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ベーチェット病(Beh"et`sDisease),2005

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ベーチェット病(Beh"et`sDisease),2005
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日皮会誌:115(2)
,125―133,2005(平17)
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生涯教育講座
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ベーチェット病(Beh"et’
s Disease)
,2005
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金
子
史
男
30 年間一貫して増加している.2004 年には登録総数が
はじめに
約 20,000 人に達しており,依然として相当数の新たな
最近,ベーチェット病(BD と略す)の病因・病態に
発病者が認められている.最近になって発症する BD
関する研究は,急速に進歩している.筆者は 2002 年,
の特徴は,!発病平均年齢の上昇(20 年間で 3.5 歳),
本学会誌に「最近のベーチェット病」について紹介し
"完全型の減少と不全型の増加(不全型!
完全型は 20
1)
た が,このたびはその後の研究結果の展開と診断基準
および治療の実際について紹介したい.
1 概
年間で 1.16 から 1.93)
,#男女比が 0.98 と一時期女性
患 者 が 増 加 し た(性 比 は 1972 年 1.36,1984 年 0.94)
が,再び男性患者が漸増する傾向にある.
念
BD は,1937 年トルコの H. Beh"et2)によって提唱さ
3 病
因
れた多臓器侵襲性の難治性の疾患である.一方,ドイ
未だに真の病因は不明であるが病態は確実に明らか
ツではこ れ よ り 早 い,1932 年 に ギ リ シ ャ の 眼 科 医
になりつつある.BD はその疾患感受性遺伝子が徐々
B. Adamantiades3)の 報 告 を 重 視 し,本 症 を
に明らかになり,HLA-B*510101 アリルの近傍にしぼ
Adamantiades-Beh"et’
s disease と呼んでいる.BD は
口腔粘膜のアフタ性潰瘍,皮膚症状,内眼炎(網膜ぶ
られてきている.発症機序の内因子としてそれに連鎖
どう膜炎)
,外陰部潰瘍を主症状とし,全身臓器を傷害
保有者では,BD に罹患する相対危険率も 17.1 と極め
し,急性炎症性発作を繰り返すことを特徴とする疾患
て高い.この遺伝子の面から日本人,イラン,トルコ,
である.
ヨルダン人患者から本症の由来を比較検討すると中東
地域的な分布を見ると,世界的には中東の地中海沿
する遺伝子の役割が重視されている.実際,HLA-B51
からもたらされた可能性が高い6).
岸諸国から北シルクロードに沿った帯状の地域および
最近,HLA-B51 トランスジェニックマウスの好中球
中国北部,韓国に偏っており,日本では北高南低の分
及び HLA-B51 陽性患者の好中球は,生体内で既にプ
布を示す4).本症での失明率が高いことや,20 歳代後
ライミングされ,活性化準備状態にあることが明らか
半から 40 歳代にかけての働き盛りの発病が多いこと,
にされ,BD の疾患感受性遺伝子である HLA-B51 遺伝
腸管型や血管型,神経型などの特殊型 BD の死亡が少
子は好中球の機能制御に関与していることが分かっ
なからず見られたことから,医学的のみならず,社会
た.また,HLA と同じ第 6 染色体短腕上に支配遺伝子
座が位置する MHC-class I chain-related gene A
的にも注目を集めている.
2003 年に厚生労働省ベーチェット病に関する調査
(MICA)
(特に MICA009)および MICB も重要な遺伝
研究班により改定された診断基準(表 1),活動期分類
的発症機構の 1 つである7).BD 患者においては,各種
5)
(表 2)および重症度分類(表 3)を示す .
