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VOL. 28
CODEN : HIKGE3
ISSN 0916-0930
VOL.
VOL.28 2012
Printed in Japan 2012− 3(H)
28
2012
1010
10 μm
【表紙写真】
EBSD による逆極点方位マップ
0001
1 μm
2110
【補足図 A】
六方晶の結晶方位を示すカラーゲージ
【補足図 B】
フェライト磁石の SEM 組織写真
表紙写真説明
表紙写真は,電子線後方散乱回折装置(EBSD:Electron Backscatter Diffraction)
により,当社で量産中のフェライト磁石 NMF-9 シリーズを測定した逆極点方位マッ
プである。磁石材料は磁化容易軸を一方向にそろえて配向度を高めることが重要
で,EBSD による配向度評価を行うことで高磁束密度化が可能になる。 逆極点方位
マップは電子ビームで照射している点の EBSD パターンに合致する結晶方位を割
り出して試料の配置を基準にしてステレオ投影座標上に表示したカラーゲージで
示したものを多数の解析点についてマップにしたもので,方位が同じひとつながり
の結晶は同じ色で描画される。表紙写真の色合いは[補足図A]で示すカラーゲー
ジに基づいている。[補足図A]は逆極点図の各頂点に赤青緑3色のカラーコード
を配置し,測定点の方位をその混色を用いて表している。磁化容易軸である[0001]
配向の主相粒子が赤色を示している。表紙写真の逆極点方位マップはプレス時の磁
場方向に対し垂直断面を解析したもので,ほぼ赤色系の色調であることから,優れ
た配向性を有することが見て取れる。
一方,[補足図B]は走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)
による反射電子像写真である。結晶方位は確認できないが,結晶方位の違いにより
表れるチャンネリングコントラストにより粒径が確認できる。これら EBSD と
SEM を併用した評価技術が確立されたことで,磁石材料の高性能化が期待できる。
フェライト磁石は鉄を主成分とする六方晶系の結晶構造を有する酸化物ハード
磁性材料で,永久磁石としての生産重量は希土類磁石と比較して圧倒的に多く,日
常生活のあらゆる部分に浸透している。加藤与五郎と武井武によって発明された
OP 磁石から発展した約 60 年の歴史を持つ材料であり,発明初期から多くの研究
がなされてきたが,材料科学的な面では十分に理解が進んでいない部分がある。特
に,従来の解析技術では不充分であったナノメートルオーダーでの材料組織解析や
組織生成過程の理解は,近年の解析手段の目覚ましい発展により,ようやく緒につ
いた段階である。歴史の長い材料であるが材料の改善は少しずつ進んでおり,磁気
特性が向上してきている。日立金属は新しく獲得した知見に基づいてさらに高性能
なフェライト磁石材料を開発し,フェライト磁石を利用する産業分野の発展に貢献
していきたいと考えている。
日立金属技報 V o l . 2 8
発 行 日
発 行 元
発 行 人
編 集
2012 年 3 月
日立金属株式会社
〒 105-8614 東京都港区芝浦一丁目 2 番 1 号(シーバンス N 館)
電話(03)5765 − 4000(ダイヤルイン案内) 0800 − 500 − 5055(フリーコール)
E-mail:[email protected]
中西 寛紀
日立金属株式会社 開発センター 株式会社 東京映画社
本誌の内容は,ホームページにも掲載されております。 http://www.hitachi-metals.co.jp/rad/rad02.html
禁無断転載
VOL.
28 2012
®は当社の登録商標です。
本文中に記載のデータ,グラフおよび実験結果の記述は,特に明示しないかぎり製品の規格値や保証値ではありません。
目次
VOL.
28
2012
■ 巻頭言
6
『見えないものを観る』から『作れないものを創る』へ ─ 計算材料科学の進む道 ─ ………………… 6
北海道大学 大学院工学研究院 材料科学部門 北海道大学 数学連携研究センター 毛利 哲雄
■ 論 文
8 ∼ 55
Dy 拡散磁石を使用したモーターの設計手法と適用効果 ……………………………………………………… 8
棗田 充俊
Nd-Fe-B/Ta 多層永久磁石薄膜の特徴と磁気デバイスへの応用 ……………………………………………
14
上原 稔・進士 忠彦
二相混合組織を有する球状黒鉛鋳鉄材の共析変態メカニズム ……………………………………………
20
王 麟・川畑 将秀
適用上限温度を拡大した液体材料気化器 ……………………………………………………………………
26
佐々木 章
半導体プロセス用 PI マスフローコントローラのアルゴリズム ……………………………………………
30
Arun Nagarajan・Alexei Smirnov
有限要素法解析および実験によるスマートダイア工法の耐力評価 ………………………………………
36
高橋 秀明・新飯田 匠・伊藤 倫夫・田中 秀宣
PC パーマロイの初透磁率に及ぼす化学成分の影響 …………………………………………………………
42
藤原 義行・横山 紳一郎・長塩 隆之
無段変速機(CVT)用金属ベルト用マルエージング鋼の TiN 微細化 ……………………………………
46
岸上 一郎・稲葉 栄吉・菅 洋一
連続溶融めっき鋼板製造ライン用大型セラミックスロールの実用化評価 ………………………………
50
小川 衛介・清水 健一郎・濱吉 繁幸・熊谷 則雄・大坪 靖彦・野田 尚昭・高瀬 康・
岸 和司・菖蒲 一久・田原 竜夫・前田 英司・古賀 慎一・松田 泰三
■ 新製品紹介
4
56 ∼ 67
高効率変圧器用高 Bs アモルファス金属 ………………………………………………………………………
3.5GHz 帯 WiMAX/TD-LTE 対応フロントエンドモジュール …………………………………………………
内蔵型 FM ラジオ用アンテナ ……………………………………………………………………………………
温水パネル ………………………………………………………………………………………………………
原子力発電用 CRD ハウジング材 ………………………………………………………………………………
固体酸化物形燃料電池用インターコネクタ材 ………………………………………………………………
CIGS 型太陽電池用スパッタリングターゲット材 ……………………………………………………………
プレス金型,チタン合金加工用ラフィングエンドミル ……………………………………………………
ビビリ振動抑制防振工具 ………………………………………………………………………………………
高硬度鋼用超硬ねじ切りカッター ……………………………………………………………………………
傾斜穴あけ加工用超硬ドリル …………………………………………………………………………………
ステンレス加工用エンドミル …………………………………………………………………………………
56
57
58
59
60
61
62
63
64
65
66
67
■ 日立金属グループ 主な営業品目 …………………………………………………………………………………
■ 日立金属グループ 2011 年 主な技術受賞 ………………………………………………………………………
68
70
日立金属技報 Vol. 28(2012)
INDEX
VOL.
28
2012
■ Foreword
6
From“Seeing the Not Seeable”to“Creating the Not Manufacturable”
─ The Future of Computational Materials Science ─ ……………………………………………………… 6
Tetsuo Mohri
Division of Materials Science and Engineering, Faculty of Engineering, Hokkaido University
Research Center for Integrative Mathematics, Hokkaido University
■ Articles
8 ∼ 55
Motor Design Method Using Dy Diffused Magnets and Effect of its Application ……………………………………… 8
Mitsutoshi Natsumeda
Characteristics of Nd-Fe-B/Ta Multilayered Permanent Magnet Thin-films and Their Application to Magnetic Devices ………
14
Minoru Uehara • Tadahiko Shinshi
Mechanism of Eutectoid Transformation of Ductile Iron with Ferrite-Pearlite Duplex Structure ……………………
20
Lin Wang • Masahide Kawabata
Vaporizer with Higher Applicable Temperature ……………………………………………………………………
26
Akira Sasaki
Algorithms of Latest Pressure Insensitive Mass Flow Controller (PIMFC) for Semiconductor ……………………
30
Arun Nagarajan • Alexei Smirnov
Flexural Strength Analysis of“Smart Dia”Using the Finite Element Method and Experimentation ………………
36
Hideaki Takahashi • Takumi Niida • Michio Itoh • Hidenori Tanaka
Effect of Chemical Composition on Initial Permeability of PC Permalloy …………………………………………
42
Yoshiyuki Fujihara • Shin-ichiro Yokoyama • Takayuki Nagashio
Reducing TiN Size in Maraging Steel for CVT (Continuously Variable Transmission) ……………………………
46
Ichiro Kishigami • Eikichi Inaba • Yoichi Kan
Practical Evaluation of Large Ceramic Rolls for Continuous Hot Dipping Steel Sheet Production Line ……………
50
Eisuke Ogawa • Kenichiro Shimizu • Shigeyuki Hamayoshi • Norio Kumagai • Yasuhiko Ohtsubo • Nao-Aki Noda • Yasushi Takase •
Kazushi Kishi • Kazuhisa Shobu • Tatsuo Tabaru • Eishi Maeda • Shinichi Koga • Taizou Matsuda
■ New Products Guide
56 ∼ 67
High Bs Amorphous Metal for Energy Efficient Transformers ………………………………………………
Front-End Module for 3.5GHz Band WiMAX/TD-LTE ………………………………………………………
Surface Mount Type Antenna for FM-Radio …………………………………………………………………
Hot Water Panel for Snow Melting System ……………………………………………………………………
Control-Rod-Drive Housing Material for Nuclear Power Generation ………………………………………
Alloy for SOFC Interconnects …………………………………………………………………………………
Sputtering Target Material for CIGS Solar Cell ………………………………………………………………
Indexable Roughing End Mill for Press Mold and Titanium Alloy …………………………………………
Suppressed Chatter Vibration Arbor …………………………………………………………………………
Carbide Threading Cutter for Hard Material …………………………………………………………………
Carbide Drill for Plunge Boring on Sloped Surfaces …………………………………………………………
End Mill for Stainless Steel ……………………………………………………………………………………
56
57
58
59
60
61
62
63
64
65
66
67
■ Products of Hitachi Metals Group ………………………………………………………………………………
■ Technical Awards 2011 ……………………………………………………………………………………………
68
70
日立金属技報 Vol. 28(2012)
5
巻頭言
『見えないものを観る』から
『作れないものを創る』へ
─ 計算材料科学の進む道 ─
北海道大学 大学院工学研究院 材料科学部門
北海道大学 数学連携研究センター
毛利 哲雄
平成23年6月20日,ドイツのハンブルグで開催さ
を代表機関とし,物性科学,分子科学,そして材
れたI S C’11(国際スーパーコンピューティング会
料科学の計算研究に従事する者がAll Japanの態勢
議2011)において,日本の次世代スパコン「京」
で携わっている。それぞれの拠点は,物性科学が
がピーク性能8.774ペタフロップスをマークして,
東大物性研究所,分子科学は岡崎の分子科学研究
堂々世界第一位に輝いた。久しぶりに日本の科学
所,そして材料科学は東北大学金属材料研究所で
技術の高さを示したものとして大きく報道された
ある。私は材料科学の研究拠点長を仰せつかり,
ことを覚えておられる人も多いと思う。これは目
計算材料科学分野の取りまとめに当たってきたが,
標とするピーク性能の未だ8割程度であるので,完
これまで物性科学や分子科学の人達との分野の垣
成時には10ペタフロップス以上での稼動が見込ま
根を越えた交流の中から多くのことを学ぶととも
れている。
に,学問の発展形態の違いがもたらす他の2分野と
「京」は「X線自由電子レーザー」等と同じく,
の大きな違いにも直面してきた。これまでに私が
共用法等の法整備の下,国家基幹技術として開発
感じている計算材料科学の問題点と今後の展望を
が進められてきているが,ハードウェアのみなら
以下に記そう。
ず,これと並行して「京」を用いる計算科学の研
計算物理学や計算化学には,それぞれのバック
究プロジェクトが進行している。パブリックコメ
ボーンに物性論,理論化学という理論分野が確立
ントの招請などの準備段階を経て,平成21年にプ
されており,理論の具体化の手段,あるいは理論
ロジェクトの公募が行われ,平成22年の1月に5つ
と実験をつなぐ interfaceとして計算が認知されて
のプロジェクトが採択・公表された。これら5つの
いるのに対して,材料科学では,もとより理論材
プロジェクトには「戦略分野」という名称が付け
料科学などというものは存在しておらず,したが
られており,第1から第5までの戦略分野は「予測
って,材料科学の計算には理論を実証・検証する
する生命科学・医療および創薬基盤」,「新物質・
というような動機は希薄である。材料科学にあっ
エネルギー創成」,「防災・減災に資する地球変動
て計算は理論の具現化ではなく,実験の補足・補
予測」,「次世代ものづくり」,そして「物質と宇宙
填という側面が強い。また,材料科学に用いられ
の起源と構造」である。特に材料科学・工学の分
ている計算手法の多くは現象論的な手法であり,
野に近いのが第2戦略分野の「新物質・エネルギ
結果は実験との比較には使えても実験との矛盾を
ー創成」であるが,この分野は“基礎科学の源流
f e e d b a c kすべき背後の原理原則は亡羊としてい
から物質機能とエネルギー変換を操る奔流へ”と
る。水平方向への汎用性はあっても,垂直方向へ
いう壮大な戦略目標を掲げ,東京大学物性研究所
の深度がない。理論に源を発する現象論的計算は,
6
日立金属技報 Vol. 28(2012)
自発的に第一原理計算へと発展するが,実験に付
のスケール域(メソスケール)に内部組織が存在
随する現象論的計算は往々にして定位置にとどま
するからである。さらに,内部組織を構成する個々
る。残念ながら,材料科学における計算にはこの
の相の特性や挙動を把握しても,これらの複合則
ような側面が強いように思われる。これが学問と
でマクロ挙動を予測できないのは,バルクの挙動
しての計算材料科学がなかなか確立しえない理由
に相界面の存在が大きな役割を果たすからである。
であろう。
私は,物性や分子の計算が,「何故か」を明らか
また,計算物理学や計算化学における典型的な問
にするためにマクロからミクロに向かって素因子を
題では,取り扱う原子,分子,粒子数を増やすこと
analysisすることに本質があるとするなら,材料の
で新たな集団特性を明らかにすることができ,時間
計算は逆に,ミクロな素因子やメソスケールの支配
ステップ,空間ステップをさらに細分化することで
因子(内部組織)を組み合わせることで,これまで
計算精度を上げ,時空の計算領域を広げることで,
に見逃されてきた特性をs y n t h e s i sすることに進む
これまでにわからなかった長時間挙動・広域挙動を
べき道を求めるべきではないかと考えている。組成,
明らかにすることができるというように,計算の大
原子配列といった自由度には数多の組み合わせがあ
規模化をわかりやすい形で提示する。ましてペタフ
る。これらによって形成される相の集積の仕方にも,
-15
秒
大きさ,形状(板状,針状等),分散状態に応じて
程度の時定数を持つ現象の長時間挙動をcomfortable
数多の可能性がある。こうした無限の自由度の中か
にシミュレートできるため,通常の実験では観察・
ら自然が選択しているのはエネルギーの最も低い状
観測できないような現象が計算機上に実現され,さら
態,あるいはkinetic pathに拘束された状態であり,
には可視化される。標語的にいえば,「見えないも
我々はそのような状態を材料特性として測定してい
のを観る」ことができる。こうして,計算量の変化
る。もし,これら以外の状態を創出することができ
が結果の質に変化を生み,学問に新しい知見をもた
れば,我々はよりよい特性を持つものを見出すこと
らす。このような物性科学や分子科学における大規
ができるかも知れない。もちろん,そこでは「安定
模計算の意義は極めてわかりやすい。しかし,この
性」を考慮する必要がある。したがって,安定性(エ
類の課題を材料科学に求めると,畢竟,それらは物
ネルギー)と特性の二元軸の中に,素因子と支配因
性・分子の問題に収斂するものであり,これら2分
子の無限の組み合わせを紡ぎ,新たな特性,材料の
野と峻別した計算を行うためには,取り扱う系のス
探索をする・・・これが計算材料科学の進むべき一
ケールアップや,ステップの細分化だけではない別
つの方向ではなかろうか?それは,「見えないもの
の視点が必要である。
を観る」理学の視点ではなく,
「作れないものを創る」
材料の強度特性に顕著にみられるように,材料
工学の視点を標榜するものである。系のスケールア
科学の中核に存在する問題は極めて非線形性が強
ップや,ステップの細分化ではなく,集積自由度(組
く,非平衡状態にあり,さらに,多くの場合,非
み合わせ自由度)の大規模計算である。
一様であることが本質であり,それ故に局所的な
かかるアプローチは p u r e a c a d e m i s mのみによ
現象が全体を支配していくという,真に難しい問
って駆動されるものではない。特に材料科学のよう
題である。これは,材料現象がミクロからマクロ
に実験科学であることに本質があり,そして,その
のマルチスケールにわたる多様な非線形性の鎖の
背後に多種多様広大な産業を有している学問分野に
中で生じているからである。この中心にあるのが
あっては,これらの手法,これらに従事している人
内部組織である。例えば,電子分布や原子間結合
達なくして計算材料科学は成り立たない。材料開発
力といったミクロな特性にマクロな強度の完全な
の現場からの,そして,現場へのf e e d b a c kが何よ
因果を求めることができないのは,これらの中間
りも大切と思われる。
ロップスの速度を有する「京」にあっては,10
日立金属技報 Vol. 28(2012)
7
Dy 拡散磁石を使用したモーターの設計手法と適用効果
Motor Design Method Using Dy Diffused Magnets and Effect of its Application
棗田 充俊*
Mitsutoshi Natsumeda
Dy 拡散磁石(DD Magic )は,従来材より Dy を削減しつつ高特性化を実現した Nd-Fe-B 焼結
磁石である。これをモーターに使用する場合,磁石内部に保磁力分布を持つため従来の減磁解析手
法ではモーターの減磁耐熱性の設計を行うことができない。そこで,Dy 拡散磁石を使用したモーター
の減磁解析手法を開発し,実測結果と比較することで本解析手法の有用性を示した。さらに,Dy
拡散磁石を使用した SPM モーターの設計を行い,Dy 拡散は磁石全面より行うことが最も減磁耐熱
性向上効果が高いこと,また,通常材を使用したモーターと同等のトルクおよび減磁耐熱性を有す
るモーターを設計した場合,磁石重量の削減または効率向上効果が得られることを示した。
Dy diffused magnets (DD Magic ) are high performance Nd-Fe-B sintered magnets with
low Dy, and are expected to reduce motor size and cost such as for hybrid vehicles and air
conditioner compressors. However, it is difficult to estimate the demagnetization property
for a motor with Dy diffused magnets precisely because of the graded coercive force
distribution from the surface to the inside of the magnet. Therefore, we have developed a
demagnetization analysis method for Dy diffused magnets and confirmed the accuracy of
this method by comparing it with the measurement results. We designed a SPM motor with
Dy diffused magnets and demonstrated that the demagnetization heat resistance effect is
the highest when Dy diffusion for all surfaces is conducted. Furthermore, it was also
verified that the magnet weight can be reduced or the motor efficiency improved using Dy
diffused magnets for motors design with the same torque and demagnetization heat
resistance as motors using conventional materials.
● Key
Word:Nd-Fe-B 焼結磁石,Dy 拡散,減磁解析
Code:Nd-Fe-B sintered magnet
● Production
● R&D
Stage:Mass-production
磁石の減磁解析手法を開発し実測値と解析値を比較するこ
1. 緒 言
とで本手法の有用性を確認し,さらに,モーターに適した
高いエネルギー積を有するNd-Fe-B焼結磁石は,
モーター
Dy拡散方法および適用効果について検討を行ったので報告
の出力密度を向上させることができるため電装用途を中
する。
心に多く使われており,今後もさらなる需要の増加が予測
される。Nd-Fe-B焼結磁石の減磁耐熱性を向上させるた
2. Dy 拡散磁石
めに添加されている重希土類元素Dyは希少元素であり,
Nd-Fe-B焼結磁石は,高特性化と同時にDy使用量の削減が
Nd-Fe-B焼結磁石における保磁力の発現は主相外郭部で
強く求められている。そこで,これらの課題を解決すべく
決定することが知られている。Dy拡散磁石は,Ndより異
Dy拡散磁石が開発された1),2)。Dy拡散磁石は,残留磁束
方性磁界H Aの大きいDyを焼結体表面から拡散により粒界
密度を低下させることなく保磁力を向上させるとともに,
に導入することにより,残留磁束密度を低下させることな
Dyの使用量も削減した永久磁石材料である。Dy拡散磁石
く保磁力を向上させた永久磁石材料である1),2)。
は焼結体表面から内部へDyを拡散させて保磁力を増加させ
図 1 にDy拡散磁石のEPMA(Electron Probe Micro
るため,磁石内部に保磁力分布を持つ。このため,従来の
Analyzer:電子線マイクロアナライザー)像を示す。図
保磁力が均一な永久磁石の減磁解析手法3),4) では減磁特
中の明るく見える部分がDy濃縮部であり,主相外郭部に
性を正確に求めることはできない。
Dyが選択的に導入されていることが確認できる。現行の量
そこで本稿では,Dy拡散磁石を使用したモーターの減磁
産材料の磁石特性とDy拡散磁石の特性マップを図 2 に示
解析を行うことを目的として,保磁力分布を有する永久
す。Dy拡散磁石は残留磁束密度を低下させることなく保磁
*
8
日立金属株式会社 NEOMAX カンパニー
日立金属技報 Vol. 28(2012)
*
NEOMAX Company, Hitachi Metals, Ltd.
⊿
CJ
(kA/m)
Dy 拡散磁石を使用したモーターの設計手法と適用効果
800
600
400
200
0
Enriching part of Dy
2
4
6
8
10
Distance from Dy diffused surface δ(mm)
図 3 磁石表面からの距離δに対する保磁力増加量⊿
Fig. 3 δ - ⊿ CJ characteristic
1.50
(kA/m)
図 1 Dy 拡散磁石の EPMA 像
Fig. 1 EPMA Image of Dy diffused magnet
after Dy diffusion
1.45
CJ
Dy diffused magnet
⊿
Br(T)
1.40
特性
800
600
400
200
1.35
0
base magnet
1.30
CJ
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
Amount of Dy diffusion (p.u.)
1.25
1.20
before Dy diffusion
(Conventional)
1.15
500
1,000
1,500
図 4 Dy 導入量に対する保磁力増加量⊿ CJ 特性
Fig. 4 Amount of Dy diffusion − ⊿ CJ characteristic
2,000
2,500
3,000
図 2 Dy 拡散磁石の磁石特性マップ
Fig. 2 Magnetic properties of Dy diffused magnet
力を向上できるので,従来材の特性マップが高保磁力側へ
シフトする形になる。同じ保磁力の材料を比べた場合,Dy
Amount of Dy
diffusion (p.u.)
CJ (kA/m)
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
拡散磁石は従来材より残留磁束密度が高くなることより,
2
4
6
8
10
Distance from Dy diffused surface δ (mm)
0
Dy拡散母材のDy量を削減することができる。つまり,Dy
拡散技術は高性能化技術であると同時に省Dy技術である。
Dyは焼結磁石の表面より導入されるため,磁石表面から
図 5 磁石表面からの距離δに対する Dy 導入量特性
Fig. 5 δ - Amount of Dy diffusion characteristic
の距離に対してDyが濃度分布を持つことになる。したがっ
て,Dy拡散磁石には磁石表面からの距離に対して保磁力分
らの距離δに対するDy導入量特性(以下,δ - Dy導入量
特性)をδ- ⊿
た従来の減磁解析手法3),4) では減磁解析を行うことがで
ノイマン境界条件を用いて磁石内部のDy導入量分布を求め
きない。そこで,Dy拡散磁石の減磁解析を行うには,保磁
ることとした。
力分布をモデル化する手法と保磁力分布を考慮した減磁解
ノイマン境界条件を用いた拡散モデルの模式図を図 6 に
析手法が必要となる。
示す。δ - Dy導入量特性をDy拡散面とDy拡散面と対抗す
3. Dy 拡散磁石の減磁解析手法
3. 1 保磁力分布のモデル化
D y拡散を行ったときの磁石表面からの距離δに対する
⊿
CJ(以下,δ-⊿
る保磁力増加量⊿
に示す。δ-⊿
CJ特性)を図
3 に,Dy導入量に対す
(以下,Dy導入量 -⊿
CJ
を図
CJ特性)
4
CJ特性より,焼結体表面よりDyが拡散によ
り導入されるため,表面部の⊿
CJが大きく深層部の⊿
が低くなることがわかる。また,Dy導入量 - ⊿
CJ
CJ特性か
らは,⊿
CJはDy導入量に対して非線形性を持つため磁石
内部の⊿
CJ分布を求めるにはDy導入量分布を求めなけれ
ばならないことがわかる。そこで,図 5 に示す磁石表面か
Amount of Dy diffusion (p.u.)
布が存在するため,均一保磁力材料を対象として開発され
0
CJ特性とDy導入量 - ⊿
Distribution of
amount of
Dy diffusion
CJ特性から求め,
Neumann
boundary
δ- Amount of
Dy diffusion
Magnet length
δ(mm)
図 6 ノイマン境界条件を用いた拡散モデル
Fig. 6 Diffusion model using Neumann boundary condition
日立金属技報 Vol. 28(2012)
9
る面の距離(ノイマン境界面)で折り返し積算することで
3. 2 Dy 拡散磁石の減磁解析手法
磁石厚み間のDy導入量分布を求めることができる。これを
モーターの減磁解析は,無負荷時のパーミアンス係数と
すべてのDy拡散面に対して行い積算することで磁石内部の
印加される反磁界をパラメータとして減磁評価温度で減磁
Dy導入量分布が求められ,Dy導入量 -⊿
した後の磁石特性を作図により求める手法とした。減磁後
Dy導入量を⊿
CJに変換すると⊿
CJ特性を用いて
CJ分布がモデル化でき,
保磁力の絶対値分布は拡散母材の保磁力に⊿
CJを足すこ
の磁石特性算出方法を図 9 に示す。図 9 は100 ℃で減磁し
た後の常温(20 ℃)での磁石特性を求めた模式図である。
とで求めることができる。
J- Hカーブ上で無負荷時のパーミアンス係数がライン i で
磁石厚みが薄くノイマン境界条件が必要なサンプルにDy
あるとすると,20 ℃での動作点は点Aとなり,反磁界Hex
拡散を行い,⊿
が印加されるとラインi は反磁界の大きさだけ平行移動し
CJ分布の計算と実測を比較し拡散モデル
の検証を行った結果を示す。対象サンプルを図 7 に,磁石
ラインiiになる。このときの20 ℃での動作点は点Bとなり,
CJ分布を比
温度が 100 ℃になると動作点は点Cとなる。このとき,動
較した結果を図 8 に示す。ここで,Dy拡散は図 7 に示す
作点Cは100 ℃のJ- Hカーブのクニック点(偏曲点)より下
5面より行った。比較結果より,⊿
CJの計算値と実測値は
にあるため減磁が発生する。100 ℃で減磁が発生したとき
よく一致し,開発した保磁力分布モデル化手法で精度良く
の等価的なJ- Hカーブはカーブ①(太点線)となり,減磁
⊿
後に 20 ℃に戻したときのJ- Hカーブは,カーブ①を残留磁
中央部および端部位置における厚み方向の⊿
CJ分布を求められることが確認できた。
束密度および保磁力の温度係数で戻したカーブ②(太実線)
となる。
TP cutting position
(edge)
Dy diffused
surface
(side)
Dy diffused
surface
(side)
②
48
20 ℃
J
A
B
2
2.5
i(Pc+1 at no-load)
ii
C
Temp. coefficient
α(%/℃)
TP cutting position
(center)
①
100 ℃
H
32.5
Dy diffused
surface
(upper)
Temp. coefficient
β(%/℃)
Hex
図 9 減磁後の磁石特性算出方法
Fig. 9 Calculation method of magnetic characteristic after
demagnetization
(単位:mm)
図 7 Dy 拡散モデルの検証モデル
Fig. 7 Evaluation model for proposed diffusion model
保磁力の温度係数は,図10に示すように保磁力の絶対値
に依存する。Dy拡散磁石は保磁力分布を持つため,磁石各
部位における保磁力の温度係数も分布を持つことになる。
そこで,本解析手法では図10に示す特性を二次近似し,近
Calculated
似式より保磁力に対する保磁力の温度係数を求め減磁解析
Measured
200
0
0
0.0
1.0
2.0
Distance from upper
surface(mm)
0.0
1.0
2.0
Distance from upper
surface(mm)
0.0
(%/℃)
200
⊿
⊿
(b)
400
CJ
400
600
CJ
(a)
Temp. coefficient of
(kA/m)
600
CJ
(kA/m)
を行った。
Measured
−0.2
Approximation
−0.4
−0.6
−0.8
0
1,000
CJ
図 8 ⊿ CJ 分布の比較
Fig. 8 Comparison of ⊿ CJ distributions
(a) center position (b) edge position
10
日立金属技報 Vol. 28(2012)
2,000
3,000
(kA/m)
図 10 保磁力と保磁力の温度係数
Fig. 10 Relationship between CJ and Temp. coefficient
Dy 拡散磁石を使用したモーターの設計手法と適用効果
4. モーターモデルでの解析精度の検証
本解析手法でDy拡散磁石を使用したモーターの減磁特性を
精度良く解析できることが確認できた。
4. 1 モーター減磁評価装置
モーター減磁評価装置を図11に示す。モーターの減磁評
価を行うためには,磁石温度の管理を正確に行う必要があ
る。そこで,供試モーターのみを恒温槽に入れてモーター
を駆動させ減磁評価を行う装置を製作した。
(a)Appearance
表1 解析精度検証用 SPM モーター諸元
Table 1 Specifications of SPM motor for verification of analysis
accuracy
Magnet
(Base)
Remanence Br
(T)
1.46
Coercivity
(kA/m)
901
(b)Interior of thermostatic
chamber
Material of rotor core
50A1300
Material of stator core
50A1300
Material of shaft
S45C
Sample motor
Load motor
Number of turns
Coil
winding
Encorder
CJ
(turn/coil)
119
3 phase-Y
3 series
Connection
Operating
condition
Torque meter
Speed
(min−1)
Current(RMS)
(A)
1,000
3
(Sinusoidal
waveform)
Current phase angle β(deg.)
