...

Instructions for use Title 気管支喘息における副鼻腔病変の

by user

on
Category: Documents
0

views

Report

Comments

Transcript

Instructions for use Title 気管支喘息における副鼻腔病変の
Title
Author(s)
気管支喘息における副鼻腔病変の評価、並びに関連する
因子、バイオマーカーに関する研究 [全文の要約]
木村, 孔一
Citation
Issue Date
2016-09-26
DOI
Doc URL
http://hdl.handle.net/2115/63290
Right
Type
theses (doctoral - abstract of entire text)
Additional
Information
File
Information
Hirokazu_Kimura_summary.pdf
Instructions for use
Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP
学位論文(要約)
気管支喘息における副鼻腔病変の評価、並びに
関連する因子、バイオマーカーに関する研究
(Studies on the evaluation of sinus involvement and its
related factors and biomarkers in asthmatics)
2016 年 9 月
北海道大学
木村孔一
第一章:喘息患者における副鼻腔陰影の重症度と関連する因子の検討
【背景と目的】
近年、喘息は単一の疾患ではなく、様々な病型の集合による疾患群である
と捉えられており、病型分類ならびに個別化治療の重要性が指摘されている。
喘息と副鼻腔病変の関連は以前から注目されており、副鼻腔炎を合併する
喘息病型の存在が報告されている。喘息と副鼻腔炎はそれぞれ上下気道の慢
性的な気道粘膜の炎症とリモデリングを主体とした 類似のメカニズムによ
る病態と考えられているが、それらがどのように相互作用するかといった詳
細なメカニズムは明らかではなく、また副鼻腔炎の存在それ自体が喘息の重
症化に作用するかどうかも明らかではない。さらに、副鼻腔病変を合併する
喘息患者における血液等のバイオマーカーを測定・検討した報告はいくらか
散見されるのみで、上下気道に共通する病態に関しても、明らかではない。
一方で、喫煙は喘息患者における呼吸機能の低下や死亡率の増加など、喘
息に悪影響を与える因子の一つとして知られているが、欧米での喘息を対象
とした臨床研究の多くは、喘息の病型を単純化したり、慢性閉塞性 肺疾患
(chronic obstructive pulmonary disease; COPD)または Asthma-COPD overlap
syndrome(ACOS) の影響を除外するために、喫煙者を除いた患者対象として
いる。本邦では喫煙率が欧米と比較して高く、喫煙者を除外した集団では、
実臨床を十分に反映できない可能性が高いと考えられる。そこで我々は、実
臨床を反映させるために喫煙者を含んだ喘息患者の集団における前向きコ
ホート研究を計画した。
本研究では、副鼻腔病変の存在や重症度が、喘息の重症度や呼吸機能・好
酸球性炎症等を含めた各種喘息関連指標とどのように関連するかを明らか
にすることを目的として、バイオマーカーを含めた種々の因子との関連を検
討した。
【対象】
同意取得時において年齢が 16 歳以上で、医師が喘息と診断し 1 年以上治
療を継続している症例を対象とした。喘息の診断は、国際ガイドラインであ
る Global Initiative for Asthma (GINA)に基づき、発作性の喘鳴、変動性のあ
る症状や各種検査所見等を総合的に判断し、各主治医により行われた。なお、
全対象者が、過去に短時間作用性気管支拡張薬あるいは吸入ステロイドなど
の治療薬による気道可逆性があることを確認されている。
2
北海道大学病院内科Ⅰならびに北海道内各地の医療機関に通院中で、アメ
リカ胸部疾患学会の 2000 年の基準に該当する患者を難治性喘息患者(severe
asthma; SA)と定義した。
また、北海道大学病院内科Ⅰに通院中で、吸入ステロイドをブデソニド換
