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未来 ICT 基盤技術
Title:00-2syou-tobira.indd p3 2015/06/22/ 月 18:49:57
未来 ICT 基盤技術
00-2syou-tobira.indd
3
2015/06/22
18:49:58
2 研究活動
未来 ICT 基盤技術
2. 11 脳・バイオ ICT 基盤技術
2. 11. 1
第 1 期中期計画期間
バイオコミュニケーション技術の研究
第 1 期中期計画では、進化・適応・柔軟性等の生物の
巧みで優れた情報処理・伝達機能を実社会での情報処理
に役立てることを目的として、生物の情報処理や伝達機
能の解析を中心とした基礎技術開発を目標に研究開発を
実施した。特に生物機能の計測技術開発に注力し、生体
機能分子や細胞の本来の機能を保った状態でたったひと
図 2.11.1 蛍光分子 1 分子の向きを高精度で決定できる測定
装置
つの分子や細胞を生きた状態で直視・機能計測・操作す
る技術の開発や、非侵襲でヒトの脳活動を計測する装置
どを開発した(図 2.11.1)。この技術によって、大きさ
の開発・整備を精力的に進めた。この技術開発によって
10 nm の超小型タンパク質モータ、F1 -ATPase に ATP
中期計画後半には、生体機能分子・細胞の機能や動作機
が結合・解離する瞬間とこれに伴う構造変化とを同時
構の解明やヒトの高次脳機能の定量的評価が加速度的に
に計測することに世界で初めて成功し、F1 -ATPase に
進展した。加えて、生体機能分子や細胞の計測で解明さ
結合した ATP 分子の向きを正確に測定することにも成
れたアルゴリズムやその実体を利用したバイオナノ素子
功した(Nature Structural & Molecular Biology 誌掲載、
の構築のための基礎技術開発を始動するなど、第 2 期中
平成16年2月)。並行して微小ガラス針法とレーザトラッ
期計画以降への展開につながる成果を挙げた。
プ法による微小力測定装置を開発し、水溶液中での分子
運動の精密位置計測を空間・時間分解能0.1nm、0.02msec
(1)
生体機能分子の研究
100 万分の 1 mm サイズ(ナノメートル、nm)の生体
て、植物細胞が持つミオシン(The EMBO Journal 誌掲
機能分子には、柔軟で巧妙な情報処理能力、自己修復・
載、平成 15 年 3 月)や真核生物の鞭毛運動に関わるダイ
自己複製・自律性などの働きが備わっている。生体機能
ニンなどの生体機能素子の力発生や、一定の歩幅で連続
分子が生体特有の高性能な機能を作り出しているメカニ
的に運動する事などを明らかにした。これらの成果は、
ズムを明らかにすることで、これらの生物特有の能力を
Nature(平成 15 年 2 月)をはじめとする著名な国際的科
備えた知的情報処理素子の開発を目指す基礎研究を進め
学誌に掲載され、現在も多くの研究論文に引用されてい
た。生体機能分子の素過程を精細に計測して生命現象の
る。
基本的特質に迫るためには、溶液中の多数の分子の平均
また、ダイニン分子の電子顕微鏡観察と単粒子解析法
特性ではなく、たったひとつの生体機能分子をとらえ
による詳細解析から、ATP 加水分解に共役した約 15 nm
て、その動的過程を直接計測することが求められる。こ
にも及ぶ大きな構造変化を明らかにした。この成果は、
の測定にはナノメートルレベルの変位量とピコニュート
国際的科学誌 Nature(平成15年2月)に掲載され、その表
ン(100 億分の 1 g 重)レベルの微小な力、及び入力とし
紙を飾った。NICT は、構造の詳細解析からダイニンの力
ての化学物質 ATP の加水分解反応を計測することが求
発生メカニズムを提唱し、後年、この作業仮説は世界中
められる。超低背景光蛍光顕微鏡システムの開発や、良
の研究者によって実験的に検証・支持され、大学の生物
質な蛍光特性を示す蛍光標識 ATP 分子の合成・評価
学の教科書に取り上げられるほどに、最も受け入れられ
(Biophysical Journal 誌掲載、平成 15 年 1 月)に加えて、
この ATP 分子が生体機能素子の上でどのような向きに
結合しているかを 5 度の角度精度で明らかにする装置な
112
にまで高めることに成功した。これらの技術開発によっ
たダイニン力発生モデルの1つとなった。
2.11 脳・バイオ ICT 基盤技術
(2)
ナノ新素材としての生体機能分子
裂に移行する際、核内で劇的に変化する染色体の配置の
生体機能素子は非線型・非平衡系のアナログ素子であ
制御メカニズムに迫った。体細胞分裂期にセントロメア
り、生体機能素子の工学的直接利用における情報処理は
を特定部位に留める分子や、減数分裂前期にテロメアを
新たなアルゴリズムを生むものと期待される。この研究
特定部位に留める分子の網羅的検索を行い、分裂酵母
開発では、タンパク質や DNA を基板や微小粒子に固定
とヒトで共通に存在するセントロメアタンパク質(The
化して、これによって生じる運動や力を外界に取り出す
EMBO Journal 誌掲載、平成 13 年 8 月)及びテロメアタ
ための基礎技術の開発を進めた。タンパク質の発生する
ンパク質(Current Biology 誌掲載、平成 13 年 10 月)を
力や運動を一方向に効率よく抽出し、タンパク質をアク
同定した。ヒト細胞の増殖過程の細胞生物学では、独自
チュエータとして利用した研究成果は先駆的研究となり
に開発した生細胞イメージング技術を用いて細胞の分裂
(Biophysical Journal 誌掲載、平成 13 年 9 月)、後年トッ
に際して再編成される細胞核の仕組みを研究し、セント
プクラスの科学誌の総説にも取り上げられた。この研究
ロメアや核膜分子の新たな機能について明らかにした。
に関連した 6 報の発表論文は、現在までに 600 件を超え
これらの成果は、Developmental Cell 誌(平成 14 年 4 月)
る被引用件数を誇る。
や Journal of Cell Science 誌(平成 13 年 12 月)などに論
文として多数発表した。その論文被引用件数は現在2,000
(3)
細胞機能の研究開発
細胞は一種の情報処理システムである。直径 10 μm
件を超すものとなっており、当該研究分野への大きな学
術的貢献を果たしている。
ほどの微小な細胞空間内で起こる現象を生きたままの
また、研究開発の中で構築してきた分裂酵母 GFP 融合
状態で視覚化することは、スーパーコンピュータの中
タンパク質ライブラリーは、後に第 3 世代として開発・
で行われている情報処理を明らかにすることに相当す
発展して、世界中の研究者に利用されている。さらに、
る。NICT では、最先端光学顕微鏡技術とコンピューター
NICT が培ってきた生細胞蛍光イメージング技術の実技講
解析の手法を用いて、細胞機能の非破壊解析・非接触操
習会「細胞生物学ワークショップ」を開始し、現在まで毎
作技術を開発し、細胞機能の解明のための技術基盤を日
年継続して開講している。国内の多くの若手研究者が参
本にとどまらず世界的に提供してきた(図 2.11.2)。ま
加して、彼らの、ひいては日本の細胞生物学分野の技術
た、この技術を用いて当研究グループが明らかにしてき
向上と研究進展に貢献する事業へと成長している。
た、染色体と細胞核の構造とそのダイナミックスは、当
該分野の進展に大きく貢献するものとなっている。
(4)脳情報の研究活動
平成 10 年に神戸に竣工した脳機能研究棟には、計測
タイムラプス装置を装着した
3 次元マルチカラー蛍光顕微鏡
特性の異なる MRI と MEG の 2 種類の大型脳機能計測装
置が整備されている。1 つの研究グループが基礎研究に
特化して、この 2 つの大型計測装置を利用できる研究環
境は、平成 10 年当時では国内唯一のものであった。こ
の計測装置を補完的に活用することで、ヒトの高次脳機
能に関する基礎的な研究、視覚、運動、言語、情動といっ
た脳機能の様々な課題の解明に取り組んできた。同時
に、計測法自体の高度化にも熱心に取り組み、MRI と
図 2.11.2 生細胞内での複数の情報担体の動態観察を可能に
する光学顕微鏡技術
MEG の計測法の統合、MRI の革新的計測法の開発、更
には、NIRS の導入や高時間分解型脳機能計測装置の新
規開発などにも取り組んだ。平成 16 年には、3 T(テスラ)
特に、世界的な注目を集めている研究成果は、分裂酵
の MRI 装置が新たに導入されたことで、先駆的な研究
母における減数分裂の細胞生物学とヒト細胞の増殖過程
成果の発信が加速し、後の脳情報通信融合研究センター
の細胞生物学である。前者では、体細胞分裂から減数分
(CiNet)の研究へ続くものとなった。このグループの特
10t h A n n i ver s a r y
113
2.11 脳・バイオ ICT 基盤技術
色ある研究の一例を以下に挙げる。
ヒトの視覚的意識と脳内確率過程:ヒトの脳は認識す
の意義が社会的に認知されることにも貢献し、第 3 期の
脳情報通信融合研究センター(CiNet)における研究活動
べき対象について推定と補完を行うことで外界の様子を
へと発展的に引き継がれた。
脳内に構築している。視覚情報の不足のために推定され
a)視覚意識の創発性の発見
る対象の解が複数ある場合(多義図形知覚)や対象認識
人間の脳研究において最も興味深く重要なテーマの
が難しい場合(隠し絵認識)にはヒトの脳は興味深い反
1 つが意識の性質の理解である。認識すべき対象に関す
応を示す。この反応について、知覚や認識の成立する時
る感覚情報が不足するとき、意識にのぼる認識内容は独
間的性質を詳細に調べたところ、脳内ではある種の確率
自の特性を示す。第 1 期の多義図形認識の研究を発展さ
過程が働いており、その結果として視覚的意識(意識さ
せて、第 2 期には初見では無意味に見える程度に情報劣
れる見え)が創発的に成立することを発見した。ひらめ
化した画像の認識(劣化画像認識)の時間的特性を定量
きやわかりといった情報通信技術の発展にとって極めて
的に研究し、見えがはっとひらめいて意識にのぼる現象
重要なヒトの脳機能の一端に解析の手がかりを得た研
(創発的認識)が一定の数学的定式に従うことを発見し
究成果として広く注目された(図 2.11.3)。この研究も
た。その数学的関係は、認識対象の視覚情報を構成する
CiNet において発展的に研究が継続されている。
部分的特徴を確率的に補完するモデルから導出できるこ
とを示し、全体の情報が部分の情報の確率的相互作用か
ら創発するしくみを示した(初発表米国神経科学会(口
前頭葉‒頭頂葉系:共通に働く
頭)、平成 17 年 11 月:その後の進展を含め PLoS ONE
誌掲載、平成 26 年 12 月)
(図 2.11.4)。このような脳の
側頭葉系:
見えのコンテンツに対応して活動がスイッチする部位
顔の知覚
創発性の神経機構をより実体的に解明する課題は、第 3
期における脳活動計測による研究に引き継がれている。
紡錘状回
壷の知覚
海馬傍回
図 2.11.3
2. 11. 2
視覚情報の意識化プロセスの研究
第 2 期中期計画期間
図 2.11.4
(1)
脳情報通信技術の研究開発
第 1 期に導入・整備した各種の非侵襲脳機能計測シス
114
創発的認識の時間法則とそれを説明する神経活動
の確率過程モデル
b)言語文脈情報の利用と意味理解に関わる脳内処理
テム(MRI、MEG、EEG、NIRS)を活用することによっ
ことばの意味理解に関わる脳活動をとらえるため、多
て、第 2 期には視覚や言語をはじめとする人間の脳機能
義語を呈示して、文脈情報によってその意味が確定す
の様々な問題に取り組み、ユニークな成果をあげた(ト
る過程の脳活動を MEG で調べた(例:こうえん → 公
ピックス a)、b))。また、計測法や解析法自体の高度化
園、講演、後援など)。意味処理に関連する左半球側頭
に熱心に取り組んだことも特色であり、MRI の革新的
葉前部(上記)と並んで、左半球下前頭部(単語呈示の約
計測法の開発や理論モデルとの統合的研究も進めた(ト
200 ミリ秒後から活動開始)が意味を確定する働き(意味
ピックス c)、d))。第 1 期から引き続きテーマ公募型共
理解)において重要な役割を果たしていることを明らか
同研究のオープンラボ(平成 17~19 年)にも取り組んだ。
にした(NeuroImage 誌掲載、平成 19 年 11 月)
(図 2.11.5)。
このような活動を通じて、情報通信分野における脳研究
この例をはじめとして、人間のコミュニケーションの基
2.11 脳・バイオ ICT 基盤技術
本となる言語理解と脳活動の関係の解明に取り組んだ。
経線維連絡の活動を可視化する手法として、また、脳内
情報連絡の研究の革新的手法として、第 3 期中期におい
ても更なる研究が進められている。
図 2.11.5 ことばの多義性と文脈に依存した脳活動変化の
MEG 計測
図 2.11.6 脳梁の神経線維活動を反映すると思われる MRI 信号
c)神経線維の活動をとらえる革新的 MRI 計測法の可能性
現在の fMRI は神経活動によって引き起こされる脳血
d)神経集団の同期的活動と脳波発生の関係
流変化を信号源としているため、脳血流変化が起きる神
脳機能発現を理解するためには、脳部位や活動時間帯
経の細胞体(脳の灰白質)の活動は検出できるが、神経
の解明のみならず、神経活動ダイナミクスの「様式」の
