバティブの開発と密接な関係がある。
資産を流動化するには,契約形式は売却としなければならないが,売りっぱなしではなく,
再購入または買戻しのオプションやスワップ契約を同時に締結すれば,
取引相手は見つけ易く,
資産の流動化は進むことになる。
しかし,すべての「リスク・経済価値アプローチ」によれば,オプション・スワップ契約付
き譲渡ではオフバランス化は無理である。そこで案出されたのが「財務構成要素アプローチ」
である(Ⅳ. 参照)。貸付金であれば,金利や回収サービス業務に係る資産負債を切り分け,元
14)Debt の Equity に対するその他のメリットとしては,一時的資金需要に機敏に対応できること,Equity
のデメリットとしては,発行株式数の増加はテイクオーバー・ビッドのリスクを増すことなどが指摘され
る。また,最適な Debt と Equity の資本構成比率,すなわち自己資本比率は理論的の存在しないことが明
らかにされている。岩村充,鈴木淳人『企業金融の理論と法』2001 年,東洋経済新報社
第 4 章,65 頁
オフバランス金融と会計規制の論理(藤田)
11
本部分を譲渡し,オフバランス化する手法である。
会計上の問題点
米国 AAA が 1966 年に発表した ASOBAT は,第一の会計目的は“外部ユーザーに対する会
計情報の提供”であると規定したことで有名である。そこでいう外部ユーザーに有益な情報と
は,長期的には投資家に対する将来の収益力に関するものであるが,短期的には財務ポジショ
ンであった。とくに近い将来における負債決済能力に関する潜在的不安定性を査定したい債権
者に必要とされるという。不十分な開示によるオフバランス金融は,総資産利益率や Debt/
Equity Ratio を歪める可能性があることはいうまでもない。
さらに ASOBAT がいう第二の会計目的は“企業内部の経営陣に対する会計情報の提供”で
あったが,これをオフバランス金融について,今日的表現に引き直せば“リスク・マネージメ
ント”のための,リスク・ポジション情報提供である。
Ⅲ 金融商品の認識中止(De−recognition,オフバランス化)を規制する会計の論理
―IAS39 号および SFAS140 号の比較検討―
ここでは,オフバランス金融の会計規制の具体例として,国際会計基準と米国会計基準の実
態を整理する。
Ⅳにおいて会計基準の現実と基礎概念の理念の一致または乖離の状況を考察し,
Ⅴにおいてわが国金融商品会計基準と比較するための橋渡しが目的である。
国際会計基準 IAS39 号(2000 年 10 月改訂)の場合
<資産の認識中止基準>
1,金融資産の認識を中止(オフバランス化)の可否に係る一般条件(Par.35,36,37)
企業が金融資産を構成する契約上権利である支配を喪失したとき,資産の認識を中止しな
ければならないが,支配の喪失とは権利の実現,権利の失効,権利の放棄である。その条件を満
たさない資産譲渡は担保付き借入れであり,認識を中止してはならない。
なお,資産のコントロールを喪失しているかどうかは譲渡人と譲受人双方のポジションを
見て判断すべきである。
2,譲渡人側ポジションから見た,具体的な認識中止の禁止規定(Par.37,38,39,40)
次の場合は,支配を喪失していないため,認識を中止してはならない。すなわち,
〇譲渡人は譲渡資産を再取得できる場合(ただし,常に市場で取得できる場合,またはフェアーバリ
ューで再取得できる場合を除く)
。
〇譲渡人は譲渡資産を買戻す権利をもつか義務を負う場合。
〇譲渡人は,スワップまたはプットオプションによって,譲渡資産の所有に係わるほとんどす
べてのリスクとリターンを保持している場合。
12
立命館経営学(第 42 巻 第 5 号)
〇譲渡人が確定価格で買戻す権利をもつ場合(確定価額は必ずしも買戻し時の公正価額ではないから
である)。
〇譲渡人が先渡し買い契約,買い建てコールオプション,売建てプットオプションによる買戻
し権利または義務をもつ場合。
3,譲受人側ポジションから見た,譲渡人の具体的な認識中止可能条件(Par.41)
〇譲受人は資産を自由に売却または担保提供できること。
〇譲受人が特別目的事業体自体または受益権保持者は譲渡資産の便益を,実質的にすべて確保
していること。
4,金融資産の一部譲渡に係る認識中止(Par.47)
譲渡される資産の簿価を,売却時のフェアーバリューに基づいて,売却される部分と保留さ
れる部分に按分しなければならない。売却部分については,簿価と入金差額は損益処理し,
保留部分(Servicing 資産,元本に対する金利等)については,そのフェアーバリュー測定が困
難な場合は,ゼロ記帳でもよい。
<負債の認識中止基準>