2 疫
学
症状発作を繰り返す活動期には T 細胞の細胞傷害活
性が亢進している.すなわち,健常人に比べて CD3+,
CD8+,γδT 細胞の比率が高く,これらの活性を示す
厚生労働省で BD に関する調査研究が 1972(昭和
CD69+細胞も高い.これらの細胞の活動期にはその細
47)年に開始され,全国調査による推計では 1972 年に
胞の受容体である vδ1!
vδ2 の比率が上昇し,vδ1 のリ
は 8,000 人,2001 年には 17,578 人が登録されて,この
ガンドとして想定されている MICA を介した免疫応
福島県立医科大学皮膚科
平成 17 年 1 月 17 日受理
別刷請求先:(〒960―1295)福島市光が丘 1 福島県立
医科大学医学部皮膚科学教室 金子 史男
答が亢進している可能性を示している8).
発症外因子として BD 患者の口腔内に特異的 Streptococcus(S.)sanguis(KTH 1 type)が存在し,増殖し
ている9).最近,この菌に関する分類の見直しが,分子
126
金子
史男
生物学的分野から行われ,従来の S. sanguis は S. oralis
で,特に前眼部を主体にしたものは局所的な治療およ
と S. sanguinis に分類されたが,DNA 分析から後者の
び消炎剤の投与が主体となる.しかし皮膚,粘膜症状
S. sanguinis で あ る と さ れ た10).今 後 は,S. sanguinis
でも活動性が長期間持続するもの,眼底型病変を繰り
と記載する.BD 患者では S. sanguinis を含むレンサ球
返すものに対しては,コルヒチン(0.5∼1.5mg!
日)を
菌群に対して遅延型過敏反応を呈し11)12),病変部では
使用する.重篤な眼底型病変に対しては,病初期より
S. sanguinis の DNA と眼網膜蛋白 ペ プ チ ド
(Brn-3b)
シクロスポリンを 3∼7mg!
kg!
日使用する.副腎皮質
と相同するペプチド(Bes-1)が BD 患者の病変部に
ステロイド剤(ステロイド)を併用することもある.
PCR(polymerase chain reaction)法で検出され,PCR-
他の免疫抑制剤を使用することもあるが眼底型病変の
in situ hybridization では病変部炎症性浸潤細胞核内に
再発作抑制効果は,コルヒチン,シクロスポリンに比
検出されることから,S. sanguinis が病因と重要な関
して劣る.治療の優勢順位については,以下に述べる
係にあるものとして,発症外因子のひとつとして想定
!,",#の序列に従って行われるべきである.また,
1)
13)
される
.一方,自己由来及び!
あるいは口腔内レン
関節炎,口腔粘膜のアフタ性潰瘍,皮下の血栓性静脈
サ 球 菌,S. sanguinis 由 来 の 熱 シ ョ ッ ク 蛋 白(heat
炎,結節性紅斑に対しては対症療法として消炎鎮痛剤,
shock protein ; HSP)-60!
65(HSP-60!
65)による免疫異
局所ステロイド,抗凝固剤を使う.特に活動性の皮下
常も重要である.自己由来 HSP-60 に相同性を示す細
の血栓性静脈炎に対しては,短期間ステロイドの全身
菌由来の外因性 HSP-65 のペプチドは,眼症状をもつ
投与を行うことがある(プレドニゾロン換算量 20mg!
BD 患者の T リンパ球と特異的に反応を示し,前炎症
日を 5∼7 日間投与した後 10mg!
日,2∼3 日間→5mg!
性サイトカイン及び好中球誘導性サイトカインを活発
日,2∼3 日間→中止という手順で減量する)
.このほ
に産生する.一方,自己由来 HSP-60 に対する外因性
か,誘因となる
(!桃炎,抜歯,虫刺され,気象変化,
HSP-65 との相同部ペプチドにより BD 患者の自己反
性周期など)についても対処する.