の線維(脳の白質)の活動は検出できない。そこで従来
解明が必要であり、特に神経活動の振動や同期が重要な
の MRI が計算する水素原子核スピンの「位相」情報では
テーマである。そこで、多数の神経集団の同期的活動と
なく、
「位相勾配」情報を計算してみたところ、神経線維
脳波の発生との関係をモデル化により定量的に解析した
の活動(電位変化)を反映すると思われる信号の検出に
(Physical Review E 誌掲載、平成 22 年 7 月)
(図 2.11.7)。
成功した(Human Brain Mapping 第 18 回年会発表、平
このようなモデル研究は、神経集団の協力的振舞いとマ
成24年6月)
(PGC 法)。左右手の各指を交互の順番でタッ
クロな機能発現の関係を研究する基礎となるものである。
ピングするとき、脳梁(左右大脳半球をむすぶ神経線維
束)を通じた左右の情報交換が必要であるが、PGC 法
(2)分子通信技術の研究開発
により、予想される脳梁の神経線維束の活動信号が検出
第 2 期中期計画においては、生物に見られる超低エネ
された(図 2.11.6:ダークグレイ部)。この研究は、神
ルギーでの高機能な情報処理・伝達の仕組みに学んだ柔
図 2.11.7
神経集団の振動子モデル(左図)と脳波の実験値との比較(右図)
10t h A n n i ver s a r y
115
2.11 脳・バイオ ICT 基盤技術
軟性に富むコミュニケーション・インタフェース技術と
(図 2.11.8)
。また、分子間相互作用による自律的な情報
して、新しい情報通信の概念「分子通信」に関する原理
伝達技術に関して、生体分子機能構造体の構造と機能の
検証研究に取り組んだ。研究活動においては、分子通信
高精度解析に成功し、分子複合体の設計図に関する新知
の要素技術として、生体分子システムと細胞を対象とし
見を獲得するとともに、生体分子ネットワークの自律的
た構造と機能の相関解析を進めた。さらに、生体機能の
動作の構造 - 機能相関を明らかにした。この成果は The
実験を通して抽出した自己組織性、自律性、特異的認識
Journal of Cell Biology 誌( 平 成 21 年 11 月 )
、Nature
能力などの要素技術を活用して、細胞や分子間相互作用
Structural & Molecular Biology 誌(平成 22 年 10 月)等に
による自律的な情報伝達を実現する分子通信ネットワー
掲載されている(図 2.11.9)
。
ク検証モデルを構築した。
b)分子通信ネットワーク構築
細胞間コミュニケーションを可能とするチャネルを発
a)分子通信の要素技術
最 先 端 の 細 胞・分 子イメージング 技 術を駆 使して
現した細胞を用いて、これをマイクロ・ナノファブリ
細胞内の DNA の構造とダイナミックスを高精度で解
ケーションで加工した基板上に自律的に配置させて、マ
析し、その核内配置の決定過程を同定した。この解析
イクロ・ミリメートルスケールの分子通信ネットワーク
結果は高く評価され、Science 誌等に掲載されている
の検証モデルを形成し、自律性のある情報伝送を可視化
することに成功した。この成果は、これまで概念として
のみ提示されていた分子通信ネットワークの実現可能性
を、実際に生物由来のパーツを利用することによって初
めて示したという点で大きな意味を持っている。研究成
果は FEBS letters 誌(平成 21 年 11 月)に掲載されてい
る(図 2.11.10)。
図 2.11.8
細胞内 DNA のダイナミックス
2. 11. 3
第 3 期中期計画期間
(1)脳情報通信技術の研究開発
第 3 期中期計画に入り、脳科学と情報通信技術の融
合を目指し、1)ヒトの情報理解メカニズムを明らか
にすることによる個々人に適した情報提示技術の構築、
2)脳情報インタフェース技術の高度化・汎用化のため
の基盤技術の確立、3)高次脳情報に関する脳活動計測
図 2.11.9
生体分子機能構造体(軸糸)の 3 次元構造
図 2.11.10
116
技術及び解析技術の研究開発、を推進した。同時に、平
細胞による分子通信ネットワークの構築
2.11 脳・バイオ ICT 基盤技術
成 21 年 1 月に国立大学法人大阪大学と取り交わした「脳
情報通信分野における融合研究に関する基本協定書」に
基づき国立大学法人大阪大学吹田キャンパス内に、ヒト
脳機能の非侵襲計測を行う実験棟の整備を進め、平成
25 年春に脳情報通信融合研究センター(CiNet)を開設
した。CiNet は、NICT の神戸やけいはんな地区で研究
を行っていた NICT の研究者と国立大学法人大阪大学の
研究者を中心として構成され、加えて周辺の大学や企業
の研究者が参加している。CiNet では、主に以下の 4 つ
の研究領域:1)
「こころ」が伝わる情報通信技術(HHS)、
2)人の脳機能に学ぶ情報通信ネットワークの構築(BFI
図 2.11.12
7T-MRI 装置の外観
network)、3)高度なコミュニケーションを実現するイ
ンタフェース技術(BMI)、4)脳機能を情報通信へ展開
するための基礎技術(計測基盤技術)
、を設け、領域横
断的に研究を推進している(図 2.11.11)。
図 2.11.13
7T-MRI 装置を用いて撮影した微小領域の脳活動
イメージ
機能の関係が、MRI 装置で全脳領域にわたり一度で記
録できる技術につながる。
また、日常生活において容易に計測を可能にするため
に、ドライ電極を利用した小型モバイルワイヤレス脳波
図 2.11.11
CiNet:4 つの研究領域
計(図2.11.14)を開発し、平成25年2月に製品化している。
このような脳活動の計測技術を応用し、運動を準備
融合研究センターである CiNet は、研究分野として
している時の脳活動から、どのような運動をするかを
脳科学と情報通信の融合研究を推し進め、組織として大
推定することが可能となった。また、情動を司るとい
学・企業との融合研究を進める場となっている。
われている「扁桃体」という脳部位の活動が、公平性に
CiNet に導入された最新の 7 T-MRI 装置(図 2.11.12)
関わる意思決定に関与していることを発見した(Nature
は、平成 25 年 7 月の設置後すぐに計測準備を開始し、3
か月後には、脳活動変化に対応した極微小領域(1 mm
角以下)の血流量変化の計測に成功した。従来型であ
る 3 T-MRI 装置では 3 mm 角程度の分解能であること
を考えると、数十倍の空間分解能の向上が実現した。
図 2.11.13 の赤及び黄色の個々の点が示すように、脳の
皮質構造に沿った活動位置の特定に成功した。この結果
は、細胞レベルで詳細に研究されてきた脳の局所構造と
図 2.11.14
ドライ電極を利用した小型モバイルワイヤレス脳波計
10t h A n n i ver s a r y
117
2.11 脳・バイオ ICT 基盤技術
Neuroscience 誌、平成 22 年)。
「側座核」といわれる部
生きた細胞内へ導入するマテリアルの検討を行った。具
位の脳活動も公平性に関わる行動パターンと相関が高く、
体的には外来性の DNA を生細胞に導入し、それによっ
側坐核の活動を分析することで、本人も意識しない間に、
て誘起される細胞の応答現象についての解析に取り組
ある程度行動を予測できることが明らかになりつつある。
んだ(図 2.11.15)。その結果、DNA 結合処理を施した
さらに、ヒトが脳内で構築している意味空間を構成、
マイクロビーズを、生細胞内へ効率よく侵入させる条件
可視化するとともに、人が見ている世界の意味空間が、
(対象を探索するなどの)注意によって歪むことがわかっ
た(Nature Neuroscience 誌、平成 25 年 4 月)。
このような知見を利用することで、ヒトが理解しやす
い情報提示の手法、効率的な視覚的演出技術の確立が期
を見出した。さらに、DNA の細胞内への侵入を検知し、
それに結合することによって働くセンサ分子を同定する
ことに成功した。これらの成果は第 3 期中期計画前半に
得られており、細胞機能を外来物質によって調整するた
めの基礎技術となる。
待される。
(2)
バイオ ICT の研究開発の概要
バイオ ICT の研究開発については、生体における情報
処理機能の解明に取り組み、未来の情報通信の基礎とな
る新しい概念の創出と、それを活用した情報通信パラダ
イムの創出を目指している。第 3 期中期計画においては、
細胞や生体分子の機能とつくりを理解し、
それらを操作・
調整する技術、高い精度で並びを制御する技術、構造
ビーズ導入細胞全体像 導入した DNA ビーズ像
赤:DNA センサ分子、緑:膜蛋白質、青:DNA
や機能を評価する技術の構築、及び高いスループットで
生体信号を処理する手法の構築に取り組んでいる。これ
図 2.11.15
細胞への DNA ビーズ導入と細胞応答
らを基にして、細胞や生体分子によって構成されたセン
サシステム(以下、細胞・分子センサシステム)を再構
②
生体機能分子の配向を制御するための要素技術とし
築し、人や生物の情報認識メカニズムについての理解を
て、DNA を利用した分子支持体によりナノメータの分
深め、生体が備えている化学物質や力学刺激などの非言
子配置精度を実現する手法の検討を行った。DNA オリ
語・非視覚情報を検出するための優れたセンシング機構
ガミや DNA タイルなど、分子自体の自己組織能によっ
を、情報通信技術に利活用するための基盤の構築を目指
て多様な構造体を形成できる DNA 分子に着目し、タン
している。研究取組の柱として、a)生体材料の調整・配
パク質分子の末端に導入した標識分子をターゲットと
置技術の構築、及び b)生体信号抽出・評価法の構築を
して認識する部位を DNA 構造体の任意の位置に導入
据えている。前者においては、化学物質や力学刺激など
の情報を検出するための生体のセンサシステムのグラン
ドデザインを検討し、それを基に検出対象である化学物
質や力学的刺激に反応するように、細胞や生体機能分子
を操作・調整・配置する技術を創ることを目指し、後者
においては、細胞や生体機能分子の入力情報に対する構
造変化や機能変化の計測・評価に必要となる技術を検討
し、細胞・分子センサシステムでの、検出信号の増幅及
び処理、解析に関する基盤技術の開発を進めている。以
下にこれまでの研究の取組と成果について述べる。
a)生体材料の調整・配置技術の構築
①
118
細胞機能を人為的に調整するための要素技術として、
図 2.11.16
DNA 構造体を足場とした生体分子配置制御
2.11 脳・バイオ ICT 基盤技術
する技術を構築した。これにより、一定の順序で混ぜ
来の RNA 分子を検出して蛍光物質を発生するようデザ
るだけで自己組織的に形成される、タンパク質分子を
インした DNA 構造体を作成することに成功し、構造体
任意の間隔で配置する分子システムの作成に成功した
がロボットのように設計通りの一連の動作を行うこと
(図 2.11.16)。さらに、構成したタンパク質分子システ
を、原子間力顕微鏡によるタイル構造の崩壊過程の観察
ムが正常に機能を発揮すること、分子の並べ方により機
と、試料の蛍光強度の増加のモニタリングによって確認
能発現の効率を制御できることを確認した。以上より、
した。これらの成果は第 3 期中期計画前半に得られてお
ナノメータ精度で構成分子の間隔を制御することを可能
り、DNA 構造体へ人為的に情報検出機能を導入するこ
とする分子足場構造構築法の有効性を確認するに至った
とが可能であることを示すことができた。
(Proceeding of the National Academy of Sciences of
the United States of America 誌掲載、平成 24 年 12 月)。
③
ミクロな生体分子によって創発されるマクロな構造
の自己組織化過程の実体モデルとして、運動性タンパク
質により、基板平面上で駆動されるタンパク質フィラメ
ント(マイクロメータスケールの自走粒子)間の微視的
な相互作用によって、自己組織的なミリメータスケール
の規則的構造形成が誘導されることを実験的に示した
(図 2.11.17)。その形成条件を評価し数理モデルを構築
することで、生体分子システムの自己組織構造形成の制
図 2.11.18
御につながる知見を得ることができた。この成果は、生
DNA 構造体への情報検出機能の付与
体分子システムのみならず、自走粒子一般の集団運動を
理解する上で重要な知見と実験手法を提供するものであ
②
生体システムを構成する素子のシステム内での挙動
る(Nature 誌掲載、平成 24 年 3 月)。
を解析する手法の検討に関し、生細胞内において、染色
体の特定部位を認識する制御分子(非コード RNA)を可
視化する顕微観測手法を構築し、制御分子と染色体に
よって構成されるシステムの挙動を、時間を追って解析
することに成功した(図 2.11.19)。この手法により、細
胞の減数分裂時において、制御分子が染色体の特定部位
に集積することが、染色体を正しく並べるために重要な
ステップであることを明らかにし、遺伝情報の確実な
継承戦略の解明につながる重要な知見を得るに至った
(Science 誌掲載、平成 24 年 5 月)。
図 2.11.17
ミクロな生体分子によるマクロな自己組織構造形成
b)生体信号抽出・評価法の構築
①
生体機能分子を用いた情報検出機能の構築の取組と