0
Thermostatic chamber
(kA/m)
800
600
CJ
4. 2 実機モーターでの解析精度の検証
1000
400
⊿
図 11 モーター減磁評価装置
Fig. 11 Equipment for evaluation of motor demagnetization
(a) appearance (b) Interior of thermostatic chamber
200
6極9スロットの解析精度検証用SPM(Surface Perma-
0
0
nent Magnet:表面磁石型)モーターモデルを図12に,
モー
2
4
6
8
10
Distance from Dy diffused surface δ(mm)
ター諸元を表 1 に示す。ここで,Dy拡散母材には残留磁
束密度Brが1.46(T)
,保磁力
(kA/m)のNd-Fe-B
CJが901
焼結磁石を用い,Dy拡散は内径R面を除く5面から行った。
Dy拡散のδ- ⊿
図 13 磁石表面からの距離δに対する保磁力増加量⊿
Fig. 13 δ - ⊿ CJ characteristic
CJ
特性
CJ特性を図13に,図14に計算で求めた⊿
CJ分布図を示す。⊿
CJ分布より,Dyを導入した面の表
面の保磁力増加量が大きく,また複数面よりDyが導入され
る磁石コーナー部の保磁力増加量が大きいことが確認でき
る。解析精度検証用SPMモーターの減磁特性を解析し,実
測と比較した結果を図15に示す。ここで,減磁率は減磁評
価温度での駆動前後における常温のトルク減少率とした。
0
200
400
600
800
1,000 (kA/m)
図15より,モーター減磁特性の解析と実測はよく一致し,
30
90
.5
12
φ
R9
5
2.7
φ29
.5
Damagnetizaion rate (%)
図 14 保磁力増加量⊿ CJ 分布
Fig. 14 Distribution of ⊿ CJ
0
−2
−4
−6
Base magnet(Calculated)
Dy diffused magnet
(Calculated)
Base magnet(Measured)
Dy diffused magnet(Measured)
−8
−10
−12
−14
−16
0
50
100
150
Evaluation temp. (℃)
(単位:mm)
図 12 解析精度検証用 SPM モーター
Fig. 12 SPM motor for verification of analysis accuracy
図 15 解析精度検証用 SPM モーターの減磁特性比較
Fig. 15 Comparison of demagnetization characteristics of SPM
motor for verification of analysis accuracy
日立金属技報 Vol. 28(2012) 11
5. 最適な Dy 拡散方法と Dy 拡散磁石の適用効果
5. 1 Dy 拡散面および Dy 拡散母材の選定
Dy拡散面の選択を変えた時のモーター減磁特性を比較し
モーターを設計対象として,最適なDy拡散磁石の使用方
た。Dy拡散面の比較は,
弦方向端部,
弦方向端面+外径R面,
法と適用効果について検討を行った。設計対象とした8極
全面の3種類で行った。Dy拡散面を変えた時のモーター減
12スロットのSPMモーターを図16に,設計諸元を表 2 に
磁特性を図17に,保磁力増加量分布および 2%減磁時の
示す。通常材と同等な減磁耐熱性を有するモーターをDy拡
Br減少率分布を表 3 に示す。モーター減磁耐熱性を比較し
散磁石で設計し,通常材を使用したモーターと比較するこ
た結果より,Dy拡散を行わない通常材において減磁が発生
とでDy拡散磁石を適用した場合の効果について検討を行っ
する弦方向端部にのみDy拡散を行った場合では,モーター
た。なお,Dy拡散を行わない通常材の磁石特性はBrが1.305
の減磁耐熱性の向上効果が少なく,全面からDy拡散を行っ
(T)
,
CJが 1, 671(kA/m)である。なお,今回は
2 次元
た場合に最もモーター減磁耐熱性向上効果が高いことがわ
磁界解析で設計を行ったため,軸方向端面からのDy拡散に
かった。
よる保磁力増加効果は考慮していない。
また,2%減磁時のBr減少率分布より,Brが 減少する部
位はDy拡散面の選択により異なり,反磁界が印加され保磁
.1
力増加量が少ない部位のBrが減少していることが確認で
R8
3
き,
Dy拡散が最も減磁耐熱性向上効果が高いことがわかる。
φ8
減磁耐熱性向上効果が最も高い全面拡散で設計した場
0
合,D y拡散母材の磁石特性をB rが 1.3 6 0(T),
11
32
.9
C Jが
1,273(kA/m)とすることで通常材と同等以上のモーター
減磁特性が得られ,通常材と比べBrを4.2%向上させること
ができ,これによりモータートルクも4.2%増加させること
ができた。
φ
33
Conventional magnet Br=1.305(T)
Base magnet of Dy diffusion
(単位:mm)
Dy diffusion from side edge
図 16 設計検討 SPM モーター
Fig. 16 SPM motor for design evaluation
(mm)
80
Rated
SPEC
Current density
(A/mm2)
10
Torque
(Nm)
Speed
(min−1)
Current density
(A/mm2)
Demag.
SPEC
Temperature
(℃)
140
Reduction rate of rated torque
at 20 ℃
(%)
≦1
2
1,000
Demagnetization rate(%)
Dy diffusion from all surface
表 2 設計検討 SPM モーターの設計諸元
Table 2 Specification of SPM motor for design evaluation
Outer φ
Br=1.360(T)
Dy diffusion from side edge and outer R
0
−2
−4
−6
−8
−10
30
80
100
120
140
160
180
Evaluation temp.(℃)
図 17 設計検討 SPM モーターの Dy 拡散面の違いによる減磁特性比較
Fig. 17 Comparison of demagnetization characteristics of SPM
motor for design evaluation
表 3 設計検討 SPM モーターの⊿ CJ 分布と Br 減少率分布
Table 3 Distributions of ⊿ CJ and Br reduction rate of SPM motor for design evaluation
⊿
0
Conventional
magnet
Br=1.305(T)
Base magnet of
Dy diffusion
Br=1.360(T)
−
−
(159 ℃)
(123 ℃)
Dy diffused magnet Br=1.360(T)
Dy diffusion from
side edge
Dy diffusion from
side edge and outer R
Dy diffusion from
all surfaces
(130 ℃)
(144 ℃)
(162 ℃)
CJ
1.0(p.u.)
Br reduction rate
at 2 % demagnetization
0
25 (%)
( ):temp. at 2 % demagnetization
12
日立金属技報 Vol. 28(2012)
Dy 拡散磁石を使用したモーターの設計手法と適用効果
5. 2 Dy 拡散磁石の適用効果
6. 結 言
通常材を使用したモーターと同一寸法および駆動条件で
は,Dy拡散磁石を使用すると4.2%トルクが増加したため,
保磁力分布を持つDy拡散磁石を使用したモーターの減磁
軸長の削減 ,または軸長の変更を行わず電流密度の削減を
解析を行う手法として,保磁力分布をDy導入量分布に注目
行い,通常材を使用したモーターとトルクを合わせた条件
してモデル化する手法と,保磁力の温度係数分布を考慮し
でDy拡散磁石を使用した場合の効果について検討を行っ
た減磁解析手法を開発した。本解析手法を解析精度検証用
た。
SPMモーターに適用し解析値と実測値を比較した結果,解
軸長を削減する場合,軸長はトルク増加率相当を削減で
析値と実測値はよく一致し,本解析手法が有用であること
き,今回の場合の 4.2%軸長を短くでき,使用磁石重量も
を確認した。
4.2%削減できた。
また,通常材と同等な減磁耐熱性を有するモーターをDy
軸長の変更を行わず電流密度を下げる場合,電流密度は
拡散磁石で設計検討した結果より,Dy拡散を行う面の選択
5%削減することができた。定格条件でのモーター損失を
で減磁耐熱性が大きく異なることがわかった。Dy拡散によ
図18に示す。定格条件でのモーター損失計算結果より,銅損
り保磁力を増加させる領域は,通常材で減磁によりBrが
が大幅に削減できていることが確認でき,その結果,定格
減少する箇所だけでは減磁耐熱性向上効果は少なく,磁石
点でのモーター効率は通常材 81.6%だったものがDy拡散磁
全体の保磁力を上げるように全周よりDy拡散を行うことが
石では 82.8%となり,モーター効率を1.2%向上することが
最も減磁耐熱性を向上させる効果が高いことがわかった。
できた。
つまり,最終形状に磁石を加工した後に全面よりDy拡散を
行うことが最もモーターに適したDy拡散方法であるといえ
70
Loss(W)
60
る。
Iron loss
Copper loss
さらに,通常材と同等のモーター減磁耐熱性を有する
SPMモーターをDy拡散磁石を使用して設計した結果,残
50
留磁束密度が通常材より高い磁石材料を使用することがで
40
き,
これによりモーターの小型化(磁石使用重量の削減)や,
30
モーター効率の向上の効果があることを示した。モーター
20
効率の向上効果は,全損失に対して銅損の割合が高い低速・
高トルク領域で効果が高くなるため,Dy拡散磁石を使用す
10
ることで一般的にモーター効率の低い低速・高トルク領域
0
Conventional magnet
Dy diffused magnet
図 18 電流密度低減時の定格点におけるモーターの損失
Fig. 18 Loss of SPM motor at rated operation when current density
is decreased
の効率を効果的に向上させることができると考えられる。
今回設計したモーターモデルではモーターの断面形状の
変更は行わなかったが,断面形状の最適化を図るとさらな
る効果が期待できる。
引用文献
1 )森本英幸:
「高性能 Nd-Fe-B 焼結磁石の最新動向」,日本
応用磁気学会第 147 回研究会資料,
(2006).
2 )吉村公志,森本英幸,小高智織:
「R-Fe-B 系希土類焼結磁
石およびその製造方法」,特許第 4241900 号 .
3 )A.Yamagiwa, K.Aota, Y.Sanaga, H.Takabayashi and
M.Natsumeda : “Demagnetization analysis of IPMSM
using FEM”
,IEE of Japan,RM-03-41 ,
(2003).
4 )M.Natsumeda :“Analysis Method of Magnetization and
Demag net izat ion of Per ma nent Mag nets”
, I EE of
Japan,RM-08-121,
(2008).
棗田 充俊
Mitsutoshi Natsumeda
日立金属株式会社
NEOMAX カンパニー
熊谷製作所
設計グループ
日立金属技報 Vol. 28(2012) 13
Nd-Fe-B/Ta 多層永久磁石薄膜の特徴と磁気デバイスへの応用
Characteristics of Nd-Fe-B/Ta Multilayered Permanent Magnet Thin-films and Their Application to Magnetic Devices
上原 稔*
進 士 忠 彦 **
Minoru Uehara
Tadahiko Shinshi
本論文では,Nd-Fe-B/Ta 多層永久磁石薄膜の特徴を実用化の観点から議論し,その磁気マイク
ロデバイスへの応用について報告する。Ta と特定の多層構造を持った Nd - Fe - B 基薄膜において,
垂直磁気異方性を有する均一サイズの微細 Nd 2 Fe 14 B 粒子からなる組織が形成されたことにより,
磁石特性と耐熱特性が向上した。この薄膜を用いて 2 種類のデバイスを製作したところ,工業的応
用に有意な特徴が発現した。広いギャップと自己保持機構を備えたスイッチデバイスは RF- スイッチ
への応用が期待され,リニアモータにおいては,永久磁石膜利用による顕著な小型化と 2 G を超え
る加速性が実証された。
This article discusses the characteristics of Nd-Fe-B/Ta multilayered permanent magnet
thin-films, and reports their application to magnetic micro devices. The Nd-Fe-B-based
films having specific multilayered configurations with Ta have demonstrated improved
magnetic properties and thermal stability owing to the microstructure composed of
uniformly-sized fine Nd 2 Fe14 B grains with perpendicular magnetic anisotropy. Two
devices equipped with these thin-films have been fabricated and show interesting features
in industrial applications. The switch device with a large gap and mechanical latch system
is expected to work as an RF-switch. In the linear motor, noticeable miniaturization due to
the use of the thin-film magnets, along with acceleration above 2 G has been verified.
● Key
Word:Nd-Fe-B,薄膜,マイクロデバイス
● R&D
Stage:Development
を開発し,MEMS技術の特長を生かした磁気マイクロデバ
1. 緒 言
イスを実現していくことだと考えられる。
Nd2Fe14B基の焼結磁石1) とボンド磁石2) は,その高い
Nd2Fe14B基の永久磁石の中で,薄膜は永らく潜在的な
磁気エネルギー積によって,これまでに永久磁石を利用す
ポ テ ン シ ャ ル を 発 揮 で き ず に い た が, 先 に 筆 者 ら は,
る機器やデバイスの小型化を牽引してきた。現在もなお,
Nd-Fe-B層とTa層を交互にスパッタリング形成した多層構
携帯端末をはじめとする電子機器の小型・高機能化のトレ
造の永久磁石薄膜を提案し,焼結磁石に匹敵する磁気エネ
ンドは留まることを知らず,こうした機器に使用されるサ
ルギー積を有する薄膜を開発した3),4)。その後,実用化を
ブミリサイズのNd2Fe14B基焼結磁石の需要が増加してい
念頭においた材料開発と並行して,2008年以降,永久磁石
る。
薄膜の応用を掘り起こすため,Nd-Fe-B/Ta多層永久磁石
こうした小型永久磁石を使用するデバイスの中には,こ
薄膜を用いたMEMS磁気デバイスの試作開発にも取り組ん
のところ急速に普及が進んでいるMEMS(Micro-Electro
でいる5)∼7)。
Mechanical Systems)技術を一部に適用し,製造されて
本論文では,材料としてのNd-Fe-B/Ta多層永久磁石薄
いるものが存在する。しかし,MEMS技術はウェハー単位
膜の特徴を実用化の視点から議論し,その後この薄膜を応
のバッチプロセスが基本であるため,バルク永久磁石のア
用したスイッチデバイスとリニアモータの試作結果を報告
センブリ工程とは相容れ難い。したがって将来的に目指す
する。
べきは,MEMS技術と整合性のとれた薄膜の永久磁石材料
*
**
14
日立金属株式会社 NEOMAX カンパニー
東京工業大学 精密工学研究所
日立金属技報 Vol. 28(2012)
*
**
NEOMAX Company, Hitachi Metals, Ltd.
Precision and Intelligence Laboratory, Tokyo Institute of Technology
Nd-Fe-B/Ta 多層永久磁石薄膜の特徴と磁気デバイスへの応用
構造を持たない磁石に対して薄膜の金属組織を微細均一
2. Nd-Fe-B/Ta 多層永久磁石薄膜の特徴
に,高精度で制御できる点にある。これが可能になったこ
2. 1 永久磁石特性
とで,TbやDyといった重希土類金属を添加せずとも,そ
Nd2Fe14B基の永久磁石薄膜は,粉末冶金法における粉砕
れらを使用する焼結磁石に匹敵する高保磁力が発現した。
粒度や磁界中成型,溶湯急冷法での結晶化熱処理や塑性加
図 2 に200 nmのNd-Fe-B層と10 nmのTa層を,全膜厚が
工といった,結晶粒子径や磁化容易軸方向を制御する技術
それぞれ約1 μm(図 2(a))
,および約10 μm(図 2(b))
が見出せず,永らく期待される磁気特性が発揮できなかっ
まで多層化した薄膜の破断面を,高分解能走査電子顕微鏡
た。日立金属は,多層膜構造による組織制御を試み,マグ
で観察した写真を示す。図 2(a)は,Nd2Fe14Bの最大粒
ネトロンスパッタ法により,加熱した基板上にNd-Fe-B/
子径がNd-Fe-B層の膜厚で厳格に制限されていることを示
Ta多層永久磁石薄膜を形成する技術を開発した。この技術
す。また,図 2(b)では,膜厚10 μmというスパッタ法
によって,Nd2Fe14Bの磁化容易方向であるc軸が膜面垂直
では厚膜であっても,制御された均一微細組織が膜全体を
方向に揃った異方性の永久磁石薄膜が得られる。図 1 に
支 配 し て い る こ と が 確 認 で き る。 詳 細 な 検 討 で は,
[Nd-Fe-B(200 nm)/Ta(10 nm)
]×10からなる多層膜
Nd-Fe-B層の膜厚が約500 nm以下になると保磁力と角形性
構造を有した永久磁石薄膜の磁化曲線を示す。ここでは反
の顕著な向上が見られた。この事実から,現実の磁区状態
磁界補正を行っていないが,強い反磁界を受ける膜面垂直
は粒子間の磁気相互作用が考慮されなければならないもの
方向であっても,角型性の良好な減磁曲線が得られてい
の,保磁力向上効果を促す結晶粒子径として,Nd2Fe14Bの
る。この減磁曲線から導出されたNd-Fe-B/Ta多層永久磁
理論上の臨界単磁区粒子径である300 nmが目安として考
石薄膜の永久磁石特性値は,表 1 で比較されているように,
えられる8)。
異方性焼結磁石のそれに匹敵するものであった。
Nd-Fe-B/Ta多層構造の最大の特徴は,周期的に挿入さ
(a)
れるTa層がNd2Fe14Bの結晶成長を遮断するため,多層膜
1.6
Magnetization(T)
1.4
(Out of plane)
1.2
1 μm
1.0
0.8
(b)
0.6
0.4
(In plane)
0.2
0.0
−0.2
−0.4
−0.6
−1.6 −1.4 −1.2 −1.0 −0.8 −0.6 −0.4 −0.2 0.0
0.2 0.4
0.6 0.8 1.0
Applied field (MA/m)
図 1 [Nd-Fe-B(200 nm)/Ta(10 nm)]× 10 多層永久磁石薄
膜の減磁曲線
Fig. 1 Demagnetizing curves of [Nd-Fe-B (200 nm) /Ta (10 nm) ] x10
multilayered permanent magnet thin-film
表1 [Nd-Fe-B(200 nm)/Ta(10 nm)]× 10 多層永久磁石薄膜
の永久磁石特性
Table 1 Permanent magnet properties of [Nd-Fe-B (200 nm) /Ta (10
nm) ] x10 multilayered permanent magnet thin-film
Energy product
(BH)max
Remanent
magnetization
r
Intrinsic
coercivity
CJ
5 μm
図2
Nd-Fe-B/Ta 多層永久磁石薄膜の破断面の走査電子顕微鏡
写真(膜厚:(a)約 1 μm,(b)約 10 μm)
Fig. 2 Scanning electron micrographs of fractured cross-sections of
Nd-Fe-B/Ta multilayered permanent magnet thin-films with
thickness of (a) about 1 μm, and (b) about 10 μm
多層構造のもう一つの特徴に,Ta層の上にNd-Fe-B層を
形成することで,堆積と同時に結晶化したNd2Fe14Bの磁化
容易軸(c軸)の垂直配向度がより向上することを挙げる
こ と が で き る。 図 3 で,
[Nd-Fe-B(200 nm)/Ta(10
nm)
]×5のX線回折パターンをNd-Fe-B異方性焼結磁石の
ものと比較した。散乱ベクトルの方向は,多層膜が面垂直
方向,焼結磁石が成形時の配向磁場方向である。例えば
kJ/m 3
(MGOe)
T
(kG)
kA/m
(kOe)
Thin-film
[Nd-Fe-B/Ta]
(Thickness:5.8 μm)
364
(45.7)
1.39
(13.9)
1430
(18.0)
の相対強度は,焼結磁石よりも多層膜の方が弱く,多層膜
Sintered Nd-Fe-B
(NEOMAX-48BH)
358∼390
(45∼49)
1.36∼1.42
(13.6∼1.42)
1114
(14.0)
強いc軸配向が残留磁化を従来の薄膜では得られなかった
(105)のように,
(00 l)からずれた指数からの回折ピーク
のc軸がより強く配向していることが示されている。この
水準にまで高め,磁気エネルギー積の向上に導いた。
日立金属技報 Vol. 28(2012) 15
nmから200 nmへと薄くなることで耐熱性が向上してい
(006)
(a)
る。永久磁石の耐熱性を定量化するため,不可逆熱減磁
率が−5%に達する温度を耐熱温度と定義すると,Nd-Fe-B
層の膜厚が200 nmの多層膜の耐熱温度は130℃以上となり,
(004)
その中に150 ℃を超える薄膜も存在している。
(008)
Nd-Fe-B/Ta多層膜の耐熱温度には,焼結磁石やボンド
(105)
磁石と同様に室温での保磁力に対する依存性が認められ
Nd Nd
た。さらに詳細な関係を見るため,多層膜の室温での磁化
(b)
曲線を解析したところ,減磁曲線上に不可逆磁化反転に起
(006)
(105)
因する屈曲が現れる磁界が,耐熱温度に対してより緊密に
(008)
(004)
関係していることが明らかとなった。図 5 は,
[NdFeB
(200
(115) (116)
nm)/Ta(10 nm)
]×25の磁化曲線を解析した例で,ここ
20
30
40
50
60
70
2-theta (degrees)
図 3 X 線回折パターン(a)Nd-Fe-B/Ta 多層膜,(b)Nd-Fe-B
異方性焼結磁石
Fig. 3 X-Ray diffraction patterns (a) Nd-Fe-B/Ta multilayered thin
film, (b) Nd-Fe-B anisotropic sintered magnet
2. 2 耐熱特性 9)
キュリー点が比較的低いNd2Fe14Bが 磁性を担う永久磁
石薄膜において,同じ主相を持った焼結磁石やボンド磁石
で屈曲点に対応した屈曲磁界(
kp)を次式で表される微
分磁化率(χdiff)が立ち上がる磁界として定義した。
(d /d )
(1)
χdiff = μ0−1・
χ diff
(T)
3.2
1.6
2.8
1.4
2.4
1.2
2.0
1.0
χ diff
と同様に,耐熱性の克服が実用化に向けての重要な課題で
1.6
ある。特に垂直磁化膜の場合は,膜が常に強い反磁界にさ
1.2
0.6
らされるため,熱減磁に対する懸念がさらに大きい。そこ
0.8
0.4
で,Nd-Fe-B/Ta多層永久磁石薄膜の耐熱性を評価するた
0.4
め,
一層のNd-Fe-B膜厚が 200または 500 nmで,
総膜厚が 1,
2,5 μmなる6 種類と,比較として膜厚1 μmのNd-Fe-B
単層薄膜の不可逆熱減磁率を測定した。ここで,不可逆熱
減磁は,室温で着磁した後に計測した磁化と,同じ試料を
所定の温度まで加熱して1時間保持し,再び室温に戻した
後に計測した磁化の差で定義される。結果を図 4 に示す。
これによると,Nd2Fe14B基の薄膜は,Taと多層膜化するこ
とにより熱減磁が低下し,さらにNd-Fe-B層の膜厚が 500
0.2
CJ
0
0.8
X
kp
X
−0.4
−1.6 −1.4 −1.2 −1.0 −0.8 −0.6 −0.4 −0.2
0
−0.2
0
Applied field(MA/m)
図 5 [NdFeB(200 nm)/Ta(10 nm)]× 25 の減磁曲線( ),
微分磁化率曲線(χdiff)と,保磁力( CJ),屈曲磁界( kp)の
定義
Fig. 5 Demagnetizing (J) and differential susceptibility (χdiff) curves of
[ NdFeB (200 nm) /Ta (10 nm) ] x 25, defining coercivity ( CJ) and
knickpoint field ( kp) , respectively
図 6 は,多層膜の屈曲磁界と保磁力を耐熱温度に対して
Irreversible flux loss(%)
0
プロットしたもので,これから耐熱温度と屈曲磁界との間
に一次相関が成り立っていることがわかる。したがって不
−20
可逆熱減磁は,温度上昇に伴う減磁曲線のシフトによって
動作点が屈曲点を超えることで発生し,多層膜における耐
−40
熱温度の上昇は,結晶粒子径の均一微細化により屈曲磁界
−60
−80
−100
0
:No.1[NdFeB(200nm)/Ta(10nm)]x5
:No.2[NdFeB(200nm)/Ta(10nm)]x10
:No.3[NdFeB(200nm)/Ta(10nm)]x25
:No.4[NdFeB(500nm)/Ta(10nm)]x2
:No.5[NdFeB(500nm)/Ta(10nm)]x4
:No.6[NdFeB(500nm)/Ta(10nm)]x10
(1,000nm)
:No.7 NdFeB
が向上したことが要因と考察できる。また屈曲磁界と耐熱
20
150 ℃を超える耐熱温度は,自動車関連など一部を除く
40
60
80
100 120 140 160 180 200
Temperature (℃)
図 4 Nd-Fe-B/Ta 多層永久磁石薄膜の不可逆熱減磁率
Fig. 4 Irreversible thermal flux loss of Nd-Fe-B/Ta multilayered
permanent magnet thin-films
16
日立金属技報 Vol. 28(2012)
温度が強い一次相関を有する実験事実は,温度変化の幅に
対する減磁曲線のシフトの度合いが,結晶粒径に依存せず
ほぼ一定であることを意味している。
と,永久磁石を使った現行の応用機器の広い範囲をカバー
する。したがって,Nd-Fe-B/Ta多層永久磁石薄膜を応用
することで,小型・高性能に留まらず,信頼性の高い磁気
マイクロデバイスを得られることが期待される。
Nd-Fe-B/Ta 多層永久磁石薄膜の特徴と磁気デバイスへの応用
ンミリングによって,それぞれ100/100,50/50,20/20
1.6
μmのライン&スペース(L/S)パターンに加工を施した
20 μmの狙い寸法に対しては,−2 μm以下の加工精度が
1.2
CJ
得られた。また,イオンミリング速度は約37 nm/minで,
一般的な金属材料と遜色のない加工能率が確認された。
kp
(MA/m)
ものである。エッジ部も明瞭に加工されており,ライン幅
0.8
CJ
,
図 8 は,イオンミリングによって加工された後の,これ
らの試料の磁化曲線を,加工前の膜と比較して示したもの
kp
0
80
である。L/S幅が狭くなるに伴って残留磁化の低下が見ら
:No.4 ■:No.7
:No.1 :No.5
:No.2 :No.6
:No.3 0.4
100
120
140
160
れるが,先の考察のように,加工後のライン幅が,狙い寸
法に対して少し狭くなったことが影響したとみられる。ア
180
ルゴンイオンミリングによるNd2Fe14B基の薄膜の加工で,
事前に最も懸念されていたのは,イオンの衝撃によって膜
Heat-proof temperature(℃)
の表面に歪や欠陥が生じ,それらが保磁力を低下させるこ
図 6 耐熱温度( kp)と保磁力( CJ),または屈曲磁界(
相関
Fig. 6 Correlation between heat-proof-temperature (
coercivity ( CJ) , or Knickpoint field ( kp)
kp)との
とであった。しかし図 8 によれば,L/S幅が狭まって加工
面の面積が増しても保磁力に悪影響が及ばず,逆に保磁力
kp )
and
が若干向上する結果となった。
Nd2Fe14B基の薄膜に対し,微細加工方法としてのアルゴ
ンイオンミリングの基本的適合性を明らかにした本検討の
2. 3 微細加工性
結果を受け,後述するNd-Fe-B/Ta多層永久磁石薄膜を備
永久磁石薄膜を小型・高性能のマイクロデバイスに応用
えたリニアモータの製作工程にこの技術を適用した。そこ
するためには,薄膜の高精度微細加工技術の確立が不可欠
では,
膜厚約6 μmのNd-Fe-B/Ta多層永久磁石薄膜に対し,
である。微細加工の方法は,一枚の基板上に多数の素子を
生産適用可能な加工能率で,ミクロンレベルの加工精度が
バッチプロセスにより同時に作製することを可能にする
得られることが確認された。
MEMS技術の適用が望ましい。MEMS技術による微細加
工法には,有機レジスト材などで微細パターンを形成し,
1.2
それを犠牲層として用いるリフトオフ法や,形成した微細
1.0
パターンをマスクとして用いるエッチング法等が知られて
に活性であることに考慮し,この薄膜の微細加工方法とし
て,アルゴンイオンミリングの適用を検討した。
0.8
(T)
いる。筆者らは,Nd-Fe-B/Ta多層永久磁石薄膜が化学的
0.6
0.4
図 7 は膜厚 1 μmの単層のNd-Fe-B膜を,アルゴンイオ
non-fabricated
L/S=100/100 μm
L/S=50/50 μm
L/S=20/20 μm
0.2
(a)
(b)
0
−0.2
−0.8
−0.6
−0.4
−0.2
0
0.2
0.4
0.6
0.8
(MA/m)
200 μm
200 μm
(c)
図 8 アルゴンイオンミリングによるライン&スペース加工前後の
Nd-Fe-B 薄膜の減磁曲線
Fig. 8 Demagnetizing curves of Nd-Fe-B thin films before and after
fabrication into line-and-space patterns by argon-ion milling
3. 磁気デバイスへの応用
3. 1 MEMS スイッチ 7)
200 μm
図 7 アルゴンイオンミリングによりライン&スペース(L/S)加
工した Nd-Fe-B 薄膜の光学顕微鏡写真;L/S =(a)100/100
μm,(b)50/50 μm,(c)20/20 μm
Fig. 7 Microphotographs of line-and-space patters of Nd-Fe-B thin
films fabricated by argon-ion milling; L/S = (a) 100/100 μm,
(b) 50/50 μm,(c) 20/20 μm
高周波化が進む携帯電話など無線通信分野のスイッチデ
バイスは,従来の半導体スイッチに替わるものとして,低
損失で高いアイソレーション特性が得やすい機械式スイッ
チの検討が進められており,接点の駆動方法が,静電方式
や永久磁石を用いた電磁方式のMEMSスイッチがこれまで
に商品化されている。原理や構造が比較的簡単な静電方式
日立金属技報 Vol. 28(2012) 17
に対して永久磁石を使った電磁方式のスイッチは,永久磁
と,0.4 Aのコイル電流で閉じた接点は,通電を止めても閉
石と磁性体の静磁気力を利用して,電力を使わずに接点状
状態を保ち,逆電流の通電によって接点が開く。その後通
態を保持できるという特徴を有している。
電を止めた状態でも,200 μmを超える接点間のギャップ
筆者らはかつて,Nd-Fe-B/Ta多層永久磁石薄膜を用い
が確保されている。
た片持ち梁アクチュエータを開発し,静電駆動等では困難
こうした,自己保持機構と広いギャップを有するスイッ
な大振幅の変位を得ている5),6)。ここでは,その片持ち梁
チは,永久磁石を用いた電磁駆動式スイッチ固有の特徴で
アクチュエータを利用し,自己保持機構あるいはメカニカ
あり,省消費電力でアイソレーションの高い,高周波帯域
ルラッチングと呼ばれる,電力を消費せず接点状態を保持
のRF-スイッチへの応用が期待できる。現在,そうした用
することが可能なスイッチデバイスの製作を試みた。
途を念頭に置いた開発・評価を進めている。
図 9 に,作製したスイッチデバイスの写真を示す。可動
部は,厚み3 μmのSiN製で,0.4×2.0 mmの片持ち梁とそ
3. 2 リニアモータ
の自由端側に形成した2×2 mmのパドル部で構成される。
永久磁石式のリニアモータは,通常多数個の永久磁石を
この構造は両面にSiN膜を形成した単結晶シリコン基板に
用いるため,小型化が困難な磁気デバイスの一つと考えら
MEMS技術を適用して製作され,片持ち梁が完成した後,
れている。そこで著者らは,ドライエッチングによって微
パドル部に厚み3 μmのNd-Fe-B/Ta多層永久磁石薄膜が
細加工したNd-Fe-B/Ta多層永久磁石薄膜の磁気回路を備
ハードマスクを用いたスパッタ法によって形成されてい
えた,マイクロリニアモータの製作を試みた。
る。固定接点側には,可動部とは別の基板に,線径0.25
完成したリニアモータの写真を図11に示す。今回試作し
mmのCu線を接着することで励磁コイルが形成されてい
たリニアモータは,可動部に配線が不要な,スライダに永
る。さらに固定接点側には,永久磁石膜に対して自己保持
久磁石を備えたムービングマグネットタイプとした。それ
に必要な吸引力を発生させるための厚さ 5 μm,2×2 mm
は,スライダ,ガイド,Cu製平面コイルを形成した固定子
のNi箔が配置されている。可動接点と固定接点がそれぞれ
から構成される(図11(a))
。本試作の目的が,永久磁石
作り込まれた2つの基板は,接点間のギャップが計算で得
薄膜を用いたマイクロリニアモータの動作検証であること
た設計値となるよう,スペーサを挟んで接合されている。
から,コイルは,構造が単純なミアンダ型空芯コイルとし
た。その製作は,石英ガラス上にスパッタ形成したCu膜を,
レーザー加工機でパターニングすることにより行った。Cu
製コイルは膜厚3 μm,線幅160 μm,ライン間のピッチ
を400 μmとした。同様の理由から,ガイドも簡便に高精
度が得られるAl合金の機械加工によって製作した。スライ
ダは,最終寸法が4×4×t 0.26 mmの単結晶シリコン製で,
コイル対向面には,マグネトロンスパッタで形成した膜厚
1 mm
6 μmのNd-Fe-B/Ta永久磁石多層薄膜を,ライン&スペー
図 9 試作したマイクロスイッチ
Fig. 9 Fabricated micro-switch
ス間隔が0.4 mmになるようにアルゴンイオンミリングで加
(a)
図10にコイルに流した励磁電流と,それに伴った可動接
点の動きを変位センサで計測した結果を示す。これを見る
400
OFF
0.6
ON
ON
OFF
300
Coil current (A)
(OA)
0.4
200
0.2
100
0
0
−0.2
−100
−0.4
−200
Coil current
Displacement
−0.6
−0.8
0
2
Displacement(μm)
0.8
(b)
(c)
−300
4
6
8
−400
Time (s)
図 10 コイル電流と可動接点の変位の関係
Fig. 10 Relationship between coil current and displacement of the
moving contact
18
10 mm
日立金属技報 Vol. 28(2012)
2 mm
2 mm
図 11 完成したリニアモータ(a)全体,(b)スライダ表面,(c)
スライダ裏面
Fig. 11 Photographs of the fabricated linear-motor (a) over-all view,
(b) front-side and (c) reverse-side views of the slider
Nd-Fe-B/Ta 多層永久磁石薄膜の特徴と磁気デバイスへの応用
工し,配置した(図11(c))
。摺動面はスライダの側面に
5. 謝 辞
設けられており,ここにガイドにはめ込むためのV字溝を,
単結晶シリコンのKOHによる異方性エッチングを利用して
東京工業大学大学院生の田辺亮氏,同じく石橋正登氏に
形成した。
は,デバイスの製作と評価についてご協力をいただいた。
図12に製作したリニアモータにおいて,コイル電流を約
ここに記して謝意を表する。
1.5 A流した際のスライダの変位の計測結果と,その変位を
なお,本研究の一部は,独立行政法人科学技術振興機構
時間微分して導出した速度を示す。ガイドの始端から終端
のシーズイノベーション化事業顕在化ステージ,および研
に至るストローク30 mm以上の駆動が確認され,最大速
究成果最適展開事業A-STEPの支援を受けて行われた。 度 1 m/s以上,加速度26.0
m/s2が得られた。また,別途,
駆動に必要な最小のコイル電流を調査したところ,およそ
引用文献
0.5 Aの値が得られ,
その際の加速度は 5.7 m/s 2 であった。
これらの結果から,製作したリニアモータの諸元として,
電流1 A当たりの推力が約 200 μN,スライダの静止摩擦
係数が 1.0,動摩擦係数が0.5という値が導かれた。
今回,動作検証を目的としたNd-Fe-B/Ta多層永久磁石
薄膜を用いたリニアモータの試作で,2 Gを超える加速性
が実証された。今後は,さらに位置検出機構の組込,摺動
摩擦の低減,小型化などの課題に取り組み,デバイスの完
35
1,400
30
1,200
25
1,000
20
800
15
600
10
400
5
200
Displacement
0
Velocity
−5
0
5
10 15
Velocity(mm/s2)
Displacement(mm)
成度を高めていく予定である。
1 )M.Sagawa, S.Fujimura, M.Togawa, H.Yamamoto and
Y.Matsuura: J.Appl. Phys.,55(1984)2083.