応性 T リンパ球が positive selection の機序で増生し,
また反応 T 細胞の epitope 塩基配列との相同性があ
14)
る .続いて,増生した T リンパ球自体による組織傷
害や,IV 型アレルギーを介した好中球やマクロファー
ジの異常な活性化による組織傷害が起こり,これらの
! 生命の予後に影響する臓器病変
腸穿孔の恐れのある腸管(型)BD,血管(型)BD,
神経(型)BD
" 著明な機能障害をもたらす病変
炎症細胞からは IFN-γ,TNF-α 等のサイトカインが産
眼病変(特に網膜脈絡膜病変)
,中枢神経病変など
生されるため,BD の炎症病態が形成されるという証
# 機能障害を全く残さないか,あるいは軽度にとど
拠が集積しつつある.しかし,一方では自己由来ヒト
まる病変
HSP-60 と細菌由来 HSP-65 との相同部のヒト HSP-60
口腔粘膜アフタ性潰瘍,皮膚病変,関節炎病変,
ペプチドは T 細胞 epitope とも相同部が存在する14)と
消化器症状(腸穿孔など重症は除く)
,副睾丸炎など
ころから,反応性 T 細胞の活性を抑制し,免疫寛容を
誘導する可能性が示されている.既に英国 Lehner ら
の研究グループ15)は相同部ペプチド p336-351 と chol-
[主な薬剤とその使用法]
! ステロイド
era toxin B との結合物による BD 患者の進行性網膜
原則として神経(型)BD,腸管(型)BD,血管
ぶどう膜炎の治療に用いて,有効であったことを報告
(型)BD など,生命の予後に関係したり,一部の特
した.今後,BD 症状発症の免疫寛容誘導治療剤として
殊病型や重篤な発作を繰り返す眼底型病変など,重
の可能性を示している.
篤な機能障害をきたす恐れのある症状にのみ,短期
4 治療指針16)
間大量ステロイドの全身投与を行う(プレドニゾロ
ン換算 30∼100mg!
日程度から漸減)
.最終的には 10
1.一次医療機関に対する治療指針
日前後で投与を中止することが望ましいが,実際に
BD 病変が活動性の場合は,局所的ならびに全身的
は神経(型)BD では維持量として 15∼20mg!
日,腸
治療を行うとともに,各臓器の機能障害の程度を考慮
管(型)BD では 5∼10mg!
日の維持量を必要とする
して方針を立てる.すなわち,BD の活動性が皮膚,粘
膜症状に限局したものや眼病変でも軽度ないし中等度
ことが多い.
" 白血球機能抑制剤
ベーチェット病(Beh"et’
s Disease),2005
127
コルヒチン(0.5∼1.5mg!
日)
彩毛様体炎を伴う.虹彩毛様体炎の治療は,虹彩毛様
妊娠の可能性のある人,あるいは子どもを希望す
体型に準じて行う.眼底病変は直接,視力に影響を及
る人には使わない.
! 免疫抑制剤
妊娠の可能性のある人,あるいは子どもの出産を
希望する人には使わない.
ぼし,視力予後を左右する.発作時の自覚症状は視力
低下,飛蚊症である.一般に炎症の程度は,中間透光
体の検査では硝子体の混濁,眼底検査では網膜血管炎,
網膜出血,滲出斑,網膜浮腫,網膜血管の拡張,蛇行,
シクロスポリン(3∼7mg!
kg!
日)
,シク ロ ホ ス
視神経の発赤が見られる.硝子体混濁を伴う症例や,
ファミド
(50∼150mg!
日)
,アザチオプリン
(50∼150
黄斑部に浮腫が見られるときにはステロイドの球結膜
mg!
日),ミゾリビン(50∼300mg!
日),6 メルカプ
下注射や後部テノン&下注射を行う.再発抑制療法が
トプリン(6MP)
(30∼50mg!
日)
本型の主要なものである.治療法の選択は第 1 選択と
" 非ステロイド性抗炎症剤
# 自律神経に作用する薬剤
アトロピン製剤,トランキライザー
$ 抗凝固剤
してコルヒチン(0.5∼1.5. mg!
kg!
日)で,第 2 選択と
してはシクロスポリン(3∼5mg!
kg!
日)とコルヒチン
(0.5∼1.0mg!
日)
叉はシクロスポリン,シクロホスファ
ミド(50∼100mg!
日)の併用を行う.強い網膜ぶどう
アスピリン(50∼100mg!
日),ワルファリン(2∼
膜炎型の眼発作で乳頭,黄斑部に発作を起こした場合
20mg!