算で 800μg/日以下で 6 カ月以上安定し、過去 1 年間に入院・増悪のない患
者を軽症~中等症喘息患者(mild-to-moderate asthma; MMA)と定義した。
SA 群は 2010 年 2 月から 2012 年 9 月、MMA 群は 2011 年 3 月から 2012
年 9 月に患者を登録した。
【方法】
本研究は前向き観察研究であり、治療方法については各主治医の判断に委
ね、当院での治療の介入は行わない。本研究は UMIN 臨床試験登録システ
ム(http://www.umin.ac.jp/. NO. UMIN 000003254)に登録済みである。また本研
究は、ヘルシンキ宣言および臨床研究に関する倫理指針を遵守して実施した。
全ての患者が、北海道大学病院内科Ⅰに 1 泊 2 日の入院を行い、種々の検
査ならびに、医師および clinical research coordinator(CRC)による詳細な問診、
服薬状況・吸入手技の確認等を行った。
血液検査では、好酸球数を含めた一般血液検査、生化学検査ならびに、血
清総 IgE 値、特異的 IgE-MAST (multiple antigen simultaneous test)等の測定を
行い、1 種類以上の吸入抗原に対する特異的 IgE が陽性(>1.01 lumicount)の
場合をアトピー素因ありと定義した。
入院初日にスパイロメトリー、肺拡散能力検査、肺気量検査を行った。気
道可逆性は、短時間作用性 β 刺激薬であるサルブタモール 400μg を吸入し、
気管支拡張薬吸入前と比較した 1 秒量 forced expiratory volume in one second
(FEV1 )の変化の絶対量ならびに割合を計算した。また、入院 2 日目にもスパ
イロメトリーを行い、気管支拡張薬として抗コリン薬であるオキシトロピウ
ム 400µg ならびに、サルブタモール 400µg を吸入し、同様に気道可逆性を
測定した。最終的に、スパイロメトリーは 2 日間の気管支拡張薬吸入前後の
合計 4 回のデータを収集した。このうち、最大の FEV1 を記録した際の 1 秒
率 FEV1 /FVC (forced vital capacity)を最大 FEV1 /FVC とした。
呼気中一酸化窒素濃度(FeNO)は入院 2 日目に、臨床検査技師により NIOX
MINO®を用いたオンライン法で測定した。
副鼻腔病変の評価として、副鼻腔 CT を入院初日に、64 列同時撮影マル
チスライス CT である Aquilion™ 64 を用い、全員が同一の機種・撮像条件
に よ り 撮像を行った 。副鼻腔 CT 所見は 、同一の耳鼻咽喉科 医師により
3
Lund-Mackay score (LMS)に従って点数化した。この点数は、左右それぞれ
の上顎洞、前頭洞、前篩骨洞、後篩骨洞、蝶形骨洞の陰影を 0 点(副鼻腔の
陰影なし)、1 点(副鼻腔の一部に陰影あり)、2 点(副鼻腔の全体に陰影あり)
で評価し、中鼻道自然口ルートを 0 点(閉塞なし)または 2 点(閉塞あり)で評
価する。これらの合計点数が LMS となり、仮に全ての副鼻腔に異常陰影が
なければ 0 点、全てに異常陰影があれば 24 点となる。なお、独立した耳鼻
咽喉科医師 2 名により評価した LMS は、非常に高い相関が認められ(R=0.93,
P<0.0001)、得られた LMS は信頼性の高いものと考えられた。
入院 2 日目の午前に、4.5%に調整した食塩水を吸入し、誘発喀痰検査を
行った。細胞成分に関しては、Diff-Quick 染色を行い、2 名の医師と、1 名
の実験助手の 3 名により独立して細胞成分をカウントした。上皮細胞が全体
の 80%以上を占める場合は不適切検体として解析から除外し、適切な検体
に関しては、上皮細胞以外の細胞を最低 250 個以上カウントした。2 名の医
師の評価が大きく異なる場合は、協議の上、再度カウントを行った。
また、過去に喘息や副鼻腔炎との関連が報告されている 5 種の血液中バイ
オマーカーを選択して測定した。血清ペリオスチンは、佐賀大学医学部分子
生命科学講座、分子医化学分野(出原賢治教授)に依頼し、シノテスト社製の