2 )J. J. Croat,J. F. Herbst,R. W. Lee and F. E. Pinkerton:
J. Appl. Phys.,55(1984)2079.
3 )M . Ueha ra : J. Mag n. S oc. Jpn., 28(2004)1043.(in
Japanese)
4 )M. Uehara, N. Gennai, M. Fujiwara, and T. Tanaka:
IEEE Trans. Magn.,41(2005)3838.
5 )後藤駿治,Sen Yao,進士忠彦,櫻井淳平,上原稔,山本
日登志 : 第 17 回 MAGDA コンファレンス講演論文集,日本
AEM 学会(2008),p.75.
6 )S. Yao,S. Goto,J. Sakurai,T. Shinshi,M. Uehara and
H. Yamamoto: Proc. IEEE-NEMS(2009),p.411.
7 )石橋正登,田辺亮,進士忠彦,上原稔:第 22 回「電磁力
関連のダイナミクス」シンポジウム講演論文集,日本機械学
会(2010),p.704.
8 )J. D. Livingston: J. Appl. Phys.,57(1985)4137.
9 )M. Uehara,and H. Yamamoto: J. Magn. Soc. Jpn.,33
(2009)227.(in Japanese)
0
−200
20 25 30 35 40 45 50 55 60
Time(ms)
図 12 スライダの変位と速度
Fig. 12 Displacement and velocity of the slider
上原 稔
Minoru Uehara
日立金属株式会社
NEOMAX カンパニー
磁性材料研究所
4. 結 言
本論文では,日立金属が開発したNd-Fe-B/Ta多層永久
磁石薄膜の高い永久磁石特性と耐熱特性の起源を,この薄
膜材料固有の微細組織との関連で議論し,多層膜構造化に
進士 忠彦
Tadahiko Shinshi
東京工業大学
精密工学研究所 教授
博士(工学)
伴うNd2Fe14B 結晶の微細均一化に発することを明らかに
した。また,薄膜の実用化に必要な微細加工方法としてア
ルゴンイオンミリング法を検討し,デバイス試作への適用
例を報告した。さらに,上記永久磁石薄膜を応用した2種
類のデバイスを製作し,広いギャップと自己保持機能を備
えたMEMSスイッチには,RF−スイッチへの応用が期待
され,リニアモータにおいては高加速性が実証された。今
後も,実用化を念頭に置いた永久磁石薄膜材料の研究開発
を進めるとともに,それを利用した磁気デバイスの提案を
行っていく所存である。
日立金属技報 Vol. 28(2012) 19
二相混合組織を有する球状黒鉛鋳鉄材の共析変態メカニズム
Mechanism of Eutectoid Transformation of Ductile Iron with Ferrite-Pearlite Duplex Structure
王 麟*
川畑 将秀*
Lin Wang
Masahide Kawabata
フェライト−パーライト二相混合組織を有する球状黒鉛鋳鉄は靭性が 高いことが知られている。
本研究では,Cu 量を変化させて二相混合組織を得て,熱処理時の共析変態のメカニズムを考察した。
さらに,計装化衝撃試験により,二相混合組織は球状黒鉛鋳鉄のき裂発生エネルギーとき裂伝ぱ発生
エネルギーをともに向上させることを明らかにした。
This study is intended to establish stable heat treatment condition to produce ductile iron
having a ferrite-pealite duplex structure, which is known to have high toughness. A series
of experiments was carried out to investigate the effect of Cu content on the eutectoid
transformatnion of ductile iron during heat treatment. Further more the instrumented
impact testing was implemented, and it revealed that the duplex structure improved both
Ei (crack intiation energy) and Ep (crack propagation energy) of ductile iron.
● Key
Word:球状黒鉛鋳鉄 , 二相混合組織,共析変態,き裂発生エネルギー,き裂伝ぱエネルギー
● R&D
Stage:Research
ろが,この方法では熱処理コストの面で不利であり,また,
1. 緒 言
805 ℃での保持時間が短いと,未分解のパーライトが残
自動車産業において低燃費化と低コスト化のニーズがま
留し,材料の耐衝撃特性が低下するリスクがある。趙ら4)
すます強まっており,軽量でかつ低コストな球状黒鉛鋳鉄
は0.05∼2.0 mass%Pを添加した球状黒鉛鋳鉄で二段熱処
の足回り部品が求められている。足回り部品は要求機能と
理を行い,800 ℃で保持した後,空冷することによって
して車体を支えるための静的強度と疲労強度に加え,衝撃
二相混合組織を得て,鋳放し材(鋳仕上げを終わった鋳物)
入力に対する靭性も必要である。部品を軽量化するために
と同程度の強度にも関わらず高い伸びを得ている。しか
は,高強度材を使用する必要があるが,従来材では材料強
し,Pを添加すると,耐衝撃特性を低下させるFe3Pを生じ
度を向上させると靭性が低下するため,靭性を維持しつつ,
る恐れがあり,また,空冷では,肉厚変動の大きい自動
引張強度・耐力を向上させる必要がある。
車用鋳物の強度を制御することが困難である。
高強度・高靭性球状黒鉛鋳鉄を得るためには,基地組
そこで,本研究では,安定な二相混合組織を製造する
織のフェライトとパーライトを微細混合することが有効
熱処理条件を確立することを目的として,共析変態に及
である。田中ら1)∼3)
ぼすパーライト促進元素Cuの影響を検討することにより,
は恒温保持法を用い,
質量比で 0.32%
(以下,mass%と記す)のMnを含む球状黒鉛鋳鉄におい
共析変態のメカニズムを明らかにした。次に,計装化衝撃
て,950 ℃で25時間保持という第一段黒鉛化熱処理を行っ
試験にて鋳放し材および二相混合組織を有する熱処理材の
た後,805 ℃で保持し,空冷することによりフェライトと
−30 ℃衝撃特性を比較することにより,後者の−30 ℃衝撃
パーライトからなる微細二相混合組織を得ている。とこ
特性が向上する要因を検討した。
*
20
日立金属株式会社 自動車機器カンパニー
日立金属技報 Vol. 28(2012)
*
Automotive Components Company, Hitachi Metals, Ltd.
二相混合組織を有する球状黒鉛鋳鉄材の共析変態メカニズム
2. 実験方法
Austenitization
holding 860 ℃×45 min
2. 1 溶解および鋳造条件
実験に供した試料はアルカリフェノール鋳型を用いて
Temperature(℃)
鋳造した。造型,溶解および鋳造条件を表 1 に示す。
表 1 造型,溶解および鋳造条件
Table 1 Condition of molding, melting, and casting
Mold making
Mold: alkaline phenolic mold
Resin addition:3%
Aggregate: Nikko silicon sand α6
Melting
Melting furnace: 100 kg high-frequency melting furnace
Raw material: return scrap, steel scrap
Spheroidizing and
inoculation
Spheroidizing: sandwich
Inoculation: stream inoculation
Cover material: steel punchings
Tapping temperature
1,500−1,520 ℃
Pouring temperature
1,390−1,410 ℃
Ac1
Eutectoid transformation
Time(s)
図 2 熱処理温度曲線の一例
Fig. 2 An example of heat treatment temperature curves
粒数およびフェライト率について,画像解析装置を用い
2. 2 試験片形状
て100倍に拡大した任意 5 視野の平均値を求めた。ここで,
図 1 に示す1インチYブロックの下部の肉厚25 mm部位
直径φ5 μm以下の黒鉛はカウントしなかった。
を用い,
ミクロ組織,
引張特性および衝撃特性を調査した。
2. 4 材料試験方法
(1)引張試験
50
引張試験は,JIS14A 号引張試験片を用いて行った。試
170
験は,島津製作所製引張試験機 AG-IS250 kN(最大荷重:
250 kN)を用いて行った。
(2)計装化衝撃試験
140
衝撃試験片は,JIS Z2242 の 2 mmU ノッチの標準試験
片 (55 × 10 × 10 mm)を使用した。試験は,東京試
験機製計装化衝撃試験機 GAI300D(ひょう量:300 J)
を用いて行い,試験温度は−30 ℃とした。
3. 実験結果
Tensile(impact)TP
25
Unit:mm
図 1 Y ブロックの寸法
Fig. 1 Dimensions of Y block casting
3. 1 共析変態の組織に及ぼす冷却速度,Cu の影響
実験に供した試料の化学成分を表 2 に,熱処理前後の
ミクロ組織を図 3 に示す。ここで,試料AとBのC u量は
それぞれ0.21 m a s s %と0.40 m a s s %とした。試料Aの基
地組織の大部分はフェライト組織で,粒界に部分的にパー
ライトが生成している。試料Bでは,基地組織の大部分
2. 3 共析変態の変態状況の観察方法
はパーライト組織で,黒鉛の周囲にフェライトリングが
1インチYブロックの下部25 mm部を,小型シリコニッ
観察されるが,図 4 の拡大写真に示すように部分的にフェ
ト炉を用いて図 2 に示すように860 ℃×45 minでオース
ライトとパーライトの二相混合組織が存在する。また,
テナイト化した後,冷却速度0.1 ℃ / m i nで降温させた。
ここで,共析変態の状況を確認するため,任意の温度で
表 2 焼き入れ実験用試料の化学成分
Table 2 Chemical composition of quenching samples
供試材を水中に投入し,急冷させることで,その温度で
mass%
のミクロ組織を固定して観察した。
C
Si
Mn
P
S
Mg
Cu
A
3.77
2.21
0.29
0.014
0.007
0.037
0.21
B
3.76
2.23
0.30
0.014
0.008
0.039
0.40
ミクロ組織の観察は,組織観察用試料を樹脂包埋し,
S i Cペーパ,ダイヤモンド砥粒による研磨を行って,鏡
面にした後,硝酸3%ナイタール液を用いて腐食し,光学
顕微鏡を用いて倍率100倍および500倍にて行った。黒鉛
日立金属技報 Vol. 28(2012) 21
(a)
(b)
(a)
800
200 μm
(c)
200 μm
(d)
Temperature(℃)
0.21 mass%Cu
①
②
750
③
700
650
0
200 μm
1,000
2,000
3,000
Time(s)
200 μm
(b)
800
図 3 熱処理前後の組織
Fig. 3 Microstructure before-after heat treatment
(a) Sample A before heat treatment
(b) Sample B before heat treatment
(c) Sample A after heat treatment
(d) Sample B after heat treatment
0.40 mass%Cu
Temperature(℃)
④
750
⑥
⑤
700
650
0
1,000
2,000
3,000
Time(s)
図 5 熱処理の冷却曲線
Fig. 5 Cooling curves of heat treatment (a) Sample A (b) Sample B
duplex structure
上の728 ℃(図 5(a)③)に達すると,基地組織に黒いパー
ライトが観察され,オーステナイトからパーライトへの
変態が発生している(図 6(c))。
20 μm
図 4 試料 B の組織の拡大写真
Fig. 4 High magnification photos of sample B
(2)試料 B(0.40 mass%Cu)における共析変態過程の観
察結果
試料Bでは,試料Aと同様に,図 5(b)に示すように冷
却曲線上の④の750 ℃付近に小さなクニックが認められ,
試料の熱処理前後のフェライト相を比べると,熱処理に
図 6(c)の急冷組織よりオーステナイトからフェライト
よって結晶粒が微細化したことがわかる。
への変態が発生していることが分かる。また,この温度
上記のミクロ組織の生成過程を確認するため,各試料
では試料Aよりフェライトの生成量が少ない。その後,
の800 ℃から650 ℃までの冷却曲線を図 5 に,冷却途中
図 5(b)⑤の735 ℃まで,オーステナイトとフェライト
の各温度から急冷したミクロ組織を図 6 に示す。ミクロ
が共存している(図 6(e))。ここで,試料Aの740 ℃で
組織で,
(A)が黒鉛,
(B)の灰色がマルテンサイトで急冷
の急冷組織(図 6(b))と比べると,試料B(図 6(e))
前はオーステナイト,
(C)の白色がフェライト,
(D)の黒
は温度が低いにも関わらず,フェライトの生成量が少な
色がパーライトである。
い。試料Bの冷却曲線には小さい過冷が観察され,728
(1)試料 A(0.21 mass%Cu)における共析変態過程の観
察結果
℃(図 6(f))では試料A(図 6(c))よりパーライト生
成量が多い。C u量が増加するとフェライトの生成速度が
試料Aでは,図 5(a)に示すように①の750 ℃で冷却
遅くなるメカニズムについては,以下に考察する。
曲線にクニック(変曲点)が認められ,図 6(a)のミク
基地組織に及ぼすC uの影響について多くの報告があ
ロ組織よりオーステナイト粒界(急冷組織はマルテンサ
る。井ノ山ら5) は白鋳鉄で2段熱処理を行い,C uはそれ
イトである)および球状黒鉛の周囲に白い初析フェライ
自体が黒鉛化を促進し,M nと共存するとM nを共析セメ
トが観察される。図 5(a)②の 740 ℃では,フェライト
ンタイト中に濃化させ,パーライトを安定化させると報
が成長しつつ,オーステナイトとフェライトが共存する
告している。一方,五十嵐ら6)は,TEM(Transmission
(図 6(b))。温度がさらに低下してA1点(共析温度)直
Electron Microscope:透過型電子顕微鏡)を用いて球
22
日立金属技報 Vol. 28(2012)
二相混合組織を有する球状黒鉛鋳鉄材の共析変態メカニズム
(a)
(b)
(c)
(A)
(D)
(C)
(B)
200 μm
(d)
200 μm
(e)
200 μm
(f)
(D)
(A)
(C)
(B)
200 μm
200 μm
200 μm
図 6 各温度での焼き入れ組織写真
Fig. 6 Microstructures of quenching samples
(a) Sample A 750 ℃ (b) Sample A 740 ℃ (c) Sample A 728 ℃ (d) Sample B 750 ℃ (e) Sample B 735 ℃ (f) Sample B 728 ℃
状黒鉛/基地界面にC uの偏析を観察している。また,石
3. 3 計装化衝撃試験による− 30℃低温衝撃特性の評価
黒ら7)
は,黒鉛の周りに部分的かつ,フィルム状に濃化
二相混合組織の衝撃特性を評価するために,計装化衝
していると報告し,黒鉛/基地界面にC uが偏析し,オー
撃試験装置にて2 m m Uノッチでの−30 ℃低温衝撃特性
ステナイト中の固溶炭素の黒鉛への拡散・析出を阻止する
の評価を行った。衝撃試験に供した試料のミクロ組織を
ことによりパーライト化を促進すると推定している。本
図 7 に示す。鋳放し材は図 7(a)に示すように,黒鉛の
研究では,C u量が増加すると,初析フェライトの生成速
周囲に白いフェライト組織が形成した,いわゆるブルス・
度が遅く,オーステナイトからフェライトへの変態が遅
アイ組織になっている。これに対して,熱処理を行った
延することを観察した。この結果は,五十嵐ら6) と石黒
フェライト−パーライトの二相混合組織材(以降,熱処
ら7)の観察結果と整合している。つまり,C u量が増加す
理材と称する)では,図 7(b)に示すように微細な白い
ると,C uのバリア効果によりオーステナイトから黒鉛へ
フェライトがパーライト中に混在している。鋳放し材と
の炭素の拡散速度が遅くなり,オーステナイトからフェ
熱処理材の引張試験結果を表 3 に示す。両者とも耐力は
ライトへの変態を遅延させると考えられる。
約530 MPa,引張強さは約850 MPaで同等である。
3. 2 二相混合組織の生成に関する考察
0.40 mass%Cuの試料Bにのみ,部分的にフェライト−
(b)
(a)
パーライト二相混合組織が生じた。その原因は次のよう
に考える。試料Aと試料Bは同じ冷却速度で冷却し,オー
ステナイトとフェライトの二相共存温度領域を通過し
た。しかし,試料Aは試料BよりC u量が少ないため,基
地組織のフェライト化が進んで組織の大部分はフェライ
ト組織となった。一方,試料Bでは,前述したC uのフェ
ライト析出・成長の抑制効果により,A1点(図 6(f)の
728 ℃)では,黒鉛周囲のフェライトの成長が抑制され,
20 μm
20 μm
図 7 鋳放し材と二相混合組織の組織写真
Fig. 7 Microstructures of as cast and heat treatment material
(a) As cast (b) Heat treatment
オーステナイト粒界でのフェライトの成長が認められ
る。オーステナイト粒界のフェライト周辺のオーステナ
イトがパーライト変態することにより,部分的にフェラ
表 3 引張試験の結果
Table 3 Results of tensile test
イト−パーライトの二相混合組織となったと考えられ
Y.S
MPa
T.S
MPa
E
%
As cast
529
856
4.0
Heat treatment
530
845
6.0
る。よって,オーステナイトとフェライトの二相共存温
度領域をある程度の時間を持って通過することと,フェ
ライト化を抑制するC uを適量添加することが,二相混合
組織を作るための重要な条件であると考えられる。
日立金属技報 Vol. 28(2012) 23
計装化衝撃試験より得られた鋳放し材と熱処理材の荷
5
重−変位曲線を図 8 に示す。ここで,計装化衝撃試験では,
En=Ep+Ei
荷重−変位曲線の最大荷重点P mをき裂発生点として取り
扱い,破断エネルギー E nをき裂発生エネルギー E iとき
クは,ハンマーと試験片の間に発生する弾性的な反発な
どに起因するものと考えられている9)。図 8 より,鋳放
し材と比較して熱処理材は破断までの変位,最大荷重Pm
とも大きくなることがわかる。また,鋳放し材が,最大
荷重に到達した後,急激に荷重が低下するのに対して,
4
Absorbed Energy, J/cm2
裂伝ぱエネルギー
Epに分割する8),9)。最初に現れるピー
Ep
3
2
Ep
1
熱処理材は最大荷重後の荷重の低下は緩やかである。
鋳放し材と熱処理材の破断エネルギーの比較を図 9 に
示す。両材とも破壊の過程で吸収されるエネルギーの大
Ei
Ei
0
As cast
Heat treatment
部分はき裂発生エネルギーである。信木ら10)は,基地組
織をフェライト,パーライトおよびベイナイトとした球
状黒鉛鋳鉄の破断エネルギーに占めるき裂発生エネル
図 9 吸収エネルギーの比較(− 30 ℃)
Fig. 9 Comparison of absorbed energy (−30 ℃ ) (2 mm U notch)
ギーの割合を比べ,基地組織の硬さが高いものほど,き
裂発生エネルギーの割合が高いと報告している。本研究
2倍となっており,E iとE pともに向上している。以下に,
で用いた試料も250H Bを持つ高強度材であるため,同様
吸収エネルギーが向上した理由を考察する。
にき裂発生エネルギーの割合が高くなっている。また,
鋳放し材より熱処理材は破断まで大きな荷重Pmと変位
同一強度での熱処理材の吸収エネルギーは鋳放し材の約
を示し, E iとE pはともに高い。通常,破断までの最大荷
重は引張強さあるいは耐力と同じ傾向となる10)。熱処理
材は鋳放し材と同一の引張強さと耐力にも関わらず,大
20
きな荷重Pmを示した理由は次のように考える。球状黒鉛
(a)
鋳鉄の脆性破壊では,き裂は粒界あるいは黒鉛と基地の
界面で発生する。熱処理材では,3.1節に述べたように結
15
Load(kN)
Pm
晶粒が微細化であるため,粒界におけるひずみの集積が
小さくなり,き裂が発生しにくくなる。また, 熱処理材
10
の黒鉛の周囲は強度の低いフェライトリングではなく,
大部分は強度の高いパーライトである。和出ら11)は黒鉛
の周囲に強度の高い第二相が分布すると,黒鉛近傍の基
5
地組織が強化され,黒鉛界面からき裂が発生しにくくな
0
ることを報告している。よって,パーライト組織は黒鉛
0.0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
Displacement(mm)
発生を抑制していると考えられる。さらに,通常材のブ
20
ルス・アイ組織では,フェライトが変形しにくいパーライ
(b)
Pm
トに囲まれているため,フェライトの変形が抑制される。
一方,熱処理材の二相混合組織では,フェライトがパー
15
Load(kN)
近傍の基地を強化することにより,黒鉛界面からき裂の
ライト中に微細分散して,部分的につながるようになる。
この場合,パーライトの拘束力が弱くなり,フェライト
10
の変形が比較的容易になると考えられている2)。よって,
結晶粒の微細化,黒鉛周囲のパーライトの強化効果およ
びフェライトの微細分散により,P mおよびP mまでの変
5
位が大きくなり,き裂発生エネルギーが向上したと考え
0
られる。
0.0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
Displacement(mm)
図 8 計装化衝撃試験の荷重−変位曲線(− 30 ℃)
Fig. 8 Load-displacement curves on instrumented Impact testing
(−30 ℃ )
(a) as cast 2 mm U notch (b) heat treatment 2 mm U notch
24
日立金属技報 Vol. 28(2012)
鋳放し材は,き裂の発生後,ほとんど変位を生じない。
これに対し,熱処理材は2倍以上の0.12 mmの変位を生じ
ている。この理由は次のように考える。鋳放し材および
熱処理材に発生するき裂の伝ぱ経路を図10に示す。図10
(a)に示す鋳放し材では,き裂は延性に富むフェライト
を避けて主にパーライト中を伝ぱする。一方,図10(b)
二相混合組織を有する球状黒鉛鋳鉄材の共析変態メカニズム
に示す熱処理材の場合,き裂の経路に多くの微細なフェ
ライト相が存在し,フェライト相が破断されている様子
も観察される。これは,フェライトが基地に分散するこ
とにより,き裂がフェライト相を回避することができな
くなり,フェライトを通過する際に,フェライトで変形
が生じてより大きなエネルギーが吸収される。よって,
熱処理材は大きな変位を生じ,き裂伝ぱエネルギーも向
上したと考えられる。
(b)
(a)
200 um
200 um
図 10 衝撃試験片のき裂伝ぱ経路
Fig. 10 Crack propagation path of impact test piece
(a) As cast (b) Heat treatment
4. 結 言
引用文献
1)田中雄一,井川克也:鋳物 47(1975)847.
2)田中雄一,井川克也:鋳物 47(1976)622.
3)田中雄一,井川克也:鋳物 48(1977)700.
4)趙柏栄,上野勝司,山田聡,中江秀雄:鋳造工学 80(2008)
149.
5)井ノ山直哉,川瀬欣也,山本悟,川野豊:鋳物 62(1990)
521.
6)五十嵐芳夫,秋山昇一,菅野利猛,姜一求, 中江秀雄,
堀江皓,平塚貞人,藤川貴郎:鋳造工学 82(2010)16.
7)石黒康英,市野健司,高杉英登:日本金属学会会報 48
(2009)624.
8)西成基,小林俊郎,多賀精二:鋳物 48(1976)9.
9)小林俊郎:鉄と鋼 59(1973)94.
10)信木関,塩田俊雄,旗手稔:近畿大学工学研究報告,38
(2004)35.
11)和出昇,陸信,上田俶完,前田敏明:鋳物 55(1983)10.
王 麟
Lin Wang
球状黒鉛鋳鉄の共析変態に及ぼすC u量の影響を検討し
た。また,計装化衝撃実験により従来のブルス・アイ組織
材とフェライト−オーステナイトの二相混合組織材の−30
℃衝撃特性を評価した。上記の実験結果により,以下の
結論を得た。
(1)Cu はフェライトの析出と成長を抑制する。
(2)フェライト−オーステナイトの二相混合組織材を得
日立金属株式会社
自動車機器カンパニー
素材研究所
博士(工学)
川畑 将秀
Masahide Kawabata
日立金属株式会社
自動車機器カンパニー
素材研究所
るには適切な冷却速度で初析フェライトを析出させ,
初析フェライトが過度に析出・成長しないように Cu
を適量添加する必要がある。
(3)− 30 ℃低温衝撃特性では,同一強度の鋳放し材より
二相混合組織材のき裂発生エネルギーおよびき裂伝ぱ
エネルギーがともに向上する。これは,結晶粒の微細化,
黒鉛近傍の基地強化およびフェライト−パーライト二
相混合によるものである。
日立金属技報 Vol. 28(2012) 25
適用上限温度を拡大した液体材料気化器
Vaporizer with Higher Applicable Temperature
佐々木 章*
Akira Sasaki
半導体製造分野の成膜工程では,ALD プロセスや High - k 材料などの採用の本格化にともない,
150 ℃を超える温度で液体材料を気化し,安定した流量を制御することが求められている。しかし液
体材料気化器の内部に使われる部品の耐熱度や耐久性の不足,プロセスの信頼性や再現性の確保
の難しさ,パーティクルの抑制の難しさ,液体材料の劣化などが課題になっていた。そこで著者は
100 - 170 ℃での温度レンジに対応した大きな気化表面積を持つ気化タンクとガス用フローメーター
を組み合わせた気化器を開発し,部品のレイアウトやヒーターのエネルギー分布を最適化することに
より優れた温度特性を得た。
ALD process and High-k materials become popular in thin film deposition process of
semiconductor manufacturing. Stable flow rate control is required, when the liquid
materials are vaporized at temperature exceeding 150 ℃ . However there are several
problems to be solved for the flow rate control, such as the insufficient heat resistance and
durability of the components in the liquid material vaporizer, low reliability and low
repeatability of the process, the difficulty of particle suppression and deterioration of the
liquid materials. The author developed a new vaporizer consisting of a vaporizing tank
with large vaporization surface area for use at temperature range of 100 to 170 ℃ and a
gas flow meter. And the component layout and energy distribution of the heater were
optimized to obtain excellent temperature characteristics.
● Key
Word:Vaporizer,High-k
Code:AS107
● Production
● R&D
Stage:Development
100 分の1 以下に低下させることができる。その結果,これ
1. 緒 言
らのデバイスとしての発熱量は減少する。
半導体製造分野では,ゲート絶縁膜の成膜工程に用いら
これらの新材料へのシフトは,1960年代に登場して以来,
れる材料として,従来の二酸化シリコンSiO2からいわゆる
二酸化シリコンSiO2を用いたゲート誘電体を採用し続けて
High-k材料への転換が進んでいる。ここで,High-kとは
いた金属酸化膜半導体(MOS)トランジスターの進化にお
高誘電率(High dielectric constant)を意味し,誘電率
ける,最も大きな一歩となるものと考えられている1)。こ
とは材料がどれだけの電荷を保持できるかを示す定数であ
のような特性を持つHigh-k材料は2011年現在,半導体プロ
る。トランジスターの数が増えると,半導体チップからの
セ ス で ト レ ン ド と な っ て い るALD(Atomic Layer
発熱は指数関数的に増大するため,半導体業界全体が半導
Deposition)原子層堆積技術と合わせて利用されている。
体チップの発熱抑制に取り組んでいる。新しい High-k材
High-kゲート絶縁膜としては,リーク電流,移動度,耐
料によるリーク電流の制御は,トランジスターの発熱量の
熱性,膜中・界面欠陥,不純物拡散などの観点から,金属
低下に向けた多くのステップのうちの一つである。High-k
酸化物HfO 2,ZrO 2 およびそれらのシリケート(HfSi x O y,
材料によるゲート絶縁膜は以前の二酸化シリコンSiO2のも
ZrSi x O y)
,さらにAl 2 O 3 やその複合酸化物(Hf1-x Al x O y,
のに比べて数倍厚くできるため,ゲート・リーク電流を
Zr1-x Al x O y)などが利用されており,または新規の導入が
*
26
日立金属株式会社 配管機器カンパニー
日立金属技報 Vol. 28(2012)
*
Piping Components Company, Hitachi Metals, Ltd.