日)
,ジピリダモール
(250∼300mg!
日)
,プロ
に限り短期間,ステロイドの内服(プレドニゾロン換
スタグランジン製剤
算量 30∼60mg!
日,7 日間前後)
を行う.しかし本症で
% その他
塩酸アゼラスチン(3∼4mg!
日),塩酸ミノサイク
リン(50∼200mg!
日),セファランチン(6mg!
日),
レクチゾール(25∼100mg!
日)
の長期間のステロイドの内服は視力予後を不良にする
といわれている.
2)腸管(型)BD の治療
消化器病変の主なものは,潰瘍性病変で回盲部に多
注意:上記薬剤はステロイド,シクロスポリン以外
発する.治療は内科的に治療する場合と穿孔あるいは
は保険適用外であるため使用に当たって留意する.
腸瘻を作り外科的手術を必要とする場合とに分けられ
る.
2.二次・三次医療機関に対する治療方針
1)眼病変の治療
眼病変は大別して虹彩毛様体炎にとどまる型と網膜
a)内科的治療
腸管(型)BD に対し,確実に奏効する薬剤はまだ見
い出されていない.ステロイドの漫然と長期にわたる
ぶどう膜炎を合併する型とがある.この両者では,視
使用は腸穿孔を促し,予後不良の一因となり得るので,
力の予後,眼合併症の発生率に著しい差があり,網膜
慎むべきである.他病変に効果ありと判定されている
ぶどう膜炎は視力予後が極めて悪い.したがって両者
コルヒチンや免疫抑制剤の効果についても見解の一致
を鑑別して,治療することが大切である.
はまだみられていない.
a)虹彩毛様体炎型
漿液性虹彩毛様体炎の臨床像を示すことが多く,発
作・寛解を繰り返す.重症例では前房蓄膿が出現する.
慢性期:サラゾスルファピリジン
(2∼4g!
日)
,抗潰
瘍剤,乳酸菌製剤,抗コリン製剤,鎮痙剤(塩酸パパ
ベリン 300mg!
日)
,トランキライザーなど.
虹彩毛様体炎が単独にみられるときはステロイドの点
急性期:活動性が強い場合,ステロイドの内服を行
眼が主体である.炎症の程度に応じて点眼回数を決め
い,かつ最終的にはステロイドの全身投与を中止する
る.特に炎症が強いときにはステロイドの球結膜下あ
ことが好ましいが,多くはプレドニゾロンに換算して
るいはテノン&下注射も行う.点眼回数,局所注射回
5∼10mg!
日の維持量を必要とする.
数は前房内の炎症程度に従って増減するのがよい.虹
b)外科的治療
彩後癒着を防止するため瞳孔の管理が重要でフェニレ
回盲部の潰瘍が穿孔を起した場合および内科的治療
フリン,トロピカミド,アトロピンなどを適切に用い
により回復が見込まれない時には外科的切除を要する
て虹彩後癒着防止をはかる.
ことがある.
b)網膜ぶどう膜炎型
網膜脈絡膜病変のみを示すことはほとんどなく,虹
3)血管(型)BD の治療
動静脈両系に発現する.動脈系病変は動脈瘤形成や
128
金子
動脈閉塞をきたす.このような症例では手術可能な部
史男
を症状が安定し,髄液所見が正常化するまで継続する.
位であれば血管外科手術の対象となる.静脈系病変は
しかし実際には 15∼20mg!
日よりも漸減できる症例
上,下大静脈の血栓性閉塞が多い.このような症例で
は稀で,これが維持量となる.初めから少量を長期に
は副血行路の発達により,致命例は動脈系病変に比べ
使用するのは,かえって結果がよくない.
て少ない.薬物療法では,静脈血栓形成の防止のため
5)生物製剤による治療
の治療が主なものであるが,血管炎の活動期にはステ
a)ヒト型抗 TNF-α 抗体17)
ロイドの投与も行われる.血栓形成を防止するために
眼発作を繰り返す BD 患者のうち活動期の重症度
は,下記の薬剤が用いられる.
