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再生音楽と生の音楽

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再生音楽と生の音楽
再生音楽と生の音楽
たとえば、CDを再生する場合を例にとると、音源のCDはもちろんの
こと、CDプレーヤーからアンプ、スピーカーまで全く同一で、各インター
コネクトケーブルまでも全く同一だとしても、百人がそれぞれの自宅で
聴くとなると、各家庭の部屋の構造や音響特性が全て異なるので、全
く同一の再生音はしなくて、百通りの音になる。ましてや各リスナーの
聴力やその時の体調(疲労、睡眠不足、風邪など色々)において大き
な差があり、聴いている音も大きな差があると思われるが、それぞれ
の人がどのような音として実際に聴いているのかは、誰も全く知ること
ができない。たとえ同じ部屋で何人かで聴いたとしても、皆さん、それ
ぞれ微妙に異なって聴こえているはずである。それを知るアプローチ
の第一段階として筆者は脳波の測定を行っている。その音楽を聴く直
前と聴いている途中や聴いた直後の脳波を調べ解析するのである。
β波
28.3
α波
43.9
θ波
15.6
δ波
12.1
0
RD=1.55
2576
脳波の種類
脳波の種類
各種音楽を聴くと、脳波がどのように変化するのかを調べた結果のごく一部分を紹介する。
これらは、脳波計からの出力を、筆者独自のプログラムでグラフ化とRDの計算を行ったもの。
RDはRelaxation Degreeの略で、快適さの度合いを表し、この数値が大きいほど快適度が大。
脳波各波のパターンやRDの数値などから、各音楽のリスナーに対する影響を総合評価する。
この被験者は18歳の女子学生である。最初の3曲は、研究室にあるCDの中から、被験者の
希望で選んだ。最後の曲は、まさに現代の若者好みのもので、彼女がよく聴いているもの。
以下に示す結果の中では『ロメオとジュリエット』が脳波的には最も快適に感じた曲であった。
脳波の詳細に関しては筆者のホームページの中にある脳波の項を参照されたい。
3992
1417
1102
1000
2000
3000
4000
5000
各脳波の合計電位の比較と全体の中の比率(%)
音楽を聴く前の脳波をわかりやすくするために
自作のプログラムでグラフ化したもの
β波
28.6
α波
41.8
θ波
15.2
δ波
14.5
0
2781
4062
1474
1412
1000
RD=1.46
2000
3000
4000
各脳波の合計電位の比較と全体の中の比率(%)
アイネ・クライネ・ナハトムジーク K 525
5000
26.8
α波
42.8
θ波
15.8
δ波
14.6
0
2531
4036
1494
1379
1000
RD=1.59
脳波の種類
脳波の種類
β波
2000
3000
4000
β波
25.9
α波
43.1
θ波
16.1
δ波
14.8
0
5000
26.4
脳波の種類
脳波の種類
45.3
4118
15
θ波
1367
13.2
δ波
1000
RD=1.71
2000
3000
4000
各脳波の合計電位の比較と全体の中の比率(%)
2000
3000
4000
5000
各脳波の合計電位の比較と全体の中の比率(%)
2422
40.6
α波
3848
16.5
θ波
1561
17.4
δ波
1204
0
1384
25.5
β波
2404
α波
1504
讃美歌 ものみなこぞりて (第75番)
モーツァルト ヴァイオリン協奏曲 K 216
β波
4024
1000
RD=1.66
各脳波の合計電位の比較と全体の中の比率(%)
2419
5000
1654
0
RD=1.59
1000
2000
3000
4000
各脳波の合計電位の比較と全体の中の比率(%)
ロメオとジュリエット
RADWIMPS 君と羊と青
(被験者がバレーとの関係でよく聴いている曲)
(被験者がスマホでよく聴いている曲)
5000
要するに、究極の結論としては、ソフトもハードも、
それを聞いて脳波のRD値(α/β比)が最大のものが、
その人にとってベストなソフトであり、ベストなハードで
あると思われる。金額とかスペックとかは全く関係ない。
何しろ脳が一番快適と感じるものだからベストでしょう。
RD値ならば、客観的に数値化できるので、ごく微妙な
差まで科学的にわかり、評価に最適と考えている。
この方法を利用して、ある所から10種類近い試作品の評価を頼まれている。