して、DNA 分子によって構成される DNA タイルと呼
ばれる人工構造体を活用し、外部から与えた生体分子を
検知して、その構造を崩すことで内部に閉じ込めておい
た任意の機能を発現する仕掛けを人為的に付与する手法
を考案した(図 2.11.18)。実際にこの手法に基づき、外
図 2.11.19
生細胞内での染色体と制御分子の動態解析
10t h A n n i ver s a r y
119
2 研究活動
未来 ICT 基盤技術
2. 12 ナノ ICT 基盤技術
近年の情報通信サービスの多様化と普及によって通信
イスにおいても、有機電気光学(EO)ポリマーを用いた
量が急激に増加していることから、情報通信ネットワー
100 GHz を超える超高速光変調技術の実現が視野に入っ
クの更なる高速化と大容量化が要求されている。しかし、
てきている。既に、電気光学特性において従来の無機材
既存技術の延長線上での高速化・大容量化は電力消費の
料(LiNbO3)を凌駕する性能の有機 EO ポリマーの開発
増大を招くことから、革新的なシステムとその基盤とな
に成功しており、高速光変調器は試作の段階に進んでい
る ICT ハードウェア技術の革新が不可欠となっている。
る。さらに、ナノ加工により作製したシリコンフォトニッ
NICT では、有機分子材料や超伝導材料などの優れた光・
ク結晶と有機 EO ポリマー材料を融合することで、光変
電子機能と、先進のナノ構造制御技術を駆使し、光検出
調器そのものをマイクロメートルスケールに小型化する
効率や光変調速度、消費電力などの性能を、従来の材料
研究にも取り組んでいる。以下に、ナノ ICT 分野の主
を用いた技術では達成不可能なレベルへ向上させる、革
な研究成果について紹介する。
新的な ICT ハードウェア技術の研究開発を行っている。
有機材料は、分子内のπ共役電子が光の電磁場と共鳴す
2. 12. 1
第1期中期計画
ることから、無機材料に比べて高速で高効率な光応答を
示す。また、超伝導材料は、完全導電性や磁束の量子化
など他の材料にはないユニークな物性を有している。し
120
(1)有機ナノ ICT 基盤技術の研究
a)機能向上のための分子設計・合成技術
かし、光と物質との相互作用が基本的に小さいため、そ
有機分子の光、電子、及び電気的特性を効果的に発現
の材料性能を高めるだけでは素材が持つポテンシャルを
させるためには、構成分子の結合状態と電子状態の空間
十分に引き出すことは難しい。一方、最新のナノ加工技
的制御、及びエネルギー移動の方向制御により、分子そ
術によって、光の電磁場や分子間相互作用を精密に制御
のものの機能ポテンシャルを高めることがまず重要であ
することが可能となってきている。すなわち、精緻なナ
る。当研究では、分子の電子構造制御に加え、分子間の
ノ構造を作製し、光を微小空間に閉じ込める、あるいは
結合の方向性、複合分子組織体の大きさ、形状などを制
相互作用領域を限定するなどして、有機材料や超伝導材
御し、分子単体の光、電子機能だけでなく、デバイス構
料と光との相互作用を高効率化させることにより、ICT
造における機能発現や安定性などの総合的な機能向上を
デバイスの革新的な性能を実現することが我々の研究目
試みた。3 次元的に空間制御された分子組織体であるデ
的である。NICT では、有機材料及び超伝導材料とナノ
ンドリマー構造を用いて、デンドリマーの骨格中に色素
技術を融合した研究(有機ナノ ICT 基盤技術の研究及び
を導入し、色素間のエネルギー移動による発光機能の失
超伝導 ICT 基盤技術の研究)を、基礎・材料研究の段階
活や光酸化による退色を抑制することに成功した(平成
から長期にわたって行ってきており、一部のテーマは既
14 年 Applied Physics Letters 誌等掲載)。
に応用の実を結んできている。例えば、超伝導デバイス
b)自己組織化による分子デバイス高次構造作製と評価
の研究では、窒化ニオブ(NbN)の薄膜形成技術やナノ
これまで半導体デバイスの高性能化のために取り組ま
ワイヤ作製技術を確立し、電磁波や光応答特性に優れた
れてきた、大きな素材を小さく加工していくトップダウ
超伝導デバイス技術を創出してきた。その技術基盤に
ン方式の素子作製技術では、分子間の相互作用を高度に
基づいて作製される超伝導単一光子検出器(SSPD)は、
制御することは困難であり、分子を積み上げて高次構造
従来用いられてきた半導体アバランシェフォトダイオー
を構築するボトムアップ方式の素子作製技術の開発が不
ドに比べて遥かに高い性能が実現され、既に量子暗号通
可欠である。NICT では、ナノスケールサイズの有機分
信システムのキーデバイスの 1 つとして不可欠な存在と
子構造体が有する自己組織化現象に注目し研究に取り組
なっているとともに、微弱光検出を必要とする様々なア
んできた。自己組織化による高次構造作製では、まず、
プリケーションへの展開が期待されている。有機デバ
目的とする構造や特性を数ナノメートルスケールの分子
2.12 ナノ ICT 基盤技術
構造にブレークダウンして設計し有機化学的に合成する。
子ユニットを配置し、平成 15 年に、絶縁性基板上に配
これを分子ユニットとして基板や電極上に散布し、分子
置された分子ユニットの非接触型原子間力顕微鏡による
ユニット間の相互作用に基づいて隣接ユニットを結合さ
高分解能観察に世界で初めて成功した(図 2.12.2)。
せる。この方式によれば、ちょうどレゴ®ブロックを組
み立てていくような感覚で原子・分子スケールの高次な
構造を比較的容易に作製することができる。
代表的な機能性分子であるポルフィリン分子について、
ターシャリーブチルフェニル基を付加することで、ブチ
ル基が金属基板上で移動するための“足”として機能し、
シアノフェニル基を付加することで水素結合により選
択的結合する“手”として機能することが、高分解能の
走査トンネル顕微鏡(STM)観察により明らかとなった
(図 2.12.1)
(平成 13 年 Nature 誌掲載)。この技術を発展
図 2.12.2
絶縁体基板上分子の分子分解能 AFM
させ、異なる化学活性を有する複数種の分子構造体から
成る 8 nm ピッチの微細グリッド構造を自己組織化現象
によって自発形成させる技術も開発している。
有機分子を基板上に配置し自己組織化をさせるために
は、分子を加熱により気化し真空槽内部に分子線として
導入する必要がある。しかし、複合機能を有する分子は
分子量が大きく、気化せずに熱分解してしまう。このよ
うな非揮発性/熱分解性の試料分子を電気的に中性状態
のまま真空槽内部に分子線として導入する方法として、
スプレー・ジェット技術を開発した(図 2.12.3)。この
技術は非揮発性/熱分解性をもつ分子でも、溶媒さえ選
べば試料溶液を準備することは可能であることが多いと
いう発想に基づいている。つまり試料溶液を出発点とし
て常圧下で試料溶液を噴霧し、得られたミスト粒子を従
来気体で中性分子線を生成するのと同様にパルスノズル
を用いて真空槽に導入する技術である。
有機分子の高効率発光と自己組織化構造を用いたレー
ザー発振にも取り組んだ。コレステリック液晶をラビン
グ処理した基板の間に挟むと、基板に対して垂直に配向
図 2.12.1
自己組織化した分子の STM 像
有機分子を基板上に配置し電子デバイスとして動作さ
せるためには、絶縁性基板上で分子を配置しなければな
らない。しかし、絶縁性基板上では STM による観察が
できないため、分子配置を確認できないことから、絶縁
性基板上で分子構造を確認する技術の開発にも取り組ん
できた。非接触型原子間力顕微鏡(NC-AFM)の高性能
化を行い、SrTiO3 単結晶基板の原子レベルで平坦な表
面を作製する技術を開発することで、この表面に有機分
図 2.12.3 スプレー・ジェット装置
10t h A n n i ver s a r y
121
2.12 ナノ ICT 基盤技術
した超分子らせん構造を示し、1 次元フォトニック結晶
年には、all-NbN 集積化回路技術を開発し、16 ビットシ
と見なすことができる。平成 15 年に蛍光色素をドープ
フトレジスタ、バッファなどの SFQ 回路の 10 K 動作に
した液晶セルから、フォトニック結晶の反射バンドに起
世界で初めて成功した。1 万接合大規模 SFQ 回路とい
因する低しきい値の円偏光レーザー発光を確認した。さ
う挑戦的な目標に向けて研究開発を行い、NEC、名古
らに、交流電場によるレーザー発振の可逆制御にも成功
屋大学、横浜国立大学との連携により、大規模 SFQ 回
した。
路セル設計技術と集積回路作製技術を確立した。平成
15年には、超伝導 SFQ ネットワーク要素回路(図2.12.5)
を開発し、世界最高速(45 GHz)の動作に成功した。
(2)
超伝導 ICT 基盤技術の研究
a)高周波デバイス
NbN の高周波デバイスとしての実用化を目指すため
に MgO 基板の導波管技術の開発を行い、平成 14 年に
世界で初めてテラヘルツ帯導波管型 NbN SIS 受信機の
開発に成功した(図 2.12.4)。また、テラヘルツ帯低雑
音受信機として期待されている HEB ミキサの研究で
は、平成 14 年に 0.93 THz で 510 K の低雑音動作に成功し、
当時、NbN HEB ミキサとして世界最高性能を示した。
IF ポ ト
図 2.12.5 大規模 SFQ 回路を用いたネットワーク要素回路
c)超伝導量子ビット
ミクサチップ
アルミ
線
デコヒーレンス時間(5 μs)を達成した。この結果は、同
100 m
年 Science 誌に掲載され、被引用回数は 350 回を超えて
接
900GHz 帯 NbN 導波管型 SIS ミキサブロック
いる。その後、平成 16 年に米国 NSF 財団の競争的研究
資金を獲得し、5 年間の共同研究を行った。
d)二ホウ化マグネシウム(MgB2)デバイス
b)超伝導単一磁束量子(SFQ)回路
超伝導を利用した SFQ 論理回路は、CMOS 回路よ
平成 13 年に新しい超伝導体 MgB2 を発見し、それに伴
り 4 桁小さい 0.01~ 0.1 aJ(アトジュール:10 ジュー
い、薄膜・デバイス化を目指した研究を行った。共蒸着
ル)で動作する、究極の低エネルギー情報処理技術であ
法による MgB2 の高品質薄膜の作製技術を確立するとと
る。SFQ 回路では、超伝導ループの中で量子化された
もに、平成 15 年に世界で初めて MgB2 トンネル接合の作
T)を情報担体として使用
製に成功した。また、戦略的創造研究推進事業 CREST
する。複数の超伝導ループとループ内の磁束量子を出し
の研究に参画し、大阪府立大学、日本原子力研究開発機
入れするためのスイッチとして機能するジョセフソン接
構、大阪府立産業技術総合研究所などとの共同研究によ
合を組み合わせることで、あらゆる論理演算を実現でき
り、MgB2 中性子検出器(図 2.12.6)を開発し、平成 17
る。論理ゲートにおける消費電力、動作遅延は極めて小
年に既存の中性子検出器より 2 桁速い高速動作を実証し
さく、高速性も兼ね備えており、100 GHz を上回る動
た。
−18
磁束(磁束量子:2.07 × 10
−15
作が実証されている。
平成 11 年に SFQ 回路の研究を始めて 2 年後の平成 13
122
国カンサス大学との共同研究により、NbN 量子ビット
素子を開発し、固体量子ビットデバイスとして世界最長
波路
図 2.12.4
NbN の新たな研究方向の探索として、平成 14 年に米
2.12 ナノ ICT 基盤技術
b)単一分子レベルのデバイス
有機材料を分子レベルまでスケールダウンすることで、
バルク材料では困難であった単一光子や単一電子の操作
や制御が可能になる。これにより、超省エネルギーで動
作する光・電子デバイス、量子的な原理に基づいて情報
処理を行うデバイスが実現する。
単一分子または数個の分子から成るデバイスを作製し
た際、数 nm の領域にアクセスするインターフェースが
図 2.12.6
MgB2 中性子検出器
必要になる。単一分子への電気的インターフェースとし
て、集束イオンビームを用いてギャップ幅の 3 nm ナノ
2. 12. 2
ギャップ電極を作製し、単一分子の電気伝導特性測定に
第 2 期中期計画
成功した。光学的インターフェースの場合は、通常用い
る光の波長が数百 nm であり分子レベルの領域に個別に
(1)
有機ナノ ICT 基盤技術の研究
a)自己組織化による分子デバイス高次構造作製と評価
アクセスすることは不可能である。これを解決するため
有機分子を組み上げる手法としては、2.12.1 (1)b) で
金属界面を伝搬する表面プラズモンを利用することを研
述べた他に、DNA などの生体高分子の自己組織化によっ
究してきた。平成 20 年、数値計算により電界を集中さ
て形成される構造を分子配列制御のテンプレートとして
せる構造や光のモードによって 3.5 nm 以下の大きさに
利用する方法も有望である。DNA はアデニン(A)、グ
700 倍以上の光強度を集光することが可能であることを
アニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)という 4 種の塩
示した(図 2.12.8)。また平成 22 年には、表面プラズモ
基から成るが、A-T、G-C といった特定の組み合わせに
ン超集束を電気信号で動的に制御する構造を考案し、3
基づく相補的な結合を形成することから、この配列を制
次元数値解析シミュレーションにより動作を検証すると