IV stage の患者に使用し,好結果を得たが,なかには
a)血液凝固防止剤
抗核抗体の出現と血小板減少の副作用があった.
ワルファリンを初日 10∼15mg!
日程度,以後漸減し
て 3∼5mg!
日でトロンボテストを 20∼30% 程度にコ
ントロールする.他にヘパリン,ウロキナーゼなどが
用いられる.
b)抗血小板剤
ジピリダモール 250∼300mg!
日,アスピリン 50∼
b)ヒト型抗 IL-6 抗体
活動期の患者で重症度 IV∼II に使用例がある.活動
期が抑制され,特に関節痛,発熱が抑えられた.
上記はいずれも,進行性で,炎症がステロイドで抑
えられず,他の治療手段がない患者への使用が望まし
い.
100mg!
日,プロスタグランジン製剤が用いられる.静
おわりに
脈系病変の治療は,抗血小板薬を併用しながらヘパリ
ン,ワルファリン,ウロキナーゼなどを使用する.
BD は遺伝性素因を有する難治性疾患として,厚生
4)神経(型)BD
労働省における最も古い難治性疾患克服事業として研
脳脊髄炎症状,髄膜炎症状を呈する重篤なもので,
究が継続されてきた.本邦における患者数は減少した
精神症状を伴う.男性に多い.発現の時期は主症状が
とは言えないが,最近の傾向として失明に至る完全型
出現してから 2∼10 年後が多い.意識障害,脳神経麻
が減少し,不全型および特殊型の腸管型が増加した傾
痺,発語障害,四肢麻痺,排尿・排便障害,頭痛,神
向があることが調査により指摘されている18).本症の
経症状などが主な症状である.発症期,増悪期にはプ
真の原因解明と根治療が一日も早く確立することを望
レドニゾロン換算量 60∼100mg!
日を単独叉は免疫抑
む次第である.
制剤と併用で投与する.慎重に漸減して,15∼20mg!
日
ベーチェット病(Beh!et’
s Disease),2005
129
表1 ベーチェット病臨床診断基準(2003 年改訂)
(1)主症状
)口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍
*皮膚症状
(a)結節性紅斑様皮疹
(b)皮下の血栓性静脈炎
(c)毛捜炎様皮疹,注瘡様皮疹
参考所見:皮膚の被刺激性亢進
+眼症状
(a)虹彩毛様体炎
(b)網膜ぶどう膜炎(網脈絡膜炎)
(c)以下の所見があれば(a)
(b)に準じる
(a)
(b)を経過したと思われる虹彩後癒着,水晶体上色素沈着,網脈絡膜萎縮,視神経萎縮,併発白内障,続発緑内障,
眼球癆
,外陰部潰瘍
(2)副症状
)変形や硬直を伴わない関節炎
*副睾丸炎
+回盲部潰瘍で代表される消化器病変
,血管病変
-中等度以上の中枢神経病変
(3)病型診断の基準
)完全型
経過中に 4 主症状が出現したもの
*不全型
(a)経過中に 3 主症状,あるいは 2 主症状と 2 副症状が出現したもの
(b)経過中に定型的眼症状とその他の 1 主症状,あるいは 2 副症状が出現したもの
+疑い
主症状の一部が出没するが,不完全型の条件を満たさないもの,及び定型的な副症状が反復あるいは増悪するもの
,特殊病変
(a)腸管(型)ベーチェット病―腹痛,潜血反応の有無を記載する.
(b)血管(型)ベーチェット病―大動脈,小動脈,大小静脈障害の別を記載する.
(c)神経(型)ベーチェット病―頭痛,麻痺,脳脊髄症型,精神症状などの有無を記載する.
(4)HLA-B51(B5)の陽性について 1 度は検査する.HLA タイプを記載することが望ましい.