適用上限温度を拡大した液体材料気化器
検討されている2)。
CHARGE PURGE
REACTOR
High-k材料の中でも比較的蒸気圧の低い材料が多いHf
系液体材料の場合は,その蒸気圧はおよそ100 ℃で 50 Pa
から250 Pa前後のものが多い3)。
MFM
AV2
図 1 はHf 系液体材料の代表的な例としてHf[N(C2H5)2]4
(略称TDEAH)
,Hf[N(C2H5)CH3](略称TEMAH)
の蒸
4
気圧を表している。例えばTDEAHの蒸気圧は100 ℃にお
AV1
AV4
AV3
いて46.8 Pa,
TEMAHでは100 ℃において236.4 Paである。
従来,これらの液体材料において実用的な気化ガス流量
が確保できる100 - 170 ℃での温度レンジに対応した液体材
料気化器が量産化されてこなかった。そこで著者はこの温
TANK
度領域に対応した,気化タンクとガス用マスフローメー
CHAMBER
ターの組み合わせによる液体材料気化器AS107の製品開発
を行ったので,ここに報告する。
図 2 液体材料気化器 AS107 のガスフロー図
Fig. 2 Gas flow diagram of the vaporizer model AS107
Vapor pressure (Pa)
7000.0
2. 2 流量センサの改良
6000.0
TEMAH
150 ℃を超える耐熱性を持つ部品は,配管部品やセンサ
5000.0
類で選択肢が特に少なくなる。このため部品そのものを入
4000.0
手するために共同開発となるケースが多い。中でも一番の
キーとなる部品は流量を制御するマスフローコントローラ
3000.0
である。日立金属製品では従来150 ℃での動作を保障して
2000.0
いるデジタルマスフローコントローラSFC16xxFシリーズ
TDEAH
1000.0
がラインアップされているが,さらに独自の改良を加える
ことにより170 ℃での動作を可能とした。
0.0
50 60 70 80 90 100 110 120 130 140 150 160 170
Temperature (℃)
2. 2. 1 流量センサ内の絶縁ワニス改良
図 3 に,マスフローメーターの心臓部である流量センサ
図 1 TDEAH,TEMAH の蒸気圧
Fig. 1 Vapor pressure of TDEAH, TEMAH
の構造を示す。絶縁ワニスはセンサ構成部材の中で最も耐
熱温度が低く熱的特性が変化しやすい。しかも発熱抵抗線
(センサコイル)とSUSチューブ間の伝熱部材でもあるこ
2. AS107 の開発
とから熱的特性の変化は発熱抵抗線からSUSチューブへの
放熱量を変化させることになり,ゼロ点変動の要因とな
2. 1 開発仕様
る。したがって絶縁ワニスはSUSチューブと発熱抵抗線の
前述のHf系の液体材料での安定した気化には少なくとも
絶縁を保つ範囲でできる限り薄い方が良い4)。本ユニット
150 ℃前後の加熱ができ,液体を気化させるための大きな
では標準品とは異なる特殊なワニスおよびコーティング方
気化表面積を持つ気化タンクやガス配管系統が必要であ
法を行うことにより,より低い流量検出部温度を実現し,
る。また部分的な液化を防ぐための精密な温度管理が必要
高温での安定した流量検出精度を確保している。
となる。そしてALD運用が基本となるため,少なくとも
300万回以上のON/OFF耐久性が求められる。
上流側
センサコイル
下流側
センサコイル
SUS チューブ
そこで開発仕様として,Hf 系の液体材料のみならずさま
ざまなプロセスに対応できるために適用温度として配管温
度 170 ℃,気化タンク温度160 ℃を上限とした。安全仕様
としては低電圧指令EN61010 - 1:2010,半導体製造装置
の環境,健康,安全に関するガイドラインSEMI S2 - 0310,
ガス
EMC指令 EN61326 - 1:2006,ROHS指令を適合対応する
こととした。図 2 は液体材料気化器AS107のガスフローを
表している。AV1からAV4は空気圧弁,MFMはマスフロー
メーターである。タンク内部にはチャージされた液位の検
出のために,H,M,Lの各液位に対応した3 個の独立した
フロートセンサが搭載されている。
断熱材
ワニス
図 3 流量センサの構造
Fig. 3 Construction of the flow sensor
日立金属技報 Vol. 28(2012) 27
2. 2. 2 高耐熱断熱材の選定と定量化
2. 4 その他の部品の選定
断熱材はセンサコイル周囲の空気の対流による流量の誤
空気圧弁には耐熱温度 200 ℃,耐久性が3,000万回のダイ
検出を防ぐ目的でセンサコイルの周囲に充填している。断
アフラムバルブを採用した。さらに本ユニットを接続する
熱材に求められる特性はその用途から,熱容量が小さいこ
装置側での安全対策として,図 2 に示されている空気圧弁
と,熱伝導率が小さいこと,耐熱温度が高いことである。
AV3に開閉検知センサの搭載が必須となっている。このた
当社の流量センサ断熱材には上記の特性のほか,断熱材の
めAV3にはバルブの開閉検知センサとして光ファイバー式
定量化,定位置化が確実にできることを重要な条件と位置
センサを内蔵したものを採用した。
づけ,特殊な断熱材を採用した。その結果,上流下流の放
液体材料気化器の基本的な要素である断熱材は,標準モ
熱アンバランスによるゼロ点ずれ,断熱材のずれによるゼ
デルで採用しているシリコーンゴムスポンジでは熱伝導度
ロ点ずれの起こりにくい設計となっている4)。
が 0.095 kcal/m・h・℃と大きく,また不燃性タイプでは
耐熱度として150 ℃程度のものしか入手できなかった。今
2. 2. 3 太いセンサチューブおよびバイパス構造
回AS107で採用したシリコーンゴムスポンジは密度が低
SFC16xxFシリーズのセンサチューブは他社との比較で,
く,熱伝導度が 0.051 kcal/m・h・℃であり,標準モデル
径の太いものを採用している。またセンサチューブと同径
の部品のおよそ半分程度まで熱伝導度を低減することがで
のキャピラリーバイパスを採用している。これらの構造は
きた。この新しい部品の耐熱度は200 ℃である。
低蒸気圧の材料気化において,圧力損失の低さ,センサの
タンク内の液位センサ(H,M,Lの各液位に対応してい
詰まりにくさ,
再液化のトラブル低減には特に有効である。
る)には耐熱温度200 ℃のフロートセンサ(リードスイッ
チタイプ)を採用した。
2. 3 流量制御
恒温槽の構造では標準モデルから大幅な見直しが必要で
なおSFC16xxFシリーズでは流量制御バルブを搭載して
あった。標準モデルではラバーヒータが貼り付けられた平
いるが,この温度で適用できる最大のバルブ口径のもので
面上のアルミ板に,空気圧弁やマスフローコントローラ,
もおよそCV値として0.1から0.15前後であり,配管や空気圧
配管などを2次元的にレイアウトし,ヒータの電力密度を
弁のCV値 0.7には遠く及ばない。極めて低い蒸気圧の液体
調整することにより均一な温度分布を得ていた。AS107で
材料の場合には,液体材料の熱劣化を回避するために少し
は各配管部品の大きさが標準モデルより大きいために同じ
でも低い温度での気化が必要となる。たとえマスフローコ
手法が使えず,新しい構造が必要となった。具体的には,
ントローラとして流量制御ができても,最大流量を制限し
必要なガスフローを得るために各配管部品を継手ごとに折
てしまうような流量制御バルブでは,単なるオリフィスと
り曲げて配置した。この結果,3次元的なレイアウトが必
し て の 機 能 し か 提 供 で き な く な っ て し ま う。 そ こ で,
要となったため,これらの配管部品で均一な温度分布が得
AS107では流量制御バルブを搭載しないで,マスフロー
られるようにヒータの電力密度および伝熱方法にさまざま
メーターとして流量計測のみを行うこととした。図 4 は
な工夫を施し最適化した。
A S107で 採 用 し た デ ジ タ ル マ ス フ ロ ー メ ー タ ー
図 5 は今回開発した液体材料気化器AS107の外観図で
FMT16xxFMシリーズの写真である。このデジタルマス
ある。
フローメーターから出力された流量信号を用いてAS107の
外部で,間接的に流量制御することを想定している。
50 mm
50 mm
図 4 高温用デジタルマスフローメーター FMT16xxFM シリーズ
Fig. 4 Digital mass flow meter for high temperature model
FMT16xxFM series
28
日立金属技報 Vol. 28(2012)
図 5 気化器 AS107 の外観図
Fig. 5 External view of the vaporizer model AS107
適用上限温度を拡大した液体材料気化器
3. 評価試験
4. 結 言
AS107の試験品を作成し,機能評価を行った。液体材料
今回,高温度域対応液体材料気化器AS107の開発を行い,
気化器としてもっとも重要な試験項目は,恒温槽としての
次の結果を得た。
機能であり,具体的には内部に配置された配管部品の温度
(1)恒温槽としての温度制御性能としては,CHAMBER
分布である。その中でも気化したガスが流れる経路におけ
(MFM 周辺),TANK(タンク)の各設定温度がそれ
る温度分布が重要であり,図 2 においてAV3からMFM(マ
ぞれ 100 ℃/90 ℃や 120 ℃/110 ℃の組み合わせでは,
スフローメーター)までの各部の温度を計測した。AV3か
温度範囲が最大 2 ℃以下であった。同じく,140 ℃/130
らMFMまでの各部の温度はできるだけ均一なことが望ま
℃,160 ℃/150 ℃,180 ℃/170 ℃の組み合わせでは,
れる。これらの温度はMFM周辺およびタンクに取り付け
温度範囲が最大 8.2 ℃以下であった。
られた各ヒーターおよび温度センサを用いた2 系統の温調
(2)マスフローメーターや液位センサ,空気圧バルブや
系統の設定温度に依存する。図 6 は各設定温度における
その開閉検知センサが仕様通りの動作を行うことを確
AV3からMFMまでの温度範囲を表している。CHAMBER
認した。
(MFM周辺)
,TANK(タンク)の各設定温度がそれぞれ
(3)170 ℃ 以 下 の 温 度 で 使 用 で き る 3,000 万 回 以 上 の
100 ℃/90 ℃や120 ℃/110 ℃の組み合わせでは,温度範囲
ON/OFF 寿命を持つバルブを搭載した液体材料気化器
が最大2 ℃以下であった。同じく140 ℃/130 ℃,160 ℃/
が,実用的な大きさで製品化できた。ALD プロセスな
150 ℃,180 ℃/170 ℃の組み合わせでは,温度範囲が最大
どにおいて適用できる温度が従来製品より高くなり,
8.2 ℃以下であった。恒温槽内部にファンを用いない方式
新しいデバイスの開発に貢献できるようになった。
としては,十分満足できる値である。
5. 謝 辞
9
AS107の製作および評価については,株式会社平井の
8
平野健二氏にご協力いただいた。記して謝意を表する。
温度範囲 (℃)
7
6
引用文献
5
4
3
2
1
0
100/90
120/110
140/130
160/150
180/170
CHAMBER/TANK 設定温度 (℃)
図 6 各設定温度における AV3 から MFM までの温度範囲
Fig. 6 Temperature range at each set point from AV3 to MFM
1 )Robert Chau , Justin Brask , Suman Datta , Gilbert
Dewey, Mark Doczy, Brian Doyle, Jack Kavalieros, Ben
Jin, Matthew Metz, Amlan Majumdar, and Marko
Radosavljevic : Microelectronic Engineering, Volume 80,
2005 年 6 月 , pp. 1 - 6.
2 )斧高一,高橋和生,江利口浩二:J. Plasma Fusion Res.
Vol.85, No.4(2009)185 - 192
3 )公開特許公報:特開 2009 - 74108
4 )田中誠 , 徳久泰一 , 後藤崇夫:日立金属技報 Vol.17(2001)
P115
佐々木 章
Akira Sasaki
日立金属株式会社
配管機器カンパニー
ファインフロー事業部
日立金属技報 Vol. 28(2012) 29
半導体プロセス用 PI マスフローコントローラのアルゴリズム
Algorithms of Latest Pressure Insensitive Mass Flow Controller (PIMFC) for Semiconductor
Arun Nagarajan *
Alexei Smirnov *
半導体産業は非常に高い精度で安定的に制御される必要があるさまざまなプロセスガスを使用し
ている。これらのガスは,熱容量,比重,および密度が異なり,温度によっては流速の変動を引き
起こす場合がある。日立金属が開発したプレッシャーインセンシティブマスフローコントローラは,
流量センサの検出範囲を拡大するとともに独自のマルチガスアルゴリズムを開発することによって,
上流側(一次側)圧のガスの流速が変動する製造プロセスにおいて,高精度で安定したガス質量流
量を供給することができる。さらに,将来のアルゴリズムの設計では,装置上で最適な調整が可能
となること,およびさらに進歩した診断技術を開発することが期待されている。
The semiconductor industry uses a variety of process gases which need to be controlled
with extremely high accuracy and stability. The various process gases that are used have
varying characteristics like thermal capacity, specific gravity and density. These
characteristics when combined with varying temperature and hysteresis can cause
fluctuations in the flow rate. PIMFC product consist of extending the range of the flow
sensor, developing multi gas algorithms.
PIMFC product can provide a constant gas mass flow, despite having fluctuations in inlet
pressure in the piping systems, which is currently offered in the market. In addition, the
future algorithms design is looking into performing on tool tuning, and developing
advanced diagnostics.
● Key
Word:アルゴリズム,PIMFC,マルチガス
Code:PIMFC
● Production
1. 緒 言
● R&D
Stage:Mass-production
を流量制御するとその配管内の圧力が変動する。このよう
な圧力変動が同一配管に接続された他のMFCにも影響を
半導体業界を筆頭に,多くの産業プロセスでは,各種の
与えることがある。
プロセスガスを高い精度で制御する必要がある。ガス流量
圧力変化がMFCの流量制御の精度を低下させることが
の制御にはマスフローコントローラ(以下,MFCと表記)
多いため,理想的には,MFCがこれらの不要な圧力過渡
を使用し,MFCを搭載するガス供給流路には,通常圧力
変動現象を吸収し,配管内の一次側圧力が変動しても流量
調整器(レギュレータ)を設置し,MFCの一次側の圧力
精度を一定に保つMFCを開発し,市場に提供することが
を制御する。圧力調整器に誤差があると,圧力過渡現象を
望まれている。そこで本報では,これらの課題に対応する
生じ,ガス供給流路に対する目標圧力から逸脱することが
ために日立金属が開発したプレッシャーインセンシティブ
ある。このような圧力偏差がMFCに流れるガス流量に変
MFC(以下,PIMFC)について,その性能を検証した。
動を及ぼし,プロセスの歩留まりを悪くする。
中でも,半導体プロセスの場合,プロセス装置に複数の
2. 主な解決すべき課題
チャンバが搭載され,各チャンバに1個または複数のMFC
が搭載される。そのため,ガス供給流路において圧力調整
代表的なMFCは,流量センサ(一般的には熱式流量セ
器がガス供給配管内の圧力を全体的には安定した値に維持
ンサ)
,バイパス,および制御バルブで構成されている。
していても,同一配管に接続された1個または複数のMFC
PIMFCの外観写真を図 1 に,構造図を図 2 に示す。
*
Hitachi Metals America, Ltd.
30
日立金属技報 Vol. 28(2012)
半導体プロセス用 PI マスフローコントローラのアルゴリズム
2. 2 デッドボリューム
MFC圧力変動のもうひとつの原因には,
「デッドボリュー
ム」がある。デッドボリュームとはMFC内の流量センサ
とバルブ間に存在する容積のことを指す。ガスの一次側圧
力が変わると,このデッドボリュームの圧力が一次側圧力
に近似するまで,流量センサを通してガスの流れを生じ
る。流量センサはこの流量を計測し,MFC制御システム
が実流量として認知する。この実流量と無関係な仮想流量,
すなわちBypassの入口と出口の圧力差によってセンサに
発生する仮想出力は,MFCクローズドループアルゴリズ
ムにより流量制御に影響し,実流量の大きな偏差を招くこ
とがある。
20 mm
図 1 開発品 PIMFC
Fig. 1 R&D Product PIMFC
2. 3 バルブ/流量特性
圧力変動のもう一つの影響は,バルブ開度と流量に非線
形な関係を生じさせることにある。高圧の状態で流れるガ
スの流量は,低圧の状態に比べるとバルブの開口度に大き
PC Board/Electronics
く左右される。バルブの構成やセットアップの違いにより,
Control
Valve
バルブ流量特性は,非線形状態を示す。MFCのレスポン
スを高速かつ安定したものとし,制御ループの確実な安定
化を図るために,上記の事実を考慮に入れなければならな
い。
しかし,上記のことはMFCの流量性能を一定にするた
めの圧力の影響を述べたものであり,他にもMFCに間接
的な影響を及ぼす要素が多々ある。したがって,さまざま
Pressure
Sensor
Flow and
Temperature
Sensor
な圧力条件のもとでMFCの性能および流量精度を仕様範
囲に収めることが大きな課題である。
Base
この課題を解決するため,PIMFCは,MFC内に圧力セ
ンサを内蔵し一次側の圧力変動の影響を受けにくいMFC
として,開発,市場に提供した。
Bypass
2942
Gas Inlet
Gas Outlet
3. 主な開発内容と結果
MFC内蔵圧力センサは一次側の絶対圧力および圧力変
図 2 PIMFC 構造図
Fig. 2 Component drawing of PIMFC
動を計測し,MFC制御アルゴリズムで圧力値からバルブ
MFC単体で「一次側の圧力変動に反応しにくい」または
たガス流量を維持する。また,ガス供給配管内の圧力値を
「一次側の圧力変動に影響を受けにくい」流量制御を可能に
MFCから直接得ることができ,装置ガス配管に圧力計の
するためには,以下のことを考慮する必要がある。
開口度を制御し,圧力変動時においても要求仕様に合致し
搭載場所を確保する必要がなくなるため,ユーザに利点を
もたらす。PIMFCのアルゴリズムには,圧力変動に影響
2. 1 コンバージョンファクター(CF)
されにくい機能の他に,MFCの精度,性能,応答性を標
一次側の圧力の変化はMFCにさまざまな影響を及ぼす。
準MFCより著しく向上する多くの機能がある。個々の
マルチガス(以下,MGと表記)対応MFCの場合,例えば,
MFCは,製造プロセス時にきめ細かな自動特性評価手順
重要なガス特性の一つは比熱(Cp)である。MG対応MFC
を実行し,この特性評価データはアルゴリズムにより分析
は,通常容易に入手できる不活性ガス(窒素,Arなど)で
され,基本的なMFC特性のみならず,個々のMFCの特定
校正される。窒素ガス以外のプロセスガスを用いる場合,
性能を明らかにする。得られたデータはMFCメモリに保
既知の窒素の特性,特に比熱を用いてガスの実流量が換算
存され,MFC動作時に最新の制御アルゴリズムにより使
されることがある。窒素とプロセスガスの比熱の比は,通
用される。PIMFCの制御方法およびその特性は,複数の
常コンバージョンファクタ(以下,
CFと表記)と呼ばれる。
特許を取得しており,それはMFC制御ループに関するも
特定の圧力範囲内で仕様範囲内の流量計測精度を維持する
ので通常利用される標準PID制御(比例,積分,微分)と
には,CFは圧力に依存することを考慮する必要がある。
は異なり,以下の3つのことを考慮している。
日立金属技報 Vol. 28(2012) 31
3. 1 コンバージョンファクター(CF)に対応
3. 3 バルブ/流量特性に対応
各種ガス種,その圧力変動に対応するため,きめ細かな
MFCに使用される圧電型および電磁型アクチュエータ
新しい制御ループを適合させ,ガス流量を安定した状態に
の両方に特有のヒステリシスが存在し,その位置はバルブ
維持する。
制御信号の移動方向に依存する。通常はバルブ開口度の変
動に関するすべてのヒステリシス曲線に依存する。例えば,
3. 2 デッドボリュームに対応
図 5 のグラフは,バルブ制御信号が増加し,その後減少す
図 3 に従来のPIMFCの過渡応答波形を示す。この図に
る間に異なる圧力で得られた一連のバルブ位置特性を示す。
は圧力の異なるさまざまなケースの過渡応答波形(初期設
このようにバルブ開口度が定まらないことは,圧力変動
定値および最終設定値は,それぞれ,0 %および100 %で計
に影響されにくい機能(以下,PI機能と表記)の流量精度
測)が重ねられており,その形状はさまざまな圧力でそれ
を低下させる。精度に対するヒステリシスの影響を排除す
ぞれ異なる。また異なる流量設定値間の過渡現象において
るため,製造時に各デバイスのヒステリシス特性を数値化
も同様の値を示す。
し,MFCメモリ内に保存する。MFC動作時にバルブ制御
信号は,ヒステリシス特性の影響を考慮した制御アルゴリ
ズムにより調整されるため,MFCのPI機能が向上する4)。
120
120
80
60
100
40
80
20
0
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
Time(s)
Flow(%FS)
Flow(%FS)
100
p=5
p=10
p=20
p=40
60
40
20
図 3 従来の PIMFC の過渡応答波形の例
Fig. 3 Transient flow curves of previous PIMFC
0
−20
図 4 はPIMFCの場合の過渡応答波形を示す。PIMFCで
0
10
20
30
は接ガス部材構造を見直し最新制御ループアルゴリズムに
40
50
60
70
80
90
100
Valve voltage(%)
よりレスポンスが著しく改善された1)。またさまざまな動
作条件のもとでも,目標値をオーバーすることなく安定的
か つ 高 速 の 過 渡 応 答 性 能 が 達 成 で き る2),3)。 従 来 の
PIMFCより安定しかつ予測可能な過渡曲線を得ることは,
図 5 PIMFC のヒステリシス曲線の例
Fig. 5 Hysteressis characterization of PIMFC
多くの半導体製造プロセスにおいて非常に重要なことで
ある。
4. 総合評価結果(性能確認)
4. 1 PI 性能評価結果
100
90
MFC単体レベルの性能確認後,プロセス装置内の代表
Flow(%FS)
80
70
条件を模擬した実験配管で下記の結果を得た。プロセス装
60
置内の代表的条件を模擬した実験配管系を図 6 に示す。
50
標準MFCおよびPIMFCの流量設定条件を100 %セット
40
ポイント(SP)とし,MFCの上流側圧力の信号をモニタリ
30
20
ングした。ガスを流して10秒後,
大流量MFCをONにすると,
10
配管内の圧力が下がる。その圧力の読み値を図 7 に示す。
0
0
0.2
0.4
0.6
Time(s)
図 4 PIMFC の過渡応答波形の例
Fig. 4 Transient flow curves of PIMFC
32
日立金属技報 Vol. 28(2012)
0.8
1.0
PIMFCの流量の読みは,圧力変動を適正に管理し安定し
ているが,標準MFCの流量の読み値は,流量精度の範囲
から逸脱している。
20秒後大流量MFCをOFFにすると,配管内の圧力が上
昇する。同様にPIMFCの流量の読みは,圧力変動を適正
半導体プロセス用 PI マスフローコントローラのアルゴリズム
Aera
PIMFC
供給圧
ガス供給
供給圧
バルブ
Supply
pressure
Valve
真空ポンプ
フィルタ、
レギュレータ
Filter,
regulator
高流量MFC
Pressure
supply
HIGH
Flow MFC
Vacuum
PUMP
標準MFC
Gas
supply
Standard
MFC
図 6 プロセス装置内の代表的条件を模擬した配管系
Fig. 6 Piping system of test setup to simulate process tool conditions
50
25
100
50
50
25
0
0
10
20
PI-980
高流量 MFC
30
凡例
凡例
標準 MFC
20
Time(s)
30
Time(s)
PI-980
10
pressure(psia)
50
pressure(psia)
Flow(%FS)
100
Flow(%FS)
圧力変動に影響されない MFC 性能
圧力変動による
標準 MFC のクロストーク
圧力
標準 MFC
高流量 MFC
圧力
+ −2.5%SP
+ −2.5%SP
図 7 合流している大流量 MFC の ON/OFF を行った場合の標準
MFC に対する PIMFC 波形の安定性結果の例
Fig. 7 Flow of pressure insensitivity of PIMFC is stable with high flow
MFC against standard MFC
図 8 不安定な一次側圧力の場合の PIMFC 波形の安定性の例
Fig. 8 Flow of pressure insensitivity of PIMFC is stable with inlet
pressure fluctuations against standard MFC
4. 2 MG 適合アルゴリズム
PIMFCは 常 に 改 善 さ れ,MG対 応MFCの 応 答 性 は,
に管理し安定しているが,標準MFCの流量の読み値は,流
MFC製造時に校正ガスを用いて,オーバーシュートを生
量精度の範囲から,さらに大きく逸脱している。
じない最適な過渡応答波形となるよう調整される5)。異種
図 8 は図 6 の配管系で,一次側の圧力が不安定に変動し
のガスを流すと熱式流量センサの特性が変わり,過渡曲線
た場合の標準MFCおよびPIMFCの各応答波形である。こ
が変わる。この方法により,MFC調整パラメータにわず
の図ではPIMFCの安定性において,流量精度範囲内に収
かな変更を加えMFCの応答性もMGに適合する。装置動作
まっていることがわかる。
時にプロセスを中断することなく,変更が自動的に実行さ
日立金属技報 Vol. 28(2012) 33
れる。図 9 は,校正ガスを用いたデフォルトのMFC調整
図10はPIMFCにおいて自動特性評価を行った場合と
を行い,複数のガスを供給しPIMFCのMG適応なしの場合
行っていない場合の比較波形を示す。
とありの場合のPIMFCの応答波形を示している。
120
Non-accurate flow
100
(a)
Flow(%FS)
2.0
1.5
Flow(%FS)
1.0
Accurate flow
Pressure
80
1
2
3
4
60
40
20
0.5
0
0
−20
−0.5
He
Kr
O2
C2F6
−1.0
Ne
Xe
CF4
C3F8
0
2
4
6
8
10
12
14
Time(s)
Ar
N2
SF6
C4F8
図 10 自動特性評価による MFC 性能向上
Fig. 10 On-tool characterization improves MFC performance
−1.5
0
1
2
3
4
5
Time(s)
4. 4 ワイドレンジ MFC
MFCの動作範囲を拡大する目的は,校正ガスの大流量
(b)
域の精度向上だけでなく,MG対応MFCの性能を広範囲な
2.0
流量域において適正化することである。この方法は,熱式
流量センサのブリッジ回路から得た図11に示すような特性
1.5
を利用し,異なるガス種に最新アルゴリズムを使って得た
センサ出力は,少なくとも標準より4倍拡大した流量域に
0.5
(a)
He
Kr
O2
C2F6
−1.0
Ne
Xe
CF4
C3F8
Ar
N2
SF6
C4F8
−1.5
0
1
2
3
4
5
Time(s)
図 9 複数のガスを供給した場合の MFC の応答波形 (a)PIMFC
の MG 適応なし(N2 校正後)(b)PIMFC の MG 適応あり(複
数ガス調整後)
Fig. 9 MFC response for different gases (a) PIMFC without MG (with
caliblation gas N 2 ) (b) PIMFC with MG (after gas-specific
modification)
4. 3 オンツール校正アルゴリズム
最先端のアルゴリズムを使用し,装置動作時のプロセス
実行中に以下の自動特性評価が行われ,MFCの性能調整
が提供される。
①流量立ち上げ時の応答性および過渡特性
②ゼロでない流量設定値のPI特性
③遮断時の過渡曲線
④アイドル状態のPI機能
この調整により,PIMFCのPI機能を改善し,MG対応をし,
高速応答および再現性のある過渡性能を持ったPIMFCを
提供する。ALD(Atomic Layer Deposition:原子層蒸着)
プロセスに重要な機能である。
日立金属技報 Vol. 28(2012)
Sensor voltage(mV)
−0.5
34
Flow readback:Standard sensor
80
0
70
60
50
40
30
N2
SF6
Ar
He
20
10
0
5
10
15
20
25
30
35
Flow(sccm)
(b)
Flow readback:Wide range sensor
80
Sensor voltage(mV)
Flow(%FS)
1.0
70
60
50
40
30
N2
SF6
Ar
He
20
10
0
5
10
15
20
25
30
35
40
45
Flow(sccm)
図 11 流量センサ特性(a)標準 MFC の場合(b)PIMFC で動作
範囲を拡大した場合
Fig. 11 Flow readback (a) standard sensor (b) wide range sensor
半導体プロセス用 PI マスフローコントローラのアルゴリズム
おいても同じ特性が得られている。図11はPIMFCおよび
標準MFCでの異なるガスを流した場合の流量センサ特性
を示している。
Arun Nagarajan
Hitachi Metals America, Ltd.
開発グループ
5. 結 言
半導体業界を主体に各種プロセスガスを高い精度で制御
するMFCにおいて,同一配管系で流量・圧力の異なる構
Alexei Smirnov
Hitachi Metals America, Ltd.
開発グループ
成の場合,圧力変動を伴っても流量精度を一定にする精度
の高いMFCを提供することができた。
さらに,流量立ち上げ時立ち下げ時等の変化時の応答性
を向上させ,プロセス実行中に自動特性評価が行われMG
対応MFCの性能を最適化し,流量範囲を大きくするよう
バルブ構造や熱式流量センサの改善を行った。
今後さらに次世代MFCに続く研究開発を進めていく。
引用文献
1 )US Patent 7603186—Adaptive response time closed
loop control algorithm
2 )US Patent 7640078—Multi-mode control algorithm
3 )US Patent Application Publication 2011/0054702—
Multi-Mode Control Loop with Improved Performance
for Mass Flow Controller
4 )US Patent Application Publication 2011/0180951—Mass
Flow Controller Hysteresis Compensation System and
Method
5 )US Patent Applicat ion Publicat ion 2011/0015791—
Thermal Mass Flow Sensor with Improved Response
Across Fluid Types
日立金属技報 Vol. 28(2012) 35
有限要素法解析および実験によるスマートダイア工法の耐力評価
Flexural Strength Analysis of “Smart Dia” Using the Finite Element Method and Experimentation
高橋 秀明*
新飯田 匠*
伊藤 倫夫*
田中 秀宣*
Hideaki Takahashi
Takumi Niida
Michio Itoh
Hidenori Tanaka
鉄骨造建築物において,上下階の柱サイズが異なる柱はり接合部に用いる新しい通しダイアフラム
工法「スマートダイア工法」を開発した。これにより,建築物のトータルコスト削減と自由度の高い
設計が実現し,また構造設計の簡便化を図った。
本報では,製品の形状決定には 3 次元 CAD によるモデル化および有限要素法解析を用いた最適化
設計を行い,製品の設計を行った。実際の性能を確認するために実大実験を実施した。また,実験結
果と同一なモデルを作成し有限要素法解析を行うことにより,有限要素法解析結果の妥当性について
検証を行った。これらの検証により,
スマートダイア工法は,
建築物の柱はり接合部に要求される剛性・
耐力を満足することを確認した。
New through diaphragm “Smart Dia” used for the column-to-H beam connections with
unequal column width of upper and lower stories was developed for steel structures. This
makes it possible to reduce the total cost and provides a high degree of design freedom for
buildings as well as simplifying the structural design. For this paper, we used 3D CAD
modeling and the finite element method (FEM) analysis to determine the product shape
and optimize the design. An actual-size test was conducted to confirm the actual
performance. Moreover, the validity of the FEM analytical results was verified by
creating the same model as for the test results and subjecting it to FEM analysis. This
verification confirmed that “Smart Dia” has the rigidity and strength required for the
column-to-H beam connections in buildings.