御することで 2 次元のみならず 3 次元の高次構造を人工
ともに、SOI 基板を用いて超集束の電気的制御構造を試
的に作製することが可能となる。我々は、DNA の分子
作した。
配列構造を確認する方法として、高分解能の溶液ナノプ
ローブ技術を開発し、平成 20 年に光入力による DNA の
動的構造変化観察を世界最高の高解像度で観測すること
にも成功した。また、翌年には液中にて DNA のストラ
ンド構造(3 nm)や光機能性分子(ハロロドプシン)のナ
ノ分解能直接観察に成功した(図 2.12.7)。
図 2.12.8
金属表面を伝搬する表面プラズモンによるナノ集束
単一分子レベルの素子として、ナノギャップ電極間に
光機能分子やフォトクロミック分子をコートしたナノ粒
子を配置し、光ゲート型分子単一電子トンネル素子を試
QP
作、平成 20 年に光による単電子トンネル(SET)特性の
QP
図 2.12.7 DNA ストランド構造の高分解能液中観察
ゲート変調を確認した(図 2.12.9)。また、平成 22 年に
は有機ワイヤー分子と金ナノ粒子から成るハイブリッド
材料のダブルドット単電子トランジスタ構造を、自己組
10t h A n n i ver s a r y
123
2.12 ナノ ICT 基盤技術
Letters 誌で発表され、電波天文分野にも大きなインパ
クトを与えた。平成 7 年に NbN/AlN/NbN トンネル接
合を用いた準光学 SIS ミキサの開発から、MgO 基板を
用いた導波管技術まで、実用化の第一歩を踏み出すには
12 年の歳月を要した。
図 2.12.9
SET デバイス構造と光ゲート特性
b)超伝導量子ビット
NbN 量子ビット素子の研究は、平成 22 年以降、日本
織化手法を用いて作製し、ハイブリッド粒子間の相互作
電気株式会社、独立行政法人理化学研究所、国立大学
用を反映した微分コンダクタンスの超周期構造を世界で
法人東京大学との共同研究に発展し、エピタキシャル
初めて観測した。
NbN 接合を用いたトランズモン型量子ビット研究の研
その他、単一分子計測・解析及び単一光子発光などの
究として現在も継続している。この共同研究で得られた
評価のために、平成 20 年に特殊仕様の高感度光検出器
成果は、その後平成 23 年に Applied Physics Letters 誌、
PMT とイオン液体を用いた高真空下高 NA 高 S/N の発
平成 25 年に Physical Review Letters 誌に掲載され、材
光計測系の開発、ナノスケールの素子の信号処理アーキ
料科学という観点から超伝導量子ビットのデコヒーレン
テクチャとして、平成 19 年からブラウン運動を利用し
ス要因を明らかにしようとする試みとして注目を集めて
た低発熱で高効率の可逆非同期セル・オートマトン回路
いる。
の考案などを行った。
c)超伝導ナノワイヤ単一光子検出器(SSPD)
SSPD 素子は図 2.12.11 に示すように、厚さ 10 nm 以
(2)
超伝導 ICT 基盤技術の研究
下の超伝導薄膜から成るナノワイヤを受光面積全体にメ
アンダ状(蛇行状)に敷き詰めた構造をしている。超伝
a)高周波デバイス
大学共同利用機関法人自然科学研究機構国立天文台か
導臨界電流よりもわずかに小さいバイアス電流を流した
らの受託研究により ALMA バンド 10 用 NbN 導波管型
状態で SSPD に光子が入射すると、光子のエネルギー
SIS 受信機を開発し、平成 19 年に 0.8 THz で量子雑音 7
で超伝導状態が壊れ、素子の両端に電圧が発生する。こ
倍程度の低雑音動作に初めて成功した。また、中国科
の電圧を室温のエレクトロニクスで計測することで、高
学院紫金山天文台(PMO)との共同研究により NICT 製
効率に光子を検出できる。SSPD は、アバランシェフォ
0.5 THz 帯超伝導 SIS 受信機を PMO のポータブルサブ
トダイオード(APD)などの半導体光子検出器に比べて、
ミリ波電波望遠鏡(図 2.12.10)へ搭載した。この NbN
圧倒的に高い検出効率、低暗計数率、低ジッタ、広い波
SIS 受信機は、平成 19 年 12 月 31 日午前 5 :35 :14 にオリ
長感度領域など優位な性能を有しており、量子光学、量
オン A の CO スペクトルを観測し、世界で初めて NbN
子情報通信技術、生体医療計測等、様々な分野での応用
SIS 受信機の実用化に成功した。この結果は、平成 20
が期待されている。
年のスペース・テラヘルツ国際会議と Applied Physics
SSPD 素子作製に向けて、電子線リソグラフィ技術
及び反応性イオンエッチングによって、線幅 100 nm の
図 2.12.11
図 2.12.10 PMO
124
サブミリ波電波望遠鏡
SSPD の概念図と動作原理
2.12 ナノ ICT 基盤技術
メアンダ状のナノワイヤにパターニングする加工技術を
大する効果を発見し、有機電気光学分子の更なる高機能
確立した。受光部面積は、入射単一光子との高い光結合
化に向けた新たな分子設計指針を獲得した。
効率を得るために、15–20 µm 角程度とした。平成 19 年
b)フォトニック結晶構造による有機分子の発光制御
には、NEC、米国 NIST、NICT 量子 ICT グループとの
有機分子を利用した光デバイスを実現するにあたり、
共同研究により SSPD を用いた量子暗号鍵配送(QKD)
デバイスサイズをナノスケールや分子スケールまでス
フィールド実験を行い、世界最長距離(97 km)、最高速
ケールダウンするだけでは、光と分子の相互作用が小さ
(10 kbps/photon)を達成し、平成22年には東京 QKD ネッ
いために、実用的な機能を得ることは容易ではない。特
トワークでの実証実験に成功した。
に単一分子を光デバイスとして利用するためには、吸収
d)光・超伝導インターフェース
断面積が非常に小さい単一分子に対して効率よく光を作
SFQ 回路を用いた光・超伝導インターフェース研究
用させたり、単一分子から効率よく光を取り出したり、
は、超伝導 SFQ 回路と光デバイス技術を融合し、フォ
単一分子の光機能を自在に制御したりするための技術開
トニックネットワークへの応用を目指している。この
発が必要となる。我々は、ナノメートルスケールの微小
研究では、超伝導技術だけではなく、低温で動作する
空間において光閉じ込めや伝搬制御を可能にするフォト
InGaAs フォトダイオード(MSM-PD)や、MSM-PD と
ニック結晶(PC)に着目し、有機分子の発光制御の実現
超伝導マイクロストリップ線路を集積化した極低温動
に取り組んできた。単一分子からの発光制御を行うため
作光入力モジュールなどの研究開発を、超高速フォト
に、低バックグラウンド発光の無機酸化物材料を用いた
ニックネットワークグループと光デバイスプロジェク
可視光領域のフォトニック構造を設計・製作し、平成
トとの連携によって推進してきた。その結果、4.2 K に
24 年に共振モードとの結合による発光寿命の長寿命化
おける極低温動作通信波長帯 MSM-PD と光モジュール
を確認した(図 2.12.13)。
の開発に成功し(平成 22 年に Applied Physics Letters
誌に掲載)、また、光入力モジュールと SFQ チップを
接続し、光パルスから SFQ パルスへの変換動作の検
証実験を行い、光パルスにより SFQ パルスの発生を
実 証 し た( 平 成 23 年 に IEEE Transaction on Applied
Superconductivity 誌に掲載)。
2. 12. 3
第 3 期中期計画
(1)
有機ナノ ICT 基盤技術の研究
a)機能向上のための分子設計・合成技術
有機電気光学分子の電気光学機能強化のための分子設
計では、世界最高性能の有機電気光学分子の合成に成功
し、平成 23 年に図 2.12.12 に示すような分子内水素結合
図 2.12.13
フォトニック結晶による単一分子の発光抑制
によりπ共役構造が安定化することで電気光学機能が増
c)有機 EO ポリマー光変調器
光変調技術は光通信において情報伝送速度を決定す
る基幹技術であり、低電力で 100 GHz を越える超高速
変調を可能にする有機 EO ポリマーが注目を集めている。
NICT では、光通信技術の超高速化と省電力化に向けて、
EO ポリマー材料の開発から変調器やスイッチ、光集積
図 2.12.12
分子内水素による構造安定化
回路技術の研究までを総合的に行っている。EO ポリ
10t h A n n i ver s a r y
125
2.12 ナノ ICT 基盤技術
マーは、EO 効果を示す分子をポリマー中に分散した材
目指して研究を行っている。これまで、高精度な Si 加
料であり、分子内水素結合を利用した独自の分子設計指
工技術を確立し、平成 25 年に従来デバイスに比べて素
針により、世界最高性能の EO 分子の開発に成功してい
子サイズで 1 /100 の有機 EO ポリマーとシリコン 1 次元
る。EO ポリマー光変調器の作製では、基板に電極/下
フォトニック結晶導波路のハイブリッド EO 変調器を試
部クラッド/ EO ポリマー/上部クラッド/電極の積層
作し光変調動作を実証した(図 2.12.15)。
構造を作製する。しかし、一般的なポリマーは、有機溶
媒に可溶であるために、積層構造を作製できない。我々
は、光架橋性有機 EO ポリマーの合成に成功し、成膜後
の架橋により耐溶媒性を発現させることで、平成 24 年
にオールポリマーの高効率な有機 EO 変調器構造の作製
Si細線
導波路
に成功した(図 2.12.14)。これまで、光変調器の基本特
性を評価し、平成 25 年には、50 GHz の高周波信号に対
する光応答を確認している。
図 2.12.15
超小型 EO 変調器
d)生体分子を用いた高機能光検出器
数十億年をかけて創りだされた生物は現在の技術でも
図 2.12.14
オール EO ポリマー光変調器
作りだすことが困難な高度な機能を有したナノスケール
のバイオ分子を有している。このバイオ分子そのものを
光通信技術は、長距離通信だけでなくサーバー間の
利用して現在の技術と融合することにより、生体システ
データ通信から集積電子回路中の光配線までの応用が進
ムの高度な機能を活かした新たなバイオミメティック人
められている。これに伴い、光変調器の小型省電力化が
工システムが実現できる。
重要な研究課題となっている。NICT では、有機 EO ポ
リマーと Si フォトニック結晶構造を組み合わせること
光駆動のプロトンポンプ機能を有しており、電極と電解
で、光変調器の高速化と小型化を同時に実現することを
液界面の bR に光を照射すると時間微分応答性の光電流
野生型(WT)の光電流応答
図 2.12.16
126
光機能性生体分子膜バクテリオロドプシン(bR)は、
変異体(D96N)の光電流応答
bR オプティカルフロー検出器のバイポーラセルの基本動作
2.12 ナノ ICT 基盤技術
が得られ、光強度の変化のみに応答する信号が外部から
ダクタンスによって制限されている。素子の小面積化に
電源供給を受けることなく得られる。平成 23 年に bR を
より寄生インダクタンスを低減することが可能であるが、
用い生体視覚機能を模した抑制領域と興奮領域を有する
受光面積の減少は検出効率の低下を招く。高い検出効率
人工視覚機能型光センサを試作し、空間変位に対する微
を維持しつつ高速化を実現する方法として、小面積化素
分応答特性などの素子レベルの演算処理機能の基本特性
子の開発とそのアレイ化に取り組んできた。しかし、ア
の確認に成功した。また、平成24年に配向制御膜のパター
レイ化した素子では、多数の信号線からの熱流入によ
ンニングにより双極型光検出器構造を作製し、素子レ
り冷却効率が減少することから、本中期計画において
ベルのエッジ検出機能の確認にも成功した。平成 25 年
冷却された同一素子内での SFQ 回路による信号処理を
には、bR の野生型と遺伝子操作により光応答時定数を
提案した(図 2.12.18)。平成 25 年には、SFQ 回路によ
大きくした変異型とを組み合わせてオプティカルフロー
る信号処理を用いた 4 ピクセル SSPD アレイの検出効
検出器を試作し、単一のバイポーラセルの基本動作確認
率の入射光子数依存性から計数率 100 MHz 以上を確認
(図 2.12.16)を行うとともに、その実験データをもとに
し、シングルピクセルの 25 MHz からの向上を実証して
光学的相対速度場検出のシミュレーションを行い、動作
いる。また、これまで、高速化のためにナノワイヤのフィ
特性を検証した。
リングファクタを減少すると検出効率も減少すると考え
られていたが、平成 25 年に数値シミュレーションによ
(2)
超伝導 ICT 基盤技術の研究
a)超伝導ナノワイヤ単一光子検出器(SSPD)
ナノワイヤは膜厚 4 nm の非常に薄い超伝導薄膜で
あるため、ナノワイヤ層の光吸収効率(NbN は 30 % 程
りフィリングファクタを通常の 50 % から 16 % に低減し
ても 75 % のシステム検出効率が得られることを確認し、
低フィリングファクタ化により最大計数率がこれまでの
25 MHz から 2.8 倍の 70 MHz に向上することを実証した。
度)によって検出効率が制限されるという問題があった。
NICT では、ナノワイヤ層での光吸収効率を改善するた
Room
Temp.