1,企業は,契約上特定された義務が免除された,キャンセルされた,または失効したとき(ま
たその場合に限って),負債を認識中止しなければならない(Par.57)。
2,次の場合は上記でいう義務の免除に該当する(Par.58)。
〇借手が,現金,その他金融資産,物品,サービスによって債務を決済したとき
〇法的にまたは債権者から債務履行の主たる責任(またはその一部について)免除を受けたとき
3,信託等へ第三者への支払(in-substance defeasance)は,それ自体では債権者へに対する主た
る債務履行ではない。法的免除を伴わなければならない(Par.59)。
米国の SFAS125 号(1996 年)と SFAS140 号(2000 年)の場合
<経緯と特徴>
米国 FASB は,1986 年にはじめてオフバランスシート金融(off-balance―sheet-financing)の
ディスクロージャーをデリバティブとともに取り上げ,1990 年には SFAS105 号を公表した。
その後,SFAS105 号のオフバランス金融部分は,1996 年の SFAS125 号によって,またデリ
バティブ部分は,1998 年の SFAS133 号によって,それぞれ継承された。
さらに,オフバランス金融部分は,2000 年度公表の SFAS140 号によって“金融資産の移転
と活用,金融負債の消滅”として取り上げられ,SFAS125 号は完全に代替された。この流れ
から 3 つの特徴を読みとることができる。
1)金融商品としてのデリバティブのオンバランス化と金融資産・負債のオフバランス化に係
オフバランス金融と会計規制の論理(藤田)
13
わる会計基準が切り離された。
2)オフバランス金融部分は,近年の企業不祥事の影響もあり,特別目的会社関連部分が,さ
らに見直されている。
3)すべてのリスクと便益が移転・消滅したときに認識を中止するアプローチは,SFAS125 号
を境に,財務構成要素アプローチに転換した。また,負債の認識中止には,実質的デフィー
ザンス(In-Substance Defeasance)ではなく,法的消滅が求められるようになった。
<資産売却時の認識中止に係る一般原則>
資産の譲渡によりコントロールを喪失(surrender control)したときは,対価に見合う金額ま
で,売却(sale)処理すべきであるが,次の要件を満たす場合に限られる(Par.9)。
〇譲渡資産は,譲渡人の倒産または会社更生時においても,譲渡人やその債権者から隔離され
ていること(倒産隔離)
〇譲受人は譲渡資産を担保提供や交換に供する権利がある。譲受人が Qualifying SPE(連結対
象外としうる SPE)とその HBI(受益権保持者)である場合にも同様の権利があること
〇譲渡人は譲渡した資産について,買戻し協定等により,実質的に支配(effective control)しな
いこと
なお,Par.9 の要件を満たさない売却は,譲渡人・譲受人ともに担保借入れ(secured borrowing)
として処理する(Par.12)
<サービス業務等に係る留保資産負債の計上―財務構成要素アプローチ>
譲渡資産の回収に係るサービス業務対価・負担,受益権,未分配利益は,譲渡資産簿価から
区分し,譲渡時の Fair Value で計上する(Par.10)
売却価額は認識中止(de-recognize)するが,売却資産の保証や買戻し責任に係るオプション
やスワップ付き売却については,その資産負債を認識する(Par..11)
<負債の認識中止>
債務を決済したときおよび免除を受けたときは,負債の認識を中止するが,債務の免除とは,
法的にまたは債権者によって,一時債務を免じられたことをいう(Par.16)
国際会計基準と米国会計基準の共通項
資産譲渡における「支配の喪失」
資産の認識中止要件の中心概念は「支配の喪失」である。
「支配の喪失」要件をすべて満たす
場合は「売却」であり,満たさない場合は「担保借入れ」である。
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立命館経営学(第 42 巻 第 5 号)
「支配(control)
」は両会計基準のフレームワークによる資産の定義に合致する概念である
が,何をもって支配の喪失といえるかについては,両基準ともオプション・スワップ等を組み
合わせた実質支配の存在例を具体的に列挙している。
資産の一部譲渡における「財務構成要素アプローチ」
改訂前の国際会計基準や米国 SFAS125 号以前においては,
「リスク・便益アプローチ」であ
ったが,近年盛んになった資産の証券化では,元本部分と利息部分を分割するとか,貸倒れに