(5)参考となる検査所見(必須ではない)
)皮膚の針反応の陰・陽性
22 ∼ 18G の比較的太い注射針を用いること
*レンサ球菌ワクチンによるプリックテストの陰・陽性
レンサ球菌に対する過敏反応
ベーチェット病の患者の多くは Streptcoccus sanguis をはじめとする口腔内レンサ球菌に強い過敏反応を示すことから,レ
ンサ球菌死菌抗原によるプリックテスト(細いツ反用,26G 針)で 20 ∼ 24 時間後に強い紅斑反応としてみることができ
る.
+炎症反応
赤沈値の亢進,血清 CRP の陽性化,末梢血白血球数の増加,補体価の上昇
, HLA-B51
(5)の陽性
-病理所見
急性期の結節性紅斑様皮疹では隔性脂肪組織炎で浸潤細胞は多核白血球と単核球の浸潤による.初期に多核球が多いが,
単核球の浸潤が中心で,いわゆるリンパ球性血管炎の像をとる.全身的血管炎の可能性を示唆する壊死性血管炎を伴うこ
ともあるので,その有無をみる.
[参考事項]
)主症状,副症状とも,非典型例は取り上げない.
*皮膚症状の主症状,
(a)
(b)
(c)はいずれでも多発すれば 1 項目でもよく,眼症状も(a)
(b)どちらでもよい.
+眼症状について
虹彩毛様体炎,網膜ぶどう膜炎を経過したことが確実である虹彩後癒着,水晶体上色素沈着,網脈絡膜萎縮,視神経萎縮,
併発白内障,続発緑内障,眼球癆は主症状として取り上げてよいが,病変の由来が不確実であれば参考所見とする.
130
金子
史男
,副症状について
副症状には鑑別すべき対象疾患が非常に多いことに留意せねばならない(鑑別診断の項参照).鑑別診断が不十分な場合は参
考所見とする.
-炎症反応の全くないものは,ベーチェット病として疑わしい.また,ベーチェット病では補体価の高値を伴うことが多いが,
γグロブリンの著しい増量や,自己抗体陽性は,むしろ膠原病などを疑う.
.主要鑑別対象疾患
(a)粘膜,皮膚,眼を侵す疾患
多形滲出性紅斑,急性薬物中毒,Reiter 病
(b)ベーチェット病の主症状の 1 つをもつ疾患
口腔粘膜症状:慢性再発性アフタ症,Lipschtz 陰部潰瘍
皮膚症状:化膿性毛捜炎,尋常性注瘡,結節性紅斑,遊走性血栓性静脈炎,単発性血栓性静脈炎,Sweet 病
眼症状:転移性眼内炎,敗血症性網膜炎,レプトスピローシス,サルコイドーシス,強直性脊椎炎,中心性網膜炎,青
年再発性網膜硝子体出血,網膜静脈血栓症
(c)ベーチェット病の主症状および副症状とまぎらわしい疾患
口腔粘膜症状 :ヘルペス口唇,口内炎(単純ヘルペス 1 型感染症)
外陰部潰瘍 :ヘルペス・ウィルス 2 型感染症
結節性紅斑様皮疹:結節性紅斑,バザン硬結性紅斑,サルコイドーシス,Sweet 病
関節炎症状 :慢性関節リウマチ,全身性エリテマトーデス,強皮症などの膠原病,痛風,乾癬性関節症
消化器症状 :急性虫垂炎,Crohn 病,潰瘍性大腸炎,急性・慢性膵炎
副睾丸炎 :結核
血管系症状 :高安動脈炎,Buerger 病,動脈硬化性動脈瘤,深部静脈血栓症
中枢神経症状 :感染症・アレルギー性の髄膜・脳・脊髄炎,全身性エリテマトーデス,脳・脊髄の腫瘍,血管障害,
梅毒,多発性硬化症,精神病,サルコイドーシス
表2 ベーチェツト病の活動期分類
1.活動期
眼症状(虹彩毛様体炎,網膜ぶどう膜炎),口腔粘膜のアフタ性潰瘍,皮膚症状(皮下血栓性静脈炎,結節性紅斑様皮疹,な
ど)
,外陰部潰瘍(女性の性周期に連動したものは除く),関節炎症状,腸管潰瘍,進行性の中枢神経病変,進行性の血管病
変,副睾丸炎のいずれかが認められ,理学所見(眼科的診察所見を含む)あるいは検査所見(血清 CRP,髄液所見,腸管内
視鏡所見など)から炎症徴候が明らかなもの.口腔粘膜のアフタ性潰瘍,皮膚症状・外陰部潰瘍および眼症状については,
それぞれ下記の score 2 以上を示す場合を活動期ベーチェット病とする.