現実には、各家庭にあるオーディオ装置は、千差万別で実にまちま
ちであろうし、たとえ同じソフトを再生したとしても、出ている音は大きく
異なっていることは間違いありません。
以上のように、この世の中に全く同一の再生音は全く存在しません。
なので他人が推薦しても、自宅で聴くと満足できないことも多いはずで
す。両者の再生環境が大きく異なるので、これは無理もないことです。
仮に10万枚売れたベストセラーのCDがあるとすると、同一のCDにも
かかわらず、10万通りのそれぞれ異なる音で日本(世界)中の皆さんが
聴いていると思うと、とても不思議な気がします。
家庭での再生音と生演奏の最大の違いは音量であろう。普通の家
庭では、住宅事情で生演奏のように大きな音で再生することは、近所
迷惑でやれないと思う。特に共同住宅では、もっと大変である。隣近所
から文句を言われないかと冷や冷やしながら聴いていたのでは、十分
に音楽を楽しめずダメである。しかし、試聴会では、大音量でも近所迷
惑にならない場所でやるので、一般的な家庭では不可能な生と同じよ
うに迫力ある大きな音で音楽が楽しめるので、感激しているだけかも。
以上、要するに世界中の再生音は全て異なり、全く同一の音は存在
しないということです。仮に世界中でオーディオシステムが百万セットあ
るとすれば、同じソフトを再生しても百万通りの音がしているというのは
非常に興味深いことであり、重要なことです。つまり、この領域での絶
対音・標準音というものは存在しないということです。
オーディオとは、しょせんこの程度のものであり、装置への投資は、
にして、生を聴きにウイーン、ザルツブルク、アムステルダム、
ニューヨーク、ボストンなどへ行きましょう。それが一番です。全て行っ
ウ
ィ
ー
ン
楽
友
協
会
の
外
観
の
夜
景
全そ
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金ジ
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面
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金
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、
と
に
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く
や
り
過
ぎ
く
ら
い
に
ゴ
ー
ジ
ャ
ス
そ
の
天
井
と
周
辺
の
様
子
たことがあります。目の前に生身の有名な指揮者やオーケストラがい
るので、もう最高です。オーディオと異なり、生は自分で音を調整する
部分が全くなく、音楽に没頭する以外のことはできないのもいいです。
特にヨーロッパの歴史ある有名なコンサートホールへ行ってみてくだ
さい。外観も内装も実に素晴らしいです。歴代の有名な音楽家の肖像
がずらりと飾ってあったり、重厚さなどが日本の『××文化会館』とは
全く比較になりません。こんな比較をすること自体がおかしいのかも。
シニア層しか知らないことでしょうが、子供の頃に『文化住宅』とか『文
化包丁』とか、『文化』を接頭語として付けることが流行しましたが、そ
の名残りなのか『××文化会館』という名称が特に地方・田舎に多いよ
うに思いますが、これは昔懐かしい名称です。しかも何かの催しがある
と、駐車場には『軽トラ』が何台も駐車しており、のどかでホッとします。
このような『××文化会館』は、多目的ホールで、色んなことに活用さ
れているようです。筆者は、そんな『文化会館』で講演をしたことがあり
ます。しかし、ニューヨークでは、オペラ専用とか、クラシック音楽専用
とかバレー専用とかに完全分業した各分野専用のホールがあります。
生の音楽の世界に浸っていると、たとえば聞き耳を立ててハイレゾの
サンプリング周波数や量子化ビット数の違いによる超微妙な音の差を
必死で聴き分けようとしているようなことは、実に馬鹿げていることに気
付きます。カートリッジを10個繋ぎ換えれば10種類の明確に違う音が
出ます。スピーカーでも全く同様です。とにかく再生音楽には変数が多
過ぎます。それが楽しみということもあるかと思いますが、たとえ千本
交換しても、どれも本当の生の音にはなり得ません。これらは単に音
楽の虚像をいじくり回しているだけのことであり、終わりがありません。
生の音楽の世界には、そんなややこしい変なものは全く存在しませ
ん。自分では何もできない、指揮者におまかせの純粋のただ一つの生