enzyme-linked immunosorbent assay (ELISA)キットを用いて測定した。血清
Chitinase 3-like 1 (CHI3L1)ならびに、Chemokine C-C motif ligand 18 (CCL18)、
血漿オステオポンチン(OPN)は、R&D システムズ社製の各 ELISA キットを
用いて測定した。また、血清 club cell secretary protein (CC16)は 、Bio Vendor
Laboratory 社製の ELISA キットを用いて測定した。
また、喀痰の上清から、喘息や副鼻腔炎との関連が予想されるサイトカイ
ンを測定した。まずは、予備研究として 30 検体をルミネックス社のマルチ
プレックスアッセイ法ならびに R&D システムズ社製の ELISA キットを利用
して 20 種のサイトカイン・ケモカインを測定した結果、6 種の分子につい
て半数以上が測定感度以下であったため、これらを除いた 14 種について全
例での測定を行った。なお、測定感度未満であった分子については、測定下
限値の半分の数値を、感度以上であった分子については、測定上限値の 2
倍の数値を用いて解析を行った。
研究を開始した時点では、2000 年のアメリカ胸部疾患学会のガイドライ
ンに従って、難治性喘息を定義した(SA)。しかしその後、2014 年にヨーロ
ッパ呼吸器学会/アメリカ胸部疾患学会から最新の重症喘息のガイドライン
が 発 表 さ れ た た め 、 SA 群 の 中 か ら そ の 基 準 を 満 た す 患 者 群 を 抽 出 し た
(severe asthma2; SA2)。
4
LMS に関 して は 過去の 報告 を参 考に 、5 点以下 の対 象を ”no sinus CT
findings (N)”グループ、LMS 6 点以上の対象に関しては、おおよそ半数ずつ
になるように、6-11 点の”low LMS (L)”グループと、12-24 点の”high LMS (H)”
グループの 2 つに分類した。
喫煙に関しては、一日の平均的な喫煙本数と、実際に喫煙を行っていた年
数の積から Pack-Year (PY)を求めた上で、対象患者を非喫煙者(PY <10)と、
喫煙者(PY ≥10)に分類して解析を行った。
統計解析にあたっては、統計解析ソフトウェア SYSTAT version 13.1 なら
びに、EZR version 1.27 を用いて行った。全ての P 値は、両側検定で P<0.05
を有意とした。群間の比較に関しては、正規性のある連続変数には Student
の t 検定または一元配置分散分析 one-way analysis of variance (ANOVA)、正
規性のない連続変数には Mann-Whitney の U 検定、質的データにはカイ二乗
検定を行った。また、LMS の 3 群間における連続変数の比較は、傾向検定
である、Jonckheere-Terpstra 検定を行った。
【結果】
解析対象は、SA 群 127 名、MMA 群 79 名の合計 206 名である。SA 群の
うち、2014 年のヨーロッパ呼吸器学会/アメリカ胸部疾患学会のガイドライ
ンの基準を満たす難治性喘息患者(SA2)は 66 名であった。
難治性喘息患者(SA, SA2)は、MMA 群と比較して、年齢が若く、BMI が
高かった。喫煙状況や、喫煙指数に関しては、重症度別での差はみられなか
った。また、血液の好酸球数や血清総 IgE 値は、難治性喘息(SA, SA2)と MMA
群 で の 差 は み ら れ な か っ た 。 呼 吸 機 能 検 査 に 関 し て は 、 %FEV 1 お よ び
FEV 1 /FVC は難治性喘息患者(SA, SA2)において、MMA 群よりも低かった。
喫煙者においては、非喫煙者と比べて点鼻ステロイドの使用率が低く、定
期の OCS 内服率が高く、%FEV 1 ならびに FEV1 /FVC が低値であった。また、
喫煙者の多くは男性であった。喀痰好酸球は喫煙者において低かったが、末
梢血の好酸球数、FeNO、LMS は 2 群間で差がみられなかった。
喘息患者 206 名の解析では、LMS は 0 点から 24 点までの広い範囲での分