めに、ナノワイヤ層の両側に光反射層を持つダブルサイ
ドキャビティ構造を導入し、平成 25 年には、暗計数率
40 cps において 80 % のシステム検出効率、約 67 ps の
Photon
Electrical pulse
低ジッタを実現し(図 2.12.17)、APD を遥かに凌ぐ性
SFQ readout circuit
能を達成した。
図 2.12.18
SSPD アレイ化と SFQ 信号処理
b)光・超伝導インターフェース
超伝導ナノワイヤを利用した光検出器の応答時間を評
価し、平成 25 年に、受光面積を従来の 15 µm × 15 µm
から 1 µm × 1 µm に小型化することにより応答時間を
図 2.12.17
ダブルサイドキャビティ SSPD の概念図と検出
効率
14 ns から 0.3 ns へと大幅に高速化できることを確認し
た。また、同年 1 µm × 1 µm の受光面積でエラーレー
トが 10 -12 以下となるために必要な 1 パルス当たりの光子
SSPD 素子の本質的な応答速度は、励起電子のエネ
数は約 54,000 と見積もられ、10 GHz の動作周波数にお
ルギー緩和時間に依存し、NbN 薄膜を用いた場合の緩
いても従来の半導体フォトダイオードよりも 1 桁以上低
和時間は 30 ps 程度と非常に短く、本質的な動作周波数
い 70 µW の光入力パワーで動作することを確認した。
は数十 GHz に達する。しかし、現実の SSPD 素子の応
答速度は、長いナノワイヤ長に起因する素子の寄生イン
10t h A n n i ver s a r y
127
2 研究活動
未来 ICT 基盤技術
2. 13 量子 ICT 基盤技術
2001 年(平成 13 年)4 月、当時の通信総合研究所(CRL)
通信路容量の上界予想として発表した。しかし、当時、
に量子情報技術研究室が発足し、NICT で量子情報通信
量子測定を定式化する理論は未完成で、システム全体の
技術(量子 ICT)の研究開発が本格的に始まった。折しも、
完全な記述までには至らなかった。1970 年代にはホレ
量子力学と情報科学が融合し量子情報科学という新分野
ボーら旧ソ連の学者が量子一括測定という概念をゴード
が急激に成長し始めていた。実際、Physical Review 誌
ン予想に持ち込み、上界が実は真の通信路容量だろうと
など物理学の主要誌に量子コンピュータや量子暗号、量
証明を試みる。しかし当時はまだ成功しない。再び進展
子情報理論に関するおびただしい論文が発表されるよう
し始めるのは 1990 年代になってからである。
になり、世界各国でこれらに関する国家プロジェクト
一方、1980 年代には量子暗号と量子計算の概念が発
が立ち上がっていった。この 13 年間、NICT では、量子
明される。量子暗号の発明は偶然で、1982 年に物理学
ICT の新原理開拓やその実証実験に取り組むとともに、
者のベネットと暗号学者ブラサールがプエルトリコの
その実用化に向けて産学官の様々な研究機関に委託研究
ホテルのプールで偶然出会って、何気ない会話からの
を受託頂き、All Japan の体制で戦略的に取り組んでき
ちに BB84 と命名される量子暗号が生まれたと言われる。
た。その成果は、国際的著名誌への論文掲載や、世界最
1985 年には、ドイチェが多世界宇宙論の理論を発展さ
高速での量子暗号化が可能な都市圏の試験ネットワーク
せ量子計算の概念を提唱した。
“Tokyo QKD Network”の構築等に繋がっている。本稿
1994 年には、ベル研究所のショアによって、離散対
では、これまでの取組を当該分野の発展の歴史と合わせ
数問題を高速で解く量子計算アルゴリズムが発見され、
て整理する。
量子コンピュータが実現されれば、現代暗号も数分で解
読できることがわかってきた。これを契機に、量子通信、
2. 13. 1
黎明期(~ 2000 年度)
量子暗号、量子計算の研究が合流して、量子情報科学の
誕生につながる。
量子通信の源流はシャノンによる通信理論誕生(1948
ちょうどその頃、CRL でも、光の量子制御技術や量
年)と同時期まで遡る。1950年に、すでにガボールは、シャ
子通信に関する研究が始まった。当時はまだ光情報処理
ノン理論を物理学の一分野としてとらえるべきであると
研究室の中の一研究課題として、理論研究を中心に進め
して量子論との統合を試み、光子検出器があれば通信路
られていた。1999 年頃から郵政省の下で量子情報通信
容量は古典論より上がるだろうと示唆した。同時に通信
に関する調査研究が始まり、CRL が中心になって産学
にはプランク定数によって決まる「量子雑音」という不
官の識者と協力し研究開発戦略に関する報告書をまと
可避な雑音が伴うことも指摘した。1960 年にはメイマ
めた。2001 年(平成 13 年)には CRL に量子情報技術研
ンがレーザーの発振に成功し、レーザーによる新時代が
究室が発足し、高度通信・放送研究開発助成金交付業務
幕を開ける。レーザーの光子のエネルギーは、周波数が
(TAO)による量子暗号に関する委託研究と連携する形
電波の 10 万倍あるため、温度に換算すると光子 1 つで
で、量子情報通信の本格的な研究開発が始まった。
1 万度くらいに相当し、光子という粒の性質が電波の通
信より顕在化する。レーザーの誕生は、量子通信理論の
2. 13. 2
第1期中期計画
構築を迫っていたわけである。
128
まもなくベル研究所のゴードンが、シャノン理論を量
研究室で最初に取り組んだのは、量子通信の基本原理
子力学の言語である行列力学を用いて書き換え、シャノ
の実証実験である。それは、究極の通信効率を実現する
ンエントロピーに代わってフォンノイマンエントロピー
ための符号化技術に関するものである。1964 年のゴー
という量を通信の分野に初めて導入した。彼は、のちに
ドン予想に対して、1970 年代にホレボーが量子測定理
ホレボー情報量と呼ばれることになる表現を 1964 年に
論を適用し厳密な上界定理として証明したが、実際に達
2.13 量子 ICT 基盤技術
成可能な通信路容量かどうかについては、その後 20 年、
年である。古典雑音が無い場合について、シューマッ
ハーら米英の理論チームが、ホレボー上界は実際に達成
>䝡䝑䝖ᩥᏐ@
未解明のままであった。突破口が開かれたのは、1995
ఏ ᝟
可能な伝送容量であることを証明した。そして、翌年、
ホレボーも古典雑音を含む一般的な場合へ証明を拡張し、
シューマッハーらも同時に一般化に成功する。彼らの理
論は、これまでのシャノン限界を超える通信が可能であ
&
ることを示していた。しかし、具体的にどういう技術を
ಙྕ ᐃ䝧䜽䝖䝹㛫䛾┦ᑐゅ >ᗘ@
用いればシャノン限界を超えた新しい通信領域へ踏み出
せるか、という点については未解明で、ただそういう領
図 2.13.2
超加法的量子符号化利得の実験データ
域が存在するということを示しているに過ぎなかった。
CRL では、そのエッセンスを抜きだし、実験可能な
が実験データで、わずかに上に出ている部分が超加法的
モデルへ具現化するという作業から始まった。結局、シャ
量子符号化利得の実験データであり、光子の信号帯域を
ノン限界を超えるためには、復号過程で量子コンピュー
2 倍にした時、2 倍以上の情報量が伝送されていること
タの原理、すなわち重ね合わせの原理に基づく量子計算
を示している。青の線は理論値を示す。大容量化へ向け
を用いるのが本質的であり、その過程で符号語状態間の
た新しい原理が、ようやく見えてきたわけである。その
量子干渉を引き起こして信号の識別性を向上させること
本質は従来にはない量子計算を組み込んだ新しい受信過
で超シャノン限界の通信が可能になることがわかってき
程にあり、この新しい復号器のことを量子デコーダと呼
た。この仕組みの効果は、次のようにシンプルに表現で
ぶ。
きる:伝送に費やす通信資源の量を 2 倍に増やすと、伝
一 方、 量 子 暗 号 の 分 野 は、2000 年 以 降、 本 格 的 な
送情報量が 2 倍以上に増える(超加法的符号化利得)。こ
実験が世界各国で始まり、ID Quantique(スイス)や
れに対して従来の理論では、伝送情報量は最大で 2 倍
MagiQ(アメリカ)などのベンチャー企業も誕生した。
までは増えるが、決して 2 倍以上に増えることはない
2005 年には、アメリカの国防総省国防高等研究計画局
(図 2.13.1)。
の支援を受けたプロジェクトがボストン地区に 3 地点を
結ぶ量子暗号ネットワークを構築しフィールド実験に成
C2 = 2C1
…
…
…
…
1
1
2
2
0
0
1
…
…
…
…
していく。ヨーロッパでは2004年に欧州連合のプロジェ
クト SECOQC が発足し、12 か国、41 機関の研究チー
C2 > 2C1
1
功した。その後、アメリカでは、国家機密の研究に移行
量子計算
ムによる研究開発が始まった。
同じ頃、NICT では、量子鍵配送装置のプロトタイプ
の開発を三菱電機株式会社、日本電気株式会社(NEC)
及び国立大学法人東京大学に委託する形で推進し、着々
図 2.13.1 古典情報理論と量子情報理論での復号方式の比較と
超加法的符号化利得
と基盤技術を開発していった。そして、2005 年度末(平
超加法的符号化利得の原理実証実験は 2003 年(平成 15
アクセスポイントにて、三菱電機システムと NEC シス
成 17 年度末)に、NICT 光テストベッド JGN2 の秋葉原
年)に成功した。図 2.13.2 がその実験データで、縦軸が
テムを相互接続し暗号鍵の最初のリレー実験に成功し、
取り出された情報量、横軸のオフセット角は、送信状態
将来のネットワーク化への布石を打っていた。この時点
と最適な復号基底間の相対位相で、最適値の前後に振っ
ではまだ 20㎞のボビンファイバーを用いた室内伝送実
て情報量の劣化を測定している。水平の赤の破線が従来
験であった。
の符号化を用いた場合の限界(シャノン限界)、黒の点
10t h A n n i ver s a r y
129
2.13 量子 ICT 基盤技術
2. 13. 3
第2期中期計画
員が、偶然試した新しい結晶で、これまでとは質的に違っ
た高純度のシュレーディンガー猫状態の生成に成功した。
2003 年(平成 15 年)に行った超加法的符号化利得の原
図 2.13.3 は単一光子状態とシュレーディンガー猫状態
理実証実験では、実はまだ伝送に適した信号は用いてい
の電場振動の様子を示したものである。光子 1 個の電場
なかった。伝送に適した信号はレーザー光、つまりコ
振幅は不確定性原理のために完全にランダムになり、位
ヒーレント状態で、この状態こそが唯一、損失があって
相変化に依存しない 2 本の平行な分布から成る。分布が
も干渉性を維持できる理想的搬送波の状態である。しか
ぼやけているのが不確定性原理による量子雑音である。
し、このような巨視的信号で量子計算を行う技術は、ま
下の図はウィグナー関数と呼ばれる表現で、原点付近に
だ実用レベルにはなく、2003 年(平成 15 年)の実験では、
負のくぼみがあるのが量子特有の効果を表している。
単一光子の偏光・経路変調符号という特殊な信号で原理
実証を行っていた。
第 2 期中期計画では、量子デコーダの実現を目指し
この状態から光子を増やしていくと、徐々に波として
振動する様子が現れ始める。右の図は位相が 180 度ずれ
て振動する 2 つの波が同時に存在している状態を表して
て、コヒーレント状態を自在に量子制御するための研究
いる。そのウィグナー関数は原点で負の値をとっており、
開発を本格化した。主要な課題は 2 つあり、1 つは巨視
2 つの波が量子力学的に重ね合わさった状態であること
的に異なるコヒーレント状態の重ね合わせ状態を自在に
を示している。
生成制御する技術、もう 1 つはそのような状態を最高精
度で計測する技術である。巨視的に異なるコヒーレント
状態の重ね合わせ状態は、シュレーディンガーの猫のパ
ラドックスとして知られる典型的な量子効果を内在して
おり、シュレーディンガーの猫状態とも呼ばれ、情報通
信に新しい局面を切り開く重要なリソースとなるもので
ある。このシュレーディンガーの猫状態を光の伝播モー
ド内に生成するのは量子光学積年の夢であった。そのた
めには、光子レベルでの強い非線形過程が必要で、これ
が困難な壁として立ちはだかっていた。すでに 1990 年
代にスクィーズド光と光子検出器を組み合わせて測定誘
起型非線形過程を使う方式が提案されており、第 1 期中
図 2.13.3
単一光子状態とシュレーディンガー猫状態の電場
振動の様子とウィグナー関数分布
期計画後半には、NICT の研究室でも必要な技術が整備
130
され始めていた。2003 年(平成 15 年)から試行錯誤を続
その後、NICT で開発したシュレーディンガー猫状態
けていたが、2004 年にフランス国立科学研究センター
生成技術を用いて、シュレーディンガー猫状態の大き
のシャルル・ファブリ研究所のグループがシュレーディ
さ(波の振幅)を増幅する技術や、重ね合わせ状態にお
ンガー猫状態への第一歩となる状態の生成に成功し、初
ける奇数光子と偶数光子の比重を自在に制御する技術な
めて同じゴールをねらうライバルの存在を知った。2005
ど、新しい技術を次々と開発し、量子光学に新局面を切
年秋にはデンマークのニールス・ボーア研究所でも類似
り開きながら新しい ICT への基盤を構築してきた。成
の状態を生成したとの報が入り、12 月には、シャルル・
果は Physical Review Letters 誌、Nature Photonics 誌
ファブリ研究所がついにシュレーディンガー猫状態の生
等、物理・光学分野で最も著名な国際論文誌に掲載され、
成についてサイエンス誌に投稿したと知ることとなった。
新聞、Web サイト等でも紹介された。一連の研究で用
落胆からはい上がり、NICT の研究室も独自の実験装
いられた実験系の写真を図 2.13.4 に示す。3 メートル四
置の改良を進め、2006 年(平成 18 年)春には何とかシュ
方ほどの光学定盤上に精密光学部品がびっしりと並び、
レーディンガーの猫状態を生成できるようになった。夏
それらを制御するための電子機器と電気ケーブルがひし
になり、国際会議に向けて実験の改良を続けていた研究
めき合っている。まだ、2 ビット程度の量子計算処理し
2.13 量子 ICT 基盤技術
マドリッドに量子暗号のテストベッドが開設され、南ア
フリカではダーバンに、中国では蕪湖(Wuhu)にフィー
ルドテストベッドが開設され、米国でも Telcordia やロ
スアラモス国立研究所が粛々と伝送実験に取り組んでい
た。
日本では、2009 年(平成 21 年)から JGN2plus の敷設
ファイバを用いて、多地点の量子暗号ネットワーク
“Tokyo QKD Network”の構築に着手した。QKD は、量
子鍵配送の英語略である。量子暗号では、まず、送り手
図 2.13.4 シュレーディンガー猫状態を生成・制御する装置
と受け手に量子鍵配送装置を用意し、光回線を介して安
全な暗号鍵(0,1 の乱数列)を共有する。次に、送り手は
かできないが、将来は、より小型で多ビットの処理がで
この鍵と送りたい情報を足し算(ビット値の論理和)し
きるような量子回路に改良していく計画である。そして、
て暗号文とし伝送する。受け手は暗号文に共有しておい
このような回路内にシュレーディンガー猫状態をあらか
た暗号鍵を足し算すると情報が復元される。一度使用し