● Key
Word:通しダイアフラム,異幅柱接合,角形鋼管
Code:スマートダイア
● Production
● R&D
1. 緒 言
Stage:Development
Upper
column
Upper
column
Upper diaphragm
鉄骨造建築物では,建築物全体のトータルコストを削減
する目的で,上下階の柱サイズを変えて,使用する鋼材量
を削減することがしばしば行われる。また,内部空間を広
Beam
Beam
Beam
Beam
げる目的で前述のような設計が行われることもある。
これらを実現するために2011年現在行われている対処方
法として,柱はり接合部に図 1 に示す(a)テーパー管を用
Lower
column
Joint panel
(Taper column)
いる方法 1),
(b)上側のダイアフラムに厚肉のダイアフラム
を用いる方法がある。(a)の方法では上階柱からの力を滑
Lower
column
Joint panel
(Straight column)
(a)テーパー管形式 (b)厚肉ダイアフラム形式
らかに下側に伝達することが可能であるが,テーパー管は
設計および製作に時間を要し,また高度な製造技術も必要
である。
(b)の方法では,製作が容易であり施工性に優れ
図 1 異幅柱接合通しダイアフラム
Fig. 1 Through diaphragms with unequal width columns
ているが,ダイアフラムの上下に取り付く鋼管の外面位置
この面外曲げを考慮して柱はり接合部の塑性耐力および剛
がずれることによりダイアフラムに面外曲げが発生する。
性を詳細に検討しダイアフラムの板厚を決定する必要があ
*
36
日立機材株式会社
日立金属技報 Vol. 28(2012)
*
Hitachi Metals Techno, Ltd.
有限要素法解析および実験によるスマートダイア工法の耐力評価
る。しかしながら,この板厚を決定するための設計式は確
(a)
立されておらず,実際の建築物の設計では実施されていな
Upper column
いのが現状である。また,これに用いる厚肉の鋼板は市場
で入手するのが困難である。
そこで,筆者らは前述の課題を改良した新しい柱はり接
合部の工法「スマートダイア工法」を開発した。
本報では,まずはじめにスマートダイア工法の概要およ
Beam
Smart Dia
(Upper diaphragm)
Straight column
(Joint panel)
Beam
び設計法について述べる。次にその設計法に基づき製作し
Lower diaphragm
たスマートダイアを用いて柱はり接合部の実大実験を行
Lower column
い,建築物の構造設計に必要な塑性耐力および剛性を有す
ることを確認した。最後に,
有限要素法解析を用いたスマー
(b)
トダイアの設計方法の妥当性を検証するため,実験結果と
Center
Smart Dia
Beam
(Upper diaphragm)
有限要素法解析の比較を行い本設計方法の有効性について
Side
Corner
確認した。
2. スマートダイア工法の概要
Upper column
2. 1 スマートダイア工法の特長
スマートダイア工法では,上ダイアフラムに特殊な形状
図 3 スマートダイア工法の構造概要(a)構成,(b)接合形式
Fig. 3 Skelton framework of “Smart Dia” (a) component, (b) joint
type
をしたダイアフラム「スマートダイア」を用いる。これに
よりパネル部には下階柱と同じストレート形状の鋼管を使
用することが可能となり,テーパー管のような設計・製作
2. 2 スマートダイアの設計法
の困難さを解消した。
テーパー管形式の柱はり接合部の設計は,柱よりも先に
スマートダイアの外観を図 2 に示す。スマートダイアの
接合部が塑性化しないよう設計を行う。スマートダイアの
中心部は上下柱からの荷重に対し影響が少ない部分である
場合も同様に柱よりも大きな耐力を有するよう設計を行っ
ため薄肉化している。また下面にはスマートダイアの面外
た。
曲げを抑止するためリブ状の補強が施されている。これら
スマートダイアの設計法を以下に示す。上階柱からの荷
の形状は,スマートダイアに発生するあらゆる荷重に対し
重(水平力および軸力)によりスマートダイアには面外曲
最も効率の良い形状を有限要素法解析を用いた最適化設計
げが発生する。その荷重に対し,スマートダイアは十分な
を行って決定したものである。
塑性耐力および剛性を有するよう必要な部分のみを厚くか
つ不要な部分を薄く形状を変更させ,十分な塑性耐力およ
び剛性を有するまで繰返し有限要素法解析を行った。上記
(b)Lower side
(a)Upper side
のような手順による最適化設計を行い応力伝達効率の優れ
たスマートダイアの形状が決定した。
なお,本設計の基準となる塑性耐力および剛性は以下に
35
0
力の評価式を(1)式に示す。
35
0
示す各評価式により評価を行う。スマートダイアの塑性耐
dMp / cMp≧1.3 (1)
(mm)
d Mp:スマートダイアの塑性耐力
c Mp:上階柱の全塑性耐力
図 2 スマートダイアの外観(a)上側、(b)下側
Fig. 2 Outward of “Smart Dia” (a) upper side, (b) lower side
また,接合部の剛性がテーパー管形式の柱はり接合部よ
スマートダイア工法の構造概要を図 3 に示す。本工法
剛性が低下しないことを確認する必要がある。スマートダ
では,柱はり接合部の上ダイアフラムに特殊な形状をし
イアの剛性の評価式を(2)式に示す。
り低下すれば,建築物の全体の構造設計に影響があるため,
たスマートダイアを用いる。上階柱が下階柱に対して柱芯
が一致した中柱形式,一方向に偏心した側柱形式,二方
d K≧t K (2)
向に偏心した隅柱形式すべてに兼用できるよう設計され
d K:スマートダイアを用いた接合部の剛性
ている。
t K:テーパーコラムを用いた接合部の剛性
日立金属技報 Vol. 28(2012) 37
したがって,スマートダイアはテーパー管形式と同等以
Axial load
上の性能を有することから,スマートダイアを用いた柱は
り接合部全体の構造設計は,テーパー管形式の柱はり接合
Horizontal load
3. 実大実験による性能確認
有限要素法解析により形状設計を行ったスマートダイア
1,900
部と同様に行うことが可能である。
Upper column
Smart Dia
の性能(塑性耐力および剛性)の妥当性を確認するため,
Joint panel
表 1 に示す2 種類の実大実験を行った。なお,本章では実験
650
結果について述べ,上記の妥当性については4章で述べる。
表 1 試験体一覧
Table 1 List of specimens
面外曲げ
実験
柱接合
形式
S2530-A-00
□250-□300
中柱
S2530-A-01
□250-□300
側柱
□250-□300
隅柱
S5055-A-02
□500-□550
隅柱
測定は,上階柱の柱頭に作用させた水平力,柱頭変位に
S2530-B-00
□250-□300
中柱
柱はり接合部
実験
ついて測定を行った。また,水平力は漸増交番荷重とし,
□250-□300
側柱
繰返載荷における性能について確認を行った。
□250-□300
中柱
S2530-A-02
S2530-B-01
T2530-B-00
柱はり接合部
形式
Fixed base
柱の組合せ
(mm)
試験体No.
スマートダイア
スマートダイア
テーパー管
(mm)
図 4 試験体(面外曲げ実験)
Fig. 4 Specimen (out-of bending experiment)
スマートダイアには,国土交通大臣認定を取得した材料
(HFW490およびHCW490)を用いた。これらは建築構造
面外曲げ実験は,スマートダイアの面外曲げに対する
用圧延鋼材(SN490)と同等の性質を有する材料である。
性能について確認することを目的とする。スマートダイア
また,本実験では剛性だけでなく塑性耐力の検証も行うた
の上下にサイズが異なる鋼管を溶接にて接合した試験体を
め,スマートダイアを塑性化させる必要がある。したがっ
4 体製作し,実験パラメータを上下柱のサイズ・柱接合形
て上下に接合した鋼管はスマートダイアよりも先に塑性化
式とし,柱サイズの違いおよび接合形式の違いの比較を
しないよう高強度な材料を用いた(表 2 )
。
行った。
柱はり接合部実験は,実際の建築物の柱はり接合部にお
けるスマートダイアの性能を確認することを目的とする。
柱はり接合部にスマートダイアを用いた試験体(中柱・側
柱)
,テーパー管を用いた試験体(中柱)の計3体を製作し,
スマートダイアとテーパー管との性能比較を行った。また
表 2 材料特性
Table 2 Material characteristics
部品
材質
降伏点(MPa) 引張強さ(MPa)
ダイアフラム(S2530) HFW490
400
556
ダイアフラム(S5055) HCW490
412
540
中柱形式と側柱形式における性能の違いについても確認を
行った。
3. 1. 2 実験結果・考察
本実験結果の一覧を表 3 に示す。また,スマートダイア
3. 1 面外曲げ実験
に発生する曲げモーメント(M)と柱頭変位(δ)の関係の
3. 1. 1 実験方法
一例として,試験体S2530-A -02の結果を図 5 に示す。図中
面外曲げ実験は,スマートダイアの面外曲げに対する
の実線は実験結果,点線は剛性の計算値,一点鎖線は上階
性能について確認することを目的とした。試験体の概要を
図 4 に示す。
スマートダイア上面に上階柱を模擬した鋼管を,下面に
表 3 実験結果一覧(面外曲げ実験)
Table 3 List of experimental results (out-of bending experiment)
パネル部を模擬した鋼管を溶接にて接合した試験体を製作
し,パネル部下端を固定,柱頭に軸力および水平力を作用
させ,スマートダイアに曲げモーメントとせん断力を作用
させた。
実験パラメータは,3つの柱接合形式(中柱,側柱,隅柱)
の違いおよび柱サイズの違いによる性能の差異について検
証を行った。
38
日立金属技報 Vol. 28(2012)
スマートダイア
上階柱
塑性耐力
全塑性耐力 dM p/cM p
[dM p]
[cM p]
(≧1.3)
(kN・m)
(kN・m)
計算値
剛性
(kN・m/mm)
実験値
S2530-A-00
18.8
14.7
729
338
2.16
S2530-A-01
15.1
14.7
636
338
1.88
S2530-A-02
17.4
16.1
592
325
1.82
S5055-A-02 103.5
102.2
2,769
1,904
1.45
有限要素法解析および実験によるスマートダイア工法の耐力評価
をパネル部で接合した十字架構の試験体を製作し,上下柱
端をピン拘束,左右はり端にせん断力を作用させ,柱はり
1,200
実験値
計算値
接合部の実大実験を行った。
モーメントM(kN・m)
800
実験パラメータは,パネル部に①スマートダイア+角形
鋼管(S2530 - B - 00)
,②鋼板ダイアフラム+テーパー管
400
(T2530 - B - 00)を用いた試験体とし,パネル部形式の違い
0
が柱はり接合部に与える影響を確認した。また,柱接合形
式の違いについても検証するため,
接合形式を中柱(S2530 -
−400
−800
B - 00)
と側柱
(S2530 - B - 01)の場合について比較を行った。
上階柱
塑性耐力
(cM p)
測定は,はり端部に作用させたせん断力,はりの変位に
ついて測定を行った。せん断力は漸増交番荷重とし,繰返
−1,200
−200
−100
100
0
200
載荷における性能について確認を行った。
スマートダイアの材質は,表 2 に示す面外曲げ実験と同
柱頭変位δ(mm)
じ材質を用いた。また本実験ではパネル部の耐力を評価す
るために,はりを通常の建築物に使われるH形鋼よりも断
図 5 曲げモーメント−柱頭変位(S2530-A-02)
Fig. 5 Bending moment - displacement of the capital
(S2530-A-02)
面積の大きいものを用い,パネル部より先にはりが降伏し
ないよう試験体を設計した。
柱の全塑性耐力(c M p)を示す。なお計算値は上階柱の弾
3. 2. 2 実験結果・考察
性剛性を計算した値である。
本実験結果の一覧を表 4 に示す。また図 7 は各試験体に
M -δ関係は,一般的に建築物に用いられる柱はり接合部
おける荷重(P)とはりの変位(δ)の関係を骨格曲線で表
と同様に紡錘型の履歴特性を示している。
わした図である。なお図に示す計算値は本試験に用いたパ
剛性の実験値(実線)と計算値(点線)はよく一致して
ネル部の材料試験結果を用いて,鋼構造接合部設計指針に
いる。また,塑性耐力(d M p:△ 印)は(1)式を満足して
示されるパネル部の全塑性耐力および剛性を計算した値で
いる。
ある。
その他の試験体についてもM -δ関係は同様な傾向を示
している。各試験体の試験結果を表 3 に示す。剛性の実験
値は計算値と同等以上の結果を示しており,また塑性耐力
もすべての試験体において(1)式の関係を満足している。
本結果より,スマートダイアは十分な剛性および塑性耐
力を有することが確認できた。
3. 2 柱はり接合部実験
3. 2. 1 実験方法
表 4 実験結果一覧(柱はり接合部実験)
Table 4 List of experimental results (column-to-beam connection
experiment)
パネル部塑性耐力(kN・m)
試験体
実験値
計算値
実験値/計算値
S2530-B-00
177
163
1.09
S2530-B-01
183
163
1.12
T2530-B-00
169
128
1.32
柱はり接合部実験は,実際の建築物の柱はり接合部にお
けるスマートダイアの性能を確認することを目的とする。
300
試験体の概要を図 6 に示す。上下階の柱および左右のはり
Upper column
2,000
Shearing
load
Smart Dia or diaphragm
Joint panel
① or ②
Shearing
load
Beam
荷量(kN)
200
100
計算値(S2530)
0
−100
Beam
S2530 - B - 00
−200
S2530 - B - 01
T2530 - B - 00
計算値(T2530)
Lower column
−300
−300
4,000
−200
−100
0
100
200
300
はりの変位(mm)
(mm)
図 6 試験体(柱はり接合部実験)
Fig. 6 Specimen (column-to-beam connection experiment)
図 7 荷重−はりの変位(柱はり接合部実験)
Fig. 7 Shearing load - displacement (column-to-beam connection
experiment)
日立金属技報 Vol. 28(2012) 39
スマートダイアを用いた試験体(S2530 - B- 00:太実線)
以上のことより,有限要素法解析を用いたスマートダイ
とテーパー管を用いた試験体(T2530 - B - 00:細実線)の両
アの設計方法が有効であることを確認した。
試験体ともパネル部塑性耐力(計算値)の近傍で剛性が低
下する傾向が見られる。スマートダイア工法とテーパー管
形式の違いによる剛性および塑性耐力を比較すると,各試
験体とも剛性の値はほぼ一致し違いは見られない。また塑
性耐力は表 4 に示すとおり塑性耐力はほぼ同等の値を示し
ている。
次に柱の接合形式が違う場合について比較を行う。中柱
形式の試験体(S2530 - B - 00:太実線)と側柱形式の試験体
(S2530 - B - 01:点線)を比較すると,剛性・塑性耐力とも
ほぼ同じ値を示しており,柱はり接合部において柱接合形
式の影響は少ないことが確認できた。
4. スマートダイアの設計法の妥当性検証
面外曲げ実験にて行った各試験体(計4体)と実験と同
じ形状を再現したモデルにおける有限要素法解析による解
析結果を比較し差異が無いことを確認することにより,ス
マートダイアの設計法の妥当性を確認した。
実験結果と解析結果の比較の一例を図 8 に示す。図中の
実線は実験値を,破線は解析値を示す。また,△印および
▲印は各結果における塑性耐力をプロットしたものであ
る。
モーメントM(kN・m)
800
:塑性耐力(計算値) dM p/cM p=1.87
:塑性耐力(実験値) dM p/cM p=1.82
600
1.3 cM p=439kN・m
400
c
M p=338kN・m
200
実験値
(骨格曲線)
解析値
0
0
0.005
0.01
0.015
θl(rad)
図 8 モーメント−回転角(S2530-A-02)
Fig. 8 Moment-Angle of rotation (S2530-A-02)
スマートダイアが塑性化するまで両者の剛性はよく一致
している。しかし塑性化後は実験値が解析値よりも低い値
を示している。これは実験では上階柱が塑性化し局部的に
座屈が発生したが,有限要素法解析ではこのような座屈を
考慮していないため耐力の低下が発生していないためであ
ると考えられる。
また,塑性耐力に関しても両者の差異は小さく,かつ(1)
式を十分満足した結果となっている。局部座屈の影響を除
けばおおむね実験値と解析値はよく一致していることを確
認した。
40
日立金属技報 Vol. 28(2012)
有限要素法解析および実験によるスマートダイア工法の耐力評価
5. 結 言
高橋 秀明
Hideaki Takahashi
本報において,実験および有限要素法解析により,建築
物の柱はり接合部に要求される剛性・耐力を満足する新し
日立機材株式会社
テクニカルセンター
い工法「スマートダイア」の開発を行い,次に示す知見を
得た。
(1)有限要素法解析にて設計したスマートダイアを用い
新飯田 匠
Takumi Niida
た柱はり接合部の塑性耐力は,適用する上階柱の塑性
日立機材株式会社
耐力よりも大きいことを面外曲げ実験にて確認した。
テクニカルセンター
(2)柱はり接合部実験の結果より,テーパー管形式と同
等の剛性および塑性耐力を有することを確認した。
(3)有限要素法解析を用いたスマートダイアの設計方法
の妥当性を検証し,スマートダイアの設計方法が有効
であることを確認した。
伊藤 倫夫
Michio Itoh
日立機材株式会社
テクニカルセンター
博士(人間環境学)
6. 謝 辞
田中 秀宣
本報の一部は,大手前大学 田渕基嗣教授,ならびに神戸
大学 田中剛教授をはじめ研究室の方々の指導および協力を
受け行われたものである。ここに記して謝意を表する。
Hidenori Tanaka
日立機材株式会社
テクニカルセンター
博士(工学)
引用文献
1) 鋼構造接合部設計指針,日本建築学会
日立金属技報 Vol. 28(2012) 41
PCパーマロイの初透磁率に及ぼす化学成分の影響
Effect of Chemical Composition on Initial Permeability of PC Permalloy
藤原 義行*
横山 紳一郎*
長塩 隆之*
Yoshiyuki Fujihara
Shin-ichiro Yokoyama
Takayuki Nagashio
工業生産される Ni - Fe - Mo - Cu 系 PC パーマロイの初透磁率μ i に及ぼす化学成分の影響を,微
量元素を含めて明らかにするため,Fe および微量元素(Si,Cr,Co,Mn)の含有量を変動させたパー
マロイの磁気特性を評価した。μ i は,Fe 量と微量元素の変化により顕著に変化したが,この変化は,
磁気的に有効な Ni 原子と Fe 原子の比である P 値パラメータを用いて説明することができた。異な
る含有量の Si,C r,M n を含む数種のパーマロイのμ i は,いずれもよく似た P 値依存性を示し,
P 値 3.3 の時に最大値を示した。一方,Co を微量元素として含む場合にも,μ i は P 値 3.3 で
最大となったが,その値は,Co を含まない場合と比較して低い値を示した。このμ i の減少は,強
磁性の Co の添加による磁歪の変化に起因していると考えられる。
Soft magnetic properties of Ni-Fe-Mo-Cu permalloys, with varying Fe compositions and
some minor elements (Si, Cr, Co and Mn), were investigated in order to clarify the effects of
chemical compositions, including minor elements, on initial permeability, “μi”, of
industrially-produced permalloys. The μi values changed dramatically depending on Fe
compositions and the amount of minor elements. These changes were explained by using a
parameter of P-value, which is the ratio of magnetically effective Ni and Fe atoms. The “μi”
of the tested alloys with different amounts of Si, Cr and Mn exhibited similar P-value
dependences, and the highest value when P is nearly equal to 3.3. The “μi” also exhibited
the highest value at P ≒ 3.3 in permalloys with Co, but the μi values were smaller than
those of permalloys without Co. This reduction in μi values is probably due to the change of
magnetostriction caused by the addition of the ferromagnetic element of Co.
● Key
Word:PC パーマロイ,初透磁率,成分バランス
Code:Ni-Fe-Mo-Cu soft magnetic materials
● Production
● R&D
Stage:Mass-production
Cu等の添加元素の価電子の影響を受けて,磁気的に有効な
1. 緒 言
Ni原子数が希釈されることを考慮し,式(1)2)で示される
パーマロイは,高透磁率を示す質量比で40∼80%(以下,
磁気モーメントを有するNi原子数とFe原子数の比(以下,
質量比を%として記述)Ni-Fe二元合金および Mo,Cu等を
P値と記載)と相関が得られるとしている。
添加した多元系Ni-Fe合金の総称である。特に,PCパーマ
ロイと称される約 80%Niを主成分としたNi-Fe-Mo合金や
Ni-Fe-Mo-Cu合金は,高い透磁率が得られることから,電
流センサーや磁気シールド用途に用いられている。
P= Magnetic Ni / Fe
1
= CNi −
( 5Zi−3 ) Ci CFe
(1)
3 i
Σ
{ }
PCパーマロイの透磁率は,成分の影響を受けやすいこと
で知られ,成分と磁気特性に関する多くの研究成果が報告
C Ni :Ni原子数,C Fe:Fe原子数
されている。特に,R.D.Enoch1)らによる報告が代表的で
C i :添加元素iの原子数
あり,実用的な見地から,加藤2)らによる報告もある。こ
Z i :添加元素iの価電子数
れらの報告では,多元系PCパーマロイの透磁率は,Moや
*
42
日立金属株式会社 特殊鋼カンパニー
日立金属技報 Vol. 28(2012)
*
Specialty Steel Company, Hitachi Metals, Ltd.
PC パーマロイの初透磁率に及ぼす化学成分の影響
過 去 の 研 究 で はPCパ ー マ ロ イ の 主 要 成 分(Ni,Fe,
C 2531)に基づいた磁場0.4 A/mにおける透磁率を初透磁率
Mo,Cu)が変動した場合の透磁率に及ぼすP値の影響に
として定義し,真空の透磁率μ0(4π×10 -7 H/m)で除し
ついて報告されているが,工業規模でPCパーマロイを生産
た比初透磁率μi0.4
(無名数)
を用いてデータの整理を行った。
する場合に含まれる可能性のある微量元素の影響について
は明らかになっていない。また,微量元素が含まれた場合
3. 実験結果および考察
にも式(1)で示されるP値で透磁率を整理することができ
るかどうかは,科学的にも興味深い。それ故,本研究の目
3. 1 比初透磁率に及ぼす微量元素の影響
的は,工業規模で生産されるPCパーマロイに微量元素とし
図 1 は,主成分Fe,Mo,Cu量がほぼ同じで,微量元素
てSi,Cr,CoおよびMnが含まれた場合の初透磁率に及ぼ
Si,Cr,CoおよびMn量が異なる3つの合金 ①(Ni-13.0%Fe-
すP値の影響を明らかにし,その挙動を検証することであ
3.5%Cu-4.4%Mo-0.7%Mn)
,
②
(Ni-13.0%Fe-3.5%Cu-4.4%Mo-
る。
1.5%Mn)および ③(Ni-13.1%Fe-3.5%Cu-4.4%Mo-0.7%Mn0.2%Si-0.2%Cr-0.5%Co)の初磁化曲線を示す。合金①と比
較して,Mn量を増加させた合金②は磁束の立ち上がりが
2. 実験方法
早く,微量元素 Si,Cr,Coを添加した合金③は磁束密度の
本実験に供した合金の化学成分を表 1 に示す。いずれの
立ち上がりが遅れていることがわかる。上記の結果から,
合金もNi-Fe-Mo-Cuを主成分とするPCパーマロイであり,
微量元素 Si,Cr,CoおよびMnが PCパーマロイの透磁率に
合金グループNo.1は Fe量を12.5∼15.1%の範囲で変動させ
影響を及ぼすことが示唆される。
たグループである。また,No.2はMn量を0.29∼1.52%の範
囲で変動させたグループである。さらに,No.3は微量元素
Si,Cr,Coを各々およそ0.2%,0.2%,0.5%添加し,Fe量
0.6
合金No.4および合金No.5は,Si,Crを各々 0.2%とした合金
である。
表 1 に示す成分となるように真空誘導炉で溶解後,10
kgのインゴットを作製した。さらに作製したインゴットの
成分の均質化を目的としたソーキング(1,553 K,28.8 ks)
を行った後,鍛造(1,373 K),熱間圧延(1,373 K)を行い,
板厚2.5 mmの熱延材とした。その後,酸化スケールを除去
Magnetic flux density,B(T)
を11.4∼13.6%の範囲で変動させたグループである。なお,
0.4
0.2
①Ni-13%Fe-3.5%Cu-4.4%Mo-0.7%Mn
②Ni-13%Fe-3.5%Cu-4.4%Mo-1.5%Mn
し,加工率70∼80%の冷間圧延を行って,板厚1 mmの冷
③Ni-13%Fe-3.5%Cu-4.4%Mo-0.7%Mn
-0.2%Si-0.2%Cr-0.5%Co
延材を得た。
0.0
冷延材からプレス加工で外径45 mm,内径33 mmのリン
0.0
1.0
グ試験片を採取した後,水素雰囲気下で温度1,373 K,保持
2.0
3.0
4.0
Magnetic field,H(A/m)
時間10.8 ks,平均冷却速度0.028 K/s(1,373 K∼573 K)
の磁性焼鈍を行った。その後,リング試験片をプラスチッ
クケースに収めて,1次50回と2次100回の巻線を施し,直
図 1 初磁化曲線の例
Fig. 1 Examples of initial magnetization curves
流磁気特性の評価に供した。なお,
本報告では,
JIS規格
(JIS
表1 実験合金の化学成分
Table 1 Chemical composition of experimental alloys
Group/Alloy
(mass%)
Si
Mn
Cr
Co
Cu
Mo
Ni
Fe
P-value
Group No.1
≦0.01
0.66
¦
0.74
≦0.01
≦0.01
3.40
¦
3.49
4.34
¦
4.41
Bal.
12.5
¦
15.1
3.0
¦
3.9
Group No.2
≦0.01
0.29
¦
1.52
≦0.01
≦0.01
3.43
¦
3.49
4.38
¦
4.44
Bal.
13.0
¦
13.3
3.4
¦
3.7
Group No.3
0.19
¦
0.21
0.68
¦
0.70
0.18
¦
0.19
0.49
¦
0.50
3.40
¦
3.48
4.38
¦
4.46
Bal.
11.4
¦
13.6
2.9
¦
3.6
Alloy No.4
0.20
0.67
<0.01
0.01
3.43
4.40
Bal.
13.2
3.4
Alloy No.5
0.01
0.69
0.18
<0.01
3.42
4.39
Bal.
13.2
3.5
No.
日立金属技報 Vol. 28(2012) 43
図 2 は,Mn量を0.29∼1.52 %まで変動させたグループ
そ0.2%,0.2%,0.5%添加したグループNo.3は,Fe量がおよ
No.2の比初透磁率に及ぼすMn量の影響を示す。本実験に
そ11.4∼13.6%の変動範囲において比初透磁率が顕著に変化
供した合金成分の範囲内においては,Mn量の増加に伴い,
し,Fe量12.2%で約400,000の極大値が得られている。しか
比初透磁率が約150,000から400,000までの大きな増加傾向
し,Mnを除く微量元素を無添加としたグループNo.1とは
を示していることがわかる。上述した結果から,微量元素
最適Fe量および比初透磁率の極大値に大きな差が生じてい
MnがNi-Fe-Mo-Cuを主成分とするPCパーマロイの比初透
ることがわかる。
磁率に影響を及ぼしていることがわかる。
上記の結果は,最高の透磁率を示すPCパーマロイの最適
成分が,微量元素Si,Cr,CoおよびMnを含めた成分のバ
ランスによって決定されることを示唆している。また,微
Initial relative permeability,μi0.4(×103)
500
量元素Si、CrおよびCoのいずれかまたは相互の影響により,
Group No.2
透磁率の低下が引き起こされることを示した結果と言え
400
る。
300
3. 2 比初透磁率に及ぼす P 値の影響
200
図 4 に,比初透磁率をP値で整理した結果を示す。なお,
各添加元素の価電子数は,Mo:6,Cu:1,Mn:2,Si:4,
100
Cr:6,Co:5としてP値を算出した。PCパーマロイのFe
量を変動させたグループ No.1(図中○)と,微量元素の
0
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
Mn量を変動させたグループNo.2(図中△)は,ほぼ同一
の曲線上にプロットされることがわかる。また,微量元素
Mn content(mass%)
Siお よ び Crを 約0.2%ず つ 添 加 し た 合 金No.4( 図 中 ◆ )
,
No.5(図中+)もグループ No.1,2とほぼ同じ曲線上に位
図 2 比初透磁率に及ぼす Mn 量の影響
Fig. 2 Effects of Mn content on initial relative permeability
置することがわかる。上述した結果から,微量元素 Si,Cr
および MnがNi-Fe-Mo-Cuを主成分とするPCパーマロイの
図 3 は,グループNo.1∼3の比初透磁率に及ぼすFe量の
透磁率に及ぼす影響は,P値の成分指標を用いて表すこと
影響を示す。微量元素 Si,Cr,Coを無添加としたグループ
ができると考える。
No.1は,Fe量がおよそ12.5∼15.1%の変動範囲において,
比初透磁率は逆V字型に大きく変化し,Fe量14.2%で比初
Fe量をほぼ13.1%で固定し,微量元素Mnを変動させたグ
ループ No.2は,わずかなFe量の変動で比初透磁率が大きな
変化を示している。一方,微量元素Si,Cr,Coを各々およ
Initial relative permeability,μi0.4(×103)
800
Group No.1
Group No.2
Group No.3
600
800
Initial relative permeability,μi0.4(×103)
透磁率の極大値が約700,000を示すことがわかる。また,
Group No.1
Group No.2
600
Group No.3
Alloy No.4
Alloy No.5
400
200
0
2.8
400
3.2
3.6
4.0
P-value
200
図 4 比初透磁率に及ぼす P 値の影響
Fig. 4 Effects of P-value on initial relative permeability
0
11.0
12.0
13.0
14.0
15.0
Fe content (mass%)
16.0
一方,Si,Crに加えてCoを含むグループ No.3(図中□)
も,他グループと同様P≅3.3で最高の比初透磁率が得られ
ているが,他グループと比較して比初透磁率の値が低く
図 3 比初透磁率に及ぼす Fe 量の影響
Fig. 3 Effects of Fe content on initial relative permeability
44
日立金属技報 Vol. 28(2012)
なっている。合金No.4(0.2%Si)および合金No.5(0.2 %Cr)
に比初透磁率の低下が認められないことから,グループ
PC パーマロイの初透磁率に及ぼす化学成分の影響
No.3の比初透磁率を低下させた主要因はCoの影響と推測さ
れ,Coを含む場合にはP値以外の影響についても考慮する
必要があると考える。一般に,PCパーマロイを含めた
Ni-Fe合金は,結晶磁気異方性や磁歪が著しく小さい(≅0)
藤原 義行
Yoshiyuki Fujihara
日立金属株式会社
特殊鋼カンパニー
安来工場
成分範囲で高透磁率が得られるとされる3)。しかし,Co は
Si,Crと異なり強磁性を示す元素の一つであり,磁気的な
相互作用により,PCパーマロイの結晶磁気異方性や磁歪に
変化を及ぼす可能性がある。その変化が比初透磁率の低下
につながったと推察される。
4. 結 言
Ni-Fe-Mo-Cuを主成分とするPCパーマロイにおいて,
微量元素Si,Cr,Coおよび Mnが初透磁率に及ぼす影響に
ついて検討を行った結果,以下の結論を得た。
横山 紳一郎
Shin-ichiro Yokoyama
日立金属株式会社
特殊鋼カンパニー
安来工場
博士(工学)
長塩 隆之
Takayuki Nagashio
日立金属株式会社
特殊鋼カンパニー
安来工場
技術士(金属)
(1)微量元素Si,Cr,Coおよび Mnは,PCパーマロイの初
透磁率に影響を及ぼすことがわかった。
(2)PCパーマロイは,P値≅3.3で初透磁率の極大値が得ら
れ,この値は微量元素Si,Cr,CoおよびMnを添加して
も変化しないことがわかった。
(3)PCパーマロイの結晶磁気異方性や磁歪に変化を及ぼす
可能性がある強磁性元素のCoは,P値の変動に作用する
だけでなく,初透磁率の低下を引き起こすことがわかっ
た。
本研究により,Ni-Fe-Mo-Cuを主成分とするPCパーマ
ロイに微量元素としてSi,Cr,CoおよびMnが含まれた場
合の初透磁率に及ぼす影響が明らかとなった。本研究の成
果から,微量元素のうちCoを含まずおよそP値3.25∼3.40の
範囲に厳しく成分管理されたPCパーマロイは,400,000以
上の非常に高い比初透磁率を得ることが可能であり,地磁
気等の微弱な磁気を遮蔽する必要がある磁気シールド用途
で飛躍的なシールド性の向上が期待できると考える。また,
微量元素Si,Cr,CoおよびMnを含有する場合でも,P値3.10
∼3.55の範囲で100,000以上の高い比初透磁率が得られる結
果から,溶解原料の選定を通じて価格と透磁率の両方に優
れたPCパーマロイを製造することもできると推察される。
今後は,製造プロセスの最適化についても検討を行い,品
質・価格の両面で市場の要望に応えることができるPCパー
マロイを製造するためのさらなる指針を示せるように努め
ていく所存である。
引用文献
1 )R.D. Enoch & A.D. Fudge : High magnetic permeability
in Ni-Fe alloys,Brit.J. Appl. Phys.,17(1966),p623-634.