布がみられた。LMS の中央値は 3 点(IQR 0-9)であり、59 名(28.6%)が LMS 0
点であった。121 名(58.7%)が LMS 0~5 点の N グループとなり、47 名(22.8%)
が LMS 6~11 点の L グループ、38 名(18.4%)が LMS 12 点以上の H グループ
であった。
また、MMA 群と SA 群の間で、LMS の各グループの割合に差はみられな
かった(MMA vs. SA:N グループ 60.8% vs. 57.5%、L グループ 24.1% vs. 22.0%、
5
H グループ 15.2% vs. 20.5%、P = 0.634)。同様に、MMA 群と SA2 群の間で
も、LMS グループの分布の差はみられなかった(MMA vs. SA2:N グループ
60.8% vs. 62.1%、L グループ 24.1% vs. 15.2%、H グループ 15.2% vs. 22.7%、
P = 0.282)。篩骨洞を含めた、各部位の副鼻腔陰影スコアも喘息の重症度別
にみて、有意差はみられなかった。また、重症喘息のうち、継続的な経口ス
テロイド使用の有無で分類しても、LMS の分布には差がみられなかった。
非喫煙者と喫煙者に分類した上での解析結果は、末梢血の好酸球数は、非
喫煙者(N グループ 151.5 cells/μL、L グループ 312.2 cells/μL、H グループ 439.7
cells/μL、P<0.0001)、喫煙者(N グループ 135.1 cells/μL、L グループ 293.9
cells/μL、H グループ 641.0 cells/μL、P<0.0001)の両者において LMS と有意
な関連を認めた。また、喀痰中の好酸球割合(非喫煙者:N グループ 2.4%、
L グループ 15.2%、H グループ 23.8%、P<0.0001;喫煙者:N グループ 2.0%、
L グループ 2.4%、H グループ 31.2%、P=0.0085)、ならびに FeNO(非喫煙者:
N グループ 22.3 ppb、L グループ 39.5 ppb、H グループ 46.4 ppb、P<0.0001;
喫煙者:N グループ 22.8 ppb、L グループ 36.4 ppb、H グループ 51.6 ppb、
P<0.0001)についても、LMS と正の関連を認めた。
血清総 IgE に関しても、喫煙状況に関係なく LMS と正の関連を認めた(非
喫煙者:N グループ 100.0 IU/mL、L グループ 220.0 IU/mL、H グループ 215.6
IU/mL, P=0.0063;喫煙者:N グループ 114.1 IU/mL、L グループ 244.4 IU/mL、
H グループ 335.0 IU/mL、P=0.027)。
呼吸機能検査に関して、非喫煙者において LMS は %FEV 1 (N グループ
103.3%、L グループ 96.0%、H グループ 87.6%、P=0.00021)ならびに FEV 1 /FVC
(N グループ 74.3%、L グループ 66.6%、H グループ 64.7%、P<0.0001)と負の
関連を認めたが、喫煙者においては、そのいずれも関連性を認めなかった。
血清ペリオスチンは、非喫煙者(N グループ 77.5 ng/mL、L グループ 95.3
ng/mL、H グループ 116.8 ng/mL、P<0.0001)、喫煙者(N グループ 65.1 ng/mL,、
L グループ 103.3 ng/mL、H グループ 122.9 ng/mL、P<0.0001)ともに LMS と
正の関連を認めた。また、非喫煙者においては血清 CCL18(N グループ 34.6
ng/mL。L グループ 40.8 ng/mL、H グループ 46.6 ng/mL、P=0.026)ならびに、
血漿 OPN(N グループ 47.3 ng/mL、L グループ 51.2 ng/mL、H グループ 55.6
ng/mL、P=0.032)が LMS と正の関連を認めたが、喫煙者では関連を認めな
かった。血清 CHI3L1 と血清 CC16 に関しては、喫煙の有無に関わらず、LMS
との関連は認めなかった。
喀痰上清のサイトカイン・ケモカインに関しては、非喫煙者における IL-5
のみが、LMS と有意な関連を認めるのみであった (N グループ 0.92 pg/mL、