よる回収リスクを切り分けて譲渡人に残すことが多くなってきた。
負債の法的債務消滅における実質的デフィーザンス(In-Substance Defeasance)の禁止
負債の消滅による認識中止要件は,債務の決済,法的または債権者による免除,債務の時効
である。わが国でデット・アサンプションに使われている「実質デフィーザンス」の論理は法
的免除を伴わないかぎり,認識中止要件にはならない。
国際会計基準(IASB Framework Par.35)の「経済実態優先(Substance over Form)」は,法形
式よりも経済実態を優先して取引を忠実に表現するための用具であるが,実質的デフィーザン
スは,原債権者との間の債務消滅の法形式を軽視することによって負債のオフバランス化を促
進するが,財務諸表の内容を大きく歪めることになる。
Ⅳ 概念フレームワークと金融資産負債の認識中止
金融市場の進展に対応する 2 つのアプローチ
米国 FASB がオフバランス金融に係わるプロジェクトを手がけたのは,1986 年の 5 月から
である(SFAS125 号 Par.1)
。SFAS125 号の Appendix-B(Background)によれば,金融商
品の譲渡人が譲渡後も譲渡商品に引き続き関与することが多くなったが,その取扱いの量が増
えただけではなく,関与の形態はバラエティに富み,取引内容は複雑化していたからである
(Par.86)。譲渡後も引き続き関与する例とは,譲渡商品についてリコース・保証・サービス
業務・再取得・買戻し契約およびプット・コールオプション契約を譲渡と同時に締結すること
である(Par.87)
。取引形態は売却による譲渡であっても,当事者の思惑は別のところにある。
それはいまや,金融資産負債に限らず,棚卸資産取引や固定資産取引でもあり得る。
その場合の会計上の論点は,金融商品の譲渡は“売却(Sale)か”,すなわち“譲渡人は譲渡
した資産をオフバランス化し,簿価と譲渡価額の差額を gain または loss として認識すべきか”,
それとも“担保借入れ(collateral for borrowing)か”,すなわち“譲渡商品は引き続き認識すべ
きか”,である。オフバランス化してよいか,それとも譲渡後の引き続きオンバランスのまま据
え置くかによって貸借対照表が大きく変わる可能性がある。このような金融市場の発展には,
オフバランス金融と会計規制の論理(藤田)
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既存の会計基準では対応できず,新たな対応が迫られていた。そこで 2 つのアプローチが考え
られた。一つが「リスク・経済価値プローチ」(risks-and-rewards-approach)であり,もう一つ
が「財務構成要素アプローチ」(financial-components-approach)である。
リスク・便益アプローチの限界
リスク・経済価値アプローチとは,当初は“すべてまたはある主要な部分(all or some major
portion)が譲渡人によって放棄(surrender)されて,はじめて認識を中止(de-recognize)する
ことができる,それまでは認識中止してはならない”であった(Par.99)。この場合,リスクと
便益が完全に相手に移転する場合においてのみ認識中止するものとすれば,譲渡資産の認識中
止に大きな歯止めとなることは明らかである。金融商品に限らず,通常の取引対象である棚卸
商品についても,受渡しが行なわれても収益認識はできなくなるケースが多い。また,
“すべて
またはある主要な大部分”といういい方はあまりにもあいまいであり,受入れられなかった,
または文言の解釈は相当分かれたものと思われる。他方,当時の IASC 公開草案 E40 による“す
べての(all)”という表現は明確であるが,資産譲渡の結果を忠実に表さず,処理の不統一を招
く懸念があるという理由から,FASB とあいては賛成できなかったという(Par.100)。その後
IASC の公開草案 E48 では“実質的に(substantially)にすべて”という表現に改められたが,
それでもあいまいであり,処理の不統一は免れないと考えた。また,
“すべてのリスク”と“す
べての便益”は別個独立に扱うべきか,相殺して扱うべきか,についても疑問とされた。FASB
のリスク・便益アプローチに対する不満を整理すれば,すべてのリスクやすべての便益が移転
したときに限って認識の中止を認めることにすれば,取引実態を忠実に表さなくなることと処
理の不統一が免れないことである。こうして,リスク・経済価値アプローチに代わる新たなア