2 )加藤哲夫,高野正吉,矢萩慎一郎:PC パーマロイ合金の磁
気特性に及ぼす主成分バランスについて,電気製鋼,第 48
巻,第 4 号(1977),p265-270.
3 )近角聡信,太田恵造,安達健五,津屋昇,石川義和:磁性
体ハンドブック,朝倉書店,
(1975),p1085-1090
日立金属技報 Vol. 28(2012) 45
無段変速機(CVT)用金属ベルト用マルエージング鋼の TiN 微細化
Reducing TiN Size in Maraging Steel for CVT (Continuously Variable Transmission)
岸上 一郎*
稲葉 栄吉*
菅 洋 一 **
Ichiro Kishigami
Eikichi Inaba
Yoichi Kan
自動車無段変速機(CV T)に使用される金属ベルト材のマルエージング鋼には非金属介在物 TiN
が含まれ,高サイクル疲労で破断の起点となっていた。著者らは精錬方法を改善することで TiN の
微細化に取り組み,15 μm程度であった TiN を工業生産レベルで 10 μmを大幅に下回る大きさに
制御することを可能とした。これにより金属ベルト材の疲労強度および信頼性が向上し,CV T の普
及に貢献した。
The maraging steel that has been used for metallic belts of continuously variable
transmission (CVT) contained large non-metallic inclusion of TiN about 15 μm in size,
which are the origin of high cycle fatigue failure. Authors have improve a the refining
process to reduce the size of TiN and was successful at controlling the TiN size to less than
10 μm in mass production level. The maraging steel with reduced TiN size improved the
fatigue strength and reliability of the metallic belts, which contributed to greater use of
CVT.
● Key
Word:CVT,マルエージング鋼,TiN
● R&D
Stage:Mass-production
その普及のためには,CVTの主要部品である金属ベルトの
1. 緒 言
信頼性向上が必須であった。そこで著者らは金属ベルトに
自 動 車 無 段 変 速 機CVT(Continuously Variable
用いられるマルエージング鋼の品質改善に取り組み,疲労
Transmission)はエンジン出力を駆動系に効率よく伝達
負荷に対する信頼性を向上した。
できるため,従来のAT(Automatic Transmission)と
図 1 にCVTの仕組みおよび CVTベルトの構造を示す。
比較して7∼15%の燃費向上効果があるといわれている。
テーパーのついた入力側プーリと出力側プーリのそれぞれ
(a)
出力側プーリ
(b)
入力側プーリ
エレメント
プーリ
溝幅:広い
ベルト
ベルト
溝幅:狭い
エレメント
プーリ
(c)
プーリの幅を自由に制御
図 1 CVT の仕組みおよび構造(a)CVT の仕組み(b)CVT 金属ベルトの構造(c)リングセット(ベルト)の構造
Fig. 1 The mechanism of CVT and the structure of a CVT belt (a) mechanism of CVT (b) structure of CVT belt (c) structure of ring set
*
**
46
日立金属株式会社 特殊鋼カンパニー
Hitachi Metals Europe GmbH
日立金属技報 Vol. 28(2012)
*
Specialty Steel Company, Hitachi Metals, Ltd.
無段変速機(CVT)用金属ベルト用マルエージング鋼の TiN 微細化
の幅を拡大縮小し,側面にプーリと同じ角度が与えられて
改善前に使用されていたマルエージング鋼に含まれるTiN
いるエレメントとプーリ中心からの距離を変更することに
の大きさは,10 μmを超え15 μm前後あり,これらの大き
より変速比を自由に設定することが可能となっている。
なTiNが,
高サイクルでの疲労強度に影響を及ぼしていた。
リングセット(ベルト)には,プーリとエレメントの接触
そこで,TiNの大きさが10 μmを大幅に下回ることを目標
面でエレメント表面の摩擦力を確保するために高い張力が
として開発した。
かかる。またリングセットには,高張力状態で同時に繰り
返し曲げ応力も加わるため,疲労強度を高める目的で表面
2. マルエージング鋼中の TiN 微細化検討
に圧縮残留応力を付与する窒化などの表面処理が施される。
CVTベルト用のリングセット材料(リング材)であるマ
CVTベルト用リング材として用いられるマルエージング
ルエージング鋼は,高強度が要求される部材,例えば,ロ
鋼の代表成分を表 1 に示す。
ケット用部品,航空機部品,遠心分離機部品など種々の用
途に使用され,強化元素としてMo,Tiを添加しており,
時効処理を行うことによって,Ni 3 Mo,Ni 3 Tiなどの金属
表1 CVT ベルトに用いるマルエージング鋼の代表成分
Table 1 Chemical composition of maraging steel used for CVT belts
(mass%)
間化合物を析出させて高強度を得ることができる。CVTベ
Ni
Mo
Co
Ti
Fe
ルトに用いられるリング材として必要とされる特性は,強
18
5
9
0.45
Bal.
度以外に,リング状に溶接しても十分な強度が得られるこ
と,非常に高い精度の寸法に加工できる加工性の良さを持
リング材として疲労特性が重要であるため,図 2 で示し
つこと,最終的に窒化して表面に圧縮応力を付与できる窒
たようにTiNおよび酸化物系非金属介在物を微細にするこ
化性の良さが挙げられる。しかし,マルエージング鋼には
とが有利である。そのため,溶解方法として航空機用材料
強化元素としてTiが添加されており,溶鋼中に存在する不
と同様に真空二重溶解を採用した。具体的には,一次溶
可避なNと結びつき,溶鋼中で大きく成長しミクロンオー
解を真空溶解(VIM:Vacuum Induction Melting),二
ダーサイズの非金属介在物TiNを生じることが知られてい
次 溶 解 で は 真 空 ア ー ク 再 溶 解(V A R:V a c u u m A r c
る。このTiNは立方晶であり角張っているため,繰り返し
Remelting)を用いた(図 3 参照)
。VARは,一次溶解で
曲げ応力がかかると疲労破断の起点となりやすい。そのた
つくった鋼塊を高真空中にて消耗電極として用い,その先
め,これがCVTベルトの信頼性を低下させる要因となって
端からアーク放電を行う。消耗電極はその熱により自身の
いた。
先端から溶融し,Cuモールド中に落下し冷却され凝固す
マルエージング鋼の疲労寿命特性についてS-N曲線の略
る。消耗電極直下では,溶融した鋼が液滴として落下する
図を図 2 に示す。自動車の走行距離から考えてベルトの繰
ためプール(溶湯プール)を形成し,ここで非金属介在物
8
り返し曲げ回数を10 以上まで伸ばす必要がある。一般的
などを精錬する。このプールは消耗電極の先端が溶けると
に,高強度材料は高サイクルになるほど内在する介在物が
ともにCuモールド下部から上に移動しながら精錬し,プー
破壊の起点となり1),マルエージング鋼においても疲労強
ルの下には精錬された不純物の含有の少ない鋼塊が形成さ
度に対する介在物の影響が報告されている2)。これらによ
れる。TiNは,非金属介在物であり,大半は溶存したTiお
ると10 7
よびNが凝固中に晶出することによって生成するため,精
を超えると材料内部に存在する非金属介在物を起
点にした破断により,疲労強度が低下する現象がみられ,
錬により除去できない不可避な非金属介在物である。
TiNを小さくするためには,凝固中にTiと結び付いて
TiNを形成するNを低減することが有効と考えた。そこで
Factors of fatigue strength improvement
① Material → High tensile strength
② Surface → High compressive residual stress
③ Inclusion → refinement
Stress
①②
Surface crack
initiation
③
Internal crack
initiation
二次溶解電極用
鋼塊作成
10 7
Number of cycles
図 2 S-N 曲線の概略および疲労強度の改善因子
Fig. 2 Schematic stress-number curve and factors of fatigue
strength improvement
二次溶解
一次溶解
(VIM:Vacuum Induction Melting) (VAR:Vacuum Arc Remelting)
図 3 マルエージング鋼の溶解方法
Fig. 3 Melting process for maraging steel for CVT belts
日立金属技報 Vol. 28(2012) 47
小鋼塊を用い,原料を精選しN含有量を下げることを検討
に考えられる。MgO主体の酸化物は,窒化物系化合物の晶
した。
その結果,
TiNの大きさが小さくなる傾向が得られた。
出または析出の核となる傾向がある。このことにより,一
次に小鋼塊を用いて真空溶解を繰り返すことにより,さ
次溶解の鋼塊中の窒化物は,例えばMgO主体の酸化物を析
らにNを低減することでTiNを小さくすることを検討し
出核とし窒化物-MgO複合体の形態となる。さらに再溶解
た。これは,真空中でTiNをいったん溶解し,さらに溶湯
時に溶鋼表面からMgの蒸発が生じると,複合体の一部を
中のNの含有量を下げることにより,凝固中に晶出する
構成するMgO主体の酸化物がMgと酸素に解離する。その
TiNを小さくすることを目的としたものである。実験では,
ため複合体はMgO部分が消失することにより細かく分解
VARを2回繰り返し実施することにより,VARが1回の場
し,熱分解が促進して窒化物を溶鋼中に完全に溶融させる
合に比べてN含有量を下げることができたが,逆にTiNは
ことができる。これによって,確実に窒化物を溶鋼へ溶け
大きくなることが確認された。
込ませることにより窒化物が溶けきらずに,さらに大きな
この結果は,想定していたことに反することであり,単
窒化物に成長・粗大化することを防止できる。結果として
純にNの含有量を下げるだけでは,目標に達することがで
粗大な窒化物が存在しない鋼塊を得ることができるように
きないことが判明した。そのため,TiN粗大化のメカニズ
なった。
ムを改めて考え,二次溶解であるVARにおけるTiNの挙動
一次溶解で微量元素としてMgを添加したときのVAR後
を図 4 のように推定した。一次溶解で生成したTiNは,
の効果を調べた結果を図 5 に示す。興味深いのは,VARを
VARの溶湯プール中で溶解し,溶湯プールから凝固すると
行った後のTiNの大きさの顕著な差であった。微量元素添
きに再度TiNが晶出・成長する。中には,溶湯プール中で
加なしの場合は,消耗電極中のTiNに比べてVAR後のTiN
溶解しきれないTiNが存在し,凝固するときにTiN晶出の
核(サイト)となり粗大なTiNが生じると考えられる。
のことが考えられた。
(1)VAR で TiN を微細に制御するためには,VAR の溶
湯プール中で TiN を完全に溶解する必要がある。
(2)VAR の溶湯プール中で TiN を完全に溶解するため
には,VAR で溶解しやすい TiN を一次溶解でつくる
必要がある。
8
VAR 後の TiN サイズ(μm)
この推定から,TiNを微細にするための要因として以下
6
4
2
Mg 添加なし
Mg 添加あり
(3)VAR で溶解しやすい TiN をつくるためには,一次
溶解で晶出する一つ一つの TiN そのものの体積を小さ
く制御する必要がある。
0
0
2
TiNに制御できることを見出した。その仕組みは次のよう
TiN
TiNがVAR溶解中で
溶けずに残ると
粗大化の核となる
→冷却水
溶湯プール
溶解 TiN
←冷却水
VARの概略図
図 4 VAR の溶湯プールでの TiN 挙動
Fig. 4 TiN behavior in melting pool of VAR
48
日立金属技報 Vol. 28(2012)
VARで精錬
された鋼塊
8
図 5 Mg 添加有無による一次溶解および VAR 後の TiN サイズ
Fig. 5 The TiN size after the primary melting and after VAR
一次溶解で作った
消耗電極
真空引き←
6
一次溶解後の TiN サイズ(μm)
種々の検討の結果から,一次溶解において微量元素とし
てMgを添加することにより,VARで溶解しやすい微細な
4
溶け残り
核となり
粗大化
TiN
VARの溶湯プールでのTiNの挙動
無段変速機(CVT)用金属ベルト用マルエージング鋼の TiN 微細化
は約1∼2 μm大きくなることがわかるが,微量元素を添加
3. 結 言
した場合は,VAR後のTiNは消耗電極中のTiNと同等の大
きさであることがわかった。このように微量元素の添加に
著者らは,自動車用CVTの金属ベルトに用いられるマル
より,一次溶解で生じたTiNのVARでの粗大化を抑制でき
エージング鋼の特性改善に取り組んだ。その結果,開発し
た。
た溶解・精錬方法により,量産レベルでTiNを改善前の材
次に,一次溶解後の消耗電極中のTiNを調べたところ,
料に比べて大幅に小さくすることが可能となった。これに
微量元素としてMgを添加したものと添加していないもの
より,CVTベルト用リング材の疲労寿命特性が向上し,リ
のTiNの大きさはほぼ同等であった。しかしながら,微量
ング積層枚数の低減を可能とした。この結果,変速機の生
元素を添加したものには,その核に大きな酸化物が認めら
産性向上に貢献するとともに,燃費向上の手段として期待
れた(図 6 参照)
。
されてきたCVTの普及拡大に大きく貢献することができ
た。今後は,これまで培った技術を深耕することにより,
(a)
(b)
酸化物
さらに強度の高い材料,あるいは低コストの材料の開発を
進め,CVTの普及およびCO 2 削減に貢献したいと考えてい
る。
引用文献
5 μm
5 μm
図 6 一次溶解後の消耗電極中の TiN(a)Mg 添加(b)Mg 無添加
Fig. 6 TiN after the primary melting (a) added Mg (b) Mg free
以上の結果,一次溶解で微量元素としてMgを添加する
ことにより,消耗電極中のTiNは微量元素の酸化物を核と
1 )Masuda, Nishijima and Tanaka, Transactions of the
Japan Society of Mechanical Engineers , Series A,
Vol.52, No476,(1985), p847
2 )Murakami, Abe and Kiyota, Transactions of the Japan
Society of Mechanical Engineers, Series A, Vol.53,
No492,(1987), p1482
して保有する。このTiNは内部に酸化物の核を保有するた
め,外観上は同等の大きさでもTiNそのものの体積は少な
い。そこで,二次溶解のVARにおいて,消耗電極中のTiN
を溶解するための入熱量を少なく抑えることができ,VAR
溶解後に再晶出したTiNを粗大化させないことに成功し
た。これにより,製品中のTiNの大きさを10μmよりも大
岸上 一郎
Ichiro Kishigami
日立金属株式会社
特殊鋼カンパニー
安来工場
幅に小さくすることができた。
図 7 に,今回新たに開発した精錬技術によるTiNと,従
来製法によるTiNのSEM写真を示す。日立金属では本技術
を確立し量産にて材料供給を開始している。
Eikichi Inaba
日立金属株式会社
特殊鋼カンパニー
安来工場
(b)
(a)
稲葉 栄吉
菅 洋一
Yoichi Kan
Hitachi Metals Europe GmbH
5 μm
5 μm
図 7 精錬技術の違いによる TiN の大きさ比較(a)従来溶解によ
り生じた TiN(b)開発した精錬法により生じた TiN
Fig. 7 Extracted TiN from different melting processes : (a) TiN from
the conventional melting process (b) TiN from the developed
melting process
日立金属技報 Vol. 28(2012) 49
連続溶融めっき鋼板製造ライン用大型セラミックスロールの実用化評価
Practical Evaluation of Large Ceramic Rolls for Continuous Hot Dipping Steel Sheet Production Line
小川 衛介*
清水 健一郎*
濱吉 繁幸*
Eisuke Ogawa
Kenichiro Shimizu
Shigeyuki Hamayoshi
*
大坪 靖彦
野田 尚昭
Yasuhiko Ohtsubo
Nao-Aki Noda
熊谷 則雄*
Norio Kumagai
高瀬 康
**
**
Yasushi Takase
岸 和 司 ***
菖 蒲 一 久 ***
田 原 竜 夫 ***
前 田 英 司 ***
Kazushi Kishi
Kazuhisa Shobu
Tatsuo Tabaru
Eishi Maeda
古 賀 慎 一 ****
松 田 泰 三 ****
Shinichi Koga
Taizou Matsuda
本技術は,
鋼板の連続溶融めっきラインにおけるセラミックス浴中ロール(サポートロール,
シンクロール)
に関するものである。多くの浴中ロールは,ステンレス鋼に超硬溶射を施したものが使用されているが,
摩耗やめっき浴との反応による腐食などによって,連続生産設備を短期間で停止しロールを交換する必要
があり,鋼板の生産性を阻害する要因となっている。
著者らは,腐食や摩耗を抑え長期安定操業ができるよう,浴中ロールのオールセラミックス化に取り組み,
実用化のための評価を行った。その結果,サポートロールでは 10 本以上を実機ラインに投入し,Zn-Al
合金めっきラインの一例として使用日数延べ 90 週を超えても胴および軸外径摩耗量がφ 0.02 mm 以内
と微小にとどまっていることを確認した。さらに,φ 530 シンクロールの実機評価を実施し,約 4 週間で
鋼板の品質トラブルやロールの摩耗や肌荒れは確認されなかった。現在,φ 700 シンクロールも実機投入
し,長期性能評価中である。
This report concerns ceramic pot rolls (stabilizer roll and sink roll) used in continuous hot
dip coating lines for steel sheet. Many pot rolls are made of tungsten carbide sprayed
stainless steel and they are damaged within a relatively short period of time due to their
insufficient corrosion and wear resistance; therefore, the rolls have to be replaced
frequently and that impedes the productivity of continuous coating process. We developed
all-ceramic pot rolls, which should have little reactivity to the coating bath and be highly
wear resistant for a long term stable operation. As a result, we succeeded in making allceramic pot rolls and have installed more than 10 stabilizer rolls in an actual production
line in Japan. We confirmed that the abrasion-loss for the outer surface of the body is much
smaller than that of conventional pot rolls in an actual Zn-Al line. We have also installed
all ceramic sink rolls with a 530 mm diameter in an actual production line. Wearing,
chapping, or any other trouble have not been found after 4 weeks of operation. Moreover, we
recently made 700 mm diameter sink rolls and they are in the testing stage in an actual
line.
● Key
Word:セラミックス,CGL,浴中ロール
● R&D
Stage:Development
増加に伴い,自動車向けを中心とするめっき鋼板市場1)は,
1. 緒 言
ますます拡大する傾向にある。こうした中,
多くの鉄鋼メー
めっき鋼板は,防錆を目的として鋼板表面にめっきを施
カーでは,国際的な競争激化に対応すべく,生産性向上に
したものであり,建築,家電,自動車などの用途に幅広く
対するニーズが高くなっており,とりわけ高級めっき鋼板
使用されている。さらに,新興国での飛躍的な鋼板需要の
の生産性向上に力を注いでいる。さらに,地球温暖化対策
*
日立金属株式会社
**
国立大学法人九州工業大学 *** 独立行政法人産業技術総合研究所
**** 日新製鋼株式会社
50
日立金属技報 Vol. 28(2012)
*
Hitachi Metals, Ltd.
**
Kyushu Institute of Technology
*** National Institute of Advanced Industrial Science and Technology
**** Nisshin Steel Co., Ltd.
連続溶融めっき鋼板製造ライン用大型セラミックスロールの実用化評価
として省エネ,省資源化志向が強まっていることも,生産
性向上のニーズを高めている。
連続溶融めっき鋼板製造ラインの生産性向上策として,
軸部
早期摩耗、肌荒れ
→振動、めっき液の汚染
胴部
めっきと反応→
合金巻き、溶損、溶射剥がれ→肌荒れ
具体的には,連続操業日数延長,ラインスピード向上,品
全体
熱膨張・
高温強度低下
→ロール変形
ステンレス鋼
質安定化などが挙げられるが,大きな阻害要因となってい
(胴・軸外表面WC‐Co溶射)
るのが浴中ロール(サポートロール,シンクロール)であ
る。そこで日立金属,九州工業大学,産業技術総合研究所,
日新製鋼からなる研究グループは,浴中ロールの耐食性や
めっき鋼板品質の低下
表面損傷による早期交換(2∼3週ごと)
耐摩耗性などを改善し,生産性向上に寄与するため,浴中
ロールをオールセラミックス化する研究に着手した。
図 1 に連続溶融めっき鋼板製造ラインおよびめっき浴中
生産性を阻害
図 2 従来ロールの問題点
Fig. 2 Issues with conventional pot rolls
のレイアウトを示す。めっき浴種としては,亜鉛(Zn)−
アルミニウム(Al )合金めっき,アルミニウム(Al )−シ
(2)胴部や軸部の摺動部が早期に摩耗する。
リコン(Si)合金めっきに大別される。なお,Zn-Al合金は,
(3)溶射層と母材であるステンレス鋼との熱膨張差に起
Znに質量で0.1∼0.2%のAlを含有したものが最も生産量が
因して溶射層の剥離が生じる。
多く,他に質量で55%のAlを含有しためっきなどがある。
(4)熱変形による曲がりが生じる。
本報では,構造用セラミックスとしては,超大型である
(5)塩酸や硫酸などに弱いため,酸洗によるメンテナン
浴中ロールを製造し,実機ラインで評価を行った結果につ
いて報告する。
ス再使用が難しい。
以上のような課題により,浴中ロールの使用期間が長く
なるにつれ,鋼板の傷,振動模様,めっき厚みむらなどの
品質的問題が顕著になるため,短期間でのロール交換や改
連続溶融めっき鋼板製造ライン
スキンパス圧延
害の要因となっている。
冷却
前処理
削・再溶射を余儀なくされており,コスト増加や生産性阻
焼鈍
ロールの交換頻度は,通常2週間に1回程度であり,その
めっき浴
都度ラインを長時間停止せねばならず,停止前後にダミー
鋼板(スクラップにする鋼板)を通す必要があることなど,
出荷
後処理
生産性の低下が生じている。
3. セラミックスロールの製造
めっき浴中レイアウト
めっき後鋼板
ワイピングノズル
スナウト
本セラミックスロールは,鋼板が接する胴体部と軸受が
接する軸部に分割して製造後,接合により一体化する構造
としたものであり,セラミックス材質開発,構造解析によ
鋼板
溶融めっき浴
(460∼690 ℃)
る安全性の評価,大型品の焼結,加工技術とセラミックス
サポートロール
φ200∼350
×1,500∼2,300
(mm)
シンクロール
φ500∼800
×1,500∼2,300
(mm)
同士を接合する組立技術を駆使することにより実現でき
た。
3. 1 適用材質
今回浴中ロール用に開発した高強度耐熱衝撃型セラミッ
クス2)
(以降,開発材と称す)および構造用セラミックス
材として広く適用されているサイアロンの材料特性を
図 1 連続溶融めっき鋼板製造ラインおよびめっき浴中レイアウト
Fig. 1 Continuous hot dipping steel sheet production line and layout
in the bath
表1,組織写真を図 3 に示す 2)∼4)。また,種々のセラミッ
表1 開発材の特性
Table 1 Characteristics of development material
2. 従来ステンレスロールの課題
図 2 に示すように,従来の浴中ロールには,ステンレス
鋼の表面にWC- Co系材料を溶射したものが主に使用され
ており,以下の課題がある。
(1)めっき浴との反応により,溶損や合金化が発生し,
ドロスも付着し , ロール表面が凸凹になる。
特 性
曲げ強度
MPa
開発材
サイアロン
1,050
880
1/2
7.7
7.5
熱膨張係数
×10 /℃
3.0
3.0
熱伝導率
W/m・K
65
17
耐熱衝撃性
℃(ΔT)
1,000
710
破壊靭性
MPa・m
-6
日立金属技報 Vol. 28(2012) 51
ロールは,鋼板の表面品質に与える影響が大きいことから,
(b)
(a)
胴部には継ぎ目を設けない単体構造とし,両端に軸とスラ
窒化ケイ素結晶粒子
スト受けを接合した。シンクロールは,胴部を分割し,分
割した胴部同士をインナーリングで接合し,さらに両端に
粒界ガラス相
軸とスラスト受けを接合した構造とした。
10 μm
10 μm
図 3 開発材の組織写真 (a)開発材(b)サイアロン
Fig. 3 Structure photograph of developed material
(a) developed material (b) SIALON
(a)
胴部単体
スラスト受け1
スラスト受け2
クス材料の中で,耐熱衝撃性および強度面における開発材
軸1
の位置づけを図 4 に示す。開発材は,強度,破壊靱性,耐
軸2
熱衝撃性などの点で優れており,セラミックスの中では浴
中ロールに適した材料と考えることができる。開発材は,
図 3 に見られるように,サイアロンと比べてアスペクト比
を高めた結晶粒とした点に特徴があり,これが熱伝導率を
特殊接合
(b)
胴部1
胴部2
胴部3
胴部4
スラスト受け1
スラスト受け2
高め,耐熱衝撃性の向上に大きく寄与している。
軸1
軸2
高強度耐熱衝撃型セラミックス
開発材
耐熱衝撃性
日立金属製
インナーリング1 インナーリング2 インナーリング3
サイアロン
図 6 構造の概略図(a)サポートロール (b)シンクロール
Fig. 6 Structure of pot rolls (a) Support roll (b) Sink roll
SiC
AlN
ZrO2
Al2O3
軸部およびスラスト受け部は,軸受などによる摺動摩耗
のため,いずれ取り替えが必要となる。したがって,前記
強度
のように各パーツに分割することで,パーツごとの取り替
えを可能とした。以下にその解析結果について述べる。
図 4 開発材の位置づけ
Fig. 4 Characteristic comparison with other ceramics
強度設計に関しては,めっき浴中に浸漬する際の熱衝撃
や操業中に鋼板から受ける荷重を考慮し,耐用可否および
図 5 に開発材およびサイアロンの耐熱衝撃性試験結果を
構造上の問題点をFEM(Finite Element Method:有限
示す 4)
要素法)解析による検討を行い,実機使用に耐用可能であ
イアロンには亀甲状の亀裂が発生したのに対し,開発材に
ることを確認した。
は亀裂の発生はなかった。
まず,浸漬時の熱衝撃について,図 7 にφ540の3 次元円
。800 ℃に加熱した試験片を水中急冷した場合,サ
筒モデルを,溶融亜鉛中に速度25 mm/sで浸漬した時に生
(a)
(b)
じる表面熱伝達係数の解析結果を示す。図中の線は各Z位
置におけるX方向の表面熱伝達係数の変化を示している。
熱伝達係数はXの増加に伴い減少していくが,途中から値
が上向きに転じている。この原因は,円筒モデルの浸漬方
亀裂
向に対し,後尾側の流体に渦が発生しているためである。
割れ無し
図 8 に前記熱伝達係数を用いて解析した浸漬時間と最大
10 mm
熱応力の変化を示す。浸漬開始から25 s後に最大応力82
MPaが,図 9 に示す円筒の上端面内側に発生している。こ
図 5 耐熱衝撃性試験結果:蛍光探傷写真(a)開発材(b)サイアロン
(Δ T=800 ℃水中急冷試験,試験片寸法:φ 60 × 20 t mm)
Fig. 5 Thermal shock test results : Fluorescent penetrate inspection
(a) developed material (b) SIALON ( Δ T=800 ℃ water rapid
cooling test : size of the test-piece φ 60×20 mm)
の値は,表 1 に示す開発材の材料強度と比較して,安全率
3以上を確保できることが確認された。
次に操業中に受ける荷重解析の一例を以下に示す。
胴 径 φ530× 胴 長1,500 mmの シ ン ク ロ ー ル に 関 す る
FEM解析条件およびその結果を図10および図11に示す。
3. 2 構造設計
解析は,分布荷重240 kNという過酷な荷重条件にて行っ
図 6 にセラミックスロールの構造例を示す。サポート
た。引張応力が集中する部分は,胴部中央部および胴端の
52
日立金属技報 Vol. 28(2012)
連続溶融めっき鋼板製造ライン用大型セラミックスロールの実用化評価
軸受
反力
Z=790-800
6000
A
●
Z=780-790
5000
B
●
φ530
Surfase heat transfer(W/m 2・K)
7000
Z=770-780
A
●
軸受
反力
1,500
4000
Z=750760
3000
分布荷重 240 kN
Z=720-730
(mm)
Z=0
2000
r
z
1000
図 10 強度計算条件
Fig. 10 Boundary condition of sink roll
y
X
800
0
−270 −200
−100
u=25 mm/s
0
100
200
σ=123 MPa
A
σ=74 MPa
270
B
x(mm)
図 7 外径φ 540 の 3 次元円筒モデルを u=25 mm/s で溶融亜鉛中
に浸漬した時の X 方向表面熱伝達係数
Fig. 7 Surface heat transfer coefficient as a function of x for a threedimensional cylinder in molten zinc with velocity u=25 mm/s and
diameter D=540 mm
0
Thermal stress
σmax(MPa)
u=25mm/s
60
13 26 39 52 65 78 91 104 117 130(MPa)
接合部であり,その値は,表 1 に示す開発材の材料強度よ
り十分な安全率を有することを確認した。
40
4. 耐食性試験
20
0
0
Bath
16 24 32 40 48 56 64 72 80(MPa) 0
図 11 FEM 解析結果 (図 10 の A,B 点における胴部内面側視野)
Fig. 11 Tensile hoop stress distribution σ (the center (point B) and
the end (point A) of barrel sleeve by Fig.10)
Bath
surface
80
Bath
8
25s
50
100
150
200
Immersion time(s)
セラミックスロールのめっき浴中における劣化挙動を確
認するため,溶融Zn-Al合金および溶融Al-Si合金浴中での
浸漬試験を実施した。
図 8 3 次元円筒モデルにおける浸漬時間と最大発生応力
(外径φ 540、浸漬スピード u=25 mm/s)
Fig. 8 Maximum stress vs. immersion time in molten zinc with
velocity u=25 mm/s and diameter D=540 mm when using a heat
transfer coefficient three-dimensional cylinder model
評価材には,
従来ロール材であるステンレス鋼(SUS316)
にWC-Co溶射を施したもの(以降,
従来材と称す)
,
開発材,
さらに評価を早期に完了すべく,本開発材の製作に先立ち,
耐食性に関しては開発材と同様の性質を有することが 明白
な市販の窒化ケイ素材を一部開発材の代わりに用いた。
試験方法としては,溶融したZn-Al合金およびAl-Si合金
に,5×5×15 mmの棒状の試験片を約10 mmの深さまで
浸漬した後,外観と断面を観察評価した。
まず,Zn-Al合金に対する評価を実施した。試験片を
490 ℃のZn-質量で0.2% Al含有浴中へ45時間浸漬した後,
溶湯中より取り出した開発材外観および従来材断面を図12
に示す。開発材は,付着しためっきが簡単に除去でき,表
面を観察した結果,全く反応していないことを確認した。
The maximum stress
82 MPa
MPa
−230 −197 −164 −131 −98 −65 −32
1
34
67
100
図 9 浸漬から 25 s 後における 82 MPa の最大応力発生部応力分
布(φ 540,外径φ 540,浸漬スピード u=25 mm/s)
Fig. 9 Stress contour map at 25 s where the maximum stress
=82 MPa appears (u=25 mm/s, D=540 mm)
一方,従来材は,溶射層のみならずステンレス鋼母材の部
分まで大きく浸食されていることが観察された。そもそも
ステンレス鋼は溶融Znや溶融Alに腐食されやすい性質を
持っているため,実機においても同様の現象により浸食が
加速度的に進行することが考えられる。
次にA l - S i合金に対する浸漬試験を実施した。図13に
700 ℃のAlに質量で9% Si含有の浴中へ25時間浸漬した後
日立金属技報 Vol. 28(2012) 53
(a)
5. 実機ライン評価
(c)
(b)
SUS
WC-Co
図14に完成したサポートロールとシンクロールの外観写
10 μm
真を示す。
(d)
浴面
溶射剥がれ
(c)
5 mm
(d)
付着めっきは簡単
に除去可能
サポートロール 胴部φ250×2,100 mm
10 μm
(e)
200 mm
(e)
5 mm
シンクロール 胴部φ530×1,500 mm
20 μm
Zn浸入による膨潤
図 12 浸漬試験後の外観および断面観察(Zn-0.2%Al,490 ℃ 45 h
浸漬後)
(a)開発材外観 (b)従来材全体断面 (c)WC-Co 溶
射層断面拡大 (d)WC-Co 溶射層の剥がれ (e)ステンレス母
材への Zn 侵入
Fig. 12 The appearances and cross section views after dipping in
molten Zn-0.2%Al Alloy at 490 ℃ for 45 hrs. (a) appearances of
developed material (b) cross section view of conventional
material (C) enlarge view of WC-Co sprayed layer (d) peeling of
WC-Co sprayed layer (e) penetration of Zn into stainless steel
base material
200 mm
図 14 オールセラミックスロールの外観写真
Fig. 14 100% Ceramic Roll Appearance
サポートロールについては,これまでに10本以上を市場
に投入しており,長期耐久性能を評価中である。初期に
Zn-Al合金めっきラインに投入したサポートロールは,使
の開発材表面および市販の窒化ケイ素材断面を示す。開発
用日数が延べ90週を超えており,胴部および軸部の摩耗状
材は,溶湯中から取り出すとわずかにめっきの付着が見ら
況は,図15に示すように,長期にわたって溶損もなくほと
れるが,簡単に除去できた。さらに市販の窒化ケイ素材と
んど摩耗していない。また,胴部の表面粗さについても投
共に合金との反応層も見られず,浸食は確認できなかっ
入初期の状態を保っていることを確認している。
た。一方,従来材は,溶射層に亀裂が生じて剥離しており,
シンクロールは,浴温が最も過酷なAl-Si合金めっきラ
母材が大きく浸食された。前記のZn-Al合金より高温であ
インにて評価を開始した。ライン条件は,板厚0.3∼1.6
るため,母材と溶射層との熱膨張差が影響しているものと
mm,板幅682∼1,227 mm,ラインスピード最大120 m/
考えられる。
min,鋼板張力最大19 kNである。初期評価としては,浸
漬時の熱衝撃割れ,ロールの回転不良などの操業トラブル
はなく,ロールの異常摩耗や肌荒れも確認されていない。
(b)
開発材
現在,長期性能を評価中である。
3 mm
めっき付着
(c)
胴外径摩耗量(φmm)
(a)
交換
0.10
0.04
セラミックスロール
0.02
0
50
100
150
200
250
300
350
400
延べ使用日数(日)
軸外径摩耗量(φmm)
めっき凝固層
ほとんど変化なし
0.00
100 μm
セラミック
B
軸A B 軸
鋼板
ロール寸法測定箇所
0.06
1 mm
図 13 開発材(左)と市販窒化ケイ素(右)の浸漬試験後の表面
および断面観察(Al-9Si,700 ℃ 25 h浸漬後)
(a)開発材表面(b)市販の窒化ケイ素材断面(c)境界部断面拡大
Fig. 13 The appearances and cross section views of developed
material (Left) and commercial silicon nitride material (Right)
after dipping in molten Al-9%Si Alloy at 700 ℃ for 25 hrs.