6
L グループ 1.4 pg/mL、H グループ 1.4 pg/mL、P=0.0069)。
【考察】
我々は以前、クラスター解析により、喫煙の影響は一様ではない可能性が
あることを報告した。本研究においては、喫煙の有無に関わらず、副鼻腔
CT 所見の重症度と、強い好酸球性炎症との有意な関連が認められたが、喘
息による気道炎症と副鼻腔病変が、喫煙の有無に関わらず、強い Th2 反応
に関連した共通の過程で起きているのではないかという考えを支持するも
のである。
また、非喫煙者においては、副鼻腔 CT 所見と好酸球性炎症に加えて、呼
吸機能指標が低値であることとも明らかな関連がみられた。OPN やペリオ
スチンは、Th2 反応により発現が増加し、また気道リモデリングに影響する
ことが報告されている。また、CCL18 もアレルゲン暴露にて発現増加し、
気道リモデリングに関与する可能性が報告されている。本研究の結果からは、
副鼻腔病変と好酸球性炎症が直接気道リモデリングに影響するかどうかの
判断はできないが、強い好酸球性炎症と副鼻腔病変に特徴づけられる Th2
型免疫反応の存在が、喘息患者における気道リモデリングを進展させると考
えられる。
一方、喫煙者においては、副鼻腔 CT 所見と呼吸機能の低下についての関
連は認めなかった。我々のクラスター解析では、喫煙に関連し、気流閉塞を
呈する 2 つのクラスターが同定されたが、好酸球性炎症の強弱ではっきり区
別できるものであった。総合的に考えると、喫煙者における気流閉塞に至る
病態生理学的なメカニズムは、非喫煙者におけるそれに比べてより複雑であ
ることが示唆される。
また、血漿 OPN と血清 CCL18 に関しては、喫煙の有無により副鼻腔 CT
所見との関連が異なる結果であった。喘息患者において、喫煙の有無でのバ
イオマーカーの相違を評価した研究は多くないが、喀痰の OPN は喫煙喘息
患者で非喫煙喘息患者より高く、また喫煙喘息患者においては喀痰中の好中
球数との関連がみられたという報告がある。喫煙がバイオマーカーに影響を
与える原因については、喫煙自体による直接バイオマーカー分子へ与える影
響、喫煙が惹起する全身性・局所性炎症による修飾などが考えられる。非喫
煙者でみられていた好酸球性炎症との関連が、喫煙者においては明らかでな
くなったことは、喫煙による影響が多様であるという我々の仮説を考えれば、
矛盾しないことである。一方で、血清ペリオスチン値においては、喫煙の有
無に関わらず、副鼻腔陰影の重症度と Th2 関連指標との有意な関連がみら
7
れた。このことからは、喫煙者を含む集団における、上下気道の Th2 関連
反応のモニタリングにおいては、ペリオスチンはより有用なマーカーである
と考えることができる。
喀痰中のバイオマーカーにおいては、非喫煙者における IL-5 と LMS との
関連を認めるのみであった。喀痰中のバイオマーカーは血液中のそれと比べ
て、より局所での反応を表していると考えられているが、侵襲性や測定感度
の問題から、日常臨床では使いにくいのも現状である。今回 Th2 マーカー
の一つである IL-5 が LMS との関連がみられたことは、副鼻腔病変と下気道
での Th2 炎症の関連性を支持する根拠の一つとなる。
副鼻腔病変は、難治性喘息に関連する因子の一つとして注目されている。
本研究では、重症喘息と軽症~中等症喘息において、LMS の分布には差が
みられず、重症喘息において副鼻腔病変が重症であるとする過去のいくつか
の報告とは対照的であった。ステロイド使用による副鼻腔病変への影響は否
定できず、この結果のみで副鼻腔病変の重症度が喘息重症度と本当に関連し
ないのかどうかの判断は困難である。また、副鼻腔病変それ自体が、重症喘
息に発展するリスクになるかどうかの判断も難しく、今後の研究が必要であ
る。
本研究の限界としては、以下の点が挙げられる。第一に、副鼻腔病変の評
価に関しては CT のみで行っており、内視鏡検査は行っていない。また、鼻
汁の採取やポリープの生検等、上気道の病理学的な検索につながる検査はで
きていない。副鼻腔 CT における LMS を用いた評価法は、広く使われてい
る方法で検者間の信頼性が高いものであるが、副鼻腔の陰影や粘膜の肥厚な
どを客観的に評価したものであって、特異的なものではない。第二に、LMS