の音楽が存在するのみです。とにかく余計なことを考えずに、生の本
来の音楽を聴くことのみに没頭しましょう。それが一番です。レコードや
CDを千枚持っているということよりも、ヨーロッパなどの有名なコンサー
トホールへ行って生演奏を百回聴いたことがあるという方が、はるかに
価値があると思います。レコードやCDに入っている音は、元からかなり
加工されていて決して生の音ではありませんので、たとえどんなに高
価な再生装置を使っても生の音には戻せません。あきらめてください。
ハードに1千万円くらい投資すれば、きっと本稿に関する悟りを開き
ます。これは『オーディオ学』の授業料で修行だと思ってください。これ
で完璧で終点というようなハードは永遠に存在しません。それが証拠
に、同一メーカーからでも毎年新製品や改良品が次々と発売されてい
ます。これは何を意味しているのかを、わざわざ解説する必要はない
でしょう。こんなのを追っかけていたら、メーカーの思う壺で、無限の
ループを、いつまでも回り続け、いくらお金があっても足りないし、永遠
に終点がないのです。つまり何を買っても完璧に満足して、もはやこれ
以外のものを買う必要は全くないという境地に達することは絶対にあり
得ないからです。五味康祐は『最高の再生装置などこの世にない。ナ
マの演奏の音なぞ二度と再現しようはない。』などと書いています。
1億円近くする現行のレコードプレーヤーも現実に存在しており、ドイ
ツから日本に数台入っているそうです。こんなのがあることを知ってま
したか? どの世界にも上には上があるものです。Ultimate High End
Audioをやるには、並みの金持ではとても無理です。まずは、それ用の
防音が完璧な広い家が必要となります。オーケストラ用には、リスニン
グルームとして30畳くらいは必要です。ただし、こういったことを完璧に
して、ン億円もするもの凄い装置を導入しても生の音は出ません。それ
ならば、普段は5万円くらいのミニコンポで気楽に音楽を楽しみ、浮い
たお金で、ヨーロッパの音楽祭やコンサートの生の音楽を聴きに行き
まくりましょう。結局、正統派の音楽鑑賞法としては、これがベストなの
かも。オーディオは、あくまでこれの代用品です。安価な装置にも利点
があり、ソフトのアラや欠点を隠すという特別のメリットがあります。
知人の夫婦で、ウイーン・フィルのニューイヤーコンサートの特等席を
苦労してプレミア付きで確保し(1枚50万円!)、ファーストクラスの飛
行機で日本⇔ウイーン間を往復して聴きに行った、とてもリッチなのが
います。このチケットの入手は困難ですし、ファーストクラスの飛行機で
往復と、ダブルで凄いです。このように本場へ生演奏を聴きに行くのは
とても羨ましいですが、もしもほぼ同額の6百万円のアンプを買ったと
誰かが自慢げに言ったとしても、ちっとも羨ましくありません。それが
60万円のアンプの10倍も良い音がするわけでもなく、どっちみち生の
音は出ませので、 6百万円のアンプでも60万円のでも五十歩百歩な
のです。マンション住まいの人なら、60万円のアンプで十分です。単に
値段のことしか考えずに、高いほど良いと思うのは成金趣味。
ウイーンでニューイヤーコンサートを聴いて新年とは素晴らしいことで
す。筆者は、ニューヨークのヴィレッジヴァンガードで、年越し特別ジャ
ズライブを聴きながら新年を迎えるのが毎年の恒例行事になっていま
す。ヴィレッジヴァンガードの良い点は、大晦日の夜9時頃にインして、
入れ替えなしで新年を迎えて、さらにしばらく演奏があり、終わりまで居
れることです。帰ったら早朝の2時頃になります。ブルーノートなどは入
れ替え制なので、連続してずっとは居れません。ニューヨークの元旦
は、特別の行事は何もなく、この日のみ祝日で、ほとんど全ての店が
閉店しており、何もできません。ただし、元旦の夜にはレストランで恒例
の福森道華・石川政実のジャズライブがあり、聴きに行きます。このグ
ループは親友ですが、彼らの詳細は筆者のホームページの別項に書
いてありますので参照してください。ニューヨークではジャズばかりかと
思われるかもわかりませんが、そうではなく、ニューヨークフィル、オペ
ラ、カーネギーホール、バレー(年末恒例の『くるみ割り人形』)などのク
ラシック音楽も楽しみますし、ミュージカルなどへも行き、超多忙です。
いずれにしろ、皆さんお好きなように、十人十色の独自のやり方で音
楽をお楽しみください。生演奏は聴きに行かずに、ハードやソフトをたく
さん集めるとか、何をしようと各自の自由で勝手ですから。
以上が50年間オーディオを研究し続け、浪費を重ねてきた者が、た