プローチの検討へ向かった。
財務構成要素アプローチの優位性
財務構成要素アプローチとは,金融資産負債の譲渡において,相手に譲渡される要素と譲渡
人に残る要素に分解し,譲渡される要素は認識中止し,残る要素は引き続き認識する手法であ
る。金融商品の譲渡契約に織り込まれた財務構成要素をバラバラに分解し,譲渡される要素と
譲渡されず,譲渡人に残る要素に切り分けることができるならば,少なくとも譲渡される部分
については,資産の流動化・オフバランス化は確実に進むであろう。
FASB はこのアプローチには次の 3 つの優位性があるという。
①金融市場の参加者は金融資産の構成要素を組み合わせ,分離して取引するやり方に一致する
②契約条項の内容を忠実に反映する
③資産負債の概念的フレームワークに合う(Par.107)
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立命館経営学(第 42 巻 第 5 号)
ここで検討すべきは,FASB が指摘する上記 3 点は,あくまでも概念上の優位性であり,実務
適用においてもはたして優位性は保たれるであろうか,という問題点である。
財務構成要素アプローチの問題点
財務構成要素アプローチは概念的には正しいとしても,現実の会計処理に必要な構成要素毎
の価値測定が適正に行なわれているかどうかである。
第一点は,金融資産消滅における,譲渡人側に残される信用リスク負担と回収サービスの測
定の問題である。たしかに貸付金の譲渡においては,元本と利息を受取る権利は通常は譲受人
に移転し,その部分に対する譲渡人の支配は放棄される。また,原債務者の信用リスクや債権
回収サービスは譲渡人に残る場合がある。それが取引の実態であり,契約内容の経済実態であ
るとすれば,放棄した資産部分はオフバランス化し,残った資産負債は引き続き認識すれば,
契約に盛り込まれた構成要素毎に処理することになる。また,その方が会計情報の忠実性を高
めるともいえよう。その場合,すべてのリスク・便益の移転を条件とすれば,オフバランス化
は一向に進まないことも明らかである。
問題は,譲渡人側に残る信用リスクと回収サービスについて,譲渡人はどれだけの義務を負
い,どれだけの対価を受ける権利が発生したかを適正に会計処理するかどうかである。会計処
理には,契約段階から負担するリスクと請負ったサービス業務対価が金額的に明示されている
場合を除き,単なる負担と請負に関する文言による場合は,将来予想される金額を見積もらな
ければならない。回収業務に対する収益が費用を上回れば資産であり,下回れば負債であるこ
とはいうまでもない。実費負担であれば収益=費用であり,コストプラスαであれば,その差
損益はわずかであろう。その場合,わが国の関連実務指針 39 項がいうように,
“重要性がない
場合は,回収業務資産負債の計上は要しない”ということになる。結果的には,譲渡人側では
完全なオフバランス化が実現する。
もともとオフバランス化へのインセンティブが優勢な取引であり,リスクと便益の数量化そ
のものが推定によるほかないとすれば,譲渡人側に残る構成要素の見積もり計上に適切さを望
むことは無理であろう。
第二点は,契約時点におけるオプション価値の見積もりの困難性である。金融資産の譲渡と
同時に買戻しを契約すればファイナンスであり,リコースや保証に応じれば偶発債務を負った
ことになることは明らかである。しかし,譲渡と同時に売建てたオプション,または買い建て
たオプションについて,その公正価値を合理的に見積もることは,ストライク・プライスをオ
ーバーして本源的価値を計測できる場合は別として,ボラティリティを考慮した時間価値も含
めてとなると至難である。株価インデックス・オプションのように,過去の実績に基づいて一
定のモデル計算は成り立つとしても,個別性の高い譲渡資産のオフバランス取引においては,
オフバランス金融と会計規制の論理(藤田)
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合理性を求めることは不可能に近い。これまた同実務指針 38 項がいうように,
“新たに生じた
負債について時価を合理的に測定できない場合,その時価はゼロ,したがって計上額もゼロと
する”ほかないことになる。
財務構成要素アプローチの優位性は,個別構成要素の信頼性ある公正価値測定を犠牲にする
ことによって成り立ち,その限りにおいて譲渡資産の完全オフバランス化を促進するといえよ
う。
資産負債の定義と2つのアプローチ比較
FASB は,財務構成要素アプローチは,その第 3 の優位性として,資産負債の概念的フレー
ムワークに合うという。また,コンポーネントとしての資産とはコントロールされた経済的便