の分布は正規分布しておらず、本研究における 3 群への分類方法が臨床的に
適切なものかどうかはわからない。しかしながら、LMS 各群と Th2 関連指
標の有意な関連がみられたことは、この分類方法が妥当であることを支持す
ると考えられる。最後に、本研究では北海道内各地の病院のご協力を頂き、
29 の病院・診療所から重症喘息患者を集めたが、サブグループに分類した
際にサンプル数が少ないという限界がある。一方で、全被験者が 1 泊 2 日の
入院精査を行い、詳細な問診を行っている他、CT 撮像はすべて同一の機種
を使用している点、呼吸機能検査も統一された人員・方法・機械で施行して
いる点など、質の高いデータを収集できている点が、本研究の強みである。
【結論】
副鼻腔病変と喘息は、喫煙の有無に関わらず、Th2 型反応を背景とした共
8
通の気道炎症による表現型の一つであると考えられたが、気流閉塞に関連す
るのは非喫煙者のみであった。喫煙者における気流閉塞を呈するメカニズム
は非喫煙者に比べてより複雑であり、かつ多様性があるものと考えられる。
第二章:血清ペリオスチン値に影響する因子についての検討
【背景と目的】
第一章の結果から、喫煙者を含んだ喘息患者において、上下気道に共通す
る Th2 型関連反応のモニタリングに、血清ペリオスチンが有用である可能
性が示唆された。
ペリオスチンは、細胞外マトリックスタンパク質の一つであり、Th2 サイ
トカインである IL-4/13 により発現が誘導される。喘息における血清ペリオ
スチンは、診断、病型分類、疾患活動性、及び治療反応性の指標としての有
用性が報告されており、今後日常臨床での使用が期待される血液バイオマー
カーの一つである。一方で、これまで血清ペリオスチンに影響を与える疾患
としては、喘息や鼻副鼻腔炎の他、アトピー性皮膚炎、特発性肺線維症、強
皮症、悪性腫瘍等の報告があるが、BMI や肝、腎機能、脂質、血糖値など
といった、common disease に関する臨床指標との関連は報告されていない。
臨床上の血清ペリオスチン値のより正確な評価の為には、血清ペリオスチン
値に関連する種々の因子を明らかにする必要があると考えた。
これらを踏まえて、第二章では、喘息を含めた呼吸器疾患のない健常人を
対象として血清ペリオスチン値の測定を行い、BMI や肝機能、腎機能、脂
質、血糖値、アレルギー性鼻炎などといった、特に日常で良く経験する病態
や検査データなどに着目し、これらとの関連を検討した。
【対象】
喘息患者に関しては、第一章で述べた 206 名の喘息患者(重症 127 名、軽
症~中等症 127 名)を対象とした。
対照群として、関連病院における健康診断を受診した健常者を対象とした。
問診・診察上、喘息を含めた呼吸器疾患の罹患がなく、呼吸機能検査にて正
常な呼吸機能を呈し(%VC 80%以上、FEV 1 /FVC 70%以上)、胸部レントゲン
写真で異常を認めないものを健常者と定義した。なお、悪性腫瘍の既往のあ
るものは除外した。
【方法】
9
健常者においては、健康診断時に施行した身体測定データ、呼吸機能検査、
血液検査(肝機能、腎機能、尿酸、コレステロール、中性脂肪、血糖値、HbA1c)
ならびに、当科にて測定した末梢血好酸球数、血清総 IgE 値を用いて血清ペ
リオスチン値との関連を解析した。アトピー素因は、吸入抗原に対する特異
的 IgE 抗体陽性の場合をアトピー素因ありと定義した。血清ペリオスチンは、
第一章で述べた方法で、測定した。
喘 息 の 有 無 に 関 し て は 、 医 師 に よ る 問 診 ・ 診 察 に 加 え て 、 European
Community Respiratory Health Survey(ECRHS)調査用紙日本語版の質問事項
の一部を用いた。この質問事項における過去 12 か月の喘鳴の有無は、喘息
患者と非喘息患者の鑑別に高い妥当性を認め、喘息有病率の国際比較の指標
として有用とされるものである。また、鼻炎の有無に関しても、ECRHS 調
査用紙日本語版の質問事項を用いた。
喘息患者においては、第一章で述べた方法により、各種検査結果等を測定
しており、健常者と同様の解析を行った。
統計解析にあたっては、統計解析ソフトウェア SYSTAT version 13.1 なら