2.非活動期
活動期の定義に当てはまらないもの.
(注 1) 活動期には一般に治療薬剤の増量,変更,追加が必要となる.
(注 2) 口腔粘膜のアフタ性潰瘍,毛捜炎様皮疹のみの症状の場合は活動性判定のよりどころになりにくいので,その他の
症状あるいは既往症状を考慮して慎重に判定することが望ましい.
(注 3) ぶどう膜炎のように症状発作の明らかなものでは,活動期は発作時に一致し,その持続は一般に 2 週間以内である.
ただし,2 週間以上経っても明らかな炎症所見が客観的に認められれば活動期と考えられる.
(注 4) 非活動期であっても,活動期への移行が突発的に起こりうるので,注意が必要である.
(注 5) 非活動期で,1 年間以上活動指数 score 0 が続いた場合を固定期(寛解)とする.
(1)口腔粘膜のアフタ性潰瘍
score 0:なし
score 1:最近の 4 週のうち症状が存在したのは 2 週未満である.
score 2:最近の 4 週のうち症状が存在したのは 2 週以上である.
score 3:最近の 4 週のうちほとんどに症状が存在した.
(2)皮膚症状(皮下血栓性静脈炎,結節性紅斑様皮疹,など)・外陰部潰瘍
score 0:なし
score 1:最近の 4 週のうち症状が存在したのは 2 週未満である.
score 2:最近の 4 週のうち症状が存在したのは 2 週以上である.
score 3:最近の 4 週のうちほとんどに症状が存在した.
(3)眼症状(虹彩毛様体炎,網脈絡膜炎)
score 0:なし
score 1:最近の 4 週のうち 1 回の眼発作(数日以内に連続して起こった対側眼の炎症を含む)があった.
score 2:最近の 4 週に 2 回の発作があった.
score 3:最近の 4 週に 3 回の発作があった.
ベーチェット病(Beh"et’
s Disease),2005
131
(4)その他の症状
)関節炎症状:関節痛,腫脹の有無,歩行困難,変形の出現など
*消化器病変: 急性・慢性腹痛,下血または潜血反応
+副睾丸炎:疼痛,腫脹の有無
,血管系病変:心大動脈障害,中血管閉塞,小血管閉塞,血栓性静脈炎など
-中枢神経病変:頭痛,めまい,四肢麻痺,精神症状など
.その他の症状と合併症
表3 ベーチェット病の重症度基準
Stage
内容
¿
眼症状以外の主症状(口腔粘膜のアフタ性潰瘍,皮膚症状,外陰部潰瘍)のみられるもの
À
Stage ¿の症状に眼症状としてぶどう膜炎(虹彩毛様体炎)が加わったもの
Stage ¿の症状に関節炎や副睾丸炎が加わったもの
Á
Â
網脈絡膜炎がみられるもの 失明の可能性があるか,失明に至った網脈絡膜炎およびその他の眼合併症を有するもの
活動性,ないし重度の後遺症を残す特殊病型(腸管ベーチェット病,血管ベーチェット病,神経ベーチェット病)
である
Ã
生命予後に危険のある特殊病型ベーチェット病である
中等度以上の知能低下を有す進行性神経ベーチェト病である
死亡(a.ベーチェト病の症状に基づく原因 b.合併症によるものなど,原因を記載すること)
Ä
註:・Stage ¿・Àについては活動期(下記参照)病変が 1 年間以上みられなければ,固定期(寛解)と判定するが,判定基
準に合わなくなった場合には固定期からはずす.