益であり,負債は経済的便益を犠牲にする義務であり,ともに資産負債の定義に合うと強調す
る(Par.108)。
しかし,コンポーネント資産負債のみが,概念フレームワーク上の資産負債の定義を満たす
ことを強調するだけでは,優位性の論法としては不十分であり,片手落ちであろう。リスク・
経済価値アプローチにおけるリスクや便益は資産負債の定義に悖るところがあることを明らか
にしなければ,優位性を証明したことにはならないからである。
FASB の概念ステートメント 6 号は,資産負債について,それぞれ一般的資産負債の定義と
並んで,特別な資産負債の定義を持っている。資産の共通定義は将来の経済的便益であるが,
一般的資産の定義においては“特定事業体によって支配される”(SFAC6―Par.25)が,特別な
資産の定義においては“資産は複数の事業体が同時にまたは異なる時点でその経済的便益を享
(SFAC6 号 Par.185)。負債の共通定義は将来の経済的便益の犠牲であるが,一般的負債
受する”
の定義においては“特定事業体が負う義務から発生する(SFAC6 号 Par.35)が,特別な負債の
定義においては”複数の事業体が jointly and severally に負う義務から発生する(SFAC6 号
Par.204)。
SFAS125 号が財務構成要素アプローチの優位性強調において引用するのは,上記で整理し
た資産負債の定義のうち,特別な資産負債に係わる定義である。
すなわち,資産とはある特定の事業体が独占的・排他的に享受する将来の経済的便益である
ことは認めつつ,ある資産についてはその資産にバンドルされた便益をアンバンドルし,また
は不可分であれば同時に複数事業体が享受することもあり得る(Par.109)。
またある負債については,複数事業体が義務をシェアーし,2 次的なまたは低次負債を負うこ
ともある(Par.110),という。
以上から明らかになると思われることは,“(ほぼ)すべてのリスクと便益の移転”を,認識
中止の条件とするリスク・便益アプローチは一般的資産負債の定義に合致し,財務構成要素ア
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立命館経営学(第 42 巻 第 5 号)
プローチは特別な資産負債の定義に合致することである。したがって,後者のアプローチのみ
が資産負債の定義に合うという比較優位論は成り立たないことになる。また,図表 3(個別バラ
ンスシート関連部分)のように,2 つのアプローチをオンバランスの論理とオフバランスの論理
に判別するならば,リスク・便益アプローチはオンバランスの論理であり,財務構成要素アプ
ローチはオフバランスの論理である。
経済的実質支配の論理と法形式的支配の論理
国際会計基準 IASB の概念フレームワークは,取引事象の法形式面ばかりでなく,経済的実
態を忠実に反映する「経済実態優先(Substance Over Form)」を強調している(Par.35)。そこで
挙げている例は,第三者に対する資産売却であるが,法的タイトルはパスしても,譲渡人が引
き続き将来の経済的便益を享受する場合においても売却として処理するならば,忠実な会計報
告ではないとクギを刺している。この経済的実質支配の論理は,古賀智敏(1999)がいうよう
に15),“各オフバランス取引を個別に扱うのではなく,一定の全体的・体系的なフレームワー
クに基づき,基本的・全般的原則を確立し,それを各取引の特性に則して,全般的統一性をも
って適用しようとするアプローチ”である(図表 3 連結バランスシート関連部分参照)。
他方,米国の FASB が採用してきたのは,個別的・ルール型アプローチである16)。ところが,
その後の連結範囲の決定における実質支配基準を導入する数々の公開草案の失敗,金融資産負
債のオフバランス化における財務構成要素アプローチ,さらには最近の米国における特別目的
事業体の見直し(連結対象外の適格特別目的事業体=QSPE から,変動持分事業体=VIE へ)では,包
括的・原則型アプローチへの動きが若干見られるが,そのスピードは極めて緩慢であり,そこ
で新たに創出された概念はあくまでもオフバランス化を維持するための苦肉の策という感があ
る。概念フレームワークでは,一般的資産負債の定義では単独支配概念があり,特別な資産負
債の定義では共同支配概念が併存するにもかかわらず,ジョイント・ベンチャーへの比例連結
には及び腰である。最近 AAA 財務会計基準委員会(注 3 参照)は,混迷を深める SPE 問題に
関するコメントの中で,資産の定義に忠実な実質支配を重視し,原則主義基準(principles―based