びに、EZR version 1.27 を用いて行った。
ペリオスチンを含めた各種バイオマーカーは、正規性を得るために、対数
変換を行って解析した。
全ての P 値は、両側検定で P<0.05 を有意とした。群間の比較に関しては、
正 規 性 の あ る 連 続 変 数 に は Student の t 検 定 ま た は 一 元 配 置 分 散 分 析
(one-way ANOVA)、正規性のない連続変数には Mann-Whitney の U 検定、質
的データにはカイ二乗検定を行った。二変数の相関に関しては、Pearson の
積率相関係数または Spearman の順位相関係数を求めた。また、喘息・鼻炎
の有無による 4 群間における連続変数の比較は、傾向検定である、
Jonckheere-Terpstra 検定を行った。
【結果】
解析対象は、第一部で対象とした喘息患者 206 名(重症 127 名、軽症~中
等症 79 名)ならびに、呼吸器疾患のない健常者 185 名である。喘息患者 206
名のうち、男性は 83 名(40.3%)、平均年齢は 59.5 歳、平均 BMI は 25.0kg/m 2
であった。健常者 185 名では、107 名(57.8%)が男性であり、平均年齢は 51.5
歳、平均 BMI は 22.9kg/m 2 であった。また、喘息患者のうち 156 名(75.7%)、
健常者の 57 名(30.8%)に鼻炎症状がみられた。アトピー素因があるものは、
喘息患者では 140 名(68.0%)、健常者では 79 名(42.7%)であった。
喘息患者においては、健常者と比べて末梢血好酸球(214.6 /μL vs 111.6 /μL,
10
P<0.0001)ならびに血清総 IgE(146.6 IU/mL vs 45.4 IU/mL, P<0.0001)が高かっ
た。また、血清ペリオスチン値においても、喘息患者において健常者よりも
高値であった(85.1 ng/mL vs 65.0 ng/mL, P<0.0001)。
喘息患者においては、血清ペリオスチン値と BMI(R=-0.178, P=0.010)、ウ
エスト径(R=-0.157, P=0.024)、%FEV 1 (R=-0.140, P=0.045)、FEV 1 /FVC(R=-0.154,
P=0.028)、末梢血好酸球数(R=0.437, P<0.0001)、血清総 IgE(R=0.231, P=0.0009)
において、それぞれ有意な相関関係を認めた。一方で健常者においては、血
清ペリオスチン値と ALT (R=-0.194, P=0.0082)、γ-GTP (R=-0.245, P=0.0008) 、
尿酸値(R=-0.177, P=0.016)と有意な関連を認め、BMI とは負の相関傾向を認
めた(R=-0.134, P=0.070)。末梢血好酸球数や血清総 IgE とは有意な関連を認
めなかった。
次に、性別に着目して解析を行ったところ、健常者では男性に比べて女性
で血清ペリオスチン値が高値であったが(69.1 ng/mL vs 62.2 ng/mL, P=0.027)、
喘息患者においては性別による差を認めなかった。鼻炎の有無に着目した解
析では、健常者において鼻炎症状がある人では、ない人に比べて血清ペリオ
スチン値が高かったが(71.7 ng/mL vs 62.3 ng/mL, P=0.0053)、喘息患者におい
ては鼻炎症状の有無で血清ペリオスチン値に差はみられなかった。また、鼻
炎、喘息の有無で 4 群に分類して解析したところ、喘息(-)鼻炎(-)、喘息(-)
鼻炎(+)、喘息(+)鼻炎(-)、喘息(+)鼻炎(+)の順で、血清ペリオスチン値が高値
であった(P<0.0001)。
次に、喫煙の状況に着目して解析を行った。喘息患者、健常者のどちらに
おいても、非喫煙者(PY < 10)では喫煙者(PY ≥10)に比して、血清ペリオスチ
ン値が高い傾向にあった(喘息患者:88.5 ng/mL vs 79.4 ng/mL, P=0.085、健常
者:67.6 ng/mL vs 62.0 ng/mL, P=0.065)。現喫煙者、過去喫煙者、非喫煙者に
分類した上での解析では、血清ペリオスチン値に有意な差を認めなかった。
【考察】