じめ用意しておき、ファイバから入ってきたコヒーレン
た鍵は二度と使わないワンタイムパッド方式で運用する
ト状態と相互作用させ、ある適切な状態に変換してから
ことで原理的に破れない暗号通信が可能となる。
測定することで、従来限界を超える高効率の通信を実現
NICT、NEC、三菱電機株式会社、NTT の ほ か、 東
するのが量子デコーダであり、量子 ICT 分野での長期
芝欧州研究所、ID Quantique、オーストリア工学研究
的な目標である。現在の光通信では 1 ビット当たり 10 万
所やウィーン大学にも参加していただき、2010 年(平成
個以上の光子を使っているが、このような量子デコーダ
22 年)10 月に、最新鋭の Tokyo QKD Network を開設し、
が実現できると、1 ビット当たり 1 個に満たない光子でも、
そこで動画伝送の完全秘匿化に世界で初めて成功した
信頼性の高い情報伝送が原理的に可能であることが理論
的に示されている。
量子暗号分野では、欧米で研究開発が加速する中、
(図 2.13.5)。わずか 2 年で伝送距離は、SECOQC ネッ
トワークの 2 倍近くの 50 km に伸び、暗号化速度は 100
倍以上に向上した。また、各機関の仕様の異なる QKD
フィールド実験の時代に入り、日本では三菱電機株
装置を相互接続するための最新のアプリケーションイン
式会社、NEC に続き、NTT にも本格参入していただ
ターフェースを開発し、ネットワーク運用を行いながら
き、順調に第 2 期中期計画に移行した。ヨーロッパでは、
様々なノウハウを蓄積した。そこでの成果は、テレビ、
SECOQC プロジェクトのもとで多地点間の量子暗号
新聞、Web サイトなど多くのメディアで広く紹介いた
ネットワークの構築が始まっていた。NICT に最新の超
伝導光子検出器が整備されたのを機に2007年(平成19年)
夏、当初計画には無かったが、NEC と NICT の連携に
よる本格的なフィールド実験に踏み切った。SECOQC
が 2008 年に大規模なフィールド実験を予告しており、
日本でも早急に経験値を上げておく必要があった。けい
はんなオープンラボにおいて、京都と奈良の県境にある
JGN2 の敷設ファイバを用いた、波長多重による量子暗
号の伝送技術の実験を行った。
2008 年 10 月 8 日、ウィーンで SECOQC のフィールド
実験が研究者や報道陣に公開された。平均の伝送距離は
30㎞、鍵の生成速度は 1 kbps で音声の完全秘匿化を行
える性能だった。その後、ヨーロッパでは、ジュネーブ、
図 2.13.5
量子暗号ネットワーク(Tokyo QKD Network)と
盗聴不可能なテレビ会議システム
10t h A n n i ver s a r y
131
2.13 量子 ICT 基盤技術
だき、Nature Photonics 誌、Science 誌などトップ科
学誌のニュース欄でも紹介された。
2. 13. 4
第3期中期計画
コヒーレント状態の自在な量子制御と並んで量子 ICT
の実現に欠かせないのが、パルス内の光子数を正確に識
別できる光子数識別器である。これは、光が光子の集ま
りであるという離散性を最大限に活用するために必須の
技術である。量子通信のほか、量子計算及び量子計測標
準の実現に欠かせない技術である。光子数識別器は低雑
音であるのはもちろん、光子を電気信号に変換し読み出
す効率(量子効率)もほぼ 100 % に近くなくてはならな
い。このような要求を満たす光子数識別器としては、現
在、超伝導転移端センサーが最も有望な方式であり、第
2 期中期計画期間中に独立行政法人産業技術総合研究所、
日本大学、独立行政法人物質材料研究機構に研究開発を
委託し、世界トップレベルの光子数識別器が開発された。
図 2.13.6
開発した量子受信機の概念図と実験結果
この技術を活用し、量子 ICT 研究室では、まず量子
デコーダの基幹部品となる量子受信機の開発に取り組ん
Technologies、ドイツの Max-Planck 研究所等から次々
だ。図 2.13.1 で説明した量子デコーダでは、2 つ以上の
と本成果を発展させる新しい実験成果が発表されており、
光信号を測定する前に量子計算機に通して量子的な演算
熾烈な研究開発競争が始まっている。
を行い、その後光子を検出するというものであったが、
132
一方、第 2 期中期計画で開発したシュレーディンガー
前述の通りこれをコヒーレント状態の光で自在に行うこ
の猫状態の生成技術の応用研究も進め、光の入力信号
とは現在の技術では困難である。量子受信機は、この量
を無雑音に増幅し、出力側に転送する「量子増幅転送」
子計算の部分を最も簡単化し、1 つの光信号に対しての
技術を発案し、2013 年(平成 25 年)に実証に成功した。
み量子計算(量子制御)を行い、その後に光子を測定し、
図 2.13.7 にその概念図を示す。図中下のグラフは、こ
量子雑音による信号識別性能の劣化を限界まで抑制する
の技術を将来的に量子暗号に応用した場合の伝送距離に
受信機が、量子受信機である。
対する量子鍵生成率の試算であり、本技術が将来的によ
図 2.13.6 に、その概念図と実験結果を示す。コヒー
り確立されていけば、従来の量子暗号の伝送距離限界を
レント光の位相変調で作られた 0, 1 の信号は、
「量子受信
大きく超え得る可能性を示している。こちらの成果も光
機」内で、まず波の制御(量子制御)がなされ、その後光
学分野の国際的著名誌である Nature Photonics 誌に掲
子数識別器で信号識別を行う(上部左は量子受信機の装
載され、新聞、Web サイト等でも紹介された。
置写真)。量子受信機が、従来の光通信理論の信号識別
量子暗号分野においては、量子鍵配送システムの実用
限界(ショット雑音限界)を超えた、超低ビット誤り率
化をにらみ、現在のインターネットの安全性に直接寄与
を実現し得ることは、理論上は予想されていたが、2011
することを目的として、量子鍵配送システムで生成され
年(平成 23 年)に、本実験で NICT が世界に先駆けてそ
た情報理論的に安全な鍵をネットワークスイッチに供給
の原理実証に成功した。本成果が物理学分野の国際的
し、IP ベースの通信の安全性を飛躍的に向上させ得る
著名誌 Physical Review Letters 誌に掲載されると、そ
システムの開発を行った。
の後世界の主要研究機関の量子受信機開発を促進する
現在のインターネットで使用されている標準通信プロ
こととなり、現在では、米国の NIST、Raytheon BBN
トコルの TCP/IP の OSI 参照モデルでは 7 階層モデルに
2.13 量子 ICT 基盤技術
拠点
①量子鍵配送システ
ムで共通鍵を配送
拠点
量子鍵
配送装置
専用線
量子鍵
配送装置
②共通鍵を
配布
②共通鍵を
配布
3SW
L3SW
③IPsecにより暗
号化した通信
④パケット毎に
新しい鍵を使用
図 2.13.9
図 1
量子鍵配送装置と組み合わせた Layer 3 スイッチ動
量子鍵配送装置 組み わせた l
イ
作手順
通信が可能となった
(図 2.13.9)
。
ディアアクセス制御(M
)アド
図 2.13 7 量子増幅転送の概念図と実験結果
ケット単
でデータの改竄防止や秘匿
(
13 8 。IPSEC
機能 IP アドレスを基に通
化と認
則って構成されている。この中で
証
生成 た
理
に
情報通信の総合的な安全性を高めるためにはあら
いるが、MAC
アドレスを詐称するツールは ンター
情報通信の総合的な安全性を高めるためにはあらゆる
ネッ で公開されており、Lay r 2 がの る
ゆる階層での安全性を担保する必
ッし
階層での安全性を担保する必要がある。ネットワーク拠
よク拠 内部 らの 正
報告され
セ
を防ぐ技術
点内部からの不正アクセスを防ぐ技術も量子鍵配送シス
装
配
ム
合
全
る
テムの総合的な安全性を高める上で不可欠である。特に
利用
量子鍵配送システムと物理的に接続するデータリンク層
スイ デ
チ それに 続されている
有 せ
(
) 末
(Layer
2)
での安全性の向上が望まれている。Layer
2で
その乱数を用いて
るシステ
が望
れ いる LMAC アドレスを暗号化
でのパ
トの中継
ムを開発した。MAC アドレスをパケットごとに
のパケットの中継はメディアアクセス制御
(MAC)アド
ムパ
で暗
し
Laye
2
ス
では解
レスを基に行われているが、MAC アドレスを詐称する
信を行っているのは第 3 層のネットワーク層(Layer 3)
ツールはインターネットで公開されており、Layer 2 で
であり、この層で利用されているスイッチでは IP アド
の成りすましによるデータ不正取得の実例が報告されて
で 現す
ス
レスを利用して通信先を判断している。IP
はワン
ムパ ドを用い
証に パケット単
情 理論
的安全性が証明されている W gman- a ter 認証方
位でデータの改竄防止や秘匿化を提供するプロトコルと
を採用
た。量子 配 と
IP 2.13.8)
融。IPsec
る のこ
と
して
IPsec が開発されている
(図
によ 現
IP
スの通信でメ
議
後 パケ
C アドレスの暗号化
いる。NICT
す 乱 では量子鍵配送システムに実装されている
スイ チと端 し 知り ない情報で
あるため、成りすます とが非常に 難なシステム
物理乱数発生機を利用し、周期性のない乱数を
Layer 2
った(図 13. 0)
。 らに N C
は Laye 2
スイッチとそれに接続されている端末とで共有させ、そ
スイ
と端 で
ため
と
情報理論的に安全な鍵を用いることで情報理論的に安全
開発した。MAC アドレスをパケットごとにワンタイム
に暗号化と認証を IP パケットで実現するシステムを開
パッドで暗号化し、Layer
2 スイッチでは解読した
MAC
生機か
数を受け
用する
発した。暗号化にはワンタイムパッドを用い、認証にも
アドレスと予め設定されている
IP アドレスを照らし合
ー フォンを介 て転 する
テム 開発 た
情報理論的安全性が証明されている
Wegman-Carter
認
P
E P
ユ ザ 末の
ー 端
ESP
れによりスマートフォンを認証用デバ ス
て
わせ、端末が偽証していないことを確認後にパケットを
P
の機能に対し、暗号化と認証用に量子鍵配送で生成した
可
の乱数を用いて MAC アドレスを暗号化するシステムを
う
証方式を採用した。量子鍵配送と IPsec を融合するこ
ヘ
ダ
ヘッダ
P
ペイロー
ラ
認証 ー
暗号化範囲
とにより現在の IP ベースの通信でメール、TV
会議シス
囲
テムなどアプリケーションを選ばず情報理論的に安全な
1
構
子
送に
量子鍵
配送装置
①送信するパケットの
MACアドレスを暗号化
②MACアドレスを復号し、
MACアドレス認証
,3 ࣊ࢵࢲ
࣌࢖࣮ࣟࢻ
ス
࣮ࣘࢨ➃ᮎࡢ
送
࣌࢖࣮ࣟࢻ
ポート1
,3
(63
①
࣮ࣘࢨ➃ᮎࡢ
࣊ࢵࢲ
࣊ࢵࢲ
,3 ࣊ࢵࢲ
(63
ࢺ࣮ࣞࣛ
(63
ㄆドࢹ࣮ࢱ
ᬯྕ໬⠊ᅖ
ㄆド⠊ᅖ
図 2.13.8
IPsec
のパケット構成:量子鍵配送による暗号化・
W
3S
認証範囲
ホストA
IP-A
④パケット毎に
新しい鍵を使用
one time padが
基本
③送信元IPアドレスの整
合性を検証
L2SW
ポート2
号
ホストB
IP-B
MAC-B
レス
P ド ス
ポート1
MAC-A
IP-A
ポート2
MAC-B
IP-B
図 2.13.10 量子鍵配送システムと組み合わせた Layer 2 スイッ
チ動作概要
10t h A n n i ver s a r y
133
2.13 量子 ICT 基盤技術
繋ぐ。MAC アドレスの暗号化に使用する乱数はスイッ
術を使い、この新しい原理を世界に先駆けて実証し、基
チと端末しか知り得ない情報であるため、成りすますこ
礎研究としては世界最先端の地位を確立することができ
とが非常に困難なシステムとなった(図 2.13.10)
。さら
た。一方、実用までの道のりにはまだ時間が必要であろ
に NICT では Layer 2 スイッチと端末で乱数を共有する
う。最近実用化が始まった光通信技術であるコヒーレン
ためのデバイスとしてスマートフォンに着目し、スマー
ト光通信方式でも、その原理実証実験が 1980 年代には
トフォンを介して端末に乱数を供給し得るシステムを構
既に盛んに行われていたことを考えると、量子デコーダ
築した。乱数発生機から乱数を受け取り、使用する端末
の研究も、適正な予算規模の中で引き続き息の長い研究
にスマートフォンを介して転送するシステムを開発した。
開発を継続することが重要である。
これによりスマートフォンを認証用デバイスとして用い
量子暗号については、より実用化に近い技術であり、
ることも可能となった。
NICT が産学官の様々な研究機関と連携することで、All
量子鍵配送システムをネットワークスイッチと組み合
Japan の体制を作り、基礎理論、デバイスの研究からネッ
わせることにより安全性と利便性、拡張性を向上させる
トワークシステム、アプリケーションの開発まで、戦略
ことに成功した(図 2.13.11)
。すなわち量子鍵配送シス
的な研究開発を進めることができた。それらを結集して
テムを安全性を劣化させることなく IP ベースのネット
東京の JGN 上で構築した量子暗号試験運用ネットワー
ワークとの親和性を向上させることが可能となった。利
ク“Tokyo QKD Network”は、世界的にも最も実用に近
便性の向上はヒューマンエラーの確率を低減させ、より
い量子暗号ネットワークであるとの評価を確立している。
安全なシステムとなったといえる。
一方で、本技術は国家機密・軍事機密等の最重要機密の
セキュリティに関わる技術であることから、欧米や、特
2. 13. 5
に最近では中国が、膨大な国家予算を投じて急激に追い
今後の展望
上げている。日本としては、現在の技術的な優位性を生
2001 年(平成 13 年)の研究室発足以来、量子情報通信
かし、実用化への最後の仕上げとして、長期試験運用
の新原理実証と基盤技術開発、そして量子暗号の基盤
実績の蓄積など、技術開発に引き続き取り組むと同時
技術開発から実用化に向けた研究開発の 2 つを柱として、
に、量子暗号の導入に興味を持っている(将来的な)ユー
研究開発を進めてきた。
ザーとの議論を通じて運用方法、アプリケーションなど
量子デコーダ技術については、この 10 年間の基礎研
の改良を進め、実際の導入事例へとつなげ、最終的には
究開発の結果、現時点で最先端の光波制御・光子検出技
民間への技術の早期受け渡しを目指す。一方、量子暗号
た
イ 3スイ
改
止
ド ス
証 グ
拠
デ
化
P
ケ ト
スを
ト
L3 イ
QKD
サルハ シ 関
行
(Wegman-Carter
コ
)
ケ
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QKD
QKD
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レ
QKD
X
図 2.13.11
134
レ
2
パケ ト
Media Access Controlア レス
ーザIP ド ス
合
新 い
量子鍵配送を用いたセキュアネットワークの概念図
ュ
イ ー
2.13 量子 ICT 基盤技術
の基礎研究においても、量子もつれなどを駆使したより
高度な新世代の量子暗号プロトコルや、量子暗号の究極
の安全性の条件を多少緩めることで大幅な伝送性能の改