standards)の採用を促している。
15)古賀智敏『デリバティブ会計 第 2 版』1999 年,森山書店,195 頁
16) Katherine
March
2003
Schipper
“ Principles-Based
Accounting
Standards ”
Accounting
Horizons
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オフバランス金融と会計規制の論理(藤田)
図表 3
オフバランス金融と概念フレームワーク
一 般 的な 資産 負 債
特別な資産負債の
の 定 義 ― 単 独
定 義 ― 共 同 支
支配・負担
配・負担
実質支配子会社,共同支
過半数議決権所有
配 J/V,VIE
子会社,QSPE
経済的実質
法的形式支
支配の論理
配の論理
包括的・原則型アプローチ
連結・オフバランス金融
財務構成要素アプローチ
個別・オフバランス金融
個別・オンバランスシート
連結・オンバランスシート
リスク・便益アプローチ
個別的・ルール型アプローチ
Ⅴ わが国「金融商品会計基準」におけるオフバランス会計の問題点
金融商品会計基準の 2 面性
わが国の金融商品会計基準は,金融ビッグバンを支える新企業会計制度の一環として,1998
年 1 月に制定され,2000 年度から本格的に適用されはじめた。その適用は,デリバティブや
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立命館経営学(第 42 巻 第 5 号)
有価証券等の時価評価差額のオンバランス化に大きく表われる一方,貸付金・社債のオフバラ
ンス化,資産の証券化・流動化を促進した。つまり,この会計基準には,金融商品のオンバラ
ンス化とオフバランス化という 2 面性が見られるのである。
従来オフバランスとなってきた金融商品取引をオンバランス化する一方,同時にいくつかの
金融資産・負債についてはオフバランス化ができるようになった。たとえば,従来から会計慣
行となっていた割引・裏書き手形と受取手形の相殺消去,実務指針によって処理されてきたロ
ーン・パーティシペーションによる貸付金のオフバランス化,デッド・アサンプションによる
社債のオフバランス化は改めて追認を受けたのである。さらには特別目的会社を利用した固定
資産の証券化(流動化ともいう)によるオフバランス処理ができるようになった。これらは,実
務先行型のオフバランス取引が,暫定的な実務指針があったものもあるが,金融商品会計基準
の適用により,改めてオフバランス取引として簿外処理が追認されたのである。本章ではオフ
バランス化サイドを検討する。
基本的な考え方においては,欧米基準との比較において大差ないことが分かるが,個別具体
例を検討すると,実務慣行優先処理の容認が目立つ。
金融資産の認識中止(平成 11 年の基準設定に関する意見書Ⅲ―二―2)
基本的考え方は契約上の権利を行使したとき(貸付金の回収など)
,権利を喪失したとき(オ
プションを期限までに行使しなかったときなど)または権利に対する支配が他に移転したとき
(有価証券を譲渡したときなど)に資産の消滅を認識する。問題は支配の移転をどうとらえる
かである。
リコース権(遡及権)
,買戻し特約の保持,回収サービス業務のような条件付き譲渡について
は,
「リスク・経済価値アプローチ」ではなく,
「財務構成要素アプローチ」をとる。
そのための 3 要素(倒産隔離,譲受人による譲渡資産の権利享受,期限前の買戻し権なし)
も,SFAS125 号の内容に近い。
資産譲渡における支配概念(支配が移転していれば売買,移転していなければ金融取引とする),支
配の移転を判断するときの取引の経済実態重視および財務構成要素アプローチはグローバル・
スタンダードと共通である。
金融負債の認識中止(同上Ⅲ―二―3)
金融負債については,契約上の義務を履行したとき(債務を決済したとき),契約上の第一次債
務義務者の地位から免除されたときに消滅を認識する。この点においても,グローバル・スタ
ンダードと大筋で異なるところはない。
問題点
①経過措置としてのローン・パーティシペーションやデット・アサンプションに見られるよう
オフバランス金融と会計規制の論理(藤田)
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に,実務慣行を優先し,原則から乖離した特例処理を認めている。会計基準の新設・改訂に
は経過措置は必要であるが,その見直しの時期は不明であり,その気運すらいまのところ感
じられない。
②資産の証券化における特別目的会社の活用については,証券の保有者が契約上の権利を直接