どり着いた結論です。わずかでも参考になれば幸いです。
年越しジャズライブに行ったVILLAGE VANGUARDの外観 (ライブハウスは地下にある)
客席に回ってきた
ピアニストの
ETHAN IVERSON
入
り
口
側
舞
台
側
⇑
⇓
休憩中の客席の一部の様子 (迎春用の帽子が配布されてかぶっている)
REID ANDERSON
ETHAN IVERSON
DAVID KING
熱演中のTHE BAD PLUSの3人の演奏者 (日本でもCDが売っています)
【追加】 最後に念のために補足しておきます。
筆者は決して『再生音楽はダメで、生でないといけない。』とは言って
おりません。両者それぞれに長所・利点があり、短所・欠点もありま
す。両者の関係は、ちょっと無理がありますが、多少は絵画にたとえる
こともできます。すなわち、絵画は再生音楽、生演奏は生の景色のよう
に。絵画は生の景色と寸分違わずに描く必要など全くありません。
キュービズムのように極端にデフォルメされた絵とか点描画とか実に
様々なものがあり、それぞれ素晴らしいものです。この絵は生と違って
いてけしからんとは誰も言いません。音楽でも類似の面があり、生は
生、再生音楽は再生音楽と割り切って別世界のものだと大らかに考え
て無理にくっ付けようとしなければ、何も問題ありません。絵画と違っ
て、生と再生音楽の音が元々非常に近いのが問題で、再生音楽を生
と全く同じにしようと投資をし続け、無駄な努力をしまくることが無意味
であると言っているだけです。両者は漸近線で、何をしようと永遠に同
一にはなりません。無駄遣いは止めましょう。
生の音とは、いったいどんな音のことでしょうか。たとえ同じ指揮者で
同じオーケストラであっても、演奏するコンサートホールが違えば、もち
ろん音も違うでしょうし、実に千差万別です。なので、一概に生の音と
はこういうものだとは、とても言えません。とにかく生の音の定義も曖昧
模糊としており、それなのにそれを目指すアンプなどとはどういうことか
理解できません。レコードでもCDでも、たとえばパイプオルガン曲を聴
いてみると、実際に現場で生で聴くのとは雲泥の差があり、重厚感、迫
力、残響など、いろんな点で全く異なり生と再生音は全く違います。
楽譜が読めない、自分で楽器が演奏できない、生の本格的な演奏会
にほとんど行かない、スタインウエイとヤマハのピアノの音色の違いが
わからない、などのような場合には、資格の問題で、あまり生・生とうる
さく言わない方がベターかと思います。各ピアノの比較CDもあります。
筆者はスタインウエイの会社の展示場へも行ったこともあります。素
晴らしい装飾を施した今までどこでも見たこともない重厚で豪華なピア
ノも何台か展示されており、こんな凄いピアノがあるんだと感激しまし
た。ここは誰でも勝手に自由に入って見学できるのではなく、入り口で
名前、住所、見学の目的などを書かされますし、色々と質問されます。
なかなか入りにくい重々しい雰囲気ですが、ちょうど大学の講堂にスタ
インウエイを導入する予定があった頃でしたので、スムーズに事が運
び良かったです。そして説明してくれる係員がぴたりと常に横に付いて
回り、他には誰もおらず、ピアノの話に専念して、とても緊張する雰囲
気でした。試弾も可能です。1階が一般用で、地階はプロ用の特別の
ピアノです。特注のピアノもあります。たまに著名なピアニストも、ここ
へ来るそうです。やはり何でも素晴らしい実物を見ると、写真で見るの
とは感動が全く違います。生演奏と再生音楽の違いと同様です。本物
と虚像で、迫力に大きな差があります。
生音楽は耳で聴くのみでなく眼でも楽しみ、さらに指揮法や奏法の勉
強などもできるものです。耳と目の関与の割合は半々くらいかと思いま
す。つまり音楽ですから耳で聴くのは当然ですが、生演奏の場合は、
指揮者の指揮ぶりや演奏者の演奏ぶりを眺めて参考にするのです。さ
らにコンサートホール内部の雰囲気を見て感激するのも非常に重要で
す。一例として、目の前に本物の生身のリッカルド・ムーティが指揮す
るウィーン・フィルハーモニー管弦楽
団が演奏しているのを見ながら聴く
と、自宅で音のみのCDで聴いている
のとは迫力が全然違い、雲泥の差で
す。CDよりも少しマシなのはDVDで
す。その実例は右に示すようです。し
かし、演奏風景も眼で見れるDVDで
も、生演奏のトータル迫力には絶対
に勝てません。再生音楽の限界!
終り
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