善を可能にする物理暗号(概念的には、従来の古典情報
理論で長く研究されていたが、近年量子情報分野の研究
者がその著しい進展を促している)など、次々と新しい
アプローチが議論されており、引き続き産学官連携のも
と、次世代の量子暗号・物理暗号の基礎研究開発に取り
組むことも重要であり、NICT では引き続き産学との連
携を密にして研究開発に取り組んでいく所存である。
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Title:02-
2 研究活動 未来 ICT 基盤技術
2. 14 超高周波 ICT 基盤技術
電波研究所時代から継続する NICT のミッションのひ
とつに電磁波の有効活用と未利用周波数の利用技術の開
拓が挙げられる。独立行政法人通信総合研究所が発足し
た当時は、
「テラヘルツ(THz)」すなわち 1012 Hz 程度の
電磁波が最後の未利用周波数帯として注目され始めた時
期と重なる。それまで、周波数の低い領域からは、長波、
短波、マイクロ波、ミリ波といった電子デバイス技術に
基づく研究開発が実施され、周波数の高い領域からは X
線、紫外線、可視光線、赤外線などの光デバイス技術に
基づく研究開発が実施されてきた。独立行政法人化以前
の段階では互いが関連することは少なかった。テラヘル
図 2.14.1 (左)
「量子カスケードレーザ」素子の見取り図(灰色
部分が活性層、真中の活性層トップにある黄色ス
トライプは上部金属電極、その周りの 2 本の黄色
ストライプは下部の金属電極。この間に電流を流
してレーザ発振を得た。)
(右)量子カスケードレー
ザ活性層の電子顕微鏡写真(多層膜が周期構造を成
しているのが分かる。)
ツ帯は、電子技術と光技術の中間の周波数に当たり、電
子デバイス、光デバイスの両面から技術的なアプローチ
が行われるとともに、双方の技術が融合して成果をあげ
ることも期待されるようになった。NICT では、これら
の技術トレンドを受け、電子・光それぞれの技術に積極
的に取り組むとともに、第 2 期中期計画からは同一の研
究室(グループ)として統合した体制で研究開発に取り
組んでいる。本稿では、第 1 期中期計画からの 13 年間に
及ぶこれら「超高周波 ICT」に関する話題をまとめた。
2. 14. 1 第 1 期及び第 2 期中期計画での研究
開発
図 2.14.2 量子カスケードレーザの発光スペクトル(図 2.14.1
の素子を約 -250℃に冷却し、電極間に 9.2A の電流
を流した際に観測されたもの。レーザ発振に必要
な電流(閾値電流)値を超えているため、レーザ発
振を反映した鋭いスペクトルになっている。約 3.4
THz のピーク周波数を持つ多モード発振が得られ
ている。)
(1)
テラヘルツ光源及びセンシング技術等の研究開発
第 1 期中期計画において、テラヘルツ帯「量子カスケー
でのレーザ発振(図 2.14.2)に成功した。
ドレーザ」を開発し、日本で初めてテラヘルツ帯でのレー
平成 18~ 23 年度には、テラヘルツカメラの開発及び
ザ発振に成功(平成 18 年 3 月 6 日報道発表)した。この成
テラヘルツ遠隔分光装置の開発を、委託研究「ICT によ
果により、作製が困難とされていた小型でコストを抑え
る安心・安全を実現するためのテラヘルツ波技術の研究
たテラヘルツ帯における“レーザ光源”の実現見通しが
開発」によって実施した。中赤外に感度ピークを持つ非
得られた。この量子カスケードレーザは、ガリウムヒ素
冷却マイクロボロメータアレイセンサ技術を改良し、テ
/アルミニウムガリウムヒ素系の半導体材料を用い、半
ラヘルツ帯において、従来のものより 2 桁以上高感度な
導体の厚さを精密に制御しながら数百層あまりの多層
ハンディ型実時間非冷却テラヘルツカメラの開発に世界
膜を作り(図 2.14.1(右))、電子の流れを巧みに制御で
で初めて成功(平成 21 年 6 月 18 日報道発表)し、商用化
きる量子カスケード構造を作製したものである。この量
した。このカメラと自主研究で開発した液体窒素冷却の
子カスケード構造を内部に持つ導波路の一方の端面に高
テラヘルツ帯量子カスケードレーザ光源システム(連続
反射ミラーを有する「ファブリー・ペロー型レーザ素子
波出力 10 µW)を組み合わせ、模擬火災現場の高温の黒
(図 2.14.1(左))」を作製し、この素子を用いて 3.4 THz
煙(5m 程度)を透過して画像を撮影できることを確認(平
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2.14 超高周波 ICT 基盤技術
成 23 年 3 月 8 日報道発表(NEC))した。これらの成功を
ち上げられた我が国初の赤外天文衛星 ASTRO-F(あか
受け、諸外国の産軍共同体(例えば LETI(仏)、INO(カ
り)の FIS 用検出器開発を担当した。
ナダ)等)による同様なカメラ開発が一気に進んだ。国
半導体遠赤外検出器は熱雑音を排除するため、3 K 以
際競争力維持の観点から、第 3 期中期計画において画
下の極低温で用いる必要がある。また ASTRO-F 以前で
素数の拡大と更なる高感度化を目指した委託研究「THz
の検出器は単一素子で用い、感度の増加のために検出器
ギャップを埋める実時間 THz カメラの研究開発」
(平成
をキャビティに実装することが一般的であった。しかし
24~ 26 年度)を実施中である。また、テラヘルツ波遠隔
観測の効率化・高精度化のためには検出器のアレイ化が
分光センシングシステムのプロトタイプを開発し、模擬
必須であり、小型化を実現するためにキャビティを排除
火災現場において本システムの評価実験を行った結果、
することが求められた。新たな重要開発課題として①
火災現場などで発生する危険ガスの一種とされる、シア
キャビティを必要としない 20 × 3 素子高感度モノリシッ
ン化水素ガスの遠隔検知に有効であることを検証(平成
クアレイ、②極低温動作読み出し回路の使用、③検出器
23 年 3 月 8 日報道発表(NTT、独立行政法人産業技術総
と読み出し回路のダイレクトハイブリッドの実現が挙げ
合研究所))した。
られ、遠赤外検出器では世界初となる試みである。検
平成 21~ 23 年度には、テラヘルツ時間領域分光法の
出器 1 つの受光面積は 500 × 500 μm2 であり、検出器に
ための超短パルス光源の開発を、委託研究「近接テラヘ
印加されるバイアス電界と光の入射方向が平行となる
ルツセンサシステムのための超短パルス光源の研究開
longitudinal 型を採用した。宇宙空間での観測時に高エ
発」にて実施した。自主研究において開発してきた光ファ
ネルギー粒子が検出器に衝突した場合、非線形な感度特
イバー通信用の高精度変調器(ニオブ酸リチウム結晶の
性を示し、観測精度を著しく劣化させてしまうため、検
電気光学効果を用いたマッハ・ツェンダー型変調器)及
出器自体を小体積で構築する必要がある。そのため電極
びこの変調器を利用した平坦な光コム発生器技術を民間
間距離は 500 μm としたが、小体積は光吸収長の減少を
に移転し、これらの技術に基づく超短パルス光源の研究
意味し、高感度化のためには新機軸が必要であった。光
開発を実施した。本光源はパルスの繰り返し周波数等の
吸収効率の増加にはアクセプタ濃度の向上が効果的であ
諸元を外部信号により制御でき、装置内に大きな共振器
るが、素子全体で濃度を上げた場合、アクセプタ間のホッ
構造を持たないことから、高安定である。これまでにテ
ピング電流の増加を招き、検出器性能を劣化させてしま
ラヘルツ帯時間領域分光法(THz-TDS)に用いられてき
うことが問題であった。NICT では、受光面と下部電極
た超短パルス光源(チタンサファイアレーザ、モードロッ
面にのみ高濃度のアクセプタドープ層を形成し、ホッピ
クファイバーレーザ)と比べ、制御性や安定性で優れて
ング電流を抑制しつつキャビティがない小型検出器でも
おり、またコストも抑えられるものとなっているため、
14.6 A/W という世界でもトップレベルの高感度検出器
今後の活用が見込まれている。
の実現に成功した(平成 15 年)。
極低温読み出し回路としては名古屋大学が中心に開
(2)
Ge:Ga ディテクタ技術の研究開発
Ge 半導体中に Ga をドープした外因性半導体(Ge:Ga)
発を進めた Si p-MOS を用いた電荷蓄積型アンプを使
用した。この回路と Ge:Ga の極低温下での熱収縮量は
は Ga のアクセプタ準位が 10.8 meV であるためカット
11 μm 超であり、この歪みに伴う応力を低減が可能で、
オフ波長 115 μm の光伝導型検出器として用いることが
熱サイクルを経ても電気的かつ機械的に良好なコンタク
できる。また、Ge:Ga に 1 軸性応力を加えることにより、
トを保てる技術が必要であった。近赤外・中間赤外のア
荷電子帯での縮退が解けアクセプタ電離エネルギーは
レイ素子では低温でも低いヤング率を有している In を
4.9 meV まで減少することが知られており、カットオフ
突起(bump)状に形成したものが用いられている。一方
波長は 200 μm まで伸長可能である。半導体検出器の中
Ge:Ga 遠赤外検出器では歪量が大きく通常の In bump
では Ge:Ga が遠赤外領域において最も高感度であるた
形成技術を適用することが難しいため、直径 100 μm の
め、歴代の赤外天文衛星に搭載され数多くの成果を得る
In 球を電極に並べ、50 μm 程度まで押しつぶすように
ことに成功してきた。NICT は、平成 18 年 2 月 22 日に打
して bump を形成した。これにより熱歪を緩和しつつ、
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2.14 超高周波 ICT 基盤技術
M-V ロケットによる打ち上げの振動にも耐える良好な
主に THz-TDS 技術の研究開発を進めた。
20 世紀末になって 100 フェムト秒(fs)程度の光パル
接続技術を確立した(平成 13 年)。
このダイレクトハイブリッド遠赤外検出器アレイの
スを安定に出力することが可能なチタンサファイアレー
W で あ り、 衛
ザが広く使われ始めたことと併せて半導体結晶成長技術
最 小 エ ネ ル ギ ー 検 出 限 界 は 5.6 × 10
-17
星搭載用検出器としても世界最高レベルを達成した。
を利用する新たなテラヘルツ電磁波発生、検出技術が発
ASTRO-F は JAXA により打ち上げられ(平成 18 年)、遠
達してきた。このような状況のもと、レーザ技術(主に
赤外領域での掃天観測に成功した(図 2.14.3、図 2.14.4)。
超短光パルスレーザ)と半導体技術を駆使してテラヘル
ツ帯の基礎技術および応用技術の開発を行ってきた。
21 世紀初頭には光伝導アンテナによって 40 THz に達
(a)
する広帯域検出が可能なことを示した。これは従来考え
られてきた光伝導アンテナの検出帯域の上限を打ち破る
画期的な報告であった。その後、光学系の整備と超広帯
域光源の導入により、超広帯域検出の実証ステージへと
進んだ。広い周波数領域のテラヘルツ波に対する応答を
(b)
調べることは材料研究、デバイス研究に重要であり、そ
の情報はデバイス等の性能向上に必須の情報である。
光伝導アンテナによる超広帯域発生・検出は、国立大
学法人大阪大学との共同研究を進め、その検出帯域を着
実に 67 THz(平成 16 年)、100 THz(平成 19 年)に延ばし、
170 THz(平成 20 年)に達した。
この結果をもとに 10 fs のパルス光が出力される超短
パルスレーザを用いて広帯域テラヘルツ波センシング
システムを製作し、実用に供するに至った(図 2.14.5)。
図 2.14.3 (a)Ge:Ga ダイレクトハイブリッド遠赤外検出器
アレイ写真(b)FIS への実装
測定帯域は 0.1~ 15 THz をカバーしている。この検出帯
域を活かして気体のテラヘルツ帯の吸収測定等を行った。
図 2.14.5 広帯域テラヘルツ波センシングシステム
図 2.14.4 FIS による大マゼラン星雲遠赤外線画像(60 μ m、
90 μ m、140 μ m 合成画像カラー合成)
JAXA 提供
真空を保持できる金属箱の中にテラヘルツ電磁波の発生検出
光学系が配置してある。
一方で、広帯域のアンテナ検出を活かすことで、半導
体多重量子井戸中の縦波光学フォノン(LO フォノン)か
(3)
THz-TDS 技術の研究開発
第 1 期及び第 2 期中期計画において、神戸研究所では
138
らのテラヘルツ電磁波放出が狭帯域化されていることを
実験的に示した。超短パルス光技術の発展によって、半
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2.14 超高周波 ICT 基盤技術
導体のバンドギャップよりも大きなエネルギーを持つ
高速記録を更新し、ミリ波実用化の基盤技術となる電子
超短パルス光を照射することで、2 つの現象が起きるこ
デバイス技術面から足場を確保する重要な役割を果たし
とが知られていた。1 つは、過渡電流によるテラヘルツ
た。
電磁波の発生、もう 1 つは、構成原子が一様に振動する、
いわゆるコヒーレントフォノンの発生である。反転対称
性が破れている界面を多数備えた半導体多重量子構造を
用いることでコヒーレントフォノンからのテラヘルツ放
射増強を目指し、大阪市立大学のグループと NICT 小金
井との三者による共同研究を行った。量子井戸を構成
する GaAs 結晶の LO フォノンの周波数に一致するテラ
ヘルツ電磁波が発生し、GaAs エピ膜に比べて高強度の
図 2.14.6 InP 系 HEMT の断面構造と写真
信号が発生していることを示した(平成 17 年)。さらに、
励起エネルギー、量子構造を制御することで、発生条件
さらに、平成 16 年からは、高耐圧・耐熱・耐放射線
の最適化を行えることを示し、LO フォノン領域の高強
性に優れ、かつミリ波、テラヘルツ波帯で高出力が期
度光源としての可能性を示した(平成 20 年)。
待される素子として注目された窒化ガリウム(GaN)系
また、電気光学効果によるテラヘルツ電磁波の発生及
トランジスタの研究に着手した。平成 17 年には fT と
び検出において詳細な計算と実験を行い、実験結果を計
して 190 GHz という当時の世界最高速記録を達成した。
算結果が十分に説明できることを示した(平成 19 年)。
GaN 系素材のミリ波帯での実用化に向けた先陣を切り
ドイツとの共同研究では、市販の半導体レーザのキャ
開き、世界の GaN 系 HEMT 研究を先導する役割を果た
ビティを拡張し、回折格子と V 字型ミラーを組み合わ
した。これら素子開発と並行して、ミリ波応用に向けた
せることで 2 波長の同時発振を可能とし、その 2 つの発
デバイス評価技術、回路設計技術面での HEMT の基礎
振線の差周波としてテラヘルツ電磁波を発生することに
特性評価に関する研究、及び無線装置化に向けた研究を
成功した(平成 16 年)。しかも、その V 字型ミラーを移
進めた。
動させることで差周波数を制御することを可能とした。
本研究は、新たな CW 光源として注目を浴びた。
一方、平成 14 年 2 月の米国 FCC の発表に端を発する
超広帯域無線周波数利用技術に係る世界的な動きに対応
注目を浴びつつあったテラヘルツ電磁波を用いた研究