または間接に享受できることが必要であるというが,譲渡人の譲渡資産に対する実効支配
(effective control)に注目していない。
③財務構成要素アプローチにより,金融資産の消滅において,回収サービス業務資産負債を認
識することになった。その場合の資産は,留保した業務収益部分が通常うべかりし収益を上
回る差額であり,負債は,それを下回る部分である17)。このような観念的な会計処理の実行
性は疑問である。金額の重要性判断からオフバランスとなれば,結果的には全面オフバラン
スとなる。
ファイナンス・リースにおける法形式主義
オフバランス取引の代表格であり,企業で最も広く活用されているのはファイナンス・リー
スである。その点では,金融商品会計基準適用後においても変わりはない。わが国のリース会
計基準は 1993 年に制定されたが,ファイナンス・リースについては,原則法である売買処理
よりも,例外法である「所有権移転外」リースが多用され,レッシー側ではリース資産と負債
がオフバランスとなっている。
ファイナンス・リース取引における借手側は,原則として売買処理によるリース資産・負債
のオンバランス処理であるが,例外としてのオフバランス処理も選択することができる。すな
わち,三―(1)項では売買取引に準じて会計処理を行なう。ただし,三―(2)項ではリース
契約の諸条件に照らしてリース物件の所有権が借手に移転すると認められるもの以外の取引に
ついては,通常の賃貸借取引に準じて会計処理を行なうことができる。ところが,現実には,
例外のはずのオフバランス処理が一般化し,原則であるはずのオンバランス処理が例外となっ
ている。その原因は,リース契約の諸条件を取り決めるときに,実務指針が規定する数値基準
(リース料総額の現在価値がリース物件購入価額の 90%以上であること,解約不能リース期間が,リース
物件の経済的耐用年数の 75%以上であること)のいずれかに該当すればファイナンス・リースであ
るから,いずれの数値基準照らしてもそれ以内に収まるように契約すれば「所有権移転外」リ
ース,よってオフバランス処理可能となる。
以上のように,わが国リース基準の特徴はファイナンス・リースとオペレーティング・リー
スの区分に数値基準を置き,リース契約条件次第で簡単に識別できる形式主義を採っているこ
17)日本公認会計士協会編『金融商品会計・外貨建取引の実務』2000 年,税務研究会,78 頁
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立命館経営学(第 42 巻 第 5 号)
とである。その意味から,形式的に数値基準で判別する米国リース会計基準(SFAS13 号)に近
く,
数値基準を設けずリスクと便益の移転基準で判別する国際会計基準(IAS17 号)とは異なる。
また,わが国新減損会計基準は,借手が賃貸借処理をしているファイナンス・リース物件に
ついては,未経過リース料の現在価値を当該リース資産の簿価と見なして減損テストを行なう
ことになっている(注 12)。この注記は,減損会計がリース資産のリスクと便益は借手に移転し
ていると解釈している証左である。
国際会計基準審議会(IASB)は,財務諸表の透明性確保の観点から,すべてのリース資産をオ
ンバランス化する方向で,2004 年から改めてリース会計基準の改訂作業に入るが(2003 年 11
月 20 日付け日本経済新聞),わが国リース会計に与える影響は小さくない。
割引・裏書手形の売却処理と借入れ処理の混在
商品・サービス提供先が振出した,または顧客から入手した受取手形を,金融機関で割引く,
または仕入れ先に裏書譲渡するのは日常的な資金調達行為である。その行為を手形の売却と見
る説と,ファイナンスと見る説が拮抗している。手形が期日に決済されず不渡りとなれば,手
形買戻しにより裏書責任を履行しなければならない。その偶発債務はバランスシートに脚注す
るが,不渡りの確率が低い場合は売却説にも合理性があり,わが国ではこのようなオフバラン
ス処理が通例となっている。
金融商品会計は,このような実務を追認する形で,受取手形の割引・裏書譲渡時に,受取手
形と相殺消去によって消滅認識することを追認している。
ところが,連結会計では,連結会社が振出した手形を他の連結会社が割引いた場合には,連
結バランスシート上,これを借入金に振替えるものとする(注解 14 の 2)。手形を受取った連結
会社が割引手形の消滅を認識すれば,手形を振出した連結会社との間で連結貸借の相殺消去が
できなくなるからであるが,個別ベースでは売却説を適用してオフバランス化しても,連結ベ
ースではオンバランス処理に変更しなければならない事例である。