喘息患者と呼吸器疾患のない健常者で、血清ペリオスチン値に影響を与え
る因子を検討した最初の研究である。本研究では、健常者における解析を行
うことで、強い好酸球性炎症や喘息の影響を除外した上で血清ペリオスチン
値に関連する因子を評価することができた。特に、本研究においては ECRHS
調査用紙日本語版を用いての問診も行っており、喘息の有無や鼻炎の有無は
正確に評価できていると考えられる。
喘息と鼻炎はしばしば合併し、互いに影響を与えることが知られている。
また、鼻炎患者において鼻腔粘膜へのペリオスチンの関与が報告されている。
11
このことから、鼻炎が存在すると血清ペリオスチン値が高値となることが予
想され、本研究においても喘息のない健常者において、鼻炎症状があると血
清ペリオスチン値が高いことが示された。さらに、喘息・鼻炎の有無で分類
した 4 群での解析では、血清ペリオスチン値に有意な増加傾向がみられた。
これらのことから、喘息と鼻炎が併存する場合は、各々が血清ペリオスチン
値に影響を与えていると考えられる。
肥満は喘息病態に大きな影響を与える因子として知られており、重症喘息
における多様な関連因子の一つである。本研究の結果では、喘息患者におい
て血清ペリオスチン値は BMI と負の相関を認め、またさらに健常者におい
ても同様の傾向を認めた。このことから、今後肥満喘息患者における血清ペ
リオスチン値を評価する際、同等の好酸球性炎症を呈する非肥満喘息患者と
比べて、過小評価している可能性があるということを考えなければいけない
だろう。
非アルコール性脂肪性肝炎の患者における肝臓で ペリオスチンの発現が
増加し、肝臓の中性脂肪量とペリオスチンの発現が相関していたことが報告
されている。このことから、当初我々は中性脂肪やコレステロール、また血
糖値等といった代謝関連マーカーとの関連性の存在を疑ったが、今回の検討
からは有意な結果は得られなかった。他の因子による影響が強く、見かけ上
は相関がみられなかったという可能性はあるが、今後さらなる検討が必要で
ある。
喘息患者、健常者の両者において、喫煙者に比べて非喫煙者では血清ペリ
オスチン値が高い傾向にあった。過去に喘息患者における血清ペリオスチン
値に喫煙が与える影響を調べた報告はほとんどないが、Thomson らの報告
では、喘息患者において喫煙者で非喫煙者よりも血清ペリオスチン値が低く、
本研究と合致する結果であった。喫煙者でなぜ血清ペリオスチン値が低下す
るかに関してはわかっていないが、喫煙による気道炎症への修飾、ペリオス
チンを誘導する IL-4/13 等への影響、または喫煙それ自体によるペリオスチ
ン発現に対する直接の作用等が可能性として挙げられる。
喘息患者においては、血清ペリオスチン値は末梢血好酸球数や血清総 IgE
と有意な正の相関を認めたが、健常者では認めなかった。このことは、喘息
患者に比べて健常者では末梢血好酸球数や血清総 IgE の値が低く、かつ比較
的狭い範囲に分布していることが原因であると考えた。また、逆に健常者の
みで ALT、γ-GTP、尿酸値に有意な相関がみられたが、喘息患者においては、
これらの因子よりも好酸球や IgE 等の因子による影響が強く、ALT 等の影
響がみかけ上、打ち消されたのではないかと考えた。
12
健常者において、女性は男性よりも血清ペリオスチン値が高値であったが、
喘息患者においては同様の結果はみられなかった。単純に性差におけるもの
だけではなく、他の交絡因子による影響がある可能性が考えられる。他の集
団でのさらなる検討が必要である。
本研究においては、喘息患者と健常者、また健常者の中での男性と女性の
患者背景が異なっていることが大きな限界であると思われる。ペリオスチン
のみならず、バイオマーカーを評価する際には、選択した集団によって結果
が異なることを念頭に置き、どういった集団を対象にしているかということ
を常に考える必要があるだろう。もちろん、今回の結果から関連因子を決定
することはできない。様々な集団において、今後のさらなる検討が必要であ
ると考えられる。
【結論】
健常者を対象とした解析により、血清ペリオスチン値に関連する因子を同
定した。日常臨床で病態をより正確に評価するために有用であると考えられ、
今後様々な集団においてさらなる検討が必要である。
13
Fly UP