・失明とは,両眼の視力の和が 0.12 以下もしくは両眼の視野がそれぞれ 10 度以内のものをいう.
・活動期:ぶどう膜炎,口腔粘膜のアフタ性潰瘍,皮膚症状(皮下血栓性静脈炎,結節性紅斑様皮疹,など),外陰部潰
瘍(女性の性周期に連動したものは除く)
,関節炎症状,腸管潰瘍,進行性の中枢神経病変,進行性の血管障害,副睾
丸炎のいずれかがみられ,理学所見(眼科的診察所見を含む)あるいは検査所見(血清 CRP,血清フィブリノーゲン,
血清補体価,髄液所見,腸管内視鏡所見など)から炎症徴候が明らかなもの.
文
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s disease , AdamantiadesBehcet ’
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(10)
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献
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細胞の解析,ベーチェット病に関する調査研究,平
成 14 年度総括・分担研究報告書(主任研究者金子
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チェット病患者末梢血における細胞傷害性 T 細
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分担研究報告書,2004, 34―37.
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132
金子
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史男
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(印刷中)より引用
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の詳報―,ベーチェット病に関する調査研究平成
14 年度総括・分担研究報告書(主任研究者金子史
男),2003, 103―109.
18)稲葉 裕,黒沢美智子,松葉 剛,西部明子,川上
佳夫,金子史男:ベーチェット病の全国疫学調査
結果,ベーチェット病に関する調査研究,平成 16
年度総括・分担研究報告書(主任研究者金子史
男),2005(印刷中).
ベーチェット病(Beh!et’
s Disease),2005
133
Beh!et’
s Disease, 2005
Fumio Kaneko
Department of Dermatology, Fukushima Medical University School of Medicine, Fukushima, Japan
(Received and accepted for publication January 17, 2005)
Although the research trends in studying Beh!et’
s disease(BD)were reviewed in this Journal in 2002, I
would again like to introduce the articles from the point of view of the latest research results for BD pathogenesis, the newly revised diagnostic criteria, and the current treatments.
The number of BD patients registered with the Japanese Ministry of Health , Labour and Welfare
reached nearly 20,000. The sequence based tying of the HLA gene revealed that HLA-B51 and its HLA-B*
510101 allele were significantly associated with BD immunopathogenesis as the intrinsic factor, suggesting
that BD might be distributed from the Mediterranean countries to the Far East.
Streptococcus(S.)sanguinis(old classification : S. sanguis), which is freguently isolated from the oral cavity of BD patients, is suspected to be one of the external factors triggering the BD symptoms in the pathogenesis, because BD patients have intense hypersensitive reactions to S. sanguinis related materials. The heat
shock protein(HSP)-65 derived from S. sanguinis is found to cause human HSP-60 in the sera of patients who
have some peptides homologous to HSP-65. Although it has been thought that these homologous regions may
enhance the inflammation of BD lesions, it is suggested that some regions can reduce the production of inflammatory cytokines, such as IL-12, IL-6, IL-8, TNF-α, etc., from peripheral blood mononuclear cells(PBMC)of
BD patients. It is found that these homologous regions were also homologous to the epitope of T cells of BD
patients. Lehner and his research group, UK, have recently demonstrated that the clinical tolarization could
be induced to the advanced uveitis of BD patients for treatment by use of the homologous peptides(p336-351)
combined with choleratoxin B.
Regarding to the immunological condition of BD patients, it has been cleared that cytotoxic T cells, CD3+,
+
CD8 T cells and γδT cells including CD69+cells, are accelerated in active disease stage of the patients and that
they are stable in the remission.
The newly revised diagnostic criteria(2003)which may be able to investigate the quality of life(QOL)and
the prognosis of BD patients and the treatments for BD patients with various clinical types including biological treatments using anti-TNF-α and anti-IL-6 antibodies are introduced here.
(Jpn J Dermatol 115 : 125∼133, 2005)
s disease, HLA-B51, S. snguinis, heat shock protein, new diagnostic criteria
Key words : Behcet’
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