(a) appearances of developed material (b) cross section view of
commercial silicon nitride material (c) boundary section enlarge
view of (b)
A
従来ステンレスロール
0.08
2.0
1.8
1.6
1.4
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
交換
従来ステンレスロール
摩耗小
セラミックスロール
0
50
100
150
200
250
300
350
400
延べ使用日数(日)
図 15 セラミックス製サポートロールの摩耗状況
Fig. 15 The wear measured after pickling verses the total days used at
the indicated locations on the ceramic stabilizer roll body and shafts
54
日立金属技報 Vol. 28(2012)
連続溶融めっき鋼板製造ライン用大型セラミックスロールの実用化評価
6. 結 言
熊谷 則雄
Norio Kumagai
当研究グループでは,連続溶融めっき鋼板製造ラインに
おける浴中ロールをセラミックス化するために,各方面か
日立金属株式会社
ロールカンパニー
らの研究開発を系統的に進め,サポートロールに次いで,
シンクロールの製造も可能とし,以下の実機評価の結果を得
大坪 靖彦
た。現在,シンクロールは,φ530に加えφ700も実機に投入し,
Yasuhiko Ohtsubo
長期性能評価を行っている。
日立金属株式会社
特殊鋼カンパニー
(1)サポートロールでは,Zn-Al 合金めっきラインの一
例として,使用日数延べ 90 週を超えても胴外径および
軸外径の摩耗量がφ 0.02 mm 以内と微小であることを
野田 尚昭
確認した。
(2)φ 530 シンクロールの製造に成功し,浴温が最も過
酷な Al-Si 合金めっきラインにて,延べ 4 週の初期実
Nao-Aki Noda
国立大学法人九州工業大学
教授 工学博士
機評価を終え,割損や回転不良による操業トラブルは
なく,ロールの異常摩耗や肌荒れも確認されていない。
高瀬 康
Yasushi Takase
7. 謝 辞
国立大学法人九州工業大学
工学博士
本研究の一部は,平成20年度,21年度の地域イノベーショ
ン創出研究開発事業の支援を受けて行われた。ご協力およ
びご指導いただいた経済産業省九州経済産業局および財団
岸 和司
法人九州産業技術センター他の関係各位に謝意を示す。
Kazushi Kishi
独立行政法人産業技術総合研究所
工学博士
引用文献
1) Review of Continuous Hot Dip Coat in the World. Metal
Resources Report,(2005), p.117-122.
2) S. Hamayoshi, M. Sobue, etc, Improvement in Thermal
Conductivity of Silicon Nitride Ceramics and Their
Applications. Hitachi Metals Report, vol.17; (2001),
p.77-80.
3) R o l l C o mpa ny, S up er S i a l o n P r o duc t s for S t e e l
Manufacturing Industry. Hitachi Metals Report, vol.22 ;
(2006), p.19.
4) Rol l C ompa ny, D evelopment of Super S ia lon for
Industrial Application. Hitachi Metals Report, vol.21 ;
菖蒲 一久
Kazuhisa Shobu
独立行政法人産業技術総合研究所
理学博士
田原 竜夫
Tatsuo Tabaru
独立行政法人産業技術総合研究所
工学博士
(2005), p.23.
小川 衛介
Eisuke Ogawa
日立金属株式会社
ロールカンパニー
前田 英司
Eishi Maeda
独立行政法人産業技術総合研究所
清水 健一郎
Kenichiro Shimizu
日立金属株式会社
ロールカンパニー
古賀 慎一
Shinichi Koga
日新製鋼株式会社
堺製造所
濱吉 繁幸
Shigeyuki Hamayoshi
日立金属株式会社
ロールカンパニー
松田 泰三
Taizou Matsuda
日新製鋼株式会社
堺製造所
日立金属技報 Vol. 28(2012) 55
新製品紹介
高効率変圧器用高 Bs アモルファス金属
High Bs Amorphous Metal for Energy Efficient Transformers
Amorphous metal :Metglas® 2605HB1M
地球温暖化防止の観点から生活イ
上させたため,両者の積である実効
若干小さな鉄損を示すことがわかる。
ンフラとして不可欠な電力供給網で
このことから 2605HB1M は 2605HB1
使用される変圧器においても,世界
飽和磁束密度 B s・LF が 2605HB1 対
比で 2%向上した。これにより変圧器
各国でそのエネルギー変換効率の基
の実効動作磁束密度を上げることが
換効率の高効率化が図れると考えら
準が強化されるなど,高効率化によ
できるため,その小型 ・ 軽量化が図
れる。また,2605HB1M の励磁電力
る CO 2 削減が強く望まれている。
日立金属では高効率変圧器の鉄心
れる。
は約 1.2 T を超える動作磁束密度領
と同等以上に変圧器のエネルギー変
域で 2605HB1 よりも小さな値を示し,
鉄心の磁路方向に 2,000 A/m の直
®
流磁界を加えながら 320 ℃で 1 時間
これは図 1 の直流磁気特性の角形比
2605SA1 および 2605HB1を製品化し
保持する熱処理を行って製作した単
の差に起因していると考えられる。励
ている。今回,2605HB1 の特性を改
相変圧器鉄心の直流 B-H 曲線を図 1
磁電力と変圧器の騒音との間には相
善し,変圧器をより小型・軽量かつ
に示す。2605HB1M は 2605HB1 に
関があることが知られており,励磁電
低騒音化することが容易な新アモル
比べて保磁力が小さく,角形比も良
力が小さいほど変圧器の低騒音化が
ファス金属 2605HB1M を開発した 。
好なため最大磁化力 80 A/m の磁束
図れる。したがって,2605H B1M は
2605H B1 に比べて変圧器の低騒音
用としてアモルファス金属 Metglas
2605HB1Mと 2605HB1の磁気特性と
密度は 2605HB1M のほうが大きい。
占積率 LF を表 1 に示す。2605HB1M
図 2 と図 3 に同鉄心の 50 Hz の鉄
は 2605HB1とほぼ等しい 1.63 T の飽
損曲線と励磁電力曲線の実測値を示
和磁束密度 B s で占積率 LF を 2%向
す。2605HB1M は 2605HB1 よりも
表1 2605HB1 と 2605HB1M の磁気特性と占積率
Table 1 Magnetic properties and lamination factor of 2605HB1
and 2605HB1M
2605HB1
2605HB1M
飽和磁束密度Bs*(T)
1.64
1.63
B at 80 A/m**(T)
1.50
占積率LF(%)
*
実効飽和磁束密度Bs・LF (T)
1.3 T/ 60 Hz
鉄損(W/kg)
1.50
82
84
1.35
1.37
0.17
1.4 T/ 60 Hz
0.50
0
これらの曲線は保障値ではありません。
These curves are typical, not guaranteed.
-10
0
10
20
30
40
50
60
70
80
Magnetic field(A/m)
図 1 単相変圧器鉄心の直流 B-H 曲線
Fig. 1 DC B-H loop of single-phase transformer core
Exciting Power(VA/kg)
Core Loss(W/kg)
Core for Single-Phase Transformer
Annealing Condition: Longitudinal Field
Anneal (320 ℃ 1 hour) Over Lap Joint
Ribbon Width: 170 mm (6.7")
Core Weight: 75 kg
0.6
1.0
Core for Single-Phase Transformer
Annealing Condition: Longitudinal
Field Anneal (320 ℃ 1 hour)
Ribbon Width: 170 mm (6.7")
Core Weight: 75 kg
2605HB1
2605HB1M
0.15
0.10
0.05
これらの曲線は保証値ではありません。
These curves are typical, not garanteed.
1.0
1.1
1.2
1.3
1.4
1.5
1.6
Induction(T)
図2 単相変圧器鉄心の鉄損曲線(50 Hz)
Fig. 2 Core loss curves of single-phase transformer core (50 Hz)
56
0.8
0.50
0.20
0.00
1.0
0.2
0.35
0.25
2605HB1M
2605HB1
1.2
0.4
0.20
* 飽和磁束密度Bsおよび実効飽和磁束密度Bs・LFは保証値ではありません。
**周波数60Hz,最大磁化力Hm=80 A/mの磁束密度。
0.30
Hm= 80 A/m
0.17
0.20
励磁電力(VA/kg) 1.4 T/ 60 Hz
(軟磁性材料カンパニー)
1.4
Induction(T)
合金
1.6
化も容易と考えられる。
日立金属技報 Vol. 28(2012)
0.9
0.8
0.7
Core for Single-Phase Transformer
Annealing Condition: Longitudinal
Field Anneal (320 ℃ 1 hour)
Ribbon Width: 170 mm (6.7")
Core Weight: 75 kg
0.6
0.5
2605HB1
0.4
2605HB1M
0.3
0.2
これらの曲線は保証値ではありません。
These curves are typical, not garanteed.
0.1
0.0
1.0
1.1
1.2
1.3
1.4
1.5
1.6
Induction(T)
図 3 単相変圧器鉄心の励磁電力曲線(50 Hz)
Fig. 3 Exciting power curves of single-phase transformer core (50 Hz)
新製品紹介
3.5GHz 帯 WiMAX/TD-LTE 対応フロントエンドモジュール
Front-End Module for 3.5GHz Band WiMAX/TD-LTE
Front-end module :LSHX-65EHB-DD3
日立金属は,次世代通信方式モ
要とされる高周波増幅器(HPA)
,低
TD-LTE についても使用可能な周波
バイル WiMAX と TD-LTE(Time
雑音増幅器(LNA),送受信切替えス
数帯域がある。この 3.5 GHz 帯は,
Division - Long Term Evolution)両方
イッチ(Switch),バンドパスフィルタ
GSM,WCDMA,W-LAN(Wireless
の 3.5 GHz 帯のシステムに対応したフ
(BPF),バラン(BAL)など多くの機
LAN)などの既存の通信システムで
ロントエンドモジュール(6.0 × 5.0
能を 1 部品に集積化した。ブロック回
多く使用されている周波数帯域から大
× 1.2 mm)を製品化した(図 1)
。
路図を図 2,高周波特性を表 1 に示
きく離れているため,これらの周波数
スマートフォンに代表される携帯端
す。高周波回路設計技術や LTCC
(低
との干渉が無く,次世代通信システム
末機器は大容量・高速通信可能な環
温同時焼成セラミック)積層技術,ベ
用として,世界的にも重要な周波数帯
境が求められている。これらを実現
アチップ搭載技術を活用することで送
域になると推測されている(図 3)
。
するための次世代移動体通信方式に
信時,出力 +23 dBm のときにモバイ
は,モバイル WiMAX と TD-LTE の
ル WiMAX 用としてゲイン 29.5 dB,
TD-LTE 対 応 通 信 機 器 は,USB や
2 つが有力とされている。2 つの通信
EVM * 3.0%,TD-LTE 用としてゲイ
Mini-PCI カードなどで使用されること
方式はどちらもTDD(Time Division
ン 28.0 dB,EVM 1.5%,高機能高
が多いため製品のダウンサイジングが必
Duplexing:時分割多重)方式である
集積化を実現した。
要であり,開発品は,これら RF フロン
ため RF フロントエンド部は共通化が
また モ バ イル WiMAX ならび に
トエンド部の小型化に貢献可能である。
使用する 3.5 GHz 帯は世界各国で
可能である。
(情報部品カンパニー)
次世代移動体通信用周波数として割
そこで,アンテナと RF-IC 間に必
* EVM:Error Vector Magnitude エラーベクトル振幅
り当てが有り,モバイル WiMAX と
2.5 2.7
Mobile WiMAX
2.3 2.4
3.3
3.8
2.57 2.62
1.90-1.92
TD-LTE
3.4
2.01-2.03 2.3 2.4
GSM900
GSM1800
0.88 0.96
BAL 1
Tx1 −
Tx1 +
Rx2 −
Rx2 +
BAL 3
LPF 3
2.17
2
3
4
5
6
図 3 代表的なモバイル通信用割り当て周波数帯域
Fig. 3 Frequency allocation of typical mobile communications
ANT 1
表1 モバイル WiMAX と TD-LTE の特性比較
Table 1 Specification of mobile WiMAX and TD-LTE
Parameter
System
ANT 2
LNA2
BPF 2b
5.9
Frequency(GHz)
HPA
BAL 2
4.9
W-LAN(11g) W-LAN(11a)
1.92
1
LNA1
BPF 3
1.88
WCDMA
BPF 1a Switch
BPF 1b
Rx1 −
Rx1 +
1.71
2.4 2.5
5 mm
図 1 フロントエンドモジュール(LSHX-65EHBDD3)の外観
Fig. 1 Appearance of front-end module
(LSHX-65EHB-DD3)
3.8
Mobile WiMAX
BPF 2a
Frequency
Gain**
EVM**
(GHz)
(dB)
(%)
3.3 - 3.4
29.5
3.5
3.4 - 3.6
29.0
3.0
3.6 - 3.8
26.5
3.5
28.0
1.5
26.5
1.5
3.4 - 3.6
図 2 3.5 GHz 帯モバイル WiMAX、TD-LTE 用フロントエンド
モジュールのブロック回路図
Fig. 2 Block diagram of front-end module for 3.5 GHz band WiMAX/
TD-LTE
TD-LTE
(band42)
3.6 - 3.8
(band43)
** at the Tx output level is +23dBm
日立金属技報 Vol. 28(2012) 57
新製品紹介
内蔵型 FMラジオ用アンテナ
Surface Mount Type Antenna for FM-Radio
Antenna : KSWA-T010B
高透磁率,低損失フェライト材コア
いため受信には大きなアンテナサイズ
低損失のフェライト材を有し,さらに
に巻線を施し,表面実装可能なケー
を要する。2011 年現在,イヤホンケー
各種巻線コア製品の生産実績を支え
スに収納した高性能と小型形状を両
ブルがアンテナ兼用タイプや大面積
るプロセス技術も保有している。これ
立させた携帯端末内蔵型 FM ラジオ
の放射電極をリヤケースにインサート
らの技術を活用して開発に着手,目
用アンテナを開発,製品化した。製
したケースタイプが主に採用されてい
標とする性能を得た。
品サイズは,10 × 2 ×1.5 mm である。
るが,取り扱いの煩雑さやデザイン
本アンテナは,従来アンテナ方式
外観と仕様を図 1,表 1 に示す。
制限などでアンテナ内蔵化および小
に比べ実装面積が大幅に縮小され ,
型化の市場要求が高まっている。
携帯端末の筐体設計自由度が大きく
FM ラジオ放送は , 国内では 76-90
MHz,海外では 88-108 MHz の帯域
そこで携帯電話基板への表面実装
なる。また携帯電話メーカーの受信
が割り当てられており , 携帯電話にお
を前提として感度の高いチップタイプ
感度評価でも一般的なケースタイプと
いては VHF 帯主要アプリケーション
巻線アンテナに着目した。感度を落
同等な感度を有することが確認され
の 一 つとなって いる。図 2 に 現 在
とさず小型化を同時に成立させるに
ており,携帯電話に適した小型・高
VHF 帯で使用されている周波数配置
は FM ラジオ放送帯域で低損失の材
性能な内蔵型 FM ラジオ放送用アン
を示 す。 携 帯 電 話メーカー各 社も
料と微小部品でも安定して巻線可能
テナとして拡販を進めている。従来ア
FM ラジオ用受信アンテナを開発して
なプロセス技術が必要となる。
ンテナとの比較を表 2 に示す。
いるが,FM ラジオ放送で使用する
日立 金 属は 材料 開 発 技 術により
周波数帯の波長は 2.7 ∼ 3.9 m と長
FM ラジオ放 送帯域でも高透磁率,
表1 製品仕様(KSWA-T010B)
Table 1 Specification of KSWA-T010B
2
10
Characteristics
図 1 内蔵型 FM ラジオ用アンテナ外観(KSWA-T010B)
Fig. 1 Surface mount type antenna for FM-radio KSWA-T010B
FM
76
DVB-H®
174
88−108
MHz
Input lmpedance
50
ohm
Dimension(L×W×Tmax)
10×2×1.5
mm
Core(material)
Soft ferrite
−
Bobbin[case]
(material)
Resin
−
Wire(material)
Copper
−
240
Antenna type
T-DMB
174
240
ISDB-Tsb
90
[Mobile phone]
106
ISDB-Tmm
208
50
100
150
Unit
表 2 開発アンテナ(KSWA-T010B)とその他アンテナとの比較
Table 2 Comparison with KSWA-T010B and conventional antennas for
FM-radio
Radio
108
Typical value
Applying frequency
(単位:mm)
1.5
(情報部品カンパニー)
200
222
:FM Radio Band
:Digital Video Broadcasting-Handheld
:Terrestrial Digital Multi-media Broadcasting
:Integrated Services Digital Broadcasting Terrestrial for
Sound Broadcasting
ISDB-Tmm:Integrated Services Digital Broadcasting Terrestrial Mobile
Multimedia Broadcasting
Case
Plate antenna
(In mold)
Chip antenna
w
(KSWA-T010B)
L
Rear case
250(MHz)
FM
DVB-H
T-DMB
ISDB-Tsb
Surface mount
(Chip)
Earphone
Earphone cable
L
Special case
Board
Inner circuit
board [Reverse]
Antenna size
LxWxT
(mm)
10 x 2 x 1.5
40 x 40 x ---
L = 1,100
Feature
○
SMD*
△
Special case
○
Gain
®
DVB-H is registred mark of DVB project.
図2 VHF 帯の周波数配置
Fig. 2 Frequency allocation of VHF band
58
日立金属技報 Vol. 28(2012)
*SMD:Surface Mount Device
新製品紹介
温水パネル
Hot Water Panel for Snow Melting System
Hot water panel
積雪地域においては,積雪による交
通障害の低減や歩行者の安全確保,
り,効率のよいシステムの開発が望ま
パターンで形成し,
圧力損失を抑えた。
れている。
システムの例を図 3 に,製品の特長
を以下に示す。
日立金属では,薄板鋼板を用いた
鉄道等の安全運行を目的としてさまざ
まな雪害への取り組みがなされている。
熱交換器を製作し,水源が不要で騒
雪害対策としては,直接散 水して
音や凍結の心配がなく,省エネルギー
(1)高い放熱性能
放熱面は厚さ 2.3 mm の鋼板であ
融雪を行う散水融雪方式と,パイプ
性に優れた温水パネルを製品化した。
り,流路を循環する熱媒体の熱は鋼
やパネルを敷設し,温水を循環させて
製品の外観を図 1 に示す。
板のみを介して交換されるため,低温
熱源でも融雪が可能(図 4)
。
融雪する無散水融雪方式の 2 つの方
この温水パネルは,歩道や道路脇
法がある。地下水が豊富で気温が比
あるいは鉄道軌道脇に設置し,除雪
較的高い地域では散水融雪方式が,
車によって集められた雪を,パネル内
鋼板製の流路が剛性を受け持つた
気温が低く散水の凍結が問題となる
を循環する熱媒体と熱交換し,融雪
め,歩廊としても使用可能な強度を有
場所や水源の確保が困難な場所で
を行うものである。図 2 に融雪運転の
は,無散水融雪方式が採用されるこ
状況を示す。
(2)耐荷重性
する。
(3)耐食性
溶融亜鉛めっきを施し,塩害地域
構造は,薄板鋼板で放熱面を形成
とが多い。
いずれの方式も,資源の循環利用
し,これに流路部を溶接した構造に
と省エネルギーへの要請が高まってお
なっている。流路部は連続した台形
(a)
でも使用可能。
(配管機器カンパニー)
(b)
(a)
(b)
(c)
200 mm
200 mm
図 2 融雪運転状況(a)運転開始 ,
(b)15 分後 ,(c)45 分後
Fig. 2 Example of snow melting
operation (a) start, (b) 15min.
later, (c) 45min. later
温水パネル
補給水
(不凍液)
加熱機
膨張
タンク
循環ポンプ
Amount of heat radiation (W/m2)
図 1 温水パネル(幅 2,735 mm ×奥行 950 mm)の外観 ,(a)放熱面,(b)流路面
Fig. 1 Appearance of hot water panel (a) heat radiation side, (b) channel side
7,000
Panel inlet temp.
:8℃
6,000
:12℃
5,000
:15℃
4,000
:30℃
3,000
2,000
1,000
0
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
1.2
1.4
3
Flow rate (m /h)
図 3 温水パネルシステム例
Fig. 3 Example of hot water panel system
図 4 温水パネルの放熱特性
Fig. 4 Heat radiation characteristics of hot water panel
日立金属技報 Vol. 28(2012) 59
新製品紹介
原子力発電用 CRD ハウジング材
Control-Rod-Drive Housing Material for Nuclear Power Generation
Control-rod-drive housing material
CRD(Control-Rod-Drive /制御棒
ることから,溶接部のない CRD ハ
/全長(約 5 m)となる寸法精度を
駆動機構)は,原子力発電において
ウジング材がプラントメーカーより
達成した。
核分裂反応を制御するために用いら
要求されていた。
れる(図 1)
。そのハウジングは原子
しかし,この製造工法を採用する
日立金属は,この要求に対して,
と,深堀孔加工で多量の切削屑が発
炉保安上の最重要部品のひとつであ
フランジ部に相当する部位のみを大
生することになる。さらに,深堀孔
り,耐食性に優れるステンレス鋼が
径に鍛造し,残りの部位は小径に鍛
加工では加工油を多量に送り込むこ
用いられている。
造する段付き鍛造を実施し素材を作
とで切削屑の排出を行うため,その
1990 年代より運転が開始された
製,深堀孔加工を採用することで,
切削屑には多量の加工油が付着して
ABWR(Advanced Boiling Water
溶接部のない製品を開発した(図 3)
。
おり,再利用(スクラップとして電
Reactor /改良型沸騰水型原子炉)の
段付き鍛造については,航空機用
気炉で溶解し再生する)が困難であっ
CRD ハウジングは , フランジ部を有
エンジンシャフトで培った技術を長
た。この課題に対して,切削屑の脱
する長さ 5 m の長尺パイプ品である
尺・大径に対応できるよう改善する
脂方法を検討することで,洗浄用溶
ことで実現した。
剤等を使わず,切削屑を再利用する
(図 2,3)
。当初 , パイプにフランジ
部を溶接し製造されたが,溶接され
深堀孔加工は,加工諸元を鋭意検
た部位の品質保証は非常に複雑にな
討し,外径と内径の芯ずれが,1 mm
技術を確立した。
(特殊鋼カンパニー)
250
150
120
5,000
(mm)
図 2 CRD ハウジング材の概略の納入形状
Fig. 2 Schematic delivery shape of CRD housing material
CRD制御棒駆動機構
図1 改良型沸騰水型原子炉の構造
(日立 GE ニュークリア・エナジー(株)提供)
Fig. 1 The architecture of advanced boiling water reactor
Photo credit : Hitachi-GE Nuclear Energy, Ltd.
100 mm
図3 CRD ハウジング材の納入状態
Fig. 3 Appearance of CRD housing material as the delivery shape
60
日立金属技報 Vol. 28(2012)
新製品紹介
固体酸化物形燃料電池用インターコネクタ材
Alloy for SOFC Interconnects
SOFC interconnects :ZMG®232L,ZMG®232J3,ZMG®232G10
料に近い熱膨張係数である。日立金
低下を引き起こし,電池寿命を低下さ
Solid Oxide Fuel Cell)は,発電効
属では,上記の要求を満たすため,
せる。そこで,耐酸化性向上による酸
率が高く,天然ガス・灯油等の多様な
Fe - Cr フェライト系合金をベースとし,
化皮膜の薄膜化を狙った合金設計に
燃料に対応可能で,家庭用分散電源
SUS430 等の市販合金対比で優れた
取り組んだ。その結果,耐酸化性(図
固体 酸化物形燃 料電 池(SOFC:
®
から火力発電との複合発電まで広く適
耐酸化性(図 2)を有する ZMG 232L
3)と接触抵抗(図 4)を改良した新
応できる等の特長を有するため,実用
を 2005 年に開発した。
合 金 ZMG232J3,ZMG232G10 を開
化に高い期待が寄せられている。
本稿で紹介する開発合金は,この
発し,
2011年より市場投入を開始した。
SOFC を構成する部品であるイン
ZMG232L をベースとし,SOFC の実
このうち ZMG232G10 は SOFC の劣
ターコネクタ材は,セラミックス製の
用化に向けて電池の長寿命化に貢献
化要因となる Cr 蒸発も改良した。
セル(燃料電池の単位)間を作動温度
するための改良を加えたものである。
(700-850 ℃程度)で電気的に接続す
SOFC の作動温度において,金属イ
技術総合開発機構(NEDO)の委託
なお,本稿は新エネルギー・産業
ンターコネクタ材の合金表面には酸化
研究「固体酸化物形燃料電池システム
インターコネクタ材への主な要求特
皮膜が形成される。この皮膜の膜厚
要素技術開発」で得られた成果を含
性は,作動温度での①良好な耐酸化
増加が接触抵抗を増加させ,ひいて
むものである。
性,②良好な電気伝導性,③セル材
はインターコネクタ材における電圧の
る部材である(図 1)
。
(特殊鋼カンパニー)
Air
e
-
Cathode
Cell
Electrolyte
O
2
-
Interconnects
Anode
e
-
Fuel
Oxidation weight gain(g/m2)
70
ZMG232L
430ss
60
50
Test piece:10 mmφ×20 mmL
40
30
20
10
850 ℃, in air
0
図 1 SOFC の構造模式図
Fig. 1 Schematic figure of SOFC
0
1,000
2,000
3,000
4,000
Exposure time(hours)
図 2 ZMG232L の酸化増量の時間変化
Fig. 2 Oxidation resistance of ZMG232L compared with
commercial alloy, 430ss
Oxidation weight gain(g/m2)
30
Test Piece:3 mmt×10 mm×10 mm
25
ZMG232L
ZMG232J3
20
ZMG232L
ZMG232G10
15
ZMG232J3
Preliminary oxidized at
850 ℃ for 1,000 hours
10
Measured at 750 ℃, in air
5
850 ℃, in air
ZMG232G10
Test piece:
3 mmt×10 mm×10 mm
0
0
1,000
2,000
3,000
Exposure time(hours)
図 3 開発合金の耐酸化性
Fig. 3 Oxidation resistance of developed alloys
4,000
0
5
10
15
ASR(×10-7Ω・m2)
図 4 開発合金の接触抵抗
Fig. 4 Electrical contact resistance of developed alloys
日立金属技報 Vol. 28(2012) 61
新製品紹介
CIGS 型太陽電池用スパッタリングターゲット材
Sputtering Target Material for CIGS Solar Cell
Sputtering target :Cu-Ga target
ら,全世界的に商業化への動きが活
スパッタリングでの均一な膜分布が期
コン系が主流であるが,シリコンの供
発化し,大きな転換期を迎えている。
待できる。また平滑なエロージョン面
給不足,製造コストが高いなどの問
図 1 に CIGS 型太陽電池の一般的な
の実現によりパーティクル抑制効果も
題から薄膜系の太陽電池が注目され
セル構造と断面の顕微鏡像を示す。
期待できる。図 2 にその粉末焼結材
2011 年現在,太陽電池は結晶シリ
日立金属は,CIGS 太陽電池の裏
と一般的な溶解材のミクロ組織の比
面電極用の Mo を量産してきた。そ
較を示す。図 3 では密度ムラが認めら
Ga,S e の化合物を用いた CIG S 型
の知見をもとに CIGS 層(光吸収層)
れず高密度であることが確認できる。
(Cu(In,Ga)Se2)太陽電池は,薄膜
太陽電池の中で最も高い変換効率が
に使われる Cu- Ga ターゲット材を製
また 表 1 の 不 純 物 分 析 結 果 から
品化した。製法は,合金アトマイズ粉
CIGS 素子に有害な Fe,Ni を低減し
得られる。その CIGS 太陽電池はモ
末によるホットプレス焼結法である。
た高純度のターゲット材であると言え
ジュール製造販売各社による屋外暴
本製造法によるターゲット材の主な特
る。
露試験や加速劣化試験により大面積
徴は,①粒径が均一微細,② Ga が
国内太陽電池メーカーへ量産評価
モジュールの長期安定性が確認されて
均 一に分 布, ③ 高 密度( 相 対 密度
用サンプルを 2011 年 6 月に出荷した。
おり,安全面・環境面においても問
99%以上),④高純度(純度 99.99%
出荷したサンプルを図 4 に示す。
題ないことが 確認されていることか
以上)が挙げられる。これらにより
ている。
中でもシリコンを使わず,Cu,In,
Composition
−
(特殊鋼カンパニー)
Cu-23.3Ga(at%)
Cu-30Ga(at%)
ZnO
Al
ZnO:Al
ZnO
CBD-CdS
CIGS
CIGS
Powdery
sintering
material
+
200 m
200 m
200 m
200 m
Mo
Mo
1μm
Soda lime glass
Melted
material
図 1 CIGS セル構造の例
Fig. 1 Cell structure of CIGS
(a)
Tissue
morphology
(b)
β phase+γ phase
γ single phase
図 2 粉末焼結材と溶解材のミクロ組織比較の例
Fig. 2 Microstructure comparison between powdery sintering
material and melted material
From front
From side
50 mm
図 3 Cu-30Ga(at%)焼結材の(a)外観と(b)超音波探傷結果
Fig. 3 Cu-30Ga (at%) sintering material (size:T 12×H 240×W 285
mm) (a) appearance and (b) ultrasonic testing map
Size:T 11×H 214×W 1,600 mm
図 4 Cu-30Ga(at%)量産サンプル外観
100 mm
Fig. 4 Cu-30Ga (at%) target mass production sample appearance
表 1 Cu-30Ga(at%)ターゲットの分析値の一例
Table 1 Typical purity level of Cu-30Ga (at%) target material
主成分
(mass%)
62
不純物
(mass%)
Cu
Ga
C
N
O
Fe
Ni
Cr
Bal.