し、平成 15 年に超広帯域(UWB)デバイス技術研究に着
開発は、継続的に国内外の研究機関を共同研究という形
手した。平成 16 年には世界初の UWB-CMOS 集積回路
で巻き込みながら、測定のノウハウを蓄積し、テラヘル
の試作開発に成功した(図 2.14.7)。さらに、平成 18 年
ツ波による様々なデバイス、有機・無機材料の評価を進
には、更なる超広帯域化と低電力化を用いる近距離通信
め、テラヘルツ電磁波の有用性を示し続けた。
技術として sUWB 技術の研究に着手し、電子デバイス、
(4)
ミリ波デバイス技術の研究開発
独立行政法人化する以前からミリ波デバイス技術に関
する研究開発については継続して取り組んでいたが、第
PP
30
&026
1 期中期計画前後において、高い電子移動度を持ち高周
波特性に優れるインジウム・リン(InP)系 HEMT につ
PP
いて重点的に研究開発を実施した(図2.14.6)。その結果、
デバイス構造の改善(短ゲート化、低抵抗化、寄生容量
低減等)により画期的な成果が得られ、平成 12 年から平
)UHT+RSSLQJ
6\QWKHVL]HU
7[0L[HU
'ULYHU
5[0L[HU
/1$
成 18 年頃にかけて、遮断周波数 fT として 300 GHz 後半
PP
から 560 GHz 超級という当時の HEMT としての世界最
図 2.14.7 UWB-CMOS 集積回路の写真
10t h A n n i ver s a r y
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139
139
2015/09/01
13:10:05
2.14 超高周波 ICT 基盤技術
無線装置化技術と組み合わせた近接場における共存型無
リアルタイム計測による非破壊非接触センサ技術、及び
線通信技術の開発により、周波数有効利用と、急速な需
超高周波帯での計測に必要な標準を定めるための技術を
要拡大が予想される近接場通信技術の創生に向け研究を
開発し、基盤技術を確立することを目標に研究開発を進
行った。
めている。
近距離無線技術に関連する端末技術として、発振器が
空間との結合を持つ放射型発振器(図 2.14.8)の構成を
用い、準ミリ波~ミリ波、テラヘルツ波の領域で低電力
(1)超高周波基盤技術の研究開発
ミリ波、テラヘルツ波帯の利用技術確立を目的とし、
消費と高効率を達成でき、小型低コスト化に適した新し
超高速・高出力電子デバイス技術、システム技術に関連
い無線装置の研究開発を進めた。それらの技術を基に、
する研究を行っている。
無線ネットワークシステム、センサ技術の基本技術を確
GaN 系トランジスタについては、ゲート電極と高速
立し、更に小型軽量高効率の超広帯域 sUWB インパル
電子を物理的・空間的に隔離するための窒化インジウム・
ス無線技術の基本技術の開発について平成 23 年頃まで
アルミニウム(InAlN)バリア層を有する HEMT を作製
に成功した。
し(図 2.14.9)、InAlN バリア層を 5 nm から 3 nm に薄膜
化することで約 1.5 倍の相互コンダクタンスを得ること
1 mm
65 GHz
に成功した。600 mS/mm を超える相互コンダクタンス
VDS= 0.5 V
IDS= 6 mA
とともに 200 GHz を超える遮断周波数 fT 及び最大発振
周波数 fmax を得ており、100 GHz 超で動作可能な高出力
増幅器等への応用の可能性を示した(平成 26 年)。
In P-HEMT Chip
図 2.14.8 高効率ミリ波無線放射装置と 65GHz の直接発振放
射出力
一方、超伝導磁気シールド型脳磁計技術の改良にも
取り組み、世界最高性能の SQUID 脳磁計技術に到達し、
データ解析手法の研究を進め、ダイナミックな脳神経活
動部位の時系列追尾を可能とし、脳神経ネットワーク機
能の計測評価のための最先進技術を平成 23 年頃までに
確立した。
また、全研究期間を通じ外部研究機関との協力関係を
維持しながら研究を進めてきた。特に、ミリ波アンテナ
及びシステム技術、デバイス雑音の研究、無線モジュー
図 2.14.9 GaN 系 HEMT の断面写真
ルの小型高性能化、並びに各種の素材技術、試験評価技
術について多くの外部機関との連携の下に研究を進めた。
インジウム・リン(InP)系トランジスタについて、従
来のインジウム・ガリウム砒素(InGaAs)チャネル層
2. 14. 2 第 3 期中期計画での研究開発
にインジウム砒素(InAs)層を挿入した InGaAs/InAs/
InGaAs チャネル層を有する HEMT において、圧縮歪
第 3 期中期計画では、それまで培ってきた超高周波
みによる InAs 層のエネルギーバンド構造の変化と極薄
ICT に関連した研究開発を継続・発展させ、100 Gbps
InAs 層における量子閉じ込め効果(2 次元電子ガス)を
級の超高速無線通信や超高速信号計測、テラヘルツ波を
考慮したモンテカルロ計算により、ゲート長を 20 nm 程
用いた高精度な非破壊非接触計測を平成 32 年頃までに
度まで微細化することで世界最高速トランジスタを実現
可能にするために、超高周波領域での光源、検出器、増
できる可能性を示した(平成 25 年)。
幅器、変復調器、光電変換器、アンテナなどの各要素技術、
140
InP 系トランジスタに代わる低雑音・低消費電力ト
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2.14 超高周波 ICT 基盤技術
ランジスタとして期待されるインジウム・アンチモン
証した。さらに、InP 系 HEMT の S パラメータ、遮断
(InSb)系トランジスタについて、東京理科大学との共
周波数を評価し、超高周波領域でのオンウェハ・プロー
同開発により低温で成長したアルミニウム・アンチモ
ン(AlSb)バッファ層を導入した半導体ウェハを作製
ビング測定への応用の可能性を示した(平成 25 年)。
システム技術に関連して、平成 23 年から 5 年計画で
し、これを用いてゲート長 50 nm の HEMT を試作し、
NTT、富士通株式会社と共同で総務省から「超高周波搬
170 GHz を超える fT の達成に成功した(平成 25 年)。さ
送波による数十ギガビット無線伝送技術の研究開発」を
らに、新しい SiGe 系素材を用いたデバイス技術の開発
受託し、300 GHz 帯の周波数を利用した無線通信技術の
に向け、スパッタ成膜技術を用いた革新的な積層構造制
研究を実施している。また、平成 23・24 年度には総務
御技術の開発を進めてきた。今後、高性能デバイス化技
省から技術試験事務「マイクロ波固定通信回線の高効率
術研究による成果が期待される。
化に関する技術的条件の検討」を受託した。マイクロ波
電子デバイスに関する先駆的な取組として、酸化ガ
固定回線は防災無線等で中核的役割を担っているが、従
リウム(Ga2O3)電界効果型トランジスタを新たに開発し
来は屋外のアンテナと無線機室に設置された送受信機を
(図 2.14.10)、その動作実証に世界で初めて成功した(平
長大な導波管を介して結合していた。本検討は、アンテ
成 24 年)。Ga2O3 は、その優れた材料物性、大型単結晶
ナ直下の屋外に送受信機を設置しこれらを直結すること
基板を簡便、安価に生産可能であることなどから、高耐
により電波の有効利用や消費電力の削減、耐災害性の向
圧・低損失なパワーデバイス用途の新しい半導体材料と
上を企図したものである。送受信機を屋外設置する際に
して非常に有望であるにもかかわらず、その研究開発は
は外気温の変化に対する特性の安定性が最大の課題だが、
これまで全くの手付かずであった。現代の省エネルギー
NICT で研究開発を主導している GaN 系 HEMT が高温
問題に直接貢献することができる新しい半導体デバイス
下でも動作可能な素子として本検討における無線伝送実
研究開発分野であると同時に、近い将来の半導体産業の
験の送受信機(図 2.14.11)に採用された。屋外設置型の
更なる発展に一翼を担う分野になると期待される。
マイクロ波無線装置の 4 か月にわたる長期フィールド試
験を実施し、GaN 系 HEMT が屋外での厳しい温度条件
の下でも正常に動作することを実証した(平成 24 年)。
図 2.14.10 酸化ガリウム(Ga2O3)電界効果型トランジスタの
顕微鏡写真
超高速信号測定技術に関しては、ネットワークアナラ
イザと周波数エクステンダにより 325 GHz までの導波
管部品計測環境の整備を完了し、測定精度について評価
を実施した。また、オンウェハ・プロービング計測環境
の構築にも着手した。増幅器、アンテナ等が作製される
図 2.14.11 GaN 系 HEMT を用いた屋外設置送受信機
同一基板上にインピーダンス標準基板を設計・形成し、
これを用いて、一般的に用いられている SOLT 法に替
わり、超高周波で精度が良いとされている TRL 法を実
(2)超高速無線計測技術の研究開発
第 3 期中期計画では、これまで培ってきたミリ波・テ
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2.14 超高周波 ICT 基盤技術
ラヘルツ帯の技術(特にデバイス技術)をベースに、周
な構成で、広帯域という特性を維持しつつ、パルス幅
波数・パワー等の標準を含めたテラヘルツ帯計測に関す
280 fs、ピークパワー 2.5 kW の高強度・超短光パルス発
る基盤技術の研究開発を推進してきた。特に、周波数計
生を実現した(平成 25 年、図 2.14.14)。
測応用で重要となるテラヘルツ帯の周波数コムに着目し、
研究開発を実施している。
術をベースとしたコム発生を念頭に置いており、その場
合、テラヘルツ波発生に用いる励起光としての近赤外領
域のパルスの特性が非常に重要である。さらに、汎用性
を鑑み、コンパクト性・メンテナンスフリーの観点から、
これまで① 1.55 μm の通信波長帯半導体 CW 発振半導体
7+]
,QWHQVLW\
G%GLY
テラヘルツ帯の周波数コムの生成に当たっては、光技
:DYHOHQJWKQP
図 2.14.13 3THz 帯域を有する光周波数コムスペクトル
レーザとマッハ - ツェンダー型ニオブ酸リチウム(LN:
テム、及び② 1 μm 帯のイッテルビウムドープファイバー
モードロックレーザの 2 点に着目して研究開発を行って
きた。さらにこれらを用いてテラヘルツ波を発生・検出
するための光 - テラヘルツ変換素子についても研究開発
を行っている。
①については、図 2.14.12 のように CW 発振レーザ
,QWHQVLW\DUEXQLW
lithium niobate)変調器を組み合わせたパルス光源シス
をニオブ酸リチウムから作製したマッハ - ツェンダー型
(MZ)変調器に入射し、MZ 変調器のアームに RF 信号
を印加することにより光周波数を中心に、RF 周波数分
IV
7LPHSV
図 2.14.14 高ピークパワーパルスの自己相関波形
だけ離れたサイドバンドを発生させ、いわゆる光周波数
コムを生成する。しかし、このままでは時間領域でピコ
②に関しては、イッテルビウムドープファイバーの高
秒程度のパルスであるため、MZ 変調器の後段に、分散
利得性による高出力特性や、光 - テラヘルツ変換素子と
補償ファイバー・光増幅器・高非線形ファイバーを配置
して光伝導アンテナ素子を考えた場合、励起波長の観点
することにより超短光パルス、周波数領域で言えば広帯
からの整合性の良さが期待できるという点が特徴として
域の光周波数コムを生成する。これまでに、MZ 変調器
挙げられる。
の高性能化、使用する光ファイバーの最適化などにより
イッテルビウムファイバーレーザのモードロック発振
3 THz に及ぶ帯域を有する光周波数コムが得られた(平
実現のために、リング型ファイバーレーザの構成を採用
成 24 年、図 2.14.13)。一方、帯域の他にもテラヘルツ
し、ファイバー中の非線形偏波回転(NPR)効果を利用
波発生のためには光パルス強度が高い尖頭値を有するこ
した。これにより、120 fs 以下の幅を持つパルス発振が
とが望ましいため、チャープパルス増幅法による高ピー
得られた。また、更なる高出力化のために独自にダブル
クパワー化にも着手した。その結果、単一変調器の簡便
クラッド型イッテルビウムドープファイバー増幅器を開
発した。これにより、フェムト秒(~ 200 fs)の短パル
/'
60)
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0=0
(')$
1RQOLQHDU
ILEHU
I *+]
図 2.14.12 MZ 変調器ベースパルス光源システムの構成図
ス性を維持したまま、高い出力(W 級)の出力パルスを
得ることに成功した(平成 25 年、図 2.14.15)。
上記の 2 種のパルス光源システムの研究開発は引き続
き行っているが、同時に光 - テラヘルツ変換部分につ
いても並行して進めている。1 つはファイバーベースの
1 μm 帯パルスと非線形光学結晶の組み合わせによるテ
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*+]
*+]
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:DYHOHQJWKQP
3RZHUG%GLY
,QWHQVLW\G%GLY
&RPE
)UHTXHQF\*+]
図 2.14.15 1 μ m モードロックファイバーレーザパルスの増
幅特性(上:増幅後光出力、下:パルスの自己相
関波形)
ラヘルツパルス発生である。現在のところ、非線形光学
結晶にガリウム・リン結晶を用いると、約 3 THz のスペ
クトル帯域を有することが判明しており、更なる最適化
$PSOLWXGHDUEXQLW
図 2.14.16 変調器ベース光周波数コムから抜き出した 2 本の
コムスペクトル(左)と変換後の 700GHz 帯テラヘ
ルツ放射スペクトル(右)
PPᚄ
㽢PP㛗
)UHTXHQF\7+]
図 2.14.17 超小型 THz プローブの写真とスペクトル
を目指している。また、変調器ベースの 1.55 μm 帯光周
波数コムについては、通信波長帯の充実した光学部品を
うまく利用することにより、200 GHz 以上の周波数可変
域を有するチューナブルテラヘルツパルスや、2 本のコ
ム抜き出しと単一走行キャリアフォトダイオードの組み
合わせによる 700 GHz 帯の CW テラヘルツ波発生に成
功した(平成 25 年)。特に、この 700 GHz 帯テラヘルツ
波は、簡易な構成で 10 -11 台(1 秒平均)の周波数安定性
が得られており、安定度の高いテラヘルツ波生成が出来
ていることが示された(平成 25 年、図 2.14.16)。
一方、テラヘルツ波の発生のみではなく、その検出に
ついての検討も産官連携で行っている。ここではテラヘ
ルツ分光・センシングのユースケース拡大を目指して超
小型テラヘルツ波プローブを開発しており、検出可能
周波数について従来マイクロ波帯までであったものを 3
THz まで検出可能であることを示した(図 2.14.17)。本
成果は新聞や雑誌に掲載された(平成 24 年)。更なる高
性能化を目指して研究開発を引き続き進めている。
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