ローン・パーティシペーションとデット・アサンプションの経過措置
ローン・パーティシペーションとは,貸付金の一部を,元の債権者と債務者の関係を変える
ことなく,したがって債務者の了解を得ることなく,他の投資家に貸付参加させることによっ
て債権の消滅を認識することであり,デット・アサンプションとは,社債権者への事前償還に
変えて,取り消し不能の信託契約等により,債務認識を消滅させることである。いずれも経過
措置であるが,実務指針(41 項および 46 項)があからさまな批判的解説を加えている通り,金
融資産負債の消滅に係わる原則から逸脱した会計処理である。
前者は平成 10 年成立の債権譲渡特例法により,債権消滅の便宜処理は根拠を失い,後者の
オフバランス金融と会計規制の論理(藤田)
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根拠である“実質的デフィーザンス(In-Substance Defeasance)論”は,国際会計基準 IAS39
号では通用しない。債務のオフバランス化には法的免除(legally released)が必要とされること
はⅣ章の最後で述べた通りである。
おわりに―オフバランス取引の全体像と今後の課題
本稿では,オフバランス金融に係わる会計規制を概観したが,オフバランス金融はオフバラ
ンス取引の一つにすぎない。また,会計情報の透明性確保というニーズに止まらず,資産・負
債のオンバランス化とオフバランス化に係わる議論は会計の根幹に係わる課題ではないかと考
える。ところが,デリバティブのオンバランス会計論はあっても18),オフバランス会計に関す
る理論的論考は驚くほど少ない。
他方,
ファイナンスとしての資産証券化の研究は盛んである19)。
金融商品会計基準のみならず,金融ビッグバン以降に新設・改訂された新会計基準を,その
視点から振り返ると,“オフバランスからオンバランス化された部分”とともに,“オンバラン
(相変わらずオフバランスに据え置くことが追認された,または放置された部
スからオフバランスへ”
分を含む)があることが分かる。必ずしもオンバランス化が良いことであり,
“成功”であると
か,オフバランス化が悪いことであり,
“失敗”であると,短絡的に割り切る意味合いではない
が,以下では,今後ともオンバランスかオフバランスかが問われて然るべきいくつかの例を挙
げる。
〇改訂連結会計基準では,連結対象となる子会社・関連会社の決定に,形式的な議決権比率に
加えて,実質支配力・影響力基準を追加することによって,従来オフバランスとなってきた
実質子会社の資産負債および関連会社投資持分の変動がオンバランス化された。しかし,同
時に,一定の特別目的会社のオフバランス化が認められた。
〇退職給付会計基準では,従来オフバランスであった労働債務(とくに年金費用)が,発生時に
退職給付債務として認識されるようになった。
〇研究開発費会計基準では,研究開発費の繰延資産計上から,発生時費用処理が原則となった。
資産負債アプローチによれば,研究費の資産化はとうてい無理であるが,一定段階からのソ
フトウエアーの資産化を除く開発費の一律費用化は画一的すぎる。
〇税効果会計基準では,従来オフバランスとなってきた前払い税金は繰延税金資産として,後
払い税金は繰延税金負債としてオンバランスされる一方,回収懸念ある資産が増えた。
〇新企業結合会計基準によってさらに強化された。パーチェス法適用が原則となった。その結
果,被合併・買収企業の含み益や含み損のある資産・負債の顕在化とともに,目に見えない
18)古賀智敏編著『ファイナンス型会計の探求』2003 年,中央経済社
19)青木浩子『新バーゼル合意と資産証券化』2003 年,有斐閣
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立命館経営学(第 42 巻 第 5 号)
“のれん”が資産として認識することになった。その場合の“のれん”は投資とフェアーバ
リュー評価純資産との差額であり,米国 SFAS141 号でいう“コアのれん”とは異なる。従
来オフバランスとなってきた無形資産の資産認識については,いまの段階では明らかではな
い。他方,国際的な動向に反して持分プーリング法も部分的ながら容認された。
このように見てくると,新会計基準の設定や改訂は,
“オンかオフか”をめぐるせめぎ合いで
あり,譲渡資産の対象を棚卸商品やサービス商品など,非金融商品に拡大すれば,収益認識に
深く係わる課題である。まさに“オンかオフか”は会計の根幹に係わる課題である。
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