31.75
0.0015
0.0002
0.0099
0.0005
0.0001
0.0001
日立金属技報 Vol. 28(2012)
100 mm
新製品紹介
プレス金型,チタン合金加工用ラフィングエンドミル
Indexable Roughing End Mill for Press Mold and Titanium Alloy
Indexable roughing end mill : AME
金型生産に使用される工作機械に
加工においては工具側に熱が流入し
シャープエッジ切れ刃を持つイン
は,高速加工対応可能なマシニング
て工具損傷が早期に発生してしま
サートを開発した(図 2 )
。
センタが多く採用されている。しか
い,高速高能率加工を行うことが困
本製品を使用したプレス金型加工
し,プレス金型の構造部や基準面
難である。そのため,一般的にチタ
事例では,切削音を FFT 解析して
の加工では,工具突き出し長さが
ン合金の荒加工では低速で深く切り
振幅と周波数の関係を示すパワース
200 mm を超えるような加工も多々
込む場合が多く,切込量の増加が可
ペクトルを求めた(図 3 )。解析結
あり,切削加工で生じる振動を抑制
能なラフィングエンドミルの要望が
果から,従来工具に対して振動を抑
するために,低速回転で使用せざる
市場では多くある。
えた高能率加工が実現されているこ
を得ない。そのため,低速回転域に
日立ツールでは,これらの要望に
とを確認できた。また,チタン合金
おいてのトルク出力不足が発生して
応えるため「アルファラフィングエ
の加工事例(図 4 )では,従来工具
しまう。そこで,主軸回転が低速で
ンドミル AME 形」
(図 1 )を商品
に対して工具寿命が 140%となり,
ある場合も使用が可能な低抵抗な切
化した。金型加工向けには低抵抗加
製品の生産性向上に大きく貢献する
削工具の要求がある。
工を実現するために,切れ刃にチッ
ことができた。
また一方で,航空機部品分野にお
プブレーカーを施したニック付イン
いては,チタン合金を代表とする難
サートを,チタン合金加工向けには
削材の多くは熱伝導率が低く,切削
長時間の安定加工を実現するために
(日立ツール株式会社)
[Cutting conditions]
Power
spectrum
Power
spectrum
Cutter:AME1250S508-73-4NT(diameter = 50 mm),
Inserts:APMT120508R-N2/N3(JS4060)
Cutting speed(Vc)= 95 m/min, feed rate(Vf)= 300 mm/min, work material = FCD600
Axial depth of cut(ap)= 40 mm, radial depth of cut(ae)= 5 mm, over hang =100 mm
Roughing End-mill AME
100
50
0
Conventional tool
100
50
0
0
200
図1 アルファラフィングエンドミル
AME 形
Fig. 1 Roughing end mill AME
400
600
800
1000
Frequency(Hz)
20 mm
図3 プレス金型加工における切削音の FFT 解析結果
Fig. 3 FFT analysis for cutting noise in press mold cutting
[Cutting conditions]
Cutter:AMEB1250RS-32-4NT(diameter = 50 mm), Inserts:APMT120508R-RS(JS1025)
Cutting speed(Vc)= 50 m/min, feed rate(Vf)= 130 mm/min, work material = Ti-6Al-4V
Axial depth of cut(ap)= 30 mm, radial depth of cut(ae)= 25 mm, over hang =155 mm
(a)
(VBmax)(mm)
(b)
Maximum flank wear
1
Competitor
0.8
Wear of competitor
Wear of AME
Cutting time = 30.4 min
Cutting time = 42.5 min
0.6
0.4
AME
0.2
0
0
10
20
30
40
50
Cutting time(min)
図2 インサート
Fig. 2 Inserts
図 4 チタン合金の加工性能比較
Fig. 4 Cutting performance for titanium alloy
日立金属技報 Vol. 28(2012) 63
新製品紹介
ビビリ振動抑制防振工具
Suppressed Chatter Vibration Arbor
Damped arbor :AV arbor
日立ツールは,切削中の工具の振
性の向上が課題となっていた。ビビ
工具径φ 50 mm で L/D は 8 である。
動を抑制し,加工能率と工具寿命を
リ振動を抑制する手段として超硬合
AV アーバは切り込み限界値が最大
向上させたダイナミックダンパ付工
金の溶射や超硬合金棒で工具本体を
で 2.4 mm と従来工具に対しおよそ
具の「AV アーバ」を開発した(図 1)
。
補強する方法や,工具本体を超硬合
8 倍に向上している。
従来,組み立てや溶接で製作して
金で製作する等の工具剛性を上げる
表 1 に従来アーバによる大型機械
いた大型機械部品が,信頼性向上の
方法が一般的であるが,ダイナミッ
部品加工を AV アーバにて行い加工
要求から削りだしの一体構造に変化
クダンパを内蔵した方式に比べ振動
コストを低減した事例を示す。従来
してきており,この加工には突き出
抑制の効果は小さい(図 2)
。
アーバではビビリ振動を伴う加工状
しの長い工具が必要となる。工具の
AV アーバはダイナミックダンパ
態であったが,AV アーバでは加工
長さ L と工具径 D の比(L/D)が 6
を内蔵した方式であるが,日立ツー
能率 2.5 倍,工具寿命 10 倍に向上し
以上の長さでの加工においてはビビ
ルは,質点系モデルとして考える従
た結果,加工コストが 5% と大幅に
リ振動が問題となる。ビビリ振動と
来のダンパ設計理論ではなく,錘の
低減した。
は切削中に工具が振動する現象であ
挙動を考慮した設計計算手法を確立
AV アーバはφ 40,φ 50,φ 63
り,ビビリ振動が生じると工具破損
した。これにより従来設計理論に対
mm の L/D が 6 ∼ 9 の商品をライン
や加工精度悪化 , 騒音等の不具合を
しビビリ振動抑制効果が向上してい
ナップしている。
生じるため,それを回避するために
る。図 3 は実測した工具の動特性か
切削速度,切り込み量および送り速
ら計算した切り込み ap の限界値比
度を小さく設定せざるを得ず,生産
較結果を示す。工具長さ 400 mm,
この商品は株式会社日立製作所 横
浜研究所との共同開発品である。
(日立ツール株式会社)
ダイナミックダンパ内蔵
補強による工具剛性向上方式
(AVアーバ)
超硬合金
溶射
アーバ
振動抑制
効果大
振動振幅(m/N)
ダイナミック
ダンパ
50 mm
図1 AV アーバ
Fig. 1 AV arbor
2.5
切り込み ap(mm)
従来工具
6.0E-6
4.0E-6
2.0E-6
0.0E+0
200
400
600
800
周波数(Hz)
AV アーバ
図 2 ビビリ振動抑制方法
Fig. 2 Chatter vibration suppression method
表 1 加工コスト比較例
Table 1 Comparison of machining cost
2.0
1.5
防振工具(従来設計)
1.0
従来工具
0.5
0
200
400
600
800
回転数 n(min-1)
図 3 切り込み限界のシミュレーション結果
Fig. 3 Simulation result of depth of cut
64
8.0E-6
0
3.0
0.0
超硬バー
貼付け
日立金属技報 Vol. 28(2012)
1000
提案①
AVアーバ
(¥/工具)
C:工具費
¥4,380
(コーナー/個)
Ne:切れ刃使用可能数
2
z:工具刃数
(枚)
3
(分/工具)
T:工具寿命
10.0
5
Tt:工具交換時間
(分/工具)
Mc:機械費(変更可能) (仮定値¥100/分)
¥100
20.0
Tm:ワーク1個の加工時間 (分/ワーク)
(¥/ワーク)
X:ワーク1個の加工費
¥7,380
加工費比率
(%)
5%
項目
現状診断
従来アーバ
¥4,380
2
3
1.0
5
¥100
50.0
¥139,500
100%
新製品紹介
高硬度鋼用超硬ねじ切りカッター
Carbide Threading Cutter for Hard Material
Threading cutter :EDT
金型の高硬度化に伴い , あらかじ
らせん状に加工していくヘリカル切
深さ 16 mm のねじ切り加工を,型
め完成品の硬度になるよう事前に熱
削により下穴と同時にねじ切り加工
彫り放電で行った場合と開発工具を
処理された高硬度鋼に対し,直彫り
を行う。下穴なしで高硬度鋼に直接
用いて行った場合の加工費の比較を
加工のニーズが増加している。しか
ねじ切りを行う加工は,切削抵抗が
示す。型彫り放電に比べ開発工具を
し,高硬度鋼に対し安定して効率よ
大きい難加工である。開発工具は,
用いて切削加工を行うと加工時間が
くねじ切り加工を行うことは困難で
この過酷な加工環境に耐えうる刃先
大幅に短縮できることから加工費を
あった。今回,高硬度鋼に対し安定
強度を有する。
削減できた。
した効率の良いねじ切り加工を行う
図 3 に開発工具による SLD(H R C
「エポック D スレッドミル」によ
ことを目的として,下穴なしで直接
60)の切削事例を示す。30 穴まで安
り高硬度鋼へのねじ切り加工の課題
ねじ切り加工を行える超硬ねじ切り
定して加工でき,工具刃先状態も良
が解決し,高硬度鋼への高能率かつ
カッター「エポック D スレッドミル」
好な摩耗状態で,継続切削可能であ
安定した加工が可能になったこと
り,下穴加工用ドリルが不要の高効
で,金型製造リードタイム短縮や,
率な高硬度ねじ切り加工を実現して
金型不良低減といった金型製造コス
いることが確認できた。
ト削減に貢献できると考えられる。
(図 1)を開発した。
図 2 に開発工具による高硬度鋼へ
の加工方法を示す。加工するめねじ
(日立ツール株式会社)
表 1 にめねじ呼び M8,ねじ加工
呼び径よりも小径の工具を用いて,
起点
中心位置
①
②
アプローチ ねじ切り
ねじ切り
終了
終点
⑤
⑥
10 mm
図1 エポック D スレッドミル
Fig. 1 Epoch D thread mill
ワーク:SLD(HRC60)
使用工具:EDT-1.25-16-TH
めねじ呼び:M8×P1.25
回転数 n=2060 min−1
(切削速度 Vc=40 m/min),送り速度 Vf=47 mm/min,
一刃当たり送り量 fz=0.025 mm/tooth,ねじ加工深さ:15 mm止まり穴
クーラント:Air blow
図 2 加工方法
Fig. 2 Method of cutting
表 1 加工費比較
Table1 Processing cost comparison
開発品
EDT-1.25-16-TH
項目
30穴まで安定して加工
継続切削可能!
④
③
n=1
n=2
ワーク
SLD(60HRC)
めねじ呼び
M8×P1.25
ねじ加工深さ
0
加工後の工具刃先状態
10
20
30
加工ねじ穴数(個)
16 mm
C:電極費・工具費
(¥/工具)
¥6,000
¥1,000
T:工具寿命
(分/工具)
200
360
Tt:工具交換時間
(分/工具)
1
1
Mc:機械費
(顧客ごとに変更)
(仮定値
¥100/分)
¥100
¥100
Tm:加工時間
図 3 切削事例
Fig. 3 Cutting data
従来
型彫り放電
(分/穴)
2
120
X:加工費
(¥/ワーク)
¥261
¥12,367
加工費比率
(%)
2%
100%
日立金属技報 Vol. 28(2012) 65
新製品紹介
傾斜穴あけ加工用超硬ドリル
Carbide Drill for Plunge Boring on Sloped Surfaces
Drill:Z plunging borer ZPB
部品加工では傾斜面や曲面に穴あ
日立ツールはこのような課題を改
度を変化させた状況で,加工した穴
け加工をすることがあり,ドリルで
善し,傾斜面や曲面に穴あけ加工が
の位置ずれを比較した。その結果
傾斜に穴あけ加工をする場合,ドリ
可 能 な 工 具 を 商 品 化 し た( 図 1)。
30°の傾斜面の条件の下,送り速度
ルの先端が傾斜の低い側にずれる傾
ドリルの先端角を 180°(フラット)
を早くしても加工した穴の位置ずれ
向があるため,加工した穴が曲がっ
にすることで傾斜面や曲面において
が 0.08 mm の範囲内におさまって
たり傾斜の角度によっては加工でき
ドリルの先端が傾斜の低い側にずれ
いる。また,傾斜面を 45°にした
ない。このような場合,ドリルによ
ることなく穴あけ加工が可能にな
条件においても加工した穴の位置ず
る穴あけ加工の前にエンドミルを用
る。特殊刃形を採用することで加工
れは 0.1 mm の範囲内におさまって
いて軸方向へ底刃で工作物を加工す
中の振動による欠けの発生を従来よ
いる(図 3)
。
る突き加工を行っている。しかし,
り軽減し安定した穴あけ加工が可能
本工具の用途としてはドリルのよ
エンドミルによる突き加工は細く長
になる。切屑の処理性を向上させる
うに平面の穴あけ加工から傾斜面,
い切屑が発生するため①切屑の排出
ため特殊溝形状の採用により切屑を
球面への穴あけ加工,端部への突き
が悪く切屑詰まりによる工具の折損
細かく分断でき切屑によるトラブル
加工,穴の繰り広げ,穴の矯正といっ
が発生する、②切屑が工具にからみ
を軽減した(図 2)
。
たようなドリルでは困難な多様な穴
あけ加工に対応が可能である。
30 °と 45 °の 2 種類の傾斜面に,
加工物を傷つける、③切屑の処理性
(日立ツール株式会社)
本工具と市販の工具 2 種類で送り速
が悪いという課題があった。
(a)
(b)
10 mm
45°
6 mm
25 mm
工具径:φ 6
被削材:S50C(A)
切削速度:75 m/min (回転数:4,000 min−1)
送り速度:360 mm/min (送り量:0.09 mm/rev.)
加工深さ:12 mm クーラント:ドライ
加工機:立型マシニングセンター
図 2 加工事例(a)45°傾斜面への加工状況(b)細かく分断された切屑
Fig. 2 Field Data (a) Z plunging on 45°sloped surface (b) short broken chips
図 1 製品外観視
Fig. 1 Appearance of Z plunging borer
(a)
(b)
30°傾斜面
45°sloped surface
30°sloped surface
−X
−0.15 −0.10
−Y
−0.15
−Y
−0.15
−0.10
−0.10
−0.05
−0.05
−0.05
0
+0.05
+0.10
工具
Tool
45°傾斜面
+0.15
+X
−0.15 −0.10 −0.05
−X
+0.05
0
+0.05
+0.05
+0.10
+0.10
+0.15
+Y
+0.15
+Y
ZPB
0600-TH
他社座ぐり用
エンドミル
Competitor’
sZ
plunging end mill
+0.10
+0.15
他社座ぐり用
ドリル
+X
Competitor’
s
Z plunging Drill
送り量
(f)
Feed
0.06
0.09
0.12
0.06
0.09
0.12
0.06
0.09
0.12
mm/rev.
mm/rev.
mm/rev.
mm/rev.
mm/rev.
mm/rev.
mm/rev.
mm/rev.
mm/rev.
ねらい位置
Target position
加工穴位置
Machined hole
position
ズレ量(mm)Shift amount
工具径:φ 6
被削材:S50C(A)
切削速度:75 m/min (回転数:4,000 min−1)
加工深さ:12 mm クーラント:ドライ 加工機:立型マシニングセンター
−Y
−X
+X
+Y
6 mm
図 3 傾斜面への穴あけ加工時の穴の位置ズレ比較例(a)30°傾斜面での穴の位置ズレ量比較(b)45°傾斜面での穴の位置ズレ量比較
Fig. 3 Comparison of hole position shift when Z plunging a sloped surface (a) comparison of hole position shift when Z plunging on 30°
sloped surface (b) comparison of hole position shift when Z plunging on 45°sloped surface
66
日立金属技報 Vol. 28(2012)
新製品紹介
ステンレス加工用エンドミル
End Mill for Stainless Steel
End mill:Epoch SUS series EPSM EPSW
優れる日立ツールのパナシアコートを
能となる。
ステンレス系の素材に切削加工を施
採用した。
す場合,工具と被削材の溶着,切削中
『エポック SUS ウェーブ』は波形
の振動,切削抵抗の増大などの問題
状外周刃を採用することで,切り屑を
が生じるケースがある。
細断し切削抵抗を抑制した。さらに
用途ごとに様々な性能が求められ,形
日立ツールは,こうしたステンレス加
細断された切り屑を良好に排出するた
状も製造の際のクランプ方法も個々
工における課題に対処するために 2
めに工具剛性を落とさず,切り屑がス
に異なる。そのため,目的に応じて 2
ムーズに流れる刃溝形状に最適化した
種類の工具から選定できるようにし
種類のエンドミルを商品化した
(図 1)
。
被削材となるステンレス系部品には,
た。
(図 3)。切り屑排出性が向上し,安定
『エポック SUS マルチ』は図 2 に示
『エポック SUS マルチ』を採用し
した加工が可能になる。
ように,外周刃の逃げ面を 2 段とした
た場合,図 4 に示す加工条件でクラ
ダブルエキセン刃型を採用した。通常
また,これらの新製品に共通した形
の逃げ面が 1 段の場合,
摩耗進行とと
状として,振動を抑制する不等分割形
ンプ状態が良好である場合は18 時間,
もに,被削材との擦れ面積が広くなり,
状を採用した。さらに,Z 方向への加
良好な切削を維持した。また,
『エポッ
溶着が激しくなるが,ダブルエキセン
工が優位となるように,底刃のチップ
ク SUS ウェーブ』を採用した場合,
刃型では 1 段目逃げ面からの摩耗進
ポケット(ギャッシュ)のうち,外周刃
振動しやすい環境での切削加工にお
行が抑制できるため,被削材との擦れ
側は切り屑排出を考慮,中心付近は工
いても,低抵抗のため安定した加工性
面積が広がりにくい。そのため溶着
具剛性を考慮した 2 段ギャッシュ形
能を示した(図 5)。
が抑制でき,長寿命な安定加工が可
状とした。コーティングは,密着性に
(日立ツール株式会社)
(a)
エポックSUSウェーブ
Epoch SUS wave
(a)
エポックSUSマルチ
Epoch SUS multi
(b)
市販従来品
Conventional
2段ギャッシュ
Double-gash
ダブルエキセン
(EPSM)
Double eccentric relief face
最適外周刃溝形状
(EPSW)
Optimized Flute geometry
図 3 エポック SUS ウェーブと市販従来品の刃溝形状
Fig. 3 Cutting flute of Epoch SUS wave and conventional
加工条件 被削材:SUS304
工具径:Φ8 エポックSUSマルチ
切り込み:8 mm×3 mm
回転数:2400 min−1
(切削速度:60 m/min)
送り速度:380 mm/min
(1刃送り量:0.04 mm/tooth)
最適不等分割形状
Optimized unequal pitch
(b)
エポックSUSウェーブ
Epoch SUS wave
図 1 エポック SUS シリーズ
Fig. 1 Epoch SUS series
0.25mm/div
図 4 エポック SUS マルチの採用例(18 時間切削後の摩耗状態)
Fig. 4 Cutting data of Epoch SUS multi
(a)エポックSUSマルチ
Epoch SUS multi
すくい面
Rake face
1段目エキセントリック逃げ面
1st eccentric relief face
(b)市販従来品
Conventional
加工条件 被削材:SUS304
工具径:Φ10 エポック
SUSウェーブ
切り込み:1.5 mm
回転数:1900 min−1
(切削速度:60 m/min)
送り速度:380 mm/min
(1刃送り量:0.05 mm/tooth)
すくい面
Rake face
逃げ面
Relief face
2段目エキセントリック
逃げ面
2st eccentric relief face
刃先
Cutting edge
断面
Cross section
刃先
Cutting edge
200 mm
断面
Cross section
図 2 エポック SUS マルチの刃先形状と市販従来品
Fig. 2 Cutting edge of Epoch SUS multi and conventional after
milling
50 mm
板厚10 mm
図 5 エポック SUS ウェーブの採用例
Fig. 5 Cutting data of Epoch SUS multi
日立金属技報 Vol. 28(2012) 67
日立金属グループ 主な営業品目
高級金属製品
■ 高級特殊鋼
■ 圧延ロール
■ 切削工具
金型材
®
インターコネクタ材
の金型材は,
伝統の製鋼技術とその品質で,
あらゆる産業分野で評価をいた
だいています。
固体酸化物形燃料電池のセパレー
タ材や,太陽電池用のセル接合用
部材などとして用いられる信頼性
の高い材料をお届けしています。
マグネット
アモルファス金属材料「Metglas®」
世界トップブランドの希土類磁石
「NEOMAX®」をはじめ,異方性リン
グ磁石や高性能フェライト磁石など,
永久磁石を幅広くお届けしています。
変圧器等の低損失化により,電力
の省エネルギーを実現し,CO2
排出削減に寄与する軟磁性材料
を提供しています。
耐熱鋳造部品「ハーキュナイト ®」シリーズ
高意匠アルミホイール「SCUBA®」
エキゾーストマニホールドやター
ビンハウジングな ど, 耐 熱 性・
耐酸化性が求められる自動車の
排気系部品に使用されます。
高強度とデザイン性を兼ね備え,
軽量化も実現したアルミホイー
ルをお届けしています。
電子・情報部品
■ マグネット
■ 軟磁性材料
■ 情報通信用部品
高級機能部品
■ 自動車用高級鋳物部品
■ 配管機器
■ 建築部材
68
日立金属技報 Vol. 28(2012)
発電用部品
圧延ロール
切削工具
タービンブレードをはじめ,発
電用部品として高い信頼性の求
められる部材を提供していま
す。
鉄鋼用,非鉄金属用,非金属用
など,さまざまな圧延ロールを
お届けしています。
金型から部品まで,幅広い分野
の加工に使用される「環境配慮
型」の高能率切削工具を提供し
ています。
情報通信機器用部品
ファインメット® コモンモードチョークコア
フェライト積層部品
スマートフォン,パソコンなど多様化
が進む無線通信機器に使用される部品
です。低損失・小型形状により各種通
信機器の小型・高性能化に貢献します。
当社開発のナノ結晶材料ファインメット® を応
用したチョークコアです。従来品より高透磁率
で小型化が可能なので電装化が進み伝導ノイズ
による誤動作が問題となる車載用に最適です。
スマートフォン,電子書籍などの携帯端末では
多機能化に応じて小型・低背・高周波化が進み
直流重畳特性が求められます。当社では各種
パワーインダクタをラインナップしています。
高靭性ダクタイル鋳鉄品「HNM®」シリーズ
ガス用ポリエチレン配管システム
鉄骨建築接合部材「HIBASE®」
安定した材質特性と良好な被削
性, 優 れ た 低 温 靭 性 が 特 長 で,
サスペンション部品や駆動系部
品などにお使いいただけます。
腐食がなく,施工性・耐震性に
も優れた,埋設ガス配管用のポ
リエチレン配管システムをお届
けしています。
鉄骨建築物の柱脚部に使用され,
優れた耐震性と施工の短縮が可
能な製品をお届けしています。
日立金属技報 Vol. 28(2012) 69
日立金属グループ 2011 年 主な技術受賞
■ 大河内記念会 大河内記念生産賞 2011.3
CVT ベルト用薄板の製造方法を開発し,ベルトの疲労寿命を大幅に改善したことが評価された。
⃝受賞案件:CVT ベルト材
⃝受賞者:日立金属
CVT ベルト材
受賞式
CVT ベルトの使用箇所
■ 日本工具工業会 日本工具工業会「環境賞」
2010. 11
○受賞案件:超高能率加工用エンドミル
エポックミルスシリーズの開発
○受 賞 者 :日立ツール 野洲工場
■ 超硬工具協会 超硬工具協会賞 技術功績賞 2011. 1
○受賞案件:超高能率加工用エンドミル
エポックミルスシリーズの開発
○受 賞 者 :前田勝俊,韓剛,熊谷英典
エポックミルス
■ 日刊工業新聞 十大新製品賞 2011. 1
○受賞案件:新高性能ダイカスト金型用鋼 DAC-MAGIC®
○受 賞 者 :日立金属
DAC-MAGIC® を使用した
ダイカスト金型
■ 超硬工具協会 超硬工具協会賞 技術功績賞 2011.1
○受賞案件:ミーリング加工用
厚膜 PVD コーティング JS の開発
○受 賞 者 :福永有三,中西征次,久保田和幸
厚膜 PVD コーティング JS
■ 日本機械学会 日本機械学会賞 2011. 4
○受賞案件:超微細深穴加工用ドリル
エポックマイクロステップボーラーの開発
○受 賞 者 :赤松猛史,木野晴喜,吉村彰
エポックマイクロ
ステップボーラー
■ 日本ガス協会 技術大賞 2011.6
○受賞案件:新型フレキ継手プッシュインパクト®
○受 賞 者 :日立金属(他 2 社)
プッシュインパクト®
■ 日本航空宇宙工業会 委託研究表彰 研究賞 2011.7
○受賞案件:高強度ステンレス鋼(HSL185)
○受 賞 者 :上野友典,上原利弘(他1社)
■ 加藤科学振興会 加藤記念賞 2011. 11
○受賞案件:ナノ結晶軟磁性材料の開発に関する研究
○受 賞 者 :吉沢克仁
70
日立金属技報 Vol. 28(2012)
ナノ結晶軟磁性材料
1010
10 μm
【表紙写真】
EBSD による逆極点方位マップ
0001
1 μm
2110
【補足図 A】
六方晶の結晶方位を示すカラーゲージ
【補足図 B】
フェライト磁石の SEM 組織写真
表紙写真説明
表紙写真は,電子線後方散乱回折装置(EBSD:Electron Backscatter Diffraction)
により,当社で量産中のフェライト磁石 NMF-9 シリーズを測定した逆極点方位マッ
プである。磁石材料は磁化容易軸を一方向にそろえて配向度を高めることが重要
で,EBSD による配向度評価を行うことで高磁束密度化が可能になる。 逆極点方位
マップは電子ビームで照射している点の EBSD パターンに合致する結晶方位を割
り出して試料の配置を基準にしてステレオ投影座標上に表示したカラーゲージで
示したものを多数の解析点についてマップにしたもので,方位が同じひとつながり
の結晶は同じ色で描画される。表紙写真の色合いは[補足図A]で示すカラーゲー
ジに基づいている。[補足図A]は逆極点図の各頂点に赤青緑3色のカラーコード
を配置し,測定点の方位をその混色を用いて表している。磁化容易軸である[0001]
配向の主相粒子が赤色を示している。表紙写真の逆極点方位マップはプレス時の磁
場方向に対し垂直断面を解析したもので,ほぼ赤色系の色調であることから,優れ
た配向性を有することが見て取れる。
一方,[補足図B]は走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)
による反射電子像写真である。結晶方位は確認できないが,結晶方位の違いにより
表れるチャンネリングコントラストにより粒径が確認できる。これら EBSD と
SEM を併用した評価技術が確立されたことで,磁石材料の高性能化が期待できる。
フェライト磁石は鉄を主成分とする六方晶系の結晶構造を有する酸化物ハード
磁性材料で,永久磁石としての生産重量は希土類磁石と比較して圧倒的に多く,日
常生活のあらゆる部分に浸透している。加藤与五郎と武井武によって発明された
OP 磁石から発展した約 60 年の歴史を持つ材料であり,発明初期から多くの研究
がなされてきたが,材料科学的な面では十分に理解が進んでいない部分がある。特
に,従来の解析技術では不充分であったナノメートルオーダーでの材料組織解析や
組織生成過程の理解は,近年の解析手段の目覚ましい発展により,ようやく緒につ
いた段階である。歴史の長い材料であるが材料の改善は少しずつ進んでおり,磁気
特性が向上してきている。日立金属は新しく獲得した知見に基づいてさらに高性能
なフェライト磁石材料を開発し,フェライト磁石を利用する産業分野の発展に貢献
していきたいと考えている。
日立金属技報 V o l . 2 8
発 行 日
発 行 元
発 行 人
編 集
2012 年 3 月
日立金属株式会社
〒 105-8614 東京都港区芝浦一丁目 2 番 1 号(シーバンス N 館)
電話(03)5765 − 4000(ダイヤルイン案内) 0800 − 500 − 5055(フリーコール)
E-mail:[email protected]
中西 寛紀
日立金属株式会社 開発センター 株式会社 東京映画社
本誌の内容は,ホームページにも掲載されております。 http://www.hitachi-metals.co.jp/rad/rad02.html
禁無断転載
CODEN : HIKGE3
ISSN 0916-0930
VOL.
VOL.28 2012
Printed in Japan 2012− 3(H)
28
2012
Fly UP